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No.29752の一覧
[0] 【習作】戦場に立つ者(仮)【現実→Fate/zero 転生チート】[カッチン](2011/09/15 18:42)
[1] 0-02[カッチン](2011/09/15 18:43)
[2] 0-03[カッチン](2011/09/16 01:48)
[3] 0-04[カッチン](2011/09/26 23:05)
[4] 0-05[カッチン](2013/03/05 19:44)
[5] 0-06[カッチン](2013/07/19 15:30)
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[29752] 0-05
Name: カッチン◆e4b16b22 ID:d577a9a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/05 19:44

 雁夜が時計塔から戻ってからの間桐邸は随分と雰囲気を変えていた。
 常に閉められていたカーテンや窓は開かれ、光と風がほどよく室内を通るようになり、不気味な重圧や息苦しさを感じさせない清涼な空気に包まれている。
 地下の蟲蔵に続く扉を潜らなければ、誰もこの邸宅に怪異が巣食っているような印象は受けないだろう。
 桜の教育の為に用意された魔術工房も一見して普通の書斎と代わり映えしない。
 しかし、それは魔術的な要素を完全に排除したわけではなく、むしろ以前の何倍も強固な城塞と化している。
 歴史を重ねた家具やアンティークの配置そのものに魔方陣としての機能を持たせ、カーペットに描かれた模様も極小の精緻な文字で描かれていたりとさまざまな術式が邸宅全体に施されている。
 一般人に勘付かれることはないが、魔術師相手ならばそこに凄腕の魔術師が居を構えているということが簡単に分かることになる。
 もとより魔術工房とは外敵に対しては要塞として機能するようなモノであり、敵意を持った魔術師が忍び込めばマキリが誇る腐海の底へと引きずりこまれることになるだろうことは通常の魔術師ならばすぐに理解できる。

「雁夜よ。聖杯戦争の最中に居眠りとは、ずいぶんと良い身分じゃのう」

 間桐邸二階に設けられたテラスで日光浴をしている雁夜の傍らに青髪の青年が立っていた。

「父上もどうですか? 日の光を浴びることのできる幸福を分かち合いませんか」

 抑揚のない声で何気ない冗談を交える雁夜の目の下には色濃いくまができている。
 雁夜の様子を気にした風もなしに青年は呆れたようにため息を吐いた。

「ふむ。それも悪くはないのう。今の時期でなければな」

 青年、間桐臓硯は日の下を歩けることの幸福を十二分に理解していたが、雁夜の申し出を受けるつもりなど毛頭なかった。

「すでに聖杯戦争は始まっておるというのにこのような場所で寝こけおって」

「ただ眠っていたわけじゃないですよ。そのくらい理解してもらいたいですね」

 どう見ても怠惰を貪っているようにしか見えない欠伸を伴う声で応える。
 雁夜は今しがたまで夢を通して自らが召喚した英霊を相手に死闘を繰り広げていたが、その肉体には十全の活力が漲っている。

「……その様子では、上手く言ったようじゃのう」

「はい。英霊は我々よりも高位の存在であれど、その精神まで別次元の構造をしているわけじゃないですから」

 臓硯の問いに表情だけで疲労を示しながら雁夜がその身に刻まれた令呪に魔力を通すと同時に霊体化していたバーサーカーが沈黙と共に姿を現す。
 実体化したバーサーカーは、召喚直後に感じられた圧倒的な存在感は見る影もなくなっていた。

「まるで抜け殻じゃな……。彼の騎士王に完璧な騎士と称されたほどの英霊を此処まで貶めるとは、なかなかよい趣向じゃな。まだまだ稚拙だがの?」

「ははは、心外ですね。俺はひとつでも多くの血闘を味わい、彼は唯一無二の決着を遂げる……ほら、対等な契約ではないですか」

 下卑た臓硯の笑みに同様の表情を浮かべながら雁夜は、実体化したバーサーカーの鎧を撫でる。
 その意思どころかサーヴァントとして最低限の機能さえ失われたバーサーカーは、無力な亡霊と化していた。
 充溢した魔力を漲らせる雁夜と力を失ったバーサーカーを見据えて臓硯はどこか満足げに口の端を引き上げる。

「ただでさえ制御が困難な狂戦士バーサーカーの狂化にブーストをかけるなど正気の沙汰とは思えなんだが……。貴様はつくづく間桐らしからぬ男じゃな、雁夜よ」

 臓硯なりの称賛に雁夜は無言の微笑を残して再び瞼を閉じる。
 雁夜の能力を妬ましく思う臓硯であったが、もはや雁夜に害する行為が無意味であることを悟っており、かつてほど嫌悪を抱くことはなくなっていた。
 間桐雁夜が臓硯の手のうちにあったのは、すでに過去。いや、本当の意味で臓硯の手に納まっていた時などなかったとさえ言えた。
 そも劣化の一途を辿る間桐の血に有るまじき魔力量や精緻に過ぎる魔術回路を雁夜は生誕の時からその身に宿していた。
 先祖返り、突然変異だとこじ付けはできても説明のつかない部分が多いことも事実。
 生まれながらに間桐の宿業から逸脱した稀代の異物たる雁夜に臓硯は恐怖すら感じている。
 召喚の際に狂化を強化しするだけでは飽き足らず、能力値にさえ細工を施しブーストされたバーサーカーは、本来であれば令呪を以ってしても御せないほどの狂乱状態となり、聖杯戦争の開戦を待たずして自滅する他ないはずなのだ。
 それにも関わらず、自滅どころか逆にバーサーカーのすべてを奪いつくし無力な形骸に貶め、侍らせる姿はマキリの蟲毒を統べた王に相応しい。
 雁夜のマスターとしての適性は、臓硯が知る限り歴代最高である。
 サーヴァントの召喚にこそ、冬木の聖杯戦争における英霊召喚のシステムを考案した臓硯の助力を得て、かつての聖杯戦争参加者が試みた術を組み込んだが、それを完全な形で成し遂げるなど不可能に近い。
 今の雁夜は、その内面を顕在化させれば低位のサーヴァントならば喰ってしまいかねないほどの領域にある。
 臓硯は、雁夜が時計塔においてどのような術理を究めてきたかを知らず、理解できるとも思っていない。
 目の前にある男は、形こそ人の姿を保ってはいてもその内面は、臓硯を上回る異形へと成り果てている。
 マキリの名を継いだこの男は、真に魔術の果てへと至る資質を持った存在だと臓硯は確信する。

「我らの宿願。貴様ならば……」

 若き日の間桐臓硯――マキリ・ゾォルゲンがアインツベルン、遠坂と協力して聖杯戦争を創始した本来の目的は“この世すべての悪の根絶”。
 人類が抱える業の滅却のためであり、これを成すには根源に至る必要があるとマキリ・ゾォルゲンは考えていた。
 現在ではその思想は劣化してしまい、ついには手段が目的を凌駕して一人歩きを始めていた。
 もはや臓硯に過去の崇高なる思想はない。
 今、この場に在る臓硯は敗残者。
 自ら抱いた理想にその魂さえ押し潰されてしまった者の末路でしかない。
 臓硯自身、それを理解し、新たな次代を築こうとしている雁夜に失われた理想を託しても良いのではないかと感じていた。
 無論、雁夜が何を考えて生きているのかを理解できない臓硯には、どのように己が大望を伝えれば良いのかすら分からないのが現状だった。

「ふん、無様なモノよな。魂の老いまではどうしようもないということか」

 戦わずして敗北を悟ってしまった臓硯は、多くの欲望が薄れつつあることに虚しさを感じながらもそれを許容してしまいそうになる自分が居ることに気付く。

「…………」

 目の前で無用心に寝こけているように見える雁夜を見下ろしながら臓硯は思う。
 雁夜の手によって齎された全盛期のマキリ・ゾォルゲンの肉体は、確かに臓硯の魂を受け入れるのにこれ以上ないほどの器である。
 しかし、どれほどの技術で生み出されたものであろうともこの器は、ただの『マキリ・ゾォルゲン』であり、それ以上でも以下でもない。
 魂が劣化している以上、この器もいずれ朽ち果てる。
 すでにこの一年で肉体は数年分の老化を示していた。
 それでも臓硯が行ってきた首の挿げ替えとは比べようもないほどの延命術であることに変わりはない。
 次の器もあと1ケ月もすれば完成するため、臓硯の延命方法としては優秀という他ない。
 それでも臓硯は、どうにも心穏やかではいられなかった。
 仮初とはいえ、全盛期の能力を取り戻してもなお、現在の雁夜には遠く及ばないのだ。
 その事実が臓硯にとある欲を湧き上がらせた。
 それを自覚してか知らずか、臓硯の手が穏やかな眠りに就いている雁夜に伸びていた。

「この肉もまた……マキリの血を呑む器として至上のものであったな」

 幼少の頃から雁夜は異常なまでの資質を有していた。
 マキリの魔術に触れた瞬間から、腐海に沈むことなく総てを喰らい尽くし、その支配者となった。
 魔術を学び始めた雁夜は、水を得た魚のようにマキリの業を呑み乾し、単身魔術協会へと渡り、そこで更なる業を修めてきた。
 遠坂を通して魔術協会で雁夜がどのような評価を受けているか知った時、臓硯は憤りを感じずには居られなかった。
 枯れ落ちる運命にあるマキリの系譜でありながら強大な資質と力を得て外へと広がり続ける雁夜の存在に臓硯は嫉妬していた。
 ゆえに、目の前で無防備に眠る雁夜へと欲の手が伸びる。

 生物としての本能は、その手を引くことを求めている。
 魔術師としての理性は、その手に掴むことを求めている。

 首に臓硯の指が触れる。――閉じられた瞼は動かない。

 首に臓硯の指が絡む。――穏やかな血流に変化は起きない。

 首に臓硯の指が食い込む。――無防備な寝顔を見せる雁夜に目覚めの気配はない。

 首に臓硯の指が残される。――安らかな眠りに落ちた雁夜の足下に臓硯の視界が堕ちる。

「――ッ!」

 暖かな陽射しの中、雁夜の寝息を残して音が消えさる。
 気の迷い、魔が差した。
 そんな無我の誘惑に堕ちた臓硯は、制御を失った自身の身体が重力に牽かれて崩れ落ちるのを自身の足下から眺めることになる。
 そこで頭部を刈り取られたということに気付く。

 臓硯にとって頭が落ちても意識があることは不思議ではない。
 その不死性にこそ臓硯の妄執はつぎ込まれているといっても過言ではない。
 首を落とされたことに驚きはなかった。
 このくらいのことは、無謀な行いの結果として想定済み。
 ゆえに臓硯の驚愕は、斬首の主に向けられていた。

 いまだ瞼を閉じている雁夜の傍らに侍るバーサーカーに雁夜を守護するほどの行動能力は残されていない。
 しかし、雁夜の傍らに侍るのは無力な亡霊だけではなかった。
 雁夜から漏れ出る魔力に隠れ、陽の光からも逃れていた異形の存在が姿を現す。
 その異形は、首を落とされた臓硯の身体を担ぎ上げ、落ちた臓硯の首も掴み上げる。

「ギ、ギギ、ギ――」

 金属が軋むような唸り声を漏らすそれは、臓硯の視界に全容を捉えきれないほど巨大な異形の蟲であった。
 臓硯は、魔蟲から生える腕の一つが斬首の主であったと知る。
 鈍い光沢のある鉄で構成された魔蟲は、いつ現れたのか、間桐の屋敷全体を覆い尽くしていた。

「(よもや、始めからだとでも……?)」

 雁夜の魔力は、マキリの蟲たちに多大な影響を与え、いくつもの変異を引き起こしている。
 長らく間桐の家を離れていた雁夜だが、間桐の家に戻り、その蟲蔵に一歩足を踏み入れただけでマキリの蟲たちは王の帰還に慄き、平伏した。
 臓硯が組み上げた英霊召喚システムや蟲を使役する術は雁夜も一目を置き、その力を借りていた。
 しかし、魔術師としての位階は、当の昔に雁夜が上回っている現実がある。
 蟲使いとしての技量は臓硯が勝っていても、同様の工程を経て生み出される蟲の優劣は、雁夜の蟲が圧倒的に優れることになる。
 この一年間、新種の蟲を生み出すのが臓硯の役目だったが、それを育てたのは雁夜である。

「(これが……儂の限界か)」

 屋敷を覆いつくすほどの魔蟲を桜だけでなく、蟲の翁と称される臓硯にすら気付かせなかった。
 魔蟲は、自身の主に牙を剥いた愚者を誅殺しようとはせず、予め決められたことであるように鈍い軋みをあげながら蠢いて臓硯の首と胴体を地下の工房へと誘う。
 マキリの蟲を支配する権限は、当の昔に臓硯の手を離れている。
 そして、真なる蟲たちの王は、愚者の行いを罰することなく、その役目を果たすことを望んでいた。

「(蟲を操る術ですらこの領域……それをこのような形で示されるとはのう)」

 臓硯に雁夜を害することはできない。
 例え、寝込みを襲おうとも忠実なる使い魔たる蟲たちが王の身を守る。
 これほどの実力差を見せられて尚、雁夜はマキリの業しか見せていない。
 ここに時計塔で学んだモノが加われば、どれほどの神秘が顕現するかは臓硯には想像すらできなかった。

「(……それほどの域に至らねば貴様の業は満たせぬのか、雁夜よ)」

 悟ったように諦観へと至った臓硯は蟲蔵へと沈み往く。

 しかし、臓硯の理解は雁夜の心意にまで及ぶことはない。
 業を満たすために雁夜は、魔導を究めているのではなく、業を満たしてきたから極まってきた。
 満たして尚、満たし続けて尚、渇き続ける雁夜の業は、最上の美酒を味わうまで潤うことはない。

 聖杯戦争という美酒でさえ、雁夜の渇きを癒すことができるかもわからない。
 それでも雁夜は聖杯戦争に希望を託している。

「a……r、rr…a」

 無防備に眠る雁夜の傍らに抜け殻と化したバーサーカーは、奪われた狂気が戻るその時まで無力な亡霊として蟲の王に付き従う。
 異形の暴君が飢えを満たす時、バーサーカーもまたその願望を成就すると信じるしかないのだから。




 狂気を喰らった蟲の王と狂気を奪われた騎士の聖杯戦争――開幕の時は満ちた。


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