幼い頃、俺は自分の力に酔いしれていた。
浅黒い肌に同年代の子供達と比べて異常なほど成長する身体。俺を虐げようとした奴らを一発で黙らせることのできる拳。
本来なら自分には在り得ない理想的な暴力がそこにあったのだ。
「ヤストラ、おまえは強い」
だが、圧倒的な腕力で暴れまわっていた俺を腕力で黙らせることができる人物が居た。
その人物は、オスカー・ホアキン・デ・ラ・ロ。俺の祖父だ。
「おまえは人が望むおよそすべてのものを持って生まれてきたんだ。違うものは虐げられる。――だけどヤストラ、おまえは優しくありなさい」
俺を愛の拳で諌めたアブウェロはそんなありがたいお言葉を言って諭してくれた。
「おまえのその巨きく強い拳がなんのためにあるのか。それを知りなさい」
厳しくも優しいアヴウェロの言葉を受けた俺は笑顔でうなずた。
それから数年後、俺は日本の空座町へとやってきていた。
沖縄に生まれ、8歳の時に両親と死別してメキシコへと渡り、再び日本へと戻ってきた。
まあ、波乱万丈といえなくもない人生を歩んできたが俺はとても幸せだった。
「ま、まさかソイツは……呪いのインコか!?」
夜も更けた空座町に俺の野太い叫びが木霊する。
俺の叫びに呼応して周囲の犬たちの遠吠えが始まってしまい、近隣のおっさんの怒鳴り声まで聞こえてきたが気にしない。
「そ、そーすよ? チャドさん、知ってたんすか?」
俺の驚愕した様子に慄きながらも肯定する坊主君。
「なんか、コイツ飼ってる奴みんなヒデェ目にあって死んじゃうんだってさ。それですぐ他の人の手に渡ってるんだと」
「ナニ? そんで回りまわってオマエんとこ来たの?」
坊主君の説明に半信半疑な様子でインコを眺めるちゃらい外見とは裏腹に苦労人で守銭奴なシゲオ君。
「お、おお俺が貰ってもいいか!?」
「マジっすか? チャドさんならそう言ってくれると思ってたっす!」
「ちょ、おいチャド!?」
鼻息荒くどもりながら呪いのインコを欲する俺の言葉にシゲオ君が待ったをかける。
「今の話きいてなかったのか?」
外見に似合わぬしっかり者のシゲオは本心から心配してくれているのだろうがそれでも俺はこのインコを諦めない。
「シゲオ、心配してくれてありがたいが俺はこのインコが現れるのを生まれた時から待っていたんだ。……そう、これは運命の出会いなのだ」
「チャド……」
俺のかたい決意の言葉を聞いたシゲオは手にした煙草で一服すると大きなため息を吐いて一言。
「キメェ……」
「ハッ! 最高のホメ言葉だぜ、シゲオ。浦原商店のおさげエプロンをファックしてこい!」
「ふざけんな!! 誰があんなバケモノおっさんを――」
シゲオの言葉に興奮してつい先日紹介してやった妖しげな駄菓子屋の店員を勧めるもシゲオはお気に召さなかったようだ。
生意気な子供店員に虐められていたかわゆい子供店員を拳骨で救ってやった俺に拳骨を食らわせてきやがったおさげメガネのおっさんはシゲオの好みではなかったか、残念だ。
大変ご立腹なシゲオの怒りの叫びが原因ではないことは分かっているが、あまりにもタイミング良く頭上から大きさが数メートルはある鉄骨が落下してきた。
身長が高い俺を見上げるようにしていたシゲオたちが先に気付いてくれなければひょっとしたら誰かが死んでいたかもしれない。
「ふ、今宵の雨はヘヴィだぜ」
「ちょ……そんなレベルじゃねえよ! 血ぃ出てんぞ?」
「て、鉄材背中で受け止めてる!? ……チャドさんって、相変わらずムチャクチャっすね」
痛みはあった。だがぜんぜん耐えられる痛みだ。
特に今生の俺にとってこの痛みは幸福の始まりといっても過言ではない合図だから逆に気持ちよいと言ってもいい感じだ。
「タスケテクレテアリガトウ」
受け止めた鉄骨を退かして一息つくとインコが感謝の言葉を喋った。
「問題ない。俺のアイアンボディは君のような子を守るために鍛えられているのだから!」
インコの感謝にマッスルポーズを決めて応える。
「ボクノナマエハ、シバタ ユウイチ。オジサンノナマエハ?」
インコ特有のたどたどしい言葉ではなく、カタコトながらはっきりとした喋り口のインコ。
「な、何だよこいつ……」
「まるで状況がわかってて喋ってるみたいじゃ……」
呪いのインコという噂だけでも気味悪がっていた二人は、さらにインコユウイチから距離を取った。
そんな二人は気にせず這いつくばって籠の中のユウイチと目線を合わせる。
「俺は茶渡泰虎。年齢15歳、職業はタイガーズブートキャン「アホなウソ言ってんじゃねぇよ」 ちょっと育ちすぎな無敵の高校生だ。よろすくな」
「ヨ、ヨロシク。オジチャン」
シゲオのツッコミにより頭を踏みつけられながらもユウイチに微笑みかける。
頭を踏まれながらいい笑顔で話しかけてくる俺の姿にユウイチも小さな身体を震わせながら応えてくれた。
俺の名前は茶渡泰虎。
しかし、俺の本当の、というか前の名前は違った。
何の変哲もないどこにでもありそうな安っぽい名前をもったただの人間だった。
いつ終わったのかも気付かないままに俺は新しい命と名前を手に入れていた。
2メートル近い身長と常人を遥かに上回る頑強な肉体を持って生まれた俺は、新しい自分が何者であるかを悟った時に目の前にあるモノすべてが美しく見えた。
これから動き出すであろう人生は、険しく苦しいものになるが俺は絶対に楽しみぬいてやると決めているのだ!
茶渡泰虎/15歳
肌の色/褐色
特徴/アイアンボディ
職業/高校生:憑依転生者