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No.29742の一覧
[0] 【習作】The Twilight 〈現実侵食型MMOファンタジー〉〔TSアリ〕[ほおずき](2011/09/13 14:01)
[1] 一話 裁きの日。[ほおずき](2011/09/13 14:17)
[3] 二話 邂逅。[ほおずき](2011/09/14 17:13)
[4] 三話 異文化。[ほおずき](2011/09/16 08:06)
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[29742] 二話 邂逅。
Name: ほおずき◆8651a271 ID:05703f36 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/14 17:13










The Twilight

第二話 邂逅。























「よし!いっぱい釣れたよ!」


元気よく声を上げる少女。だがその内容は剣呑である。
釣りとはもちろん魚を釣るアレではなく、彼女が釣るのは地を埋めるモンスターの群れである。

これはグラディウス(剣奴)などの戦士系が覚えるスキル「挑発」と、
ドルイドの固有スキル「誘蛾灯の呪い」、同じく「使い魔人形」を組み合わせたもの。
「使い魔人形」とは、あらかじめ決められた一定のルーチンで行動するいわゆるBOTのようなもので魔力とHPを練り合わせて作られる。
今回は、この人形に「誘蛾灯の呪い」をかけてから周囲を徘徊させ、
モンスターに遭遇したら「挑発」で引っ張って拠点へ戻ると言う動作を命令してある。
修行やアイテム採取の際に効果を発揮する基本的で強力なスキルコンボだ。

ドルイドはイギリスサーバーの固有職で、運営の方針に反しない程度に優秀で強力だ。
ドルイドに転職するためだけにイギリスサーバーに訪れるプレイヤーは多い。


「こっちもOKだ。いつでもこい!」

対して、両手の指に挟んで引き絞るように細長い剣を構える青年。
優しげな風貌と後ろで束ねられた肩口までの髪。少女程ではないが、それなりに整った容姿をしている。
10人に聞けば10人に、少なくとも悪しき様には言われまいというくらいには。


「せいっ!!ハッ!」


─────ギュギュッ!!

青年と少女が居るビル街の、おそらくかつて道路であった草原にモンスターが殺到している。
それに向かって青年が大きく振りかぶって細剣を投げた。
空を切り、凄まじい速度で飛んでゆく剣。

そして放たれた剣は空中で分裂するようにその数を増やし、6が12に増える。

魔物の群れに殺到する細剣。
雨の如く降り注ぐ剣は瞬く間にモンスターを穴だらけにし、
挙句の果てにはある剣は燃え、ある剣は凍りつき、ある剣は暴風を発生させて消滅した。

「ぜぃっ!!てやぁ!!」

そして全ての剣が敵に当たりきらぬ前に、連続して第二陣、三陣が放たれる。
地を埋め尽くすモンスターが宙を埋め尽くす剣の弾丸に射抜かれる様はまさに圧巻。
人形につられのこのこ付いて来たモンスターたちは、憐れにも叫ぶ時間もそこそこに命を落してゆく。

「グギャッ!?」「ゲェッ!」「ギギイイイィィィィィィィィ!?」


続々と現れては死に行くモンスター。
10分も同じ作業をこなした後には、モンスターの死骸が一面に広がる地獄絵図が展開される。

青年は驚くべきことに、トワイライトでは完全な異端であり「最低のネタ」
と呼ばれる"弓兵・ソーサラー"の基礎的な運用に成功していた。


日本サーバー固有職である「弓兵」。
トワイライトにおいては上級中級下級といった職の区分は意味を成さないものの、
転職するための条件が厳しいものは中級や上級と言う分類にされている。

そして「弓兵」の転職条件は、下級職「足軽」に習熟した後ギルド合戦に参加し同格のプレイヤーを10人撃破する事と、
道場で弓の免許皆伝を貰う事だ。


弓兵の特徴は、何を置いてもまずその火力にある。
弓を扱う職自体は、共通職でも固有職でも数多い。
だが、日本サーバー固有の「弓兵」はそれらの中でもダントツで高い制圧力を持つことで有名だ。

ただし、弓兵の運用はそれ自体が難しいものである。
なぜなら「弓兵」には他の弓矢を扱う職のように、
矢が切れた状態かあるいは初めから矢を持っていなくても闘えるスキル・・・・というものが一切搭載されていないのだ。

また、他の弓を扱う職で覚えられる「フェアリー・アロー」や「空撃ち」等のスキルを覚えてきても
使用制限を受けて使えないという徹底振りである。

つまり、弓兵と言う職の戦力は完全に「矢の性能」と「数」に依存する。
全てのスキルが「矢」を消費しないと扱えないという特徴があるのだ。

その代わりその攻撃力と面制圧力は全職中トップクラスである。



対して、アメリカサーバー固有職「ソーサラー」

こちらも上級職であり、幾つかの条件を満たすと転職できる。
ソーサラーの特徴は弓兵と少々似通っており、こちらもアイテム頼りの火力職だ。

ソーサラーはスペック上要求される魔力消費量が莫大なのに、魔法使い系で一二を争う魔力量が少なさだ。
故に魔法使い系の消費アイテムである様々な「触媒」を消費する事で、強力な魔法を僅かな魔力で発動する固有スキルを持っている。
完全に触媒の使用を前提とした職で、触媒が切れると木偶の坊になるのはこちらも同じ。

だがソーサラーもまた全職中トップクラスの攻撃力と制圧力を誇り、弓兵と並んでギルド合戦でキルレートを更新してきた。



そして何を思ったか、トワイライトが世に出てから7年目のある時、
そんな二つの高火力職を組み合わせ、トワイライト史上最凶の超火力を得ようとした猛者が出現した。






・・・・・結果がどうなったかは、想像に難くない。
そもそも戦士職と後衛職の両立には厳しいものがあるというのに、この特徴的な二者である。

まず、幾ら低い魔力量といえど魔法使い系のソーサラーが、戦士系と組む事で更に下がる魔力。
さらに物理攻撃力に乏しいソーサラーが混ざることで、弓兵の絶大な攻撃力が削られる。
そして、どちらを重視しても能力値の分布が均一に近くなってしまう。
特徴がなくなるのだ。

トワイライトでは能力値グラフが均された、一見万能系に見えるキャラデータは一つの駄作の基準である。
レベルに上限があるのと同じように、能力値の合計にもおのずと大体の限界があるからだ。
特に戦士職と後衛職を組み合わせる時には細心の注意を払って能力に偏りを作らないといけない。

それがこうなると、相当強力なスキルコンボでないと挽回できない。

そしてさらに両方の職がが要求するアイテム運搬量は、膨大。
純粋な弓兵ならば、元々そういう職であるから悠々と運びきれる量だが、軟弱な後衛職が混ざるとそれも不可能。

結果、運搬するアイテムは軽い触媒に限定するしかなく、しかし魔法力はへぼい。
さらに重い矢を運べない弓兵に一切の価値が無くなる。


まさに最低の組み合わせである。


しかしそれでもトワイライトでは二年ほど、この組み合わせを何とか英雄級にまで昇華させようという試みが続けられた。

彼等はあらゆるサーバーを駆けずり回り、膨大なスキルクエストを試した。
各種サプリメントを実験し、有用そうなアイテムはかたっぱしからかき集めたようだ。


・・・・・・が、三年経つ頃にはそれらはトワイライトの歴史の闇に葬り去られた。
以降この難題に挑戦した者達はそろって口を閉ざし、
トワイライト内の新聞社ギルドの記者にも一切感想を述べようとはしなかった。

いわゆる黒歴史という奴である。




・・・・・・残念ながら、彼等の涙ぐましい努力の足跡はネットのログに永久に保存され、嘲笑され続けたが。

最終的に青年の糧となったのがある意味救いといえよう。










+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++











「いやー殺しに殺したね。死体の山もここまでくるといっそ清清しいよ。」



あれから20分。人形を時間差で帰還させ、モンスターの群れを確固撃破していった。
草原は地に沈み、完全に息絶えた虫や獣の死骸だけがその場に残る。

「体感的には、これでLv30くらいまでは来たな。お前は?」

「僕の方は25くらいかな?サードジョブがちょっと重いねやっぱり。」

とは言え、合流してから一週間。ちょうど裁きの日から27日。
驚異的な成長スピードである。

「君のスキルコンボ、パソコンのモニターで見てたときも凄い迫力だったけど、現実になると尚更凄いね。」

「お前の人形も十分迫力あったよ。不気味の谷とはいうが、ありゃ怖ぇな。」

「でも、結構デザイン凝ってたよね。画面じゃ見えなかったけど、結構格好いいよ。」


・・・・・アレを格好良いと言うか。薫のセンスは中々計り知れないな。

「しかし、まだまだ未完成だ。この程度じゃ5年かけたキャラの強さじゃない。英雄級はまだ遠いな。」

「・・・・・そうだね。きっと正道で英雄級までなった人たちも転生してこの世界にいるはずだから、注意しておこう。」

「じゃ、虫と人型はどうでもいいから、狼とかでかい兎は作れるだけ全部燻製にしようぜ。」

「そうだね。それじゃ、残った人形達に解体させよう。」

そういって、使い間人形7体に解体を命じる薫。
人形は、ゲームの時は決められたパターンを繰り返すだけの物だったが、現在では術者本人に出来ることを劣化した状態で再現できる。
ゲーム時代とは出来ることの幅が大分違うことのいい例だ。

しかし例えばここ1週間で薫は綺麗な解体が出来るようになったが、
人形は剥いだ毛皮はボロボロになるし大雑把に捌くものだから可食部まで多く棄ててしまう。
デメリットも多い。

だが今回のように獲物が多すぎるような時にはちょうどいいものである。

毛皮は自分達で剥いだものを使えばいいし。
魔法やスキルを併用すれば、なめしも直に済んだ。
なんといっても俺は元錬金術師で鍛冶師だ。ちょっと位使えるスキルも残ってる。

元着ていた服は、流石に既に擦り切れていたので同じのを着る事は出来なかった。
なので今着ているのは、モンスターの皮で作った即席の服だ。
薫も俺も凝り性なのでそこそこ良い出来になったと思う。


そして解体は薫と人形に任せて今俺がやっているのは、燻製小屋の最終調整だ。
作り方は、まず廃墟となった民家の内部の壁を全てぶち抜く。
そして床部分を掃除して、地面を剥き出しにさせてから大量の砕いたその辺の木をブチ撒く。
壁の下の部分には空気穴を作り、壁の中部分は煙が逃げないように穴を塞ぐ。
天井には肉を吊るす為の棒を大量に通し、換気扇の穴を小さくしぼって排気孔を作る。

すると、なんということでしょう、

旧世界のどこかのサラリーマンが30年ローンで買ったであろう立派な家が、
(鼻が曲がるほどの)木の香りのする憩いの広場(一家一室状態)に早変わり。
俺の手で丸々燻製小屋に改造されてしまいました。

素晴らしいビフォーアフターです。


「ふぅ。燻製小屋の準備は出来た。海水から塩も山ほど採取できたし、少し休ませて貰うか。」

「うん、アレだけ撃ったら秋水のHPかなり減ってるでしょ。多分夕方までかかるから寝ててもいいよ。」

「サンキュ。そうさせてもらう。」


遠距離から一方的に虐殺したのでモンスターからの攻撃は一切受けていないが、
俺のHPは現在イエローラインに達していた。

何故か?
それは限定クエストで取得できる魔法使い系のスキル「禁呪」を使ってHPを魔力に変換して使っていたからだ。
魔法戦士のように初めからオールマイティ型としてリリースされた職ではなく、
運営があまり想定していなかった組み合わせの前衛・後衛混合型キャラクターはどうしても魔力不足に悩む場合が多い。
特に弓兵・ソーサラーの組み合わせでは深刻なレベルだ。

そういう時の常套手段がコレである。
設定的にはあまり誉められた手段では無いらしいが、そんな事はだれも気にしない。

そしてこのスキルを取得するための条件はかなり厳しいのだが、
それを出来るプレイヤースキルを持つ者はHP特化型にキャラデータを組むため、様々なHP増強手段を取る必要がある。

それは例えば称号であったり加護であったりパッシブスキルであったりアイテムであったりする。

俺の所属するギルド・東雲神社の探求者は全員が何らかの理由で魔力不足に陥っており、そのために8名全員が「禁呪」を習得している。
育成方針がバラバラのため、いつも足並みの揃わない東雲神社で珍しく共通したキャラデザインである。

なので東雲神社ではHP増強のためのサプリメントの情報収集に抜け目が無く、活発に情報の共有が行われる。
その方向では共通のスキル等を保有している事も多い。



だが東雲神社の中でも頭一つ飛びぬけてHP量と「毎秒HP回復量」が多いのが俺である。


俺の保有しているHP増強策で、(悪い意味で)最も代表的なのは「仙人」と「隠者」の称号だろう。
恐らくこの二つが俺の探求にかけた5年の執念を物語っていると思う。


「仙人」は中国サーバーの、「隠者」はEUサーバーとロシアサーバーのもので、
それぞれ「導師」職と「神学者」職限定の難関クエストで得られるものだ。

両者とも、(称号にしては)割と多くのHPと「毎秒HP回復量」の強化を行ってくれる優秀な称号だ。

・・・・・取得する為の苦労に見合っているかは甚だ疑わしいが。

称号というのは、基本的にどれだけ持っていようと常に一つしか選んで発動させることが出来ない。
しかもステータス補修は大したことの無い物が多く、よっぽどのものでないと付けていても気付かない程である。
何故か運営は称号の扱いがあまり良くないというのは有名な話だ。

なので大体のプレイヤーにとって10レベル以内で使える"初心者"・・・・経験値取得に補修の入る称号か、
もっと面白いシステム側の機能がついた称号しか重要ではない。
あったら使うといった程度である。


しかしある高難易度クエストをクリアすることで最大で二つ同時に発動する事が可能になってから、
少しはステータス補修型の称号も見直され始めた。

というのも4年程前に韓国サーバーが勝手にあるクエストを作って、二つまで同時に発動できるようにしてしまったからだ。

ある意味、ここで初めて補修型称号の重要性が生まれたといってもいい。
塵も積もれば山となる。簡単なクエストでそれができるならやってもいいという人間が多かったのだ。
そして多くの人間がそのクエストを受けるために韓国サーバーに殺到したために、運営が対策に乗り出したときにはもう手遅れであった。

以降そのクエストはかなりのプレイヤースキルを必要とする高難易度クエストとして修正されて公式に認知された。
韓国支社は厳重注意とあいなったが、まぁ多国籍オンラインゲームであるトワイライトではよくある話である。


で、俺はわざわざ転生を二回使って仙人と隠者の称号を手に入れて、さらに例のクエストをクリアしたというわけである。

・・・・・軽く言ったが凄まじい苦労である。
同じ探索者でもここまで徹底する奴はあまりいない・・・・・・費用対効果が疑わしいからだ。

こういう気の遠くなるような作業を他にもいろいろと5年やり通して、なんとかHPだけは稼いだ。


仙人のほうだけ付き合わせた薫も、割とぼやいていたものである。
まぁ別の方向に突き抜けている薫や東雲神社の面々にだけは言われたくなかったが。













+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++















「起きて、ちょっと秋水!起きてくれ。」

「・・・・・んぁ?・・・・・あぁ、薫か。」

「寝ぼけてないで、緊急事態だよ!」

「なんなんだ、一体?」


寝ぼけ眼をこする秋水。
未だに彼はディアナ=薫の方程式に若干違和感を覚えるらしい。
おき抜けに美少女の顔が目に入ったら、それを悪友の顔だと思う方がおかしいが。

「獣人が出た!・・・・人狼族だ。燻製の匂いに釣られて来たらしい。なんか助けを求めてるみたいなんだ。」

「・・・・・なんだって?」

獣人?
それは確かトワイライトの・・・・。

「・・・・直行く。歩きながらどんな状況なのか教えてくれ。」

「うん。ええとね、匂いに釣られて出てきた子はコレくらいのちっちゃい女の子なんだ。危険は少ないと思う。」

只でさえ身長の低くなった薫の、さらに肩の辺りまでを手で示す。
大体10~12才くらいか。

「それで?」

「うん。その子の話では何故だかここ10年ほどでだんだんモンスターが強くなってきて、畑が荒らされたりして酷い食糧難らしい。」

「モンスターが強く?あれくらいは雑魚じゃないのか?」

「その辺の基準をもうちょっと見直さないといけないみたいだね。」

薫が真剣な顔で話し始めた。

「多分、僕の推測だけど僕達みたいな転生組がおかしいんだろうと思う。・・・・トワイライトでは、世界規模で商業展開されてから酷いバランスブレイクが起きたからね。世界中のサーバーを周ってあっちこっちから相性のいい職やスキルを集める方法が一般的になってから、ゲームの難易度が酷く下がった・・・・・。」

「そうか!只でさえ危険なモンスターが居るのに、その上この世界では地球の表面積が20倍・・・・・・。」

「そう、一つのサーバー内でしか職業やスキルを得られないんだ。ここの人たちは。それに皆が皆戦士になるわけじゃない。」

なるほど合点がいった。
結局、その世界を回って膨大な組み合わせが出来るようになったのがトワイライトがここまで発展した理由なのだから。
・・・・だがそれだと非転生者組はどうなる?あいつ等もある程度戦闘を重ねれば、モンスターを撲殺できるようになったものだが。
それはまぁ、俺やコイツのようにスムーズに行くわけではないだろうが。


「他の旧世界人は?・・・・プレイヤー以外の。」

「彼等も補修が効いてるんだろう。多分彼等は初めてトワイライトをプレイしているという扱いなんだろうね。正真正銘のレベル0からのスタート、彼等もトワイライトのプレイヤーで冒険者。ってことだ。・・・・・「裁きの日」から強制的に。」

・・・本当に頭がいいな薫。

確かに、そう考えるとつじつまが合う。
あいつらも冒険者だからこそ、やたらと強くなるのが早かったんだ。
"初心者"の称号の影響だろう。
その上転生組だって居るんだから、気付けば避難所が落ち着くのも直だろう。

だが・・・・・。

「・・・・・となるとおかしいな。モンスターが強くなってる原因はトワイライトと無関係ではないと思うんだが。」

確か運営では、世界中から相性のいいスタイルを見つけてきてはバランスを崩壊させた、冒険者達に対抗するための策を講じている筈だ。
だがそれはモンスター全体を強くしたり、冒険者のステータスを下げたわけじゃない。
より強力なモンスターが出現するエリアをたくさん設置することで達磨落しみたいに適正レベル域を調整した筈だ。

つまり同一エリア内のモンスターが強くなったりしたわけじゃない。


「あー、多分それにも心当たりがある。」

「え、マジで?」

「うん。確か設定集の中に"何故トワイライト内の世界が何万年も中世みたいな生活を続けているか"っていう感じの項目があった。」

本当に設定が好きな奴だ。
売られてる設定集買ったのか薫。確かにアレに載ってるイラストも良かったけどさ。


「確か、要約するとモンスターがやたら多いとか異種族間で戦争を何度もしてるとかだけじゃなくて、1000年に一回ほどの周期で魔物が凶暴化し、地の民を飲み込むからだ。って書いてあったよ。」

「そして僕の覚えてる限りでは、その原因は星辰がどうのこうので世界にエーテルが満ちるがどうのこうのって書いてたと思う。」


ははぁ、なるほど。それは・・・・・、

「凄まじい飛蝗現象みたいなもんだな。それも世界同時多発型の。」

「そういうことだね。・・・・・で、どうする?彼女の話ではかなり切羽詰ってるみたいだけど。・・・・かなり痩せてたよ。」

まぁ、悩む必要は無いだろう。
薫ももう助ける気で動いてるみたいだしな。


「助ける。だがとりあえず燻製は全部上げてしまって、何か手が無いようなら、情報収集だけしてその子の村を出よう。・・・・・俺達にも目的がある。深入りはなしで行くぞ。ただし、事には全力で当たる。」

「そうこなくっちゃね。思えばこれがこの世界で始めての、冒険らしい冒険になるんじゃないかな?」

「まぁな。高揚感が無いと言えば嘘になる。不謹慎だが。」

「あ、あとリアルな犬耳・・・・いや狼耳?を見たときは、不覚にも萌えたね。痩せてたけど、可愛い子だったよ。」

「へぇ、それは楽しみだ。」


最後に、言いにくそうに薫が切り出した。


「あと、最後にちょっと厄介な話があって・・・・口裏を合わせといてくれるかい?」

「ん?なんだ?」

「えーっとね・・・・・・。」












+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++









人狼族の少女、は混乱していた。
始めは、ただ空腹のあまりに美味しそうな匂いにつられてふらふらと村を出てしまっただけだったのだ。

それが、たどり着いた場所は村の人たちから近づいてはいけないよ、
ときつーく言われていた石と鉄の遺跡だったのが全ての始まりだった。

勿論、村どころか森を抜けてきた大遠征である。匂いがそこまで届いたのは人狼の持つ強力な嗅覚あっての事だ。
そしてここまでこの少女がモンスターに食われずに森を抜けられたのは、
単に秋水と薫が釣りにモンスター共を釣り尽くして皆殺しにしていたからに過ぎない。

だがそんなことなど知る由もないし、空腹で頭の回りがおかしくなっている少女には関係なかった。

だがしかしここに人が居るというだけでも驚いたハクだが、それ以上に一面に広がる魔物の死骸に何よりも驚くハク。
まともに考えれば、ここにはこの惨状を作り出した何者かが居るのは明白。
今更ながら驚愕に覚めてゆく頭。幼いながらも何か得体の知れない恐怖を感じ恥じめて、ハクが逃げ帰ろうとした矢先の事だった。


「─────あ、えぇ・・・・・?まさか人狼の子共・・・・?」


ハクは飛び上がらんばかりに驚いた。
ハクは、その時ばかりは心臓が止まるかと思ったと後に話している。
恐怖に濁った頭に、背後から突如人の声が聞こえるなどと言う状況は相当なものであったには違いない。

ただ、それ以上に少女は臆病でヘタレであった。
別に薫はこっそり回り込んだわけでは無い。ブラブラと散歩していただけだ。
錆び付いた人形のような動きで振り向くハク


「えーっと、君。どうしたんだい?こんな所に一人で。道に迷っちゃった?」

森で人狼が道に迷う筈などあるわけがない。
何を言うかと思えば、女は人間であった。

「いい、いえ、ああああ、その、あの・・・・・・・。」

(ええ!?なんでこんな所に人間族が?・・・・・人攫い?それとも密偵なの!?私、殺されちゃうの!?)

中々妄想たくましい少女である。
・・・が、このご時世ある意味間違いでもない。
どこぞのエルフの集落がトロルに攻め落とされただの、魔人が人間の城に攻め入っただのと言う話はざらに聞く。
人狼族は人間族とも交流のある種族だがそれは取引相手としてであって、信頼関係から結ばれている訳ではない。

いまさら手遅れな感は否めないが、警戒は間違いではない。


「ええっと、落ち着いて、ね?ほら、これ上げるから。大丈夫大丈夫。怖くないよ~。」

そういって鞄から大きな燻製肉を取り出す人間族の女。
何だかちっちゃい子供をあやす様な口調が気に入らないが、目が追うのは自然とその丸々とした骨付きの燻製。
人間に施しなど受けてはイカンなどと、長老は怒るかもしれないがハクはもう空腹が限界であった。


──ぐうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう。


盛大に鳴る腹の音。ハクはもう情けなくなって俯いてしまった。


「・・・・お腹すいてるの?」

コクコク。

最早恥じも外聞もかなぐり捨てて頷くハク。
人狼族の誇りとか、空腹の前には無意味だとハクはこの時悟った。

「これ食べながらでいいから、こっちおいでよ。もっとたくさんあるから。」

そう言って燻製肉を渡す女。
ハクは恐る恐る肉を受け取ると、・・・・ものすごい勢いで食べ始めた。
もう毒とかそんな事考えていられない極限状態だったのだ。


「ああ、・・・・そんなにあせって食べるとのどに詰まるよ?」


女が何かいっていた気がしたが、肉に夢中のハクにはそんな声は聞こえない。

結局、会話が再開したのはハクが燻製を骨まで綺麗に食べ終えてからであった。











+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++









それから、大人の靴より大きい燻製肉を食べ尽くしても空腹が収まらないハクは、
結局申し出に従って彼女等が拠点にしている場所に来ていた。
そこは盛大に煙を上げる大きな家の近くであり、
美味しそうな匂いはその家からの煙に乗ってきたのだと、ハクは理解した。

「えぇっと、それで君の村は怪我人だらけで、しかも皆食料が無くて飢えてるって事だね?」

ハクはお腹いっぱいご飯をもらった事でもうすっかり打ち解けて、村の現況を洗いざらい女に話した。
人間腹が膨れればこんなものである。それが子供なら尚更。

「うーん、どうすればいいかなぁ・・・・コレじゃ、ちょっとやそっとお肉上げたりする程度じゃ焼け石に水だしなぁ・・・・。」


ハクは短い付き合いの中で、
この人間の女は少なくとも自分達を害するとかそんな事はこれッポッチも考えていない善良な人間だと理解していた。
困った人間をみれば、無償とまではいかないまでも助けずには居られない。そんな人。

その誇り高く優しい姿勢には、身分が低い者特有の卑屈さが少しも感じられない。
それどころか自分だけでなく、話を聞いただけで自分達の村まで助けようとしてくれている。

それがハクにはたまらなく不思議で眩しかった。

「ねぇ、お姉さんは奴隷の人でしょ?私が言えた事じゃないけど、なんでこんな所にいるの?脱走してきちゃったの?」

ハクは質のいいなめし皮の服の下、胸の部分に奴隷の焼印が押されているのをはっきりと見ていた。
拠点についてから、腰を下ろしたときに偶然見えたのだ。

服で隠れてはいるけど、そんなに隠すつもりでもなさそうだ。どういうつもりなのだろうか?

「────奴隷?いや僕は奴隷なんかじゃないよ?」

「嘘ばっかり。私ちゃんと見たもの。お姉さんのお胸のところ。」

この世界には奴隷の階級が存在する。文明レベルが中世なのだから当然ともいえるが、彼等はあらゆる人権を剥奪されて差別を受ける。
しかもこの地域ではかつてのイスラム圏やローマ、日本等のように、解放奴隷という概念が無い。

奴隷は一生奴隷で、奴隷どうしの子も奴隷。

奴隷の扱いは悲惨だ。そのなかでも脱走奴隷の末路は特に恐ろしいものだ。
ハクは幼いながらも遠く族長の家系に連なるものとして、奴隷の扱い等についてもキツク教育されてその末路を目に焼き付けていた。
ゆっくり時間をかけて朽ち果ててゆく罪を犯した奴隷の最後は今でも夢に見るトラウマだ。

「胸?」

「・・・・あの、隠してるつもりだったの?それなら包帯くらい巻いとくべきだと思うんだけれど・・・・・。」

人間族のカオルと名乗った女は、どうも無理にしらばっくれるつもりようだ。
別に、恩義のある身としては詮索するような事はしたくはない。それはないのだが・・・・・・。
どうしてもその杜撰な隠蔽には物申したくなってしまう。

もしもカオルが誰かに捕まって、殺されないまでもボロボロにされてしまう所なんて見たくない。
ハクはもうこの短時間ですっかりカオルに懐いてしまっていた。

偏見をもった大人なら、まず奴隷に施しを受けた己を激しく恥じている所だったが、幼い彼女にそこまでの意識は存在していない。
ただ、奴隷と区分される人の罰を受ける様がトラウマとなって臆病な彼女の口を開かせていたのだ。

臆病なハクがこの話を切り出したのは、彼女の事を思っての事なのである。

「あ!・・・・そうかグラディウス・・・・剣奴隷のアレか!・・・・そういえばそんな設定もあったな・・・・。」

意味のわからない事を言い出すカオル。

子供だと思って意味不明なことを言って、煙に巻こうとしているのかもしれない。
だがハクとしては一応はっきりさせておかないと、困る。

逃亡奴隷で無いならよし。もしそうだったのなら、見つかってしまった時の事を考えなければいけない。
族長の宗家でさえ、食事の制限をしている状況だというのに自分の家で匿う事なんて出来ないだろうが、
それでもハクは幼かった日のトラウマに突き動かされて、頭を回転させていた。

「ええと、それであなたはその・・・・・。」

「あ、ああ居るよ。一緒に旅してるご主人様が。二人で旅してるんだ。ええと、だから脱走とかそんなんじゃないのさ。ちょっと忘れてただけで・・・・・。」

「ああ、そうだったのね。良かったぁ・・・・・。」

ハクはホッと胸を撫で下ろした。
そもそも存在しない荷物だったのだが、彼女は肩の荷が下りた様な気分だった。
まぁ彼女の心配もあながち間違いではない。
彼女が世界共通の奴隷の焼印を押されているのに、奴隷で無いなどと言ったらそれこそ色気づいた愚か者が寄ってくるだろう。
そうして、美しい彼女は飼い殺しにされて18禁エンド直行である。



────彼女とそのツレがこの世界の町一つ程度なら容易く皆殺しに出来る力を持っていなければ。


どこかの誰かが盛大に地雷を踏んだ場合、グロ的な意味の18禁エンドに直行である。

ハクはそれが起こるのを防いでくれた勇者であると言えよう。
最悪の場合・・・・・彼等を止められる強さの冒険者がいなければ、街一つが血に沈んでいただろう事は想像に難くない。


「・・・・うん。心配してくれたんだね、ありがとう。」

「それでその・・・・二人旅って聞いたけど、外の魔物もあなたのご主人様が?」

「あ、そうだよ。僕もちょっとだけ手伝ったけど、基本は秋水・・・・様がね。」

「そうなんだ・・・・・・。村の戦士が総出じゃなあないとあんな事は出来そうに無いわ。凄い力もちなのね。そのシュースイと言う方は。」

それほどの戦士が村にいてくれれば、皆こんなに酷い事にはならなかっただろうに。
ハクは心からその力を羨んだ。

「あ、うーん。そうかもね・・・・。」

歯切れの悪いカオル。
もしかすると、私が次に言う事が分かっていたからちょっと話しづらかったのかもしれない。
私も、会ったばかりの人にこんなことまで頼らなくては滅んでしまいかねない現状に情けなくなっていた。

それでも、遠縁とはいえ族長の家に連なるものとして頼まずにはいられなかったのである。

「その、・・・・食べ物を分けてもらうだけでなく、ぶしつけで申し訳ないんだけど、あなたのご主人様と話させてくれないかしら?・・・・・彼に村を助けていただきたいの。・・・・お礼はきっとはずむから。」

頭を下げるハク。
なんとしても、村のみんなの為に彼等を引きとめようとする悲壮な覚悟すら感じられた。
そのためなら今のハクは命さえ差し出したかもしれない。

「分かった。いいよ、それくらい。それにきっとアイツ・・・じゃない、秋水様も笑って頷いてくれるから。・・・・・訳があってそう長い事いられるわけじゃないけど、きっとなにか力になれると思う。」

ハクは顔を輝かせた。

「本当!?・・・・ありがとう!カオル!」


この世界で奴隷の口約束など何の保障にもなりはしないが、
ハクは彼女の言葉に不思議と強い説得力を感じていた。

彼女達なら、きっと何とかしてくれる。そんな期待が胸を暖かくさせる。


「じゃ、ちょっと呼んでくるね。ここで待ってて。」



石と鉄でできた建物を登ってゆくカオル。
その背には強い力と意志が感じられる。


ここから、長いプロローグが終わり、この世界で刻まれる彼等の冒険譚が始まる・・・・・・・・・・・。

















つづく。







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