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No.31004の一覧
[0] 【惑星のさみだれ】ネズミの騎士の悪足掻き(日下部太朗逆行強化)[へびさんマン](2015/01/25 16:30)
[1] 1.宙野花子(そらの はなこ)[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[2] 2.師匠、登場![へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[3] 3.山篭りと子鬼[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[4] 4.しゅぎょー!![へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[5] 5.神通力覚醒!?[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[6] 6.東雲家にて[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[7] 7.ちゅー学生日記[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[8] 8.再会、ランス=リュミエール[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[9] 9.初陣[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[10] 10.結成、獣の騎士団![へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[11] 11.『五ツ眼』と合成能力[へびさんマン](2013/03/02 15:10)
[12] 12.ランディングギア、アイゼンロック[へびさんマン](2013/03/02 15:02)
[13] 13.カマキリは雌の方が強い[へびさんマン](2012/02/26 23:57)
[14] 14.VS『六ツ眼』[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[15] 15.受け継がれるもの[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[16] 16.束の間の平穏[へびさんマン](2013/03/02 15:04)
[17] 17.不穏の影・戦いは後半戦へ[へびさんマン](2012/05/28 21:45)
[18] 18.魔法使い(アニムス)登場[へびさんマン](2012/05/28 18:26)
[19] 19.夏、そして合宿へ[へびさんマン](2014/01/26 21:06)
[20] 20.精霊(プリンセス)アニマと霊馬(ユニコーン)の騎士[へびさんマン](2013/03/02 23:50)
[21] 21.対決! メタゲイトニオン・改![へびさんマン](2015/01/14 22:26)
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[31004] 4.しゅぎょー!!
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/02 15:08
「ふ、ふふふふふっ」

庖丁を翳して、その『平』の部分(刃の側面)まで、研ぎ澄まされた鏡面仕上のぴかぴかになっているのを、矯めつ眇めつしていく。
思わず笑みが漏れる。満足。
髪の毛を上から落としてみると、そのままぷつりと二つに断たれた。

「素晴らしい……」

溜息も漏れる。
その輝きに心酔している。
研ぎレベルも上がっている。


「太朗くん、怪しい人みたいだよ……?」
「ふふふふふふふっ」
「だめだこりゃ」


◆◇◆


 ネズミの騎士の悪足掻き 4.しゅぎょー!!


◆◇◆


夏休みである。
男子小学生がプールセットを持って、濡れた髪も乾かさずに道路を歩いている。

「花子も一緒にプールに来れれば良かったのになー」
「『花子』ちゃんって、タローの幼なじみの子だっけ?」 「付き合ってんの?」
「……まだ付き合ってねッス」
「え、お前ら付き合ってなかったの?」 「未だってことは何時かは、ってことか? ひゅーひゅー」 「ひゅーひゅー!」
「はいはい、そッスねー。何時かは、って思ってるスよ」

その日、太朗は日課のジョギング&師匠との談話を終えて、最近知り合った東雲三日月(&お互いの友人たち)と一緒にプールに遊びに行った。
花子も誘おうと思ったのだが、花子はカナヅチであり、しかも男子ばかりの中に誘うわけにも行かず、別行動である。
まあ、夕飯は太朗が作ったものを一緒に食べることも多いし、そのあと一緒に勉強したりしてるので、無理して日中遊ぶこともないと言えば無い。

「なんでそんな状況で付き合ってねーんだよ」 「それってほとんど付き合ってるようなもんじゃね?」
「まー、小学生で男女の付き合いは、まだ早いッしょ?」
「出たよ、胃袋握ってる男のヨユーの発言」 「付き合っちまえよ、もう」 「結婚しろ」 「爆ぜろ」

太朗と花子の仲は、よくネタにされている。
太朗の方が、小学生ダンスィらしからぬスルースキルを発揮しているためだ。
いつものお約束となった感のある会話をして、途中の駄菓子屋でアイスを買って食べたりしつつ、彼らは三々五々解散していく。

「んじゃ、またなー」 「またなー」 「さよーならー」 「あ、太朗、今度宿題見せてくんね? 頼むよ」
「んー、分かった、今度なー」
「ひひ、そうだ、タロー、お前予習してるから6年の勉強も分かるだろ? 宿題俺の代わりにやっといてくれね?」
「三日月さんは自分でやって下さいよー」
「そうツレねー事言うなって」



そして皆と別れて太朗がやって来たのは、師匠が居るいつもの公園である。

「師匠!」
「太朗、よく来たね。おや、今日は花子は?」
「俺プールの帰りなんスよ。花子は家で勉強してます」
「そうか。じゃあ、今日は何を話そうかな」


◆◇◆


太朗も花子も、早々に宿題を終わらせているので、タップリと時間はある。
だが、彼らにも彼らの友人関係があるので、いつも一緒に居るわけでもなく、昼間はほぼ毎日誰かしら学校の友人と遊びに出かけている。
二人で遊ぶことも多いが、それ以外の友人と遊ぶことも多い。

このように、師匠と知り合ったとはいえ、修行漬けというわけではないのだ。
『この多感な時期にしか出来ない経験を積みなさい』、というのも、師匠の教育方針であるからして。

師匠の弟子となっているのは、現在四名。

才気煥発、星川昴。
質実剛健、月代雪待。
沈着冷静、宙野花子。
そして勇気凛々、我らが日下部太朗。

お互いにお互いの事情があるゆえに、四人が全員揃うことは、まあ二三日に一回くらいだったりする。
昴と雪待は、もっぱら午後(放課後)に彼女らの学校の近くの公園で、師匠のレクチャーを受けている。
太朗と花子は、朝のジョギング後に師匠と話すことが多いのと、太朗らの学校からその公園までは若干遠いということもあり、午後はあまり修行に顔を出さないのだ。

だが珍しいことに、この日公園には、昴も雪待も居なかった。

「昴と雪待が居ないのは珍しいッスね」
「ああ、宿題を溜めているらしくてね、今日は帰らせたんだよ」
「なるほどー」

太朗は、手に持っていたプールセットを公園の四阿(あずまや)にあるテーブルに置き、備え付けの椅子に腰掛ける。
師匠も同じように椅子に腰掛ける。
ちなみに夏にもかかわらず、師匠はトレンチコート姿だ。だが、認識阻害の隠形術を使っているせいか、それを一般人が気に留めることはない。

「それじゃあ、今日は、どんな話をしようか。それとも、何か聞きたいことはあるかい?」
「あ、はい、師匠。聞きたいことがあります」
「そうか、それじゃどうぞ」

太朗は居住まいを正す。
『前の戦い』の記憶が蘇ってから、ずっと悩んでいたことだ。
他に誰も居ないこの状況は、太朗と秋谷しか知り得ない『前の戦い』と『8年後の戦い』について相談するには、うってつけの時間である。

「俺が識っている『前の戦い』では、師匠は……」
「ああ、君の魂が識っていることは、私にも見えている。『前』も、『六つ目』との戦いで命を落としているね」
「『前も(・)』……。師匠は、やっぱり、今回の魔法使いとの『戦い』でも、最後まで生きてられないんスか?」

縋るような、否定を期待しての、太朗の問いかけ。
それに秋谷は、首を縦に振る。

「ああ、駄目だね。鶏・亀・鼠・蟷螂・梶木鮪の五人の騎士が最初から知り合いであっても、私は『六つ目』との戦いで命を落とす。それが、未来視の終着点だ」
「どうしても、ですか――例えば、指輪の騎士の『願い事』を使っても――」
「それでも遠からず死ぬだろうよ。運命的死は避けられないし、私は、避けようとも思わない。もう私は十分生きた」

太朗は口を引き結ぶ。
太朗としては、師匠には生き残ってもらいたい。
そうすれば、獣の騎士団全体の死亡率は、劇的に下がるはずだ。
そうじゃなくても、この尊敬できる師匠が死ぬなんてのは、考えたくもなかった。

自分たちだけじゃなくて他の騎士にも、サイキックの使い方や、戦い方を教えてもらえれば、どんなに楽になるだろうか。
師匠がそばに居てくれるだけで、どんなに心強いだろうか。

だが一方で、これ以上に、500年の業を積み重ねてきた――清算してきた――老人を働かせるのも、酷なのだと感じていた。
秋谷師匠が戦列に加わっても、犠牲者は出るかも知れない。
8年後の夏以降についての、秋谷の未来視能力は、失われている。
未来は未知数だ。

そしてそうなった時、また、この老人に、子供たちが……若人が先に死んでいく様を見せつけることになるのではなかろうか。
それは、彼自身が死ぬよりも、ずっとずっと辛いことなのではなかろうか。

そう思うと、太朗は、口を噤まざるをえなかった。

「太朗、君は、優しいね」
「……」
「自分の為には、使えるものを全て使うのが正解だ。私を無理矢理にでも生かして、戦わせるのは、正し――」
「――しくない。……正しくない! 正しい訳、無いじゃないですか!」

太朗は、泣きながら叫ぶ。

「師匠は、今まで、ずっと、沢山、辛い思いをしてきたんでしょう!? じゃあ、もう休んでも、いいじゃないですかっ。
 そりゃ、俺は、師匠に生きてもらいたいです。花子も、昴も、雪待も、きっと同じ事言います。それも間違ってはないんです。
 でも、間違ってないからって、正しいとは思えない。
 師匠の気持ちを無視して、戦わせ続けるなんて、そんなのは、正しくないんだ!」

いきなりの剣幕に、師匠は目を丸くするが、すぐに嬉しげに笑いながら、太朗の頭を撫でてやる。

「はは、やっぱり、太朗は優しいな。私のために、泣いてくれるなんて。
 でも、そう言うなら、私の、死を受け入れる気持ちだって、正しくないということかな。
 君や昴たちは、私に死んで欲しくないって思ってるんだから」
「ぐすっ、はい……、間違いです。死にたいなんて間違ってます」

そう、世界に絶対正しい事実なんて無いのだ。
真実は、心のなかに。
人と人の心の間に、あるのだ。

この問題に関しては、双方が納得行くまで、話し合いを続けるしか無いのだと、太朗は思っている。

『正解がない問題は、納得が行くまで考え続け、話し合う』。
これもまた、師匠の教えだ。

「……いつか。いつか、俺が、花子たちに、俺の『記憶』について話せたら――」
「ああ」
「――その時には、また、みんなで話しあいましょう。それまでに、俺も、色々考えてみることにします。師匠を説得する台詞とか」
「ははは、私も考えるよ。まあ、死の未来を視てしまった以上、死ぬのは確定的だと思うがね」

取り敢えず、この問題は先延ばしである。
そう簡単に答えが出ることではないし、簡単に出していい話でもない。
他の姉弟子たちの意見も聞かなくてはいけないし。

「ところで、話し変わりますけど、師匠」
「なんだい?」
「指輪の騎士の『願い事』なんですけど、師匠は、『前の戦い』では『願い事』使わなかったんですよね?」
「ああ、君の中に混ざっている『ザン』くんの記憶では、そうなっているようだね」

いわゆるシューティングゲームで言う『抱え落ち』である。

「師匠は、『姫』が不治の病なのは知ってたんですよね?」
「ああ、『前の戦い』での『秋谷稲近』は、知ってたようだね」
「……じゃあ、『願い事』で『姫』を治すってのは、出来なかったんスか?」

そうすれば、問題は一挙に解決である。

「あー、それは、出来ないんだよ……」
「出来ない? どうしてです?」
「『願い事』のシステムは、精霊アニマの力によって叶えられているのは知ってるね?」
「はい」

破壊神アニムスと対になる、超越したサイキッカーである精霊アニマ。
だが、それほどの力を持っていても、彼女だけではアニムスに勝てず、ゆえに魂の縁を辿り、騎士たちに成長のきっかけを与え、彼女自らのモチベーションも高め、皆の力でアニムスを打倒する必要があるのだ。
その為の、獣の騎士団。

『願い事』は、戦いに巻き込まれる指輪の騎士たちに対する、命がけの戦いに対する先払いの報奨――賠償だ。
それは勿論、神の如き力を持つアニマによって、叶えられている。

「つまり、根本的な所で、アニマが望まないこと――『姫』が望まないことは、叶わない」
「……は?」
「『姫』である『朝日奈さみだれ』が、己の病を治すことを頑なに拒否している間は、『姫の病を癒す』という願いは、『願い事』システムから、拒絶される」
「え、えー……」

つまり、朝日奈さみだれに、地球破壊よりも魅力的な未来を提示できない限り――彼女が生きて未来を歩みたいと思わない限り、『姫の病を癒す』という願いは叶わない。
そして、『前の戦い』で師匠が死ぬまでの時間では、『姫』は翻意しなかった。その時には未だ、地球と心中するつもりだった。
……最終決戦では、『雨宮夕日』が『朝日奈さみだれ』を説得した……というか、口説き落としたが、それまでは『姫の病を癒す』という『願い事』は無効だと考えて良いだろう。

そして、そのタイミングでは、アニマとアニムスの戦いは決着が付いており、アニマの力もやがて失われゆく状態である。
よしんば最終決戦まで『願い事』の行使権を残していて、その上で姫が未来に目を向けても、それを叶えるだけの力が、もはやアニマには残っていないかも知れない。

「何てこった……。八方塞がり……」
「まあ、それは雨宮くんを信じるしか無いだろうね。あとは、人間が持つ力だね。希望を持った人間の心の力を、信じるしか無いよ」
「た、確かに、『前の戦い』では、概ねハッピーエンドになってますしね」

最終的に、奇跡的に、戦いの十年後には、朝日奈さみだれの病は完治している。
概ねハッピーエンドだ。

太朗は死んだけど。
師匠も死んだけど。
東雲半月も死んだけど。

死んだけど、皆、無意味な死ではなかったのも、確かだ。

彼らの死は確かに騎士の仲間たちに影響を与え、そういった要因が絡み合って、最終決戦にも勝利できたのだ。

「……まあ、確かにきっと何とかなるスよね。
 少なくとも、花子の物騒な『願い事』を阻止すれば、俺の方の『願い事』も、色々と融通が利きますし。
 それと師匠の『願い事』の分合わせて3つ、それを戦略的に戦力強化に使えれば、結構、みんなの生存率が上がると思うんですよねー」
「それは、そうだろうね」
「……そこで、師匠に相談なんですが」

太朗が身を寄せ、心なしか声を低めにして秋谷に話しかける。

「『前の戦い』で『東雲半月』さんがやった、『戦闘技術の受け渡し』って、師匠から雨宮さんにって、出来ませんか?」
「……ふむ、出来るだろうね」
「この『戦い』のキーは、雨宮さんです、間違いなく。雨宮さんの死亡確率を下げないことには、どの道お先真っ暗です」

雨宮夕日が死んだら、姫を止められる者が居ない。
アニマのモチベーションを上げらる『漢』が居ない。
そうなると、勝負の行方如何に関わらず、地球は砕かれてジ・エンドだ。

どうせ使わない『願い事』なら、有効に使って欲しいというのは、太朗の考えだ。
太朗は、地球破壊なんて、望んでいない。
宙野花子との幸せな未来を、切実に望んでいる。

「本当は、師匠が生き残るのに師匠の『願い事』を使ってもらうのが、一番嬉しいんスけど……」
「それは、出来ない。……すまないね」
「……いえ、いつか説得して見せまスんで。まだ8年ありますし。……まあ、どうせ使い道が思い浮かばないなら、雨宮さんの強化も、一案として、考えといて欲しいッス。強制はできませんけど」
「ああ、考えておこう」

ともかくこの太朗、この先生きのこるために、あらゆる手段を考える所存である。
騎士に選ばれるのが確定的である(秋谷が予知している)以上、ビスケットハンマーを巡る戦いからは逃れられない。
逃げたら各個撃破され、BADEND直行である。割り切って、戦いに臨むのが、一番生存率が高いだろうことは想像に難くない。

「あとは、俺と花子の『願い事』ッスけど、掌握領域強化か、何かしらの能力向上に使いたいと思ってるんスよ」
「……具体的に、何か考えているかい?」
「……そこなんスよねー。まだノーアイデアで……。だからこの機会に相談したいんスよ」

他に誰も居ないこの状況でしか出来ない相談事、其の二。
将来の戦いに役立つような、『願い事』の使い道。

「じゃあ、どうしたいか、とか、君が引き継いだ記憶の中から気づいたことを挙げていくことにしよう。そうすれば、何か、戦闘に役立つような『願い事』の使い方が、思いつく知れない」
「そうッスね。じゃあ――」

秋谷は聞き役に徹し、太朗は自分の思うところを次々と挙げていく。

「騎士の居場所を直ぐに知れると便利ッスね。四月の『戦い』の開始直後に各個撃破されるのは防ぎたいッス」
「騎士の居場所感知、か。早々に合流できれば、それだけで各個で狙われる危険も減るね」
「勿論騎士だけじゃなくて、泥人形の居場所も知りたいッスよね。泥人形相手に奇襲とか、追い打ちとか出来ると、戦術の幅も大分広がると思います」

情報は命より重い……っ!!

「難しいかも知れないね、魔法使いも、その辺については妨害してるかも知れない」
「龍球漫画のドラゴンレーダーみたいな感じで知れたら便利なんスけどねー。それが出来れば、十体目とかは、取りこぼしが無くなって一気に決着つけられそうですし」
「なるほど。索敵系の能力か……確かに有用そうだね。千里眼なら、私も多少使えるが……」
「マジっスか。ゲームで考えたら、盗賊というかスカウトというか、そんな感じの騎士が居たほうが良いかなと。んで、僧侶――というか回復役も、太陽くんだけじゃなくて、もっと序盤から欲しいッスね」

序盤のホイミの有無は、死亡率と継戦能力に顕著に影響します。

「あと、これは俺のエゴっスけど、出来れば花子には前線に立って欲しくないッスね。最初から安全圏にいてもらえるのが一番ッス」
「そうだね。……まあ、彼女がそれを受け入れるかどうかは分からないけど」
「説得するッス」

戦場から遠ざけておきたいが、そんな甘いことが通るほど、容易い戦いではない。

「まあ、頑張れ若人。しかし、掌握領域の射程と、火力的に全員で攻撃する必然性があるから、一人後方に下げるわけにもいかんだろう――」
「あー、昴と雪待の『最強の矛』みたいな感じで、威力は並でも、射程を強化したバージョンとか出来ねッスかね。二人がかりで」
「ふむ、射程強化か、そのくらいなら、願い事でどうにか出来そうだな。あるいは、練習すれば、射程も伸びるだろう。君の能力があれば、花子と息を合わせるのも出来そうだしな」

掌握領域は、使えば使うほどに、性能が向上していくのだ。
射程を伸ばすのも、練習すれば成果は現れるだろう。

「理想的には、『十二つ目』を倒したみたいに、相手の攻撃圏外から一方的に必殺の一撃を叩き込みたいッスね」
「相手に何もさせずに勝つというのは、理想型だね」
「そうッス。あ、それなら、別に圏外からじゃなくても、速攻で領域同士を重ねられれば良いんスかね? でも戦闘中に領域同士を重ね合わせるってのは、結構難しいんスよね」
「なら、その領域同士を集めやすくするような能力を考えてはどうだい? 例えば、薄い領域で戦域全体を包んで、他の騎士の領域に影響を与えて一点に誘導するとか」
「あ、それ良いかも知れませんね。磁石みたいに掌握領域同士をくっ付けるとか出来れば、使えそうッス」

雨宮の『天の庭(バビロン)』の応用のようなものだ。
『掌握領域への干渉に特化した掌握領域』というものがあれば、太朗が言ったような速攻収束一撃必殺も可能になるかも知れない。


◆◇◆


他にも幾つか案を出して、一旦その日の話し合いは終わりにする。
『願い事』の使い方や、能力の成長方針については、いつでも考えられるし、じっくり考えることも必要だからだ。

だが、今この瞬間でなくては出来ない修行もあるのだ。
あまり考え事ばかりに耽ることも出来ない。

「よし、じゃあ、今日の分の練習始めようか。家でも套路(歩法・呼吸法を合わせた総合の型)は練習してるね? 毎日やらないと、身につかないからね」
「ウッス! やってるッス」
「じゃあ見てあげるから、始めて」
「よろしくお願いしゃーッス!」

太朗は主に攻撃のいなし方というか、避け方を秋谷から習っている。
泥人形に素手で攻撃することは意味ないし、泥人形の攻撃をマトモに受けることは死を意味するからだ。
だからどんな足場でも逃げられるようにと、武術の歩法などを覚えることにしたのだ。

勿論、足腰の鍛錬のために日々のジョギングは欠かさないようにしている。
その他にも、柔軟な筋肉をつけるために、河原の斜面をジグザグに緩急をつけてダッシュしたりもしている。
時々は、三日月と一緒に山野を駈け回ったり(追いかけまわされたり)もしている。

……転生しても、太朗は武術に関しては才能不足なので、攻撃面は全く捨てることにしたのだ。
とにかく逃げて、避けて、最悪でも受け流して、絶対に死なないということを第一義に置いている。それなら、なんとか物になるだろうという目論見だ。
あと実は、散打(乱取り)の練習は、師匠相手よりも、実は三日月相手(一方的に襲撃される)の方が多かったりもする。

「ふっ、とっ、せっ――そういえばっ、師匠っ、さっき、なんか、『君の能力が』、『あれば』っ、とかっ、なんとかっ、言って――」
「あー、そういえば、口滑らしたような気もするなー。はっはっは」
「とっ、やっ――気にっ、なるんスけどっ!?」
「まあ、仕方ない。後で少し、触りだけ教えてあげよう」


とまあ、こんな感じで、師匠に稽古をつけてもらったり、話し合ったりして夏休みの日々は過ぎていく。


いつか花子と一緒にプールにいけると良いな、太朗。
そして手取り足取り、水泳を教えると良いっ!


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願い事では『朝日奈さみだれの病を治せない』というのは、私の勝手な解釈です。

生存のための能力と、それを叶えるための願い事についての話。ここで挙げてたのを全部実装するかどうかは未定。
んで、タロちゃん神通力フラグオン。そこまでチートな能力では、ない、はず。キーワードは「UFOっ」。

次回、「5.神通力覚醒!?」

早く半月さんも出したいですなー。
書き始めた当初は、古雲流をマスターしたTAROUちゃんにしようと思ってたのに、いつの間にかそんなフラグは無くなってる始末……。
まあ、タロちゃんは武術家よりは、料理人で居させたかったので、仕方ないっすね。

初投稿 2012.01.01
あけおめことよろ。


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