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No.31004の一覧
[0] 【惑星のさみだれ】ネズミの騎士の悪足掻き(日下部太朗逆行強化)[へびさんマン](2015/01/25 16:30)
[1] 1.宙野花子(そらの はなこ)[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[2] 2.師匠、登場![へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[3] 3.山篭りと子鬼[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[4] 4.しゅぎょー!![へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[5] 5.神通力覚醒!?[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[6] 6.東雲家にて[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[7] 7.ちゅー学生日記[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[8] 8.再会、ランス=リュミエール[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[9] 9.初陣[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[10] 10.結成、獣の騎士団![へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[11] 11.『五ツ眼』と合成能力[へびさんマン](2013/03/02 15:10)
[12] 12.ランディングギア、アイゼンロック[へびさんマン](2013/03/02 15:02)
[13] 13.カマキリは雌の方が強い[へびさんマン](2012/02/26 23:57)
[14] 14.VS『六ツ眼』[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[15] 15.受け継がれるもの[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[16] 16.束の間の平穏[へびさんマン](2013/03/02 15:04)
[17] 17.不穏の影・戦いは後半戦へ[へびさんマン](2012/05/28 21:45)
[18] 18.魔法使い(アニムス)登場[へびさんマン](2012/05/28 18:26)
[19] 19.夏、そして合宿へ[へびさんマン](2014/01/26 21:06)
[20] 20.精霊(プリンセス)アニマと霊馬(ユニコーン)の騎士[へびさんマン](2013/03/02 23:50)
[21] 21.対決! メタゲイトニオン・改![へびさんマン](2015/01/14 22:26)
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[31004] 16.束の間の平穏
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/02 15:04
「はい、それでは芳名帳に名前をお願いします」

日下部太朗と宙野花子は、未だ復調しない身体に鞭打って、秋谷の葬儀の手伝いをしていた。
まあその程度は屁でも無い。恩師の葬儀なのだ。死に目に会えなかった分の悔悟の気持ちに踏ん切りをつけるためということもあり、彼らは手伝っていた。葬儀は死者のためではなく、残された者のためにあるのだ。
彼らの体調は完調ではないものの、秋谷の葬儀はひっそりと行われる予定だったので、手伝うにしても大した労力にはならないという話だったのだが……。

何処からか師匠の死を聞きつけてきたのだろう。
予想外に多くの人間が集まっていた。


例えばなんとなく世捨て人を思わせる風の、除霊師を名乗るメガネを掛けた長髪の女性。

「師匠が死ぬなんてなー。夢枕に立たれた時は吃驚したよ」

なんて彼女は言っていたが、真実なのかどうか。
というか夢枕に立てるなら雪待や昴の夢枕にも立ってやれよ師匠、と太朗は感想を抱いた。
案外この様子も師匠の幽霊は見てるのだろうか? 四十九日は霊魂が現世に残っているというし。


他にも例えば、姫の同級生でお上品な感じの高校生(碓氷さん)と、そのお兄さんと、お兄さんの彼女。
そのお兄さんの彼女の方は、戦国武将みたいな兜と面と刀っぽい何かを持っていた。
姫の同級生とそのお兄さん(彼氏さん)の方は、彼女の付き添いだそうだ。その兜に面と刀の彼女の名前は芳名帳によると、不知火一重(しらぬい ひとえ)と言うらしい。

「以前、仕事を手伝ってもらったことがありまして……。流派の開祖もお世話になったそうですし……」

仕事って何だ。と太朗は尋ねたかったが、普通に『悪魔退治です』とか答えられそうだったので、我慢した。



一番印象に残ったのは、見た目は冴えない禿散らかした中年サラリーマンの男性だった。
芳名帳によれば、名前は『山中』さん。
その外見とは裏腹に、異常な圧力を感じる不思議な男性だった。絶対泥人形より強い。

「昔、荒れていたことがあってね。その時、秋谷師匠に諭されたのさ。異世界(向こうの世界)から帰ってきたばっかりで、誰も私の言うことを信じてくれなかった頃だ……。
 秋谷師匠に会ってなければ、私は今頃どうなっていたことか――」

遠い目をして、山中さんはしみじみと語った。
直後に空気を読めてない戦闘狂(三日月)が山中さんに戦いを挑もうとしたが、いつの間にか距離を詰められてデコピン一発で沈黙させられていた。強え……。
職業はきっと『勇者』だ、しかもレベルカンストしたとびきり無敵の。太朗の直感が囁いた。


――ちなみに、太朗が『綿津神』で定時探査を行ったところ、葬儀の参列者の半数近くが、一斉に太朗の方へと振り向いた。逆探知されたらしい。太朗は肝が冷える思いをした。前々から感じていたことだが、これで隠密性向上のために改良が必要だと痛感した。
超常の力に関わっている人たちは、案外多いようだ。そして、その業界は、かなり狭いらしい。
弔電の差出人では『左道黒月真君』だとか、如何にも仙人っぽい名前が幾つも並んだ。本当に何処から秋谷の葬儀の情報が漏れたのだろうか? やはり夢枕に立ってあいさつ回りでもしたのだろうか。

さらに、太朗の肉眼では確認できなかったが、『綿津神』の超感覚には、人ならざる者たちも捉えられた。
超能力者よりは泥人形に近い感じがしたが、しかし彼ら人ならざる者――『おとなりさん』『隣人』――は、泥人形ともやはり違うようだった。
お化けというか、妖怪というか、精霊というか……そういった存在なのだろう。


意外と地球を護るために戦っているのは、自分たちだけでもないのかも知れない。太朗はそう思った。



地球の危機なんて、何処にでもあって。

何処かの誰かが、いつも地球を救っているのだ。



……。


「はは、そんなばかな」
「どうしたのタロくん? 急に遠い目をして」
「世界は広い。んでもって、世間は狭い」

今までお目にかかることが殆ど無かった異能者たち。戦闘に関して言えば、師匠より強い人間も葬儀場には来ているだろう。ひょっとしたら魔法使いにも対抗できるほどの実力者が。……世界は広い。
しかし、彼らが集まったのは、師匠の訃報を聞いたためだ。スタンド使いは惹かれ合う、という訳でもないのだろうが……、いやはや、世間は狭い。


◆◇◆


 ネズミの騎士の悪足掻き 16.束の間の平穏


◆◇◆


秋谷が戦いで亡くなっても、地球は回るし日々は続く。
次の泥人形が出てくるまで指輪の騎士たちは思い思いの日常を過ごす。
それは鍛錬であったり、デートであったり、まあ、色々だ。


◆◇◆


東雲半月は朝日奈氷雨と付き合っている。
それは半月の一目惚れから始まった。そこからは猛アタックであった。
今では朝日奈の父(PN・蝉時雨)からも半ば公認された仲である。

そんな二人は今日もまたデートをしていた。
週末デートである。イチャラブである。
ちなみに本日の行き先は、水族館であった。

定番である。ベタである。だがそれが良い。良いからこそ定番とされるのである。
イルカショーを間近で見て水飛沫が掛かりそうになってきゃーきゃー言ったり、トンネル状の水槽の下を通って擬似海中遊泳を楽しんだり、大水槽での餌やりを見て和んだり……。まあテンプレである。
だがそう言った定番のやり取りであっても、カップルにとってはまさに黄金のような時間。何ものにも代えがたい思い出の一ページになるのだ。


そして夕飯を水族館の併設のレストランで食べて、市内に戻り、半月が良く行くバーでグラスを交わしているところだ。
落ち着いた照明、磨き上げられたオーク材の重厚なカウンターテーブル。
マスターの後ろに並んだ沢山のグラスと、何十本ものリキュールの瓶。
マスターの趣味か、ゆったりとしたジャズが控えめな音量で流されている。

「いいとこですね、このバー」
「でしょう? 氷雨さんを是非連れてきたいと思ってたんですよ」
「ありがとうございます、半月さん」

半月は「いつもの」と言って注文する。
そして「彼女に似合うカクテルを」と氷雨の分をマスターのお任せで注文する。

「うわ、なんか映画みたいなやり取りですね」
「ははは、一遍やってみたかったんスよ。憧れますよね」
「あはは、分かります。カッコイイですもんね。――半月さんもかっこ良かったですよ?」
「うわ、すっごい照れる……。氷雨さんも綺麗ですよ」
「どーもどーも……えへへへへ」

そんなやり取りを、白髪交じりの五十がらみのマスターは温かく見守っている。
このバーに半月が初めてやってきたのは、半月の用心棒としての雇い主に連れられてのことであり、もう何年も前の話だ。あの頃は腕っ節が強い暢気なガキだと思っていたが……。
そんな若造がこんな別嬪さんを連れてくるようになるとは……。何だか目頭が熱くなる。息子の成長を見ているようだ。マスターはそんな事を思いながら、取っておきの酒を出してやることにする。安いものではないが、何だかんで半月は金を持っている男である、彼女の前でかっこつけるためにも支払いは惜しむまい。

コースターを敷き、酒を入れたグラスを差し出す。
琥珀色のウイスキーが妖しく揺らめいた。半月の好きそうなやつだ。シチュエーションもバッチリだろう。
素敵なお嬢さんには、桜色のカクテルを。味も自慢だが、見目麗しいのが良い。
ドライフルーツを幾つか取って、おつまみとして出しておく。

「乾杯、氷雨さんの瞳に」
「ふふ。はい、乾杯」

軽くグラスを傾けあって、半月と氷雨が乾杯をする。
しばらくお互いに他愛のない話をする。
しかし何でもないことが決定的に大事なのだ。思い出とはそうやって紡がれる。

「そういえば」

何杯目かのカクテルから唇を離し、氷雨が囁くように口にする。

「半月さんたちは――さみだれは、一体何をしているんです?」
「……気になりますか」
「そりゃあ、大事な妹のことですし、半月さんのことでもありますからね。気になります」

どう答えたものかと半月は思案する。
手の中でロックグラスを玩び、からからと氷を鳴らす。
語るべきことでもないが、語らぬのも不誠実である。

「ヒーローの真似事ですよ」
「……人が死ぬようなですか」

端的に、はぐらかすように語った半月の言葉には、しかし嘘はない。
だがそれに応える氷雨の言葉に険しい物が混ざる。
恐らくはなにかしらの直感で以って、さみだれの消沈と秋谷氏の葬儀を結びつけたのだろう。さみだれに関わることで、人死が出ていると。

「この前、さみだれが秋谷という人の葬儀に行きましたよね」
「ええ」
「その秋谷という人も、半月さんや、さみだれや雨宮の、仲間だったんでしょう?」
「……そうです。立派な人間でした、彼は。戦友です。――そして俺は彼を助けられなかった」

もっと早く踏み込めていれば。
掌握領域がもっと伸びれば。
そもそも最初の一撃で半月が『六ツ眼』を抉り殺していれば。

――また一歩及ばなかった。ヒーローになれなかった。

「そんな顔をしないで下さい。酷い顔ですよ」
「そんなにですか」
「泣きそうな顔です。半月さんは笑ってるほうが良い」

からりと氷がグラスの中で転がる。

「そんな顔をしてまで、やらないといけないことなんですか」
「ええ、命懸けでも、やらなきゃいけません」
「何故」
「有り体な言い方だと、『選ばれた』からです。そして、どうにか上手くやらないと、みんな死んでしまう」
「みんな、とは」
「俺も氷雨さんも、街中世界中のみんな、です」

言っていることは戯言なのだが、氷雨を見つめる瞳には嘘がないように思えた。
その程度の付き合いはしていると、氷雨は自負している。
どうにも遣る瀬無くて、手の中のカクテルを飲み干す。

「……さみだれちゃんは、死にませんよ。俺が、俺の仲間たちが守りますから。雨宮のゆーくんだって、さみだれちゃんを守ります」
「じゃあ、半月さんは死なないんですか」
「……」
「死なないでください。きっと私は、耐えられません」

難しいことだ、と半月は思った。
だがきっと、自分が死んだらこの女(ひと)は泣くだろうなと、半月は自惚れでも何でもなく確信した。
死ぬわけには行かなくなった。惚れた女を泣かせて、何がヒーローか。

願い事も変えなくてはいけないだろう。
『自分が死んだ時に、騎士の仲間に武道の技を引き継がせる』なんてのは、自分が死ぬこと前提で不吉だろうから。
あとでイヌの従者・ルドに相談しよう。

その話はそれきりであった。
あとはまた他愛ない話をして、グラスを傾けるだけだ。
例えば、日下部某が二十八次元がどうこう言っていて物理学者のお知恵を拝借したいと言っていたとか、風巻の腹の掴み心地はなかなか良いからこんど半月さんも掴んでみると良いだとか、昔はさみだれは身体が弱くてとか。そういった何でもない話だ。


だが、バーからの帰り道で、二人の間の距離は確かに縮まっていた。
寄り添って歩く。
これからあともずっと寄り添って歩んでいければいいな、とお互いに思いながら。


ちなみに半月の従者であるルドは、三歩下がって師の影を踏まずといった風に常に蚊帳の外であった。空気の読める犬である。


◆◇◆


「おかえり、ゆーくん! 聞いたぜ、秋谷師匠のチカラを引き継いだそうじゃんか!」
「……何故お前がぼくの部屋にいる、三日月。そしてその話を誰から聞いた。未だ姫にも話していないのに」
「タローから」

ある日雨宮が自室に帰ると、扉の鍵は開いており、中ではカラスを載せた三日月が勝手に飯を食っていた。
三日月といい半月といい、不法侵入が好きな兄弟である。
武道家というものは鍵開けのスキルでも持っているのだろうか。雨宮はそんな感想を持った。

「日下部くんは、ぼくが秋谷氏から諸々引き継いだことを知っているのか」
「ああ、なんでもそう薦めたのはタローらしいぜ。『姫の近衛騎士は、最強じゃないといけません』だとよ。あと、師匠が書いた本を見せて欲しいとか言ってたな」
「近衛騎士……いい響きだな。それと、本と言うとこれか。ぼくが読んだら渡しておくよ。さっき掘り出してきたばかりなんだ」

そう言って雨宮は背負っていたリュックを降ろして、中から手書きの本を取り出す。
本のタイトルは『大海!! 激生記』となっていた。
秋谷が自分の半生を書き綴った本である。雨宮に託されたものだ。

掘り出してきた、というのはどういうことだろう。
確かに雨宮の手にはシャベルが握られているが。

「掘り出して?」
「ああ、山の中に埋められてたんだよ」
「なにゆえーー」
「落とし穴でも掘って戦えって啓示かもな。それも良いかも」

落とし穴や罠を使って地の利を得れば、多少は泥人形相手にも有利に戦えるだろう。
『大海!! 激生記』が穴の底に埋められていたのは、そうやって何ものをも使って戦えという秋谷のメッセージだろうか。
真正面から戦うよりはそちらの方が雨宮の性に合っているのは、残念ながら間違いなさそうであった。

「って、そんな話に来たんじゃねーのよ」
「そうだっけか」
「模擬戦しようって話。ゆーくんも受け継いだチカラを身体に慣らさないとまずいだろ」

何が出来て何が出来ないのか、それを確認しなくてはいけない。必要なことだ。
知識や技量の一部を秋谷から引き継いだとはいえ、雨宮と秋谷では手足の間合いも違うし、筋力など諸々のパラメータも違う。
きちんと雨宮のものとして取り込まなくては、いざという時に使えない。一瞬が生死を分ける戦いの最中で、肉体と経験の齟齬から硬直しては元も子もない。

「そうだな。己を知れば、ということだな。でも明日にしてくれないか?」
「ぁん? なんでだよ」
「疲れ果ててるんだよ、穴掘りで。だから明日の朝、いつもの公園で」

実は穴掘りで雨宮は疲労困憊である。
今も微妙に腕がプルプルと震えている。肉と野菜を摂って身体を休めないといけない。
だがまあ体力をつけるのは手っ取り早い戦力向上になるし、掌握領域の強度は騎士の体力に依存するので一石二鳥である。
これからも穴掘りして体力つけよう、と雨宮は計画している。

「オッケー! じゃあ明日の朝な、楽しみにしてるぜ、近衛騎士サマ」
「秋谷さんのチカラを早くモノにしたいし、――今度こそおまえに勝つ。首洗って待ってろ、三日月」
「ひひひひひ、おー、やってみろー!」

明日のジョギング後、いつもの公園で手合わせをすることを約束する。
それまでには姫にも、雨宮が秋谷のチカラを受け継いだことを報告しなくてはならないだろう。
雨宮は三日月に視線を向ける。相変わらず生野菜を貪っている。立ち去る気配は無い。

「で、帰らないのか、お前」
「え? 何で?」
「ここはぼくの部屋で、お前の部屋じゃない」

自明の理である。
だが三日月はにやりと意地悪そうに笑う。

「堅いこと言うなよー、ゆーくーん。それに俺知ってるんだぜ、今日は兄貴と氷雨ちゃんがデートだから姫の夕食を作る人が居ない。つまり、姫とゆーくんが一緒に晩飯食べる約束してるってことを!」

だから帰れって言ってるんだよ、お邪魔虫。内心で悪態をつく。
雨宮は眉間に手をやり、溜息を吐く。

腹立たしいが、こうなると三日月はしつこい。
どうやら姫とのデートに邪魔者が入ることは避けられなさそうだ。

「……食材の買い出し手伝えよ? 三日月。あと金も出せ」
「そりゃ構わねーが、タローも呼ばねえ? あいつの飯美味いし」
「バカか三日月。姫の手料理を振舞っていただけるチャンスだぞ」
「はっ、確かに!」

姫の手料理はまだまだ発展途上なので当たり外れが大きいのだが……。
道連れを増やすつもりかと、トカゲのノイは思ったが、口には出さなかった。

「夕日も随分変わったものだな」

今でも彼は、地球を砕きたいと思っているのだろうか。
そうでなければ良いと、ノイは願った。


◆◇◆


~~♪

「あ、タロくん、メールだよ」
「んあ。……ああ、半月さんと三日月さんからだ」
「何て? 騎士団関連の連絡?」

花子に促され、太朗が文面を読み上げる。

「えっと半月さんからは『氷雨さんが「二十八次元とか重力立面とか宇宙に興味あるなら、教えてあげるから適当な時に聞きに来て良いよ」って。明日の朝にでもジョギングの後に姫の家に寄ってくれ、まず顔合わせだけしよう』、三日月さんは『明日の朝、ゆーくんと模擬戦。タローも立ち会いと人払いの結界を宜しく』、だって」
「へえ、半月さんは面倒見が良いね、やっぱり。そして三日月さんは相変わらず戦闘狂だね。……じゃあ明日はジョギングの後にいつもの公園で三日月さんたちの模擬戦に付き合って――」
「――そのあとそのまま姫のお宅にお邪魔して、朝日奈先生にご挨拶かな。なんかこの前からすっごい気になってるんだよなー、宇宙理論について……。朝日奈先生ならこのモヤモヤを晴らしてくれるはずッ、天才らしいし!」

知恵熱で寝込んでいた間に太朗の頭の中に流れ込んできた妙な知識。
特に宇宙の有り様についての概念。断片的な数式。この時間軸に意識が流れて来た時以上の密度の情報群。
寝ても覚めても、その良く消化できない概念が頭から離れない。
しかしこれが解決されて太朗自身の腑に落ちれば、掌握領域がもう一段進化するだろうと何故だか確信している。

その知識流入の原因は、花子が強制起動した収奪領域『ハリガネムシ』が、アニムスの知識を喰ったからだ。
だがしかし、花子の方にはそのような知恵熱や知識の流入は起こっていない。
大元のサイコメトリー能力が、太朗の異能であるためであろうか。これは太朗にのみ起こった現象であった。

「人払いの術、私も覚えればよかったなー……。便利そう」
「まあ、サイキックの練習するときには必須だよな。もとから従者たちや泥人形が一般人に見えないみたいだから、ある程度の隠蔽・欺瞞性はあるみたいだけど」
「雨宮さん、その辺の技術も受け継いだのかな、師匠から」
「多分、受け継いだんじゃないかな」

秋谷が居なくなった以上、人払いの結界を使えるのは太朗しか居ない。
秋谷の弟子の中では、器用な太朗しか仙術を継承出来なかった。それでも人払い術の一部しか使えないが。
ひょっとしたら、雨宮の方にそれらの技術も継承されているかも知れないから、明日の模擬戦の時にでも確認してみるしか無いだろう。


ちなみに今居る場所は日下部宅の台所である。
三人(・・)で料理中である。
今は予め寝かせておいた生地を叩いて広げ、麺棒で押し伸ばして餃子の皮を作っているところだ。中に包む種の準備もできている。

そう、三人で、である。太朗と花子と、それともう一人。

「あの、こんな感じで良いですか?」
「おお、そんな感じ。上手いじゃん茜くん」

むにむにと指を打ち粉まみれにしながら生地を伸ばす少年。頭の上にいつも居るはずのフクロウは、今は居ない。料理中に羽を飛ばされては堪らない。
少年の名前は茜太陽。
フクロウの騎士。
そして裏切りの、神の騎士。

「なんで一緒に料理なんて……?」
「うん? ああこないだ一緒に夕飯食べようって言ったろ」
「そういえば……」

『六ツ眼』スキロポリオンの狙撃で蹴散らされた日に、そういえばそんな約束をしていた。
まあ太陽の方も今日は特に予定があったわけではないから良いのだが。
それに――

「それに聞きたいこともあるんだろ? 取り敢えず一緒に飯食ってから話そうぜ。腹が減っては戦はできぬって言うし」
「……」
「それはなんだか違うと思うよ、タロくん」

太陽から太朗と花子に聞きたいことがあるのも事実であった。

何故太陽の時間操作能力を知っていたのか?
何処でアニムスと会っているのを知ったのか?
何をどこまで知っているのか。

(底知れない)

太陽は恐れにも似た感情を抱く。太朗の得体の知れなさが、実体以上の輪郭を太朗に投影し、大きく見せていた。
それに太陽自身、後ろめたさも、もちろんある。
彼は裏切りを犯している身だ。糾弾される心当たりは、てんこ盛りだ。……こんなに早くバレるとは思わなかったが。

「とにかく、まずは飯だ。一緒に作った料理は、美味いぜ?」
「……いろいろと疑心とか抱えたままでする料理は楽しくない……」
「ははは、じゃあ諸々の問題が片付いた後にまた一緒に料理しようぜ。心機一転したらさ」
「……強引な」
「そんなに強引か?」
「うん、強引。タロくんが強引なのは、師匠とか三日月さんに影響されてるせいだと思う」
「そっか、師匠に似てるか。それは、少し嬉しいかな」

和気藹々と会話しつつ、太朗たちは手早く餃子の皮を作っていく。
ベースは手打ちうどん専用の小麦粉だ。
餃子の皮は、ワンタンを思い浮かべれば分かると思うが、麺の一種のようなものであるから、麺用の小麦粉が使いやすいのだ。

棒状にして寝かせておいた生地を輪切りにし、それを上から叩いて潰す。
少し広がったらそれを麺棒で伸ばす。打ち粉(片栗粉)を引き、押しつぶした生地を広げる。縦に伸ばして楕円状に、そして九十度回してもう一度伸ばして真円にする。
多少の厚みの不揃いさは問題無い。それが手作りの味というものだし、多少厚いほうが歯ごたえがあって食いでがあるというものだ。

延ばした生地に予め作っておいた種を載せ、包み込む。

「水つけてしっかり閉じてね、形は割と適当でいいから」
「あ、はい、宙野さん。……何か手慣れてるんですね」
「まあね。意外かしら? タロくんとは結構一緒に料理するし、私も少し勉強したのよ」
「茜くんも料理覚えたらいいぜ。外食ばっかりじゃなくてさ」
「でもうちの台所は、多分使わせてもらえないと、思うんですよ」
「あー、いろいろ大変なんだっけ、茜くん家。じゃあ、何ならうちに来て一緒に夕飯作ってもいいし」
「でもタロくん、結構三日月さんに呼び出されること多いよね。居なかったりするんじゃない?」
「そん時は花子が教えるとか、いっそのこと茜くんも一緒に連れて行くとか」
「え、それはちょっと……」
「まあお酒入るところに行くのも嫌だよな」

などと言いつつ、ぺたぺたぎゅぎゅっと餃子を量産していく。


一方その頃指輪の従者たちは、隣室にまとめて置かれていた。

「……厨房立入禁止なんだと、ペット立入禁止。俺らはペットじゃねーっての」
「儂らは実体ないんじゃがのお」
「いつものこと……」


◆◇◆


「お、美味い美味い」
「でも形が……、なんか済みません」
「店で出すんじゃないんだから、別にいいのよ。それに私が初めて作った時よりはマシだわ」
「店で出す時は見た目も味に影響するけど、手作りという補正がかかれば見た目など些細な問題なのだよっ! それに言うほど悪くないし……美味いだろ?」
「――ですね。確かに、美味しいです」

店で出されるよりも遥かに美味しい。自分で作ったからだろうか。

「さて。そんじゃあ、本題に行こうか。聞きたいことがあるんだろ? 茜くん」

そのために今日は呼んだんだから、何でも聞いてくれ。
そうやって太朗は切り出した。

「……」
「……ネズミの騎士、お主、何を何処まで知っておる?」

太陽の頭上に陣取ったフクロウのロキが、太陽の代わりに訊いてくる。
さすがに年の功というわけか。

「ん、そうだな。大体のところは。例えば、アニムスの意識はこの時間軸に顕現してること――実体化はしてないけれど――とか」
「他には」
「茜くんに、アニムスの時空系能力が一部与えられていること。フクロウの騎士は、前回と今回の戦いで、アニムス側についていること」
「……前回の戦いについては」
「最後にイヌの騎士を裏切って殺したフクロウの騎士が、結局はアニムスを裏切ってアニムスを殺そうとしたけど、返り討ちにあってジ・エンドってことくらいかな。そんで、かれこれ百回以上は騎士団側が負け続けてる。あとは、アニムスは未来の超絶サイキッカーで、アニマはその双子の妹」
「良く知っておるな。それは、他の騎士も知っているのか?」
「いや、どうだろうな。多分知らないんじゃないかな。俺がこの話をしたのは、花子と師匠だけだ。特に茜くんがアニムスと通じてるなんて、他の騎士は知らないはずだ」
「そうか」

まあ、実際ヤバイのはアニムスじゃなくて、アニムスを上回る馬鹿力サイキッカーのさみだれ姫の方なんだが。
太朗は苦笑する。まあ、それは彼女の騎士が何とかするだろう。
太朗の役目は、そこまでのお膳立てをすることだ。

「じゃあ、どうやってそれを知ったんじゃ?」
「師匠の未来予知と、『綿津神』を通じたサイコメトリーで」

転生のことは伏せる。どうせ信じてもらえないだろうし、予知とサイコメトリーで理由付けとしては充分だ。

「頭の中を盗み見たのか?」
「まあそんなところだ。おっと、プライバシー侵害だなんて責めるなよ? こっちは命懸けなんだ。使えるモノは何でも使う。――現に裏切り者は居たわけだしな」

じろりと太朗が太陽を見遣る。
太陽がその視線に身を強張らせる。

「だがまあ、茜くんの治癒能力のおかげで助かったのも事実だ。――ありがとう」
「ありがとう、茜くん。あなたのおかげで太朗くんは助かった」
「あ……」

太朗と花子は視線を柔らかなものに変えると、頭を下げる。

そして太朗たちは暫くして頭を上げて、話を切り出す。

「まあ、それはそれとして。質問はこんなところか? 今度はこっちの話をしても?」
「……そうじゃな、今のところは。今後の太陽の扱いについても気になるが――どうせそれを今から話すんじゃろう?」
「ご明察。流石はフクロウ、叡智の象徴」

ニヤリと笑う太朗に、ロキは嘆息する。

「ではさっさと話せ、ネズミの騎士」
「ああもちろん。……確認だが、茜くんがアニムスに与してるのは、そっちの方が勝率が高いから、だな?」
「……そう、です」
「なるほど」

思案する風を見せる太朗。
勿論演技、演出だ。
いつの間にか下手なりに演技を身につけて……、と傍から見ている花子は嘆きだか感嘆だか分からない心持ちになる。

「じゃあ、騎士団のほうが勝つなら、そっちに付くんだな?」
「……!」

太陽とロキは、太朗の視線の強さに戦慄する。

「馬鹿な、そんなことは不可能じゃ」
「なぜそう言い切れるんだよ。泥人形を六体倒し、未だに騎士団は十一人が健在。幻獣化せずにこの成果だ。アニマが起きて幻獣の騎士が揃えば――」
「――勝てる可能性はある、ということかの?」
「その通り。今回は、今までで一番騎士団側が優勢にゲームを進めているといって過言じゃないだろう。そして何より、今回の姫(プリンセス)が規格外だ」

魔王、朝日奈さみだれ。

「彼女のチカラは、アニムスに匹敵する」
「それは未来予知かの?」
「いいや、確信だ。願望でもあるけどな」

そこにしか生きる道はない、と太朗は語る。
今までのお定まりの結末をひっくり返すためには、それだけ強力な何かが必要なのだ。
自らの未来の為に、太朗はそればかりを考えて今回の戦いに備えてきた。

師匠に弟子入りし。
サイコメトリーを開花させ。
自分と花子の願い事を自己強化に使い。

そして今、東雲半月は死なず。
師匠は助けられなかったものの、その経験は雨宮夕日に継承され。
茜太陽の回復能力を覚醒させ、説教まがいの勧誘のようなものをやっている。

間違いなく太朗が覚える『以前の戦い』よりも優勢に進んでいる。


――――なんだかその分泥人形の強さも強化されてる気がするけど……。
『七ツ眼』あたりは合体したあともう一回分離して変形するくらいは余裕でやりそうだ。
『九ツ眼』なんてどんな魔改造がされるか分かったもんじゃない。
向こうはレベル固定じゃなくて、こちらの戦力に合わせて魔法使いの手ずから調整されるのだ。この戦いは生き物だ。

だがそれでも。


「俺たちは勝てる。だから、裏切る必要なんて無いんだ」
「……」
「アニムスを恐れる必要はない。あいつはルールで縛られている。直接騎士を殺すことはできない」

それが出来ればとっくにやっている。
アニムスに出来るのはコソコソした妨害くらいだ。
例えば太陽の離反工作のような。

「泥人形だって恐れる必要はない。俺たち騎士団の仲間が君を守る。茜くんに家での居場所がないというなら――――」

太朗は手を差し出す。

「――――俺たちが居場所になるよ」



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冒頭の人々は水上悟志先生の短篇集などからゲスト出演。

そろそろアニマ登場かな。
霊獣(ユニコーン)を南雲にするか半月にするか迷っている。
半月がユニコーン化すると恐らく、ルドがダークソウルの大狼シフ(角付き)あるいはもののけ姫のモロ(角付き)みたいになって、さらに方天戟の射程が「13Kmや」になる。あるいは「ギガ、ドリル、ブレイクゥゥゥゥ!!」。最大威力はネガイカナウヒカリ級。多分『十二ツ眼』ポジディオンも単体で撃破可能……。『もうあいつ一人でいいんじゃないかな』状態になりそうな気がががが。実際半月ってそのくらい強いよね?

2012.04.07 初投稿/誤字修正など


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