サンタローズに帰ってきた。
自宅ではピザデブが少しあわてた様子で俺たちを迎えてきた。
留守中に手紙が届いていたらしい。
親父は神妙そうにそれを受け取り、自分の部屋に戻る。
「さあさ、坊ちゃんは長旅でおつかれでしょう。どうぞお休みなさいませ」
さすがピザデブ。気が利いている。
料理がうまく、家事も得意、よく気がつく。
正直、俺の周りで唯一の常識人だと思っているが、あのアホの親父を「だんなさま」というあたり、やはりどこかアホなのかもしれない。
と思っていたら、実際はアホではなくボケが始まっているらしく、翌日俺に「まな板はどこか知りませんか」と聞いてきた。
少しだけ涙が出た。
親父は調べモノがあると家に引きこもっている。
仕事しろといいたい。
俺ですらすでに「たけのやり工房」ですでに日当500G(単価25G)を確保しているというのに。
そろそろ武器屋が涙目になっているかもしれないが、とりあえず潰れるまでは頑張ってもらおう。
第一、売値の半額で買取り、中古をまた新品価格で売る商人ギルドだ。
少しは痛い目にあうべきだと思う。
おそらく大丈夫だとは思うが、価格崩壊を起こしたときのことを考えて、半永久金策用生物である、小動物いじめもかかせない。
単価的には、たけのやり工房に劣るが、それでもおおねずみやドラキーなど、集団で出てくる小動物たちはブーメラン持ちの俺にとって、すでに金のなる木である。
金の価値を知る俺だが、さすがに連日の勤労は精神にも悪い。
たまにはのんびりとすごし、リフレッシュすることも、仕事を効率的にするためには必要なことなのだ。
歩いていると、様々な人が声をかけてくる。
俺は一切声を発していないのだが、だからといって声をかけてくる人を邪険にするわけにもいかない。
ただでさえ閉鎖された村で、人間関係を壊すことは、致命的だ。
俺はニコニコとしてさえいれば、周りが勝手に好感を持っていろいろと教えてくれるのだから、俺にしても願ったりかなったりである。
老人「パパスどののむすこさんじゃな。これはウワサじゃがパパスどのにはとんでもない敵がいるそうじゃ」
アホ親父のことだ。どこかで誰かに迷惑をかけていても不思議ではない。
ただでさえ金もなく半裸でいるのだ。
まさか敵とは借金取りでは無いだろうか。
老人「坊やがもっと大きければ きっと父の助けをできただろうにのう……」
ふざけるな。1Gたりとも働かない親父のために工房の金を渡したくは無い。
戦闘しか脳が無いのに、小動物を倒した跡に現れるGですら自分で拾わないんだぞ。
思慮深い人間なら、まだ「戦いを頑張った褒美」として、子供の自分にお小遣いとして渡しているとも思うが、脳筋の親父にそれはない。
やつは本気で小動物の狩りにおける労働を拒否しているのだ。
なぜならば、勇者発見による一攫千金にしか興味が無いのだから。
商人「へえ 坊やの 父さんは パパスさんと いうのか……。そういえば昔 どこかの国に パパスという国王がいたなあ」
不幸そうな国だ。
戦士「「近頃 村に変なヤツが来ていろいろとかぎまわってるようなのだ。パパスさんが何者かにねらわれてるってウワサも聞くし……」
やはり借金取りか。
武器屋「さいきん村におかしなことが おこるんだ」
おかしいのはたけのやりを50Gで売っているお前の頭だ。
そんな意味の無い会話にて交流を深めていると、この村においてありえないであろう、知的で気品の溢れた精悍な好青年が、教会の前に立っていた。
青紫のターバン、マントに白地の外套といった、ありふれた姿だが、そこにやどる荘厳なオーラは、まさに王者の資質。
そんな青年が、服の袂から何か光る玉を落とした。
何かを感じ取った俺はそれを拾うと――ゴールドオーブを手に入れた!――、ちょうどそのタイミングで青年が振り返り俺を見る
青年はにこやかに微笑みながら近づき、
「うん? 坊やはステキな宝石を持っているな。その宝石をちょっと見せてくれないか?」
貴様の落としたものだろうが。
やはりただのアホなのかと、自分の感じ取ったものに恥じようとしたが――
――違う!
はい
→いいえ
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」
はい
→いいえ
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」
はい
→いいえ
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」
はい
→いいえ
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用して……」
俺は、決して阿呆になったのではない。
そして、この目の前の青年も、だ。
彼の目を見て、すぐにわかった。
青年の、心の底からこの瞬間を楽しみ、少しでも長く味わおうとする、その覚悟と喜びを。
それは、俺が始めてホイミを覚え、喜びのあまりに無駄にホイミを唱え続けた、あの時。
あのときの感動と同じくらいの喜びを、この青年は感じているに違いないのだ。
理由はわからない。
だが、俺には、俺だけには――それがわかるのだ。
ならば、それに応えなければなるまい。
俺は、何度も何度も「いいえ」を繰り返した。
それが、目の前の青年の望みであることを知っているから。
それが、きっと自分の大切な何かを満たしてくれると思えるから。
だが――それでも、つかの間の幸福には、終焉がやってくる。
儚き幻想の如くの幸福は、終わるからこそ素晴らしい思い出になるのだから。
青年も、わかったのだろう。
これが、最後の問いかけになる、と、
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用して……っくっ……ほしいな……」
→はい
いいえ
終わりが、訪れる。
――ゴールドオーブを手渡した!――
「本当にきれいな宝石だね。はい、ありがとう」
――ゴールドオーブを手に入れた!――
青年が、すがすがしい笑顔でそういった。
このやり取りに、何の意味があったのか、それは俺にはわからない。
だが、きっとこれは、必要なことなのだ。
俺と、彼にとって。
ゴールドオーブというらしいソレを、俺がしまうと、彼は満足そうに頷いてこういった。
「坊や。お父さんを大切にしてあげるんだよ」
絶対にノウ!
っと叫びたいところだが、頷く。
脳筋ニートは脳筋ニートでも親父である。
戦いだけ、戦いだけ(大事なことなので二回心で思いました)は尊敬ができるし、なんだかんだで俺を愛してくれて入るのだろう。
多分。
大丈夫、痴呆になったらピザデブが介護してくれるから。
もともと、今が痴呆な様なものだけど。
その為にも。
親父を俺が直接面倒見ないでも住むようにするためにも、今のうちにお金を貯めなければならないのだ。
俺は、青年との出会いと別れを、決して忘れるまいと心に誓い――
そして、まだ見ぬ未来に向けて、新たなる一歩を踏み出し、新たなる金策を模索するのだった。
ちなみに、まったくの余談ではあるが、レヌール城のおばけ騒動が、謎の旅人によって解決されたという噂が、後日アルカパとサンタローズにて話題になっていた。
オバケの親分らしいのが、「開幕バギクロスとかねーよ」とか呟きながら、アルカパの酒場で飲んだくれていたらしい。
第二部 完