108日目
ありのままに起こったことを書こう。
私は気がつけば七日経っていて、気がつけば玉座に座っていた。
何を言っているのか? それは私にもさっぱりであるのだが、本当に気がつけば見たことのある様な玉座に座っており、目の前で見た事のある様な女性が跪いているのである。何なのだろうこの状況は。
確か、石に躓いて斧をエルフの街に向かってぽーん、と放ってしまったのは覚えている。気絶したのだろうか、とも思ったが、よく見れば私は七日間日記を書いており、しかし奇妙な事に日付以外を塗りつぶしているのである。つまり私は意識があり、記憶が無くなっただけであって気絶したわけではないということだ。
それもどうだろう。
あぁ、ちなみに私が座っていた玉座は以前女王イヴが座っていた場所、そして目の前で跪いていたのは玉座に座るべき当の本人(本エルフ、又は本妖精とでもいうのが妥当なのだろうが、私が分かりやすいように本人と書くこととする)であるイヴである。心なしか後光が薄まっている気がする。
あまりにも急展開過ぎて、どこにもない脳が追いつかない状態だったので、とりあえず傍で控えていた女性エルフに聞いてみた。すると、である。
なんと私が女王イヴに決闘を挑んで王の座を奪ったと言うではないか。一体何の冗談だこれは、と言いたいところだが抑える。
ここで色々愚痴を言いたい気分であるがそれでは日記というか愚痴メモというか。とにかく別物になってしまうので控えよう。もう寝る。寝るに限る。
不貞腐れである。
109日目
一日経って少々落ち着いてきたので一応侍女らしきダークエルフ(シュヴァルツというらしい)に話を聞くと、七日の間に私はエルフの街を幾つか壊滅させて、戻ってきて暫くすると突然王に挑戦を仕掛けて、尚且つ勝利して王になってしまったらしい。
ここで挑戦について書こう。『挑戦』とは決闘の一つである。このオニクス王国のみならず基本的にダークエルフの国というのは、階級がそのまま強さになる(文官を除く)ので、もしもその階級につきたかったら強くなければならない。それは王も同じである。
とはいうモノの、当然殺し合いなどタブー。仲間同士で喧嘩はあれど殺し合いはしないのがダークエルフであり、良くも悪くも淡白である。そんな彼らははっきりとした勝敗を決めたい時は「決闘」という競技を行い、その中でも、上位の者に下位の者が決闘を仕掛けるのを「挑戦」と呼ぶ。
これのルールは、上位の者は決闘を受けなければならず、周囲の宙に浮いた数十の黒曜石から光った石だけを即座に切る『ブリック』、再生の大木というすぐに復活する木を幾ら両断(粉砕)する事が出来るか競う『ヒカイト』、そして何故か存在するダンジョンをどちらが先にクリアするかの『プルング』の三つを、先に二つ勝利出来た者の勝ちとする。
と、得意げにスリジエが語っていた。いつの間に現れたのだろうか彼女は。
そういうことで私は王になった。しかしそんな、いきなり王と言われても困るので、結局元女王のイヴに丸投げする事とした。適材適所、である。私は前世では引籠りなのだ、期待しておけというのが無理な話である。
しかし、形というものが必要だから、と玉座に座らされるのは勘弁してほしい。あと冠も止めておくれ、私は骨であるからしてずれて落ちるのが関の山だと思うのだ。
111日目
ペルレが私の傍から離れない。シュヴァルツが何故か睨んでくる。
ペルレは「エルフの討伐」とやらから帰って来てから私にべったりだ。いつそんな命令を受けたのか知らないのだが、それ以上にこの状態が気になる。いや、もう性欲も無くなって久しいので肉体的にどうこう、という話ではない。
つまるところ、ペルレはここまで甘えん坊だったかな、程度の疑問である。まぁ私が記憶を無くした間に何かあったのだろう。別に嫌われたわけでもないので疑問を頭の隅に追いやる。
肝心なのはシュヴァルツ。彼女は私の侍女というのだが、なにもせずにただ私の傍にいるのは侍女なのだろうか。というか、仕事は良いのだろうか。と、聞けば「王の傍にいるのが仕事です」と返された。そういうものなのだろうか……。
そんな彼女は、どうも私、というよりペルレを睨んでいる。なぜ、と聞いても何でもないと返ってくるが、しかし睨むのはやめない。ペルレはお構いなし。
女性の心は秋の空である、と感じた。
ところで間近に見た(後光が薄れているためある程度直視できる)イヴは、立派な女王をしていた。彼女が王のままで良いと思うのだが、挑戦を仕掛けたのが私というのだから自分から止めるなど言いだせないのが難儀である。誰か挑戦してくれないだろうか。
115日目
驚いたことに、銀狼が言葉を喋った。喋った、というか伝えた。どうも私たちの傍にいた為に言語を覚えたらしいが、本当であれば凄い学習能力である。
まぁそれは置いておく。肝心なのは報告内容であるが、彼が言うにはなんとエルフ達が戦争をしかけてきたというのだ。ダークエルフの国とエルフの国を行き来するにはアスガルドを経由しなければならない為、戦争地帯は自然とアスガルトになる。この国へ行くにはあの森を通らなければならない為、蹂躙されなければ良いのだが。
何にせよ、戦争など経験したこともない事に巻き込まれたくはないものだ。恐らく、街を滅ぼしたと言う私が原因なのだろうが……。
不安が募る。
118日目
アスガルドの「平原」で、エルフの国であるオラ・アフトクラトリア中央聖国が四国を伴って陣を展開したらしい。目的は、スリジエが言うにはこのオニクス王国。流石に数が数なので、この国もダークエルフ国であるピエドラ・デルナ聖国とディアマン国に援軍要求をしているのだが……どうも、不穏だ。そもそもダークエルフは群れる種族ではないという。一応、駄目元でタフト・アルアルド地下帝国にも……とも思ったが、そういえば彼らドワーフに王はいなかった。それ以前に非協力的なのだから期待は出来ない
まぁ、ペルレが私に任せてくださいと言っているのが何となく癒やされる。相も変わらずシュヴァルツも私の傍で控えているし、そこまで緊迫した状況ではないのだろうか。国の重要人物達もどこか余裕を持っている。
きっと大丈夫だろう。
122日目
前々から噂になっていた「勇者」が「魔王」を討伐しにやってくるらしい。いつからこうなったのかは定かではなくきっと私が悪いのだろうが、せめて記憶があればよかった。
戦いに出した多くの人員が帰っては来ず、情報収集に駆け回ったスリジエが行方不明。前線で指揮を執っていたイヴも負傷して帰ってきた。いよいよ目前である。そろそろ「ゲート」を錬金術師共が無理矢理こじ開けているのではないか、と数日前まで余裕を持っていた大臣が呟いた。戦争が始まってたった十数日。それでここまで変化するのだから世の中は不思議である。現実は小説よりも奇、也。
また私は 諦めてはいけない、と呼びかける。どうせ私ができるのはそのくらい。あぁ、いや。
そうだな。もう一つあったか。
123日目
もう日記を書くこともないだろう。
私、が生きていたのならば。この日記は焼却することになる。
さらば、我が前世よ。
著者:骨
修復:■
後書き
大分お待たせしました。急展開です。
さっぱり良い忘れておりましたが、このお話で目指しているのは『完結』です。作者はどうも完結させられないので、この話だけは何年かかっても何をしても例え1ヶ月2ヶ月間が空いても完結させる意気込みでございます。
その為、粗や展開の不具合が発生する場合がありますが、誤字脱字以外を改善するならばそれは完結させた後ですのでご理解の程お願いします。
あと、骨と斧は終わり、これからは第2章です。第2章は日記帳ではありませんので、日記帳以外を見たくない人はここで完結したと思ってくだされば。