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No.30400の一覧
[0] 【チラ裏】Knights of the Round Table【Fate/ZERO】[ブシドー](2011/12/04 18:57)
[1] かくして、円卓は現世に蘇る[ブシドー](2011/11/06 22:52)
[2] 開幕舞台裏[ブシドー](2011/11/10 01:16)
[3] 王と騎士(上)[ブシドー](2011/11/12 23:28)
[4] 王と騎士(下)[ブシドー](2011/11/19 22:30)
[5] 【閑話】苦悩と敵対[ブシドー](2011/12/04 16:51)
[6] 桜の大冒険[ブシドー](2011/12/19 22:50)
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[30400] 開幕舞台裏
Name: ブシドー◆e0a2501e ID:10f8d4d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/10 01:16


ウェイバー・ベルベットは息を呑む。
魔力の喪失と共に身を襲う疲労もあったためにぐらついた体は重力に従って地面に落ちる。
見上げる先には最高峰のゴーストライナーであろう蓬髪の騎士。降霊科に属する学生であったウェイバーでなくとも、その凄まじさは一瞬で感じられる。
それは遥かな高みに自身を昇華した存在だ。
英霊と謳われるに十分な逸話と伝説を誇る、文字通り格の違うもの。
無意識に、ウェイバーは自身の手の甲に浮かび上がった三画の令呪を撫でた。
この令呪という存在こそが、この戦争で生き残るための最後の切り札だと再認識することになった。

「サーヴァント、ライダー。召喚に応じここに馳せ参じた」

そう、自身の内面世界での思考に陥っていたとき、それを引き上げるように声が響く。
低く広く響き渡るような落ち着いた声は目の前に立つサーヴァントのものだ。ウェイバーは体に鞭打ち、立ち上がった。
それがこの場では正しいと感じていた。

「問おう、少年。君が私を呼んだマスターか」
「そ、そうだ!僕が君を召喚したマスターであるウェイバー・ベルベットだ!」
「了解した、ウェイバー・ベルベット……ウェイバーと呼んでも?」

ライダーの言い方にウェイバーは特に不満はなかった。
ただマスター(主人)と呼ばれないのが魔術師としての自分に不満があったが、それよりも名を呼んでくれた方がウェイバーにとって気が楽だ。
ウェイバーは服についた土を払い、見上げるようにして自身のサーヴァントへとマスターとして問いかけた。

「僕のことは好きに呼んでくれて構わない……ライダー、君に尋ねたいことが僕はある」
「む?」
「僕がお前を召喚する際に用いた聖遺物だ……見覚えはあるか?」

ウェイバーがネックレスを差し出すとライダーはそれをしばし見つめ、合点がいったのか手を打つ。
その反応だけで、ウェイバーにはそれが本物であるということが理解できた。
これで一つ、目的は達した。それと同時に、目の前に立つ蓬髪の騎士の真名にもたどり着いていた。

「じゃあお前が、あのユーウェイン卿なのか……」

ユーウェイン。
ドラゴンと戦っていた獅子を手助けし、それを恩義に感じた獅子は片時も離れず、ユーウェインも離すことなく共に旅した流浪の主従。
三百の剣と三百の烏、そして姿隠しの指輪を自在に操ったとされ、知名度は低いながらもその実力は円卓でも上位に座する。
それに加え、逸話は多く存在した。
竜殺し、巨人殺し、悪魔殺し―――神話の世に名を残すには十分である武功の数々はアーサー王をして賞賛せしめたという。
ただ、厄介なところは彼は妻に弱いということだった。
もし英霊として喚び出されでもしたらウェイバーは即座に終わりだろう。まぁ、それは先ずありえないはずなのだが。
それらの話を知るウェイバーには、これほどのサーヴァントが自身に召喚できたことを驚いた。
そんなウェイバーを困ったように見るユーウェインは、口ひげを撫でながら答えた。

「然り。我が名はユーウェイン、獅子を連れた騎士としてブリテンを巡った流浪の身である」

ライダーの肯定の言葉にウェイバーは震える。
こうして実感することで分かる、聖杯の起こしうる奇跡はそれは巨大なものだ。
これでもまだ聖杯の力の一端、というかは通過点に過ぎないのだから驚きである。
そう、聖杯を思っていた時、思い出す。先ずこの騎士の願いを訊ねなければならないと前もって決めていた。
こんな騎士が何かの破滅や破壊を望むことなぞ無いだろうが、共に戦う以上は気になる。
ウェイバーの問いに、ユーウェインは少し遠くを見るようにして黙り、口を開いた。

「……私は、とある老人の名が知りたい。それだけが聖杯に望むことだ」
「たった、それだけ?」
「それだけ、とは酷いなウェイバー。その老人が居なければ私はただの狂戦士として召喚されていただろう、それも暴力を撒き散らす災厄としてな」
「っ!……ごめん」

ウェイバーが思わず洩らした言葉に、ライダーはむっと顔を歪めて語気を強める。
それを感じたウェイバーは直ぐに謝罪した。
ライダーも、それで多少は落ち着いたのかぽつりぽつりと語り出した。


「私は愛した人と一つの約束をした」
―――ユーウェイン、一年です。一年以内に戻ってきて下さい。それが私と貴方の約束事です。
―――ああ、分かっているとも愛しきレディ。騎士として、約束を守ろう。


「だが、私はそれを裏切り、彼女に拒絶された」
―――レディを欺き、約束を破った詐欺師め!貴様が名誉を求め、それに酔う間、寂しさに身を震わせた者が居たことを知るまい!
―――ユーウェイン!私がローディーヌ殿へ弁護する!共に行こう!
―――ガウェイン卿、今は駄目だ。話しかけても彼を傷つけるだけになる。


「私は王宮より消え、狂った。獣のように生肉を貪り、日々を無為に過ごして行く……その中で、かの老人と出会った」
―――お主がなぜそう狂っておるかは私には分からん。だが、人としての食事を提供することは出来よう。
―――……。


「その老人は決して裕福などではない。だが、それであっても気の狂った私に食事を与えてくれた!ああ、今も忘れてはない。固く、藁が混ざったような麦で作られたパンであっても、美味かった…」
―――人として生きなさい。こんな森で世を捨てただ無意味に生きるワシであっても、人として生活しておるのだ。若いお前にはまだ未来がある。
―――……。


「―――私はその老人の名を聞くことも、恩も返すことも終ぞ敵わなかった。アーサー王が死に、ブリテンは割れたのでな」

これが、私の望みだ。
そこまで話し、ライダーは沈黙する。
瞳を伏しているからして、過去の記憶に思いを馳せているのであろうか。
ウェイバーにそれがどうか分からないことであったが、ライダーにとって重要であるというのは嫌でも理解できた。
恩義に報いるのは騎士として重要な、騎士を騎士であることの出来る要因だ。
後年、ライダー…ユーウェインは様々な武功を立てた。
その際に恩を受けた多くの者が恩を返そうとしたがそれを受け取らなかった。
それは騎士として、困った者を捨ててはおけないという考えもあるのだろう。
だが、ただ助けるために戦ったのは、それこそ自身を救った名の知らぬ老人に恩を返せていないという思いがあったからなのでは無いだろうか?
少なくとも、そう捉えてもいいとウェイバーは感じていた。

「ライダー、お前……」

ウェイバーは、自身が至れないであろう考えに絶句する。
この男は、ライダーは、真に騎士であるのだ。
ウェイバー・ベルベットが幼い頃に夢見た存在がこれほどまでに高潔な人物を誇らしいと感じた。
いや、こういった英雄だからこそ今の世も人々は伝承を伝えていっているのだろう。

「お前、やっぱり英雄なんだな」

思わず、何の装飾もない素の言葉がウェイバーの口から出ていた。
それにライダーは少し目を見開き、次には笑う。

「英雄など、本人の知らない場所でいつの間にかそう呼ばれるものだ」

なるほど、とウェイバーは思った。
英雄とは多くの衆人から望まれ、そう呼ばれるからこそ英雄なのだろう。
功名心のみで自ら英雄を名乗るようでは資格は存在しないというわけだ。
考えてもいれば当然だなと思うことも、本物の英雄から聞かされれば実に説得力があった。
そう考えているとライダーは「さて」と言って地面へ座り込む。そうしてウェイバーを招き寄せるように手を振った。
ウェイバーもそれに従い、ライダーの目の前に座り込んだ。

「ウェイバーこちらの望みは言った。それと同じ質問を返させてもらおう……君は、何のために聖杯を望む?」

腹を割って話そう、という訳か。
ウェイバーはそう存外に言っているライダーに対し姿勢を少し落とし、口を開いた。

「正直言うと、無いんだ」
「……は?」
「いやさ、僕は別に聖杯に望むってほどの望みが無いんだって」

呆けた顔をするライダー。ウェイバーの魔術師らしからぬ返答に驚いたのだろう。
何しろ「聖杯」だ。その単語が持つ意味は魔術師であれば分かるだろう。
それこそ奇跡の塊であり、特級の神秘が具現化したもの。それを用いれば魔術師の目指す根源をも知ることが出来るであろう。
それを別にいらないとは、ライダーが逆に疑ってしまうのも無理はなかった。
ウェイバーは言った。

「僕にとって聖杯なんて邪魔にしかならないんだ。僕は僕の力で実力を証明する……そのためにこの戦争に参加したんだからな!」
「つまりは名誉を求めている、というわけでは無さそうだな……」
「ライダーに分かりやすく言ってしまうと、この戦争にある奴が参加してる。そいつは僕にとってケイ卿みたいなもんで、その鼻を折ってやりたいってところかな」

ケイ卿、と聞いたライダーの顔が面白そうに歪む。
伝承が正しければ、ライダーは自身の陰口を叩いていたケイ卿を思いっきりぶっ飛ばしてアーサー王の前に参上したという。
その時の爽快感を思い返したのか、大きく笑いながらウェイバーの肩を叩いた。
華奢なウェイバーにとって地味に鎧の手甲は痛い。

「あのケイのような奴をぶっ飛ばしたいか!そいつは実に毒壷のような者なのだろうな!面白い、そういう理由だったら是非とも協力しよう!!」

そう、ライダーは笑う。ウェイバーも、思わず釣られて苦笑した。
かくして、ここに一組の主従とは言いがたい共同戦線が組まれることとなった。
後を続く訳でもなく、背中を追うでもない。
肩を並べた二人は、そのまま冬木の街へと消えていった。









間桐雁夜は喉の奥底から競り上がる嘔吐感から目を覚ました。
サーヴァントを召喚してから定期的に起こる魔力の喪失で体内の刻印蟲が暴走しているためだ。
もはや慣れたように部屋に備えられた洗面台に向かい、吐き出す。
ドス黒い血の池が視界を覆う。
そこには長く、針金のように光沢を持った無数の蟲が蠢いていた。

「……フン。もう、人間とは言えないだろうな…」

臓硯の言ったとおり、間桐の魔術師と成るために改造されたこの体は動く死体と言えるものだった。
そして今も自身をこうにした蟲に殺されそうになり、そして生かされてもいる。
奇妙な共生関係であるが、こちらの命を完全に握っているのは蟲なのが雁夜には笑えなかった。
だが、こうして自分が耐えることでまだ救えていた一つの希望がある。
桜……あの子さえ無事ならば、笑ってくれるのなら雁夜にはどのような苦痛も耐えることが出来る。
雁夜にとって、最後の希望だった。

「……“アーチャー”、出てきてくれ」

雁夜はアーチャー、と呼ぶ。
それと同時に自身のサーヴァント、バーサーカーが反応したかにラインを通じて感じたが、それはすぐに沈黙する。
それを見計らったように霊体化を解き、一人の男が雁夜の前に現れた。

「雁夜殿、大丈夫ですか……?」

霊体化を解いたアーチャーは線の細い、どこか悲しみを感じさせる陶芸品のような顔を歪ませている。
洗面台を見たのだろう。アーチャーは雁夜の体の現状を知っていた。
雁夜は小さく肯定するように答え、背中を壁に預けて床へと座り込む。ペットボトルに入った水を渡され、それを少しだけ口へと含んで飲み込む。
その間にもアーチャーは片膝をつき、雁夜の体を安定するように支えている。
雁夜は申し訳なさそうに力なく笑んだ。

「かのトリスタン卿に、ここまでさせてしまってすまないな……こういった気遣いは、バーサーカーには難しい」

トリスタン、とそう呼ばれた青年はバーサーカーという言葉にその名のとおり、悲しみの貌を強くする。
彼はアーチャーとして間桐 桜が召喚したサーヴァントだった。その名は日本でも知られている有名な円卓の騎士の一人だ。
聖遺物もなしにトリスタンという最高峰の英霊を桜が召喚できたのは、聖杯戦争のクラスにて唯一残ったのが弓兵のクラスであったということ。
そして聖遺物代わりにサーヴァントであるバーサーカーを触媒に召喚したからであった。
雁夜が召喚したバーサーカーの名は、ランスロット。
トリスタンにとっても親友であった、円卓の騎士最強の男。
アーチャーのクラスが残存した状況下、そしてランスロットが触媒として召喚されるのであれば、それは必然であった。

「雁夜殿の無事、これは我が主であるサクラの願い。私個人としても、あなたのようなお方の助けになれることを喜んでおります」
「俺のような、ね……俺はそう立派なもんじゃない」

アーチャーの言葉に雁夜は顔を歪める。
悪鬼と化したその顔ではもはや悪魔のようにも見えるであろうが、人間離れした顔の左半分は巨大な眼帯で覆われている。
顔色の悪さと白髪であること意外は最低限普通に見えると願いたい。
これは桜に苦痛の顔を見せたくないという雁夜の考えであり、余計な心配をさせたくはなかったからでもある。
「笑ってる顔だけはおじさん変わらないね」と泣きそうな顔で言われてしまえば、もうその顔をさせてしまう気は無かった。
アーチャーからすれば、様々な手段を講じて己のマスターである桜を守ろうと、悲しませないとする雁夜の姿は敬意に値していた。
この人間離れした姿と残った命も、桜の自由を実現するために力を得た代償と聞いた時には思わず涙が流れたほどだった。

『幼い姫を守るために己の全てを捧げて死ぬ』

これが物語(ロマン)の騎士と比較して何を劣るであろうか。
雁夜は剣を持たず、馬に乗らず、王に忠誠を誓ったわけでもない。だがこれとて、騎士の一つの形には違いなかった。
しかし、それを否定するように雁夜は言った。

「……俺は、復讐心で動いてるようなもんだ。時臣の野郎をぶん殴るためにな………桜は、そのために利用してるんだよ」
「……あなたは、やはりお優しい」

復讐心、というのがあるのは本当だ。
だがそれに掛ける比重よりも桜の無事の割合が何倍もあるだけで、雁夜の中には未だ暗い炎が燻ぶり続けている。
それを目の前の騎士は見抜いてるであろうに、雁夜を優しいと断じた。
思わずいぶかしむ雁夜にアーチャーは続けた。

「あなたは、サクラを悲しませることはしない」
「―――――……」

悲しみの騎士は優しい笑みを浮かべて断言する。
確証のない言葉だな、と即座に切ることは出来た。だが言葉が繋がらない。
何故だ、と雁夜は考える。
あの蟲蔵で己を蹂躙されたとき、桜をこんな目に合わせるかも知れなかった遠坂時臣に負の感情を抱いた。
それこそ時臣への憎しみを燃やし続けたことで間桐の試練に耐え、今まで生きてこれたのだ。
それは間違いないし、真だった。だが同時に、今は殺してしまいたいというほどに黒い感情は沸きあがらない。
せめて殴り飛ばしてやろうというほどにしか思えないし、殺す価値もないと考えてる自分もいる。そこまで考え、ああ、と雁夜は声を洩らしていた。
雁夜は時臣を憎むと同時に、あの男の血を引いた桜に救われていたのだ。
桜は父であるあの男が死ねば悲しむだろう。だから憎んではいても、殺そうとまで考えが至らなかったのだ。

「なるほど、な……」

忘れていた初期の思いが蘇ったような気がした。
一年前、蟲蔵に入る前に抱いていた感情は桜を間桐から守るということだった。
それが耐え難い苦痛の数々の所為か、いつの間にか自身がこうなる要因に恨みを抱き、復讐を考えることで忘れていたのだ。
桜の笑顔のお陰で、桜が自身を心配してくれたお陰で、そして自身の変貌を悲しんでくれたから、それが中和された。
我ながら単純な男である。
そんな雁夜を見透かすようにアーチャー、トリスタンは快活に笑って言った。

「いえいえ、サクラは真に男心くすぐるお方です。彼女のような姫君を守れることこそ騎士の誉れ。それに、もしバーサーカー……ランスロットに理性あれば放ってなどおかないでしょう」
「………」
「……雁夜殿、無言で令呪を構えないでいただきたい」

貴方も大概過保護ですね、とアーチャーが呟くのに雁夜は鼻を鳴らすことで流す。
それが楔だったかのように、お互いが沈黙する。
どこか気の合う友人のようにも見えた二人は、これから始まる戦争に思いを馳せているのだろうか。
ただ、アーチャーが主であるサクラの下へ戻ろうと身を翻したとき、雁夜はアーチャーを呼び止めた。

「手はずどおり、桜を頼んだぞ……アーチャー」
「………御武運を」

それ以上、多くは語り合わない。
これを最後に、アーチャーは霊体化して桜の下へと戻る。
部屋には月明かりに顔を照らされて静かに眠る己のマスター。まだ無垢な子供だ。
アーチャーはこの少女を託された。
雁夜の言った手はず通りは、バーサーカーによる暴走を繰り返しての他サーヴァント殲滅。
もしくはそれによって傷ついたサーヴァントないしマスターをアーチャーの持つその弓で射抜くという、暗殺者紛いの作戦。
騎士として恥ずるべき所業であろうとも、今だけはそれを踏みにじる。
男同士の誓いとして、そして幼き少女を守るために。








遠坂邸。
過去に日本へと至った魔術の一門が日本での生活の際に苗字を決めるに際してその屋敷の設立場所からそう取られたに相応しく、冬木を見下ろすような高台にある。
そこの一室において、一人の勝気な瞳をしたツインテールの少女が自身の全体重を掛けて赤い旅行鞄に荷物を詰め込み、その重さを引きずるように邸内を歩いていた。

「……凛、私が持とうか?」
「結構よ綺礼。自分で運べるわ!」

鞄を引きずり歩く足を止め、親譲りの自信に満ちた大きな瞳でじっと綺礼を見据える。
綺礼が時臣に師事し、この屋敷で凜と顔を合わせるようになって三年が経つ。
一応、兄弟子でもあるのだがそんなもの露とも思ってないであろう凛は綺礼を頼ろうとはしない。
だが、恐らく、下手すればこれが最後の顔合わせになると思うと、それなりに長い関係にも綺礼には思えた。
冬木での聖杯戦争の開始に先駆け、時臣は隣市にある妻の葵の実家に家族を移すと決定した。
戦場となる冬木に妻と子を置き、危険に晒すわけにはいかないという親として、夫としての行動だった。
それに加え、葵と凛の下には聖堂教会から派遣された護衛も着くという徹底振りだ。
なにせ、相手にはあの『魔術師殺し』が存在する。そう考えれば妥当な対策であった。

「綺礼はお父様の傍に残って、一緒に戦うんですね」
「ああ。そのために弟子として招かれたのだからね。私は」

だが、それを凛は良しとしていなかった。
凜は遠坂の長女、魔導を受け継ぐ後継者として、時臣による魔術の英才教育が始まっている。
冬木で起こる聖杯戦争についても、ごく初歩的な知識は持ち合わせていた。
聖杯戦争は凄惨な殺し合いだ。魔術師とはいえど幼い彼女にも想像できない地獄の釜が冬木で再現されることになる。
そんなところに自分が時臣と、父と残り戦うということは彼女にとって不満なのだろう。
凛は父である時臣を敬愛している。だからこそ、一番弟子の綺礼には彼女の風当たりは強い。
そんな凛であるが、一瞬すがるような瞳をし、綺礼へと静かな声で問いかけた。

「……綺礼、あなたを信じていいですか? 最後までお父様を無事に守り通すと、約束してくれますか?」
「それは無理な相談だ。そんな約束ができるほど安穏な戦いであったなら、なにも君や奥様を避難させる必要もなかっただろう」

綺礼は気休めなど抜きにし、正味のところを淡々と語る。
はっきりと言えば、どのような魔術の闘争であっても聖杯戦争とは比べるには小さかった。
時臣は魔術師同士での戦闘においては最強に近い存在であるが、サーヴァントとの戦いでは保証は出来ない。
だからこそ、それを聞いた凛は眉を顰め、綺礼を睨み―――即座にその顔を戻していた。

「凛様、その約束はこの私が“騎士”の名ににかけて誓いましょう」

それは綺礼の背後に居た執事服に身を纏った男が凛へと言った。
蜜のような黄金色の金髪を揃えるように小奇麗に切っており、その顔は太陽のように輝いている。
所詮、“夜”である綺礼たちのような人間からすれば正反対、太陽のような男だ。

「ガウェイン卿……」

凛が男の名前を洩らす。
ガウェインと呼ばれたサーヴァントは、会釈するように恭しく頭を下げた。そんな姿に思わず凛は赤面してしまう。
ガウェイン。
それは遠坂 時臣が召喚したサーヴァントとしての男の真名であった。
過去に残る逸話は数多く、それこそ円卓の騎士としては存分にその武勇を広めている。
だがそれ以上に、彼の二つ名である『忠義の騎士』は、時臣と組むに抜群の相性を誇っていた。
恐らく全サーヴァント、全マスターにおいてトータルバランスにおいてトップに立つ。
凛も、目の前の男の凄さは伝承であれど、知っていた。そんな男が自分に誓っていると、そう実感すれば凛はまるで物語の姫の気分だろう。
流石の凛であっても、繋がっては声を上げれないでいる。
その姿を思わず合わせあった視線で困ったように意思を疎通すると、玄関の方角から誰かが歩いてくる音が聞こえる。
時臣の妻、葵だ。凜を呼びにきたのだろう。

「凜、何をしているの?荷物の準備はもう終わった?」
「――ぁ、えぇと、その――」
「お別れの前に私たちを激励してくれていたのでございます、奥様」
「ええ、ご令嬢には我らに生きて帰ってきてくれと言われてしまいました」

落ち着き払ってフォローする綺礼と執事のように腰を折り頭を下げるガウェイン。
凜は忌々しそうに綺礼を睨み、気恥ずかしそうにガウェインから顔を逸らす。これはまた素直じゃない奴だな、と感じてしまう。

「荷運びを手伝おう。凜、そのスーツケースは君には重すぎるだろうから」
「いいのっ! 自分でできます!」
「凛様、私が運びましょう」
「……そうね。お願いしますわ、ガウェイン」

凜は強引にスーツケースを引っ張り、そしてガウェインの手を借りて玄関へ玄関へと去っていく。
自分を頼らず、ガウェインを頼るなど本当に私が嫌いなのだな、と思っていると後に残った葵が、丁重に綺礼に頭を下げた。

「言峰さん。どうか主人をよろしくお願いします。あの人の悲願を遂げさせてあげてください」
「最善を尽くします。ご安心ください」
「御武運を、皆様」

葵と凛が車に乗り込み、ガウェインが運転席に乗る。
ガウェインの持つ騎乗スキルは現代の乗り物にも適応しているのか問題なく発車していく。
そのまま車が坂を下っていくのを見守り、背後に気配が現れるのを感じた。

「フン……ガウェインめ、まるで忠義に飢えた狗だな」

少年のような、しかし少女のような高いソプラノボイス。
振り返るとつまらなそうに、もはや見えなくなった車の先を見ている赤い騎士の姿。
気だるそうに兜を小脇に置いたその少年は遠坂邸の庭にあるベンチに腰掛けていた。
それは、綺礼が召喚したサーヴァントであった。

「……アヴェンジャー」

アヴェンジャーと呼ばれた少年騎士は綺礼を無視し、どこから手に入れたか分からないワインを飲んでいる。
その銘柄や年代からして、綺礼にとって見覚えがあった。
綺礼が楽しみを見つけるためにと手がけてみたワインセラーの一本だったはずだ。
特に気にするわけではないが、それを持ってくるには霊体化を解除する必要性がある。
ということは、この少年は言峰教会まで歩いていって勝手に持ち出したのであろうか?
そう綺礼が疑っていると、アヴェンジャーはニヤリと笑って綺礼へと言った。

「綺礼、お前の家にあったこいつと金は貰ったぞ」
「神の家に無断で侵入するか………別に構わないが、神秘の秘匿を考えて貰いたいものだな」
「昼間の戦は禁止なのだろう?ならば問題などない……違うか?」

もはや何も言うまい、と綺礼は沈黙する。
アヴェンジャーがワインを喉に通す静かな音と、巨大なサンドイッチに齧り付いた「もっきゅもっきゅ」という咀嚼音だけが小さく響き渡る。
綺礼は、復讐者というには狂気を感じ取れない目の前の少年と共にどう戦うかを考えながら、ゆっくりと空を見上げた。
もちろん、答えなんぞ返ってはこないし神の啓示も聞こえはしなかった。

「………飲むか?」
「………飲まん」





かくして全騎のサーヴァント、マスターがここに集結した。
初戦の夜を越え、それぞれのマスターとサーヴァントは己が望みを叶えるために行動を開始する。
最後に立つのは一組のみである。
汝、聖杯を欲するならば勝ち残れ……それを達するため、魔術師は知恵を競い、サーヴァントは武勇を振るうであろう。
最後に立ち続けるのは誰になるか、それこそ、聖杯にも分からない戦いが静かに、今始まった。






あとがき
イリヤ「聖杯戦争はね、昼間は戦ったら駄目なんだよ?」
ガウェインさん聖者の数字ボッシュートです。遠坂伝統のうっかり、ここに極まれり。
そしてウェイバー君とおじさんが主人公状態、あとアヴェンジャーと綺礼組も何故か平和。

・各サーヴァント一覧
セイバー:アーサー(アルトリア)・ペンドラゴン
ランサー:ラモラック
アーチャー:トリスタン
ライダー:ユーウェイン
バーサーカー:ランスロット
?:ガウェイン
アヴェンジャー:モードレッド

どう考えてもイレギュラー。


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