※※※※※※注意事項※※※※※※
・このSSは相変わらず千雨魔改造です。
・全7話です。
・世界樹の迷宮〝モドキ〟の表記通り、完全に『モドキ』です。
ゲームやりながら書いてたので、上っ面だけ借りてます。公式資料とかはサッパリ知りません。
・時系列が錯綜しています。冒頭の番号が時系列を示しています。
※※※※※※※※※※※※※※※※
アルケミストちさめ/The Game.
●2
宙を舞う試験管。
それが地面に当たって割れ、中の液体が周囲に散らばる。
「《火の術式》!」
綾瀬夕映の言葉と共に、液体が一気に燃え上がる。
炎は周囲にいた魔物――モンスターを焼いた。
「ピギィィィ!」
身の丈五十センチ程のウサギが悲鳴を上げる。
『森ウサギ』と呼ばれるモンスターだ。
三匹いるウサギのうちの一匹が、《火の術式》の餌食になっていた。
「今です!」
「まかせて」
夕映の合図に答えるのは、狩人の格好をした宮崎のどかだ。手に持つショートボウの狙いを、火達磨になっているウサギに定める。
「――ッ、そこ!」
弦のしなる音。
放たれた矢は、狙いたがわずウサギの頭部に当たった。
火達磨だった『森ウサギ』は、悲鳴を上げながら光の粒へと変わっていく。
「キシャァァァァァ!」
同胞の死に怒りを露にした残りの二匹が、歯をむき出しにして夕映とのどかに襲い掛かろうとする。
「《パリング》! ほいっと。通行止めだよ」
その進路を塞ぐように、早乙女ハルナが立ちはだかった。金属製の鎧に身を包み、手には盾を持っている。
ハルナの持つ盾が、一匹のウサギの攻撃を受け止める。
「ぐぅぅ、重い!」
衝撃にぐらつくハルナ。その隙を見逃さずにもう一匹が肉薄し、ハルナの腕と頬に切り傷を作る。
「痛ッ!」
「ハルナ!」
飛び散った血を見て、夕映は思わず声を上げた。
「まかしといてな」
負傷したハルナに近づく影がある。
大きな鞄をガサゴソと漁りながら走るのは、近衛木乃香だ。
手に持った薬品をハルナに投げ、「《キュアI》!」と声を出す。
それだけでハルナの傷はあっという間に塞がった。
「サンキュー、このか!」
ハルナは木乃香に礼を言いながら、右手に持った剣を盾の隙間から突き出した。
ウサギの腹を浅く抉る。二匹は形勢不利と見て、一旦間合いを取るが――。
「遅いです」
呟く夕映の両手にはそれぞれ二本の試験管。合計四本になるそれを、二匹のウサギに向けて放り投げた。
「《大爆炎の術式》!」
試験管同士がぶつかり合い、空中で大きな火になった。火は膨らみ、弾けた。
炎が三メートル程の円状に広がり、中の物体を焼いていく。
「ピギィィィィイイイ!」
二匹の悲鳴が木霊した。ブスブスと肉が焦げる臭いがしたと思ったら、ウサギ二体の体が耐えられなかったのだろう、光の粒となって消えていった。
そして間もなく火も消える。
「ふぅ」
夕映は額に流れる汗を拭った。
「お疲れ夕映。大活躍だったじゃん」
ハルナが夕映の背中を叩く。
「うんうん凄かったよ」
「ほんまやで」
のどかと木乃香がそれに頷く。
「ですが、かなり薬品を使ってしまいました。今後を考えると、少し心許ないですね」
先程の戦闘で、夕映は試験管を五本も使用していた。残りは六本程、同じペースで使い続ければ一、二度の戦闘で試験管が尽きる。
「そっかー。やっぱうちのパーティーは火力不足だねぇ」
ハルナは持っていた盾を地面に突き刺し、それによりかかる。
「あ、ドロップアイテムが出てる」
火が消えた場所に、歯の様な物が残っていた。『森ウサギ』が良く残す『小さな牙』だ。戻って組合なり商店で売れば金になる、いわば夕映達の生命線である。
のどかはドロップアイテムに近づき、素早く回収した。
「ほな、今日はもう戻らへん? 帰りの時間考えると、丁度いいと思うんや」
木乃香の提案に、ハルナものる。
「だねぇ。じゃ戻ろうか。『糸』使う?」
「駆け出しの私達には『糸』も高級品です。まだ余力があるなら、足で戻りましょう」
ハルナが取り出したのは『アリアドネの糸』。ギルド組合が提供している、迷宮探索必須のアイテムだ。
しかし、その価格は日本円にすれば十万円程となる。駆け出しパーティーの夕映達からすれば、それは温存したい代物だ。幸い、自分達がいるのは迷宮の地下三階。直通経路を辿れば、戦闘を考えても二時間ほどで地上へ戻れる算段だ。
「よし、方針も決まったし、行こうか」
ハルナの呼びかけに三人は「うん」と答える。
来た道を戻り出した仲間の背を追いながら、夕映はふと天井を見上げた。
「ほんとうに不思議ですね、ここは」
周囲はまるで森の様だ。夕映の頭上は鬱蒼と繁る木々に覆われているが、葉の隙間からは陽光が降り注いでる。鼻につく濃い緑の香り。
まるでどこかの森林地帯の様だが、ここはあくまで〝地下〟なのだ。
周囲の木々も、陽光も、全て麻帆良地下に突如現れた『迷宮』により作り出された代物だ。
この不思議で、凄惨で、無慈悲な場所にいながら、夕映の心は躍っていた。
元々ファンタジーやその手のフィクションには目が無い。それに――。
「やはりコレも関係しているのでしょうか?」
厳つい金属篭手――ガントレット――を裏返せば、自らの左手首にある緑の模様が見えた。
ある日を境に夕映達四人に刻まれた、左手首の文様。それは木のツルを描いたタトゥーにも思える。
このツルを持つ人を『魅入られた者』と言うらしい。
まさに『迷宮』に魅入られてしまったのだ。『魅入られた者』は迷宮がある都市から離れると強いストレスを感じる。また、迷宮探索への強い欲求を持つ事にもなる。
本来、只の学生であった夕映が、幾ら切っ掛けがあったとは言え、無防備にこんな危険な探索を始める分けが無い。ましてや命が掛かっていると考えればなおさらだ。
(おそらく、それもこの『呪い』のせいなのでしょうね)
夕映はギュッと拳を握りこむ。
例えどんな経緯だろうが、夕映はこの場所に心躍っているのだ。
見た事も無いモンスター、様々な罠、その先に眠る数々の宝。ここに日常は無い、変わりにそれ以外全てがあった。
ここは『世界樹の迷宮』。埼玉県麻帆良市に現れた、巨大な地下迷宮である。
あとがき
読んで頂きありがとうございます。
これは以前投稿した『The Game』のリメイクなんですが、以前の名残は欠片も残ってません。
そういえば世界樹の迷宮4が出るそうで。なんかタイミングが良いですね。
あと話ごとの時系列が多少前後してまして、冒頭の番号が時系列順になってます。本来一話分の話を、場面ごとに七分割しているので、話の長さにムラがあります。
全7話と短い話ですが、お付き合い願えたら嬉しいです。
少女達によるほのぼの迷宮探索ライフが始まったりします。