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No.31004の一覧
[0] 【惑星のさみだれ】ネズミの騎士の悪足掻き(日下部太朗逆行強化)[へびさんマン](2015/01/25 16:30)
[1] 1.宙野花子(そらの はなこ)[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[2] 2.師匠、登場![へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[3] 3.山篭りと子鬼[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[4] 4.しゅぎょー!![へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[5] 5.神通力覚醒!?[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[6] 6.東雲家にて[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[7] 7.ちゅー学生日記[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[8] 8.再会、ランス=リュミエール[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[9] 9.初陣[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[10] 10.結成、獣の騎士団![へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[11] 11.『五ツ眼』と合成能力[へびさんマン](2013/03/02 15:10)
[12] 12.ランディングギア、アイゼンロック[へびさんマン](2013/03/02 15:02)
[13] 13.カマキリは雌の方が強い[へびさんマン](2012/02/26 23:57)
[14] 14.VS『六ツ眼』[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[15] 15.受け継がれるもの[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[16] 16.束の間の平穏[へびさんマン](2013/03/02 15:04)
[17] 17.不穏の影・戦いは後半戦へ[へびさんマン](2012/05/28 21:45)
[18] 18.魔法使い(アニムス)登場[へびさんマン](2012/05/28 18:26)
[19] 19.夏、そして合宿へ[へびさんマン](2014/01/26 21:06)
[20] 20.精霊(プリンセス)アニマと霊馬(ユニコーン)の騎士[へびさんマン](2013/03/02 23:50)
[21] 21.対決! メタゲイトニオン・改![へびさんマン](2015/01/14 22:26)
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[31004] 18.魔法使い(アニムス)登場
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/28 18:26
“七ツ眼”は時折街中に現れては、適当なダメージを貰って撤退する、というのを繰り返していた。
そんなこんなで半ばルーチンのような作業をこなす内に、季節は移り変わって、もう六月半ばである。
一体の泥人形相手には初めての長丁場である。

「なんか、よく分からん相手やなあ」

さみだれが首をひねる。

「何度か姫の拳で砕かれましたけど、直ぐ何日かして復活しましたしね」

夕日が応じる。

最初こそ急襲する相手に肝を冷やしたが……。
太朗の能力による広域監視と、それと合わさった花子の能力による弾幕と狙撃、さらに騎士たちの居場所の把握と適切な指示などによる迎撃態勢の整備、二人以上の騎士による合成領域の訓練などなどで、迎え撃つ騎士たちの安定性も上がってきている。
もはや恐れるには足りない。

「ゆーくんも、だいぶ秋谷さんの技量が身に付いてきたみたいやん? 白道さんとの連携も上手くなっとるし」
「ええ、かなり練習しましたからね。三日月相手の勝率も、だいぶ押し戻してきてます。日下部くんに手伝ってもらった瞑想の成果も出てるみたいです」

強くなっているという確かな実感が、夕日にはある。
夕日に受け継がれた秋谷の経験が、日々彼の実力を引き上げている。
強くなっても強くなっても、まだまだ底も果ても見えない。無限に成長できるような、そんな全能感すらある。

――――これならいつの日か姫に誓ったこと……『魔法使いとの決戦後に立ちはだかる騎士全てを打倒する』、ということも実現できる。

「他のみんなも、強うなってきとる。……だけど、なんか今回の泥人形を倒し切ることができひん」
「そうなんですよね、泥人形もテレポートでもしてるみたいに追跡途中で唐突に消えますし、攻めっ気もまるでない……。時間稼ぎなんですかね」
「なんか偵察ちゅーか、観光? ただぶらぶら歩いてるだけ、みたいな」

それを聞いて、夕日は考える。考えるのは参謀である夕日の役目だ。

「時間稼ぎなんかして、どうするつもりだ?」

次の泥人形について準備している?
あるいは離反工作が進行中?
魔法使いは、何を考えている?

(というか――)

魔法使いは、何処に居る(・・・・・)?

(改めて考えてみると、この戦いについて分かってない事が多いな……)

今少しの余裕ができて振り返ってみれば、訳のわからない内に戦いに巻き込まれて、訳のわからない内に戦い抜いてきたのだが、わからないことはわからないままであると気付く。
今まではそれでも別に疑問には思わなかった。そういうものだと思っていたし、心酔する主君に着いて行くだけで良いと思っていた。
だがそれだけではダメなのだ。心酔する主君のためだからこそ、思考停止をしてはいけない。考えることこそが、夕日に出来る最大の貢献なのだから。

故に夕日は思考する。
秋谷の遺産である厖大な経験値は、夕日に蟻の視野も鳥の視野も、そして老人の視点も与えていた。
それを以って、若者の熱意で夕日は考える。

魔法使いは何者か。
何故地球を壊したがるのか。
何故地球の未来がゲームの形で左右されるのか。

……。

(幾らなんでも情報が足りなさすぎる)

そういう根源的な情報については一切不明。
推察のしようもない。


まあそれよりも、“七ツ眼”の倒し方について考えるべきだろう。

「日下部くんは、あの二体は合体するだろうって予測してましたね」
「せやなー。あたしもそう思うわ。だってアイツら単体やと弱すぎるし」
「まあ少なくとも“六ツ眼”よりは強くなってなきゃおかしいですよね。順番的に」
「眼の数も、片方が三つで、もう片方が四つ――足したら“七ツ眼”」
「つまり、まだ“七ツ眼”は本気じゃない、と」
「多分なー」

ならば戦略は決まっている。

「合体する前に倒す。それしかないでしょう」
「騎士団相手に余裕ぶっこいとるなら、そのまま磨り潰したらんとな」
「ええ、油断するほうが悪いんですよ。思い知らせてやりましょう」

実力を隠しているなら、発揮させずに倒す。
当然である。
それが雨宮夕日の戦い方だ。

「問題はどうやって倒すかっちゅーことやけど……」
「あの二体で合わせて“七ツ眼”だということなら、片方でも残すと復活するんじゃないかと」
「それなら、同時に両方倒しゃええっちゅうわけやな!」
「そうなります」

体力ゲージが二本あるから、それを同時にゼロにしてやらないといけない。

「うーん、片方はあたしがやるとして……でもあたしが片っぽ倒した後やと、もう片方は逃げてまうもんなー」
「もう一方は騎士たちで共同して当たるしかありませんね。これまでは撃退を主眼において戦っていましたが、今後はある程度引きつけてから殲滅する方が良いでしょう」
「……まあ、逆に上手く二匹を合流させて、あたしのパンチで一辺にぶっ潰すってのも良いと思うけどな。そっちの方が手っ取り早そうや」

とはいえやはり二体を合流させるのはリスクが大きいように思う。
第二形態の上に合体である。
とんでもなく強くなる可能性もある。
それでもさみだれなら生き残れるだろうけれど。……しかし騎士たちはどうだろうか? リスクが高いように思える。

「次の出現が予測出来れば、作戦の見通しも立つんですけどねぇ」

待つしか出来ない身は辛い。

「待ってダメなら、じゃあ、釣り出してみましょうか」
「それでもダメなら?」
「危険ですが、泳がせて合体させてみるしか無いと思います」
「ほな、それで行こか」


◆◇◆


“七ツ眼”の出現は正に気ままとしか言いようが無い。
ただ散歩してるだけというか、そんなやる気の無さも最近は伺える。
かといって放っておくことは出来ない、騎士が一人の時に不意打ちされれば、その騎士は死ぬこともあるだろう。

「あ~~~~っ!! もう、何だってんだよ!!」

広域監視能力と管制能力の持ち主であり、ある意味騎士団の生命線になっている太朗は、とても参っていた。

何の規則性もなく街の端と端に出てくる二体の泥人形。
一刻も気を休めることが出来ないし、『綿津神』の限界展開と『梓弓』による遠距離支援は結構神経を削る。
体力だって勿論削られる。他の騎士との連携訓練だって欠かすことは出来ない(ちなみに今の目標は、太陽の回復能力を『綿津神』と合成しての遠隔回復だ)。

その上、日中に泥人形が出現するため、授業をサボらねばならず、花子と二人して平常点がマズイことになりつつある。
ついでに「あいつら授業サボってまで屋上でいちゃつくとかけしからん、ギャルゲか」というクラスメイトの白い目にも晒されている。
授業聞いてない分を追いつかなくてはならないので家で自学自習する時間が増える。

ということはつまり。

「料理する暇が無えぇ~~~~~!! 料理させろーーーー!!」

そんなわけで太朗はストレスが溜まっているのだった。
実際何日か前も、夕飯時に泥人形が現れて、料理を中断したこともあった。
太朗の頭の上で、従者のランス(ネズミ)が突っ込む。

「いやいや太朗、昨日も夕飯作ってたじゃん」
「あんなん手抜きだ!」
「断言っ!? でも美味かったって花子言ってたぞ」
「ああ、まあ花子の笑顔があるから今でも持ってるようなもんだよ、ほんと。回復薬だな、マジ癒される」
「はい惚気入りましたー」
「そぉれぇはーそれとして、もっとじっくり腰を据えて新しい料理にチャレンジしたりとか、マイ庖丁を手入れしたりとか、したいわけよ!」
「えー! 今大事な戦い中なんだから少しぐらい我慢しろよ! 地球の未来かかってるんだぞ!」
「こっちだって俺の未来がかかってんだよ! 戦いが終わって料理の腕が錆び付いてました、じゃあいけねーんだよ!」
「……うん、戦いの後のことも見据えてるのは、凄いと思うぜ」
「戦いが終わってそこで『おわり』『劇終』『Ende』『The End』じゃねーんだ! 人生は続いていくの! 延々と!」
「かと言って、目の前の致死イベントをクリアしないと、その未来も手に入らないだろ?」
「分かってるよー、そんなの分かってるよー。でも別に愚痴るくらい良いじゃんかよー」

るーるーるー、と涙を流す太朗。ランスはため息つきつつ、前足で太朗の頭をてしてしと叩いて慰める。

「……あれ、でも今日は何かいろいろやってたよな?」
「…………ああ、時間が中々取れないなら、逆に時間が掛かる奴をやろうと思って。多少放置しても問題ない系をさ」
「何やってたんだ?」
「ハムを漬け込んでた。いや、ベーコン?」
「ハム?」
「そう、結構でっかいを肉塊漬けたから、あと五日くらいは冷蔵庫の中だな」

そういえば何だか庭でハーブを育ててたなー、などとランスは回想する。
料理が趣味で、庭で山椒や生姜やパセリやなんかを「新鮮な方が良いんだよ」と言いながら育てる男子高校生。希少種だろう。
今回のハムの漬け込み液にも、それらのハーブがフル活用されているのだそうだ。ある意味筋金入りである。
……ちなみに男の努力の方向が明後日に行くのは、よ く あ る こ と である。世の女性の皆様は、手綱取りを忘れないように。



夕日から、“七ツ眼”の誘引撃滅作戦が騎士たちに提案されるのは、それから暫くしてである。

ストレスから集中力やら何やらの限界が迫っていた太朗は、一も二もなく作戦に同意した。


◆◇◆


“七ツ眼”誘引撃滅作戦の要旨は単純である。

二つの戦場のそれぞれに戦力を集め、ほぼ同時に撃破する。
両戦場の準備が整うまで、泥人形をのらりくらりとその場に拘束し続けるのが、作戦の肝だ。

街をパトロールする役(というか正確には囮役)の騎士は、基本的に二人一組以上のチームで見回ることになる。
その上で泥人形が出現すれば、適当な場所に誘引して、適当に気を引きつつ攻撃を貰わないように時間稼ぎ。
あとは姫がどちらかの戦場に到着した時点で、反転攻勢。
太朗と花子の遠距離弾幕『梓弓』で泥人形を足止めしている間に、姫の一撃で粉砕・あるいは騎士たちの合成領域で削り殺すという手筈だ。

チームは二つ。
騎士たちの中でも時間に融通が利くものが選ばれている。

一つは東雲兄弟、半月と三日月のコンビだ。三日月の暴走を防ぐために半月が抜擢された。兄弟だけあってその連携はまるで以心伝心。攻撃力の面でも、姫に匹敵するチームである。安定感と生存能力はピカイチであろう。

もうひとつのチームは、白道・南雲・夕日の三人。彼らはここ最近の連携訓練によって、瞬時に三つの領域を重ね合わせることが出来るまで上達している。各人が人並み以上の回避能力、攻撃力を持っているため、滅多なことでは崩されないだろう。

他の騎士たちは職場や学校に通常通りに通うことになっている。泥人形が出現した場合には、なんとか抜け出して近くの戦場に加勢する予定である。
待機組の中でも索敵手、管制官、狙撃手、支援火力を担う太朗と花子のコンビは、常に二人で居るように、四六時中べったりと離れないようにと厳命されている。
太朗の能力による広域支援は、作戦の要というか作戦の前提条件であるからだ。



だが、誘引撃滅作戦は、なかなか綺麗に型に嵌まらなかった。

ネックになったのは、相手のタフさと、“四ツ眼”の脚力特化型の逃げ足の速さである。

例えば“四ツ眼”と東雲兄弟が対峙した時のことであった。
半月の方天戟によって半ば以上も身体を削られながら、それでもなお“四ツ眼”は跳躍してビルの高さまで飛び上がり、逃げたのだ。
その後、その時の反省を生かして東雲兄弟は半月の“方天戟”と三日月の“封天陣”を組み合わせた連携技を開発するのだが……。

腕力特化型らしき“三ツ眼”はまだ良い。
姫が砕いたり、半月が削りきったり、夕日たちがコンビネーションでダメージを与えてバラバラに粉砕したことも何度かある。
動きが鈍いので攻撃は当たる。

だが毎回毎回、あと一歩というところで、もう片方の戦場で、脚力特化型の“四ツ眼”の方に囲みを破られて逃げられてしまう。
瞬時に自動車以上に加速する“四ツ眼”が、牙が並んだ大口を開いて突進してきたら、なかなか止められないのだった。いくら武術の技に優れようと、単純に全身で突っ込んでくる相手には、半月や三日月や夕日であっても、いささか以上に分が悪い。
しかも泥人形も経験値を積んでいるのか、徐々に騎士たちの攻撃に対応してきているようにも感じる。まあ騎士団も戦闘には慣れてきているのだが。

そしてさらに奴らは逃げる途中でテレポートでもするのか、太朗の索敵能力でも途中で失認してしまうのだ。
時にはあからさまに、夕日たち前線組の騎士の目の前で、泥人形が消滅――テレポートしたこともあった。

「敵がテレポートでガン逃げって、萎えるわぁー」

というのは、三日月の弁である。

そんなこんなしてるうちに、地味に太朗たちの疲労は徐々に蓄積していっていた。
あるいは魔法使いの狙いは騎士の疲弊なのかもしれない。
常在戦場というのは、存外に神経を削るものなのだ。


そんな風に何度か泥人形を取り逃がしたある日、やはり作戦を切り替えることになった。

「このままじゃ、埒があかないし、危険だけれど相手を合体させる方向に持って行こうと思う」
「……了解ッス。じゃあ、俺と花子は、二体の泥人形が合体するように誘導すれば良いッスね?」
「ああ、頼む。誘導場所は、いつもの山の中へとお願いするよ」
「はい、落とし穴とか掘ってあるとこッスね、分かりました」
「出来れば、次で決着をつけたいな」
「……そうッスね、こうもだらだら現れられちゃ、消耗がきついッスもん。案外、魔法使いの狙いは騎士の消耗だったのかも知れませんね」
「かも知れない。あるいは威力偵察か……。だが、その間にボクたちの連携技なんかも上達したし、悪いことばかりじゃない。……目の前に脅威があるのと無いのとじゃあ、訓練の身に着き方もまた違うからね」
「じゃあ、次はうまく誘導してみるッス」
「追い込み漁だな」


そして獲物は狩場に追い立てられる。


いつも通りに街の端と端に現れた二体一組の泥人形。
近くには、囮役の騎士が居た。正確には、街を徘徊中の騎士の近くに、泥人形が転送されてきたのだろうけれど。
“四ツ眼”の脚力特化型の方には、雨宮夕日。“三ツ眼”の腕力強化型の方には東雲半月。ほぼベストの割り振りだ。これが逆だと少し面倒だった……まあ大差ないが。

「ついて来い」/「んじゃ、転がしながら行きますかねー」

雨宮は一当てした後、掌握領域を踏んで空中を走って逃げる。“四ツ眼”もビルや屋根を踏んで飛んで追い縋る。ルートから外れそうになれば、太朗と花子の『梓弓』の弾丸が“四ツ眼”を叩き落として修正する。
半月は殴りかかってくる“三ツ眼”の指を取って投げ、先端をナマクラにした『方天戟』で突き飛ばして転がす。太朗の『綿津神』を介した指示で、街を悠然と往く。

ある程度二匹の泥人形を近づけてやってからは、楽なものだった。
それぞれの泥人形は夕日と半月をそっちのけで、お互いに合流するために動き出したのだ。

「まだだ、お前たちの合流場所はこっちで決めてある」/「おいおい、つれねえなあ、まだまだ俺の相手はしてもらうぜ」

しかし夕日と半月はそれぞれを巧みに妨害し、決戦の場である山へと導く。
急激に成長している仙人の後継者・夕日と、天才武道家の風神・半月。
騎士団の双璧である(三日月的には異論がある)。




誘導先の山の決戦場。
騎士たちは、囮組を除いて勢揃いしていた。
その囮組も、間もなく泥人形とともに合流するだろう。

「来ます」

花子と手をつないで目を瞑っていた太朗が告げる。
索敵海域『綿津神』による拡大感覚によって、敵の接近を察知したのだ。
まあそれまでリアルタイムで夕日と半月の二人をナビゲートしつつの火砲支援しつつの、だったので動向を知っているのは当然であるが。


その直後、空から“四ツ眼”が轟と風を鳴らして降ってきて、木陰からはのっそりと“三ツ眼”が現れた。

「じゃあ皆さん、手筈通りに」

そして、二匹は向かい合い――騎士団を無視して、お互いに喰い合った!

「うげ……」
「共喰いで合体とか、趣味悪ー」

大口開いて“三ツ眼”を食う“四ツ眼”。
ぼこぼこと沸騰するように変容する泥人形の身体。それは体積を増して変容していく。
悍ましい光景だ。

「だけどチャンスです」
「合体中は攻撃しないというお約束なんて、知りません」

――『最強の矛』

昴と雪待が掌同士を合わせ、合成領域『最強の矛』を作り出す。

「うん、なんか行けそうな気がするね……。初お披露目になるけど、みんなびっくりしてくれるかな?」

ふくよかな風巻が、地面に手をつき、掌握領域を展開する。
彼が“騎士の願い”で願ったのは、掌握領域の特殊強化。
目には目を、歯には歯を、すなわち――泥人形には泥人形を。

「創造領域『地母神(キュベレイ)』!!」

泥から創造されるのは、“一ツ眼”の泥人形。四つの爪のついたミキサーじみた頭を持った、腕なしの小さな怪獣。
泥人形を創る能力!
それがネコの騎士・風巻豹の能力。

「泥人形を、自分で……!?」
「ひゅ~! かっけぇなあ、豹ちゃん! 名前決まってんの?」
「そうだね、名前は……ゾンタークだよ。……行け、ゾンターク!」

驚く白道と、感嘆する三日月。
風巻の号令で突進する一ツ眼のゾンターク。

「感心してる暇はないですよ、皆さん」
「今のうちッス! 南雲さん、号令を!」
「今だ、総員攻撃をかけろ!」

花子と太朗も手を繋ぎ、未だに蠢いて変形する泥人形へと領域を集中させる。

騎士団の総攻撃だ。
掌握領域が殺到する。
『梓弓』の弾幕が動きを止め、『最強の矛』が突き刺さり、ゾンタークが背後から挟み撃ちにして逃げ場を無くし、全員の領域が集中して破壊をもたらす。

未だに沸騰するように変形している“七ツ眼”には、防ぐ手立てがないように見えた。
為す術もなく削られるかと、そう思われた。

『GIAAAAAAAAAA!!』

だが身体をダメージで崩壊させながらも、ついに“七ツ眼”は合体変形を完了し、咆哮を上げた。

牙が並んで凶悪な顔、大木のような腕、それよりも太い脚、強靭な尾。
振り回される腕に、風巻のゾンタークが吹き飛ばされる。

「ゾンターク!」
「一撃で!?」

その苦し紛れの一撃で、ゾンタークの上半分は吹き飛ばされてしまった。
四メートル近い巨大な竜人のごとき威容は、罅だらけであっても顕在だ。
今までの泥人形とは、硬さもパワーも違う。

「これが、“七ツ眼”の完全体……!」
「俺と花子は『梓弓』で足止めするッス!」
「日下部たちの足止めの間に、残りの者は第二波を!」

相手はもう既に満身創痍。
ここが勝負どころだ。
南雲の号令で騎士団は再び掌握領域を集中させる。

騎士たちの雄叫びが木々の間にこだまする。




そして遂に、“七ツ眼”が崩れ去るときが来る。
“七ツ眼”の上半身と下半身が分かたれ、ゆっくりと上半身が倒れる。

――やった、

安堵が騎士団の間に流れたその瞬間だった。



――――“ゾグン”と足元から(・・・・)殺気の刃が生えたような幻覚。
もはや慣れ親しんだ、泥人形出現の前兆。

「やばっ!?」
「総員退避ッ!!」

だがその殺気は、ケタ違いだった。
巨大な斧で下から真っ二つにされたのかと皆が錯覚した。

それ故に、初動が遅れてしまう。

「下から、なんか来るッス!」
「動ける者は、他の騎士を抱えて下がれ!」

動けたのは、南雲、三日月、太朗と花子だ。
一瞬で南雲は風巻を、三日月は昴と雪待を、太朗は太陽を、花子は白道を、それぞれ腕であるいは掌握領域で抱えて下がる。

そして次の刹那、“それ”は下から姿を現した。


まるでシャチが水面の海鳥を喰らうように、地面の下から、牙が並んだ土色の巨大な顎が現れ――“七ツ眼”の上半身を飲み込んだ。

「泥人形! 新手か」
「ハッ! 連戦か、望むところだ! 暴れ足んねえと思ってたところだぜ!」

現れたのは、狼と鰐を混ぜたような造形の泥人形。
その四足は虎や狼のように強靭で、大きく裂けた口は鰐のようで、そしてその尾は剣を束ねたように恐ろしい。
顔にある眼玉の数は――二列四対の合計八つ、

「やはり――“八ツ眼”か!!」

そう、“八ツ眼”の泥人形だ。
“七ツ眼”がだらだらと時間を稼いだいた理由、それがこれだったのだ。
魔法使いは“八ツ眼”を作るために時間稼ぎをしていたのだ。


そこで騎士たちは、ハッと思い当たる。

――『“八ツ眼”は、何を食べた?』

「ま、さか――」
「攻撃だ、もう一度、攻撃を――」

戦慄して再び攻撃をしようとする騎士たち。
だが、吹き飛ばされたばかりで体勢は整っていない。
その上、“八ツ眼”は剣尾を振り回して騎士たちを牽制する。


“七ツ眼”は、“三ツ眼”と“四ツ眼”が喰らいあって合体した。
そして“八ツ眼”は、つい先程“七ツ眼”の上半身を喰らった。
ならば――――

『GOOOOOOOOOO!!』

天に叫びながら、“八ツ眼”の上半身が変貌する。
顎は更に大きくなり、胴は伸びて、さらに巨大な二本の腕が生える。
巨人の腕を持った六本足の歪な恐竜。後ろ四つの足で体を支え、背を反らして前二本の腕を広げて雄叫びを上げる。
さらにその額と、それぞれの六本足の付け根に、新しい眼が開く。

「眼の数は――十五、だと」

元からあった眼が八つ、新しく開いたのが7つ――合計して十五の眼を持つ泥人形が、そこに居た。


大きく口を開いて咆哮を上げる泥人形。
騎士たちは、まるで金縛りにあったかのように動けない。


不意に咆哮が止む。

「なんだ、何か、出て……?」

そして、泥人形の口の中から、人影が現れた。
まるで魔王のように、それは現れた。
彼こそ戦いの元凶、倒すべきラスボス。その名を――

――魔法使い、アニムス。


◆◇◆


 ネズミの騎士の悪足掻き 18.魔法使い(アニムス)登場


◆◇◆


「門役ご苦労、ヘカトンバイオン。そしてこれからよろしくメタゲイトニオン」

唖然とする騎士たちを尻目に、魔法使いは自分の泥人形を撫でる。


そこに、遅れていた夕日と半月、そしてさみだれが到着。

「何だ、これが“七ツ眼”か? 強そうだな!」
「それにしては眼の数が多いような。あと、そばに浮いてるのは……人?」
「……あいつ――あれがアニムスや!!」

アニムスを確認すると、即座にさみだれが飛び出す。
それにつられて、騎士団の双璧も駆ける。

「東雲さん、あれ行きましょう」
「お、合体技だな」
「はい、狙いは足から胴で」
「おっけー!」

半月と夕日は、暴風のような元“八ツ眼”メタゲイトニオンの乱打をくぐり抜けると、脚の一本に肉薄する。

「行くぞ!」
「はい!」

「ダブルッ」「方天戟!」

二人の掌握領域が重ね合わせられ、必殺の二乗の回転撃がメタゲイトニオンの足を抉り、さらに伸びて胴に突き刺さる。

「何!」
「くっ、硬いっ」

今までの泥人形なら一撃で余裕をもって葬れたであろうダブル方天戟は、しかしメタゲイトニオンに致命打を与えるに至らない。
脚の半分を抉り、胴体に穴を開けただけで止まってしまう。


「アニムス!」
「君が今回のプリンセスか」
「覚悟ォ! らああああッ!!」

そして魔法使いを直接狙ったさみだれであるが、その拳は魔法使いには届かなかった。

「ちっ」
「ざーんねん。ありがとう、メタゲイトニオン」

メタゲイトニオンの剣尾が素早く振られて、さみだれの拳を受け止めたのだ。
尾は剣の鱗を砕かれながらも、しかし原型をとどめていた。
泥人形が初めて、さみだれの攻撃を受け止めたのだ。さみだれは自慢の拳の威力不足に眉をひそめる。


アニムスがさっと手を挙げると、瞬時にさみだれと、半月、夕日の三人がその場から消え、直後、他の騎士たちの近くに虚空から現れる。
魔法使いによってテレポートさせられたのだ。

「時間あげるから、少し休みなよ。――じゃないと、次で全滅だよ?」

そう言って、魔法使いはメタゲイトニオンを何処かに転送し、宙を“歩いて”去っていった。

騎士団はそれを見送ることしか出来なかった。


暗雲が垂れこめ、雨が静かに降りだした。
雨が一切の音と体温を奪う。


=====================


合体前の七ツ眼は、多分同時に粉砕しないと倒しきれない。エヴァでもそんな使徒いたよね。故意に合流させない限りはほぼ千日手に陥る仕様と思われ。

十五ツ眼(仮)の名前はもうメタゲイトニオンのままで。あるいはメタゲイトニオン改、か。
泥人形の共喰い合体は、私は単純ステータス加算の効果だと思ってます。
なので眼は十五あるけど、実際はそこまで強くないです(喰ったのは七ツ眼の半分だけですし)。マイマクテリオンよりは弱い、んじゃないかなー。

2012.05.28 初投稿


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