いやー、花見楽しかったわー。超楽しかったわー。僕の持って行ったお弁当も隠し芸の声真似カラオケも好評だったわー。108の技の中に声帯模写があって良かったわー。多分108個も無いけどあって良かったわー。膝の上にすずかとなのはを侍らせて甘酒飲んでたらアリサに死ぬほど殴られたわー。きっとこっそり飲んだ日本酒のせいだわー。酔った勢いってこわいねー。ねー。と、いうわけで。いろいろあった花見も終わって数日後。決して描写途中で力尽きたわけではない。那美ちゃんの協力も甲斐あってか通常なら全治数カ月間違いなしの傷をおよそ2週間で完治させ、僕は退院して初めて高町家剣術稽古に参加していた。「しゃァッ!!」「あ……ッ!?」僕の右に持った木刀が美由希さんの小太刀を掻い潜り、その脇腹の直前で停止した。「止め! それまで!」見届けた恭也さんの制止がかかる。それを聞いた僕と美由希さんが足早に開始線まで後退した。一礼する。「ありがとうございました!」「ありがとうございました……うう、まさかこんなにも早く負けるなんて……」「祝☆勝っちゃったぜ」なんと初勝利である。『丸一年にしてやっとじゃな』<2度目の勝利まで今度は半年くらいだといいなぁ……>壁際でニヤニヤと笑いながら嫌味をとばす葛花(子狐Ver.)に控え目に応じる。僕は謙虚な人間なのだ。「二人とも、お疲れさま。ほら」恭也さんが投げて寄越したタオルをそれぞれに受け取って滴る汗を拭う。僕はそのままドカリと葛花が座っている壁を背にして床に腰掛け、美由希さんは恭也さんの傍に立ったまま。結果だけなら軍配は僕に上がっていても、こうして見ると高校生と小学生の体力差は如何ともし難い。この辺は今後の身体の成長に期待だろう。うん。「お互い、さっきの試合がどうだった?」「病み上がりの割に上手く動けたかと」特に変わったことがあるとも思えなかったため、恭也さんからの問いに至極当たり前の感想を述べる。ただ、対戦相手だった美由希さんはそうではなかったようで、彼女はやや不思議そうにしながら言った。「えっと、なんかいつもよりも春海くんの動きが解かりにくかった……かも?」「解かりにくかった?」聞き返す僕に、うんと美由希さんは頷いて。「特に木刀を振る速さが変わった訳じゃないんだけど、間合いの攻め方とか打ち返すまでの反応がすっごく鋭くなってるっていうか……う~ん、こういうの何っていうんだっけ。えー、っと……」「?」「……思い切りが良くなった」「あ、そう、それ! それで、『あれ?』って戸惑ってるうちに負けちゃった」ぼそりと呟いた恭也さんをビシッと指差す美由希さん。しかし当の本人である僕はというと、相も変わらず頭上に「?」を浮かべていた。はて、自分としては依然と変わらず最初から最後まで美由希さんに押されていたような気がするのだけど。最後に勝てたのだって、ギリギリで美由希さんの小太刀の軌道に対して有利な位置取りを出来ていたからに過ぎない。それだけ、彼女の刀の動きを見て避ける暇があったと言える。いや、それとも。これこそが“成長”というヤツなのだろうか。「うん、なるほどな、了解した。……それで、美由希。そろそろ時間じゃないのか? このあと神咲さんと遊びに行くとか言っていただろ」「えっ、うそ!? もうそんな時間!?」兄の言葉に道場の壁に嵌めこまれた時計を見た美由希さんが俄かに焦り始めた。「うわ、ホントだ! ごめんっ、そういうわけだから、わたしもう上がるね!」「はーい、いってらっしゃ~い」「神咲さんによろしくな」「うん!じゃあ、いってきます!」ドタドタと慌ただしく、実に年頃の女の子らしい拙速さで出て行く彼女を僕と恭也さんで見送った。「…………」「…………」何となく押し黙る野郎共。傍から見ればさぞや気持ち悪い光景だろうこと請け合いである。むさ苦しい男2人、花が居なくなればこんなものだ。「とりあえず、やりますか」「ああ、そうだな」そう言って、どちらからでもなく各々2本の木刀を構えて開始線に立つ。「そういえば、さっきの僕の思い切りが良くなってるって、どういうことなんですか?」「たった一回の実戦は、万の素振りに勝る。そういうことだ」「あー……なるほど」そういって納得の意を示す僕の脳裏に過ぎるのは、闇夜に映える豊かな金色の髪を湛えた美貌の殺戮人形───その、死闘。自らの命を対価に闘った記憶は微塵もないが、あの夜に起こったことは間違いなく僕にとっての死力を尽くした戦だった。それが僕に並々ならぬ度胸を付けたと言うのなら、まあ、歓迎すべきことなのだろう。個人的には、そんな度胸を発揮する場が来ないことを祈らずにはいられないのだけれど。しかし……なるほど、僕だって強くなっているのか。絶対的にも相対的にも未だ弱っちいままの僕ではあるが、……それだけは誇っても良いのかもしれない。「うん、そうだな」頑張ろう、と気持ちを新たに、なお頑張ろう。……そういえばイレインの奴、あと半年もすれば直るって花見の席ですずかが言ってたなぁ。やだなー。アイツ絶対に僕のこと恨んでるだろ。会いたくねーなー。「土下座したら許してくれないかな……」「その上から踏みつぶされる未来しか見えんのじゃが」「アイツそのへん粘着質っぽかったもんなー」車に轢かれて壊れたカメラアイで見られた時など、言い様のない空恐ろしさを感じた。僕なんか殺されかけたんだからそのくらい水に流せよ。「……何度か聞いてはいたが、動物が喋るっていうのはシュールな光景だな」「やっぱ慣れてないと驚きますよね」美由希さんが居なくなったとこで普通に喋り始めた葛花にビクッとしてましたもんね、恭也さん。「……まぁいい。それじゃあ、始めるか」「ですね。───おーい、葛花。ついでだ。合図くれ」「何のついでか知らんが……ま、そのくらい構わんじゃろ」面倒臭そうな台詞とは裏腹に、一度やってみたかったのか妙にワクワク感の滲んだ声でそう言って、くるり、と一回転。艶やかな彼岸花を添えた着物姿の童女となって降り立った彼女は、ピンと右の腕を天高く構え───「いざ尋常に───」一拍。「───始め!」目の前の相手に、踏み込んだ。「強くなってるとか絶対ウソだ……」フルボッコだったじゃねえか、恭也さんの嘘吐き。道場の扉に手をかけ身を預けて、フラフラになりながらか細く言葉を漏らした。結局、いくら僕の調子がいいからと言って病み上がりに変わりなく、恭也さんに手も足も出せずボッコボコにされて今に至る。そして当の恭也さんはと言えば余裕綽々の体で身を清めると翠屋の手伝いに行ってしまい、今の今までダウンしていた僕のほうは再び狐の姿となった葛花を頭に乗せて高町家の風呂場を目指していた。あの野郎、いつか絶対泣かす。忍さん寝取ってやろうか。『度胸一つで格上に勝てるのならば、今ごろ人間は神の一柱も屠っておるわ』「なんか壮大だな」というか、居るのか、神さま。『1000年くらい前まではスライム並に見かけたんじゃがなぁ』「ありがたみがなさすぎる……」だが仮にも神さまを経験値扱いするな。不遜すぎるぞ。『人間にとっては強神であり祀るべき存在であっても、儂からしてみれば木っ端同然の者も多かったからの』「まぁ八百万(やおよろず)の神って元々そういうものだけどさ」役割を細分化しすぎて護国とか闘うことに関して空っきしの神さまとか結構いたらしいね、あれって。とか、葛花から専門家が聞けば現代日本史学が軽く吹き飛びそうな講義を受けていると───、「ほい、ほっ。てててて、ていっ」───ヒュ、バヒュ、ブンブンブンブンッ、ズダァアンッ!!!気の抜けたような掛け声に反して、鋭い風切り音と、果ては何かを強く叩きつけたような轟音が僕の全身を震わせた。ちょっとびっくりしつつ音源のほうに目をやると、其処にいたのは木製の棍を構えた中華服の少女───この春 晴れて中学校へと進級した、鳳蓮飛その人だった。「……ヒュー」思わず下手クソな口笛を吹いて感嘆の念を零す。流れる軌道はそのままに、されど突きや払いと云った攻撃動作になると途端に鋭くなる彼女の棍捌きにしばし見蕩れた。目の前に置かれた打ち込み用の木柱を強かに打ち据えながらも、涼しげな顔を見ればまだまだ余力を残していることが解かる。ふだん彼女が武道の練習しているところは見たことがないので、ひょっとしたらこれは高町家の住人からしてもそこそこ珍しい光景なのではなかろうか。気分は海亀の産卵風景に出くわした観光客だった。そんなわけで、僕はレンの邪魔をしないため目立たぬように腕を組み壁に背を預けた。気配を殺し、完全に見物客の姿勢である。「てりゃ───ふー。おーわり、と」「はや!?」真正面に向かって真っ直ぐに突き出したのを最後に、ぽい、と何の感慨もなく手にしていた棍を放ったレンに、突っこんだ。いや、早すぎるだろ。聞こえてきた音から考えても、始めてから明らかにまだ1分も経ってない。「誰!? ……なんや、春海か」「なんや、とはご挨拶な」ガラスの一ケタになんたる言い草。「なはは、すまんすまん」からからと笑って縁側に腰掛けるレン。僕も何となくその隣に腰を下ろした。「おまんじゅう、食べるか?」「いただきます」事前に用意していたのか、お盆に乗った幾つかの饅頭の内ひとつをこちらに手渡してきたので、ありがたく頂く。甘さ控えめ、素晴らしい。「お茶くれ」「おう、……ありゃ、あかん。湯のみ一個しかない」「回し飲みでいいだろ」「アホ、ウチの間接キスはそんなに安ないわ」「ソファーで腹出して爆睡してた時点でバーゲン状態だよ、そんなもん」「いやん、スケベ。やらしいわぁ」そもそも一緒に暮らしてたら恭也さんとだって間接キスの一つや二つしているような気もするのだが。これが好感度格差か。仕方なくエロゲ主人公(恭也さん)の友人ポジションに甘んじた僕は、格差社会の無常を儚みつつお茶を飲むことは諦めて口に含んだ饅頭を飲み込んだ。「で、続けないの?」「へ?」「だから、棍の練習」ぽん、とレンは右の拳で左の手の平を叩いた。いかにも初めて思い至ったと云った風だ。「ええんよ、ええんよ。もともとウチって飽き症やねん。やりたいときにのんびりとやれたらそれで満足やもーん」「さよか」「さよさよ。それよか、もっとおもろいこと話そ」また唐突な。「世の中には言いだしっぺの法則というものがあってだな……」「ウチに話題を提供せいと。ええ度胸やないか、大阪人の ふらんく で うぃっと に富んだ会話術、とくと見せちゃる」「お前ハーフな上に横浜育ちだろ」母親が関西人というだけでここまで大阪に傾くことができるのは素直に尊敬するけどさ。そういえば桃子さんも大阪出身らしいね。「命って、死んだらドコ行くんやろな……」「重!?」フランクとかウィットはどこ行ったんすか蓮飛さん!「天国ってほんまにあるんやろか」「だから重いよ! 何がお前をそんな死後の世界に駆り立てているんだよ!?」君って普段は割ともっとのんびりしたキャラだよね? もしかして僕の前でだけ見せてくれるセンチメンタル溢れる姿なの? 何その嬉しくない好感度イベント。重いよ。「ま、まあ、死ぬとか天国とかはちょっとよく分かんないけど」嘘である。むしろ死ぬことに関しては一家言あるといっても過言ではない。「あれじゃない? 死んだ後のことなんて死ぬ時に考えりゃいいんだって」「お、なんか恥ずかしいセリフが聞けそうな前フリやな」「やかましいわ」僕は臭いセリフの似合う良い男だからいいんだよ。「でも……そかそか。そやな、死んだときに考えればええことか」「ん? なに、お前死ぬの?」あんまり楽しくないから個人的にはお勧めはしないよ? 絶対やめておいたほうがいいって。「ふっふーん、ないすばでーになるまでウチは死ねんなぁ」「おいおい不老不死宣言かよ、でっかく出たなー」抉り込むように腹パンされた。完全に気を抜いていたので綺麗に入ってしまった。急所に当たった!というやつだ。効果は抜群だ(男の子的な意味で)じゃないだけ感謝すべきなのだろうか、僕は。「お、ご、っ……お、おい、このまえ『鳳の拳法は風の拳』とか言ってなかったか……」柔よく剛を制す的な拳法の使い手のくせにグーパンとは何事だろう。看板に偽りありとはこのことか。「じゃかぁしいわ、乙女のかわいらしい夢にケチつけた罰や」「乙女の夢って割には俗物的すぎるわ」もとより、いくら幼児体型とはいえまだ中学生の身でそこまで気にすることでもあるまいに。そう思いながらも実際に目の前で仁王立ちしているレンちゃんを見て、その明らかな発育不良っぷりについつい憐憫の眼を向けてしまう僕は嘘を付けない損な男、和泉春海である。「憐みの眼差しが腹立つ。とりあえずもう一発な」「へなっぷ!?」最後に頭を踏み踏みされ、ぷんぷん怒って家の中へと消えていったレンを見送ってしばらく。僕が縁側にてそのまま仰向けになった状態でバカみたいに青い空を眺めていると、頭の傍にノソノソと寄ってくる葛花。「阿呆じゃのう。嫌いな話題じゃからと道化になり殴られてまで話を逸らすか。傍から見ていて滑稽極まりなかったぞ?」「いや、一度死んだ身としては死後の世界とか割と本気で考えたくないんだけど……」流石に不老不死とまではいかずとも、長寿番付に載るくらいには長生きしたいものである。しかし、そんな僕の返答に葛花は首を横に振って。「そうではなかろう───あのチャイナ娘、先の話の流れの中で尽く“自分の本音を避けておった”」「……」「相も変わらず、儂のあるじ様はお優しいことじゃ」微塵も思ってなさそうな口調で言う葛花。「いや、まあねぇ、僕だってそこまで深く考えてたわけじゃないって。何となく、『あ、これは駄目なパターンだな』って経験則が囁いたっていうか」「『前』の経験か」「経験というより、もはや処世術に近いけどな」人に深入りするというのはドラマだと無事に成功することが殆どだが、往々にして現実ではそうではない。それは人間関係を構築する上において諸刃の剣なのだ。切れ味はいいが、使い方や時機を誤れば双方ただでは済まない。少なくとも、忍さんの時はそうだった。彼女の奥深くまで潜り込むには、僕では心情も年齢も立ち位置も何もかもが遠すぎたのだ。───それは、どう考えても恭也さんの仕事だ。「つまり?」「好感度が足りない」結局のところ、幾つであろうが女は女。向こうは男の都合なんか知ったこっちゃないのである。**********翌日。日曜日で学校が休みの僕は、さざなみ寮の耕介さんを訪ねていた。「耕介さん、こうですか?」「ああ、そうそう。そこを固めに編んで、ぐるっと編み棒を回す感じに」「あのー……耕介さんも春海くんも何してるんですか?」テレビのワイドショーをBGMに作業に没頭していると、寮の共同空間であるリビングにやってきた那美ちゃんが話しかけてきた。そちらを見ずに手元に視線を落としたまま応じる。「んー、編み物?」「えっと……なぜ、編み物?」「ちょっと好感度が欲しくて」「???」明らかに分かっていない様子の那美ちゃんに説明することにした。「ほら、今度の土曜日ってレンと晶の誕生日でしょ?」「あ、うん。昨日美由希ちゃんに聞いて、プレゼントも買ったよ? 翠屋も貸切ってお誕生日パーティするんだって」「何それ知らない」僕も呼んでよ。「まあそれは置いておいて。……それでさ、ぼくもちょっと手編みで亀の編みぐるみとミサンガくらい贈っておこうかなーっと。お金ないし」こうして耕介さんに師事しているところなのだ。「わぁっ、そうなんだ! きっと二人ともとっても喜ぶよ~」「そうかな?」「そうだよ」そうらしいです。「まあ、ついでみたいになっちゃうのは申し訳ないけど、那美ちゃんにも何か作ってみるよ。何がいい?」「わ、ほんと? ならねー、う~んと……」僕の言葉にニコニコと嬉しそうに笑いながら悩む彼女に、僕も笑みを返しておいた。女の子がみんな那美ちゃんみたいに簡単なら僕も楽で良いんだけどなぁ。(あとがき)えー、はい。すみません、生きてます。作者の篠航路です。更新遅れて本当にすみませんでした。いや、作者としては花見のシーンを書きたかったし、書いてたんです。しかし実際に書いてみると筆が全く載らず、これは一体どうしたことかと。そうこうしているうちに実家のほうでも幾つか用事があってパソコンを触ることができなかったりしてズルズルとここまで遅れてしまいました。はい、言い訳です、ごめんなさい。というわけで今回も少し短いですが、第二十五話『好感度の差がイベント数の決定的な差』投稿完了しました。今回の話から原作とらハ3のヒロインの一人、鳳蓮飛ことレンルートへの突入とあいなりました。作中年齢13歳で18歳未満お断りシーンをやっちゃった児ポ条令違反キャラの一人です。まあ2の美緒は10歳でしたけど。当時のソフ倫は本当に寛容ですね!同時にこのルート、たぶん彼女とセットで語られることの多い城島晶のルートでもあります。というか、たぶんこのルートに限っては彼女が主人公ですね。原作の彼女たちの交流に、うちの主人公がどう絡んでいくのか!? ぶっちゃけ作者もよく分かっていません(……もしかしたら晶ちゃんの出番ががっつり無くなる可能性も無きにしも有らず……かも。そして次回はやっとこさ那美ルートになります。前回の忍ルートは書くことが多かったので一本だけでしたけど、レンルートは割と主人公の影が薄くなると思うので同時進行ということで。那美ちゃんのルートは主人公が絡める理由があるので考えるのが楽なこと楽なこと。それに比べてレンと晶は(ry。次回もいつになるかは未定ですが、出来る限り早く投稿できるよう頑張りますので、皆さんもよろしくお付き合い下さい。では。