俺こと織斑一夏は大変な目に遭っている。
なんというか、針の筵というか、卒業式で「卒業生起立!」で間違って立ってしまった在校生のようなとても心細い複雑な気持ちになる。
幼馴染の工藤は「商業高校とかそういうこともあるらしいから、まぁ大丈夫だよ」と気軽に言うが全然気は楽にならない。
旧友の五反田弾は「うらやましい」とか適当なこと言うが全然気は楽にならない。
俺以外全員クラスメイト女。
IS学園は基本女子高なんだ。
なんで俺はこんなところにいるんだよ。
藍越高校受験の時に俺が迷っちまって間違ってISを動かした所為なんだけどさ。
ちらりと廊下側の席に座ってる工藤をちらりと見る。
なんか凄く楽しそうに、クラスメイトの自己紹介を見ている俺の幼馴染の工藤美緒。
左手の薬指にはきらり、と輝くシルバーリング。
俺が巻き込んだせいで一緒に藍越に受験できなかったのだが、俺の料理の師匠である山田さん主催の合格パーティーの時に俺が謝ったら
笑って一つ返事で許してくれた良いやつだ。
昔からよっぽどの事がない限り怒らない穏やかなやつで気心を知れてるだけに、今の俺にとっては入学してこのクラスに決まってから2つの救いの1つである。
それに俺と女子が話してるとき昔から工藤がそれに混じるとギスギス感がなくなるから、それも加味して考えると、凄い助かる幼馴染だ。
だから、助けてくださいと視線を送る。
そして俺の視線に気がついたのか工藤は苦笑し始める。
巻き込んで本当にすまなかったけどマジ助けてくれ、とこっそりと手を合わせる。
すると工藤が手を合わせる姿があまりにも滑稽だったのか苦笑を深くし、窓側の席の方にすっと指を指し示す。
そして俺はまたちらりと横目に窓側に視線を移すと6年ぶりに再会するもう一人の幼馴染の篠ノ之箒がいる。
どうやら箒の方に頼れ、ってことなのか?
しかし、何が気に障ったのか箒に救いの視線を投げかけるとすぐにふい、と視線をそらされる。
そうしてまたもう一度工藤の方に視線を投げると
工藤は今度、教壇の方に指を指し「マ・エ」と口パクで言う。
前?
「織……君、織斑一夏くんっ!」
「は、はいっ!?」
うわ、声が裏返ってしまった。
どうやら知り合いに助けを求めることに没頭するあまり、自分が次の自己紹介か忘れていたらしい。。
FIGHET2.1 奥様はショートホームルームを続行したいそうです。ヒーローは安全パイ。
どうやら私や篠之さんに助けを求めるのに夢中で自分が次の自己紹介ってことに気付かなかったみたいだね。
どんまい。
工藤美緒はクラス31名の内30名の女子として、純粋にIS学園一年一組の初ショートホームルームを楽しんでいた。
こうゆうただ新しい出会いって若いうちにしか楽しめないものだよなぁ
社会だと面接で学歴とかである程度先入観が既に周囲に広まってるからこういうのは学校入学最初にしか味わえない、と思いながら
頑張って自己紹介する、既にある程度の先入観と期待バリバリの視線でクラスメイト全員から銃撃されている、幼馴染の織斑君を見た。
「えー……えっと、織斑一夏ですよろしくお願いします」
必死に織斑君が第一声を吐く。
お、ちょっと詰まったけど噛んだりしてない凄いな。
喋り方にヤケクソも入ってない、うん。
私だったらああいう立場に絶対立ちたくないなー織斑君がんばれ、がんばれと心の中で応援する。
「えー…………」
「よろしくお願いします」のあとから
早くも言葉に詰まってる……
うわ、どうしよう、趣味とか日課とかすぐに言いなさい織斑君。
えー……とかがあんまり長い間続いたあとの悩み貫いた言葉ってあんまり面白くないのが8割だから、さっさと趣味が料理ですとか言うんだ。
趣味が料理ってあんまりはずれなのない趣味の中でも上位だから、さっさと言うんだ。
ましてや、女の園、中々好印象だから。
これで趣味がサボテンの飼育とか、意味の解らない受け狙いをしたら、空気が白けるから、さっさと近所で毎月行なわれる料理会に参加してて、その中でも出し巻き卵が料理会に参加している奥様方の中でも群を抜いて綺麗に作れる、とかでもなんでも言うんだ。
あーっムズムズする。
クイズミリオネアのみのさんの長い沈黙ばりにムズムズっとする。これでCMに入られたら、他局にチャンネル変えるぐらいムズムズする。
あ、こっちに悲愴なほどの助けてって目線が来る。
私は織斑君の視線になにかしら言うべき言葉を思いつきがあると見て取れたので目線で頷く。
そして即
「以上です!」
と織斑君が言う。
え?
長く続く、「えー……」を無理矢理ずっぱり切ったよ。
あ、あーあ。
期待感が外れたのかガタッとしたクラスメイトが何人かいた。
私はあーあ、だよ。
優しそうな眼鏡の先生が涙浮かべている。
あの先生、結構緊張すると噛むタイプの人みたいだから自分の苦い経験でも思い出してるのかな。
私もああいう苦い経験があるから、なんか恥ずかしくなってくる。
これ以上先みれないよ。
なによりも次に自己紹介する私を含めたおの次の五十音のクラスメイトが全員ハードル上げられたんだよ。
織斑君の後ろの子頑張って。
このちょっと微妙な空気を変えてください。
と、思ったら、織斑君の頭を教室に入って来た織斑君の姉の千冬さんが硬そうな黒い出席簿を縦にして、しかも角で叩いた。
結構痛そうだけど、私は報われたような気持ちになった。
姉弟のやりとりが始まり
スタジオを白けさせたお笑い芸人のネタをちゃんと拾って笑いに変えてくれた先輩芸人のような光景を感じて私はほっとした。
でも千冬さんが来たらなんだか皆興奮しだした。
ああ、ISの世界大会優勝者でしたね千冬さんは
すごい皆騒いでる。
私はその様子を見て隣のクラスから「うるさい」とか苦情来そうだな、とか考えてしまい。またムズムズしてきた。
結局入学して最初のショートホームルームは私はムズムズしてるだけで終わった。
ショートホームルームは潰れ、そのまま一時間目の授業が始まった。
私は、自己紹介楽しみだったのに、と思いながらIS基礎理論Ⅰと書かれた教科書を開いた。
織斑君はトリに持っていけばよかったのに、自己紹介って次の機会って設けられるのかな、とか考えながら一時間目の授業を真面目に受けた。
一時間目が終わり、休み時間、クラスメイトが牽制しあっている。
うわ。
誰が男子に話しかけるかって牽制してる。
緊張感あふれてるなぁ、学校初日ってもっと初々しいのが普通なのになぁ。
この初々しさは商業高校の入学最初の休み時間にクラス一名だけ男子がいても変わらないものだと思うのに。
「ねえ、工藤さんだっけ」
牽制をやめて私に話しかけてくれる子が居た。
黒髪に赤い髪留めがワンポイント入って。中々お洒落な子だ。
「あ、初めまして工藤美緒です夜竹さゆかさんでしたっけ?」
「え、うん初めまして、あ、名前わかるの?」
「うん、ちょっと珍しい苗字だな、って思ってたから覚えちゃった」
なんとなく夜竹ってなんか昔話のかぐや姫っぽいから覚えてた。
さゆかって名前もさやかって名前と似てるけど、一文字違いで大分柔らかい印象の名前になって可愛らしいので覚えた。
「やっぱり珍しい?それよりもちょっと聞きたいんだけど良い?」
「うんなに?」
「織斑君の視線が工藤さんの方になんだか行ってたからちょっと気になって、知り合いなの?」
「うん昔から家が近所でずっと学校一緒だったから、友達かな」
「え、嘘ー!?」
「え、何々!?」
私の後ろの席に座っている、相川さんも話に加わる。
あ行なのにく行の私の後ろの席の相川さんだ。
そういえばなんで私一番前なんだろう、とふと思った。
「幼馴染!?じゃあさ、気になってるんだけどその薬指にある指輪って………もしかして織斑君から貰ったやつ!?」
どうやら私の左手薬指に輝くシルバーリングに気がついたのだろう。
なんだか相川さんがあらぬ勘違いをし始めみるみると悲しそうになってくる。
「ええっ!?まさか!?」
夜竹さんもやっぱり織斑君が学園一人の男子だからお近づきになりたいんだろうなぁ、悲鳴交じりの驚愕を声にする。
二人の表情の変わり具合が凄い。
最初に友達って言ったのになぁ。
黙ってても面白そうなんだけれど
貴仁さん以外の人と勘違いをされるのは嫌なので
「え、違うよ」
即効否定する。
「じゃあ、なんで指輪つけてるの!?」
制服の改造自由だけど、アクセサリーは駄目だよね?と相川さんが尋ねてくる。
「自己紹介に言うつもりだったんだけど………私、来月結婚するんだ、そしてこれは婚約指輪、ちなみにちゃんと学校から許可とってるからこれは違反じゃないよ」
「結婚!?」
「誰と!?」
「工藤貴仁って人と」
「だれ!?」
「うーんと……親戚のお兄さん、看護士やってる人」
「えーっ嘘!?」
「早っ!!本当!?」
「本当、本当、来月工藤美緒は結婚して工藤美緒になりますってね、あ、苗字変わんないや」
「えっ本当なの!?」
「なにー?なにー?私にも教えてほしー」
そして牽制せず盛り上がってる私達に気になったのか制服の袖がぶらぶらしてて可愛らしい、のんびりとした子がやってくる。
「なになに!?」
と私の後ろの子も話しに混ぜてと話に参加する。
これから私に激しい質疑応答が始まるのだけど話題の種にはなるのかな、と初めて会う人たちとお喋りを始める。
初対面の人たちと喋り始め、やっと入学最初の学校の休み時間の初々しさを感じ、笑みがこぼれる。
せっかく学校に入ったんだから、高校生活だ、学校へ行くのは5割は友達に学校の友達に会うのが楽しいからって理由だと思う。だから友達は多く作りたい。
さ、私に対する質問が終わったらこの4人に自己紹介でもしてもらおう。
ちなみに私の爆弾発言で数人が牽制をやめてこっちの話に参加する間に織斑くんは篠ノ之さんにつれられて教室を出て行った。
結局休み時間中、大部分の人は牽制を止め、私に多くの質問が来る。
話題は私の結婚の話と織斑くんについて。
皆なんだか、ライバルじゃないのね、とか、安パイだ、よかったー彼女じゃなくて、とかで皆、気安く話しかけてくるようになった。
まぁ私が織斑君の最大の情報源だしね。
どうやら友達はまだだけど、知り合いは一杯つくれたみたいだ。
質問ばっかりで疲れるけど。
どうやら入学最初の出だしはまずますかな、と思う私であった。
あとがき
すごい短いですが、今回一旦区切ります。
次
決闘までいくかなぁ
超ロースピード展開ですが、次回もお楽しみに。
ちなみに一番前の席のど真ん中、ワンサマー君の一個席を挟んで主人公が廊下側の端に座っています。
千冬さんがちょっとだけ安パイ配置。
次回
クラスメイト同士の決闘!?でもクラスで私だけ結婚してます、いいえそれは婚約です。