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No.29510の一覧
[0] 【習作】喫茶店?いいえ茶屋です[刺身醤油](2011/08/29 17:28)
[1] 01 ほうじ茶と貴族[刺身醤油](2011/12/06 03:51)
[2] 02 客員剣士は、休みたい[刺身醤油](2011/09/20 23:38)
[3] 03 小さい豆、見ぃ~つけた[刺身醤油](2011/11/06 15:51)
[4] 04 絢辻屋の営業努力 またの名を商品開発[刺身醤油](2011/11/05 05:07)
[5] 05 絢辻屋の料理[刺身醤油](2011/11/10 04:42)
[6] 06 絢辻屋の料理 異世界編[刺身醤油](2011/11/12 10:45)
[7] 07 アカデミー[刺身醤油](2011/12/06 03:53)
[8] 08 不器用×不器用[刺身醤油](2012/01/17 12:27)
[9] 09 歌姫[刺身醤油](2012/03/07 10:01)
[10] 閑話 『歌姫 オマケ』[刺身醤油](2012/03/07 12:53)
[11] 10 餅つき前編[刺身醤油](2012/05/03 21:03)
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[29510] 07 アカデミー
Name: 刺身醤油◆84f9fb96 ID:454504e7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/06 03:53



 学生らしさってなんだろうか? すでに学生なんて遠い思い出になりつつある僕は、時々そんなことを考える。学生の本分は勉強である、というのは教師や大人から散々言われたけれど、そのくせに学校で求められていたのは協調性だとか没個性だとかそんなものだったように思える。まぁ、それは今となってはどうでもいいことだけれど。只言えるのは、学生には『学生らしさ』って表現されるほどの何かしらの熱を持っていることは確かだと思う。

それがどの方向に発揮されるのか、はたまた発揮されずに時間を掛けて発散していくのかは本人次第だけれど。



07『アカデミー』



「え、うちに泊まりたい?」


 突拍子も無い提案に思わずカウンター向こうのアリアに言い返す。夕方の学生ラッシュも落ち着いて、店内にはいつもの常連さんしかいなかった。窓の外では、外食に行く家族とか、ギルド帰りの戦士とかが笑いながら通りを行く。いつも通りの平凡な日常。しかし、アリアの提案は平凡なそれではなかった。少なくとも、僕の中の一般常識としては茶屋は宿屋ではない。


「ええ。今度の休みにお願いしたいのだけれど、ダメかしら?」


「ダメも何も、せめて何がどうしてそういう結論になったのかくらい教えてくれないかな? 後でお転婆娘の家出を匿ったって言って、ジークさんに怒られたくは無いのだけれど」


「そうねぇ・・・・・・勉強会、かしら?」


 其処で訪ねられても、僕は知りませんってば。

 胡乱げな顔をしている僕を見て、話を飛ばしすぎたかしらとアリアは順序だてて話してくれた。

 なんでも、アカデミーのカリキュラムが今期から変更になったらしいのだ。んで、何がどう変わったのかというと、試験の仕方が大幅に変わったとのこと。今までは単元が終わるごとに授業の担当教官が試験を行っていたのだが、それが中間試験と学期末試験の二回になったそうだ。

 いわゆる、小学校までのテストから中学校へのテストに変わったみたいな感じかな? まぁ、頻繁に試験してもその試験課題の作成とか採点にも時間かかるからなぁ。一応、「担当教官」なんて呼ばれているが、彼らの本職というか本質は研究者なのだから。



 ここでアカデミーとルーベル市について少し紹介しようと思う。



 アカデミーというのは、この世界における教育機関の総称だ。だから一口にアカデミーといっても、貴族が儀礼を学ぶような貴族学校や法律を学ぶ司法殿とか色々あるのだが、ここルーベルにおいては中央区にある研究所付ルーベルアカデミーのことを指す。

 そしてルーベルアカデミーは研究所の名が示すように、研究所の育成機関として設立されたものだ。もとは一端の研究者がヒヨっ子研究者を纏めて研修させるような施設であったのだが、時が立つにつれ門戸は拡大し、文字の読み書きを教えるような基本科もある。おかげでここは識字率がかなり高いため、僕が購読しているような情報誌が刊行されたりするんだよね。まぁ、かといって全ての人が読み書きできるのかと言われれば違うのだけれど。

 今、アカデミーで開設されて入るのは文字の読み書きや、魔法具の扱い方を学ぶ基本科

 それの上位に当たり四則演算や魔法の基礎を習熟する修士科

 修士科と同じく、基本科の上位に当たる上位魔法の習熟や研究の基礎を習う魔法科

 数学や選択した職業の基礎を習う商業科 の四つだ。上二つは三年制で残りは四年生。各科の修了とともに進学するかどうか決めるんだよね。蛇足だが、この世界において商業科というものがあるのはここだけだ。まぁ、一般的には弟子入りとかするものだけれど、受け入れる側からしてもある程度の基礎ができているほうが有難いからね。これも技術と知識という無形の財産を手厚く保護している王家の方針のおかげかな。



 そして、アカデミーがある中央区はどこにあるのかというと、まずドーナッツを思い浮かべて欲しい。そのドーナツを十字に川が区切っており、ギルド区、住民区、港湾区、貴族区の四つに分けられていて、真ん中の穴の部分が中央区と呼ばれている。

 中央区には王宮や研究所、貴族院といった国としての中枢が置かれておりアカデミーも研究所に隣接する形で設立された。ちなみに、僕が店を出しているのはギルド区だ。新たに店を出す場合、ギルド区と住民区、それに港湾区の場合は各区の代表者に許可を取ればいいのだが、中央区においては国の審査に通る必要がある。この審査が過去三年間の店の経営状況とか従業員の犯罪履歴とか伝手の大きさだとか洗いざらい調べられるのだが、王族などが手に取る可能性が高いので仕方ない。

 また、貴族区で店を構えることは禁止されている。だから貴族の場合は自らが、もしくは使用人が現地に行って買うか商人を家に呼びつける必要がある。そして、中規模以上の商人をすぐに家に呼べるようになって初めて一人前の貴族として認められるそうだ。



 これがざっとしたルーベル市の概観だ。本当は区内でも、例えば絢辻屋のあるギルド区でも家具通りや職人街、屋台村なんて分けられていることもあるのだけれど、まぁ大体はどの方向に行けば何区があるか覚えとけば迷うことはまず無いと思う。もし万が一迷ったとしても中央区の時計塔を目指せばその近くに騎士団本部があるので、そこら辺で適当に声を掛ければ屈強な方々が道を教えてくれるはずだ。

 って、アカデミーの試験ために勉強会をする?


「ねぇ、アリア。一つ確認したいんだけれど」


「ええどうぞ、店主さん」


「アリアって学生だったっけ?」


「誰があんな面倒なものに。私は読書のついでにお手伝いをしているだけですわ」


 うんうん、前にも司書の手伝いしているっていいていたもんね。そりゃ学生なんていってなかったよね。というか、え? 理由って面倒だからだったの? いや、まぁ今は別に良いかそんなこと。


「言い忘れてましたけど、勉強会をしたがっているのは私ではなくて私の友人ですわよ? 二人。どちらも同姓の方ですわ」


「あー、お友達が使いたいのね。ていうか友達ならアリアの家でお泊りすればいいんじゃない? ここよりも広いし」


 絢辻屋だって元は僕とおじいちゃんとおばあさんの三人で暮らしていたのだから結構広いし、一人暮らしの今なら部屋も余ってるけれど、さすがに貴族のそれとは比べ物にはなりません。アリアの家は小さい方ではあるけれど、それは「貴族としては」小さいほうだからね。家族と使用人合わせて30人とか言ってたからその広さは押して図るべし。まぁ貴族区に行けばそんな家ばかりなんだけどさ。


「私としてはそれでも構わなかったのですが、貴族区では近くにお店もありませんし。それに、そのうちの一人は平民の娘でして・・・・・・。さすがに、何を勉強するのか忘れてはよくありませんでしょう?」


 ほぅ、とため息をつくアリア。そのため息に同意するようにお茶を飲む僕。べつにアリアは平民だからといって差別をしているわけではない。その点では流石はワーケルハイツ家といったとこだろう。だから、あることが無ければ喜んで家に呼んでいたはずだ。そう、


「テーブルマナーなんて、僕たちにはあまり必要じゃないもんなぁ」


 まだ顔も知らないその彼女が、元ワーケルハイツ家筆頭執事の前で食事をする光景を想像して、僕は今度こそ盛大にため息をついたのだった。


 仕込みも終えて、自分用の玉露を淹れてるころになるとジークさんが店にやってきた。皺一つないシャツに、埃ひとつない黒の燕尾服。手にはシミ一つない白手袋に曇りなく磨かれたモノクル。うん、パーフェクトだ。さすがジークさん。


「お嬢様、お迎えに上がりました」


「ご苦労。じゃあ店主さん、そういうことでよろしいですわね?」


「うん、まぁ僕は構わないよ。人数は、えーとアリアも泊まっていくんだよね?」


「もちろんですわ」


「じゃあ三人分で用意しておくよ。着替えとかは忘れないように伝えといてね。それとなにか食べられない物とか、苦手なものがあったら前日までに僕に伝えてくれると嬉しい」


「ふふっ、それは店主さんがかしら? それとも彼女達かしらね? じゃあ何かあったら私か、もしくは誰か人を遣るわ。それじゃあね、店主さん」


「うん、わかった。じゃあね、アリア」


「お嬢様、表に馬車を用意しておりますので・・・・・・ハルキ、その時はよろしくお願いします」


 ドアベルが鳴り、少し遅れて手綱を引く音が続く。店の前から始まった轍はそのままワーケルハイツ邸へと続くのだろう、車輪の音はすぐに行き交う人々の喧騒の中へと溶け込んでいってしまった。

 それにしても、アリアの友達か。ワーケルハイツの名前は善きにしても悪しにしても壁を作ってしまう。たとえ実力主義と謳われている研究員になろうと、本人の与り知らないところで家の名は彼女を助けるだろう。でも、それを本人が望んでいないとしたら?

 まぶたの裏に、貴族になるには尊敬できすぎる兄様達がいて、只のアリアとして生きるにはこの名は重過ぎる。いっそ、平民として生まれたのならと言って唇をかみ締めていたアリアが映る。あれは今よりも彼女がまだ幼く、そして僕がまだ世間知らずだった頃だ。

 あれから幾分の時が経った。

 僕は何人もの客と知り合い、友とケンカをし、人に助けられてきた。
 
 彼女はどうだったのだろうか? 僕はこの店の中での彼女しか、彼女の語る彼女しか知らない。夕方、人の少ない時間帯にふらりときては何と話すこともなくただお茶を楽しむ。時折、出る話題はアカデミーの新発見や本のことだけ。そんな彼女が、最初に友人の話をしたのは何時のことだっただろうか? それを境によくお喋りをするようになった今ではそれを正確に思い出すことはできないが、彼女の、大切なものを壊さないようにそっと包みながら笑う顔は大切な思い出として、今も、僕の心の中にある。


「やれやれ、僕も存外、アリアには弱いようだ」


 でも、悪くない。まぶたを開き、ガラスに映る綻んだ自分を見て大げさにおどけてみせる。三人ならおじいちゃんとおばあちゃんの部屋を空ければ十分だろう。ベッドは二つをくっつければ子供三人なんて余裕の大きさだ。シーツは明日洗濯しておくとして、タオル類も新しいのを出しておかないとな。


「よぅ、もう夜ご飯はやってるかい?」


「えぇ、もうやっていますよ。今日のオススメはボリューム満点のハンバーグです」


「じゃあそれのご飯でたのむ。ご飯は大盛りな」


「かしこまりましたー」


 注文をとり、鼻歌を歌いながら料理に入る。付け合せの野菜を鍋で茹で、その横でフライパンに油を引き、一気に加熱。その間に寝かしておいたタネを成形して、熱々のフライパンに投入して焼き目をつけ、肉汁が零れ出ないようにする。焼き目がついたら小さな鉄皿に移してオーブンへ。

 焼き上げている間にフライパンに残った肉汁と、仕込みで準備しておいた玉葱とにんにくを刻んで鶏がらで煮込んだものを入れて、温まってきたら味を調えながら小麦粉でとろみをつければグレイビーソースの出来上がりだ。ご飯をさらに盛り付け、後はオーブンから焼きたてのハンバーグを取り出し、鉄串で目立たないところを刺して中まで焼けているか見ればこっちも準備OK。

 鉄皿を木の受け皿に置き、野菜を添えてソースをかける。熱々の鉄板が音を立ててソースを弾けさせ、なんともいえない香りが店内を満たしていく。今日はどうやら絶好調のようだ。


「お待たせしましたー、特製ハンバーグとご飯大盛りです」


「おぉ、いい臭いだ。それにしても今日はやけにご機嫌じゃねぇか。何か良いことでもあったのか?」


「いえ、これから起こす予定です」


「なんじゃそりゃ」


 訝しがるお客さんに笑顔で答える。さてさて、今週末はいつもより楽しい週末になりそうだ。



後日、僕が全力を尽くしたせいで友人二人の目が点となりアリアは額に手を当てることになるのだが、それはまた別のお話である。



あとがき
 お泊り会の様子はアリア視点で書く予定。ただし予定は未定。


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