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No.30339の一覧
[0] 【一発ネタ】デュエルモンスターズVSバトルスピリッツ! 超希望新星龍皇ホープヴルム・ノヴァ!(ZEXAL×少年激覇)[イメージ](2012/01/04 04:47)
[3] 無敵の強運! No.7 ラッキー・ストライプ[イメージ](2012/01/04 04:35)
[4] 【一発ネタ】一夏をカイトにしてみた。(ZEXAL×IS)[イメージ](2012/03/05 04:10)
[5] 【ネタ】だいぶ今更な感じでバレンタインネタ(ZEXAL)[イメージ](2012/03/05 04:26)
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[30339] 【一発ネタ】デュエルモンスターズVSバトルスピリッツ! 超希望新星龍皇ホープヴルム・ノヴァ!(ZEXAL×少年激覇)
Name: イメージ◆294db6ee ID:9dcaf37f 次を表示する
Date: 2012/01/04 04:47
ルールそのいち・言ったもん勝ち

ルールそのに・やったもん勝ち

ルールそのさん・死んだら負け





そんな感じで送る、クロスオーバーSSです











『遊馬、起きろ遊馬』

「むにゃむにゃ……うっせぇなぁ……なんだよ」



いつも通りの朝。

少し前から自分に憑いている存在、アストラルの声に起こされる。

普段通り。部屋にかけたハンモックに乗った身体を起こ―――す?



「あれ?」



ハンモックの上じゃなかった。うん、地面だった。



「なんだ、オレ。なにやってんだ?」

『憶えていないのか?』



眠気に霞む視界に映るのは、半透明の人型。

異世界から訪れた記憶喪失のデュエリスト、アストラルであった。

そのアストラルは腕を組み、ゆっくりと辺りを見回す。



それにつられて周囲を見回してみると、



「な、なんだこりゃあぁっ!?」



森、と言うか樹海みたいな。

頭上に生い茂った緑の天幕は、僅かばかりの陽光を漏らすだけで、殆ど夜のような暗さを落としている。

起きたばかりの頭が、状況を整理出来ずにぐるぐると回転。

そんな遊馬を見かねてか、アストラルは浮遊しながらぽつりと呟いた。



『君は、落ちた』

「はぁッ!?」

『君はいつも通りデュエルをするために家を出て、そしてその直後――――穴に落ちた』

「穴ぁ……?」



そう言われて眠る前の事を思い出す。



そうだ。学校が終わり、帰宅して着替えて。

いつも通りにデュエルをするために行こうと、家を出た矢先だった。

何と言うか、落とし穴にはまったとしか言いようがない。

玄関のドアを思い切り開けて、跳び出すように踏みこんで―――



スカッと、脚を空かして何故か落ちたのだった。

その余りに突然の事態に驚愕し、意識がとんでいたのだろう。



「って! なんでだよ! なんで家の前に落とし穴なんかあるんだよ!!」



意味不明な事態の不条理を叫ぶ。

すると、腕を組んだままのアストラルが訳知り顔で目線を上に。



トラップの警戒を怠ったせいだ。

 遊馬、君は相手のフィールドの伏せリバースカードを予測する事を覚えるべきだ』

「そーゆう問題じゃねぇー!!」」



デュエルモンスターズでならいざ知らず、日常生活でトラップに気をつけてなどいられない。

悠々と周囲を見回してこちらに視線を向けないアストラルに向け、吼えたてる。

だが彼はまるで意に介さない。



傍から見えれば虚空に向け、何故か叫んでいるおかしな少年の図。

そんな遊馬に対して、横合いから声がかかった。



「あれ、起きたんだ。大丈夫?」

「え?」



がさがさと鬱蒼と生い茂る草木を掻き分けて、一人の少年が姿を現したのだ。

鮮やかに燃えている炎のような髪の少年である。

その姿を見止めて、遊馬は動きを止めた。



「えっと……」

「ビックリしたよ。突然上から落ちてくるんだもんな」



そう言ってからりと笑う。

しかしそう言われた遊馬にとっては、突然の情報に驚くばかりの事。



「落ちてきたぁ!? どうやったらそんな事に……」

『落とし穴に落ちた君は、何故か空中に放り投げ出された。

 君は落とし穴のショックで気を失っていたが』

「な、なな……アストラルぅ……! お前っ!

 そんな事、普通あるわけないだろ! 完全にお前が何かしたんじゃねぇか!!」



しれっと明らかにおかしい言葉を放つ背後霊に向かって指差し、叫ぶ。

まるで他人事のように傍観しているそれは、しかし何ら堪えた様子は見せなかった。

むしろ心外だとでも言わんばかりに首を振る。



『ワタシがそんな事をして何の意味がある。元より、ワタシにそんな力はない……』



そこまで言ってしかし、僅かに首を竦めた。

そんな様子に顔を顰めた遊馬に対し向き直り、より真剣味を帯びた表情で口を開く。



『だが……もしかしたらというものがある。原因の心当たりが』

「何だよそれぇっ! やぁっぱりお前が原因なんじゃないか!」

「ええっと……どうかしたの?」



不審を孕んだ声は、当然虚空に向かって叫び続ける遊馬に向けられたもの。

その事実にすぐさま気づいた遊馬が、手をぱたぱたと横に振りながら誤魔化すべく適当な言葉を探し始める。

もっとも、そんな言葉がすぐにでてくるわけがない。



「ああ、いや! えぇっと……! ――――で、電話なんだ! そう、電話!

 いやー、いきなり電話がかかってきちゃってさぁ!

 ああ、もしもし!? いきなりかけてこないでくれよな、ねーちゃん!

 いやぁっはっはっはっは……」



ポケットからDゲイザーを取り出し、耳にかける。

勿論、言葉を吐いた後から電話を取り付けてももう遅い事このうえないと言えよう。

その後も何とか誤魔化そうと躍起になって言葉を探す遊馬に、

相手の少年は驚いた様子で声を出した。



「電話って……もしかして地球人?」

「へ?」











「異世界グラン・ロロかぁ……何でオレ、そんなとこに迷い込んじまったんだろ」

「いや、まだここがグラン・ロロだって決まったわけじゃないんだけど」



互いに事情を話し合い、理解し合うまで十数分。

遊馬はハートランドという街に住むデュエル好きな少年で、アストラルという幽霊にとり憑かれている。

要訳するとそんな自分の事情を説明した。

対し、相手方の少年。

馬神弾の事情は遊馬を驚かせた。

グラン・ロロという名の異世界に導かれたコアの光主(勇者的なもの?)で、世界の命運をかけて戦っていたという。

戦っていた相手である異界王というのがまた途轍もない奴で、異世界だけでなく地球まで乗っ取ろうとしたらしい。

その異界王とダンの戦いは世界中に中継されたらしいが、遊馬は知らなかった。



同じ地球の筈なのに何故かという疑問は、別に今答えを必要としていないので保留だ。

多分、どこかで聞いた事があるような並行世界とかそんな感じの結論に辿り着きそうなものだし。

それに、そんなでっかい世界の問題などより、二人の少年の心を惹き合うものがあった。



デュエルモンスターズ、そしてバトルスピリッツだ。



「へー、同じカードゲームでも全然ルールが違うんだな」

「折角だけどこれじゃバトルは出来ないな。闘えたら面白そうなのに」



いつまでも樹海の中で立ち往生しているわけにもいかず、迷うというなら既に完全迷子の様である。

そんな状況だからこそ、二人は歩いて人を探す事にしたのだった。

無論、考えなしではない。

アストラルが浮遊して森を上から見渡したところ、この森は密度こそ高いものの、そこまで広くない事が分かった。

なのである程度進むごとにアストラルに確認を頼みつつ、森を抜けるべく歩み始めたのだ。



だが、だからこそダンは言う。

ここは矢張り、自分の知るグラン・ロロの姿ではないと思うと。

どちらにせよ、前に進まない事には始まらない。



互いにデッキを交換して、カードを眺める。

全く違う、コナミとバンダイくらい違うカードたちだ。バンダイは前に遊戯王カード作ってたけど。

それは全然関係なくて、40枚のカードを束ねたデッキを捲りその内容を改めていく。

ルール環境からして全てが違う領域で活きるものたち。

それらを見回して、イラストに描かれたものたちが躍動する場面を思い描く。



ルールが違うからこそ戦いが成立しない。

だけど想う。



――――闘ってみたい、と。



その想いが、叶ったのかもしれない。



ふと気づくと、森を抜けていた。

鬱蒼と生い茂っていた乱立する樹木の群れを掻い潜り、抜けた先。

そこにあったものは、凄まじく長く、高い、天頂の見えないタワーが屹立している姿だった。

葉っぱの天蓋に覆われて森の中から見えなかっただけで、恐らくこの周辺からならどこからでも見えそうだ。



「でっけぇ……」

「やっぱり、グラン・ロロとは違う……?」



その光景に半分驚愕、そして半分疑念。

一体これは、何のための姿勢なのかという疑問がわいてくる。

頭を悩ます二人。解答は正面からやってきた。



「この塔はあらゆるカードゲームユーザーの聖地、カードアルカディアです」

「え?」



二人の視線は塔から外れ、声の主へと向けられる。

塔の入り口辺りに黒いフード付きのコートをすっぽり被った、多分声からして男だろう。

男が立っていた。



『あらゆるカードゲーム?

 彼はワタシたちの知るデュエルモンスターズ、そしてバトルスピリッツ以外のカードゲームも知っているのか?』

「え? ああ。なぁ、ここってデュエルモンスターズとバトルスピリッツ以外のカードゲームもある?」

「勿論」



鷹揚と肯く男に向け、今度はダンが疑問を投げかける。



「なぁ、ここって一体どこなんだ?

 地球でもグラン・ロロでもないみたいだけど、どうしたら帰れるんだ?」

「繰り返します、ここはカードアルカディア。そして帰るために必要な事はただ一つ、カードで闘えばいい。

 貴方が得意とする激突で、敵を全て薙ぎ倒し現世に凱旋すればいいのです」



そう言う。その戯言は無視しても、ダンには一つ無視できない事があった。

―――激突。あの男が言った一つの単語。

ダンがバトスピのカードバトラーとして持つ二つ名こそ“激突王”

それを知らなければ、得意とする激突などという言葉は出てこない筈。



「お前……なんでオレの事を……」

「三度繰り返しましょう、ここはカードアルカディア。全てはカードで決めるのです」



男が腰のカードケースからカードデッキを引き抜く。

その様子を見て、ダンは顔を顰めながらも自らのデッキを手にした。



「分かった。なら、オレがバトルで勝ったら話してもらう!」

「ちょちょちょ、ちょっと待った!」



それに待ったをかけるのは当然遊馬だ。

対峙し合う二人の間に割り込んで、腕を振っていきなりカードバトルを留めた。

だがその遊馬に向け手を上げ、男は言う。



「何度でも。ここはカードアルカディア、カードで全てを決める場所。

 貴方も言いたい事があるのであれば、カードで語るといい」

「ああ、まずはオレだ。バトスピで勝負しろ!」

『遊馬、どうやらワタシたちもやるしかないようだ。デュエルだ』



明らかに話し合いをする気が皆無な男。

どうしたって闘う以外の選択肢が用意されていないこの状況で、迷う事などないとアストラルは言う。

デッキを手にして、遊馬もまた顔を顰めた。

別段、デュエルする事が厭なわけではない。むしろ、デュエル自体は望むところだ。

だが幾らなんでも、状況が不透明にすぎた。



「ああもう! やればいいんだろ、ならデュエルだ!

 お前はデュエルモンスターズとバトルスピリッツのどっちをやるんだよ!」



遊馬の声にふ、と唇を歪めて自分のデッキを差し出す男。

手の中で幾枚かのカードが広げられる。

その中に入っていたカードは、



「お前、それ……!」

「私のデッキはデュエルモンスターズ、そしてバトルスピリッツのカードの混成デッキです」

「え、えー……」

「フフフ、ご心配なく」



そう言ってカードをひっくり返し、背面を見せつける。



「無論、どちらのカードか確認できないように全てのカードにスリーブにいれてあります」

「いや、そこじゃないんだけど……」



肩を落とすダン。

そんな様子を理解してかせずか、フードの奥で男は笑う。



「二人同時に相手を務めましょうとも。さあ!

 折角の変則タッグマッチ、互いのゲームシステムを存分に発揮しての勝負にしましょう――――」

「……ああわかった、どうせやらなきゃならないんだ。

 そっちのルールに従ってやる。行こう、遊馬!」

「もうこうなったらどうにでもなれだ……かっとビングだぜ、オレェ―――ッ!」



遊馬が懐から取り出すのは、デュエルを行うべく解き放たれるアイテム。

放り投げられて宙を舞うプレート状の物体が展開し、変形し、ディスクへと。

腕に嵌められたブレスレットと、空中で本来のカタチを取り戻したディスクを合体させ、目覚めさせる。



「デュエルディスク、セットォッ!!」



奔る閃光がデュエルディスクの全機能を動作させている事を示す。

既にセットされていたDゲイザーの能力もまた十全。



背後で腕を掲げるのはダン。

炎を伴い振り下ろされる腕が描く軌跡から噴き上がる爆炎。

赤いコアの光主の力が迸り、その力を現出させるためのキーワードを叫ぶ。



「ゲートオープンッ、界放ォ――――ッ!!」











「でぇええっ!? また変なとこにきちまったぁああ!?」

「ただのバトルフィールドだって。オレたちはいつもここでバトルをして……たんだ」



ゲートを通り、バトルフィールドにつく。

フィールドに立つダンの胴は黄金の鎧に包まれている。

カードバトラーが闘う時の正装、バトルフォームだ。



『なるほどな』

「へぇ、あんたがアストラルなのか」

『? 見えているのか』

「うん、バッチリ」



地を均されて、コロシアムとして仕立てられている窪地のフィールド。

今はその端に据え付けられたカードバトラー用のプレイフィールドに立っている。

二人が、相手の男も含めればその世界に現れたのは三人。

同じ場所に現れた二人とは異なり、男は正反対の位置へと跳んでいた。



「デュエルするたびにわざわざこんなとこにこなきゃいけないのか……すっげぇなぁ」

「オレからすれば、そのデュエルディスクって奴の方が凄いんだけどなぁ」



プレイフィールドの真後ろ。

落下防止の措置などという親切なものは何一つない崖っぷちを覗き込む遊馬。

そんな様子を見ていた男は、先程に比べ僅かばかり軽くなった声で喋り始めた。



「ルールは2対1の変則タッグマッチ。ターンは私、九十九遊馬、馬神弾の順番。

 全てのプレイヤーは手札5枚からスタート、そして各プレイヤーは1ターン目にバトルを行えない。

 またメインフェイズ2ではバトスピカードは使えない。

 ライフコアとライフポイントのレートは800、九十九遊馬はLP4000、馬神弾はLC5。

 そして私はLP4000及び、LC5!

 互いのチームはライフの全てを失った時、敗北となる。異論は?」

「「ないッ!!」」

「ならば私の先攻でデュエルバトルをスタートッ!」

『語呂が悪いな』



アストラルの呑気なセリフは近くの遊馬以外には聞こえなかった。



「私のターンッ! スタートステップッ!!」



その宣言とともに男の使用するプレイテーブルが発光した。

スタートステップはバトルスピリッツにおけるターン開始の宣言。

それに応え、バトルフィールドは呼応する。

―――中で、首を傾げるのは遊馬。



「スタートステップ……?」

「バトスピでは、ターン開始時にスタートステップを宣言するんだ」

「えっと、それってオレもやった方がいい?」

『遊馬、デュエルモンスターズでのスタートステップはバトルフェイズの開始宣言にあたる』

「カードドローッ!」



男はプレイフィールドのデッキゾーンにおかれたデッキからカードを引く。

黒いスリーブに包まれたカードは、後ろから見てもどちらのカードなのかは分からない。



「ビートビートルをLV1で召喚ッ!」



三人のカードユーザーが操る魔物たちが戦場とするのは、広大な窪地のコロシアム。

男の宣言とともにフィールドへ出されるカードに連動し、その中に一つ緑色の宝石が出現した。

それこそバトルスピリッツにおける力の結晶、コア。

緑のコアが生み出すのは、緑の力を持つスピリット。



パァン、と風船のように弾ける緑のコアが噴き上げた光が、スピリットの姿を産み落とす。

その姿は名の通りに昆虫の兜虫に近しいそれ。

しかし本来の昆虫のような生物的なフォルムでなく、丸くデフォルメされているような姿。



「更に、クリボーを通常召喚!」



くりくりぃと可愛らしく鳴く茶色の毛玉状の魔物。

緑色の手足を振って、それはぷかぷかと宙に浮かぶ。



「クリボー……? 攻撃力300のモンスターをわざわざ攻撃表示で」

魔法マジックカード、増殖を発動!

 フィールドのクリボーをリリースする事で、クリボートークンを守備表示でフィールド全てに特殊召喚する」



くりりぃとクリボーが身体を震わせてぶれている。

次の瞬間、煙を巻きながらクリボーの姿が消え、代わりに、しかし全く同じ姿のクリボーが五体現れた。



『五体のモンスター? スピリットとモンスターはフィールドを共有しないのか』

「そしてマジック、マルチプルコアを使用」



宣言と共に男のプレイフィールド上のコア、その全てがトラッシュへと移動した。

全てのコア、それはスピリット上のものも例外ではない。



「不足分はビートビートルより使用、よってビートビートルは破壊」



砕け散る兜虫の姿。

――――緑のマジック、マルチプルコア。

自身のフィールドに存在する疲労状態のスピリットの数だけ、ボイドからコアをリザーブヘ置くコアブーストのマジック。

その効果により、男のリザーブにボイドより5個のコアが現れた。



「マルチプルコアは疲労状態のスピリットの数だけ、自分のコアを増やすマジック……」

『守備表示のモンスターを疲労状態のスピリットとして扱っているのか……?』

「そして、蛇竜キング・ゴルゴーをLV1で召喚ッ!!」



再びリザーブよりトラッシュへと送られるコア。

此度現れた宝石は赤色のもの。

赤のコアが導く魔物の姿もまた、当然赤属性を持つ。



蛇竜の名の通り、首はコブラのような膨らんだ形状。

首より下は蛇などと歯似ても似つかぬ四脚の、竜種のそれになっている。

唸りを上げながら赤のコアから姿を変え、大地に降り立つ蛇竜が唸りを上げた。



「ターンエンド―――」



ゲームであるが故に。

そのスピリットの許に、数値化された戦闘力が示される。

BP 4000。

ルールの違い、形態の違いからデュエルモンスターズとは全く違う基準の数値を持つカードゲーム。

それを前に遊馬は一歩だけ脚を下げ、微かに息を呑んだ。



そんな遊馬の様子を感じてか、ダンは遊馬に声をかける。



「相手のスピリットはオレの方で何とかする。遊馬はあいつのライフを削ってくれ」

「あ、ああ……! オレのターン!」



ターンの宣言のみで、スタートステップもスタンバイフェイズも宣言せず、プレイを続行。

尤も、デュエルディスクのシステムに管理されている遊馬のターン進行には、何ら支障はでない。

デッキよりカードを引く事で6枚になった手札を見る遊馬の背後からに、アストラルが声をかける。



『全てのプレイヤーは1ターン目、攻撃を行えない。ここはまず守りを固めて様子を見るべきだ』

「だぁああっ! 分かってるっつーのっ!」



引き抜くカードはデュエルディスクにセットされる。

バトルフィールドの窪地に現れる光の渦が、チカチカと激しく明滅を繰り返す。



「永続魔法、強欲なカケラを発動!」



遊馬の足許に緑色の曲線を描く陶器の破片が落ちてくる。

仄かに光るそれを見た後、更に別の手札へと手をかけた。



「モンスターをセット! 更にカードを1枚セットッ! ターンエンドだ」



セットされたモンスターは裏側表示。その正体を窺う事はできない。

正体不明のモンスターとセットカードを前に、しかし男は僅かに唇を吊り上げる。



「オレのターンだ、スタートステップ! コアステップ」



ダンのリザーブに置かれているコアが4つから5つへ。

手慣れている故か、光を伴い現れたコアの発光が収まる前には、既にデッキに手をかけていた。



「ドローステップ、メインステップッ!

 リザドエッジ、エリマキリザードをそれぞれLV1で召喚ッ!」



フィールドに現れる二つの赤コア。

それぞれが砕け散り、スピリットと呼ばれる魔獣を呼び起こす。

寸胴な、小さく丸々しいトカゲ。リザドエッジ。

その名の通りに首からエリマキが広がるトカゲ。エリマキリザード。

二体のスピリットを従え、ダンは更に1枚、手札から引き抜く。



「続けてネクサス、太陽石の神殿を配置!」



ダンと遊馬、二人の立つプレイフィールドの背後から古の神殿がせりあがってくる。

頂上に赤光を放つ宝玉を据えた神聖なる場。

降り注ぐ輝光を浴びながら、リザーブのコアを全て使い尽くしたダンはそこで止まる。



「ターンエンド」

「私のターン、スタートステップ!

 コアステップによりコアを増加、ドローッ! そしてリフレッシュステップ!」



ボイドよりコアがリザーブへと一つ。

前のターンに消費され、トラッシュに置かれていたコアも回復。

そしてドローしたカードを一瞥した男は、にやりと妖しく微笑んだ。



「さあ見せてやろう。最強の龍の姿を――――!」

『最強の……』

「龍……?」



くつくつとあからさまに様子の違う笑い方をする男に、アストラルとダンは顔を顰めた。

最強の龍、そんな言葉で思い出す相手。

遊馬とアストラルの思い描いた相手は一致していた。

NO.ナンバーズハンターを称し、遊馬を襲ってきた男。



―――さぁ、ハンティングの時間だ……!

―――狩らせてもらおうか、お前のナンバーズを!

―――光の化身、今降臨!

脳裏に染みついたイメージがフラッシュバックし、その顔を連想させる。

天城カイトの操るエクシーズキラーとでも言うべき、強力なドラゴン族モンスター。



「まさか、銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴンみたいなモンスターか……!?」

「――――――」



そして、ダンが想起するのは自身がグラン・ロロで闘った最後の相手。

異界王の操るバトルスピリッツに存在する最強にして無比なる、地球を象徴する星龍の姿。

男は厭らしく笑いながらダンに視線を向け、口を開く。



「激突王は恐らくご存じでしょう」

「ガイ・アスラか……!」

『ガイ・アスラ―――? それは一体、どのようなモンスター……スピリットだ?』



ほぼ確定したその正体に、ダンが歯を食い縛った。

そのダンの様子を見たアストラルは、名を出されたガイ・アスラについて訊こうとして、



「レイ・ニードルをLv1で新たに召喚ッ!」



赤コアが男のフィールドに出現し、それが弾けると同時に青い鱗に包まれた竜が現れた。

蛇に似た長い胴をうねらせて咆哮する竜がフィールドに降りる。

そのBPは1000。

最強の竜を名乗るには、余りに力不足だろう。



『これが……』

「最強の龍……なのか?」



ギャアと吼える竜を前に、遊馬とアストラルが肩を落とした。

しかし、バトルスピリッツに精通しているダンにはそれが一体何の為か、即座に理解できていた。



「軽減シンボルだ―――!」

「軽減、シンボル?」

「そう。私のリザーブのコアは残り8つ。

 そして、フィールドには赤の軽減シンボルを持つスピリットが二体。これにより――――!」



男が手札から1枚のカードを引き抜き、天に掲げた。

そして、そのカードイラストが晒される。巨大な龍が描かれたカード、その名は―――



「コスト10のガイ・アスラのコストが2つ軽減され、召喚出来ると言う事だッ――――!」



男がその宣言とともに、プレイフィールドへカードを叩き付けた。

瞬間、男側のフィールドで膨れ上がる闇紅の爆炎。

地を割り、天を裂き、降臨するのは最強と称された龍の姿。

鋭利に磨がれた刺々しい巌の装飾を身体に張り付けた、上半身が人型、下半身が竜尾の神龍。

灼熱に燃える身体を揺らし、刃の筵で織り上げたかのような翼を大きく広げる。



「降臨せよ、幻羅星龍ガイ・アスラァッ――――!!!」



降臨した星龍は身体を少し揺り動かすと、長く伸びた尾を軽く振るう。

その、まるで呼吸と変わらない気軽さで振るわれた尾が、背後に控えていたレイ・ニードルの身体を圧し折った。

堅牢だった筈の竜の鱗の防御力などないも同然、レイ・ニードルはあっさりと崩れて消えてしまった。



「不足コアはレイ・ニードルより確保、よってレイ・ニードルは破壊!」



レイ・ニードル及びキング・ゴルゴーの持つ軽減シンボル。

その存在により、コスト10のガイ・アスラはコスト8で召喚できるようになっていた。

だが、それでも召喚コストを確保しただけ。

スピリットの維持には、最低1つのコアをスピリット上に乗せる必要がある。

故に、召喚コスト支払い後に用済みとなったレイ・ニードルの維持に使っていたコアを、そのままガイ・アスラのものとしたのだ。

その結果、維持するためのコアが失われたレイ・ニードルは破壊される事となった。



「くっ……! ガイ・アスラっ…!」

「さぁではバトルと行こうッ!」



レイ・ニードルの命を喰らい起動する、堕ちた星龍。

そのパワーは、スピリットの中でも強力な数値を誇る

BP8000―――単純な数値だけ見れば、デュエルモンスターズではまるで敵わない。

だが、それでもと。



「行けぇい、ガイ・アスラッ! 最初の狙いは、九十九遊馬のセットモンスター!!」

『来るぞ、遊馬!』

「わかってるっての!」



星が鳴動するかの如く肉体を震わせ、最強の龍はその瞳に血色の輝きを灯す。

自らのしもべの攻撃行動を見送る男の口から、その補佐を命ずる声が吐き出される。



「蛇竜キング・ゴルゴーLv1・Lv2の効果!

 互いのアタックステップに、系統<星竜>を持つ自分のスピリット全てに、BP+3000!」



無論、地球の化身であるガイ・アスラは星竜を持ち合わせている。

否。キング・ゴルゴーはその為に、ガイ・アスラを補佐するべく存在するスピリット。

合計BP11000に及ぶ攻撃が向かう先は、遊馬のフィールド。

守備力11000を越えるモンスターなど、デュエルモンスターズには存在しない。

どれほどの守備力を持ってしても、この星さえも呑み潰す龍は止める事敵わないのだ。



竜尾を振り回しながら、その身体を天空高く舞い上げる。

血のように滾る灼熱を宿した身体が、大きく捻られ、それを引き戻す勢いで竜尾が迸った。

まるで鞭のように振り回された尾は空気を粉砕しながら大地で光るセットカードを目掛け、叩き付けられる。

その攻撃がセットモンスターを打ち据える直前、遊馬が吼えた。



「オレがセットしたモンスターは――――!」



光の溜まり場から、二本の太い腕が突き出された。

如何なるモンスターだろうと捻じ伏せる一撃を、その腕は真正面から受け止める。

突き出された掌に竜尾が直撃した瞬間、そのブロックを圧し固めた腕でその尾を力強く握り締めた。



「ゴゴゴゴーレムだッ!」



舞い上がる粉塵と、立ち上る光。

二色に巻かれながらフィールドへと立ち上がるのは、岩石で造られたゴーレム。

赤く光る一つ目で天空より己を見下ろす星龍を見返し、その手に掴んだ竜尾を放り投げる。

自身の放った一撃を容易く弾き返してみせたゴーレムを見据えながら、ガイ・アスラが身を落とした。



一気に真下へ向き直り、身体を急降下させる。

地面スレスレで侵攻方向を即座に切り返し、大地に立つゴゴゴゴーレムへ向けて、奔った。

フィールド全体を震撼させる、まるで自在に動く隕石の如き暴力。

星一つがそのまま迫り来るに等しい破壊の嵐を、ゴゴゴゴーレムは真正面から受けて立った。



身から噴き出す灼熱を鎧い、突き出される岩石戦士の掌へと激突する。

衝突の瞬間に炎が爆ぜ、平地の荒野にぶち撒けられた。

大地を焦がす膨大な熱量をその身に浴びながら、しかしゴーレムの巨体は揺るがない。

勢いのままに思い切り押し込まれるものの、その一撃。

両の腕で確かに留め切る。



「ぬぅ……っ!」

『守備表示のゴゴゴゴーレムは1ターンに一度、戦闘による破壊を無効にする。

 如何に攻撃力を備えていようと、破壊は無効だ』



ギシギシと軋みながらも支え切るゴゴゴゴーレム。

破壊力全てを受け流し、ガイ・アスラの侵略を止めてみせた。

その有様に男は僅か顔を顰め、ガイ・アスラの隣のカードへと手をかける。



「ならば続け! 蛇竜キング・ゴルゴーでアタックッ!!」



ガイ・アスラが身を翻し、ゴゴゴゴーレムから離れ舞う。

その途端、ガイ・アスラを追い越すように大地を駆ける蛇竜がゴゴゴを目掛け、突撃する。

突如勢いを失くし、離れたガイ・アスラのせいでたたらを踏み、体勢を崩すゴゴゴに向けての中て身。

コブラのような頭部を振り回し、仕掛けるのは全身でぶつかる体当たり。

隙だらけの巨体に突き刺さる一撃は、ブロックで組み立てられたボディを圧砕する。



「ゴゴゴォーッ!?」

「キング・ゴルゴーのBPは4000! そんなモンスターでは防ぎきれぬ一撃だ!」



粉砕され、身体の破片を撒き散らす石像。そしてその残骸の上で嘶く蛇竜。

実際、遊馬のデッキ。

いや。デュエルモンスターズのカードにおいてさえ、ガイ・アスラどころかキング・ゴルゴーに力で上回るカードは圧倒的少数。

まともにやればゴゴゴゴーレムだけではなく、他のモンスターたちもあっさりと蹂躙される事だろう。



「くそぉ……!」

「ターンエンドだ。さあ、君のターンだ九十九遊馬ッ!」



促され、カードを引く遊馬。

同時に、足元で転げる陶器の欠片に光が灯る。



一度そのカードへと眼を送り、相手のフィールドへと視線を移す。

相手のフィールドにはアタックステップ―――バトルフェイズ中にはBP11000に到達するガイ・アスラ。

そしてBP4000のキング・ゴルゴー。

まともに正面からぶつかって勝てる相手ではない。



「どうすりゃいいんだ……!」

『臆するな、遊馬。キミの手札には既に、奴を攻略するキーカードがある』



小さな声で、相手モンスター―――スピリットの強靭さに尻込みする。

そんな遊馬の頭上から声をかけるのは、無論アストラルだ。

二体の圧倒的パワーを誇るモンスターを前に吐かれたそのセリフ。

遊馬は顔を歪めて、アストラルへと顔を向けた。



「攻略って……これだけ攻撃力に差があるんじゃどうしようも―――!」

『考えろ。奴は最初のターン何をした? この変則デュエルの前提条件を定めたラインを引け。

 そして、キミの手札に控えるモンスターの力を最大限に活かせ』

「っ………! オレの、手札のモンスター……?」



そう言われた遊馬は再び手札に眼を移す。

その様子を上から見つめるアストラルは、まるで遊馬を見守るように彼が導く答えを待つ。



相手のフィールドに存在するのは、クリボートークン五体が守備表示。

そして疲労状態の蛇竜キング・ゴルゴー、幻羅星龍ガイ・アスラ。七体のスピリット及びモンスター。

これを攻略するための、キーとなるモンスター。

一体、何をどうすれば。



ふと、気づく。

相手フィールドに存在するモンスターたちの、たった一つの共通点。

それを真っ先に利用した相手の戦術。



「そうか……!」



手札から1枚のモンスターカードを取り上げる。

それこそ、この状況を打開する可能性を秘めたモンスター。

遊馬は顔をきつく引き締めると、デュエルディスクにそのモンスターカードを乗せた。



それと同時に、立ち上るモンスター召喚のエフェクト光。

光と共に大地からせり上がるように出現する影の姿は、黄金の鎧に身を包む騎士。



「ズババナイトを召喚ッ!」

<ズババァッー!>



逆手に構えた曲刀を振るい、黄金の戦士は屈する幻羅星龍に向き直る。



「行け、ズババナイトッ! 幻羅星龍ガイ・アスラに攻撃ッ!!」

「むぅ……!?」



命令を下すと同時に振るわれる遊馬の腕。

その号令に応えたズババナイトは荒野を踏み切り、疲労状態のガイ・アスラに向けて突撃する。

ズババナイトの攻撃力は1600。

いかにガイ・アスラが攻撃後の疲労に見舞われていようと、そのパワー差は覆らない。

しかし―――



「ズババナイトの効果! 表側表示の守備モンスターと戦闘する時、ダメージ計算を行わず破壊する!」



それを覆し、切り拓く剣を持つのがズババナイト。

鋭く奇形な双剣を持った腕を振り翳し、ガイ・アスラに迫る戦士にはその能力があった。



『奴は1ターン目、守備表示のモンスターを使う事でバトルスピリッツの糧とした。

 その宣言から推測される、守備表示=疲労状態のルール。

 遊馬、今の君ならば気付ける。攻撃力だけでカードの強さは決まらない』

<ズババソードッ!!>



咆哮とともに、騎士が突撃を仕掛ける。

両腕に構えた剣を奔らせ、屈する星龍を刻み込むべく放たれる一撃。

どれほどの能力差がそこに存在しようとも、この瞬間。

この瞬間だけは、ズババナイトが持ち得た特殊効果により、その差が完全に覆る。



迫りくる戦士を前にしても、疲労状態で待つガイ・アスラには反撃が出来ない。

灼熱する身体を滾らせながらも、ただ待つしか出来ぬ身。

だが、その様を見て男はずるりと口端を吊り上げた。



気付いたのはダンだけ。

互いのカードが混在するゲームのルール。それを脳内で擦り合わせている間に発生した戦闘。

何らかの作戦を張っている。

今までの流れで判明した要素の内で、反撃に繋がるものを利用した戦術。



それは間違いではない筈だった。

ただしそれは、相手が――――ガイ・アスラでさえなければ。



「駄目だ! ガイ・アスラは―――――!?」

「へ?」

「フラッシュタイミングゥッ!!!」



その瞬間、精根が果てたかのように身を落としていた星龍が超動する。

尾が跳ね上がり、まるで蛇の如くのたうつそれが、横に控えていた蛇竜に向け振るわれた。

同じく疲労し、頭を垂れていたキング・ゴルゴーに叩き付けられる尾。

豆腐を潰すかのように至極あっさりと、瞬く間に原型を失う蛇竜。



「な、あっ……!」

『自らのモンスターを……?』



その対価に星龍が得るのは潰した蛇竜が宿していた命の輝き。

光を噴き上げて消え失せていく蛇竜の姿から毀れたコアの光が、ガイ・アスラの身体に吸い込まれていく。

唇を歪めて笑う男がそれを前に、歓喜の宣言を上げる。



「『超覚醒』を使用!

 蛇竜キング・ゴルゴーよりコアをガイ・アスラに移動! よって蛇竜キング・ゴルゴーを破壊!

 その能力により、ガイ・アスラは回復するッ――――!」

『なに……!?』



男が手を伸ばすまでもなく、フィールドに置かれたカードの形式が変更される。

疲労状態から回復し、立ち上がるカード。

それと同時に星龍が復活の雄叫びを上げた。

オォォオ、と。まるで地の底から響くような、断末魔の如く高鳴る咆哮。



その落としていた肩を大きく跳ね上げ、灼熱の肉体に漲る活力を口から吐き出す姿。

それこそがガイ・アスラの持ち得た究極の破壊力。

『覚醒』を越えた『覚醒』。『超覚醒』なのであった。



<ズバッ!?>



迎い来るズババナイトに向け伸ばされた腕が、その胴体を掴み取った。

力を取り戻し、光を湛える眼がズババナイトを見据える。

攻撃を仕掛けていた筈のズババ。その立場は一瞬の内に逆転し、引っ繰り返される。

ギシギシと悲鳴を上げる黄金の鎧が拉げ、歪んでいく。



「守備表示に対する破壊効果は、回復したガイ・アスラには通じない――――!」

<ズババァアアアッ!?>

「ズ、ズババァーッ!」



ぐしゃりと。

捻り潰されたズババナイトが断末魔とともに光に還る。

はらはらと舞い散る光の中で、それを見届けるより他にない遊馬もまた叫んでいた。



「更に! スピリットがBPをモンスターの攻撃力と比べ、相手モンスターのみを破壊した時!!」



ガイ・アスラが纏う業火とともに舞い上がり、長大な竜尾を振り上げた。

大木の幹より太く、強靭な鱗に覆われた尾が盛大に撓り、奔る。

眼にも留まらぬほどに速度をつけた竜尾はそのまま遊馬の身体へ向け、振るわれていた。



「うわぁああああっ!?」

「遊馬っ!」



直撃と同時に、盛大な衝突音を撒き散らす。

狙い澄まされた一撃は紛う事なく遊馬の経つプレイフィールドに振り下ろされ、その身体を叩き据えた。

一気に襲い来た衝撃に吹き飛ぶ遊馬は、広いとはけして言えない足場を転げていく。

そんな姿にダンはすぐさま手を伸ばし、遊馬の肩をつかまえてみせた。



二人をよそに攻撃を叩き付けたガイ・アスラは尾を引き戻し、男のフィールドへと舞い戻る。

デュエルモンスターズ特有の、完全指定された攻撃のためにブロック宣言も疲労もなく、万全なる姿でフィールドへ。

爛々と輝きを増す瞳で二人の敵を睥睨し、身体を揺らす。



「そのスピリットのシンボル×800ポイントのダメージを与える―――!」



遊馬の頭上にライフカウンターが出現し、その数値を4000から3200まで減らした。

ダンの手を借りながら立ち上がる遊馬が、天空に君臨する星龍を見上げ、微かに顔を歪める。



「そんな……あんな奴、一体どうやって……」

「――――オレが倒してみせる。あいつは」

『……出来るのか?』



同じく、苦渋に顔を歪めていたアストラルが問う言葉。

それに対して微笑む事で応えたダンが、一歩前に出る。



「オレのターン、スタートステップ! コアステップ!」



フィールドのリザーブエリアに光と共に現れる青いコア結晶。

それを見届けた後、プレイフィールドにセットされたデッキに手をかけ、一息にカードを1枚引き抜いた。



「ドローステップ、リフレッシュステップ!」



トラッシュに置かれていたコアが全てリザーブへ。

都合2ターン目。

無理矢理、強引にコアブーストをかけた相手とは違い、潤沢な数のコアを抱えているわけではない。

リザーブのコアはわずか4つ。それで、どうしてみせようと言うか。



「メインステップッ!!」



手札のカードを1枚取り上げ、それを掲げるダン。

その瞳は真っ直ぐと敵陣に舞うガイ・アスラへと向けられている。



「迷ってはいられない――――エリマキリザード、お前のコアを貸してくれ!」



首を巻くエリマキをぱたぱたと震動させながら、トカゲがきゅるると一鳴きする。

応えてくれた仲間の声に僅かばかり表情を緩めたダンの手の中のカードに、炎が灯った。

炎燃ゆるカードで天空に軌跡を描き、その力をフィールドへと叩き込む。

自陣へと降りるのは龍。それを召ぶための咆。



「行くぞ――――龍に翼を得たるが如し!! 龍星皇メテオヴルム、Lv1で召喚ッ――――!!!」



ダンの咆とともにフィールドに叩き付けられたカード。

炎を上げてコアに宿す力を解放するカードから暗雲が立ち上り、天空を漆黒に塗り潰していく。

それは前兆。

赤のスピリット、敵性スピリットを薙ぎ払う赤の力を象徴する能力の一つ『激突』を抱くもの。

天から降る星の如く、敵陣に降り注ぐ様は流星にして、龍星。



その力が今、上げた狼煙の中からゆっくりと降り来る。

天空を埋め尽くす暗雲を突き破り、燃える業火を纏う隕石が飛来した。

ダンの頭上から下降してきたそれは、暗黒の雲を破り、頭を出した状態で静止する。

火の粉が弾けるようにそこから落ちてくるのは小さな星の大群。

それらは荒れた大地に集うよう、一所に集中して落下していく。



数え切れぬほどに光る流星群が全て大地に突き刺さり、その破壊力を炎と化し、撒き散らす光景。

その渦中から灼熱に焼かれながら、橙色の四肢が姿を見せる。

自身の身体を包むように折り畳まれていた翼を広げ、龍星は高らかに咆哮した。

碧眼で敵を見据え、頭部に聳える角を揺らす姿こそ、赤のXレア。龍星皇メテオヴルム。



しかし不足。

準備期間を満足に用意されなかったこの環境では、どう足掻いてもコアが足りなくなる。

故に、足りなくなったモノは別の方法で代用するより他はない。

スピリットが持つシンボル。それにより生まれるコストの軽減。

コストを軽減しているスピリットを維持しているコアを利用する事で、それを覆す。



メテオヴルムが巻き上げた炎の中に消えるエリマキリザード。

その身体が内包していたコアは、メテオヴルムの力として受け継がれる。



「おお、すっげぇ!」

「Xレア―――赤の戦士のスピリット。

 ふ、だがその程度ではガイ・アスラを倒す事など出来はしないだろう」

「それはどうかな? ―――オレはここでターンエンド。

 ……頼むぞ、メテオヴルム。次のターンでガイ・アスラを、倒すッ!!」



その声に応え、咆哮。

橙色の肉体に刻まれた幾多の傷が物語る力強さ。

灼熱の覇気を帯びた龍星は自らの主人の号令に応じ、碧眼の奥に炎を灯す。



意気高らかに放たれたダンの宣言を聞き、しかし男は微塵も揺るがず一つ笑った。



「ならばこのターンで、終わってもらおうじゃないか。激突王よ!

 スタートステップ! コア! ドロー! リフレッシュ! メインッ!!

 獄獣ガシャベルスをLv3で召喚! リザーブに存在するコア全てをガシャベルスへ」



そのコア、総数5つ。

それはつまり、5度の超覚醒と同義。

カラカラと頭蓋骨の顎を鳴らし、三つ首魔犬の骸骨が現れる。

邪気を孕む妖しい眼光を揺らしながら、魔犬は吠えたてた。



「戦闘だ―――行けィ、幻羅星龍ガイ・アスラァッ!!

 激突王へアタック! フラッシュタイミング、超覚醒を使用。

 獄獣ガシャベルスよりコアを1つ、ガイ・アスラへと移動する事で回復。

 更に、ガイ・アスラのコアが3つとなった事によりレベルアップ!

 幻羅星龍ガイ・アスラLv2、BP10000!!」



カタカタと骨で造られた全身を鳴らしながら首を振る骸骨犬から、コアの光が放たれる。

受け止めるのは当然宙を舞う星龍に他ならない。

灼熱に燃える肉体でその光を受け、更なる高みへ到達する。



身体を翻して向かうのはダンの許。ガラ空きの遊馬を無視しての攻撃。

それはいつでも倒せるという余裕だったか、或いは先にエースを召喚した激突王を放置出来ないという判断か。

龍星をも上回る速度での飛来から、身体を回転する事で繰り出す竜尾撃。



ダンには選択の権利がある。

その一撃を自らで受け止めるか、スピリットに受けさせるか。

迷いはない。どちらを選ぶかなど、激突王にしてみれば決まり切っている。



「ライフで受けるッ!!」



メテオヴルムもリザドエッジも、そのままの体勢維持を命じられる。

僅かばかり悔しげに滲む唸り声を放ちながらも、ガイ・アスラの侵攻は見送るしかない。

お構いなしに振り下ろされる尾の一撃が、ダンの頭上から叩き付けられた。



バトルフォームに埋め込まれたライフコアが一つ発光し、光の壁を造り出す。

そこに叩き付けられるガイ・アスラの一撃。

その威力、圧力にダンの顔が苦痛で歪み、膝を落としかけた。

弾け飛ぶライフコア。砕けたライフにあったコアがリザーブに飛び、光の壁が消え失せた。

ガイ・アスラはそれを見送ると再び天空へと舞い上がる。



だがしかし、ガイ・アスラの恐怖。

それはここから幕を開ける。



「再びガイ・アスラでアタック!!」



星龍の両掌に炎が盛り、一気呵成に燃え上がる。

炎上する両腕を組み合わせ、突き出した先には無論ダンの姿があった。



「フラッシュタイミング! 超覚醒の効果により、ガシャベルスよりコアを移動。

 ガイ・アスラは回復するッ!!!」



その瞬間、ガイ・アスラの腕から炎が迸った。

狙いは澄み、紛う事なくダンを目掛けて解き放たれたものに相違ない。

迫りくる炎の渦を見据えながらダンは両の足を肩幅に開き、フィールドを踏み縛る。



「それもライフだ!!」



広がる半透明のバリア。

ライフ一つ分で展開されているそれにガイ・アスラの放った炎が直撃する。

バリアを突き抜け、徹ってくる熱量に炙られながらも後ろには退かない。



瞬く間に2つのライフを抉り取られたダンのバトルフォームから白煙が上がる。

だが、それでも未だガイ・アスラの超覚醒が止まらない。



「続けてガイ・アスラでアタック!

 フラッシュの超覚醒でガシャベルスのコアを移動、ガイ・アスラは超回復ッ!!!」

「ライフだッ!!」



未だ炎の残る渦中を突き破り、灼熱に燃える星龍がダンの目前まで迫撃していた。

硬く握り締められた拳の威力は考えるまでもなく、その身で浴びれば命を砕くに足るもの。

三度展開されるライフの光が盾となり、その侵略を圧し留める。

ライフに叩き付けられる赤光を帯びた拳が、そのままライフの盾を粉砕した。



これで3つ。

残るダンのライフは2つ、そして回復状態のガイ・アスラ、ガシャベルス、加えてガシャベルスのコア2つ分の超覚醒。

それをメテオヴルム、リザドエッジの二体だけで防がねばならないのだ。



「追い詰めたぞ、激突王―――再び行けィガイ・アスラァッ!!」

「ダンッ……!」



再びガイ・アスラが拳を振り上げる。

ガシャベルスの身体が光を放ち、その身に宿したコアの光をガイ・アスラへと与えた。

その力の譲渡による発生するガイ・アスラの力、超覚醒。



「フラッシュタイミング、超覚醒によりガシャベルスのコアをガイ・アスラへ。

 その効果により幻羅星龍ガイ・アスラは回復するッ!!

 更にこのコア譲渡により、ガイ・アスラのコアが6つとなり、Lvは3に! BPは13000!!」



振り上げた拳は片方だけでなく、両腕。

頭上で両拳を組み合わせ、スレッジハンマーの如く振り落とす。



その瞬間、その瞬間こそ待ち侘びた一瞬の間隙。

そう言わんばかりに吊り上がるダンの口許が、男を怯ませた。

ガイ・アスラの一撃が自らのライフに到達する直前、手札から引き抜かれたカードがフィールドへと叩き込まれる。



「フラッシュタイミング!! マジック、ヴィクトリーファイアを使用!

 BP3000以下の相手スピリット二体、

 もしくはBP3000以下の相手スピリット一体及び相手のネクサス一枚を破壊する!

 お前のフィールドにいるBP3000のスピリット、ネクサスは獄獣ガシャベルスのみ!

 よって獄獣ガシャベルスを破壊!! 行け、ヴィクトリーファイアッ!!」



ダンの目前でV字型の炎が燃え盛った。

突然発生した破壊の炎に、ガイ・アスラがダンの目前から弾き飛ばされる。

向かう先は三つ首骸骨魔犬の許。

突然の侵攻にガシャガシャと身体を揺する魔犬を目掛け、ヴィクトリーファイアは奔った。



三つ首がそれぞれ別の方向へと逃げ惑おうとする。

右の首は右に伸び、左の首は左に伸び、真ん中の首は炎を飛び越えようとでも思ったか正面の上向きに。

全く違う思考で動いた首たちが伸び切り、ガチャンと甲高い音を立てて完全に停止した。

そんな魔犬を目掛けて殺到するのはスピリットを完全焼却させる炎の波濤。

結局、直撃を受ける魔犬はその一撃で焼滅した。



だがそれでも、ガイ・アスラの一撃には関係しない。

ヴィクトリーファイアの発生で弾き飛ばされた身体を捻り、尾を鞭の如く振るって放つ。



「ライフで受けるッ!」



ダァンッ、とまるでトラックが全速力で壁に突っ込んだかのような破砕音。

しかし、ガラスのように砕け散るライフの壁ごしにガイ・アスラを見据えるダンの表情は笑っていた。



獄獣ガシャベルスは維持コア1つでLv1、2つでLv2、3つでLv3の維持の容易なスピリット。

そのBPはそれぞれ3000、4000、6000と高BPを誇っている。

高Lvを維持されたままであれば、ガシャベルスはヴィクトリーファイアの範囲内には入ってこなかったろう。

だがしかし、ガイ・アスラの弱点がここに晒される。

超覚醒の使用のためガイ・アスラ上にコアが移される度、他のスピリットが弱体化していく。

更にガイ・アスラの維持に使用されているコアはガイ・アスラ自身の破壊以外の方法で外す事はできない。

一気呵成の侵略を止められれば、無防備に等しいまでの隙を晒す事となるのだ。



ガイ・アスラは回復状態。

しかしここでアタックを仕掛けても、回復状態のリザドエッジにブロックされるだろう。

そうなれば次のターン、ライフコアは完全に無防備になる。

ライフポイントはクリボートークンの守備があるため、そうそう突破されないであろうが。



どちらにせよ、このターンで激突王ダンを倒す事は叶わなくなった。



「ふ、ん……ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」



遊馬がその声と共にカードを抜く。

同時に光を増すのは、足許に転がっている強欲なカケラである。

強欲カウンターが二つに達し、その効果を最大限発揮するに足るエネルギーを溜め込んだのだ。



『遊馬、分かっているだろうが……』

「――――なんだよ」



背後につくアストラルが少しばかりトーンを下げた声で呟く。

その言葉の内容はおおよそ理解できていた。



『我らはダンに守られた。

 前のターン、ワタシたちにガイ・アスラの侵攻があれば、ライフが尽きていただろう』



そう言ってアストラルは僅かの間、瞑目した。



『――――済まない、ワタシがガイ・アスラの能力を甘く見たせいでもある』

「……ああ、でももう――――」

『ああ』



ゆっくりとデュエルディスクに手を伸ばす。

伸ばした指先で魔法マジックゾーンのスイッチを一度叩き、宣言した。



「もう、せめて足は引っ張ってたまるか!

 永続魔法、強欲なカケラはドローフェイズ時に行う通常のドローのたび、強欲カウンターを一つ乗せる!

 そして、強欲カウンターが二つ以上乗ったこのカードを墓地へ送り、カードを2枚ドローする!!」



足許に転がっていた破片が光を帯び、破片が元持っていたカタチを取り戻していく。

醜悪と言ってもいいだろう欲に塗れた顔が装飾された緑色の壺。

光が作り上げたその壺の中から煙が噴き出し、遊馬のデッキに降りかかる。

ドローを要求するように光を放つデッキからのドロー。



引き抜いたカードを見た二人の思考が重なり、次の戦術を決めつける。



『ならば遊馬、奴の戦術を上回るぞ!』

「おおッ!! オレはアチャチャアーチャーを、召喚ッ!」

<アチャァ―ッ!>



炎が噴き、大地から炎を巻く光と共に鉄仮面で顔を隠す弓兵が現れた。

腰から吊るす矢筒から一矢抜き取り、弓に番える。

鏃がアーチャーを取り巻く炎の残り火で着火し、炎の矢と化す。



『アチャチャアーチャーの召喚に連動しトラップカード、コピー・ナイトを発動!

 このカードはレベル4以下の戦士族モンスターの召喚時発動するトラップ

 コピー・ナイトは召喚されたモンスターと同名モンスターとなり、特殊召喚される!』

「そして、アチャチャアーチャーの召喚に成功した時、相手に500ポイントのダメージを与える!

 行けッ、アチャチャアーチャーッ!」



番えた炎の矢を引き絞り、標的を見据える。

微かに顔を顰めていた男に向け、解き放たれるライフダメージを与える一矢。

それは寸分違わず男の心臓部に突き立ささり、そのライフポイントを削り取る。



「ぬぅっ……!」



ライフカウンターが電子音とともに500ポイント下降し、3500を示す。

同時に、アチャチャに隣接して現れるのは白銀の鎧騎士。

アチャチャアーチャーの名を関するだけで、実際の戦闘能力を持たぬ戦士の姿。

その能力。この場面で活かすのは、レベルもまた、コピーした戦士と同じものになるという効果。



「更に魔法マジックカード、死者蘇生を発動!

 墓地から、ズババナイトを特殊召喚する!!」

<ズバァアアッ!!>



輝くエジプト十字が遊馬の眼前に現れ、その光で墓地を照らす。

その導きに逢い、冥界より現世へと引き戻されるのは黄金の騎士。

幻羅星龍ガイ・アスラの持つ圧倒的能力、超覚醒の前に敗れ去った騎士が、

両の手に逆手に持った剣を振り回し、このフィールドへ再来する。



「『レベル3のズババナイト、アチャチャアーチャー、コピー・ナイトの三体をオーバーレイ!

 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!』」

<ズババァアアアッ!>

<アチャチャァアッ!>



三体のモンスターがそれぞれ、茶、赤、白の光と化して天に舞う。

フィールドの荒野、地上に生まれる星の輝く銀河。

その銀河の中に三つの光は飛び込んでいき、新たな姿を生誕させる。

内側から爆裂する光が風景を満たす中、一体のモンスターが姿を現した。



「『エクシーズ召喚!』」



モンスターと言うには、それはただの宙に浮く箱に見えた。

しかし、二人の出した声に感応したか、箱は内部からパーツをせり出し、変形していく。

間接部が展開し縦に伸び、その容姿を箱に見せていた外見が開く。

ブロック状のパーツを間接で繋げた胴体。箱内部から展開された二本のアーム。

鬣の如く広がる装甲を持つ頭部から、碧色に輝く角が突き上がる。



「『現れろ、No.ナンバーズ34 電算機獣テラ・バイト!!』」



ゴウンと機械の身体を揺すり、鬣状のパーツを大きく広げる。

同時にテラ・バイトを取り巻く三つの光が舞った。



「ほう、ガラ空きの状態から一気に三体ものモンスターを並べ、エクシーズ召喚。

 九十九遊馬、思った以上にやるようですが……矢張り、モンスターではガイ・アスラには遠く及ばない」

『それはどうかな?』



ガイ・アスラのBP13000に対し、テラ・バイトの攻撃力は0。

守備力は2900。デュエルモンスターズの中では堅牢を誇るものの、スピリットが相手では分が悪い。

だがしかし、それは効果を考慮しなかった場合だ。



「テラ・バイトはNo.ナンバーズモンスター!

 そして、No.ナンバーズNo.ナンバーズでしか破壊できない!

 ガイ・アスラがどれだけ強力なスピリットだったとしても、戦闘じゃ破壊出来ないぜ!」

『それだけではない。テラ・バイトにはガイ・アスラさえも意のままにする特殊効果がある』

「なに……?」



テラ・バイトを取り巻く光、モンスターエクシーズの纏うオーバーレイユニット。

その一つが、頭上に突き立つ碧の角に吸収される。

モンスターエクシーズは、自身の召喚に使用されたオーバーレイユニットを使用する事で、その力を万全と発揮するのだ。



「『電算機獣テラ・バイトの効果!

 オーバーレイユニットを一つ使い、相手のレベル4以下のモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る!』」



テラ・バイトの首が振られ蠢き、角で吸収したオーバーレイユニットのエネルギーを解放する。

青白い雷に変換され、解き放たれたそれは天空に聳えるガイ・アスラを目掛けて迸った。

攻撃を防ぐ体で迎え撃ったガイ・アスラの身体を、防御を無視して焼き付ける雷。

その威力は攻撃力などで発揮されるものでなく、相手の意思を自在に操作する精神操作。



「対象は、レベル3の幻羅星龍ガイ・アスラ!」



テラ・バイトの放つ波動を受けて、ガイ・アスラが身を翻す。

先程まで遊馬たちにその圧倒的な暴力を振るっていた星龍は、テラ・バイトの能力を受け、元々の持ち主へと反逆したのだ。



「くっ……コントロール奪取だと……!」

『行け、遊馬!』

「おおッ! 行っけぇ、幻羅星龍ガイ・アスラ! あいつのライフコアにダイレクトアタックだ!!」



その号令が発破され、向けられたガイ・アスラが男を目掛けて動――――

かなかった。



「あ、あれ? もしもーし? お、おい行けってば! おーい!」

『遊馬?』



どうやってか、相手のフィールドから遊馬のデュエルディスクまでワープしてきたカードをコツコツと叩く。

しかし幾ら遊馬が声を張り上げてもガイ・アスラは微動だにしない。

ただ灼熱を肉体に滾らせながら、空中で漂うだけ。

怪訝そうな顔のアストラルから目を逸らしつつ、何度もデュエルディスクを振り回す。

それを見かねてか、ダンからの声がかかった。



「スピリットで攻撃する時は、疲労状態にするんだ。

 えぇっと、デュエルモンスターズだと多分守備表示の向き」

「あ、そっか」

『君は先程から奴のプレイを見ていただろう? 憶えていなかったのか』

「うっさい! 悪いかよ」



つんと顔をアストラルから背けて、デュエルディスクのガイ・アスラに手をかける。

攻撃表示のモンスターを守備表示に変更するように、カードの向きを変更。

すると、先程まで不動を貫いていたガイ・アスラが動作を開始した。



「行けっ、ガイ・アスラ!」

「ちぃ、ライフで受けよう」



遊馬のフィールドにはコアを持つスピリットはいない。

故に、その本領たる超覚醒の発揮はされない。

だがしかし、それでもBP13000を誇るガイ・アスラの突撃は、止めようのない暴力。

顔に苦渋を滲ませた男は、迫りくる巨龍の姿を見止め、そう呟いた。

尤も、コアに対する攻撃を宣言された以上、スピリットを有さない今の男に防ぐ手立てはない。



振るわれる拳を、展開されるライフの壁で迎え撃つ。

思い切り振り切られた拳は容易にライフを撃ち破り、その衝撃の余波を男に浴びせかけた。

だが男もそれに屈せず、勢いに身体を後ろへ圧し込まれながらも、少々顔を歪めるだけに留める。



疲労状態となり遊馬のフィールドに戻ってきたガイ・アスラは大地に身体を下ろし、静止した。

これで漸く男のライフ、一つ目を削り取った事となる。



「カードを1枚伏せ、ターンエンド!

 エンドフェイズにガイ・アスラは守備、じゃなくて疲労のまま、お前のフィールドに戻るぜ」



テラ・バイトが放っていた怪光線が止み、ガイ・アスラが正気を取り戻す。

と、同時。遊馬のフィールドに留まっていた星龍は即座に身体を翻し、男のフィールドへと舞い戻った。

遊馬のディスクのモンスターゾーンからカードが消え、男のプレイフィールドへと帰る。

だが、それも疲労状態でのもの。

これでは次のターン、ダンの攻撃に対応する事はできまい。



そこまで考えて、ダンは一歩前へ。

今までフィールドの主役を張っていた遊馬よりも前に立ち、バトスピのターンを開幕させる。



「オレのターン、スタートステップ!」



光を放つフィールド。

そのプレイフィールドの前に立ったダンが続ける言葉によって、状況が変えられていく。



「コアステップ!」



リザーブへコアが1つ。浮かび上がってくる。

その状態を見届けたダンが手を伸ばし、デッキの上へと手をかけた。



「ドローステップ!」



カードを1枚引き抜くと同時に、更なる宣言。



「リフレッシュステップ!」



トラッシュへと送られていたコアが全て、リザーブへと戻ってくる。

全ての前準備が整った事を確認すると、ガイ・アスラを打倒するための行動を開始した。



「メインステップ!

 龍星皇メテオヴルムをLv3に。ネクサス、太陽石の神殿をLv2にアップ!

 更にマジック、エクストラドローを使用!」



ダンの宣言に合わせてリザーブのコアがメテオヴルムに、太陽石の神殿に移動する。

背景に聳える太陽石が燦々と輝きを放つ神殿から射す後光が増し、

フィールドで出撃の合図を待つ龍星の身体には覇気が満ち満ちる。

そのBPはLv3にて11000。

強力、しかし幻羅星龍ガイ・アスラを相手にしては、それでも不足。



更にダンが手札からフィールドに落としたカードのためのコストとして、トラッシュに送られる2つのコア。

フィールドでエクストラドローのカードが赤い光を放つと、

デッキのカードが上から2枚、浮き上がってダンの目前に飛んでくる。



赤のマジック、エクストラドロー。

エクストラドローは自分のデッキからカードを2枚ドローした後、更にもう1枚、カードを捲る。

そのカードを互いに確認し、赤のスピリットカードだった時、手札に加える事ができるマジックだ。



目の前で浮揚する2枚のカードを引っ掴むと、更にもう1枚のカードがデッキから飛んでくる。

それを手に取ると、微かに口許を吊り上げるダン。

相手の男にそれを見せつけるように突き出し、引き当てたカードの名を宣言した。



「3枚目のカードは赤のスピリット、雷皇龍ジークヴルム! よって手札に加える。

 そして、アタックステップッ!!」



ダンを鎧う黄金のバトルフォーム。

その両肩部から突き出た二本の角、その下部がスライドして展開した。

二股に分かれた角の間から噴き出す極彩色の光が翼のように広がり、幾度か羽搏いてみせる。



「う、ぉおお! すっげぇ!」

「龍星皇メテオヴルムのアタック時効果、相手スピリット一体を指定してアタックする事が出来る!!

 オレは、幻羅星龍ガイ・アスラにアタック!!」

『なに……!?』



ごぉおお、と炎が燃えるかのように猛り上げ、メテオヴルムが翼を広げる。

鋭く牙並ぶ口の端から、咽喉の奥で盛る炎が生み出す蒸気を漏らしながら龍星が咆哮した。

強大な双翼を一度羽搏かせ、その巨体を空へと押し上げる。



「行けっ、メテオヴルム! 激突だぁあああッ!!」



ダンの咆に応え、龍星が天空の覇者に向かい激突を仕掛ける。

燃え盛る炎を纏っての飛翔。翼を大きく広げて羽搏き、ガイ・アスラに向けて突撃した。



「ならば迎え撃て! ガイ・アスラァッ!!」



ガイ・アスラの頭部で赤光の双眸が輝く。

灼熱する腕部を振り上げて、その手の中に炎の塊を蓄積する。

眼下より迫りくる龍星皇のBPは11000、BP13000を誇る幻羅星龍には及ばない。

上に突き上げた腕を思い切り振り下ろし様、蓄えた炎を放して叩きつける。

それ自体が隕石に匹敵するかのような火炎弾を出され、メテオヴルムの動きが微かに鈍った。



しかし切り返しは半秒待たず、即座に身体を反転させ、真上に羽搏き緊急停止。

頭部を振り上げ、咽喉の内に燃え滾る火炎の吐息を口腔まで捻り出す。

首を撓らせながら頭部を振り子の如く回し、その勢いのままにブレスを吐き放った。

上から撃ち落とされる灼熱の弾丸と、下から噴出する業火の吐息。

それらが、互いの中間点というにはメテオヴルムに近しい辺りで衝突し、爆炎と黒煙を撒き散らした。

僅か十分の一秒に満たない静寂の直後、吹き荒れる爆発の余波が上からメテオヴルムを打ち付けた。



『BPはガイ・アスラの方が上……! メテオヴルムでは勝てないが―――』

「捻じ伏せろ、ガイ・アスラ!!」



翼を折り畳み、自身の身体を覆うかのように。

まるで盾のように扱って、その爆風を伏せがんとするメテオヴルムに肉迫するガイ・アスラ。

未だ巻き起こっている爆風と炎の渦を力任せに突き抜け、姿を目前に現していた。

完全に守りに入った体勢であるメテオヴルムに、その翼の上から拳を叩き付ける一撃を見舞う。

まるで金槌で木の扉を叩いたかのように、完全に壊せはしなくとも確実に外も中も力任せに砕くような、そんな音。

盛大な破砕音を鳴り響かせて、龍星はその名の通り天空から地を目掛けて墜ちる。



「このままじゃメテオヴルムが……!」



地面に直撃。粉塵と瓦礫を高く巻き上げ、砂塵の奥に沈みいく。

そんな龍星に止めを刺すべく星龍は身を捩り、大地に向かって急降下した。

天空に座する星に等しい龍の肉迫に周囲を舞う砂塵が消し飛び、大きく陥没した大地が露わになり―――

瞬間、地の底から爆炎が噴き上がった。



ほんの一瞬、立ち上る炎の柱に驚愕したガイ・アスラの停止。

その一秒に満たない間隙を縫い、炎の柱に混じって龍星が天へと向かい翔け上がる。

真下から来る龍星の一撃を、不意を衝かれたガイ・アスラは真正面から受け止めるより他にない。

頭からぶつかりにくる正真正銘の激突。

しかし星龍は両腕でその一撃を抑え付け、圧されぬばかりかメテオヴルムの身体を少しずつ圧し返していく。



「そのまま叩き潰せェィッ!!」

「フラッシュタイミングッ!」



ダンの雄叫びに呼応するかの如く、メテオヴルムの碧眼が輝きを増した。

ガイ・アスラの両腕に掴まれた首を支点に、身体を揺すり上げて振り回す。

自らの首が千切れかねん無茶な軌道を描き振るわれる全身を鞭のように扱い、脚を顔まで振り上げ、叩き付ける。

まさかの反撃、予想だにしなかったであろう一撃を見舞われ、ガイ・アスラの拘束が自然と解けていた。



解放されたメテオヴルムは、ガイ・アスラによって支配されていた天空高くへと飛翔する。

先までの位置取りから正反対に。

ガイ・アスラがすぐさま反転し、自らの頭上を翔ける龍星の姿を認めた。



その二体の巨龍の眼光が宙空で交わり合うほんの一時の間。

そこに挟み込まれるのは、ダンの咆哮とともにフィールドに放たれるマジックの光。



「マジック、メテオフォールを使用!

 このターン、メテオヴルムを青のスピリットとして扱い、更にBPを+2000!

 よってメテオヴルムの合計BPは13000!!」

「ガイ・アスラとBPを並べた、だと?」



天空で躍るメテオヴルムが眼下の星龍に向き直り、翼を閉じていく。

広げられていた翼は殻のように全身を包み、頭部で尖る角が向きを変えて真っ直ぐに伸びた。

それこそまさに龍星皇が龍星皇たる所以。



真紅の業火とともに天空から振り注ぐ龍星。

メテオフォールの名の如く、それは眼下に見えたガイ・アスラを天上から狙い澄まして解き放たれた。

風を裂き、紅の軌跡を引き摺りながら降る隕石は逃す間も与えず強襲する。



咄嗟に両腕を目の前で交差させ、直撃に耐える姿勢へと変わるガイ・アスラ。

しかし、その動きすらも間に合わない。

火炎を鎧い迸った閃光の如き流れ星。

その発動が垣間見えた一拍後にドッ、と何かが衝突して今にも弾け飛びそうな音を張り上げた。



共に灼熱を纏う星竜。

その衝突は天高く、空中で発生したにも関わらず衝撃波のみでバトルフィールドを薙ぎ払った。

余波だけで地上に残るリザドエッジが舞い、テラ・バイトが転げる。

そんな破壊の嵐を齎す原因となった二体のスピリットは、自らも爆発に呑み込まれて消失していた。



「すまない、ありがとう。メテオヴルム……リザドエッジ、あいつのライフを討て!」



小さな身体で荒野をころころと転がっていたリザドエッジがダンの声に応え起立。

分かり切っているほどに狙うべき対象は一つのみ、相手のバトルフィールドに立つ男だけだ。

ダンがフィールドのカードに手をかけ、回復状態から疲労状態へ変更。

それと同時にリザドエッジが駆けだした。



「ちぃ、ライフで受ける……!」



短い脚で強く大地を踏み切り、舞い踊る。

空中で身体を丸めて相手へ向けてその一つの突進は、ライフの力で張られるバリアに阻まれた。

だが代償として砕け散るライフが一つ。

バリアが砕け散る反動で弾き返されるリザドエッジが、ダンのフィールドへと転がりながら戻ってくる。



ライフが嵌めこまれていた鎧の空洞から白煙を立てながら、男は小さく舌を打つ。

ダンのバトルフォーム、極彩色の光翼が噴き出す黄金の角がスライドし、閉ざされる。

代わりに胸部にある排熱口が展開し、スリットから白煙が一気に吐き出された。



「ターンエンドだ」



無敵――――その筈のガイ・アスラを撃墜したダンがターン終了を宣言する。

ターンは男へと移り変わり、フィールドは開始宣言を待つ間、僅かばかりの静寂に包まれた。

プレイフィールドに片手を着き、男が眼をゆっくりとダンへと向ける。

睨みつける、というよりは感嘆の色が大きい眼差し。



「―――残るライフは1つにも関わらず、回復状態のスピリットを残す事もせずにターンエンド。

 なるほど。ガイ・アスラの脅威を取り除く事で、自身の役割に務めた。そう判断したのですか。

 例え、自身が次のターン倒れても九十九遊馬が勝利を奪い取ると?」

「………どうかな、まだオレには手札がある」



すぅと自分の手にしている4枚のカードを男の目の前に出す。

その手札の中に、次のターンの侵略を防ぐマジックが温存されている可能性はある。

だが、と。男は口を歪めた。



「私のターン! コア、ドロー、リフレッシュ―――

 マジック、エクストラドローを使用! カードを2枚ドローし、デッキトップのカードを確認。

 赤のスピリットだった場合、手札に加える」



男がプレイフィールドに投じたカードが光を放ち、リザーブからコアがトラッシュへと送られる。

手札のカードを投げた手をそのままデッキに。

まずは2枚を引き、手札を持つ手に運ぶ。そして3枚目のカードの確認。



「―――3枚目は赤のスピリット、蛇竜キング・ゴルゴー。よって手札に」

「………!」

「関係ないんですよ、あなたの手札など。私には未だ、神星龍がいるのだから。

 ――――魔法マジックカード、死者蘇生を発動! 墓地よりガイ・アスラを特殊召喚する!!」

「なっ……」



再び投じられるカードはバトルスピリッツのカードでなく、デュエルモンスターズのもの。

しかしその効果は間違いなく効果を発揮し、トラッシュから浮かび出る幻羅星龍ガイ・アスラのカード。

浮かぶカードを引っ掴み、男はフィールドへと放り込んだ。

同時にリザーブからコアが移動する。



バトルフィールドの荒野、その地の底から灼熱の渦が間欠泉のように噴き出す。

地の底、奈落から地表を打ち破り昇って来たのは紛う事無くガイ・アスラに違いなかった。

灼熱に燃える肉体、大地を抉る竜尾、全身から立ち伸びる鋭利な棘角。

そして敵陣を見下す黄金色の眼光。



「そんな……折角ダンが倒したって言うのに……」

「ガイ・アスラに与えるコアは5つ。更に手札の飛鋼獣ゲイル・フォッカーをLv2で召喚!!」



男のフィールド、ガイ・アスラの隣に現れる白い宝石。

透き通った輝きを持つ宝石が砕け散るとともに放つ光の欠片がスピリットのカタチを成していく。

姿を現すのは黄金の装甲を持つ狐型の機械獣。

BP7000を誇る機獣はコォオオ、と遠吠えを発しながら氷雪の如き光の残照の中に生まれ落ちた。



単体での性能もさることながら、この状況において最も恐れられるべき能力。

それこそ、



「この状況こそ超覚醒の全力に他ならぬ!! 行けィッガイ・アスラァッ!!

 激突王・馬身ダンに放つ最期の攻撃だ。残る1つのライフ、破壊し尽くせィ――――!!」

「くっ……!」



男がプレイフィールドのガイ・アスラのカードを疲労状態とすると同時。

バトルフィールドに降臨した星龍が起動した。

のたうつ竜尾で大地を砕き、その反動とともに天空高く舞い上がる。



「フラッシュタイミングゥッ!

 超覚醒を使用、ゲイル・フォッカーのコアをガイ・アスラへと移譲し、ガイ・アスラは超回復ッ!!」



3つ乗せられたゲイル・フォッカーのコア。

その1つが吐き出され、ガイ・アスラへと移された。

同時にゲイル・フォッカーをレベル2として維持していた3つのコアが2つに減ったため、そのレベルが1に低下する。

だがそんな事はお構いなしに、ガイ・アスラは天空から無防備なダンへと仕掛ける。

天空から超速で墜ちてくる巨龍を前に、ダンが小さく歯を軋らせた。



「くっ……ここまで、か――――!」

「諦めるなっ!」



ダンの諦念が混じった声に噛み付く遊馬の言葉。

しかし、この攻撃を耐え切る事は現状不可能。ライフは1つきりしかないのだから―――



『先刻の借りをまだ返していない。

 ―――できるだけの事をしてくれ、後はワタシたちが何とかする』

「あっ……!」



アストラルがかけた言葉に反応し、ダンは手札の中にある1枚のカードに目を留めた。

―――今、自分のライフと手札では活かしきれないカード。

だが、もしかしたら……

迫りくるガイ・アスラを前に、これ以上思考している時間はない。

ならば、遊馬たちを信じて使うだけだ―――!



「勇貴―――力を貸してくれ、フラッシュタイミングッ!

 マジック、ブリザードウォールを使用!

 このターン、ブロックされていない相手スピリットの攻撃ではライフを2つ以上減らされない!!」



その言葉と共に使用したカード。

ダンたちが立つフィールドに猛吹雪が生まれ、相手の侵入を阻む防壁として立ちはだかる。

灼熱を伴って天上から来る星龍はそんな事を気にも留めず、そのままダンの許へと迸った。

業火に燃える肉体で、豪雪渦巻く吹雪の渦中に飛び込むガイ・アスラ。

二つの力がぶつかりあった瞬間、互いが叩き付け合ったエネルギーが爆ぜる。

吹雪のカーテンをつんざく灼熱の隕石。

三人のプレイヤーがフィールドから吹き飛ばされそうなほどの大爆発。



その結果は――――



「無論! ガイ・アスラが打ち破るッ!!!」



当然の帰結として、ガイ・アスラはその氷壁を突き抜けた。

ダンのライフは残り1つ。

2つ以上のダメージを受け付けなくなるブリザードウォールでは、1つだけのライフは守り切れない。

灼熱の肉体は凍結する事なく、ダンの目前まで辿り着いたのだった。



ガイ・アスラが片腕を振り上げた。



「終わりだ、激突王ッ!!!」



大木の幹をそのまま鋼鉄にしたかのような、太く雄々しく漲った剛腕。

その威力は圧倒的。それに打ち据えられれば、ダンの身体など一瞬で吹き飛ばされるだろう。

ならばそれは、盾で防ぐしかないだろう。

そう、ライフと言う名の盾で。



「ライフで受けるッ!!」

「そう、これで終わりだ!!」



叩きつけられる。

バトルフォームの中心に嵌めこまれた青い宝石が光の盾を作り出し、その攻撃を受け止めた。

星龍が下す鉄槌の威力に圧され、ダンが踏み締める足が後ろへと下がっていく。

残った最期のライフ。それが、砕け散る。

パキィインと乾いた音を立てて砕け散るカードバトラーの命。



「うぐぁあッ……!!」

「ブリザードウォールなど意味はない――――最期のライフコア、砕いた――――」



ダンの足がプレイフィールドから離れ、背後に吹き飛ばされた。

しかしダンの身体がそのまま背後の崖に墜ちる事はなかった。



『今だ、遊馬!!』

「おおぉッ! トラップカード発動オープン!!

 ダメージ・ワクチンΩMAX!!!」



背後に回り込んでいた遊馬が吹き飛ばされるダンを受け止める。

そしてその瞬間、荒野のバトルフィールドにカードのARヴィジョンが出現する。

カードから現れるのは薬品が入った瓶。

それはダンの目前まで浮かび上がってくると炸裂し、中身の薬品をぶち撒けた。



ダンのバトルフォームにかかったそれが光を放ち、砕けた最期のライフの嵌っていた空洞の中に新たな命を灯す。



『ダメージ・ワクチンΩMAXは戦闘及び効果によるダメージを受けた時、

 そのダメージと同じだけ、ライフを回復させるカード。

 ガイ・アスラの攻撃によりダンのライフが0になった瞬間、このカードの効果でダンのライフは再び1に戻る。

 そしてブリザードウォールの効果によって、如何にガイ・アスラであろうとこれ以上の攻撃に意味はない』



最早ガイ・アスラは威力を増した吹雪の壁に弾かれ、男のフィールドに吹き飛ばされていた。

ブリザードウォールの壁を突破できるのは一度のみ。

もうガイ・アスラとはいえ、ダンのライフを削る事はできないだろう。



「バカな……激突王のライフが0になった瞬間、回復する間なく敗北が決まる……!

 何故回復したのだ……!」

「まだオレのライフポイントが残ってる!

 オレとダン。お前と闘ってるのは一人じゃない、オレたち二人だ!!」



ダンのライフが輝く。

死守してみせた最期のライフは、遊馬の言葉に呼応するかのように輝くを増した。

再び自分の脚で立ち上がるダンが、そのライフに手をあてて笑う。



「ああ、ありがとう遊馬。助かったよ」

『気にする事はない。もともと君のライフが削られたのは遊馬のせいだ』

「おぉ前のせいでもあるだろ! いーからお前は黙ってろ!」

「くっ……! カードを1枚セット、ターンエンドだ!」



伏せられるカードは当然デュエルモンスターズのカード。

そのカードに対する警戒、そして今なお君臨するガイ・アスラへの恐怖。

それら全て残っている。だが、もう関係ない。

そんなもの全てどっかに置いて、攻め込める安心感が生まれていた。



『勝つぞ、二人とも』

「「おぉ!!」」



続くのは遊馬のターン。

自身のデュエルディスクにセットされたデッキに手をかけて、カードを引き抜く。



「オレのターン、ドローッ!! ガガガマジシャンを、召喚ッ!!」



バトルフィールドに描かれる闇色の魔法陣から電光が迸る。
弾ける光を纏い、紫紺の魔導衣に身を包む魔術師の姿がせりあがってきた。

曲線に折れた三角帽子で顔を隠す魔術師。

赤紫色の三層に重ねたショルダーパッドを揺らし、

腰の八つの星が刻まれた黄金のベルトと、手足に巻くチェーンを擦り鳴らしながらの参上。

鼻を鳴らし、気だるげに立つ姿を見せつける。



<フ……>

「更に、ガガガマジシャンの召喚に成功したこの瞬間!

 手札のカゲトカゲの効果を発動! レベル4モンスターの召喚時、特殊召喚できる!

 来い、カゲトカゲッ!!」



魔術師の影から染み出すように、漆黒のトカゲが浮かび上がる。

ぎょろりと闇の中で蠢く赤い光。

その眼光で相手を捉え、薄っぺらな身体を地面の上でくねらせながら、魔術師の影の中から這い出てきた。



『行くぞ、遊馬!』

「かっとビングだぁ、オレェッ!!」



遊馬のフィールドに並ぶ二体の闇色のモンスター。

その二体が描く、希望の軌跡。

遊馬とアストラルがともに手を奮い、それと同時にフィールドで光が噴き上がった。



『「レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲをオーバーレイッ!

 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築ッ!!!」』



巻き起こるは渦巻き光り輝く大銀河。

ガガガマジシャンとカゲトカゲがその銀河の発生と同時に空高く舞い上がる。

二つの黒い光となって舞い上がるモンスターたちが銀河の中心へ飛び込み、新たな力を産み落とす。

その名は――――



『「エクシーズ召喚ッ!!!」』



現れるのは銀河の中心でそそり立つのは、白と金で輝く一振りの剣。

刃を構成していたパーツが開き、背部に回り込む。

スライド展開した細長いプレート状のパーツが重なり、翼のカタチを作り上げた。

剣の鍔となっていた部分が三層に開き、肩部となる。

露わになった内部が順々と解放されて、人型となる全身を構成していく。

顔面にあるスリットの中で真紅の眼光が煌めき、騎士兜を彷彿とさせる形状の頭部から三本の黄金角が現れる。



肩部に赤い光とともに刻まれるNo.の証ナンバリング

それこそがアストラルの記憶のピースである事を示す、特別なモンスターエクシーズの証明。

描かれる数字は39。



『「現れろ、No.ナンバーズ39 希望皇ホープ!!!」』

<ホォオオオオオオップッ!!!>



二つの光球を身体に取り巻かせながら、光の戦士が降臨する。

無限に広がる異空間の空からですら、希望の光を降り注がせる光の使者。

その腰に携えた剣の柄に手を乗せ、希望皇は主からの命令を待つ。



『……?』

「いっけぇえええ、ホープ!! クリボートークンに攻撃!!」



ともに放つ掛け声に感応し、降臨した希望皇ホープ。

しかしその状況、想定外の状況へと変わっている事を見止めたアストラルが眼を眇める。

お構いなし。遊馬は背後のアストラルを気にせず、ホープに攻撃の指示を下した。



その声と同時に柄にかけていた手を握る。

逆手に握ったホープ剣を腰部のホルダーから抜き放ちざま、投擲した。

回転しながら風を切り裂き、クリボートークンの一体を目掛け飛来する。



<く、クリィ~!>



小さい手を振り乱し、元から小さい身体を更に小さく縮こめるトークン。

戦士の攻撃はしかし、そんな防御には何の意味もないと真正面から斬り捨てる。

ブーメランのように舞うホープ剣がクリボーと何の事無くすれ違い、両断してみせていた。

ぱぁんと弾けてガラスのように砕け散るトークン。

そのままブーメランの軌道で返ってくる剣の柄を引っ掴み、ホープは荒野に降り立った。



「よっし!」

『遊馬、それで次のターン。ガイ・アスラの攻撃をどうやって防ぐ気だ?』

「へ?」



アストラルに声をかけられ、遊馬は相手のフィールドへと眼を送る。

一体減り、残り四体になったクリボートークン。

そして未だフィールドを席巻するガイ・アスラ、その超覚醒を支えるゲイル・フォッカー。

――――次のターン、攻撃表示のホープはガイ・アスラの攻勢に晒される。

戦闘破壊こそされないナンバーズであるが、このゲームのルールでは……

ガイ・アスラの一撃が通るたびに、800ポイントのダメージとなる。

次のターン、トラッシュからリフレッシュされたコアを全てゲイル・フォッカーに置き超覚醒すれば、

その攻撃回数は10連撃以上。耐えれる回数を容易に越えている。



「ぅあああああ!? やばいじゃん! どーすんだよ、オレぇ!?」

『ホープを守備表示で出しておけばよかったのだ。

 どうやら、君は雰囲気でデュエルを進める性質を持っているようだな。

 ――――仕方ない……遊馬、手札の魔法マジックカードだ』

「うぐぐ……これか! 魔法マジックカード、エクシーズ・ギフトを発動!!

 自分フィールドにモンスターエクシーズが二体以上いる時、オーバーレイユニットを2つ取り除いてカードを2枚ドローする!」



ホープの傍らで守備形態をとっていたテラ・バイトの周囲を取り巻いていた光が、遊馬のデッキに吸い込まれていく。

光を宿したデッキから、遊馬の指がカードを2枚引き抜く。

そのカードを見て、遊馬が僅かばかり表情を曇らせた。



「オレはカードを2枚伏せて、ターンエンド!」



荒野に出現する伏せられた2枚のカード。

そんな様子を見た男が嘲るように口許を歪め、咽喉を鳴らした。



「ふっ……どうやら良いカードは引き当てられなかったようだ。

 まあどちらにせよ、貴方のカード、戦術では我がガイ・アスラの攻撃を凌ぎきる事など不可能でしょうが」

「ぬぎぎ……好き放題言いやがって……!」



天空に聳える星龍が身体を揺すり、竜尾を振り回した。

巻き起る突風で砂塵が立ち、戦闘フィールドをかき乱していく。

立ち位置だけでなくもっと根源的な事。

ずっと高みから見下ろしてくるようなガイ・アスラを前に、遊馬は歯を軋らせた。



「大丈夫」



その遊馬に声をかけるのは、隣に立つダンであった。

バトルフォームの胴体に一つだけ残ったライフコアの輝きを強く保ち、ダンは一息に言い切った。



「あいつのガイ・アスラはオレが倒すって言ったろ?」



ダンの宣言に顔を顰めるのは男。



「しかし激突王、貴方のフィールドのスピリットはリザドエッジのみ。

 次のターン召喚できる程度のスピリットでは、ガイ・アスラにはとてもとても……」

「倒せるさ」



宣告する。

間違いなどなく、確実に達成される決定的な宣言。

その言葉に秘められた覇気を感じ取る男の顔が再び顰められた。



「オレのターン、スタートステップ! コアステップ、ドローステップ!」



プレイフィールドに光を伴い出現する青色のコア。

そしてデッキから引き抜かれるカード。

そのカードを眼にしたダンの唇が吊り上がり、喜色濃い表情に変わった。



「リフレッシュステップ! メインステップ!!」



続く手順の宣言に、トラッシュにおかれていたコアが全てリザーブへ。

そして開幕する独壇場。

激突王を激突王たらしめた強靭なる雷霆の降臨。

天裂く雷、その降臨を導く極大のコストを生み出す繋がり。

絆を繋ぐカードがダンの手札から切り放たれる。



百瀬華実に導かれて幕を開けた異界を舞台にした活劇。

マギサ、勇貴、魔ゐ、クラッキー、硯、剣蔵、ジュリアン――――異界王。

様々な人々との出会い、バトル、それら全てを積み上げて、最後の最後。

パンテーラの心とともに生まれ落ちた龍の咆哮が手札の中で巻き上がる。

その雄叫びを解放するカードこそが、友から託された1枚のカードに他ならない。



「さあ、行くぞズングリー!! マジック! ビッグバンエナジーを使用!!

 このターン、手札にある系統“星竜”を持つスピリット全てのコストを、自分のライフと同じ数にする!

 オレのライフは残り1つ。よってこのターン、系統“星竜”を持つスピリットのコストは1となる!!」



ダンが手の中で保持する手札のうち2枚、それこそが星竜。

超新星に等しいエネルギーが星を冠する竜に注ぎこまれ、その眠りを半ば強制的に解き放っていく。

赤のコアが持つ燃え滾るエナジーを溢れるほどに膨れさせるカードからは炎が立ち上り、周囲の大気を焦がすほどに。



「ビッグバンエナジー……まさか、超神星龍を喚ぶというのか!」



超神星龍。

彼の激突王のみが持ち得る、原初の星竜。

その流星の翼はあらゆる敵を撃ち払い、苛烈な咆哮とともに放つ激突はいかなる敵を圧し潰す。

月をも、太陽ですら砕く地球と等しい幻羅星龍に唯一対抗する、超星龍。

最早伝説となってその名を轟かす存在こそ。



手札に温存されていた最強の切り札。

その存在こそが、ダンに残されている唯一無二かつ絶対的な逆転の秘策。

再びダンの頬が緩み、口許が吊り上がる。

翳した掌の中で燃え滾る炎に燃える1枚のカードを振り抜き、相棒を召喚。

それこそが超新星の布石。



「雷よ、天を裂け!! 雷皇龍ジークヴルムをノーコスト、Lv1で召喚!!」



天に奔る幾条もの雷光。

それはまるで、雷光を束ねて纏う雷皇龍の降臨を祝福するかのように猛りを上げる。

直後、ダンと遊馬が立つフィールドの背後。バトルフィールドの下から翼が立ち上った。

へ、と遊馬が突然のバックアタックに呆ける間にも、雷皇龍はその姿を露わにしていた。

背後の崖から立ち上る真紅の星竜が雷鳴の如き咆哮を上げる。



「ジーク…ヴルム……!」



果たして、激突王がその名を称される所以。

紅蓮の稲妻を鎧い奔る閃光の激突撃。

“ヴルム”の名を冠する星竜特有の輝石の瞳に雷光を漲らせ、激突龍はフィールドに降り立った。

――――そして呼び醒ます。

紅蓮の星の生誕とともに生まれ出でた、旧き龍の真祖。



「そして、ジークヴルムを転召―――――!!」



――――転召。

深き眠りについた魂を呼び起こす、力を秘めたコアが発生させる生誕の波動。

フィールドにて力を奮うスピリットの宿すコアを媒体とし、より深層に沈んだコアの眠りを醒ます奥義。

此度、紅蓮の稲妻を纏う龍の命を増幅装置として利用し、目覚める龍こそ“ノヴァ”。



フィールドに降り立ったばかりの星竜が猛りを上げ、その身に纏う覇気を発散させる。

ヴルムが脚を降ろす大地が発破し、砂塵と爆炎を巻き上げながら転召の渦を成していく。

滾る火炎に晒される虚空にジークヴルムが宿していた赤い命の宝玉が現れる。

赤コア。激突龍の魂、その命であり魂であり絆であり願いであるピースが――――今、新星の時を迎えた。



「紅蓮の星より生まれし龍よ! 来たれ!!

 ―――――超神星龍ジークヴルム・ノヴァ、Lv3で召ォ喚ッ――――――!!!!!」



コアが弾けた。

パァッ、とフィールド全体に広がる赤光の波。

その名に反して静かに、その名に反して優雅に、その名に相応しくないほどゆっくりと――――

如何なる最強と讃える名ですら不足なほど絶対的な輝神が舞い降りた。



紅蓮の翼はより強靭に力強く天へと広がり、

細身だった紅蓮の肉体は見違えるほどにマッシヴに変容し、

龍の身を包み込む白銀の鎧が装着され、

更にもう一対、希みと願いが形作る光の翼が背後から出現した。

ヴルムが持つ輝石の瞳は変わらず、力が満ち満ちている。



「く、ぬっ……!」



大気が爆ぜる。

星誕から救星に到るまで全てを紡ぐ、最強の赤きスピリット。

神鳴る産声を上げ、激突王最大最強の切り札はここに降臨した。



『これは……これが――――』



アストラルから感嘆が零れ落ち、遊馬も半ば呆けている様子でそれに見入っていた。



馬神ダンが異界魔女マギサから授けられた力、バトルフォーム。

それもまた、激突の王が使役する最強無比の力の逆流に巻き込まれ、強制的に全力の稼働を誘発された。

両肩部の角が展開し、そのうちからノヴァの光翼と同質の翼が噴き出す。

――――更にそれだけではない。



「超神星龍ジークヴルム・ノヴァの召喚時効果!!

 ジークヴルムを転召させ召喚した時、自分のライフを5つにする!!!」



迸る炎の渦が、バトルフォームの四つの空洞に叩き込まれる。

その炎が産み落とす、新たな命の欠片。ライフコア。

幻羅星龍の猛攻に晒され、削り取られた命。それらが全て、超新星に伴うエネルギーの余波で再生した。



「ぐぅ……これが、ノヴァだと……!」



余りに圧倒的。

これまで幻羅星龍ガイ・アスラがその絶対的な力、超覚醒をもって見せつけた絶望的な恐怖すら、

超新星のエネルギーがそれを塗り潰す。



「行くぞ、アタックステップッ!! 超神星龍ジークヴルム・ノヴァのアタックッ!!」



ダンの声と共に超神星龍が動いた。

紅蓮と輝光、二対四枚の翼を同時に広げて宙空へと飛び立つ。

――――主の命、その新生こそがこの龍の力か?

是であり、しかし否。

それは超新星が巻き起こしたエネルギーの余分に過ぎない。

最強の龍の持つ能力、その真骨頂。それは――――



「超神星龍ジークヴルム・ノヴァ! Lv2、3のアタック時効果!!

 相手スピリットを合計BP10000まで選択し、破壊する!!

 オレは飛鋼獣ゲイル・フォッカー及び、クリボートークン4体、合計BP5200を指定して破壊する!!」



空に舞い上がったジークヴルム・ノヴァは光の翼を大きく広げ、バトルフィールドを見下ろす。

存在するのは幻羅星龍と、その眷族たる鋼の獣。そして、おおよそ戦闘には向かぬ4体の小悪魔。

それら全てを眼下に置き、超神星龍は咆哮をあげた。

同時に、光の翼から迸る光の弾丸。その弾丸が数え切れぬほどに無数、フィールドに向かって吐き出された。

極彩色の弾丸は最早スコールの様。

その合間を潜り抜け、躱してみようなどと思ってみるだけ無駄であろう。



飛鋼獣ゲイル・フォッカー。

その名に冠する通り、鋼で造られた狐である。

更にその名の如く飛行する能力を持つ、月をも太陽すら呑み砕く幻羅星龍の眷族三柱の一つ。

自らの王を呼び覚まし、狂おしいほどに荒れ狂う超覚醒を支える力を持つ魔鋼獣。

――――だが、それだけではない。

最強の龍の侍る眷族もまた、並みのスピリットなど一息に擦り潰す程度の力くらい持ち合わせている。



万全にして迎え撃つのであれば、全力を発揮する紅蓮の稲妻たる雷皇龍とすら肩を並べるほどの傑獣。

どれほどのスピリットが起とうとも、その一撃を王とする幻羅星龍まで届かせすらしない。

有象無象など、絶対なる超覚醒の牙にかけるまでもなく眷族が咬み砕くのだ。

そう。そうだった。



だと言うのに、それは来た。



尾の先から炎を噴き出し、雷皇龍の激突すら真正面から迎え撃つにたる速力を持って飛ぶ。

全てを呑み干し、がらんどうになっていた筈の相手のフィールドから来るのは龍。

生じた超新星の威力を持って生まれ出でた星竜。



紅蓮の翼で羽搏き舞い、輝光の翼を奮って放つ光の雨。

さながら降り注ぐ流星群の様だった。

絶え間なく墜ちてくる星の欠片を死力を尽くして回避してみせながら、鋼の狐は恐怖する。

唯一無二、絶対者だった筈の幻羅星龍すら脅かす超神星龍の力を。



降り注ぐ光の星は止まない。

一度の羽搏きで千の星が、二度羽搏けば万の星が、地上の荒野に撒き散らかされる。

落下した星は爆破し、炎と砂塵を巻き上げてフィールドを更に荒らし尽くす。

同時に指定された小悪魔たちは一瞬の間に燃え尽きていた。この修羅場、それも当然か。



天に立つ超神星龍を中心に乱雑に散らかされる光は、まるで光の花のようだった。

光の花弁が無数と散り、地上に蒔かれて今度は炎の花を咲かせる。

なるほど、と。恐怖の中で狐の本能が納得した。



地上で咲き誇る炎の花園。

爆炎が溢れ、まるで地獄のような光景を造り出された中。

炎の花は天頂でそびえる超神星龍が纏う白銀の鎧甲を赤く赤く照らし染め上げた。

これが、星に匹敵するエネルギーを持つ龍、星竜たちの戦場だ。

同じ場所にいるだけでしかないただの狐の身には余る、遥か彼方にある高度戦域。



ならばそれも必然だろうと。

十万の流星を掻い潜り、命辛々生き延びていた狐の身体に一撃、星が中った。

弾け飛ぶ下半身。

飛行するに要する尾も当然失くし、飛行していた勢いのまま地面に叩き付けられ――――

流星群の降り注ぐ爆心地に身を投げ込む事となった。

瞬間に数千か、幾万か。流星群は瞬く間もなく狐の存在を消滅させていた。



それほどの流星群。

――――と、なればそれこそが超神星龍の真骨頂か。

無双の豪傑であろうとも、蠢く無数の軍勢であろうとも、一息に消滅させる天より降る星罰。

是であり、しかし否。

それは龍血燃ゆる戦場を開幕する烽火にすぎない。

真価と称するには、些か以上余りに粗末だろう。



ならば何か?

真正の古龍にして、超新星とともに生まれ落ちた最強の龍の真価とは。

決まり切っている。たった一点、転召より始まる三つのスキル。

四種のスキルホルダーである超神星龍のその力が最高潮に達するLv3の時のみ。

それは発現する。



「ぐぅっ……! ぬぅうううっ……!!」

「そしてメインのアタックッ!! 行け、超神星龍ジークヴルム・ノヴァ!!

 ――――――超神星龍ジークヴルム・ノヴァLv3のアタック時効果―――――!!!」



それこそ、



「――――――“激突”――――――!!!!!」



それこそ超神星龍の本領にして真骨頂。

立ち塞がるモノは何であろうと激突し、破砕し突き抜ける一撃。

数多の能力など余分にすぎない。

最大にして最強にして究極に研ぎ澄まされた一点。

―――――“激突”



吼える。

燃え滾る灼熱の吐息をこぼし、超神星龍は自ら撒いた光の雨の残照を突き抜け奔る。

眼下、広がるのは閃光のスコールに喰い潰された荒野のバトルフィールド。

しかしそこには、未だ影がある。

ダン、遊馬側のフィールドに流れ弾一つ及んでいないのは当然として、敵陣の中にも。



無数に墜ちた流星の雨の中、それでも無傷を保ち存在できるものなど限られている。

燃え盛り、果ては地獄に到るだろう大地の様。

立ち上る火の粉と黒煙の内で黄金の眼光を鋭く研ぎ澄ますは、言うまでもない幻羅星龍。

激突に達するまでのほんの数瞬。



今から巻き起こる最大最強の激突が、この戦場の未来をも決定するかのような。

見るモノ全てにそんな錯覚を起こすまで整えられた燃え盛る戦場。



次の瞬間。二龍の身体が衝突し、周囲を焦がす灼熱の風が弾け飛んだ。

灼熱の龍は、紅蓮の龍が描く不規則な飛翔軌道を黄金の瞳で捉えていた。

光の翼を噴き、ランダムに身体を返しながら距離を詰めてくる超神星龍。

受けて起つは灼熱の澱の中でともにたゆたう幻羅星龍。

衝突の瞬間、二体の龍は両腕を前に突き出し、互いの両手を絡ませ組み合っていた。



「激突の効果――――相手スピリットは可能な限り、このアタックをブロックする!

 回復状態のガイ・アスラ、受けてもらうぞ――――!!」

「チィ――――ガイ・アスラでブロック!」



紫電が散る。

互いの内包するエネルギーがぶつかり合い、破裂し、撒き散らかされていく。

組み合い、押し合い、圧し合ったのはほんの五秒に満たなかったろう。

互いに生まれたばかりの星と化したバトルフィールド、灼熱の溶岩と噴き出すガスに満ちる戦場の中で吼えたてた。

同時に超神星龍の光の翼が大きく拡大し、幻羅星龍の外殻から真紅の炎がこぼれ出す。



相対する龍の目的はつまるところ同質。

即ち敵の殲滅に他ならない。

故に、直後に選択した行動もまた、同質の回答となって結実する。

超神星龍が広げた光の翼からは極彩色の流星群が。

幻羅星龍が巻き起こす真紅の奔流は炎塊と化して燃え盛る。

ガスがその炎に反応し、着火して爆裂した。



二体が膨れ上がる爆炎に呑み込まれ、

荒野のバトルフィールド3分の1が再び、天高く立ち上る炎の柱に包みこまれた。

果たしてその中から生き延びる存在は。

炎の中から飛び出したのは二つの影。ともに、そんな炎などで灼ける柔な肉体ではない。



炎の壁を突き抜け、大気の中に戻ると同時にガイ・アスラが身体を捩る。

鞭の如く撓らせて竜尾が奔った。

燃え立つ風切り音を薙ぎ払いながら放たれた一撃は、ジークヴルム・ノヴァの胴体を打ち据える。

白銀の鎧を直撃し、砕けぬまでもしかしその身体を横合いに向けて大きく吹き飛ばす。

その巨体がもんどりうち、灼熱の大地に叩きつけられた。



「ノヴァはBP15000! ガイ・アスラのBP13000を上回る!!」



砂塵を巻き上げて倒れ込んだ直後、地面を翼で打ち叩いた反動で引っくり返って起き上がる。

起き上がると同時に首を撓らせ、口腔に蓄えていた灼熱の弾丸を解き放つ。

狙いは過たず。真正面で下半身を振るった姿勢で止まるガイ・アスラへ放たれていた。



防御する間も与えずに。反撃の炎は幻羅星龍の頭部へと突き刺さった。

爆発、そして再びガイ・アスラの身体が拡大する黒煙に包みこまれる。

更に止まらない。一度の羽搏きで飛び立ったノヴァは、その黒煙の中に突入する。

直後に内部で破裂音。次いで二度、三度と同質の破裂音が響いた。



四度目の音とともに、黒煙の中からガイ・アスラの巨体が弾き出された。

続き出てくるノヴァは羽搏きで黒煙を散らし、飛び蹴りの姿勢で飛翔する。

体勢を崩して吹き飛ぶガイ・アスラに全速力、蹴撃の構えで放たれる激突撃。

胴体に叩きつけられる脚部の威力で胸板が罅割れ、黒炎を撒き散らしながら吹き飛ぶガイ・アスラ。

黄金の眼を歪めてその攻撃を受けながらも、しかし幻羅星龍は即座に反撃を試みていた。



宙に舞う超神星龍の脚に絡み付く竜尾。

飛翔しようと羽搏く四翼の推力を引き下ろし、その身体を地面へと叩き落とした。

ノヴァの身体が岩塊を巻き上げながら沈む。

更に続く。竜尾と脚部で結んだ接点を思い切り引っ張る。

叩き付けられた威力を受けた直後、そのままガイ・アスラの目前まで引き寄せられるノヴァ。

引き寄せた怨敵に見舞うのは、振り上げた鉄拳の一撃―――――!



引き絞り、半秒だけ力を溜めて振り放つ拳。

それが放たれ、自身に届くまで要する百分の一秒。

間隙と呼ぶには余りに刹那的な時間の中で、ジークヴルム・ノヴァが持つ輝石の瞳が一際碧光に輝いた。

自らを捕らえる竜尾が結ぶ自身の脚部を支点に身体を振り回し、振り上げるは残ったもう一方の脚。

それは突き付けられるガイ・アスラの腕の肘関節へと。

ミシリと筋が軋みを上げ、拳の一撃が途中で止められる。

一瞬だけ静止するガイ・アスラ。その巨体に捕らえられたまま、ノヴァは紅蓮の翼を一度羽搏いた。

ぐりんと大きく反転し、腕に叩き込まれていた蹴りが、そのままガイ・アスラの顎へと振り抜かれる。



直撃。

盛大な破砕音を響かせながら、頭部を後ろに逸らせる。

意識を吹き飛ばす一撃を受け、ガイ・アスラが拘束に使っていた竜尾の力が緩んだ。

力任せに捕らわれの脚を引き抜き、自由を取り戻すノヴァ。

その引き抜いた勢いのままに身体を二回転。

勢力を全部乗せた拳を、今度はガイ・アスラの脳天へと叩き込んだ。

下からの急襲、そして上からの追撃に中身をシェイクされ、朦朧とした意識のままガイ・アスラは大地へと失墜する。



「ヌゥ……チィ!」



ノヴァが最期の一撃を見舞う為に、炎を纏って飛翔した。

大地に埋もれた星龍を目掛けた一直線の激突撃。

殺到する紅蓮の超新星を前に、男が唸りを上げて手札から1枚のカードを切った。



「仕方あるまい……! 
 フラッシュタイミングにマジック、メテオフォールを使用……! ガイ・アスラのBPを+2000!」



激突の構えで、炎に燃える身体が地面を抉り取る。

本来ガイ・アスラを目掛けて放たれていた一撃は外され、大地を削り取るのみに終わった。

ならばその場で沈んでいた筈の幻羅星龍はどこか。

輝石の瞳を左右に、そして上下に振るい位置を確かめようとするノヴァ。

相手の居場所を探査していた超神星龍の頭が止まる。

見据える場所、ガイ・アスラの居場所は遥か高く、天空の中で身を放り出していた。



竜尾を振り上げ、頭を下にする格好での飛行。

地上から見上げるノヴァと視線が交差し、碧と黄金の光が交わった。

メテオフォールの名の通り、さながら隕石の様に地球は直下する。

小手先の技を無視した、純粋に硬度と速度のみを比べるためのもの。

その攻撃の発動を見たノヴァが大地を踏み切り、翼を広げ、炎を鎧い、飛び立った。

互いに全速力を尽くしての衝突。



「互いに攻撃力は15000―――――!」

『相討ち……』



天空で二体の星竜が相見えた。

灼熱の波濤を伴いながら共に繰りだすは己が一身をかけた突撃。

バトルフィールドの丁度中間の空で、衝突する。

爆ぜる空気を灼きながら迸る衝撃波が、三人のプレイヤーに襲いかかる。



空に咲いた爆発の炎。それは間違いなく、互いの星竜ともに消滅した事を示していた。

だが、と。

ダンが手を振るうとバトルフォームの肩部、角から生えた光の翼が羽搏いた。

極彩色の羽が風に乗り、渦巻いてバトルフィールドに舞い落ちる。



同時、ダンたちの背後に聳える古代神殿に祀られる宝玉が光を放つ。

それこそ、今世にビッグバンを再現する太陽の石――――!



「ネクサス、太陽石の神殿Lv2の効果―――――!!」



ダンがグローブに包まれた手を自分の肩に叩き付ける。

バトルフォームに嵌めこまれたライフコアに手をかけ、引き抜いた。

前方に突き出す手の中で輝く、青色のコア。

もぎ取られたコアの輝きが増し、その光がまるで炎の如く燃える。

噴き上がる紅蓮の柱、再び新生する命の力。



「自分のアタックステップ時、“激突”を持つ自分のスピリットが破壊された時、

 ライフを一つボイドへ送る事でそのスピリットを回復状態でフィールドに戻す―――――!

 蘇れ、ジークヴルム・ノヴァッ!!!」



業火とともに新生する。

コアが盛り上げる猛火の中から、超神星龍が現世へと帰還した。

幻羅星龍すらも打ち破り、超神星龍はフィールドを席巻する。

唯一の敵対存在を先の激突で討ち取った事で、

このフィールドの覇権を握るのは間違えようもなくノヴァに違いない。



その上、太陽石の光は超神星龍のエネルギーを万全まで充足させる。

疲労していた筈のノヴァは漲る活力に任せ、再びの咆哮をあげた。

雄叫ぶ龍の声に応じるのは、無論激突王。



「再び超神星龍ジークヴルム・ノヴァでアタック!!

 お前のフィールドにスピリットがいない今、アタック時効果は全て発動しない――――!!

 行け、ノヴァ!!!」



荒れ果てたフィールドを震撼させる星竜の咆哮。

紅蓮の翼で風を叩き、光の翼で空を裂く。

相手スピリットに問答無用で襲いかかる激突の効果は今、適用しようがない。

言わずもがな、合計BP10000以下のスピリットを破壊する効果もだ。



地表近くに漂う砂塵を吹き飛ばし、男の立つプレイフィールドへと殺到する。

減速はしない。圧倒的な速力、質量。それを最も活かす方法など、悩む必要もなく一択。

そのまま全速全力を注いだ体当たりに他ならない。

自らが傷つく事を恐れて退く事などありえない。

故にそれでこそ、激突王なのだから―――――!



「ライフで受けようッ――――!」



衝撃。

男の前方に展開されたライフの光、盾となったその光にノヴァの激突が突き刺さる。

暴虐なまでの破壊圧に軋みを上げる光の盾。

バキバキとガラスが砕けるように剥がれ、散っていく光。

最後の一欠片まで砕き付くし、ノヴァの身体が男の元から弾け飛ぶ。



しかしそれで幕を下ろすわけではない。

ノヴァの口腔に溢れ返る炎の渦。集束していく炎を前に、再び男の前に光の盾が出現する。



「ぐっ……!」

「ジークヴルム・ノヴァはダブルシンボル……ライフを2つ貰う!」



龍の息吹が放たれる。

超新星の巻き起こす業火を前に、その命の灯は余りに儚い光。

ほんの数秒持ち堪える事叶わず、光はあっさりと焼き尽くされた。



バキンと乾いた音をたてて砕け散るライフコア。

ダブルシンボルの宿す力、2つのライフを砕かれて残るのはたった1つのコア。

攻撃を終えた超神星龍は荒々しく地面に降り立ち、反動でダンの許まで滑り込んできた。

そして、疲労状態で戻る超神星龍に続き戦場に向かう。



「続け! リザドエッジでアタック!!」



丸い体型の、背に刃を背負ったトカゲが走る。

短い脚で灼熱に焦がされた大地を走り抜け、目指すのは男が持つ最後のライフ。

だすだすと地面を踏み鳴らして走るトカゲが、一足跳びで届く範囲に男を捉えた。

一歩、歩幅を大きく狭めて溜める動作。

流れるように地面を踏み切り、男を目掛けて跳び込んだ。

丸まっての体当たり。それが、男の最後のライフを砕く――――!



トラップ発動!! リビングデッドの呼び声の効果を使わせてもらおう!

 墓地トラッシュのガイ・アスラをLv3、攻撃表示回復状態で特殊召喚!!

 ガイ・アスラでリザドエッジのアタックをブロックッ!!」



跳び上がったリザドエッジに向け、地面から腕が生え伸びて来た。

黒鉄の如く頑強な剛腕が思い切り振り切られ、あっさりとリザドエッジを捉えた。

そのまま腕が向かうのは荒野の大地。

リザドエッジがまるでハエ叩きに捉われたハエの如く、地面へと叩き付けられ圧殺される。



「リザドエッジ!」



地面を粉砕する勢いのままに、奈落の底から這い出てくる幻羅星龍の姿。

瞳に湛えられた黄金の光は憎悪に濁り、ダンたちのフィールドに在る超神星龍へと向けられていた。

闇色の渦、奈落の門を這い出た幻羅星龍はゆっくりと飛翔し、唸りを上げる。

渋面を作ったダンが絞り出すように言う。



「ターンエンド……」

「二度までも幻羅星龍を滅ぼすとは、流石激突王と言わざるを得ないですよ。

 流石は龍星皇、流石は超神星龍―――――流石は激突王・馬神弾……

 いえ、激突王だけでない。九十九遊馬、先程のカバーは見事。

 あれを決められたおかげで激突王はコアを充足させ、かつ超神星龍に繋げる事で無傷にまで回復した」



対する男は饒舌に語る。

同時に増幅するコアの輝き。

コアステップでコアが増え、更に続けてカードをデッキからドローする。

手札に加えたカードを横目で確認すると、次はガイ・アスラがその身を起こす。

トラッシュのコア、フィールドのスピリットを回復させるリフレッシュステップ。



「更にカバーに入る九十九遊馬のフィールドには、戦闘では破壊されぬ鉄壁のモンスター。

 出会ったばかりであるカードバトラーとデュエリストでありながら、なるほど。

 これは突き崩すに難い布陣」



男が送る視線の先には、ホープとテラ・バイトがいる。

守備表示で身を固めるテラ・バイトの守備力は2900。

数値の上では、ガイ・アスラの三眷族の攻撃にも耐えるまい。

しかしNo.ナンバーズが持つ戦闘破壊に対する耐性。

それがある限り、いかな幻羅星龍と言えど単身での突破は不可能。

だがしかし、このターン九十九遊馬は欠点を残した。



「ならば、ホープを攻撃表示で残したこのターン!!

 超覚醒により全てを薙ぎ払う―――――モンスターは破壊されずとも、その命の全てはここで散る事になる!!

 リザーブよりガイ・アスラへコアを移動。ガイ・アスラのコアを9つへ!

 そして、蛇竜キング・ゴルゴーをLv2で召喚――――リザーブに残るコアは全てキング・ゴルゴーへ移動!!」



赤コアの輝きと共に、首から先が大蛇のようになっている竜が召喚される。

先程フィールドへと呼び出されたモノと同種。

幻羅星龍の三眷族の一柱にして、その戦闘力を更に盤石とする蛇竜。

四足で大地を叩きながら走り、幻羅星龍と並び立つ姿こそ元来から蛇竜が持ち合わせた宿命に相違あるまい。



「ではバトルを仕掛けよう――――!

 ライフコアを持たないプレイヤーに対しスピリットがアタック宣言を行う際。

 相手がスピリットをコントロールしておらず、相手フィールドにモンスターのみしか存在しない場合、

 そのスピリットの攻撃は選択したモンスターに対する指定アタックとする!!

 希望皇ホープへ指定アタック! 行け、蛇竜キング・ゴルゴーッ!!」



蛇竜が首を振るいつつ咆哮を上げた。

幻羅星龍の超動を前に、蛇竜の疾駆が戦端の開幕を告げる。

向かう先にはホープ剣を構える希望皇。

そしてそのBPは5000に及ぶ。希望皇と言えど、切り裂く事のできる威力を逸脱している。



土煙を巻き上げながら走り来る蛇竜に向け、ホープはそれでも剣を振り上げた。

背部の翼を上向きに広げ、両手で振り上げた剣を蛇竜に首に向け叩き下ろす――――



ガギン、とまるで鉄を打つかのような音。

否、ホープ剣の鋭さを持ってすれば鉄だろうがまるで豆腐の様に切り落とすだろう。

蔓延る鱗に守られた蛇竜の肌は、希望の光に鎧われた剣閃ですら徹さない。

キング・ゴルゴーはまるで何でもないかのように首を撓らせ、刃向かうホープを吹き飛ばす。



「ホォオオオプ!!」



弾き飛ばされるホープ剣。

それは大きく飛ばされて、バトルフィールドの荒野ど真ん中に突き刺さる。

元よりホープの腰に携えられた剣は二刀。

一刀失ったとはいえ、二刀目を抜き放てば時間を稼ぐ事もできよう。

だがしかし、この圧倒的力量の大差を見せつける蛇竜にそんな事をしてなんになろうか。

攻撃力は差にして倍する数値の持ち主。

剣は徹らず、首の一振りで巻き上げられる。



『遊馬! トラップを使え――――!!』

「ぐっ……トラップ発動! ダメージ・ダイエットッ!!!」



身体を180度捻り、尾を鞭のように振るっての一撃。

撓る竜尾に強かに打ち据えられたホープの身体が再び舞い、

プレイフィールドの直下となる岩壁に叩き付けられた。

そして発生するダメージが、キング・ゴルゴーの咽喉奥で滾る。



壁に埋まるホープを目掛けて、絞り出された火炎弾が吐きかけられる。

対するホープは回避も儘ならぬ様だ。

その身体の周囲に纏う光を用いるのであれば、回避を飛び越して無力に出来るだろう、が。

ドォンと直撃を報せる爆音が響き渡り、フィールドを震撼させた。

白い身体を黒く焦がしながらも耐える以外にない。



突き抜ける熱風は、ホープのコントローラーたる遊馬に向かって襲いかかる。

灼熱の風がフィールドを突き抜け、プレイフィールドで立つ遊馬の身体を撫でていく。

肌を焼く炎風に身を焦がしたものの、しかしそのダメージは最低限まで減少させられていた。



「ダメージ・ダイエットの効果!

 このターン、オレの受ける全てのダメージは半分になる!」

『よって、シンボルを1つしか持たないスピリットの攻撃で削られるライフは400ポイント!』



遊馬の言葉を継ぎ、説明したアストラルのセリフ。

それに次いでARヴィジョンで投影されたライフカウンターの数値が2800の値を示す。

荒れ狂う熱風にこそぎ取られたライフの数値はしかし、確実に減少している事に変わりない。



男は微かに顔を顰めて舌を打ち鳴らすと、その手を次なるカードへと向ける。

伸ばされた手が辿り着くのは、間違いなくもガイ・アスラであった。



「悪足掻きをッ……! 続け、ガイ・アスラッ!!」



身体を揺すり、幻羅星龍が鳴動する。

壁へと手を圧し付け埋まった身体を引き出しているホープに向け、ガイ・アスラが奔る――――

灼熱の鎧に包まれた身体は、その威力を存分に発揮する。

超神星龍に譲るとは言え、この一撃に内包された力がホープからすれば途方もない威力なのは変わらない。

更に、幻羅星龍の真価はここではないのだ。



「フラッシュタイミング!

 超覚醒を使用、コアを蛇竜キング・ゴルゴーよりガイ・アスラへ移動し、超回復ッ!!

 更に―――――!!」



幻羅星龍の真価はその超覚醒にこそある。

コアの光が照らす限り、その威力は幾度となく遊馬たちへ牙を剥く。

そして超覚醒こそが幻羅星龍の真価であり、そこに付随するのは彼の星竜が持つ本領。

超神星龍が4つのスキルを有すると言うのであれば、幻羅星龍は4つの階位の頂に立つ。



変貌、変容、変態。

膨大なまでに膨れ上がる幻羅星龍の質量は、最早一個の生命体としての限度を超越していた。

竜尾が内側から膨れ、弾けた。荒野のフィールドを叩き落ちる闇色の巨体。



―――――それを何と形容するべきか。

毒々しい闇色に染まった巨体でバトルフィールドの荒野を半分占領し、咆哮をあげる。

下半身と呼ぶべき巨体には無数の牙が立ち並び、大口が開いていた。

尖鋭な外殻に包まれていた上半身はその鎧の大部分を削ぎ落され、

それどころか顔すらも喪失した様はまるで人形。



身体の頂点の身体に生えた二本の手は、三叉の槍と剣を振るう。

大口を開けた胴体の上部から突き出た腕は四本。

大槌、両刃の戦斧、そして奇形の剣。その有様はいかなる戦神か。

胴体の左右両端から生えるのは、まるで脚のような巨大な五指腕。

その、最早面影すら見当たらぬ異様こそが、幻羅星龍本来の威容。



「幻羅星龍ガイ・アスラLv4――――――!!!

 BPは―――――――30000ッ!!!」



胴体から伸びる巨腕が振るわれる。

その腕は壁面に叩き付けられたままのホープへ向かい、岩盤ごと圧し砕いて潰しにかかる。

遊馬たちが立つバトルフィールドの土台が粉砕され、フィールドが揺れ動く。



「攻撃力、30000っ!?」



弾け飛ぶ岩塊の欠片が遊馬に襲いかかり、身体に衝突する。

そのたびに光る遊馬の身体。

ダメージ・ダイエットの守護がある限り、いかなるダメージも威力は半減する。

ガイ・アスラがどれほどの破壊力を有していても、あくまでその力はシングルシンボル。

遊馬を襲う突き抜けた威力は、400にまで減少させられていた。



「ホォオオオオオオプっ!!」



遊馬のライフポイントが2400に。

岩壁に叩き付けられているホープが苦しげに身をよじる。

それだけでホープやノヴァの全長を凌駕する腕での侵略は、しかし終結などしていなかった。



「更にガイ・アスラでアタック――――!

 フラッシュタイミング、超覚醒を発動! その効果により、キング・ゴルゴーよりコアを移動!!

 そして超回復ッ!!!」



キング・ゴルゴーが吼え立てる。

それと同時にコアが一つ吐き出され、ガイ・アスラに吸い込まれていく。

今なおキング・ゴルゴーの有するコアは6つ。

それは、その回数分だけの超覚醒を示している。



「くっ……希望皇ホープの効果はつど、」

『待て遊馬! ギリギリまで耐えろ。

 ガイ・アスラの超覚醒が相手では、今ホープの効果を使っても焼け石に僅かばかりの水をかける事にしかならない!』

「っ………!」

「何をしようと無駄だ。受けよ、超覚醒の侵略を!!!」



腕の五指が閉じられる。

握り込まれたホープの翼が軋みを上げて、全身に鎧われる装甲に罅が奔った。

そのまま遊馬たちのフィールド側から、ガイ・アスラの目前まで引き上げられるホープ。

ゆっくりと上へと引き上げられていくホープを掴む腕が、大きく掲げられる。

――――瞬間、その腕が真逆の方向へと振り落とされた。

砲丸の如く投擲されたホープが大地に突き刺さり、砂塵を柱と立ち上らせる。



「ぐぅううううっ……!」



ホープに叩き込まれた衝撃が、ダメージとなって遊馬を襲う。

削られるライフが示す数値は2000。

そして無論、ガイ・アスラの侵攻は継続される。



「行けぃ、ガイ・アスラ!!

 超覚醒により超回復! 再びホープを薙ぎ払えィ!!」



戦斧が奔る。

土煙の柱を切って裂き、振り下ろされた斧はそのまま大地へと突き刺さる――――

直前、ガギンと金属同士がへし合う甲高い音に阻まれて途中で止まった。

その正体は、打ち伏せられてなお立ち上がり、剣を振り上げたホープに他ならない。

刀身が撓り、悲鳴を上げる中。

それでもホープはその戦斧の一撃を圧し止め、大地をしかと踏み締めて迎撃してみせた。



超重量を誇るガイ・アスラの一撃もまた、同一の重力下にあるとは思えぬほどに重い。

ホープは翼で重心を器用にコントロールしながら半歩だけサイドステップ。

火花を散らしながらホープ剣と擦り合わされ、受け流された地面へと叩き込まれる戦斧の一撃。



全く持って比べようがないほどの絶撃。

組み合えばホープ剣が折れるが必定。

しかし威力を十全と発揮されなければ、そんな一撃と言えど躱す事だけはできよう。

翼を広げ、何とかガイ・アスラから距離をとらんとバックへ跳ねるホープ。



光の帯を引き摺りながら軋む希望の翼。

出し得る最速の機動で背後へと弾け飛ぶホープの前で戦斧が大地を割り、吹き飛ばした。

その隙にとばかりにホープは可能な限り後退しようとし――――

ゴッ、と横合いから襲撃する黄金の戦槌の追撃に見舞われた。



翼に罅を奔らせ、砕け散る破片を僅か散らしながらホープが舞う。

肩から滑り込むように地面に落ち、転げ、荒野を削りながらバトルフィールドの端へと。



「ぐっ……!」



遊馬のライフが1600に。

突き抜ける衝撃にたたらを踏み、落ちそうになる膝を堪えて立ち続ける。

たとえトラップカードが織り成す結界で身を守ろうと、その攻勢の激烈さはそれを容易く突破する。

ガイ・アスラが胴体から生えた巨腕を掲げ、地面に倒れたホープに向かって振り下ろす。



「更なる追撃――――行け、ガイ・アスラ!!

 超覚醒の効果によりキング・ゴルゴーのコアを移動! 回復させ、追撃の構えに入る―――――!!」



五指を星型に広げた巨腕が、地面に叩き付けられる。

回避する間もなく追撃を浴びせられたホープは、そのまま圧壊してしまいそうな重量に耐えるより他がない。

力の奔流がホープを突き徹し、遊馬の許まで迸る。



残すライフは1200。

底が見えて来た命の雫を前に、しかし幻羅星龍の猛りは収まらない。



「遊馬……!」

「追撃時、フラッシュタイミング・超覚醒を使用――――!!

 キング・ゴルゴーよりコアを移動、ガイ・アスラを回復させる―――――!!」



赤光を灯す眼光が激しく明滅し、あっさりと死に体にまで追い詰められた事が見て取れるほどに。

ホープを上から潰す五指がゆっくりと閉じられ、再びホープの身体をつまみあげた。



頭頂部の人型がその手に持つ三叉槍を引き絞る。

――――解放する。

引き絞るに要した時間の百分の一の速度で突き出された槍が、つまみあげられたホープの胴体を突き貫く。

バシバシと耳を叩き、眼を焼く弾ける光の欠片。



巨腕はホープの身体を放し、その身を三叉槍のみで天高く掲げて見せた。

まるで見せしめのように幻羅星龍の槍に貫かれた姿を見せつけられる様。

同時に遊馬が膝を屈し、そのライフが800まで低下する。



「ぐっ……!」

「さあ、残る僅かなライフ。全てもらおうか―――――!!

 行けィ、幻羅星龍ガイ・アスラ! 再びのアタック、超覚醒にてキング・ゴルゴーよりコアを確保!

 超回復ッ!!!」



大きく開かれた蛇竜の口から、コアの光が迸った。

吐き出されたコアはガイ・アスラの胴体の口の中に滑り込み、その力を充足させる糧となる。

三叉槍を薙ぎ払い、串刺しのホープを吹き飛ばす。

轟音とともに遊馬たちの立つバトルフィールドの目前に着弾した戦士の身体が、瓦礫と粉塵を巻き上げる。



解放されたわけではなく、それは更に続く侵略の前兆にすぎない。

ゆっくりと胴体の口が開き、虚空に通じる口腔の奥底から闇色の炎が立ち上ってきた。

ごぷりとまるで唾液の如く咽喉から溢れ出る漆黒の炎。

大地を浸蝕する闇の奔流がホープを目的にその領域を拡大し始めた。



遊馬に残されたのは、後二撃喰らえば尽きるライフ。

その事態に及んで、しかし幻羅星龍は回復状態でフィールドを席巻している。

幻羅星龍の眷族もまた、コアを2つ抱えたままにこの場に在る。

ホープのオーバーレイユニットを消費すれば、あと二撃だけならば防げよう。



だが足りない。

この攻撃を含め、四度の侵略を許されるガイ・アスラが相手ではあっさりと全てを喰い潰される。

ちょっとした、本当にちょっとした算数の問題だ。

一度首を傾げる間に終わる計算で導きだせる答えは、決まって確定された敗北の結末。



「さあ残る攻撃を受けて散るがいい―――――!

 なに、激突王もすぐに後を追う。惑う間もなく、敗北という名の終着点へな―――――!!」

「それはどうかな? ――――フラッシュタイミング!」



瞬間、ダンが手札からカードを切る。

男の眉が顰められ、その割り込みに対しての不快感を露わにした。



炎を伴うカード捌きより繰り出される。

手札よりフィールドに放たれたカードが、リザーブのコアを動力に超動する。



「マジック、フレイムサイクロンを使用!

 BP4000以下のスピリットを一体破壊する!!」



ダンの目前に炎が渦巻き、炎弾を放射する。

無数に放たれる炎の弾丸が目指すのは、ガイ・アスラの横に控えている蛇竜。

垂れ下がっていたコブラの首を傾げ、目前に迫りくる炎の嵐に眼を見開く。



「このフラッシュ! 超覚醒の使用によりキング・ゴルゴーの維持コアは残り2つ。

 蛇竜キング・ゴルゴーLv2の維持にはコア3つが必要――――!

 よって今のキング・ゴルゴーはLv1にダウン、BPは4000!!

 行け、フレイムサイクロンッ!!」



疲労状態ながらも蛇竜がその身を起こし、立ち上がる。

本能から発するものか、咽喉を鳴らす威嚇を放ちながら体勢を整えようとする。

だがしかし、そんな間を与えるものかと炎は容赦なく蛇竜の許へ殺到。

脚を打ち砕き、胴を打ち抜き、首を撃ち落とす炎弾が描く渦に呑み込まれていく。



ダンの放った炎は確実に男のしもべ、蛇竜を撃ち滅ぼした。

だが幻羅星龍が拡大させる闇は止まらない。

その領域まで取り込まれたホープの身体が跳ねあがり、軋む。

底なし沼のような闇の孔に取り込まれていくホープが、残る一刀のホープ剣をその手にとる。

未だ闇に呑み込まれていない大地にそれを突き立て、思い切り自分の身体を引き上げた。



何とかその中から這い出て、地面に転げ出た瞬間。

闇が破裂する。

弾け飛ぶ闇の波動が飛沫となって、ホープを背後から幾度と打ち据える弾丸となった。

翼も、鎧も、最早見る影もないほど無残に損傷。



それでも、ホープ剣を杖代わりに立ち上がる。

攻撃の威力はホープを貫き、遊馬のライフを400ポイント。

――――残り一撃の命にまで削っていた。



「チィ―――――!」



――――男の中でずれたのは、この瞬間。

先程、九十九遊馬が発動しようとしたホープの効果は攻撃無効のもの。

ここでガイ・アスラで追撃をしても、無効にされて止められてしまう。

しかも、超覚醒による回復も使えないとなれば次のターンに無防備を晒す。



男の残るライフはコア1つ、ポイントは3500。

スピリット数体で1ターンに削り切れる数値ではなかろうが。

――――どちらにせよ、このタイミングでの攻撃をしたところで無意味に過ぎる。

ガイ・アスラの疲労とホープのオーバーレイユニット一つ、計れば当然の如くガイ・アスラの方が重い。



「ターンエンド」




漏れ出る苦渋を圧し止め、余裕を引っ張り出す。

苛立ちがふつふつと煮え立つ心中の外面を余裕を塗りたくって隠蔽した。

ならば、次のターンの超覚醒で激突王を終わらせるまでだ。



「悪い、助かったぜ…」

「さっきの借りを返しただけだって。気にしないでくれ」

『もともと、遊馬の失敗がなければカバーする必要もなかったろうがな』

「うっっっさい! 黙ってろ! ――――オレのターン、ドロォーッ!!」



引いたカードを眼を送り、僅かばかり表情を変える。

どうするのか決定するまでにかけた時間はほんの5秒程度だったか。



「オレは、ホープを守備表示に変更!

 カードを1枚伏せて、ターンエンドッ!!」



最早膝を地に降ろすだけでも相当な苦行であるかのように。

ホープはゆっくりと胴を手で押さえながら膝を落とす。



遊馬が伏せたカードを自らも視認していたアストラルが僅か眼を細めた。

漏らしたのは、遊馬以外の誰にも届かないほどの小さな声。



『――――次が、最後のターンだ』



続く馬神弾のターンにおける攻防。

そこから続く男のターン。そして、次にくる遊馬のターン。

ここからの展開全てに考えを馳せた思考が完結する。

後は……



「オレのターン、スタートステップッ!」



プレイフィールドが放つ光。

その光が集束し、フィールドに新たなコアの光を産み落とす。



「コアステップ、ドローステップ!」



引き抜いたカードを見たダンは、表情を変えずにそのままターンを進める。

トラッシュに置かれていたカード、疲労していたスピリット。

それらを回復するための間。



「リフレッシュステップ!!」



雄叫びが轟く。

疲労していたノヴァの回復を示す、味方を鼓舞し敵を戦慄させる咆哮。

今再び、幻羅星龍と並ぶ超神星龍の力が解き放たれる。



「メインステップ! マジック、エクストラドローを使用!!」



回復したばかりのコアをトラッシュへ送り、放たれるは手札充実の赤マジック。



赤のマジック、エクストラドロー。

その効果はデッキよりカードを2枚ドローする事。

更に、2枚ドローした後にデッキの一番上のカードをオープン。

もしそのカードが赤のスピリットカードだった場合、手札に加える事ができるのだ。

ただし、そのカードが赤スピリット以外のカードだった場合…



2枚のカードをドローしたダンが3枚目のカードを引いて、フィールドにオープンする。



「3枚目のカードはマジック、メテオストーム。

 赤スピリット以外のカードだったため、デッキの一番上に戻す」



オープンしたカードをデッキの上に戻す。

これで、別のドロー補助を使わない限り次のターンのダンのドローはメテオストーム以外ありえない。

カードをデッキに戻した手で、引いた2枚のカードを検める。

僅かばかり考え込むような姿勢を見せたダンはしかし、その眼光を相手の男へと向けた。



「行くぞ、アタックステップ!!

 超神星龍ジークヴルム・ノヴァ、激突ッ――――――!!!」



号令が下る。

眼の前の敵を捻じ伏せろという、激突王よりの命令。

腕を振るい、翼を広げ、取り巻く熱気を波濤に変えて周囲に奔らせる。

紅蓮と光が織り成す双対の翼を羽搏かせ、ノヴァは上空へと飛翔した。



「ガイ・アスラでブロックッ――――!!」



それを迎え撃つは真の姿を現した幻羅星龍。

先のターン、自らが粉砕された事に対する怨念が如く、その周囲に瘴気を渦巻かせている。



上空高く舞い上がるノヴァが光翼を広げ、そこから無数の極彩色に輝く光弾を撃ち放つ。

まるでスコールの如く激しく身体を打ち付ける光の雨も、しかし幻羅星龍の身体においては小雨も同然。

幾千にも及ぶ閃光の霰をものともせず、星竜がその手に持つ黄金の鎚を振り抜く。

弾ける光と共に何千もの爆音が重なった凄まじい轟音。



炸裂する。

振り抜かれた黄金鎚が起こす衝撃波が閃光の弾丸を巻き込み、それらを全て跳ね返す。

反射された光弾は、放ったノヴァ自身へと牙を剥く。

隙間なく密集した光の波動が返ってくる。

その光景を前にノヴァは僅か躊躇しながらも翼を閉じ、守備の姿勢へと変わる。



回避が間に合わぬわけではない。

だがこの間隙のない光の渦を回避する方法は、威力圏内からの離脱以外にありえない。

超神星龍が放つ神速の激突撃は、幻羅星龍のあらゆる動作の速度を凌駕する。

閃光の目晦ましにて初動を殺し、空いた隙間に一撃を叩き込む。

それこそが狙い。



反応させぬための目晦まし。

それを逆に利用され、逆襲されるとなれば初動は幻羅星龍が獲得する。

互いに同時に繰り出せば先んじるのは超神星龍。しかし勝つのは幻羅星龍だ。

先んじ、かつ逆撃を回避するだけの猶予がなければそれは敗北に直結する。

ならば選択するべきは。



光の渦がノヴァは呑み込み、極光が破裂した。

天空で燃え上がる光の柱を前に、幻羅星龍が動く。

その光の柱の渦中にいる超神星龍。奴は今の自爆程度で消滅する相手ではない。

三叉槍を引き絞り、光の中へと――――



光の中で紅蓮が燃える。

それを目印にと放たれる神速の刺突撃。

黄金の三叉槍が光の中に滑り込み、中に在る超神星龍の身体を貫き通す――――かのように。

見えるほどギリギリに、胴と腕の間を掠めていった。



気付いた瞬間に幻羅星龍が槍を引き戻す。

言うまでもない。初動が同時なのであれば、先んじるのは超神星龍。

引き戻される槍の穂先より速く、ノヴァはガイ・アスラの頭頂部へと激突する―――――!



炎を伴った激突。それは過たずにガイ・アスラを捉えていた。

狙い難い胴体ではなく、この姿に進化する前から存在する本体部分へと。

未だ槍は引き戻し切られていない。もう片手の剣が届かぬ槍を持つ腕の側から衝突する一撃。

何ら問題なく最強の威力を発揮している事に疑いない激突だった。

衝突の瞬間に空気が爆ぜ、音が消える。



「――――――ッ!」

「無駄だ――――ガイ・アスラのBPは30000! ノヴァであろうと、悠々と圧砕する!!」



引き戻す腕の肘で、自身に組み付いているノヴァの身体を跳ね飛ばす。

全力の激突も、ガイ・アスラのパワーの前では何の効果も齎さなかった。

跳ね飛ばされた身体が地面に叩きつけられ、岩盤を捲り上げる。

脚を振り上げ、突き立つ岩盤を吹き飛ばしながら身体を引っ繰り返して着地。

砕けそうなほどに噛み締められた牙の間から蒸気を噴き出しながら、ノヴァは頭を振るう。



――――見上げた先には幻羅星龍。

剣の腹から百足の脚のように刃が伸びた奇剣。それを持つ手が大きく後ろに反っていた。

十分の一秒後にそれが投擲されるのは明白。

軋む身体を無理に立たせ、それを回避できるのか。否、間に合わない。

ならば守るか。否、あれはきっと翼も腕も容易に撃ち抜き頭蓋を粉砕し、この盛り上がった岩盤ごと消し飛ばす。



にぃ、と男の口許が崩れた。

その圧砕は成され、しかし男はライフを削られるであろう。

何故ならば太陽石の神殿は激突を持つスピリットが破壊された時、ライフと引き換えにそれを復活させる。

この一撃で砕けたノヴァは即座に蘇り、その牙を男のライフに突き立てる。

だがガイ・アスラは揺るぎない。



未だ男のライフはコア1つ、ポイントは3500を残す。

この局面でノヴァの一撃を通したところで、コアが0になるかライフに1600のダメージを負うかだ。

対して、ノヴァを復活させれば激突王のライフは残り3つ。九十九遊馬にいたっては400ポイント。

次のターン、超覚醒が発動すれば激突王は終わりだ。

たとえ攻撃せずに守りにノヴァを残したところで、太陽石の神殿Lv2の効果は自分のアタックステップのみ。

こちらのアタックステップに破壊されれば、復活できない。



精々足掻き、この圧倒的なまでの力の差を理解した上で敗北する。

それ以外に二人の結末は用意されてなどいない。



―――――撃ち砕け、幻羅星龍ガイ・アスラ!!!



声に出す間もなく、ガイ・アスラが奇剣を投げ放った。

それは音速を超越してジークヴルム・ノヴァを目掛け迫る。

黄金の流星と化した奇剣が、ノヴァと接触した。

続くのは豪速で奔った剣閃の巻き起こす衝撃波。

着弾に伴う空気の爆裂と衝撃。

巻き起こる二次的な破壊からですら、それが致命の傷を与える一撃と察する事が余りに容易。



――――だからこそ、男の顔が凍り付いたのも不思議ではあるまい。

百足剣はノヴァに触れていた。そこに違いはない。

だが頭蓋を破砕し、コアの光に還す筈だった結末には到っていない。



「な、に……?」



百足剣の切先。

その刀身を掴んでいたのだ。ノヴァの片腕が。

摩擦熱で灼熱する黄金の刀身に映り込むガイ・アスラもまた、動きが凍り付いていた。

ゆっくりに思える程度に、しかし実際一秒満たぬ間にノヴァはその戦場に打って返す。



切先を掴んだ剣を回転させて、柄を取る。

すぐさまと飛び立ったノヴァが狙うは、黄金槌を構えた腕―――

反応は遅れに遅れ、殆ど無反応のままに切り裂かれる。

黄金槌を握ったまま宙を舞う一本の腕。

百足剣を振り切った姿勢で僅か硬直するノヴァに、ようやく正気に戻ったガイ・アスラが逆襲する。



奔るのは戦斧。

くる事など分かり切っていたノヴァは、即座に奇剣の刃を返してそれを受け止めた。

刃金同士が擦れ合うメロディーと散る火花。

赤く照らす炎の光の中で、拮抗する二体の星竜たち。



「馬鹿な……っ!」



沸いて出た言葉はあり得ない結果への驚愕。

戦斧と奇剣は打ち合い、火花を上げて絡み合う。

その結果こそがあり得ぬもの。ノヴァとガイ・アスラの膂力の差ならば、戦斧が剣ごとノヴァを両断する筈だ。

だと言うのに―――――



双方が繰り出す乾坤の一閃は、互いの武器の破砕という結末を迎える。

微塵となって砕け散る黄金の武具ども。

ばら撒かれるその破片ごしに龍の視線が交差した。



継ぐ手はガイ・アスラが先に繰り出す。

胴体からの巨腕二本を振り上げ、まるで蚊でも潰すかのようにノヴァを挟み潰すために振るう。

対するノヴァは回避するでもカウンターを狙うでもなく位置を変えない。

左右に大きく広げた腕で、叩きに迫るその巨腕を迎え撃つ―――――!



ドッ! と、凄まじい破砕音が響く。

言うまでもなく力はガイ・アスラが凌駕している。その一撃、ノヴァは浴びれば一溜まりもない。

だがしかし。そんな当り前の事が今、覆る。



――――受け止めていた。

あらゆる敵を粉砕し、圧砕せしめる最強の龍の一撃。

その暴力を、真正面から受けて立ち超神星龍は受け切ってみせていた。



「何故ッ―――――!」

「オレの伏せリバースカードを2枚、発動していたんだッ!」



遊馬の言葉に、男がフィールドを食い入るように見つめた。

バトルフィールドを挟み、数百メートル離れたプレイヤー同士のプレイフィールド。

足許で開かれている伏せリバースカード2枚。

その正体を見止めた瞬間、男が眼を見開いた。



トラップカード、燃える闘志は発動後装備カードとなりジークヴルム・ノヴァに装備された。

 燃える闘志の効果は、相手フィールドに元々の攻撃力より高い攻撃力をもつモンスターが存在する時、

 このカードを装備したモンスターの攻撃力を倍にする効果を持つ』

「そして! 速攻魔法、虚栄巨影!!

 モンスターの攻撃宣言時、フィールドに存在するモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップする!

 オレはこの効果で、幻羅星龍ガイ・アスラの攻撃力を1000ポイントアップさせる!!

 ガイ・アスラLv4の元々の攻撃力は30000!

 この効果で攻撃力31000になったガイ・アスラに反応して、燃える闘志の効果が発動!!」

「だ、がぁああ……! それでもノヴァのBPは30000!

 貴様らが強化したガイ・アスラには届かず、破壊される―――――!!」



両腕を使い、巨腕の一撃を防ぎ切ってもガイ・アスラにはまだ武具がある。

無防備を晒すノヴァに対し、放つのは三叉槍による一撃。

突き出された閃光の如き穂先に、しかしそれ以上の速さを持って対抗する。

僅か揺らすと同時に口を開き、その咽喉の奥から火炎を放つ。

極限まで圧縮された炎の弾丸は一直線に向かってくる槍をそのまま呑み込み、灰とする。



ならばと、次は直剣が振るわれる。

頭上から迫りくる斬撃は、最早回避できる領域からの攻撃ではない。

例え頭を丸めても、至極あっさりと両断されるだろう。

回避も耐久も期待できぬとあらば、



尾を振り上げる。

そんな小さな抵抗で何が出来るかとガイ・アスラが腹の口で嗤い、直後に凍った。

その竜尾は先にモノを絡ませていた。

初撃、ノヴァが放った斬撃により切り落とされた腕が持っていた黄金の鎚。

剣の腹に鎚を叩き付ける。剣が割れて砕け、鎚が根元から折れて飛ぶ。



無手―――――戦神の如きガイ・アスラが所有していた黄金の武具それら全てが、砕かれた。

動きが凍結していたのは一瞬。

しかしノヴァが巨腕の圧力から逃れるにはそれで十分だった。

一度光の翼を破裂させ、炎と光で巨腕に僅かな緩みを作り出して背後へと吹っ飛ぶ。



氷解したガイ・アスラが即座に巨腕を振り、逃れようとするノヴァへと伸ばす。

だがそんなものをわざわざ伸ばさなくてもノヴァはガイ・アスラの許に行くだろう。

紅蓮の翼を大きく広げ、光の翼を噴出させて、翡翠の眼光と纏う稲妻で白銀の鎧を輝かせる。



困惑する理由は数あれど、男はそこで本質を理解した。

くる、と。

こないわけがない。あれは、激突の王者だ。



「そして、フラッシュタイミング!! マジック、ライトニングオーラを使用!!!

 このターン、アタックしている自分のスピリット全てにBP+1000!!」



ダンがプレイフィールドにカードを放り込むと同時、再びバトルフォームが弾けた。

紅蓮の炎と雷電の光芒を身に纏い、激突王の翼が展開する。



「互いにBP31000……!?」

「更にライトニングオーラの効果! “激突”を持つ自分のスピリット全てにBP+2000!!

 よって合計BPは33000ッ!!!」



迸る。

紅蓮の稲妻より転星した超神星龍が灼熱の炎と猛る稲妻を従えて、幻羅星龍に激突する――――!!

即座に相手を追撃するために伸ばしていた巨腕を引き戻し、自分とノヴァの間に差し挟む。

どれほど強靭なスピリットであろうと一撃で圧し潰す腕を二本、盾に――――



衝突の瞬間に千切れ飛ぶ。大穴を開けて吹き飛ぶ腕は、紙切れ同然で盾にもならない。

雷霆を束ねた一撃が、ガイ・アスラの頭頂部を貫いた。

変貌する前に上半身であった部分は跡形もなく消失し、そこから下の膨大な下半身もまた半ば吹き飛んでいた。

残骸が崩れていく。ケシズミを積み重ねただけの球体と化していたガイ・アスラの全身は崩壊。

――――その全てが崩れ落ち、消えて失せた。



「三度、墜ちると言うのか……このガイ・アスラが……!」



激突の余波で男の目前まで迫っていた超神星龍。

その輝きに陰りはない。

敗北したのは幻羅星龍、そして勝利をもぎ取ったのは超神星龍だった。

唯一にして無二、最強の敵の崩落を見届けたノヴァがダンの許へと帰還する。



未だ熱を残して唸るノヴァの全身の如く、限界を越えたダンのバトルフォームも光の残照を吐き続けていた。

胸のスリットから放熱し続けていなければすぐにでも燃え尽きそうな熱量。

それほどの反動があったと、簡単に理解できる威力の激突であった。

翼が折れて、砕け散る。

未だ強く光を放つライフコアとは違い、その容れモノであるバトルフォームは限界を感じさせるほどにボロボロだ。



「ターン、エンド……!」



なるほど。

激突王が命をかけて放った一撃、それは確かに幻羅星龍をも打ち砕いた。

まるで奇跡のようだ。いや、それがコアの光主たる存在の力か。

輝石たるコアを宿した戦士の一撃、しかと味わった。

―――――それでも、その上で!



「我が最強のデッキに、敵などない――――――!!!」



カードを引き抜く。ドローしたカードは、望んだとおりの存在。

それをすぐさま、プレイフィールドの上へと投げ放つ。

リザーブのコアは20。

コストを支払い、かつ最強の姿で顕現させるに不足なし!



「再臨せよ、幻羅星龍ガイ・アスラLv4!!!!」



天空から墜ちてくる一つのコア。

赤の光を放つその結晶が弾け、新たなる命を生誕させる。

巨大な胴に開かれた口、そして頭頂部から生えた人型。

失われた黄金の武具の数々も手にしている、完全無欠の幻羅星龍が降臨する。



「2枚目の……ガイ・アスラ……!?」

「そう! ガイ・アスラに敗北などない!!

 超覚醒が全ての舞台に幕を降ろす! 次のターン、超覚醒で全てを滅ぼしてくれるッ―――!!」



BP30000に及ぶガイ・アスラ。

幾重にも重ねた策を凝らし、一束にしてノヴァに乗せる事で繰り広げた逆転の一撃。

だがそれはたった一度の逆転劇にすぎない。

次のターン、ダンがノヴァと太陽石の神殿を組み合わせ攻めてきてもライフを削り切る事は不可能。

その上、次のドローはメテオストームだと知れている。

こちらが次のターンのドローでスピリットを引き当てれば、そこで終わりだ。



だが。



「次は、オレのターンだ!!」



それは九十九遊馬を考慮していない。しかし、元より考えるまでもあるまい。

モンスターの火力では、スピリット。

それも最強のBPを誇るガイ・アスラを切り伏せる事など不可能。



だが、しかし。



『行くぞ、遊馬。これが最後のターンだ』

「おお!! 超かっとビングだァ、オレェエエエエッ!!!」



遊馬がデッキに手をかける。

背後についたアストラルもまた、遊馬と手を合わせるようにデッキに手をかけた。

直後、溢れだす光。ダンと男がその光に目を瞑る。

全てが白に染め上げられる中、遊馬とアストラルの声が重なった。



バトルフィールド全域を塗り潰していた光が、遊馬の手という一点に集中していく。

視界を覆い尽くす光のカーテンが巻き取られた後、ゆっくりと見開いた先の光景に男は言葉を失った。



声だけではない。

九十九遊馬、アストラル。二人の姿が一つに重なり、変貌を遂げていた。

尖った特徴的な髪型は金色に染まり、衣装はアストラルの全身を模したさながらボディタイツにも見える全身スーツ。

胴と腕を赤い鎧と籠手で包みこむ姿は、まさしく決闘者デュエリストに他ならない。

眼を開く。黄金に輝くアストラルの瞳と、紅蓮に燃える遊馬の瞳が交わる。

ヘッドギア状のDゲイザーが展開し、その召喚は完了した。



「なんだ……変わった、バトルフォーム……いや、これは――――!?」

「『シャイニング・ドロォーッ!!!』」



奇跡を描き、遊馬の指先がデッキからカードをドローする。

導かれるのは光の軌跡。導きだすのは、勝利と言う結末。

光が勝利を兆す。その光景を見て、否応なしに理解する。

あれは、勝利を導く奇跡以外の何物でもない。

放たれた時点でそれは必至。覆すには同種の奇跡をもって対抗するしかあり得ない。



遊馬の顔が悠然と笑った。

その表情に、逆に男の余裕が突き崩される。



「ぐっ……だが所詮、1枚のカードで何ができる!!

 互いに必勝の一手ならば、最強を誇るガイ・アスラが後れを取る事などあり得ない!!!」

『そうだ。ワタシたちにガイ・アスラを越えるカードはない。

 故に、勝利するためには戦略とカードを積み上げる――――行くぞ、遊馬!

 勝利のピースは揃っている!』



遊馬が手を掲げ、それと同時にフィールドで屈していたホープが立ち上がる。



「『ライフポイントが1000に満たない時、フィールドのホープを素材として召喚できるモンスターがいるッ!

 ―――――カオス・エクシーズ・チェンジッ!!!』」



ホープが満身創痍の身体を奮い立たせ、立ち上がる。

足許で渦巻く光輝く銀河の渦が、ホープの身体を呑み込んでいく。

一度光に還り、そして宇宙の本質である闇を混じり合って新たなる姿を構成した。



「『現れろ、CNo.カオスナンバーズ39!

 希望の力、混沌を光に変える使者――――希望皇ホープレイッ!!!』」



ホープが聖剣であるならば、ホープレイのそれはまるで魔剣の様相だ。

漆黒の剣の刀身はホープと違い、細く見える。

鍔の中心では空色に輝く宝玉がその存在を主張している。

その宝玉が一際大きく輝いた後、それは訪れる。



身体を刀身に見せていたパーツが開き、その正体を露わにした。

それは翼。刀身が細く見えた理由は、ホープレイが縮んだわけではない。

むしろホープに比べ、一回り巨大化しているほどに力強いフォルム。

だが、それ以上に肥大化したショルダーアーマー。、

背部と翼を繋ぐフレームの、そのショルダーアーマー以上の巨大さを誇る鎧甲。

それらが刀身を形成していたがために見誤る。

剣の鍔と見せていた肩も展開させ、新たなる希望皇はゆっくりと正面に向き直る。

炎のように朱い眼光が、ガイ・アスラを見据えた――――!



「それが、なんだと……!」

「『速攻魔法、発動!! 減量!!!』」

「減……なに―――?」



男が当惑を露わにし、首を傾げる直前。

大地が割れ、その歪みがバトルフィールド全体に広がっていく。

即座に飛び立つホープレイとジークヴルム・ノヴァ。

浮遊しているテラ・バイトには効果がないが、それは大地を席巻するガイ・アスラにその牙を全力で剥いた。



次元の裂け目かと見間違うほどに、ぽっかりと穴を開けるバトルフィールド。

その原因は一つ。幻羅星龍ガイ・アスラの人知を越えた超重量に他ならない。

ガイ・アスラがその巨体でフィールドを潰している限り、その惨状は留まる事を知らないのだ。

砕け、落盤するバトルフィールド。

飛行する事など叶わない巨体は、その崩落に巻き込まれて落下していく。



バトルフィールドの底は……いや、下には底の見えない奈落が開いていた。

そこに落ちれば、如何にガイ・アスラと言えど何もせずに消化されるよりない。

巨腕で巨体を支えようと足掻こうと、岩盤の隆起と破砕は収まらず巨腕諸共に呑み込まれる。



「な、どういうことだ……!」



――――ガイ・アスラがガイ・アスラである限り、この呪縛からは逃れられまい。

最早脱せぬと確信を得たか、ガイ・アスラの身体が崩れ落ちていく。

奈落の底へと引きずり込まれていく巨大な胴体の中から、頭頂部の人型のみが飛び立った。

まるで蝋人形の中から実物が出現するかのように、身体に纏わる殻を打ち破り、ガイ・アスラが現れる。



その姿はLv4のものではなく、Lv3以前のもの。

鋭利な甲殻に包まれた上半身と、長く伸びた竜尾を持つ幻羅星龍の仮の姿。



「速攻魔法、減量の効果! フィールドのモンスター一体のレベルを2下げる!

 オレは幻羅星龍ガイ・アスラのレベルを2つ下げ、レベル2に!!」



モンスターであれば、その力の効力は薄かったろう。

だがしかし。スピリットを相手に発動されたその魔力は、圧倒的な威力を発揮する。

スピリットにおけるレベル、Lvの低下はそのまま戦闘能力の低下に直結するのだ―――

ガイ・アスラLv2、そのBPは10000。

僅か三分の一にまで貶められた戦闘力。それは、ガイ・アスラの覇権消失を意味していた。



「なっ、ぐっ……! これでは」



BP10000。

それはノヴァのアタック時効果による破壊効果圏内に入った事を意味する。

たとえ破壊効果を逃れたとて、激突による強制ブロックを強いられればそのまま破壊。

たった1枚の魔法マジックの効果。

されどそれを受けた時点でノヴァの翔けるこのフィールドでは、既に死に体だった。



――――だが、それでもまだ敗北に繋がるわけではない。

どちらにせよBP10000を前に、モンスターが何をできるわけでもないのだから。

ガイ・アスラはノヴァに破壊され、男のライフは削られるだろう。

されどこのデッキは究極のガイ・アスラで侵略するために作り上げられた代物。

ガイ・アスラを再び召喚するためのカードも、多く残されている。

次のターン。まだ、負けてはいない……



そう男は考えている。

だがアストラルは既に下していた。この勝敗の決着は、今この瞬間。

このターンに幕が下ろされる舞台なのだと。



「『希望皇ホープレイの効果発動!

 オーバーレイユニットを一つ取り除く事で、攻撃力を500ポイントアップする!!

 ホープレイのオーバーレイユニットは三つ。攻撃力を1500ポイントアップ!!

 オーバーレイチャージッ!!!』」



ホープレイを取り巻いていたオーバーレイユニットがその身に吸収される。

漆黒の鎧甲が眩く白く染め上げられていく。

巌の顔で光る朱い眼光より強く、迸る覇気は希望の剣の威力を予感させるもの。

腰に下げた2本のホープ剣を引き抜いて構える様は、光の使者の名に相応しい――――



『更に! ホープレイの効果発動一度につき、相手モンスター一体の攻撃力を1000ポイントダウンさせる!

 ホープレイが使用したオーバーレイユニットは三つ。

 よって、幻羅星龍ガイ・アスラの攻撃力は3000ポイントダウンッ!!』



ホープレイが両腕を大きく広げ、力を蓄える。

横に振り絞られたホープ剣の刀身に宿る光は、蓄えた威力の結晶。

対するガイ・アスラへ向けて、全力をもってその刃を振り抜く。

光が奔る。まさしく閃光と呼ぶに相応しい光の奔流は、狙い過たずガイ・アスラへと命中した。

弾け飛ぶ星竜の巨体の外殻、刃の鎧とも言うべきものがこそぎ取られていく。



すかさず二撃目。

光に揉まれ、一瞬バランスを失ったガイ・アスラには二撃目が来たと理解する暇すらあったかどうか。

容赦なく、防ぎようのない光の斬撃はガイ・アスラの胴体へと突き刺さった。

砕け散る外殻の破片を撒き散らしながら、きりもみして男のプレイフィールド直前まで舞う。



だが男には何の脅威もない。

これでガイ・アスラのBPは7000。

それがどうした、BPが10000になって時点で超神星龍の破壊を免れない事は理解している。

同時に、モンスターの脅威などない事も。



――――ホープレイの攻撃力はそれでも4000。

デュエルモンスターズにおいて、3000ポイントの差を埋めるカードなどそうはない。

それこそ、先に使われた燃える闘志などがその例外に当て嵌まる可能性を秘めてはいる。

だがそれは既にノヴァへと装備されている上、

燃える闘志の効果発揮条件を満たすためにはガイ・アスラのBPを3001以上上昇させる必要がある。

そうなっては本末転倒極まりない。



「それが、どうしたッ!」

「まだだ! 魔法マジックカード、アーマード・エクシーズ発動ォッ!!!」



ホープレイの足許に、光の渦巻く銀河が出現した。

そこからせり上がってくるのは、黄金の剣の柄。



「『アーマード・エクシーズは、墓地のモンスターエクシーズを装備カードとして復活させる!

 ホープレイのオーバーレイユニットとして墓地に送られたホープを、ホープレイに装備!!』」



翼の付け根にある装甲が展開する。

右翼側にはナンバーズとしての刻印、39の数字も刻まれている装甲。

それは内部のアームが展開し、二対目の腕となって剣を取る。

鋭い爪のような五指を巧みに操り、ホープレイはせり出した希望剣を引き抜く―――!



白と金の光に輝く刀身をその手に取る。

銀河の放つ光に塗れた刃を、自ら放つ希望の光に変えていく。



「『アーマード・エクシーズを装備したモンスターは、

 装備したモンスターエクシーズと同じ名前のモンスターとして扱い、

 攻撃力はそのモンスターエクシーズと同じ数値となる!

 ホープ、ホープレイともに攻撃力は2500!

 そこに更にホープレイの効果による攻撃力上昇が加わり、攻撃力は4000!!』」

「そんな装備になんの意味がある……!」

「シャークがオレに託したこの力、意味ならある!!!」



三つの刃を手にしたホープレイが舞い上がる。

斬りかかるその先に存在するのは、弱体化したとは言えそれでも無双の幻羅星龍。

その力は、この期に及んでもホープレイを遥かに上回っている。



「『行け、CNo.カオスナンバーズ39 希望皇ホープレイ!!』」



白く染まった翼を大きく広げ、ホープレイは剣を振り被った。

空中に悠々と聳えるガイ・アスラまで全速力で接近しての乾坤一擲。

並みのモンスター、いや並みであればスピリットですらも一撃の許に屠るだろう閃光。

希望の一閃はしかし――――

ギィン、と甲高い音を立ててガイ・アスラの拳に弾き返された。



ならばと、もう一方の腕に握るホープ剣を振り抜く。

それを凌駕する速度で放たれる疾風の竜尾。

横合いからの急襲に反応する間もなく、ホープレイが胴体を打ち据えられた。

―――――だが、堅固なる鎧甲はその一撃をも無視して突撃を敢行させる。

肩口に叩き付けられるホープ剣はしかし、その刃でガイ・アスラの肉体を傷付ける事が敵わない。



分かり切っていた事だ。

余りに乖離した能力の差が如実に表れ、ホープレイの剣が効果を齎す事はない。

わざわざ考えるまでもなく、理解し切っていた男だからこそそこには余裕があった。



拳で弾き返された剣を返し、今度はガイ・アスラの首を狙って振り切る。

再び振られた剣が弾かれる事はなかった。

弾くなどという消極的な反応などではなく、確実に粉砕するべく行動に移す。

己に向け振り放たれた斬撃を、その手でしかと掴み取る――――!



がっしと掴み取られた剣は、ホープレイがいかに引き戻そうとしても放さない。

そして振り上げたもう一方の拳で、相手の顔面を殴り飛ばす。

思い切り叩き込まれた拳の威力に負け、ホープレイの方が剣を放して吹き飛ばされた。



ガイ・アスラの本領が大地に沈む時造り出した奈落。

その端に残る岩塊の山の中に突っ込んで、砂塵を巻き上げ沈み込み――――

しかし、すぐさま瓦礫を払って立ち上がった。

上空で幻羅星龍が奪った剣をまるで投槍のように構え、今にもその剣を投げ放ちそうな姿勢で止まっている。

即座に両の手で残るもう一刀のホープ剣を構え、その一撃を待ちわびる。



一瞬の静寂。

―――――静寂を切り裂き、解き放たれる剣閃。

投擲された剣は空に軌跡を刻みつけながら、地上で聳える希望皇へ向け直下する――――!

限界まで研ぎ澄まされたホープレイの意識はしかとその一撃に反応していた。

巨体を沈め、切り上げる姿勢で放たれる剣尖。

さながら稲妻の剣撃が、音速で迫撃する剣の腹を捉えてみせる。



ギャギャギャと刃金の擦れる耳障りな悲鳴。

身を竦ませてしまいたくなる厭な音の中、流星の如く振ってきた剣をいなして弾く。

弾け飛ぶ剣がホープレイの背後に吹き飛び、衝突音が遅れてやってきた。

鋼の風船が内から弾け飛んで飛散したかのような異音。

振り上げた刃は確実に相手の一撃を弾き、そして次ぐ攻撃にも対応すべく更に大きく背後に逸らされた。



ホープ剣の投擲直後にガイ・アスラ自身の身体が墜ちてくる。

頭上に掲げたホープ剣を振り下ろすタイミングを計りながら、迫りくる幻羅星龍の姿を見据えた。

拳を引いたガイ・アスラがホープレイの攻撃圏内に入るまで――――

2秒、



1秒、

半秒、―――捉える。この刹那の時間に、渾身の一刀を叩き込む――――!

振るう。僅か百分の一秒のズレもなく、これ以上ないほどの完璧なタイミングで放たれた一撃。

相手は迎撃する構えではなく、回避する暇もない。

完璧に決定打となる状況。



しかし、幻羅星龍が冠するのは最強の星龍の呼び名。

その決定打を覆すからこその最強の称号に他ならない。



渦を巻く。螺旋状に捩った竜尾を巻き戻す反動で、ガイ・アスラの上半身が回転した。

見事に。ホープレイが放つ渾身の剣撃はガイ・アスラの胴と尾を掠りながらも、完全無欠に躱された。

大地に切先が埋まる勢いでの攻撃は、直撃を外れたからこそ留まる事なく思い切り振り切られる。

岩塊を切り裂いて突き刺さるホープ剣の一撃を見届けると、幻羅星龍が妖しく眼を光らせた。

瞬間、捻り上げられていた尾が勢いよく跳ね返り、ホープレイの頭部を横合いから殴り付ける。

鈍い音をたてて吹き飛ぶホープレイ。



積み上げられた岩石を薙ぎ払いながら吹き飛ぶホープレイに向き直るガイ・アスラが両腕を突き出す。

途端、その掌の中に集う漆黒の炎が凝縮し、球体を形作って暴れ狂う。

まるで爆弾。

そうと捉えるのであれば、それが着弾した時どうなるかなど自明だ。

放たれる前にこそ、その攻撃に対する防御を如かねばどうなるかは考えるまでもない。

ホープレイはその巨体にすら浮力を与える翼を器用に動かし、即座に崩れた大地に脚を降ろす。

その巨体故に小回りの速度は失われているが、地に脚を降ろしている時の安定感は遥かに向上している。

今の身ならば、この爆撃を耐え切る事すら可能となろう。



眼光が絞られる。

眼を細め、ホープレイを睨めつけているガイ・アスラが微かに、だが嗤う。

それは自らを操る男の感情が漏れ出て、従者たる幻羅星龍の感情にまで影響を与えたものか。



「九十九遊馬! 貴様らのライフは残り400ポイント!

 いかにそのモンスターが戦闘で破壊されない効果を持っていたとしても、この戦闘でそのライフが底を着く!!」



モンスターがスピリットと戦闘し、攻撃力とBPを比べ敗北した時、

そのモンスターのコントローラーは相手スピリットのシンボル1つにつき、800ポイントのダメージを受ける。

ガイ・アスラはシングル。

ダメージは800ポイントという数値になって、遊馬のライフにトドメをさしにくるだろう。



「貴様の手札は既に0枚! 何のつもりか知らないが、ここで自滅するがいい!!」



男の猛り狂う声とともに、ガイ・アスラが手の中に溜め込んでいた熱量を解放した。

球体になるほど圧縮された膨大な炎の渦は、仁王の如く立ち誇る希望皇を焼き払い決着を下すだろう。

躱すか? いや、そんな猶予は残されていない。

元より逃げるくらいならば、ガイ・アスラに斬りかかるなどという暴挙に及ばねばいいだけの事。

希望皇たるその身がこの戦場に成しに来た事。

それは―――――



翼の鎧甲が展開して出来たアームが掴んでいた希望の剣を逆手に、大地に向かって振り下ろす。

捲れ上がった岩盤を粉砕し、突き立てられる剣。

放たれた火炎弾はその剣の腹に直撃し、中に閉じ込められていた熱を全てぶち撒けた。

岩が、土が熔解していく様はまさしく地獄絵図に他ならず、

膨れ上がる漆黒の炎は、風景画に塗りたくられた黒い絵の具のように全てを塗り潰していく。



だがしかし、一点だけ。塗り潰せない白があった。

確かに破壊する事はできないと理解していた。

だが、その巨体は噴き出す炎を一身に集め、焼かれながらも僅かたりとも背後には通さない。



何故、この戦闘においてガイ・アスラの勝利は決定的。

ならばその戦闘の余波によるダメージが、九十九遊馬のライフを全損させる事に間違いはない。



「『確かに、もうオレワタシに手札はない。けどだが―――』」

「オレに、最後の手札が残っている―――――」



ダンが最後に残った1枚。手札をゆっくりと掲げる。

――――激突王のマジック、言うまでもない。

それはデュエルモンスターズではなく、バトルスピリッツのカードだ。



「―――――まさか、モンスターをマジックで強化する、だと……!?

 だが、貴様たちはいつの間にそんな事を打ち合わせて――――

 ……いいや、そんな事はしていなかった筈だ。

 会ってまだ僅か数時間だと言うのに……互いのルール把握も完全でないと言うのに……

 どうやって言葉もなしに、この一撃を通じ合わせたと言うんだ………!?」



相手が二人である以上、その連携を無視するつもりなどない。

ただでさえ、先程まででも互いが互いをカバーするカタチで二度三度もやられている。

だが、これは別格だ。

今の九十九遊馬の攻撃は、このフォローがなければ反撃でライフ0。敗北していた戦闘だ。

超覚醒を阻害するためのマジックによる牽制。ライフを回復する事で回避する修羅場。

そして、太陽石の神殿の加護下における超神星龍のアタックの援護。

それらとこれは、明らかに全くの別次元。

互いが互いと示し合わせ、行わねばこの状況を作り出す事など不可能と言える。



「決まってる。オレたちはカードバトラーだ」

「カードを通じて、オレたちの決闘デュエルが一つになった」

『――――その心の繋がり。それこそが、真の力となるという事をワタシは遊馬のデュエルから学んだ。

 ここに、勝利の方程式が答えを導き出した。

 我らが力を合わせた希望の光が、勝利という結果に繋がるという事を―――――』



漆黒の爆炎は止んだ。

希望の剣を盾に凌ぎ切ったホープレイが立ち上がり、眼前に漂うガイ・アスラを見据える。

そして、プレイフィールド近くで屈していたノヴァがゆっくりと身を起こす。



「フラッシュタイミング! マジック、バスターファランクスを使用!!

 不足コアは超神星龍ジークヴルム・ノヴァより確保! よってジークヴルム・ノヴァはLv2にダウン!

 バスターファランクスの効果で、希望皇ホープレイのBPを+4000!!」



ノヴァが足許に転がっていた剣を取る。

それはガイ・アスラが投擲し、ホープレイが捌いて後ろに受け流したもう一本のホープ剣であった。

ぽぅとノヴァの体内からコアが抜けだし、ホープ剣の刀身へと吸い込まれていく。

途端に燃え上がる。

燃え盛る炎を纏う剣を手に、今ジークヴルム・ノヴァが飛び立った。



「こ、れでホープレイの攻撃力は……!」

『8000―――ガイ・アスラを上回った』



ホープレイの頭上で飛翔するノヴァが、手の中のホープ剣を真下に落とす。

頭上に手を掲げていたホープレイの手の中にすっぽりとその剣は収まった。

掲げた燃える剣と、反対の手で持つホープ剣を打ち合わせる。

まるで炎が伝播するかのように、炎の波はもう片方のホープ剣にもコアの力を宿らせてみせた。

ガイ・アスラが僅か、余裕だった筈の戦いに身を強張らせている。



ノヴァが開幕の狼煙代わりに、光の翼から迸る幾千もの閃光を解き放つ。

瞬間、ホープレイとガイ・アスラは同時に奔った。

無限に等しく間断なく吐き出され続けるノヴァの弾幕を躱すには、障害物を要する。

つまりノヴァの仲間であるホープレイの許ならば、あの圧倒的威力の効果範囲外としていられると言う事だ。

だが当然、それは同時に死地でもある。



一秒待たずに至近距離まで寄り合ったホープレイとガイ・アスラ。

初撃はガイ・アスラがとる。

奔る竜尾が下から打ち上げる形でホープレイの胴を打ち据えた。

更に続くはガイ・アスラの拳。

目前まで近く寄ったホープレイの顔面を一撃、二撃、三撃――――

止める事など考えずに一撃一撃必殺を意志を込め、拳を振り抜き続ける。



―――――だが、小揺るぎもしなかった。

ノヴァの光に照らされたホープ剣は、先とは全く比べ物にならない威力を秘めていた。

留まる事なく拳を振るうガイ・アスラに向け、片手で振るうホープ剣の一閃が振り下ろされる。

ほんの少し前、その身体に傷一つ入れられなかった攻撃は、さくりとガイ・アスラの右腕を切り落とした。

舞う腕に看取れ、ガイ・アスラが一瞬の自失に見舞われた。



追撃の二撃目は横に薙ぎ払うカタチで放つ斬撃。

風ごと斬って捨てるような流麗な一太刀は、しかし自己を取り戻したガイ・アスラの神速の反応を追い切れなかった。

胸板に一閃の傷を負いながらも後退し、距離を放す。

つい先程までとは立場が完全に真逆。

その一撃、確実に命に届き得る。ならば、ホープレイの間合いである至近距離は不味い。

ノヴァの攻撃に晒されてでも、距離は保って戦うべき――――



距離を放した途端、光の豪雨がガイ・アスラの全身を撃ち抜く。

――――ノヴァの放つ光弾の嵐だ。

無駄だった。この状況、この布陣。

このデザインを甘んじた時点で、既にこちらが負けていたのだと確信する。

ふと、光の雨が止んだ。

――――頭上には希望の光が集う剣を構えた戦士がいる。



翼から生えている格好のアームで構えた希望剣。

十分に狙いを定め、投じるための準備を全て完了した。

片腕を失い、全身を光弾に打ち砕かれ、満身創痍となった幻羅星龍が希望皇の姿を仰ぐ。

アームが思い切り後ろに引き、次の瞬間背部と翼が軋むほどの全力を振り絞る――――

投げ放たれる剣。



その名を―――――!



「『ナンバーズ・ウェポンッ!! ―――――希望剣!! ホープ・スラッシュゥウウウウウウウッ!!!!!』」



天上から投じられた光の剣が、神が下す罰の如く幻羅星龍に下される。

奈落に向かって光速で直下する閃光の剣はガイ・アスラの胸へと突き刺さり、

そのままの勢いでバトルフィールドの大地へ墜ちていく。

―――向かう先は、ガイ・アスラが空けた中央の奈落。

底の見えない穴の中に、貫かれたガイ・アスラの姿が消える。



奈落の奥で膨れ上がるエネルギーが、現世へ向かって逆流してくる。

爆風が奈落の穴の周りに散乱していた瓦礫を吹き飛ばし、周囲を薙ぎ払って行く。

そんな中で、遊馬とオーバーレイしているアストラルの声が、荒れ狂うフィールド全域に発された。



『ルール効果より、ライフレート変換を適用!

 モンスターがスピリットと戦闘し、そのBPを攻撃力が上回った時。

 そのスピリットを破壊し、更に上回った数値分のダメージを与える!

 この時与えたダメージを無効にする事で、無効にしたダメージ800ポイントにつき1つ、

 相手のライフコアをリザーブへと送る―――――!

 ホープレイの攻撃力は8000、ガイ・アスラのBPは7000、その差は1000ポイント!

 このダメージを無効にする事で、お前の最後のライフコアを破壊する!』



男に1つだけ残っていた最後のライフが破砕した。

青い光のバリアが発生した瞬間に、溢れ出る光のエネルギーの衝撃に堪らず粉砕されたのだ。

男の苦渋の顔はしかし、それでも敗北には屈していない。

まだこれでも、次のターンのノヴァの攻撃は耐え得るのだ。



それを断ち切るホープレイの威容が、遊馬の声とともに降りてくる。



「アーマード・エクシーズの第二の効果、発動――――!

 装備したモンスターの戦闘後、装備カードとなったモンスターエクシーズを墓地に送る事で、

 そのモンスターは二度目の攻撃を行う事が出来るッ!」



――――奈落の底から光が溢れる。

希望剣が底でガイ・アスラを光で焼き尽くした証左が、奈落の闇ごと白一色に染め上げる。

天へと昇る光の柱と化したそれは、天空で聳えるホープレイの姿を照らし上げた。

無手となったアームが、背負った大剣の柄へとかけられる。



「―――――三度ならず、四度までも……ガイ・アスラが……!

 この、私が………ッ!!」



遂には、男の声に敗北の色が混じった。

引き抜く大剣を頭上に掲げ、ホープレイはゆっくりと男の眼前まで飛行する。

その攻撃力はバスターファランクスの効果が消え、しかし未だ4000。

3500を残す男のライフと言えど、一撃の許に消し飛ばす。



「『CNo.カオスナンバーズ39 希望皇ホープレイの攻撃――――ッ!!!

 ホープ剣カオススラッシュァゥウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!』」



朱色の眼光を極限まで高め、ホープレイがその剣を一気に振り下ろした。

一撃を持って、男の残っていたライフが0へと減じる。

全てのライフを失った者。

敗北者へと成り下がった男が光に包まれ、断末魔を上げて消えていく。



「お、の、レェええええええええええええええええっ!!!」



決着が下された勝負が終幕し、ダンと遊馬の二人を浮遊感が襲う。











「結局なんだったんだろうな、あいつ」

「んー、考えても多分分からないだろうし……

 やっぱこの建物。登らなきゃいけないのかも」

『…………』



男が消えた塔の足許に戻ってきた三人は、これからどうするべきかと悩む三人。

先程からずう黙って物思いに耽っているアストラルに遊馬が声をかける。



「なあアストラル! お前、なんかさっき心当たりがどうとかって言ってなかったか?」

『………ああ』

「アストラル、何だって?」



こちらの空間に戻ってきた段階で、ダンにアストラルは見えなくなっていた。

だから遊馬がアストラルの言葉をそのままダンに伝えるしか意思疎通の方法がない。

ぼんやりと考え込んでいた頭を二、三度横に振ると浮かび上がる。



『ワタシの推測が正しければ……』

<ふふふ…よくぞ我らがカードアルカディア四天王、デュエルバトルのガイアを倒した!>

「「なっ!?」」



アストラルが喋ろうとしたその瞬間、三人の頭上から声が降り注ぐ。

突然の出来事に戸惑いつつ、三人は声のした上空へと顔を向ける。

そこにあったのは、空に投影された人型の巨大な影だった。しかも三人分。

いきなりの事に目を白黒させる遊馬とダンとは対照に、

アストラルだけは曇っていた顔を、得心したと言わんばかりに晴らしていた。



<だァが……奴は我ら四天王ォの中で一番の小ォ物ォ………>

<ククク……あの程度が四天王の力だと侮られては敵わん。真の最強を賭け、我々との勝負を受けるがいい>

<さあ、登ってくるがいい――――貴様らを地獄に落とす、このカードアルカディアをなぁ!

 フゥーハハハハハハハ、ハァッハッハッハッハッハッハッハッ!!!>



言いたい事だけ勝手に言って、その影は消えた。



「な、何だありゃあ」

「とりあえず、関わりたくない…かも」

『矢張りそうだったか――――』



明らかに遊馬とダンが引いているのにも構わず、アストラルはその光景を理解しているようだった。

そんなアストラルを胡乱げな眼を見る遊馬が、一応何が分かったのか確かめるために声をかけた。



「アストラル、何が分かったんだよ」

『今、疑念が確信に変わった。奴らは――――』

「奴らは?」



くわっと黄金の瞳の眼を見開いて、やや興奮気味な声を張り上げる。



『暗黒帝王デッド・マックスの部下、暗黒四天王だ!!!』

「………はぁ?」

『ああ。奴らは暗黒帝王デッド・マックスから直々にデッド・マックスの呪印を刻まれた親衛隊。

 その力はギャラクシー・クィーンに匹敵するとされ、ロビンを何度となく窮地に追いやった敵だ……』



アストラルが眼を瞑り、滔々と語る姿を見て遊馬が頭を抱えて蹲る。

何も聞こえていないダンが、きょとんとした表情でそれを眺めているだけなのは幸福なのかどうなのか。

やがて怒りに打ち震える遊馬が思い切り立ち上がり、アストラルに向け怒鳴り付けた。



「だぁからぁッ! あれはハクションだって何度も言っただろ!」

「ハクション……?」

『だが遊馬、現実に我らはこのような不思議な場所に連れてこられている。

 これが暗黒帝王デッド・マックスの仕業で無くて、誰の仕業だと言うのだ』

「そ、……そんなんオレに分かるわけないだろーがっ!」

「ハクション………?」

『遊馬、ここは流石にワタシたちだけでは分が悪い。

 風也に援軍を求めるべきだ。ワタシたちだけでも戦っていれば、きっと彼は助けにきてくれる』

「あぁあああ! だぁから―――もう分かるかぁあああっ!!」

「ハクション…………大魔王?」



混沌の様相を呈してきた場面での怒鳴り声が高らかに響き渡り、

ぐちゃぐちゃな世界の靄が少し晴れる。

ガゴッ、と何か歯車の嵌るような音とともに、今まで続いていた怒鳴り声が消えた。











がばっと起き上がる。

跳ね上げたブランケットがハンモックの下に吹っ飛び、床に落ちる。

右見て、よし。左見て、よし。上見て、アストラルいる。下見て、よし。

安堵と疲労から、でかい溜め息とともに声を吐き出す。



「なんだ、夢か……」



そうだ。そうでない筈がない。

あんな辺境に飛ばされて、違うカードゲームの世界の人と協力してデュエルとか。

そんな変な事普通に生活していてあり得る筈がないだろう。



「いやー、変な夢見ちまったな! はは、あはは!」

『遊馬、何を寝ぼけているのだ?』



アストラルが顔を覗き込んでくる。

そう、あの夢に現実感を感じるのは、寝ぼけているだけだ。

実際はいつも見る色んな夢の一つにすぎない。

もう一度大きく笑おうとして、



『眠らないワタシが夢など見る筈がないだろう。あの世界は現実だ』

「へ?」











後☆書☆王



ちょっとした短編書くつもりが何故こうなった。






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