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No.29752の一覧
[0] 【習作】戦場に立つ者(仮)【現実→Fate/zero 転生チート】[カッチン](2011/09/15 18:42)
[1] 0-02[カッチン](2011/09/15 18:43)
[2] 0-03[カッチン](2011/09/16 01:48)
[3] 0-04[カッチン](2011/09/26 23:05)
[4] 0-05[カッチン](2013/03/05 19:44)
[5] 0-06[カッチン](2013/07/19 15:30)
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[29752] 0-06
Name: カッチン◆e4b16b22 ID:d577a9a1 前を表示する
Date: 2013/07/19 15:30
 第四を数えるに至った聖杯戦争。
 その開幕の狼煙を上げたのは、陰に潜む隠者と黄金に輝く王であった。
 あまりにも一方的な圧殺。
 敵地に足を踏み入れた暗殺者は、降り注ぐ数多の宝具によって仰ぎ見た天を認識する間もなく消滅した。

 暗殺者アサシンの脱落――。

 それは聖杯戦争に参加する魔術師達が背後に迫る見えざる影に恐怖する必要がなくなったことを指す。
 しかし、これを鵜呑みにするような魔術師は未熟者のみである。
 あまりにも出来すぎた決着は、思慮の欠片を少しでも持ち合わせている者ならば、アサシンや黄金のサーヴァントとそのマスターたちに対する警戒を深めることになる。
 さらに双方のマスターである言峰綺礼と遠坂時臣は、聖杯戦争開幕直前まで師弟の関係にあった。
 いくら魔術師の師弟に仲違いが多くあるとはいえ、一切の疑いを持たないというのは愚者以外の何者でもない。



 間桐邸にてアサシンの脱落を観測していた雁夜もまたこの一戦が猿芝居であることを知る魔術師であった。
 その雁夜は、この時代においてはあまり普及していない携帯電話を用いてとある人物と実りある交渉を行っていた。

「契約成立ですね、それでは後ほど」

 会話を終えた雁夜は通話を切ると大きなため息を漏らす。

「いつの世も女は魔物、ってことか。……それを利用する俺も人のことは言えないのだろうな」

 内面は兎も角、外面は凡庸な青年のそれである雁夜は、人心を貶めることはできても操ることはできない。
 人の心を理解し、共感することができるのであれば雁夜の性質は、ここまで極まることはなかっただろう。
 雁夜が欲するものは、あくまでも己自身を用いた闘争であり、人心を用いた謀など片手間程度の些事である。
 功を奏すれば善し、空振りだったとしても損はない。
 自身に似合わぬ先ほどまでの会話を思い出し、雁夜はまたひとつ深いため息を漏らした。

「ため息ばかりついておると幸福が遠ざかると聞いたぞ?」

 あいも変わらず寛いだ様子の雁夜のもとに首と胴がようやく繋がったばかりの臓硯が似合わぬ前置きを伴って現れる。
 
「どんな理屈ですか、それ?」

 臓硯の前置きに脱力しつつ応える雁夜。

「理屈など知らんよ。貴様が気にするべきは、こ奴らのことじゃろう?」

 臓硯の言葉に視線を動かすと彼の腕には宝石が収められた透明な小箱があった。
 それはただの宝石ではなく、その内部におぞましい異形が蠢いている。
 宝石の内部に蠢く異形は、初めて雁夜が一から生み出した新種の蟲。
 雁夜が現在使役している蟲群は、すべて臓硯が生み出した蟲が雁夜の魔力に屈服し、変異し、強化されたものでしかない。
 その中で戦闘向きの蟲は、本拠地防衛用に強化改良した大百足と獰猛な肉食虫の翅刃虫のみ。
 臓硯が生み出した蟲のほとんどが拷問や調教、洗脳や陵辱などばかりに適した種であったために雁夜を満足させるだけの蟲は生み出せなかった。
 それでも臓硯が使役していた頃に比べれば、遥かに戦闘向きに変異した種も多いが、如何せん下地が整っていなかった。
 ゆえに雁夜は、自分好みの蟲を新たに生み出すことにしたのである。
 その成果が、目の前にある宝石の正体である。

「早く、受け取らんか。今にも苗床を喰い破って出てきそうで敵わん」

「ははは、それもそうですね」

 臓硯の危惧を否定することなく、雁夜は蟲の宝石入りの箱を受け取る。
 雁夜の手に渡った蟲の宝石は、創造主の手にあることを歓喜するように宝石ごと獰猛な拍動を開始する。
 その様に臓硯は初めて蟲に対して恐怖という感情を抱いた

「……貴様、使い魔の定義を忘れておるわけではあるまいな?」

 使い魔とは、魔術師の手足となるモノであり、魔術師の支配を受け付けないほど強力なモノは使い魔の枠に収まらない。
 人形使いの魔術師は、自身を超える人形を生み出してもそこに意思が宿らないからこそ道具として操ることができる。
 しかし、蟲という生物を材料に生み出された使い魔は、高位のモノに育てようとすれば自ずと自我を得る可能性がある。
 自我を持った使い魔は、反逆の危険性を孕む。
 雁夜ほどの魔術師が生み出した蟲が暴走した際の被害は計り知れない。
 現在の休眠状態でさえ恐怖を感じさせるほどの蟲が、どれほどの使い魔に育つかなど臓硯であっても想像したくなかった。

 そのような臓硯の恐怖を雁夜は笑い飛ばした。

「父上ほどの蟲使いにそれほどのモノと思っていただけたのならば、どうやら成功のようですね」

 そう言って雁夜は、手にした箱から異形の蟲が蠢く宝石を取り出す。
 雁夜の掌に転がった蟲入りの宝石は、しばらく雁夜の魔力を浴びて不気味な拍動を続けると奇怪な破裂音と共に砕け散った。

「雁夜、貴様……何をっ!?」

 生まれ出でれば破格の使い魔となりえたであろう蟲を砕いてしまうなど魔術師として正気の沙汰ではない。
 雁夜が単なる戯れでこのような所業を行うとは思えない臓硯だったが、あまりに無造作な破壊にその行動を理解できなかった。
 そのような臓硯の驚愕は、またしても雁夜の大笑とさらなる驚愕に塗り潰されることになる。
 砕け散った宝石の欠片たちが、次々と蠢いて宝石内部に存在した異形の蟲と同様の形を得て動き出した。
 蟲の活動を確認した雁夜は、箱に残っていた宝石を無造作に掴みとり、活動を始めたばかりの蟲たちに投げてみせる。
 すると蟲たちは餌を与えられた雛鳥のように投げられた宝石に群がり、貪欲に宝石を喰らい始める。

「……雁夜よ。おぬし、まさか……」

 宝石ごと砕けた蟲が、宝石の蟲となって再生するだけでなく、他の宝石を餌として喰らう様に臓硯は、ひとつの近しい魔術師の大家を思い浮かべた。
 この蟲たちは、その家系に対する宣戦布告とも取られかねない性質を有している。
 例え、その気がなかったとしても彼の家は良い感情を持たないことは火を見るより明らかである。
 そのような臓硯の危惧さえ予想していたと雁夜は微笑む。

「俺は、マキリだけでなく、外の世界を見て思い知らされました。生物として、命を持つ使い魔は脆過ぎるとね」

 当たり前のことをさも至言であるかのように呟く雁夜の足下では、新たな宝石を喰らって鮮やかな色合いに体表面を変化させた蟲たちが外界へと向けて飛び立っていった。

「こいつらは在り来たりな寄生蟲の一種です。ただし、生物以外に寄生する性質を持つ、というところは少しばかり珍しいかもしれませんがね」

「ふん。おぬしという奴は……つくづく、間桐らしからぬ男よ」

 魔術師としての位階のみならず、蟲使いとしての実力すら遥か高みにある雁夜が生み出した蟲の真価を臓硯は予想することでさらなる敗北と諦観を重ねることとなる。
 生命を求め、生命を穢し、生命を犯し、生命を喰らってきた臓硯では考えもしない能力を蟲に与えた雁夜。
 雁夜が生み出した蟲は、無機物を喰うだけでなく、それに寄生し、その特性を獲得するという奇異な能力を持つ。
 初めに蟲が入れられていた宝石は、魔術協会でのコネを利用してとある宝石魔術の大家から購入した特別製の宝石だった。
 さらに後から餌として与えた宝石を喰らった蟲たちに変化が起きたことから、あれもまた特別製であったのは説明されるまでもなかった。
 雁夜が生み出した蟲は単体でも魔獣クラスの使い魔になったであろうほどの気配があった。
 それらが宝石化した瞬間から臓硯では、その質すら掴めなくなった。

「おぬしの蟲は、儂が飼い慣らせる蟲ではない。アレは、使い魔というよりも魔術礼装ミスティックコードに近い……」

 臓硯の読みに当たらずしも遠からずといった反応を見せる雁夜は、蟲の後を追うように外へ向けて歩き出す。

「俺の狂犬は、数で圧倒してくるタイプの対軍宝具と相性が悪い。蟲の隷群を操る間桐の魔術師ならそれを補える。……いや、補うだけでなく、それを圧倒する数の有利を生み出せるのですよ」

 背を向けて歩み出す雁夜の背に付き従うように幾万の蟲が蠢く気配を臓硯は感じた。
 現在の間桐邸に巣食う蟲のほとんどは、雁夜の魔力を糧に変異した異形たちである。
 大百足のような使い魔として破格の戦闘力を有する蟲だけでなく、無機物を取り込む異形の蟲まで従えている。
 雁夜が生み出した蟲が、宝石だけを餌とするわけがない。
 今回の聖杯戦争について臓硯でも知りえないほどの情報を得ていると雁夜が用意した対“対軍宝具”用の戦闘蟲。
 それは、上級の魔獣クラスの蟲を軍勢とするに他ならない。
 蟲の翁として一笑で切って捨てるほど無謀なことだ。
 しかし、無音で迫る大百足や魔術が込められた宝石と同化した蟲たちを見せられては、雁夜の言がすでに実現されていると納得するより他ない。

 雁夜が明かしている魔術特性は『吸収』であり、属性は『水』。
 間桐の魔術師として至極当たり前な資質ではあるが、それだけでないと臓硯は睨んでいた。
 いくら間桐が使い魔の創造に長けた魔術を伝えている家系だとしても信じられないほど“生み出す”ことが巧過ぎる。
 間桐家を出奔する前ならば蟲使いとして、間桐の魔術師として優れている程度の認識だった。
 それが時計塔から帰還してからの雁夜は、それだけに留まらない業を見せている。
 しかもこの一年間、聖杯戦争の準備を進める傍らで薦めていた桜に対する魔術指導は、桜の適性に則し過ぎていた。
 雁夜は桜に水のゴーレムを作らせていたが、その魔術工程は間桐の手法ではなく、遠坂の魔術特性に則ったものだった。
 間桐の魔術師として調整も改造も受けていない桜に魔術指導を行うならば、魔術の基礎までしかできないはずなのである。
 それを雁夜は、遠坂の魔術特性である『力の流動』と『変換』を言葉のみの指導で桜に伝え、すでに基礎を越えて応用にまで至っていた。
 雁夜が聖杯戦争を生き残り、桜の指導を継続したならば将来的には、その身に宿す魔術特性も相まって時計塔でも主席の座を得ることができるほどの魔術師に育つだろう。
 間桐の特性と違う魔術を指導できるということは雁夜の魔術師としての特性が間桐の魔術に特化されていないということになる。

 言葉通りの意味で万能な魔術師などいない。
 必ず、得手不得手というものが存在するはずなのだ。
 今の雁夜が行使する魔術は、明らかに間桐の魔術師としての域を超えている。
 確定している情報として、圧倒的なまでの蟲使いとしての適性と『吸収』に属する魔術との適合性がある。
 そも初めての魔術修行において蟲蔵を干上がらせるほどの『吸収』の魔力特性を発現させて見せた。
 雁夜のこの特性が、新たに生み出された蟲の能力に関与していることは間違いない。
 このことから雁夜の魔術特性が『吸収』であることに間違いはなく、雁夜の特異性の根源となるのは属性にあると見るのが妥当であった。

「雁夜よ……おぬしは、すべての喰らおうというのか」

 ついに戦場へと歩き出した雁夜の背に臓硯は問い掛ける。
 返ってくることのない雁夜の応えは、満たされることのない餓えと渇き。
 雁夜は、聖杯戦争という至高の事象を余すことなく呑み干さんとする怪物である。
 魔術師然とした雁夜の言動に臓硯は恐怖する。
 アレは、そのような型に嵌った生き方をする真っ当な魔術師ではない。
 雁夜は自身が生み出した蟲と変わらぬ、魔物に他ならないのだ。
 人の形をした怪物が何を為すのか、恐怖を抱きつつも臓硯は期待せずにはいられなかった。
 この怪物が喰らい尽くすであろう魂たちがあげるであろう断末魔は、さぞ高々と響き渡ることだろうと。



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