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No.31004の一覧
[0] 【惑星のさみだれ】ネズミの騎士の悪足掻き(日下部太朗逆行強化)[へびさんマン](2015/01/25 16:30)
[1] 1.宙野花子(そらの はなこ)[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[2] 2.師匠、登場![へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[3] 3.山篭りと子鬼[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[4] 4.しゅぎょー!![へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[5] 5.神通力覚醒!?[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[6] 6.東雲家にて[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[7] 7.ちゅー学生日記[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[8] 8.再会、ランス=リュミエール[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[9] 9.初陣[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[10] 10.結成、獣の騎士団![へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[11] 11.『五ツ眼』と合成能力[へびさんマン](2013/03/02 15:10)
[12] 12.ランディングギア、アイゼンロック[へびさんマン](2013/03/02 15:02)
[13] 13.カマキリは雌の方が強い[へびさんマン](2012/02/26 23:57)
[14] 14.VS『六ツ眼』[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[15] 15.受け継がれるもの[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[16] 16.束の間の平穏[へびさんマン](2013/03/02 15:04)
[17] 17.不穏の影・戦いは後半戦へ[へびさんマン](2012/05/28 21:45)
[18] 18.魔法使い(アニムス)登場[へびさんマン](2012/05/28 18:26)
[19] 19.夏、そして合宿へ[へびさんマン](2014/01/26 21:06)
[20] 20.精霊(プリンセス)アニマと霊馬(ユニコーン)の騎士[へびさんマン](2013/03/02 23:50)
[21] 21.対決! メタゲイトニオン・改![へびさんマン](2015/01/14 22:26)
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[31004] 10.結成、獣の騎士団!
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/02 15:09
郊外の廃墟。打ち捨てられたビル。
フェンスに囲まれたグラウンド。
周囲には半ば以上散った桜の樹が幾つかある。ここは学校か何かだったのだろうか、あるいは廃病院というところか。

「懐かしーなー」
「たろくんの『前世』でも、ここで結成式をしたんだっけ」
「そうそう、ちょうど夏服に変わるくらいの時期でさ。確かあの時は、もう『七ツ眼』まで出てたんだよ」

この場に来るのは、太朗と花子だけではない。
『一ツ眼』との戦いの後、太朗は『索敵海域・綿津神(ワダツミ)』と自身のサイコメトリーとの合わせ技で、町内に居た全ての騎士に対して呼びかけたのだ。
『姫が見つかったので、全ての騎士は参集せよッ!!』と。連絡先が不明でも、この方法ならば伝えられる。最初からこうしておけば良かった。

「他の人は未だ来ないのかな?」
「んー、もうすぐ来ると思うよ」

とその時、この廃墟に足を踏み入れる男が一人。
肩にカラスを乗せたその男は、気さくに片手を挙げる。

「よーっす、タロー! 花子ちゃんも久っさしぶりー」
「あ、三日月さん。良かった、帰国間に合ったんですね」 「お久しぶりです、三日月さん」
「ひひひ、まぁ流石に『結成式』にゃ遅れて来られんだろー」

カラスの騎士、東雲三日月である。
彼はアジア方面を諸国漫遊という感じでぶらぶらして、各地の格闘家と手合わせして腕を磨いていたのだが、『指輪の騎士』に覚醒後、太朗からの連絡で帰国したのだ。
当初は渋っていた三日月だったが、そこは太朗がなんとか説得したのだ。

「で、本当なんだろうな、タロー? 『仙人と戦わせてやる』ってのは」
「ははは、モチロンっすよ。流石に三日月さんも、ガチの仙人とは戦ったことなかったでしょう?」
「おお、中国の奥地も探したんだがなー。太極拳使いだとか、兇手崩れとは何度か手合わせ出来たんだが、流石に仙人には会えなかったぜ」

まあ三日月なら本当に探しかねない。

「……やっぱり、探したんスね……」
「見つかんなかったけどな。それにしても身近に仙人が居るなら、もっと早く紹介してくれよなー!?」

日本で忍者や山伏を探すようなものである。
結局見つからなかったようだが。
きっと、インドでは火を吹いて身体を伸ばせるヨガ行者も探したのだろうと思われる。

「そうやって三日月さんが戦いたがるからッスよ……。お世話になってる師匠に迷惑かけられねーでしょうが」
「ひひひ、師匠思いの良い弟子だこと。……じゃあ何で今頃になって紹介したんだよ?」
「『魔法使い』と戦うための戦力が欲しいからッスよ。こうでも言わなきゃ、家族の訃報でもない限り、三日月さん帰ってきてくれんでショ?」
「ちげーねーな。よく分かってんじゃねーか、俺のこと。いい弟分を持って、俺は幸せだぜぃ」

――そう、太朗は自分の師匠である仙人・秋谷稲近を餌にして三日月を釣ったのだ。
『五百年生きたガチの仙人と戦いたくないッスか?』と言って。
太朗は内心で師匠に合掌して詫びつつ、秋谷を三日月召喚のための生贄に捧げた。

「んで、他の騎士(やつら)は未だ来てねーのか?」
「色々準備してもらってるッスからね。でも、もうすぐだと思うッスよ」
「んー? 準備ぃ?」

怪訝そうな三日月に、周囲の散りかけの桜を見回しながら太朗が答える。

「ええ、結成式の後に、少し時期ハズレっすけど、花見でもしようと思いまして。幸い、未だ桜の花は残ってますし」
「ああ、そりゃ良いな! この時期日本に居るなら、花見しなきゃ嘘だもんな。しかし、予め言ってくれりゃ、俺も酒の二本や三本は持ってきたってのに」
「何時日本に帰って来るか分かんなかったッスからねー……。まあ、三日月さんの酒は、また今度、騎士の誰かン家ででも集まって呑みましょう。今回、酒は半月さんに用意してもらってますから、次は三日月さんってことで」
「そういや兄貴も騎士なんだってな。掌握領域使った戦いで挑むのも面白そーだな、ひひひ。早く扱い覚えねーと――」

等々と三日月と話している間に、他の騎士らも集まって来る。
彼らの従者たちもそれぞれに旧交を温め――ようとしていたが、カラスの従者・ムーは無口なので、大して話題も弾んでいなかった。
三日月の次にこの廃墟に足を踏み入れたのは、二人の大人の男性。足取りはしっかりしたもので、威風というようなものを漂わせているようだった。

「おー、三日月じゃン。帰って来てんなら道場にも顔見せろよなー?」
「ほう、闘鬼・三日月、本当に貴様も騎士に選ばれたのか。兄弟揃ってとは、何かしらの素養か因縁でもあったのか」

風神・東雲半月(イヌの騎士)と、百裂脚の南雲宗一郎(ウマの騎士)だ。
彼らは両手に花見のための酒や肴を持っている。
その後ろには、従者のルドとダークが歩いている。圧倒的存在感を発するダンスに、三日月が気圧される。

「お、おおおおおおっ!? ウマ! ウマだ!! でっけーーー、怖えーーーっ!!!」

だがダンス=ダークの眼はつぶらで綺麗だ。
そして三日月、定番のリアクションを有り難う。
師匠の従者のザン=アマル(カジキマグロ)を見た時の反応が楽しみである。


◆◇◆


 ネズミの騎士の悪足掻き 10.結成、獣の騎士団!


◆◇◆


トカゲの騎士・雨宮夕日を除く十一人の騎士が集まった。
今はめいめいに自己紹介をしているが、その内、姫と一緒に雨宮も現れるだろう。
花見用の酒などは、廃グラウンドの隅に纏めておいてある。

その時、地面を影が横切る。

「ん?」
「お、来たか」

鳥か? 飛行機か? いや、天狗少女だ!!

獣の騎士団の仕えるべき君主、精霊(プリンセス)アニマと、その依代である朝日奈さみだれが、赤いマントをなびかせて、グラウンドを飛び越えて、廃ビルの屋上に着陸する。
同時に雨宮も、朝日奈さみだれに率いられる形で屋上に着陸する。
雨宮は、まだ空中で掌握領域を足場にする方法を体得しきれていないので、おそらく予め、姫に投げてもらい、その後空中で掌握領域を踏んで減速したのだろう。

「あれが、姫――」

ヘビの騎士・白道八宵が、姫を見て呆然と呟く。
まだ子供ではないか。
だが、直ぐに、彼女が纏う尋常ではないナニカに気づき、口を噤む。王者の貫禄、とでも言うのであろうか。確かにアレは姫と呼ぶに相応しい。

廃ビルの屋上に仁王立ちし、グラウンドを睥睨して、さみだれが口を開く。


「敵が怖いか?」


怖いに決まっている、と太朗は思う。

「恐れるな!! 敵の強大さに絶望した時に我々は死ぬ!!」

だが、それより怖いのは死ぬことだ。
地球が無くなることだ。
未来を、花子と一緒に歩めなくなることだ。

だから絶望を乗り越えて、希望のために敵と戦うことが出来るのだ。
愛ゆえにである。
日下部太朗は、愛の勇者であるッ! などと太朗は内心で自分を激励してみる。

「絶望するな!! 希望して明日の命にすがりつけ!!」

太朗は絶望していない。
今も、絶望(ビスケットハンマー)の隣に、希望(ブルース・ドライブ・モンスター)が見えている。見えるようになったのは、アニマの騎士として覚醒したからだろう。
カウンター兵器、ブルース・ドライブ・モンスター。アニマが長い時間をかけて造り上げた切り札だ。

「地球(ほし)のためでも、人類(ひと)のためでも、使命のためでもなく、ただ己を生かすためだけに戦え!! ただ友を生かすためだけに戦え!!」

そうだ、その為に太朗は、新しい能力『索敵海域・綿津神(ワダツミ)』を願った。

皆の役に立つように。
皆が生き残れるように。
自分が生き残れるように。

「運と才能を全力の努力で駆使し、今日を生き、明日をも生きる者――」

そうだ、全力で未来を――。

「それが我々、獣の騎士団だ!!」

戦友。
仲間。
今度こそ、最後の戦いまで、いやその後もずっと、皆と一緒に立っているのだ。

そう、今度こそ。



「我らの滅びを望む者を、噛み砕き、呑み下し、喰い滅ぼせ!!」



「応ッ!!!」



◆◇◆


『太朗の以前の記憶』よりも四ヶ月ばかり早くなった、桜散る中での結成式。
今ここには、十二人の騎士全てが揃っている。

イヌの騎士・東雲半月は、雨宮夕日を庇って『五ツ眼』に撲殺されること無く。
カジキマグロの騎士・秋谷稲近は、『六ツ眼』から昴と雪待を庇って死ぬこと無く。
――全員が揃っている。

まあ、当然である。
今はまだ戦いの序盤も序盤。
『一ツ眼』を倒して、『二ツ眼』もまだ登場していないような最序盤である。

「いやはや、これは凄いな。騎士全てが欠けること無くこのような序盤で揃うのは、滅多に無いことだ。太朗の掌握領域は素晴らしいな」
「まあ、火力は諦めてサポートに徹すると決めたからね。それにルドも、索敵や情報収集の大切さには同意してくれるだろう?」
「その通りだ。その分、敵を倒すのは半月に任せると良い」

結成式の後は、グラウンドの一角の瓦礫を、皆で掌握領域を重ねて薙ぎ払って、その上にブルーシートを広げている。
全員揃って初めての多重領域発動が、花見の場所取りと整地とは……、何でだろうと思うが、まあ、実践でぶっつけ本番で重ね合わせるよりはマシだろう。
そして今、太朗はイヌの従者・ルド=シュバリエ――ルド曰く『武士だ』とのことらしいが――と会話している。

「そうだぜ、俺に任せときな! 太朗くん」
「頼りにしてますよ、半月さん」

イヌの騎士・東雲半月と、ルド=シュバリエ。
騎士の中でも、扱う領域の力強さは随一で、単体で『泥人形』にダメージを与えられるほどである。
通常は『泥人形』を穿つには、最低でも騎士二人以上の領域を重ねあわせ、確実に撃破するなら三人以上の騎士が必要とされるのに、イヌの騎士は、願い事による強化も無しに単体で泥人形を圧倒し得る。

しかも今回の戦いでは、その騎士最強の掌握領域の使い手は、武道の天才であるあの東雲半月である。
風神とも言われ、合気系の古武道に熟達した彼は、ひょっとすれば掌握領域など無くとも生身で、『泥人形』に対抗できるかも知れない人材だ。
その無尽蔵の体力と、卓越した戦闘センス、熟練の武道の技、騎士最強強度を誇る掌握領域……間違いなく今揃っている十二人の騎士の中で最強である。

(いや、師匠ならひょっとすると、イイ勝負できるかも――?)

全てを知る者――仙人・秋谷稲近。
太朗たちの師匠であり、五百年の永き時を生きる超能力者。
今回の戦いでは、カジキマグロの騎士として参加している。

その師匠はと言うと、今、早速三日月から請われて戦っている所である。

「アンタが仙人か!! じゃ、早速勝負だッ!!」

とか言って結成式後、直ぐに突っかかっていったのだ。師匠も「やれやれ若い者は気が早くてイカンね……」と呟いて応じてしまった。
本当は皆の前で騎士同士、軽く自己紹介してから酒盛りにする予定だったのだが、なし崩しである。
今は、三日月と秋谷の戦いを肴にして飲んでいる状態だ。

「がんばれ師匠ーー!!」

昴や雪待は師匠を応援している。

「凄いね」
「やるな」
「やりますね……」
「凄いなー、二人共ー」

風巻や南雲、雨宮とさみだれは、興味深そうに二人の戦いを観戦している。
だがおそらく雨宮と姫は、騎士たちの戦力を測っているのだろう。
――いずれ敵対する日に備えて。

「なあ、太朗くんはどっちが勝つと思う?」
「そりゃ、師匠でしょー。半月さんはどっちだと思います?」
「ま、三日月の負けだな。あの爺さん、全然本気じゃねーもん」

師匠は三日月の攻撃を悉くいなしている。
太朗は詳しくは知らないが、秋谷が使っているのは、古今の武術を混ぜた独特の格闘術だ。中国武術が一番近いのかも知れないが、合気とか柔術的な何かもハイブリッドされているらしい。
カメの騎士の雪待は、その武術を師匠から習っているし、太朗も避け・受け・いなしを重点的に学んでいる。

ますます三日月の攻撃が苛烈になるが、そのどれ一つとして、秋谷には当たらない。
と、その時戦況が動く。

「お? 四方投げか?」

埒が開かなくなったのだろう。
そもそもこのままでは、懇親会の花見が始められない。
秋谷は年の功もあり、空気が読める男であるから、そろそろ終わりにしようと思ったのだろう。

繰り出した拳を取られて逸らされ、三日月の身体が浮く。
更に秋谷は力の向きを制御し、三日月を空中へと投げ飛ばす。

「うわっ!?」
「じゃあ、歯を食いしばり給え」
「何の、まだまだ――」

秋谷が空中へ投げ出される三日月に宣言する。
受身を取ろうとする三日月。

次の瞬間、秋谷が消えた。

「速っや……!?」

否。
消えたように見えただけである。前触れのない攻撃挙動、無拍子とも言えるだろう。
辛うじてそれを追えたのは、半月だけ。相対していた三日月も、秋谷の動きを捉えることは出来なかった。

ズン、と秋谷の震脚が腹の底に響くような地響きを奏でたかと思えば、既に三日月は吹き飛んでいた。

「空中に居る相手に、一瞬で追撃とか、何というロマン技……っ!!」
「空中コンボって実際に出来るもんなんですねー……初めて見たッス」

恐らくは秋谷なりのサービスのつもりなのだろう。
半月は眼をキラキラさせながら感動しているし、他の騎士たちも呆気に取られている。
そう、空中コンボである。格闘ゲーム内でしか不可能だと思っていたが、実際にやろうと思えば出来るものなのである――そんな馬鹿な。

「というか、発勁食らって吹っ飛んだ三日月さんは、大丈夫なんスかね……?」

軽く五メートルは吹き飛んでいる。
それだけで秋谷の一撃の威力が推し量れようというものだ。
その威力を推し量り、太朗は青くなる。

「ダイジョブダイジョブ、ちゃんと受け身とれてたし、爺さんも加減してたみたいだから」
「いやー、若い者は勢いがあるねー」
「あ、お疲れ様です師匠」

一仕事終えたという風情の秋谷を迎える。
視界の端では、三日月がムクリと起き上がり、途端に哄笑し始める。

「ひゃははははははっ! やー強え強え、身近な所にこんなに強え奴が居たとはね」

そして、その鋭い眼光を太朗に向ける。
太朗も心当たりがあるので、ギクリとする。
おそらく、師匠の存在を内緒にしていたことについてだろう。

「た~ろ~う~~? 何でこんなに強え人のこと、俺に黙ってたんだよぉーー?」
「……や、それはこうやって突っかかって行くのが眼に見えたからで……」
「なんだとー? 太朗のくせにナマイキだっ! キシャー!!」

とか言って飛び掛ってくる三日月。
だが――

「はいはいそこまで。それよりさっさと花見始めようぜ」
「あ、兄貴っ!?」

すぽーん、と割り込んだ半月によって、三日月は投げ飛ばされてしまう。

「ありがとうございます、半月さん」
「良ぃーって、良ぃーって。愚弟の面倒みるのは、兄貴の役目だからな」

その時、グラウンドの端で花見の準備をしていた白道と花子から声がかかる。

「みなさ~ん、準備できましたよ~」
「お花見、始めましょう」


◆◇◆


「おい太朗! 何か一発芸ヤレ!!」
「ウッス、三日月さん! 一番、太朗! 火を吹きますッ!!」
「いいぞー! やれー!!」

宴もたけなわ――というほど時間は経っていないのであるが、花見という空気につられてであろうか、皆テンションが上がっている。
桜の樹の下には、狂気が宿るのだ。

「バカバカしい……」
「ホッホウ、そう言うこともあるまい、太陽。親睦を深めて溶けこむことも大切じゃぞ?」

その輪から少し離れたところにいるのは、フクロウの騎士・茜太陽(あかね たいよう)である。
騎士としては最年少の十二歳。
未だ小学生である。

年頃と家庭環境故に、ひねくれて斜に構えた冷笑的態度が目立つ少年である。
トカゲの従者・ノイ=クレザントを始め、多くの者が、茜太陽と雨宮夕日を『なんか似てる気がする』と感じている。
……そして、世界を壊したいほど憎んでいるという意味で、二人は、まさしく同類である。

魔王の騎士・雨宮夕日と、神の騎士・茜太陽。
『前の戦い』において、フクロウの騎士・茜太陽は、破壊神である魔法使い・アニムスの側についた、神の騎士だった。
世界なんて滅べば良い――そう思っていた太陽が、アニムスに同調したのは自然なことだったのかも知れない。

太陽は夢の世界で、宇宙に浮かぶ天体破壊兵器・ビスケットハンマーの上に招かれ、そこでアニムスから『時空を掻き乱す能力』を分け与えられることになるのだ。
やがてその能力『混沌領域・時空乱流(パンドラ)』は、彼の幻獣の三騎士である神鳥(フレスベルグ)への昇格を機に、広範囲な時空巻き戻しによる回復能力へと発展を遂げる。
後期の戦闘を支える、貴重な回復能力者と成るのだ。

……というようなことを識っているのは、並行世界(?)からの記憶を引き継いだ日下部太朗と、彼と深い繋がりを持つことで洗い浚いをサイコメトリーを介して知った宙野花子だけである。

(そもそも、まだ魔法使い(アニムス)は土から顕現していない……。だから、茜くんも、まだアニムスから接触されては居ないはず……?)

そうなのだ。
この時空には、まだ、アニムスの先触れたる『泥人形』と『ビスケットハンマー』しか現れていない。
『前回の戦い』でアニムスが現れたのは、『七ツ眼』――アニムスは『門』役だと言っていた――を介してこちらに顕現して以降である……筈だ。

(そう上手く行くとは限らない、か?)

……まあ、本体が顕れずに『ビスケットハンマー』みたいな巨大なモノを作れるのか怪しいので、実際は既にアニムスの意識だけはこちらの時間軸に転移しているのかも知れない。
そうなると、既に茜太陽にも接触していて可笑しくない。
ビスケットハンマーを作るのには、『半年くらいかかる』とアニムスも言っていたことだし、実は既に意識と言うか魂はこっちに来ていても不思議ではない。

「まーまー、たーくんもそんなヒネてないでさ、オニーサンたちと一緒に楽しもーぜ―?」
「たーくんて、何ですか。馴れ馴れしい」
「太陽だから、たーくんだ! 馴れ馴れしくて結構! 戦友同士、仲良くしよう!!」
「それに折角の花見だ。『踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら――』とも言うしな。こういうものは楽しんだもの勝ちだよ、太陽くん」
「はあ……。(……というかカジキマグロが浮いてるのってシュールだな……)」

そんな太陽に、今は半月と秋谷が話しかけている。
ささくれた子供である太陽を、見るに耐えなかったのだろう。
『前の戦い』では、彼ら大人二人と、太陽が邂逅することはなかったが……、ひょっとすると、二人の大人の男の存在が、太陽の心を覆う孤独と絶望の氷を溶かしてくれるかも知れない。

「おーい、太朗、言われた通り、ウォッカ持ってきたぞー?」
「ありがとッス、三日月さん! じゃあ行くッスよ――?」

ウォッカも用意された酒の中にあったのだ。若年向けにオレンジジュースもあるため、それらを使ってカクテルでも作るつもりだったのだろうか? レディ・キラーと名高いスクリュー・ドライバーとか。
まあそれはさて置き、四十度もアルコール度数があれば、きっと火がつくだろう。
太朗は掌握領域を出し、ウォッカ瓶の蓋を器用に開けると、そのまま中からウォッカを掌握領域を使って引き摺り出す。

「掌握領域『荒神』ッ!!」

瞬間、ヘビのように上空に伸ばされた酒の帯が紅蓮に染まる。

「おおおっ!!」
「ほう、器用だな」
「まだまだ行くッスよー? 『荒神』、ザ・ファイヤーワークス!!」

太朗は掌握領域を使って、炎の塊を変形させる。
火は未だ消える様子がない。芯にアルコールの塊を残したまま、徐々に周囲を気化させることで、燃料が尽きるまでの時間を延ばしているのだ。
太朗の器用さがあってこそ出来る芸当である。

「じゃあ先ずはランスの形からー」
「おれっちからか。太朗、格好よく作ってくれよ?」

火の塊が、ネズミの形を取る。

「おお~、ネズミだー」
「ハハッ、上手いもんでショー?」
「裏声でその笑い声は止めとけ、太朗」
「じゃあ行くッスよー、次はー、シア。でもって、ノイー、ダンスー、ルド―、クー、ザンー、ロンー、リー、ムー、ロキー」

ぐにょぐにょと領域が変形するのに合わせて、炎の形が変わっていく。
次にヘビやトカゲなどなど、次々に従者たちの姿を再現していく。

「ねえ、太朗くん、キルは?」
「カマキリは、ちょっと造形が難しいからなー」
「頑張ってー」 「うむ、期待してるぞ、太朗」

花子とキルが太朗のファイヤーワークスに期待している。
もう芯になったアルコールの残量も少ない。

「じゃあ、最後に一花ッ!」
「「おお~」」

炎が巨大なカマキリの形に変形し、そしてパッと散る。
騎士や従者たちが拍手する。

「スゲー、スゲー、太朗やるなあ!」
「ホウ、それが『一ツ眼』を足止めして吹き飛ばしたパイロキネシス能力か……。凄いものだ、まるで何ヶ月も練習したような――」
「ああ、羨ましいよ」

三日月が褒めて手を叩き、トカゲのノイが『一ツ眼』のダメージを思い出して納得する。
雨宮は褒めているようで、どこか仄暗い感じがする。
さみだれと主従の誓いをした直後であろうし、姫の助けとなれるような強大な力を渇望して止まないのであろう。

「いやいや、そんな練習したわけでもないッスよ、あっはっは~」
「ならば天才か?」
「天才なんて何処にも居ねーッスよ、ノイ。『荒神』(これ)だって、案外みんな、練習したら似たようなことが出来るようになると思うッスよ~。」

超能力は、望み、確信すれば応えるのだ。
力を望めば、きっと――。

「結構上手く出来てたよ、キルの炎人形。流石だね。じゃあ、次は私が、自己紹介も兼ねて、一発芸的なのを」
「おう、頼むぜー、花子。……って、自己紹介! 忘れてた!」

「ネズミの騎士、日下部太朗! 高校三年で、料理人志望。
 得意技は炎を操る掌握領域『荒神』と、広範囲の異能力探知特化領域『綿津神』。
 あと特異能力としてサイコメトリーっぽい力を持ってま~す! 今後とも宜しくぅッス!!」

「カマキリの騎士、宙野花子です。 太朗くんとは幼なじみで、同じ学校の高校三年です。
 太朗くんの探査能力と対になるように遠距離攻撃系の能力を『願い事』で願ったので、以後二人ペアで扱っていただけると幸いです。
 得意技は――今からお見せしようと思います」

太朗とバトンタッチして、花子が立ち上がる。

「花子ちゃんも何かできるの~?」
「ええ、ちょっとした手品みたいなもんですけど。白道さん、その紙コップ出して貰えます?」
「日本酒入ってるけどいいの~?」
「ええ、それが良いんです」

ヘビの騎士・白道八宵(はくどう やよい)が手に持った紙コップを花子に差し出す。
花子はそれを受け取り、掌握領域で覆う。

「じゃあ行きまーす。『掌握領域・ヨク冷えーる』」

同時に中の日本酒が凍りついてシャーベットの様になる。

「へぇ~、お酒のシャーベット~?」
「はい、白道さん、お返しします」
「ありがと~。じゃあ、早速食べてみるね~。……おいし~、新食感ね~」

美味しそうに日本酒のシャーベットを流し込む白道。
それを見て我も我もと、三日月も花子に日本酒の入ったコップを差し出す。
花子もそれを受け取って、シャーベットにしていく。

それを眺める太朗に、雨宮の肩に乗ったノイが話しかけてくる。

「騎士を――異能を探知する能力、発火能力、それにサイコメトリーと言ったか?
 日下部太朗、君は一体何者なのだ?」
「何者って――そりゃ、未来を求めるただのネズミの騎士ッスよ」
「未来……」

「俺は生き残りたいんスよ。
 生き残るためには、この戦いに勝たなきゃならねッス。
 なら、『願い事』をそれに使うのは、妥当だと思うッス」
「その結果が、『綿津神』か」
「そうッス、早く騎士同士で連携できた方が、死亡率下がるでしょうし。『荒神』はあるものの、俺一人の時狙われたら、ひとたまりもないッスからね」

他の騎士の助力が得られなければ、文字通り、太朗にとっては死活問題なのだ。

「確かに……」
「他の騎士との連携を前提とした能力なんスよ。『前の戦い』でも、そういったサポート特化型の騎士がいたんじゃ無いッスか?」
「『前の戦い』?」

聞きなれない単語に、雨宮が口を挟んでくる。
雨宮は、太朗を警戒しているようだ。
姫の覇道の邪魔になるかどうか、見極めているのだろう。

「ええ雨宮さん、魔法使いは、いきなりこの時空に現れた訳じゃないらしいッスよ。
 遥か未来から、地球を壊すという儀式を通じて時空を遡っているらしいッス」
「……なんだそりゃ。じゃあ、魔法使いって未来人なのか?」
「らしいッスよー、ランスによるとー」

本当は太朗の引継ぎ二週目の知識なのだが、彼は自分の相棒に責任を引っ被せることにした。
夕日は自身の相棒であるトカゲのノイに鋭い視線を向ける。

「おい、聞いてないぞ」
「わ、我輩もよく覚えておらんのだ……! 『前回』は、退場が早かったし、記憶もおぼろげになっておって……」
「ハッ、トカゲ頭め」
「何だと、この陰険メガネ!!」

グルル、と雨宮とノイがいがみ合う。
そんな様子を見て太朗が苦笑する。
彼ら主従が真の契約を結ぶのには、今しばしの時間が必要なようだ。

「まあまあ。しかし、雨宮さんがやる気になってくれて良かったッスよ。
 『一ツ眼』との戦いの時では、吃驚しましたもん」

『前の戦い』での『強い雨宮』しか印象に残ってない太朗にとって、いきなり戦闘を拒否した今回の戦いでの雨宮の姿は、衝撃的だった。
だがまあ、人に歴史あり。
あの後、姫と劇的な出会いをして、彼女に忠誠を誓った雨宮は、まるで人が変わってしまったかのようである。

「ああ~……、あの時は済まなかったね。それに、『一ツ眼』から庇ってくれてありがとう。態度の違いには驚くだろうけど……でも、ぼくももう決めたから。――姫のために戦うって。この生命も覚悟も全て、姫のために捧げるんだ」
「まさに騎士って感じッスねー。頼りにしてますよ、雨宮さん」
「ああ、よろしく頼むよ、太朗くん」

と、やっている間にも、他の騎士たちの自己紹介は続いている。

「南雲宗一郎、ウマの騎士。元刑事だが、今は無職だ。何時でも戦いに駆けつけられるから、『泥人形』に襲われた時は遠慮なく呼んでくれ」

タンクトップにトレンチコートの壮年の男、南雲宗一郎。必殺技は百裂脚。従者はウマのダンス=ダーク。

「白道八宵です~。ヘビの騎士で、この子はシア=ムーン、よろしくね~。剣術が得意で、それを利用できる掌握領域の使い方を考えているわ~」

剣術家の銀髪の女性、年の頃は二十歳くらいか。ナイスプロポーションである。秘密だが、趣味はコスプレ。従者はヘビのシア=ムーン。

「風巻豹、ネコの騎士で大学に務めてます。専攻は心理学。まあこの体型を見てもらえれば分かると思うけど、あんまり素早い動きは期待しないでね。その分、それを補う能力を考えているから」

穏やかそうな恰幅の良い三十台くらいの男性。『泥人形を生み出す能力』を願った、ある意味騎士団の最高戦力。従者はネコのクー=リッター。

「茜太陽、フクロウの騎士です。……よろしく」

最年少の騎士、小学六年生男子。彼が抱える心の闇はいかほどか。従者はフクロウのロキ=ヘリオス。

「東雲三日月だ! カラスの騎士で、こいつはムー。生粋の戦闘狂(あそびにん)な俺としては、騎士の中に何人も強い奴が居そうで、楽しみだぜ」

先ほど秋谷老人に派手に吹き飛ばされていた若い男。泥人形と戦うのも武者修業の一貫と捉えているかも知れない。従者はカラスのムー。

「星川昴、ニワトリの騎士です。中学生で、こっちユキと幼馴染です。太朗さんと花子さんとは、姉弟弟子の関係になります」
「月代雪待、カメの騎士です。昴ちゃん共々、よろしくお願いします。あ、姉弟弟子と言っても、私達の方が先に師匠に弟子入りしたんで、私達が姉弟子なんですよー」

二人で一つ。最強の盾と矛を持った兵士となる、女子中学生コンビ。超能力の才能は、騎士たちの中でも一番高い。従者はそれぞれ、ニワトリのリー=ソレイユと、カメのロン=ユエ。

「私は秋谷稲近……人呼んで師匠! 少しばかり長生きしている老人だ。元から多少の念動力と未来視が使える。昴と雪待、太朗と花子に色々教えているよ」

白髪にヒゲの老人、飄々とした雰囲気の男。五百年の業を背負った仙人。従者はカジキマグロのザン=アマル。

「そして俺が! イヌの騎士!! 俺の名はッ! 東雲 半月ッ!!」

そう言って、いつの間にか廃ビルの屋上に登っていた半月が、ムーンサルトしながら飛び降りる。
器用にも、先程雨宮が披露していた掌握領域による落下加速度の減速を用いてである。
呑み込みが早過ぎる。やはり天才か。

綺麗に決まった着地を見て、皆が、おお~とどよめき、拍手する。


◆◇◆


その後、日が暮れても酒宴は続いた。
迫る宵闇に従って下がる気温は、太朗の『荒神』の弱出力広域展開でカバーしたため問題なかった。

「人間暖房機とは、便利だなー、タロー」
「花子なら夏場は人間冷房機になりますよー、三日月さん」
「いや、太朗くん、能力発動させ続けるのって難しいから、大きな氷を作って置いとくくらいしか出来ないよ、私は」
「充分だと思うぜー」

酒もツマミも尽きて、いよいよ解散である。
連絡先も交換し、今後は『泥人形』が現れても迅速に連携できる筈だ。

「じゃあ皆、また今度ー」
「次は戦場かも知れないですけどね~」
「今度の休みとかに、連携の訓練とかしましょうよー」
「あ、私たち、むこうの運動公園でよく筋トレとか修行? とかしてますよ」

取り敢えず、戦力の底上げのために、週に何度か合同訓練をすることにして、解散する。
去り際、太朗は姫――朝日奈さみだれに声を掛けられた。

「なあなあ」
「ん? はい、なんスか?」
「次の敵見つけたらー、真っ先に私に連絡してぇなー。頼むわー」

その要望に、太朗は間髪置かずに応じる。

「ええ、モチロンっス。今ん所、姫が最高戦力ッスからね」
「ならば宜しい! 期待しとるで、ネズミの騎士。――あ、あとゆーくん……トカゲの騎士にも、優先で連絡入れたってなー」
「……まあ、姫のご要望と有らば」

やはりこの時間軸でも、雨宮夕日が鍵となるのだろう。
既に精霊・アニマは、過去この時空に顕現した時点(恐らくは八年前か?)に於いて、幼い雨宮夕日と接触済みなのだろう。

「ほな、よろしゅうなー」

姫はそう言って、手を振りながら、帰る方向が同じ雨宮と一緒に去っていく。
姫のプレッシャーから解き放たれて、太朗はホッと安堵の溜息をつく。

「たろくん」
「何? 花子?」
「――来年も、皆でお花見できる良いね」
「……そうだな。そのために、頑張ろう!」
「うん! 頑張ろう!」

そう言って、太朗と花子はお互いに手を握り合う。
出来ることならば、誰一人欠けることなく、来年もまた花見を――。


さて、この惑星を砕く物語の行く末やいかに?


=====================


というわけで、原作より早まった結成式。
雨宮は、既に魔王の騎士になってます。屋上から飛び降りる姫を抱きかかえて救うイベントはクリア済みです。
二ツ眼は当SSのこの時点では未登場。

次回は、今度こそ修行? いや、やっぱり二ツ眼とか四ツ眼との戦闘? 悩みますなー。
『願い事』で強化された花子の能力もお披露目したいし。

初投稿 2012.01.16


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