「んじゃ、ひる休みに校庭にしゅうごうな!遅れたらキーパーだよ、はるみ!」「あいよ」それだけ言って、吉川くん(♂)は別の男子のグループに走って行く。他のメンバーを探しに行ったのだろう。入学式から1週間。僕はそこそこ上手く小学校生活を送っていた。勉強は小学校程度の内容が解からないはずがなく(中の人は高校レベルまでは修めている上、今も中学・高校レベルの勉強も時たましているので当たり前だが)、孤立しない様にクラス内のここ数日の間にできた幾つかのグループに入って、外でサッカーをしたり野球をしたり漫画の話で盛り上がったりして、日々を無難に過ごしている。たまに子供特有のテンションの高さに着いていけないときがあるので、そんな時は僕の108技のひとつ『気配断ち』(葛花直伝の隠行である。さすが獣)で輪の中からフェードアウトしているが。小学生ってすっげーのよ。『う○こ』とかで大爆笑だもの。…………おっさんにはハードル高すぎだわぁ。今は3時限と4時限の間の休み時間で、先ほど友達の一人の吉川くん(♂)とサッカーの約束を交わしたところである。クラス内でも僕が危惧していたようなイジメが横行することもなく、僕はたまに起こる喧嘩を仲裁するくらいだ。ま、他のクラスはどうかは知らないけど、さすがに全クラスの子供の相手が出来るほど僕は暇があるわけではないし、全部の問題を解決できるなんて自惚れてもいない。それは教師の仕事であり、僕が出来るのはせいぜい手助けくらいなものだ。「……………………うーん」ただ、全く問題がないわけではなかった。問題というのは入学式の日に僕が気にしていた、月村すずか嬢とアリサ・バニングス嬢である。彼女たち2人がクラス内において、どうにも孤立しているのである。とは言っても、その2人にしても孤立している理由は些か異なる。月村嬢の方は初日の物静かな印象を崩すことなく、毎日休み時間には到底子ども向けとは言えない難解な本を読んでいた。しかし話し掛けられるとおずおずと物静かにだが普通に話して対応しているところを見ると、上手く人と話せない訳ではなさそうで。月村嬢、どうにも自分から率先して孤立しているようにも思える。まあそれだけならば僕はべつに構わない。考えは人それぞれである上に、孤立しているからと言って必ずしも不幸なわけではない。一人である方が落ち着く人間なんて幾らでも居るのだ。これから変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。しかし、変わったのならその時に頑張ればいい。『月村すずか』が自分で友達が欲しいと思うようになったとき、その時に頑張って努力すればいい。それならば僕も彼女に協力ができる。彼女は子どもなのだ、時間なんてものはまだ沢山ある。…………と、まあ、そんな理由で月村嬢に関しては僕は今しばらくは頭の片隅に留めておいて、一先ずは静観の構えであるのだが。しかし問題なのはもう一方の女の子───アリサ・バニングス嬢だ。彼女が孤立している理由はとても解かり易く、その容姿と気性にあった。彼女の容姿は金髪に西洋人特有の白い肌と整った顔立ち。まだ小学一年生の周りの子供からすると彼女のその容姿は正しく『異物』である。子供というのはそこらの大人などよりもよっぽど排他的で、その対象からはアリサ・バニングスも例外ではない。実際、最初のほうの周りの彼女を見る目は奇異や興味の視線が殆どだった。ただ、それだけならばまだいい。数日経つ頃には子供たちも興味を継続できなくなったのか周りの視線も収まり、彼女に話しかける子供も出てきたからだ。しかし、そこで更に悪効果となったのは彼女のその気性だった。彼女もまた初日の印象を覆すことなく、強気で弱みを見せないような性格であり、おまけにお嬢様育ち故かプライドが高く我が儘なところがあった。つまるところ、せっかく話しかけてくれた女子生徒数人と大喧嘩になってしまったのである。おまけにその喧嘩が起きたのが昼休みで僕は外で友達に誘われたサッカーに興じていたため仲裁さえ出来ず、そして更に悪いことに、その女の子たちの内にはクラスの女子の中でそこそこ社交性のある娘まで居たため、女子のほとんどが彼女を避け始めてしまったのだ。そしてそれは男子においても同様だった。この年頃だと男女の性差など有って無いようなものではあるが、彼女のプライドを刺激しないマイルドな対応が出来る小学1年生などいる筈もなく、男子の間においてでさえ彼女は腫れ物状態だ。泥沼である。結果、待っていたのはアリサ・バニングスのクラス内での完全な『異物』認定。───アリサ・バニングスは完全にクラスから孤立していた。<さてさて、どうしたもんかな。1番ベストなのはバニングス嬢が一人で周りと友達になってくれることだけど……>『どう考えても無茶じゃろ。容姿の問題も有れ、今一番の原因は間違いなく金髪娘の気性じゃぞ?周囲の童どもに期待しても、望み薄じゃろうて』<ですよねー>そのアリサ・バニングスは今も教室内の自席で頬づえを突いて静かに座っていた。その表情は周囲の皆と仲良くなれずに憂いと悲哀の気を纏いながら落ち込んでいる…………なんてことは全然なく、不機嫌そうにその形の良い眉根を寄せてムダに美しい逆ハの字を作り、ぐぬぬと云った具合にその可愛らしい顔をしかめていた。『負けん気もあそこまで行くと、いっそ清々しいの』(恐るべし、アリサ・バニングス)とまあ、葛花と馬鹿なことを言い合いつつも考えてみる。そもそもその容姿やら気性やらも間違いなく彼女の孤立の原因ではあるものの、問題は他にもある。僕がみた限りでは、アリサ・バニングス嬢は周りの生徒たちを下に見ている。彼女は、ごくごく自然に周りを自分よりも下の人間として認識しているのだ。<あれがお嬢様気質ってヤツなのかね?>『あの娘は幼子の時分より上の人間としての作法を仕込まれておるのじゃろ。上流の人間であれば珍しいこともあるまいて。事実、知性も血統も格も、周りの童よりも上じゃ。……もっとも、周りを考慮の外に置いた発言を聞くに、あれもまだまだ童じゃがの』<それはあの年齢の子どもなら仕方ないだろ。……まあ確かに今のバニングス嬢の行動って、周りの子どもから見ればただのわがまま娘だしねぇ。勿論、本人からしたら周りからの不躾な視線に耐えかねた当然の反発なんだろうけど>入学式から数日間誰にも話しかけられずに奇異の視線に晒され、やっと話すことが出来たと思えば周りは品のないガキばかり。後半はともかくとして前半の方は、まだ自制の効かない子どもにとって反発を我慢しろというには少々酷だろう。『それで、お主はどうするつもりじゃ?正直なところ、周囲の童共じゃとあの娘の相手は些か荷が勝ちすぎるぞ』<う~ん……出来ればやりたくなかった手ではあるんだけど……やっぱり僕が友達になるしかないかぁ?>僕ならば幾ら彼女の反発心が強くても受け流すことはできるし、彼女の話し相手になることも可能だろう。なんと言っても中身的には元は20歳ちょいの大人なのだ。7歳の女の子の言葉くらい簡単にあしらえる。ただ…………。「…………。友達に『なってあげる』っていうのは、出来ることならしたくなかったんだけどなぁ……」思わず声に出してぼやいてしまう。友達は『なってあげる』ものではないというのが僕の持論であるし、僕自身も相手が小学生とはいえ『なってあげる』なんて言葉を本気で言えるほど恥知らずな人間ではない。学生時代の友人は一生の宝、なんて言葉もあるくらいなのだ。僕の単なるお節介で彼女のそれを穢したくなかったのだけど……。『こと此処至っては仕方なかろ。早くせんとあの金髪娘もいい加減爆発が近いぞ』<怖いこと言うなよ……。まあ仕方ないか。今日の放課後にでもバニングス嬢に話しかけてみる。葛花は残りの休み時間や昼休みに何か起きないか彼女を見ててくれ>『心得た』そこで話を終え、授業を聞くふりをしつつ内職開始。既に休み時間は終了していた。で。結論だけを先に言うと。結局、葛花と話していたことを実行に移すことは出来なかった。それよりも速くアリサ・バニングスが動いたのだ。葛花的に言うのなら、『爆発』してしまった。(あとがき)またしても考えもなくストックの中から連日投稿。なんというか、読者様に自分の拙作を読んでもらいたくて堪らないドMな作者です。こんなところで自分の隠された性癖が発覚するとは。はい、今回は前回の入学式から1週後ですね。3人娘の邂逅という原作イベントを次話にまわしたため、今回はかなり短めです。原作主人公(あれ?ヒロイン?)さんも次話で登場しますのでお楽しみに。ではでは。