FIGET1.9 入学前の春休み
中学校の卒業式も終わり、別れと出会いの季節の春。
美緒は結局IS学園に進学することに決めた。
入学までの春休み、やはり休みはゆっくり寝ていたい。
だが、工藤美緒の朝は早い。
ちなみに初代サンレッドは現役時代お昼に起きていた。
美緒は太陽が顔を出す前には目覚める。
目覚ましも使わず4時20分に起床。
軽く顔を洗って歯を磨き、パジャマからジャージに着替え、4時30分にはまだ寝ている家族を起こさないように家を出る。
「今日の日出時間は4時45分か、春になってきたなぁ」
美緒は最近買ったウォークマンで癒し系ケルト音楽を聞きながら近所の公園まで早歩きで向かう。
近所の公園は遊具が全て撤去され、砂場とベンチしかない公園だった。
危ないから、とか言うけど、これはあんまりだと思うなぁ、などと最近の社会の有体に文句をつけ、軽く体操を始める。
ラジオ体操1番2番3番全てをしっかりとこなす。
体操は身を入れてやれば結構な運動となり、体の筋が伸び体が柔らかくなり怪我をしにくくなる。
あとは足りない部分の補強運動を行い、公園の敷地から出て歩き始める、大股で腕はしっかり振るウォーキング。
5分程度歩いたら、どんどん足の運びを速くし、走り始める。
朝焼けの綺麗な光を浴び、気持ちのよい朝風を受けながら誰もいない早朝の街の景色を見ながらフォームに気をつけて走る。
10キロほど走るとまた先ほどの公園に戻り体操をして家に戻る。
その頃には家に戻りうがい手洗いを済ませると時計の針が5時25分を指している。
家の浴室に向かい、湯沸し機のスイッチを押し、お風呂に湯を沸かし始める。
軽くタオルで汗を拭き、誰もいない居間で静かに、柔軟体操始める。
一通り、柔軟、ヨガ、バストアップ体操などを20分ほど行なう。
そしてお風呂に入るのだがその前に水を一杯、塩を1舐めし、水分塩分を補給してから脱衣所に向かい、服を脱ぎ始める。
繊細な生地の下着とジャージは分けて洗濯籠にきちんといれる。
ブラジャーなど女性の下着は男性の下着に比べると生地が繊細な物が多いので長持ちさせたいのならそれなりの扱い方が求められる。
そしてお風呂、お風呂に電動歯ブラシ、洗顔用の泡立てを持参し、浴室に入りまずは体を洗う。
しっかり体を洗うボディソープは糸瓜で泡立たせ、泡が肌理細やかになったら全身をくまなくこすり始める。
力強くこすりすぎると肌荒れの原因となるので注意しながら洗う。
それでいてしっかりと体を磨いていく。
女性器は言わずもながら、特段しっかり彼女が洗うのは胸の谷間、の胸の下。
美緒が女性になって見る分には良いけど、胸って大きいと結構めんどくさいと感じていた。
「夢なんかつまってない……所詮、脂肪だよこんなの」
型崩れには気をつけなきゃいけない、あせもはかきやすくなる、どんなに暑い日でもブラジャー着用。
理解は出来るが集まる男の視線。
本当に溜息が出る。
現在15の女性ながら既にDカップ。
ちなみに本人の過去の趣向としては手の中に納まるくらいが至高だった。
体を泡だらけにするとシャワーで流す、泡を流し終わると、シャワーの水流を強くし、首筋のリンパが集まる部分などにシャワーを当てる。
こうすると新陳代謝が良くなる。
次に歯磨き、1分間に3万回振動する電動歯ブラシで歯を磨く、歯を一本一本丁寧に磨く。
これにも気を使い、電動歯ブラシは歯に強く当てずに磨く、あまり強く歯ブラシを当てると歯の形が悪くなるからだ。
ちなみに美緒は生まれてこのかた二度目の人生で虫歯0、歯並びも大変美しい。
それでも半年に一回は歯医者に行ってチェックしてもらう。
歯の病気の怖さは良く知っているのだ。
故に前世の教訓を最大限に活用。
そして歯を磨くと口内の歯磨き粉をしっかりうがいで落とし、次に顔を洗う。
この頃には浴室内の熱で温まり美緒の肌全ての毛穴は開いている、泡立てで女性用の洗顔剤をしっかり泡立たせ、顔を優しく洗う。
これを6年前からしっかりやるようになってからは彼女の顔には毛穴汚れ、ニキビ一つない、白く綺麗な赤ん坊のようなしっとりとした肌になっていた。
これまた洗剤を全て綺麗に落とすと次に髪を洗う。
貴仁さんの母のお勧めのシャンプーで髪を一本一本を意識しながら丁寧に洗う。
そしてリンスも同じ工程を行なう。
美緒の頭髪は肩にかかるくらいなのでそこまで時間はかからないが、一般男性の10倍はかけている。
髪を洗い終えると、30分間の半身浴、本来1時間が望ましいのだが、そこまでやる気が起きない。
既に失われた自分の愛棒に虚無を感じながらの30分の半身欲を終えると風呂から上がる。
お風呂から上がると体を拭きバスローブを着て、髪をドライヤーではなくタオルを使ってしっかりと乾かす。
ドライヤーは時間がない時に使うものであり、理想的な髪の水分量を保ちたいのならタオルで髪の根元までしっかりと拭くのがいいらしい。
その後、脱衣所に設けられた洗面台に向かい、洗顔後のケア。
化粧水を手に含ませなじませるように顔につけていく。
ちなみにコットンでつけるとコットンの繊維で肌が傷つくので絶対手で行なう。
次に美容液。美容液とは、保湿や美白、リンクルなどの有効成分が入っているものをさす。
肌にハリを出す、シワやしみを防ぐなど、種類によってさまざまな美容液、主に使用するのはしみを防ぐタイプ。
美容液は顔にたっぷりと塗り、塗りながら顔にマッサージを行なう。
そして指の腹を使って、やさしくなじませていく。
乾燥しがちな目元や口元などは、多めにつける。
そろそろいい加減にしたくなってくるがまだまだ地獄は終わらない。
最後に乳液。
洗顔後に化粧水、美容液、乳液という順番で使い、最後に油分の入っている乳液で潤いにフタをするのだ。
手のひらに乳液をとり、顔全体になじませていく。
この時肌の状態によって、使用量を調節するようにしなければならない。
力を入れずにやさしく、下から上へ、内から外へとゆっくりとのばしていき完成。
本当は此処からメイクの時間がスタートするが、美緒はナチュラル志向なのでしない。
最低限のお洒落で口にリップを塗り、バスローブを脱ぎブラジャーをつける作業が始まる。
順序は簡単。
1、鏡の前に立つ。
2、ブラジャーの肩紐を両腕に通す。
3、90度にお辞儀をしたまま、ブラジャーのアンダー部分を胸の下にあてる。
4、カップの下のアンダー部分を胸の下にシッカリと押し当てたまま、顔のほうにブラジャー全体を移動させ、アンダーの位置が数センチ上になるようにする。
5、限界までアンダーの位置を上げた状態で、ホックを留めます。
6、お腹のお肉、背中や脇の下のお肉などをカップの中に入れ込みます。
7、ここで、お辞儀を戻して、立ち姿勢にします。
8、いつもは下乳なはずの場所がアンダーバストになってるので、違和感あるかも知れません
いつもよりアンダーが苦しく感じるかもしれません(胴体は上にいくほど太くなるため)が、ケアし続けると胸は上に引っ越してくれます
9、余った肩紐を、縮めます。
10、後ろに手を回し、背中側のアンダーだけ下に少し下げます。こうすると胸がツンと上を向きますし、締め付けが少し和らぎます。カラダの前側のアンダーを下げないよう、気をつけてください
11、鏡で下記をチェックします。
『脇の下がすぐにブラジャーになっているか(距離があると脇肉になっちゃいます)』
『真横からみてバストトップが肩と肘の中間にきてるか』
以上。
簡単です。
ちなみに美緒は余分なお肉がないので6の工程は省きます。
着替えると、ローズティーを淹れ、ゆっくり飲みながら居間で朝のニュースを見る。
これも一つの美容法であり、美緒は長年ローズティーを愛飲し続け、美緒の体臭は華やかな薔薇の良い香りがするようになった。
やっぱり男だったら綺麗な嫁が欲しいよね、全てはお兄さんのために、という感じで自己研鑽を欠かさず行なう美緒であった。
「おはよー美緒ちゃん、お母さんにも一杯頂戴」
「おはようございます、義母さん、今淹れますね」
既に時刻は6時半前、貴仁の母が起きてくる。
二人で並んで座り、ニュースを見ながら朝の一時を楽しむ。
貴仁の母はローズティーを飲む美緒の姿をみて、羨ましそうにみる。
「本当にいいなぁ貴仁は。また朝早くから起きて頑張ったんでしょ?もしお母さんが男だったら絶対美緒ちゃんと結婚して、美緒ちゃんと毎日ラブラブしたいわー
これが全部うちの貴仁の為だなんて……貴仁には勿体無いわ」
「貴仁さん以外の人の為だったら、ここまでしません」
「うわ、でた美緒ちゃんのお惚気、でも若い時から美容に気を使うのは偉いわ、元がいいし、家に来た小さい時から始めてるからそこらへんの子とは段違いよ本当に、目指せ絶世の美女って感じ?」
「こういうのは積み重ねですから」
「もうねー、本当に貴女は貴仁の為に頑張る子よねぇ、お小遣いもクリスマスも誕生日もお年玉も何が欲しいの?って聞いたら殆ど自分磨きの用の物か家事の道具に使ってるわよねー、たまにはゲームでも買ったら?お母さん職場の若い子達と休み時間にモンハンやるのよー。楽しいわよ?」
「うーん、ゲームですか?……私ってそういうの貴仁さんが持ってるので満足しちゃうから、あんまり欲しいって思わないんですよね」
「えー、未だにプレステと64とスーファミだけで遊んでる貴仁の?あの子職場の周りみんなPSPなのに一人小さい時に買ってあげた初代ゲームボーイで未だにポケモン赤緑の子よ?」
15歳の美緒と35歳の貴仁はよく二人でぷよぷよ、マリオカート、スマブラ、ゴールデンアイをやっている。
母と父もやるが主に60代近くの夫婦二人はモンハンをよくやっている。
この家族、コミュニュケーションの一環がゲームである。
「このまえポケットの方プレゼントされましたよ今、貴仁さんは赤、私は緑で一緒にやってます。通信が楽しいです」
「…………金銀、お母さんが買ってあげようか?」
「………ちなみにお兄さんは青が欲しいそうです」
「ロリコンの癖に感性が古臭いわよね貴仁は……つき合わせてごめんなさいね」
「楽しいですから」
「はいはいお惚気、お惚気、でもね、いい加減貴仁を携帯ショップに連れてってあげてね?
未だに写メとか赤外線機能無しの携帯使ってるんだから、物持ちが良いっていっても限度があるわ。「10年以上使ってるよこれ」とか職場で自慢げにしてるの見てて凄く恥ずかしいもの」
「バッテリーとか何度も嬉しそうに変えてるから、多分あれは……趣味かな?」
「あれよね、筆箱とか小学生の時に買ったのをずーっと大人になっても使い続けるタイプ、良いことなのよ?でも貴仁もそれなりに収入もあるんだから、もう少し出し惜しみしないでもらいたいわ。趣味は貯金、図書館通い、釣り、散歩って、一番お金が掛かるのが釣り……ギャンブルもタバコもやらないし、酒は付き合い以外だと飲まないし、うんうん本当、貴仁ってつまらないのよねー、釣り道具もお父さんのお下がりだし、あんまりお洒落もしないし」
「でも、ギャンブルはたまにするらしいですよ?この前お兄さんと競馬場にデートで一緒に行きましたし」
「えっ競馬場でデートって何!?」
「1レース上限600円で私がお弁当作って持って、会場の芝生にシートを引いてゆっくりとお弁当食べながら4レースぐらい楽しみました、あとイベントでポニー触ったり犬を触ったり」
「………」
「結構家族連れの方とか多くて、親がレースに熱くなって子供が暇をしてるので一緒に遊んだりしてました、楽しかったですよ、基本的に馬券は堅実に狙ってるのでちょっと増やしたら次のデート資金として持ち越せますし」
多分オッズ1.5とかの単勝ねらい。
「………15の女の子とするデートじゃないわそれ。普通はこう……社会人の財力を生かして女の子をドレスアップさせて夜景が綺麗なレストランでディナーとかそういう」
「ディナーですか……あっ!先週、結構高い天麩羅とお蕎麦のお店連れって貰いました、天蕎麦凄い美味しかったです、こだわりで天麩羅は胡麻油で揚げる店らしくて」
、
「それでも二人で1万円行かないでしょ?」
「あっはい、私とお兄さんは同じ天蕎麦で、えーっと大体6000円でした、もう凄い贅沢でした、そのあとお兄さんの車でドライブして楽しかったですよ?」
「ドライブって勿論あの車よね?黒いデミオ。こうなるのをわかってればもっと格好つけて車とかデミオとかビッツとかじゃなくてBMWとかフェラーリに乗って欲しかった……息子に凄い車買ってあげるのお母さんの夢だったのに」
「お兄さん、ガソリン代の1円2円で一喜一憂するから、高燃費の車は好きじゃないって言ってました、お兄さんって本当に堅実でいいですよね」
「まぁ、将来を考えるのなら浪費癖がなくていいわね。家の貴仁は」
こうして、しばらく将来の姑と嫁の朝の一時が過ぎていく。
結局美緒は貴仁と居られればそれだけで楽しい、という話に落ち着くことになる。
別にデミオとかビッツが悪いと言う話ではない。
貴仁はよくミイラの格好をした人と低燃費車の車の良さで語り合っているという。
1リットルで何キロ走れるとかそういうしょうもない感じの話で盛り上がるらしい。
そして7時にはみんなで朝ごはん。
家族がそろってる日は家族全員で食卓を共にするのが工藤家の決まりである。
今朝は美緒と嫁と料理するのが嬉しい姑が作ったご飯である。
「今朝の一品!」
「今日の朝はお母さんと美緒の合作です」
「今日の朝ごはんはお母さん直伝、甘い玉子焼き、鮭の焼き魚、近所の山田さん手作りのぬかづけと豆腐と若布の味噌汁です」
「あと、昨日コロッケを作った時のあまったお芋で煮っ転がし作りました」
「「おおっ、豪華!」」
ぬかづけと聞いた辺りで貴仁と貴仁父は朝からテンションが一気に上がる。
そしてニュースをお共に皆で美味しく朝ごはん。
「ちょっとお父さん、醤油かけすぎ、ちょっとにしなさい」
「お兄さんはお塩かけすぎ、元々焼く時に軽くお塩振ってるんだから、塩味で食べたいならそのまま食べてよ」
和気藹々、平穏な朝ごはん。
『昨夜、動物園からライオンが二頭脱走しましたが、たまたま周辺を通りがかった、二三力(ふみちから)さんによって取り押さえられ、事なきを得たようです…
あっ失礼、放送に間違いがありました、二三力(ふみちから)さんではなく、ニシカ、ニシカさんでした、大変申し訳ありませんでした』
ニュースもこれといって大きな事件もなく、平穏である。
ちなみに説明しよう、ニシカとは古代インカ帝国で門番をしていた怪人である。
怪力だが身が軽くバランスが優れている怪人である。
「あら凄いわね」
「あ、ニシカさんって山田さんの所の人じゃない?」
美緒がそう言う。
「ああ、なんでも胃がわるいかもしれないから病院に検査にきてた人ね」
「ああ、あの非常に体格の良く、堅そうな筋肉を持つ青年だね、検査は二回目だったが、どこにも異常はなかったらしいよ」
「胃とか腸とかの病気って本当に悪くなってから気付くものだから何もなくてよかったわねぇ」
「そういえば、美緒は今日はどうするの?夜一人だけど」
俺は今日、夜勤泊まりだけど、と貴仁は美緒に聞く。
私たちも、と貴仁の母と父。
「今日は蘭ちゃんと一緒にお買物に行くよ、蘭ちゃんは来年受験でIS学園目指してて、私も入学の前にISの勉強したいから都心で参考書を一緒に買いに行く」
夜はそのまま五反田さんちの定食屋で食べるよ、と美緒は言う。
「IS学園決まった時になんか凄い分厚い本来てなかった?あれだけじゃ駄目なの?」
「うん、結構あの本、専門用語とか多いから参考書も必要かなって思って」
「お母さん、家に図書券余ってなかったか」
「うんあったあった、美緒ちゃん後で渡すから使いなさい」
「いいよ、義母さん達が使ってよ」
「いいの、元々美緒ちゃんが勉強で本を買うとき渡してって、姉さんがくれたんだから」
「ありがとう義母さん、あ、叔母さんにもお礼の電話するね」
「そうだ、私も山田さんに電話して美緒の合格祝いのパーティーのお礼しないと。帰り道は気をつけてね美緒ちゃん、去年ストーカーにあったこともあるんだから」
「わかりました義母さん」
こうして朝の食事を終えると。
美緒以外は皆出勤。
いってらっしゃいのキスを交わす美緒と貴仁をからかう貴仁の母、父という1シーンがあったが、これは省略しよう。
かよ子さんの実家にヴァンプは電話を掛ける。
「もしもし内田さんですか、山田です、レッドさんいらっしゃいますか?」
「誰だよ山田って。てゆうかヴァンプじゃねーか」
ちなみにヴァンプの偽名の山田は本人が市役所で名前を本当に変えた。
「住民票ではヴァンプじゃなくて山田なんだから、山田って名乗りますよ、かよ子さんのご両親が電話に出るかもしれないんですから」
「お前、住民票って……あったのか」
「そりゃありますよ。昔、確定申告してるって言ってたじゃないですか、ところでどうですか仕事は」
「仕事の方は結構楽だな、俺さ元々手先器用だし体力あるから疲れねぇし」
元天体戦士サンレッドの現在、塗装会社に勤めている。
今ではとび職のちょっとガラの悪いにーちゃんである。
何気に凄く似合っている。
「うんうん、嬉しいです私……レッドさんが真面目に働いてて。あとかよ子さんの実家はどうですか」
「おう香川マジ最高。うどんが美味しいのなんのって、知ってるか?香川だと缶コーヒーより安い金でうどんが食えるんだぜ?吉野家みたいな感じでうどんのファーストフード店があってよ」
「そうなんですかー。で、実家の方は」
「いまいったじゃねえか香川はいいって」
「実家のかよ子さんのご両親とは、どうですか?」
「……」
「どうなんですか?」
「……………気まずい、つうか気疲れするわ。川崎に居た時の方が気が楽だったわ」
婿養子で嫁の実家暮らしのレッドは疲れた声でそう言う。
「そんなことはどうでもいいんですけど、美緒ちゃんのことで報告があって」
「てめぇ、まじ腹立つな……で、あの子がどうかしたかよ?」
「実は5月に結婚するんですよ」
「はぁっ!?ってあの子まだ中学生じゃねぇか!?早すぎるだろうがオイ!?っていうか結婚できんのかよ!?」
「いやぁ、本当にお目出度いですよぉ5月の誕生日で16になったら貴仁さんと籍を入れるんですよ」
「貴仁って誰だよ!?」
「美緒ちゃんの親戚のお兄さんです。今年で35の看護士の方ですよ、珍しい歳の差婚ですよね」
「それって、なんだ…あの子大変なのか、35のおっさんと結婚させられるって」
「違いますよ、お二人本当に仲が良くて、もういつもラブラブなんですよ」
「まじか………」
今時の子はそんな感じなのかぁ、と感慨深くなるレッド。
「美緒ちゃん、あとIS学園に今年入学するんですって、いやー鼻が高いですよ、私」
「なんでお前の鼻が高くなるんだよ」
「小さい時から美緒ちゃんが健やかに育つように私後援会を結成しまして、美緒ちゃんが大きくなるまでずっと見守ってたんですよ、主に有志の怪人達の力で街の治安維持をして、美緒ちゃんを守ってました」
「悪の組織が街の治安維持とかいうなよ!!」
「いやぁ、やっぱり自分の組織の区域の平穏を保つのも悪の組織のリーダーの仕事の一つですよ、組織って乱れると一気に崩れますからね」
「………てかなんで俺に電話してきた、まさかあの子の近況報告だけか?」
「いえいえ、美緒ちゃんのことで相談があって」
「なんだよ、言って見ろよ」
「美緒ちゃん相当可愛いでしょう、今時の子では珍しいぐらい礼儀正しいし、男の子に人気があるんですよー。だから16にもなるし、痴漢とかそういうの気をつけなきゃいけない年頃でしょ、去年なんか軽いストーカーに会いましたし。レッドさん前ヒーロー協会から武器のテスト任されてたでしょう?ちょっとヒーロー協会の連絡先教えてくれませんか、ちょっと美緒ちゃんや弾くんの妹さんの蘭ちゃんにも護身用の武器をプレゼントしたいなぁって思うんですよ私」
「……って突っ込みどころ多すぎだろ!!」
「だってレッドさんのところの武器凄いでしょ、どうせならちゃんとしたものをあげたいじゃないですか」
「通販とかの催涙スプレーで十分だろ!?中学生に何を持たせる気なんだよお前は!?」
「女性でも確実に100%痴漢を撃退できる道具に決まってるじゃないですか」
「………お前、悪の怪人と痴漢を同レベルで見てないか?つうかあの子に護身用の道具とかいらないだろ、俺と同じぐらいつぇえんだからよ」
「美緒ちゃんをレッドさんと一緒にしないでください!あの子は普通の女の子なんですよ!?」
「いやいや、マジ必要ねぇだろ、例のストーカー、あの子にボコボコにされたらしいじゃねぇか、トラウマになるぐらい。かよ子から聞いたぞ」
去年の夏、美緒に目をつけていたストーカーは学校帰りの夕暮れに美緒を背後から襲おうとした。
ストーカーは美緒が運動神経が良いのを知っていたので確実に襲えるように、スタンガンで失神させてから美緒を意のままにしようとしたそうだ。
美緒が狙われたことに気付いたフロシャイムの怪人達は美緒を助けようと出撃。
が
男のスタンガンが美緒の背中に届く前に
綺麗に顔の正中線を狙った美緒の学生鞄の角が男の顔面に抉りこむように決まる。
男はもんどりうって倒れ、スタンガンは男の手から離れる。
そのスタンガンを美緒は拾い、男の足に片手で押し当てながら冷静にもう一つの片手で携帯電話で警察に連絡。
警察が来るまでの間、男は起き上がろうとするたびに静かにスタンガンでしびれさせ続けられたという。
ちなみに美緒を助けに出撃した怪人はそのままトボトボとテンションを下げながら帰る。
「いやぁ小さいつってもよう、女ってコエェよなぁ。俺でも15分間も人にスタンガンあて続けねぇよ、イエローかっての」
俺だったらワンパンだね、というレッド。
痴漢なんて触りたくない美緒は基本的に痴漢などに襲われたさい、撃退には手軽な鈍器を好む。
他のパターンでしつこく横暴な男に絡まれたさい、普段持ち歩いている折り畳み傘でサンレッドの人外スピードを生かした無音の瞬間連続急所攻撃を行なう。
絡んだ男は周囲の人から見ればまるで、いつのまにか痛み苦しみ倒れ伏してるように見えるらしい。
しかも頭の良い美緒は人が何処を殴られたら痛くて苦しいかをよく知っているので的確に狙う。
やられる男達には精神的な後遺症以外残さない徹底振り。
いつもそれを見ている怪人達は見守る必要なくない?とドン引きするらしい。
長年過去にレッドに瞬殺されてきた怪人達はその光景を見て
「やっぱり可愛い女の子でもレッドはレッドだよ、るろ剣の九頭龍閃みたいな連続攻撃だったし」
「あ、お前もそう思った?……でも折角助けに来たのに、また瞬殺だよ。たまには可愛い女の子を助けて感謝されてみたいのによぉ」
そのうち、ケンカ屋のレッド、ムエタイ使いのブルー、反則魔のイエロー、そして無音攻撃の二代目レッド、とか呼ばれそうな感じ。
「な、いらねぇだろ、つうか今女のファッションで流行ってるISとか言うのだって多分あの子なら素手でやれるんだから必要ねぇだろ」
現行最強兵器のISをファッション呼ばわりするレッド。
「……じゃあ、蘭ちゃんに護身用の道具あげます、催涙スプレー」
「ああ、そうしとけ……って蘭ちゃんって誰だよ!?」
あいも変わらず、悪の組織と正義の味方の友人付きあいは続いていた。
大きな書店を求め、都心に出た美緒と蘭の二人は楽しくお喋りしながら歩いていた。
「ああもう鬱陶しいよね、ナンパって」
「そうですねー美緒先輩」
「好きでもない見も知らない他人に厭らしい視線で「女」として見られると本当に気分悪くなるよね、暑い日でも露出少なくしないと駄目だし」
「美緒先輩の場合逆にそこらへんがこう、男の欲をかき立てるんじゃないですか?」
「ないない、ああいう人たちって基本ある程度可愛ければ誰でもいいんだよ。だから蘭ちゃんもあんまり露出の多い格好しちゃ駄目だよ、そんな短いスカートの服なんか着ちゃって……織斑君好きなんでしょ?そういう格好するときは好きな人の前だけにしときなさい」
「あ、やっぱりわかります?」
「あんな露骨な態度出てたらわかるよ、鈴もそうだけど、わかり易過ぎだよ」
「ふぅ……一夏さんってもてますよね」
「うん、結構もててたみたいだね、受験であんなことになって卒業式に織斑君出られなかったせいで卒業式に告白できなくて落ち込んでた子とか多かったね」
「ライバル多いなぁ……でも美緒先輩はいいですよねー。なんていったって5月に結婚ですし」
「まぁね、でもね、今となっては落ち着いたけど私も昔はライバルがいたんだよ?」
「えっ初耳です」
「それがさ、私が12の頃くらいにさお兄さんの元カノさんが家に遊びに来たんだよ、あれは………本当に最強のライバルだった、相手は大人だし、私なんて今も子供だけど、あの時はまだ小学生だったし、本当に焦った」
「……それは危なかったですね」
「本当………あの時は正直もの凄く泣きそうになったよ、元カノさんは結婚適齢期の人だったから、もし、よりを戻されたらそのまま結婚してただろうし」
もしお兄さんが結婚したらどうしよう、傍に居られなくなったらどうしよう、どうしようと本気で悩んだ日々。
だからこそ美緒は貴仁を追い詰めるように肉体関係迫った。
既成事実を作って貴仁をどん底に落とそうとしたのだ。
「でも勝ったんですね」
「………なんというか、私その、譲って貰ったというかなんというか…………多分私、女として完全に負けてるよ。貴仁さんの元カノさん、リカさんって言うんだけど、私のことをなんか気に入ったらしくて、逆に応援してくれたし」
あの時の自分は本当に卑怯な手を使う人間だった、と美緒は思う。
リカさんと二人きりになった時泣き落としも使おうとしたし、本当に最低だった。
私は対等に戦えなかったし、最初から対等に戦おうとしなかった。
人の罪悪感を利用しようとしたりして、本当に最悪だった。
思い出すだけで、自分に反吐が出る。
あの時の記憶は自身の暗黒面の一つである。
が、ある意味自身の心の転換期だった。
狂信的な貴仁への想いが解け、貴仁への想いが本当の恋心に変わった時期でもあった。
相手の事を本当に思いやるのが本当の恋心なのだと、とても陳腐だが、美緒は理解した。
説明しよう、ちなみに解りやすくエロゲーで言うならヤンデレバッドエンドからハッピーエンドへの移行である。
エロゲーで一番難しいヤンデレ解除である。
現在の美緒と貴仁の関係はエロゲーで言うならハッピーエンド後の後日談の様なものである。
美緒と貴仁の元カノ、遠藤理香さん(32歳)は今でもたまに美緒と二人で遊ぼうと家に来る。
家族以外で美緒と貴仁の結婚を一番祝福したのが彼女である。
美緒が純粋に尊敬してる人でもあり、一番逆らえない恩人であり、女性としての美緒の偉大な師匠でもある。
「なんか複雑……ですね」
実際に一番複雑なのは貴仁である。
そりゃあ過去に付き合ってるんだから勿論肉体関係もあっただろうし。
元カノの目の前で盛大に幼い女の子に迫られてたし。
下手をしたら一番バッドエンドだったのは貴仁である、社会的に。
ちなみに貴仁にとってはあの時の記憶は未だに黒歴史である。
別に貴仁自身は何も悪くないのに。
「私はもういいんだけど、お兄さんがさ、私がリカさんと買物に行った話とかすると、もの凄い複雑そうな顔するんだよね、冷や汗流しながら」
「それは、そうですよね」
「リカさんってあっぴろげで明るい綺麗な人でさ。その……えっちの時の話とか、普通に教えてくれるし」
「うわぁ、やばいです!大人です大人!」
「うん本当に大人……どこにお兄さんの性感帯があるとか、どこを責めると悦ぶとかの生々しい話とか」
「きゃあ!凄い凄い!過激です!」
「職業は女子高校の保健室で養護教諭やってる人で、経験豊富で生理の相談とか乗ってくれるいい人だよ、今度蘭ちゃんに紹介しよっか?すごい為になるよ」
「先生!大人な話、私も聞きたいです!」
「でもすごいエロい人だから、蘭ちゃんカルチャーショック受けるかもよ」
「うわ!楽しみです!」
「うん、こういう話って女の子はなるべく早く知らないと駄目だよね、来週遊ぼうって誘われてるから来る?」
「行きます行きます!やった!」
「じゃあ、とりあえず連絡して置くね?」
「ふふふふ、これで一夏さんゲットへの道のりが一歩前進です」
「いいけどさ、あんまり話を真に受けてそれを実行しないでね」
「勿論ですって!」
うん、ちょっと鈴には悪いけどいいかなーと思うが、まぁ人の恋愛だし、と何気に酷いことを考える美緒であった。
次回、IS学園入学。
やっと我等のフラグ王が現れ、女の園に爆撃を開始。
立ち上がれ、サンレッド!学校の風紀はお前が守るんだ。
あとがき
ISの話ぜんぜん出てなくてすんません。