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No.30818の一覧
[0] 【習作】ソードアート・リトライン (SAOオリ主逆行)[ネクラ](2012/08/12 03:07)
[1] 02[ネクラ](2012/08/16 00:36)
[2] 03[ネクラ](2012/08/28 00:43)
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[30818] 02
Name: ネクラ◆fcdf9ac2 ID:b84af1ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/16 00:36
8/2 01の後半を大幅に変えました



02



 すっかりと日が暮れた頃、俺はようやく《ホルンカの村》に辿り着いた。
 随分と懐かしい。
 《森の秘薬》クエ以来立ち寄ってないから、だいたい二年ぶりぐらいになるか。
 相変わらず――という表現が俺の場合正しいのかは微妙だが――、さびれた村だ。
 


「とりあえずは寝床の確保かな」


 SAOでは宿屋の類も大量に存在し、アラブ宮殿のような高級ホテルから馬小屋もどきのほったて小屋まで資金次第でより取り見取りなわけだが、残念ながら民家と商店合わせて十数棟しかないこの村には、小さな宿屋は一件あるだけだ。


 俺は中央広場近くの小汚い宿屋の扉を蹴り開けて中に入る。
 外はボロだったが中はそれなりに掃除されている様子だ。
 笑顔で迎えるNPC店主を無視し、カウンター上の一覧を操作して一番値段の低い部屋をクリックする。
 ―――最大日数でも初期コルの半分か。
 貧相だが食事も出るみたいだしとりあえずの拠点としては十分だろう。

 最大日数でコルを振り込むと、アイテム欄に部屋のカギが追加される。
 「お部屋はこちらになります」と二階に上がっていくNPCを無視し俺は宿屋を後にした。





 宿屋を出た俺は、村の奥にある一軒の民家の前にやってきた。
 目的は第一層の最強剣《アニール・ブレード》が手に入る《森の秘薬》クエを受けるためだ。
 中に入ろうとドアノブに手を伸ばすと、中からどこか芝居がかった声が聞こえてきた。

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事をさし上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、いっぱいのお水くらいのもの」

 随分と古い記憶になるが、確かこれは《森の秘薬》を発生させるNPCが、クエ導入時に発する台詞のはずだ。
 まだ家の中に入っていない俺にNPCが反応するはずもなく、どうやら先に来てクエストを受けようとしているプレイヤーが中にいるようだ。
 まずまちがいなくβテスターだろう。

 ドアを開けて中を入ると、部屋の中には鍋をかき回しながら何かを作っている女性型NPCと、椅子に腰かけるプレイヤーらしき男が一人。
 こちらに背を向けていて顔はよく見えないが、後ろ姿から察っするにかなり若そうだ。
 まだこちらには気付いていない様子だ。

「……何かお困りですか?」

 邪魔するのも悪いし、とりあえず後ろで待たせてもらっていると、男がNPCに向かってそう問いかけた。
 これは幾つかある、NPCクエスト受諾フレーズの一つだ。
 いまごろ男の視界にはNPCの頭上に輝く《?》マークが映っていることだろう。

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 NPCの話す内容は「娘が病気に…」といった余計な設定を除いて要約すると――西の森に生息する《花付きのリトルペネント》がドロップする《胚珠》をとってきてくれれば、とっても強い武器をあげますよ――といった感じだ。

 俺は、クエを受けるためにこの無駄に長い台詞をもう一度聞かなければならないという事実にうんざりしながら、男が立ち去るのを待つ。
 NPCが口を閉じたんだから、もうクエの受注は済み、次は西の森に向かおうとするはずなのだが。
 しかし男はいつまでたっても椅子から立ち上がろうとしない。

 終わったならさっさと出て行ってほしい。
 なにせこのクエは受注プレイヤーが一度家を出ないと、再発生しないのだから。
 

「……たとえ……命……奪うことに…………絶対…生きて……………」

 なんかうつむきながらブツブツと独り言を言ってやがる。
 非常に危ない感じだが、SAO末期にはこういうのが割とごろごろいたのでさほど珍しくはない。

「………覚悟…後悔は………よし、行こう」
「お気をつけてッス」
「うおわあああっ!?」

 ようやく出て行きそうな感じだったんで後ろから声をかけると、男は悲鳴を上げながら面白い感じで椅子から転がり落ちた。

「……大丈夫っスか?」
「あ……、う、うん……」

 尻もちをついて目を白黒させている男を正面から改めて見たが、年のころは俺とだいたい同じぐらいだろうか。まだ少年と言っていいぐらいだ。
 背が高い割に身体の線は細く、どこか生真面目そうな印象を受ける。
 装備はスモールソードと丸盾か。俺と同じオーソドックスな盾剣士タイプだな。

「《森の秘薬》クエ受けたんスよね? 自分も受けたいんで受注終わったなら代わってもらえるとありがたいんスけど」

「……あ、あぁそっか。……ごめんね。今出ていくよ」

 こちらの言いたいことが伝わると、少年は慌ただしく扉の外へと出て行った。

「こんばんは、旅の剣士さん……」

 うぜぇ










「や、やぁ。お疲れさま」

 視界左に表示されたクエストログのタスクが更新され《森の秘薬》を確かに受注したのを確認しつつ民家を出ると、ほどなく誰かに声を掛けられた。
 視線を向けるとそこにいたのはさきほどの少年だ。
 
「どうもッス」

 俺が軽く返すと、少年はぎこちない笑みを浮かべながらぺこりと頭を下げた。

「……さっきはごめん。なんかずいぶんと待たせちゃったみたいで」
「あぁ、別にいいっスよ。あれぐらい気にしてないっス」

 わざわざそれを言うために、いままで待っていたんだろうか。
 だとしたら相当のお人よし、もしくは間抜けだろう。

「……その、随分と速いんだね。誰かがこの村まで来るのは、あと二、三時間後だと思ってたんだけど」
「それを言うならお互い様っス。というか先に来てたのはそっちじゃないッスか」
「あ、あはは。それもそうか」
「そうっスよ。ははは……」

 とりあえず様子見は終わっただろ、そろそろ本題に入ってほしいんだが。

「………あのさ、君も《森の秘薬》を受けたんだろ? どうかな、せっかくだからこのクエ、協力してやらない?」
「やらないッス」

 少年が目がキョトンとなった。

「……えっと、《花つき》はノーマルを狩れば狩るほど出現率が上がるだろ。二人で乱獲したほうが効率いいと思うんだ」

 確かにコイツの言うとおり、俺が今から狩ろうとしている《花つき》は《リトルネペント》の亜種であるレアモンスター。
 POPさせるには、今西の森を徘徊しているであろう《ノーマル》を倒して、MOBの入れ替えをしなければならない。
 発生率1パーセント以下の花付きを出すには、それなりの数を狩らなくてはいけないが、リトルネペントは《アクティブモンスター》なので、複数固まっているとそいつらをまとめて相手しなくてはならなくなる。
 なので、二匹までなら確実に対処できるよう、こいつと共に行動するというのは効率の面では正解だ。

 問題なのはコイツのことを、俺がまったく知らないということだ。

 情報のない初顔プレイヤーといきなりのコンビ狩り――はっきり言ってゾッとする。
 SAOにおいてこれはかなり上位にくる危険な行為だ。
 相手のプレイヤースキル次第で足を引っ張られることもあるし、アイテムの分配トラブルから持ち逃げ行為、極論いきなり後ろからバッサリ……という可能性もある。

 75層までの攻略知識のある俺にとって、今もっとも警戒すべきは凶悪なモンスターでも致死性のトラップでもなく、人の《悪意》であると考えている。
 装備やスキルがそろっている状態ならともかく、今は多少のメリットのために余計なリスクを負うべきではない。

「自分ソロの方が気楽なもんで」
「……別にパーティーは組まなくていいよ。こっちから声をかけたんだし、最初にドロップした《胚珠》は君に譲る」
「自分でドロップさせるんでいらないっス」
「……確立ブーストがかかったまま狩り続ければ、きっとすぐに二匹目も出るだろうから、そこまで付き合ってもらえれば……」
「付き合わないっス」
「だったら……」
「そろそろ行ってもいいッスか?自分急いでるもんで」
「……そ、そっか。残念だよ」

 かなりしつこく食い下がってきたが、ようやくあきらめたようだ。
 あまり無駄な時間を取らせないでほしい。

「それじゃ自分道具屋寄りたいんで、失礼するっス」
「あ、うん。僕はもう準備がすんでるから、先に森に向かうことにするよ。お互いがんばろうね。――――――それから僕の名前は《コペル》。君は?」
「《エギル》っス」

 思いっきり偽名を名乗っておく。
 レアアイテムを何の担保もなしにいきなり譲るといか言い出すやつに本当の名前を教えるわけがない。

 ―――《甘い話にはウラがある》―――これSAOの常識ね。










 30分後
 ホルンカの村西に位置する巨森。

 スキルスロットから《疾走》スキルを破棄し、代わりに《策敵》スキルをセットして森を散策する俺の視界に、小さくカラー・カーソルが表示された。
 カーソルの色は先ほどから狩り続けている植物モンスター《リトルネペント》の赤とは違う、緑が二つ。

(プレイヤーカラー、しかも二人か)

 この森で、いや圏外で初めて遭遇するプレイヤーだ。
 俺はすかさずスキルウインドウを呼び出して《策敵》を《隠蔽》に入れ替え、ハイディングスキルを発動させながら近くの樹木に張り付いた。
 これでむこうから、こちらのカーソルは見えないはずだ。

 所詮熟練度0のハイディングなので、相手の持つ策敵スキルが少しでも高いと簡単に看破されてしまうのだが、まだゲームが始まって間もないので問題ないだろう。
 
 視界下部で上下するハイド・レートに気を使いながら、暗い森の中俺はじっくりと目を凝らす。
 策敵スキルの恩恵がなくなったので、少々視認距離が短くなったが、ぎりぎりプレイヤーの姿ぐらいは判別できそうだ。
 
 暗い森の中、木々の向こうに見えるのは、先ほどの少年コペル。
 様子を見るに、どうやらうまいことペア狩りのパートナーを見つけることができたようだ。
 そしてもう一人、コペルの相方はというと、

(……《二刀流》かよ)

 《黒の剣士》、《元祖ビーター》、《最強バカ》など様々な呼び名はあるが一番有名なのがこれだろう。
 今は黒くも二刀でもないが、わずか二人しかいなかった《ユニークスキル》の保持者だ。直接話したことはなくても、顔ぐらいは記憶している。
 まさかこんなところでお目にかかるとは、コペルも随分すごいのを引き当てたもんだ。

 二人はかなりのペースでモンスターを狩り続けている。
 おそらく二刀流の方も《森の秘薬》クエをうけ、さきほどコペルが俺に提案した「乱獲による花付きネペントの出現率上昇」を実行しているのだろう。

 ならばと、俺は二人の進行方向を確認し、見つからないよう遠回りしながらその先へと回り込む。
 スキルスロットを《策敵》に戻すと同時に、森の中に幾つかレッドカーソルが浮かび上がった。
 その中で一番近くのカーソルを選び、モンスターの反応圏に入らないように慎重に近づき、離れた場所から姿のみを確認する。

「……ハズレ」

 食虫植物ウツボカズラを巨大化させたような外見に、左右に着いた二本の長いツタをもつモンスター。
 残念ながら《ノーマル》のリトルネペントで花つきではない。
 これまでなら花つきをPOPさせるために、ノーマルでも狩ってはいたんだが、それだとどうしても時間がかかってしまう。
 なので、リポップ作業は完全にあいつらに任せてしまい、俺はその進行方向で花つきの策敵のみに専念すれば、《胚珠》をゲットするという意味ではもっとも効率がいいはずだ。
 俺は今後の方針をそう決めると、モンスターからそっと離れ、次のレッド・カーソルへ向かって走り出した。













「うっし、二つ目ゲット」

 毒々しい、チューリップに似た巨大な花を頭上に付けたネペント光の粒子となって爆散し、俺は地面に転がり落ちたほのかに光る拳大の玉《リトルネペントの胚珠》を拾い上げる。

 あれから二時間ほどたっただろうか。
 前回は一週間かけても手に入れることができなかったというのに、もう二つ目の胚珠を手に入れてしまった。

(情報があるなしでここまで効率が違ってくるとは……ビーターの野郎どもはいつもこんな美味しい思いしてやがったのか……)

 俺は一時間前に既に《森の秘薬》クエを終わらせており、装備をアニール・ブレードにグレードアップさせている。
 では、なぜまだ花つきネペントを狩っているのかというと、単純に金のためだ。


 以前のSAOでは、アニール・ブレードの相場は最高時で一万代後半近くまで跳ね上がった。それの交換品である《リトルネペントの胚珠》も当然同等の値段が付いてくる。

 高性能とはいえ、所詮《序盤の装備》であるはずのこの剣がそこまで高騰したのは、稀少性もさることながら、第一層の攻略に非常に時間がかかり、それ以上の武器が手に入らなかったことが大きいだろう。
 第三層ぐらいに行けば、この剣を超える性能の武器はそう珍しくはないので、本来のプレイならプレイヤーは先を想定して買いを控え、相場はもっと下になるはずだったのだが、まさか第一層攻略に一カ月近くもかかるとは……。
 
(……にしても二時間ちょいで実質三万コルの稼ぎとか、この階層では破格すぎるな)

 価値が上がるまで多少間を置かなければならないのが難点だが、転がり込むコルの量を考えるとこれぐらいのことは霞んで消える。
 まさにウハウハだ。

 それもこれもコペルと二刀流の殲滅力のおかげだろう。
 本来なら二人はこの時点で《胚珠》を二つ手に入れることができたわけだが、俺が先回りして狩り続けているため一つも手に入れることができないでいる。
 この調子でまだまだ頑張ってほしいところだ―――主に俺のために。

 二人の進行方向に変更がないか再度確認するため、何度目かの様子見にうかがうと、二人は狩りをする手を止め、なにやら難しい顔で話し合っていた。
 残念ながら、ここからでは何を話しているのかまでは聞き取ることができない。

 俺はさらに距離を取り、二人が策敵可能と思われる範囲から出たことを確認し、スキルスロットを《隠蔽》を《聞き耳》に入れ替え、意識を聴覚に集中させる。
 わずかばかりのスキル補正を受け、可聴距離が増加した俺の耳に、先ほどまでは聞き取れなかった二人の話し声が聞こえてきた。

「……出ない――」
「もし―――らβの――出現率が変わって――かもな……。レアの――レートとかが、正式サービ―で――修正さ―――は他のMM―――聞いた話―――……」

 当然《聞き耳》スキルの熟練度は0なのでかなり聞きとりずらいが、どうやら花付きがなかなかPOPしないことを不審に思っている様子だ。
 まぁ、さすがに気付くか。こりゃもうチョイ距離を取った方がいいかもしれないな。
 
「……あり得―――。どうする? ―――も随分上がった――、-―だいぶ消耗―――、一度村に……」

 コペルがおそらくは、一度村に戻ろうかと提案した……ちょうどその時だった。
 俺から三十メートルほど離れたところ、あの二人から見ればちょうど目の前の空間にほのかな赤い光が生まれたのは。
 これまで何度も見てきた光景、モンスターのPOPエフェクトだ。そしてそこから出現したのは……、

(うげ…花付きかよ)

 なんとついていないことに、二人の前に出現したのは毒々しい赤い巨花を付けた、レアモンスター《花つきのリトルネペント》だった。
 今まで、うまいこと先回りしてかっさらってきたが、さすがに目の前にPOPされるとどうしようもない。
 大変口惜しいが、ここは素直に譲ってやるとしよう。


 俺の見守る中、嬉々として花付きに飛びかかろうとした二人だったが、二刀流が突然コペルに待ったをかける。
 どうしたのか二刀流の指さす方向に目を向けると……なるほど、そこには《花つき》陰に隠れるようにして《実つき》がいた。

 リトルネペントは、何の特徴もない《ノーマル》と、巨大な赤い花を付けてレアアイテムをドロップする《花つき》の二種類に加えて、花の代わりに大きな実を付けた三種類目、通称《実つき》が存在する。
 この《実つき》のぶらさげた実は、一度でも攻撃がヒットしてしまうと、臭いにおいをまき散らしながら破裂し、エリア一帯のネペントを全て引き寄せてしまうという非常に危険な性質を持っていてる。
 当然狩るには細心の注意が必要だ。
 βテスターである二人は当然そのことを知っていて攻撃することに躊躇しているんだろう。

「……どうする……」

 若干距離が縮まったせいか、二刀流の声がさっきにくらべてクリアに聞こえてきた。

「――行こう。僕が《実つき》のタゲを――から、―――が速攻で《実つ――を倒して――」

 打ち合わせらしきものが終わると同時にコペルが駆けだし、それに二刀流が続く。
 コペルが《実つき》で、二刀流が《花つき》の分担らしい。
 二刀流はさすがに手際で《花つき》にダメージを与えていき、三十秒とかからずにモンスターをポリゴン片に変えてしまった。

「悪い。待たせた!」

 ドロップした胚珠をポーチに押し込みながら、コペルに駆け寄る二刀流。
 これでコペルに援護が入って万事めでたしめでたしか。

 なんとなく、ここまで観戦してしまったが、そろそろ俺はお暇することにすしよう。
 そう思ってその場を離れようとした時だった。

「ごめん、―――」
「いや……だめだろ、それ……」

 パアァァン!

 と凄まじいボリュームの破裂音が森を揺らし、同時にツンとする嫌な匂いがこちらにまで漂ってきた。
 何をとち狂ったのか、コペルのアホが突然リトルネペントの《実》にソードスキルを叩きこんだのだ。

 俺は反射的にスキルウインドウを呼び出し、これまでにないスピードでスキルスロットを《聞き耳》スキルから《疾走》スキルに入れ替える。
 今頃、このエリアを徘徊している何十匹というリトルネペントが、この場所に向かって残らず集まろうとしているはずだ。
 完全に囲まれてしまえば、今の俺のスペックでは命はない。

 とにかくこの場から少しでも早く、少しでも遠くに離れるべきだ。
 この場に残って三人で迎撃という案も思い浮かんだが、コペルの存在が即座に却下を出す。

 まだ密度が薄い内に、俺がさっきまでいた方向に向かって最大速度で駆け抜け突破する。
 さきほど何匹か狩っていたので多少は数が減っているはずだ。
 それでも途中で複数にタゲられるだろうが、アニール・ブレードの攻撃力があれば、四、五匹までなら同時に相手しても対処しきる自信はある。
 後ろからのモンスターは全て二人に任せて、俺はこの日最速の一歩を踏み出した。














「たくコペルのクソが、とんでもないことしやがって……」

 予想に反して八匹までひっついてきたネペントをようやく始末し終え、俺は先ほどのコペルの行動を思いっきり吐き捨てる。
 アニール・ブレードの攻撃力のおかげで思ったほど苦しい戦闘にはならなかったが、スモールソードのままだとかなり危なかったかもしれない。
 やはり、警戒すべきは人間だ。俺はそのことを改めて実感する。

(そういや、あの二人はどうなったか)
 
 たぶん死んでるだろうが、一応様子ぐらいは見に行ってやろう。うまくすればさきほど二刀流がドロップしていた胚珠が手に入るかもしれない……そう思った時だ。
 まぎれもない恐怖の声が聞こえてきたのは。

「……いやああああ!!」

 反射的に声の方へと視線を向けると、木々の間からこちらに向かって走る少し幼さの残る女性プレイヤーと、それを追い回す三匹のリトルネペントの姿が見えた。
 どうやらさきほどの騒動にまきこまれたらしく、あの少女は三匹同時にネペントのタゲを取ってしまったらしい。
 リトルネペントに限らずこの辺のモンスターなら一匹ならさほど脅威ではないが、複数同時となると途端に難易度は跳ね上がってくる。
 少女は必死に走ってはいるが、この森のような複雑な地形で、俊敏力の高いリトルネペントから逃げ切ることはまず不可能だろう。
 今も後ろからツタによる切り払いを背中に受けて、吹き飛ばされたところだ。

「やだぁ! 死に、死にたくないよっ!!」

 今この森にいることから、あの子もスタートダッシュを選んだβテスターなんだろうが、今は倒れたまま頭を抱え完全にパニックになっている。
 このままではまず間違いなくやられてしまうので、俺は助けに入るため再度《疾走》スキルを発動させた。

「あ! た、たすけてくださいっ!」

 駆けよってくるこちらの存在に気付き、おびえていた少女の顔に小さな希望の光が宿った。

 はいはい、言われずとも助けますって。
 SAOで同じ狩り場での他プレイヤーはリソースを奪い合うライバルであり、通常であれば目障りな存在だ。だがこういった命にかかわる状況に陥った時は別であり、助け合うのがかつてのSAOでの暗黙の了解である。
 危なくなったら助けてやるから自分がピンチになった時も助けてほしい。
 こういった持ちつ持たれつの精神がプレイヤー全体の生存率を上げているのだ。

 俺は数メートルあった距離を一気に駆け抜けると、倒れたまま起き上がれないでいる少女に襲い掛かかろうとしていた三匹のモンスターを順番に片付けにかかる。
 だいぶ頑張ったのだろう、リトルネペントのHPは三匹ともイエローに突入している。
 弱点に当てずとも、この剣の攻撃力なら一撃で削りきれそうだ。

 俺はまず腐食液噴射のモーションに入ろうと動きを止めていた一匹目に《スラント》を叩きこみ、返す刀でそばにいたもう一匹を単発水平斬撃技《ホリゾンタル》で切り捨てる。
 立て続けに、二匹のモンスターがポリゴン片となって四散した。

 そして最後の一匹を片付けようと、現在習得済みの最後のソードスキルを発動させるため剣を高く振りあげる。
 上部に堅い捕食器をもつリトルネペントに、縦切りはあまり有効ではないのだが、他のソードスキルはクールタイム中なので他に選択肢がない。
 もっともアニール・ブレードの攻撃力なら十分ごり押しできるだろうが。

 残念ながらこの三匹目のネペントは二匹を片付けている間に、既に攻撃モーションに入ってしまっている。
 俺のソードスキルが届く前に少女にあと一撃入ってしまうが、それぐらいは勘弁してもらいたい。
 少女のHPバーはすでレッドに突入していたが、あと一撃ぐらいなら余裕で耐えられるはずだ。
 それを少女も察したのだろう。「助かった」と顔に安堵の色が浮かぶ。

 その瞬間だった、
 リトルネペントのツタによる切り払いが、少女の首筋にヒットしたのは……

「――へ?」

 これまでにない強烈なダメージエフェクトが暗い森の中に響きわたる。

 
 ―――クリティカルだ。


 残り三割を切っていた少女のHPバーが急激に右端へとスライドしていくのを視界の端に収めながら、俺は剣を振り下ろし、単発垂直切り《バーチカル》でネペントを真っ二つに切り裂く。

 そして最後のモンスターが消滅した時、少女の横にHPバーは存在しなかった。

「あ~、なんというか……どんまい」
「え? あ、はい……」

 惚けた顔でうなずいた直後、少女の身体はガラスが砕け散るような効果音と共に無数のポリゴン片となって爆散した。













「―――初期装備か。しけてんな」

 俺はさっきまで少女が座り込んでいた場所に転がっている短剣とポーションを拾いあげ、アイテム欄に放り込んでいく。
 SAOではプレイヤーのHPがゼロになった場合、アバターの消滅と同時に両手の装備とベルトポーチに入れてあるアイテムがその場にドロップされる仕様だ。
 このままほっといても耐久値が減って消滅するだけだし、売って金に換えた方があの子もなんぼか浮かばれるってもんだろう。

 ……それにしても残念だ、女性プレイヤー、しかもけっこうな美少女はある意味、花つきリトルネペントよりレアだというのに。

 ま、すんだことはしかたない。気を取り直して狩りの続きでもするか。
 目標は今日中に胚珠あと二つだ。



 この後、ほどなくして《胚珠》とスモールソード、丸盾を拾ったことを追記しておく。











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アニメ化いい感じですね。
毎週楽しみにしています。
アニメ見た後だとテンションがあがってなんか進みがいいんですよね。
ただ設定が文庫と微妙に違うとこあるんで書くときどっちを優先するか非常に迷ったり……


感想御意見あればぜひともよろしくお願いしまっす。


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