草が青々と茂る高原に一人の少女が居た。
純朴や清純といった言葉が似合う少女だ。
「ハァアアアアアア!!」
ただし、体から気を放ってはいるが。
遠巻きに、ヤギや羊が少女を見ている。
「チッ」
舌打ちをして少女は気をおさめた。
(まだ瞬間移動はできんか)
少女の名前はシータ。
前世での名はべジータ。
ベジータは地獄へ落とされた後、大いに暴れた。
流石はスーパーサイヤ人。地獄の鬼を物ともせずに暴れに暴れまわった。
その結果
(くそ、この体は戦闘力が低すぎる)
遠く離れた惑星の、戦闘力を持たない人間の、女の子へと転生させられることになった。
(閻魔、そして大界王神。俺が帰った時が貴様らの最期だ)
ベジータ、いや、シータは日々修練に明け暮れた。
しかし、この星の種族は総じて戦闘力が低く、以前のように簡単に気を扱うことができない。
最近では限界も見え始め、もしかすれば瞬間移動も覚えることができないのではないかと思うこともあるくらいだ。
しかし、それでも諦めること無く修練を続ける。
ある日、シータの住む家に数人の男が現れた。
男たちは飛空石がどうとか言っていた。
シータは確かにそのようなものを持っていたが、これがなんであるのかは知らない。
「つまり、天空の城なのだよ!!」
ムスカと名乗る男が言うには、空に城が浮かんでいるらしい。
「なんだと!!」
(まさか、この世界にもカリン塔のようなものがあるのか)
「おい、俺をそこに連れていけ」
なにか手がかりがあるかもしれないと思い、シータは彼らと行動を共にすることにした。
飛空船の一室にシータは居る。
ムスカは、シータの様子を見ようと思い、その部屋の扉を開いた。
「1082、1083……」
シータは片手の親指一本で逆立ちをして腕立て伏せをしていた。
「なんのようだ」
シータの鋭い視線がムスカを貫いた。
殺気を向けられて、蛇に睨まれた蛙のように体が固まった。
しかし、それでもムスカはなんとか口を開いた。
「は、流行りの服はお嫌いですか」
できるだけ機嫌を損ねないようにと、当たり障りの無いことを言った。
シータが自分の服を見ると、いくつか綻びができはじめているのに気づいた。
「置いておけ」
とだけ言うと、シータは腕立て伏せを再開した。
腕立て伏せは終わったが飛空船は未だに目的地につかない。
窓から外を見ると、飛んでいるスピードがあまりにも遅いことに気づいた。
(この程度の技術力では、宇宙船などは期待できそうにないな)
シータはおもむろに壁へと手を向けると、
「ハァッ!!」
エネルギー弾を放った。
エネルギー弾は壁に当たって爆発し、大きな穴を開けた。
「なにごとだ!!」
とサングラスをかけた黒服たちが集まってきた。
「すぐにおいつく。先に行っておけ」
困惑する黒服たちを尻目に、シータは穴から外へと飛び出した。
どこか暇つぶしになるものでもないかと思いながら、シータは下へと落ちて行く。
パズーは、逆行という、自分の身に訪れた不可思議な現象を受け入れていた。
なぜ自分が、シータと出会う前の自分へと逆行してしまっているのかは理解できなかったが、なってしまったものは仕方ない。
以前と同じように日々を過ごしていた。
(今度は、ラピュタを蘇らせたりはしない!あれは蘇らせてはいけないものなんだ!!)
パズーは、あの力は例え一時のこととしても蘇らせるべきではないと考えていた。
それに、パズーにはラピュタをもう一度壊すということが悲しく思えたのだ。
(今日はシータが落ちてくる日のはずだ。僕が守らないと)
パズーが決意を新たにしていると、
「おい!なにか落ちてきたぞ!!」
「あれは……女の子?!」
パズーは走りだした。
「シータァアアアアアアアアァァァァ……え?」
パズーが見た光景は、以前とは違うものだった。
シータは落ちてきているというよりは、降りてきていた。
なにしろ、直立の姿勢で腕を組んだままゆっくりと下降してきているのだ。
そして、身に纏っているのは飛空石の光ではなかった。
もっと黄色の、なにやらシュインシュインと音を立てている謎の光だった。
パズーが呆気に取られていると、シータは少し土煙を立てながら地面に降り立った。
「おい」
シータがパズーの方を向いた。
「俺はシータじゃない」
「ええ!?」
「スーパーシータだ」