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No.29510の一覧
[0] 【習作】喫茶店?いいえ茶屋です[刺身醤油](2011/08/29 17:28)
[1] 01 ほうじ茶と貴族[刺身醤油](2011/12/06 03:51)
[2] 02 客員剣士は、休みたい[刺身醤油](2011/09/20 23:38)
[3] 03 小さい豆、見ぃ~つけた[刺身醤油](2011/11/06 15:51)
[4] 04 絢辻屋の営業努力 またの名を商品開発[刺身醤油](2011/11/05 05:07)
[5] 05 絢辻屋の料理[刺身醤油](2011/11/10 04:42)
[6] 06 絢辻屋の料理 異世界編[刺身醤油](2011/11/12 10:45)
[7] 07 アカデミー[刺身醤油](2011/12/06 03:53)
[8] 08 不器用×不器用[刺身醤油](2012/01/17 12:27)
[9] 09 歌姫[刺身醤油](2012/03/07 10:01)
[10] 閑話 『歌姫 オマケ』[刺身醤油](2012/03/07 12:53)
[11] 10 餅つき前編[刺身醤油](2012/05/03 21:03)
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[29510] 06 絢辻屋の料理 異世界編
Name: 刺身醤油◆84f9fb96 ID:454504e7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/12 10:45


 新しい何かを作るときには、大まかに分けて二つの方法がある。一つは既知のものを工夫して未知を作り出すもの。一つは未知のものを利用して未知を作り出すもの。前者は自分の固定観念を壊す必要があるし、後者は試すのに勇気が必要だ。それでもみんな新しい何かを求めているから毎日どこかで何かが生まれ、何かが消えていく。

 そして僕は平凡な人間だ。優れた容姿があるわけでもなければ、鍛え上げられた肉体美があるわけでもない。精神面からしても、どんな人の前でも堂々としているほど胆が座っているわけでもないし、清廉潔白なんてとんでもない。僕は平凡な人間なのだ。

 だから、新しいことに挑戦するのに不安がないわけなどないし、躊躇っているのは僕が臆病だからではなく、一般的な反応なのだ。



06『綾辻屋の料理 異世界編』



 そんな理論武装を施して、今一度目を開く。

 飛び込んでくるのは青、黒、黄、紫。色とりどりの彩りだね。まるで食材とは思えないほどの彩のよさだよ、本当に。


「ローレンの奴め、今日に限って本人が届けに来なかったのはこのためだな?」


 おかしいと思ったんだよ。寝かせている最中だからそのまま冷暗所で保存しておいてくれとか、色々サービスでおまけくれたりとか、今後ともよろしくなんて柄にも無いこと言ったりとか。まぁ、あの場で確認しなかった僕も間が抜けているというか鈍ちんというか。


「で、それは一体どうするのだ?」


「さぁ? 美味しく食べる方法でも知りたいのでしょうが、僕は全部初めて見たよ。メモにはこの青くて細長いのがグリエーシュの実、真っ黒なこれがオーランドの胸肉で黄色いのはその卵らしいです。紫のは・・・・・・クラーゲン? って書いてありますね」


「クラーゲンとはまた珍しいものを。あれは水の綺麗なところにしか生息しないはずだが」


「そうなんですか? というか、わかるんですか、コレ」


「伊達にアカデミーを主席で卒業してない。まぁ、そんなことに詳しいのは今や我くらいだとは思うがな」


 餡団子を口に頬張り、くるくると串を回しながら自慢げに笑うダインさん。彼は研究所に勤めている研究者の一人で、うちの常連さんだ。専攻して入る内容は確か、魔法具関連だった気がする。変わったものが大好きで、この店に初めてきたときの第一声は「ここが噂の変な店か!」だったのはあまりにも有名である。どんな噂になっているかは怖くて聞けません。ちなみに今は閉店後で、お店にいるのは僕とダインさんの二人だけ。ダインさん曰く、何か面白いことがある予感がしたのだとか。


「あー、じゃあ他のもわかります?」


「友のためなら、こんなどうでもいい知識を学んだ甲斐があるというものだ」


 無邪気にウインクしてくるダインさん。これがイダガスティアさん、もしくはアリアにされたのならドキッとするのだけれどなぁ。狐耳のおっさんに言われても空しいだけだ。いや、気持ちがうれしいのは確かなんだけれど、なぜにウインクしたし。


「クラーゲンというものは、水の綺麗な淡水にしかいない生物だ。姿はイカに似ているのが透き通る紫色で、何を主食としているかは不明らしい」


「え、これイカなんですか?」


 紫色の物体を指でつつく。あー、確かにイカっぽいかも。ブニブニしているけれどちゃんと押したら戻る弾力もあるし。


「ちなみに、熱を加えると溶ける」


「・・・・・・生では食べられ」


「生食には向かない。というよりは、毒があると言ったほうが正確か。最も、その毒は加熱することで失われるらしいがな。食べても死なないような毒だが、だからといって好んで食べる奴がいる訳でもなく、切り身を見たのも随分と久しぶりだよ」


 蛇口で指を洗いながらうな垂れる僕を見ながらニコニコするダインさん。気落ちしている僕の姿が面白いんですね、わかります。耳をピコピコさせない。尻尾も小刻みに振らない! どうして僕にはまともな友達が少ないのだろうか? 僕はこんなにも平凡な人間なのに。

 それにしても、生でもダメ焼いてもダメってどうすればいいんだよ。あーあ・・・・・・、せっかくイカ天とかイカリングとかイカ刺しとかイカ飯とか色々考えたのに。タコを見た目が怖いってリリースしようとしたのと同様に、イカもまたここでは食用とされてないんだよね。だから水揚げされないし、占めた! と思ったんだけどなぁ。


「じゃあ、オーランドは?」


「山に住む鳥の一種。真っ赤な羽の鳥で、その羽は需要が高い。また繁殖力も強いことからしばしば乱獲されるのだが、その真っ黒な身のせい羽を毟ったら放置されるか他の狩猟の餌に使うことがほとんだ」


 ということは鳥胸肉ってことか。見た目のキツさをどうにかすればまともな食材かな? から揚げとか美味しいと思うけど、野鳥の胸肉だから脂肪が少な目かも。だったら蒸し鶏にしてもいいかな? 昆布もあるし。卵は・・・・・・どうやっても色がダイレクトに出るだろうなぁ。まぁ、味は卵だろうし安ければ色違いを作れると思えばアリかも。食事系には無理だろうけれど、回転焼きの色違いくらいなら大丈夫、だと思う。まぁ、こればっかりはもう少し色々な人から話を聞かないとだめだろうね。


「最後にグリエーシュだが・・・・・・エシャロットは知ってるか?」


「オニオンに似たアレですか? 知ってはいますよ、一応これでも料理人ですから。うちでは使っていないけどね」


 あれって玉葱より小さいくせに同じ値段するんだよね。だから、というわけでもないけれでも慣れ親しんだ玉葱のほうが使いやすいから絢辻屋では使用しておりません。貴族付とかアカデミーとかは結構使うみたいだけどね。玉葱より甘味が少ないから、ベースの味を変えずにコクが出せるのだとか。


「でも、これどうみてもエシャロットには見えないんですが」


 どっちかというとキュウリっぽい、青色だけど。表面がつるつるしているけど、形的には一番近いと思う。青色だけど。

 そういえばキュウリってどこにあるんだろ? これで代用できるかな? でも、代用できたとしてもキュウリメインの料理が思いつかない罠。言い替えればなんにでも付け合せにできるってことだけどね。サンドイッチにサラダ、冷やし中華もいいな。

 冷やし中華・・・・・・どこかに中華麺落ちてないかな? 灌水がどーのこーのってのは聞いたことあるけれど、灌水って一体何なのさ。いや、灌水が手に入っても作り方知らないんだけどね。うどんと一緒でいいのかな?


「いや、それはエシャロットではない。エシャロットはそいつの主食さ」


「え?」


 ポトリ、と可愛げな音を立てながらカウンターに落ちる偽キュウリ。目も鼻も口も無いはずのそいつがニヤリと笑った気がした。突然のことに対応できなくて思考が停止するのも、僕が平々凡々な人間だからしょうがないってことでどうか一つ。



「グリエーシュというのはトレントと呼ばれている魔物の一種で、それはそいつの実だな。グリエーシュはトレントの中でも大人しく、地方の村では餌を提供する代わりにその実をもらったり、根っこを使って土を耕したりしてもらうという話を聞いたことがある。味については聞いたことが無いが、毒があったり食べられないほど不味くは無いはずだ」


「それはまた友好的な魔物なことで。はぁ、とりあえずどれから調理したものか・・・・・・」


 とりあえず、食べられて味も酷くは無いのが一つ。食べられるが味の予想がつくのが二つ。煮ても焼いても生でも食えないのが一つ。最後のは即効で削除。色々模索すればなにか使い道はあると思うけれど、もうそんなチャレンジする程の気力が僕にはありません。グリエーシュはまぁ食べられることはわかっているし、となると残りはオーランドかぁ。


「ハルキ」


「ん? どうかしましたか? あ、何か食べたいものがあるとか」


「肉が食いたい」


 あー、はいはいわかりました。だからそんなニィって笑わないで下さい、犬歯がむき出しですよ。そういえば今日もこれから夜中まで実験とか言っていたっけ? だとした結構ガッツリ目がいいのかな? 今あるのは目の前のものと、夕飯用に炊いておいたご飯に、おっ玉葱も少し余ってるな、後は調味料が色々、と。んー、見た目が恐ろしそうだけれど、あれ作ってみるかな?

 胸肉は一口大より一回り小さいくらいの大きさで切っていく。あ、味見しとかないとね。出来上がってから変な味に気付いても手遅れだし。

 切り分けた胸肉から一つ選んでコンロで炙る。おー、真っ黒だから焼き加減わからないかなぁと予想していたけれど、ちゃんと茶色になるじゃないか。味の方は、んぐ。もぐもぐ・・・・・・これなら普通の鶏肉としても使えるんじゃないか? 予想通り脂肪分は少ないから気をつけないとパッサパサになっちゃうだろうけれど、ちゃんとした鶏肉だコレ。案外、パッサパサのせいで食べられないようになったのかもしれないな。いや、そもそも普通は真っ黒な物を食べようとは思わないか・・・・・・。

 裏からとってきた玉葱を薄くスライスする。このとき玉葱の繊維に沿って切るようにすると食感がのこり、繊維を横断するように切ると辛味がまろやかになるのでそこらへんはお好みで。今回は繊維に沿って切りますか。

 材料の下拵えが終わったら、底が深めの小さな鍋に水を入れてそこに砂糖と醤油を2:3くらいで入れる。ちょっと甘めに味を調えれば大丈夫。水はコップ一杯分も入れれば十分だ。本当はみりんがあればいいのだけれど、まぁ仕方ない。せめて日本酒があればなぁ。というかお米はあるのだからどこか作ってないだろうか? 北に行けば行くほど寒さ対策のためか酒造りが盛んになるから、埋め合わせとしてローレンに探してもらおう。

 鍋の中身が煮立ったら肉と玉葱を投入。肉から入れて、表面にさっと火が通ってから玉葱でもオーケー。大切なのは鍋が煮立ってから入れることだ。そうすることで肉の表面にすぐ火が通って、旨味が外に逃げなくなるからね。

 煮ている間に卵をボウルに割りいれるんだけれど、わぁお、黄身が真っ赤だよ。赤身だよ。魚じゃないけれど。白身は僕の知っている普通の卵と同じなのになぁ。まぁ、真っ黒じゃなかっただけよしとするか。肉は・・・・・・火が通るのにもうちょいってところかな。今のうちにご飯をよそってこよう。

 底の深い器にご飯をよそって持ってくる。もちろん、僕とダインさんの二つ分だ。肉のほうは、うん、丁度いいくらいかな。肉に火が通ったら、溶いた卵を鍋の真ん中から蚊取り線香を描くように渦を巻きながら入れていく。一気に入ってしまう場合は菜箸か何かに伝うようにして入れるといいよ。後は蓋をちょっとずれるようにして、卵が半熟になったのをご飯に乗っければ完成だ。みんなも異世界に行くことがあれば参考にして欲しい。


「はい、できましたよ。熱いので気をつけて」


 料理とスプーンを渡して僕も隣に座る。ちなみに僕もスプーンだ。持つには熱くなりすぎるのよね、この器。どんぶり茶碗ってどこかに売ってないかな。なくても茶碗作りの人を知っていれば頼めるんだけどなぁ。いや、いっそのこと木で作ってもらうのもありか。


「ふむ、予想以上に見た目は悪くないな」


「火を通したら色変わったからね。卵も予想よりはマシな色合いだったし」


「ほう、これは下にあるのは米か」


「あ、嫌いだった? それなら何か作り直すけど」


「いや、最近は研究が忙しくてパンばかり食ってたものだからな。それに、この料理は米嫌いだとしても食べる価値があるほど旨い」


 ガツガツ食べながらの素直な賞賛に、思わず顔が熱くなる。そう言って貰えると料理人冥利に尽きます。全く、普段からこんな風に素直ならば、今頃奥さんの手料理でも食べているだろうに。


「そういえば、この料理にはなんか名前はあるのか?」


「あー、そうですねぇ・・・・・・。鳥肉とその卵なんで親子丼とでも名付けましょうか」


「おやこどん・・・親子どんか。クックックッ、まぁ我はよい名前だと思うが一度カティア嬢かアリア嬢に聞いてみるとよいぞ」


「やっぱ丼って変かな? 響き的にはいい感じだと思うんですけど」


「我が言いたいのはそういうことではないのだが、まぁ聞いてみればわかる。さて、そろそろ研究所へと戻らなければな。今日は旨い飯を馳走になった。今度来る時はなにか礼をしよう」


「いいですよ、礼なんて。“友のためなら、料理を作った甲斐があるというものだ”でしょう?」


「クックッ、お前も我に負けず劣らずの変人だな。ならば友の為に旨い酒でも持ってくるとしよう」


「それはまた腕を振るういい機会になりそうです」


 ダインさんも帰り、食器を洗いながら親子丼のことを考える。見た目はさほど悪くなかった。ニワトリのそれより赤々しいけど、少なくとも見た目で拒否するようなものじゃないと思う。まぁ、商品になるかといわれれば食器の問題から厳しいと思うけどね。それに相場がどれくらいになるかまだわからないし。

 残りは二つ・・・・・・というか問題は一つ。クラーゲンどうするかなー。溶けるってのがまず意味不明だもんな。溶かしたのを冷やしたらどうなるのだろうか? また固まるのかな? でも毒を失うってことは変質しているのだから溶けたままなのだろうか? 思い立ったらやってみる。それが僕のジャスティス。



 結果から言おう。溶けたものは溶けたまんまだった。

 がくりとクラーゲンに顔を埋める。あーあ、固まれば臭いもないし味もないから寒天代わりに使えると思ったんだけどな。そしたら色んな料理を作りたかったのに。全く、プルプルするだけしやがって。あーでもひんやりしてちょっと気持ちいいかも。触ってもなんとも無いし、熱い夜にはいいか、も・・・・・。


「冷感シート! これならいけるんじゃないか?」


 冷たさが長持ちするし、溶けたら無害だから拭き取るだけでいい。変なにおいも無ければタオルのようにいちいち水を絞る必要もないから小さな子供でも使える。あとは実際に使ってみての評判次第だけれど、さすがにそこまで僕がすることでもないだろう。よし、クラーゲンはこの案で行こう。これで貸し二だな。ローレンにはぜひとも日本酒を探し出してもらわないとね。



後日、アリアに親子丼の事を聞くと「その名前は、少し残酷だと思うわ・・・・・・」といわれて改名することになるのだが、それはまた別のお話である。





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