<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.29380の一覧
[0] 【習作】 アルケミストちさめ (千雨魔改造・チート・世界樹の迷宮モドキ・ネギま)[弁蛇眠](2012/03/03 20:50)
[1] 【一発ネタ】ネギまのラブコメ(オリ主・ネギまSS)[弁蛇眠](2011/09/18 20:56)
[2] アイアン・ステッチ (長谷川千雨魔改造)[弁蛇眠](2011/09/24 20:24)
[3] アイアン・ステッチ2~長谷川ジゴロ事件~[弁蛇眠](2011/09/24 20:34)
[4] 追憶の長谷川千雨 1 (千雨魔改造)[弁蛇眠](2011/09/21 00:54)
[5] 追憶の長谷川千雨 2[弁蛇眠](2011/09/27 22:48)
[6] 追憶の長谷川千雨 3[弁蛇眠](2011/12/07 14:44)
[7] ユー・タッチ・ミー(ネギま・夕映魔改造・百合・『追憶』続編)[弁蛇眠](2012/02/21 15:08)
[8] ユー・タッチ・ミー 2[弁蛇眠](2012/02/21 15:07)
[9] アルケミストちさめ 1(千雨魔改造・チート・世界樹の迷宮モドキ・ネギま)[弁蛇眠](2012/02/25 14:10)
[10] アルケミストちさめ 2[弁蛇眠](2012/02/25 14:05)
[11] アルケミストちさめ 3[弁蛇眠](2012/02/26 12:55)
[12] アルケミストちさめ 4[弁蛇眠](2012/02/28 13:51)
[13] アルケミストちさめ 5[弁蛇眠](2012/02/29 23:43)
[14] アルケミストちさめ 6[弁蛇眠](2012/03/04 01:46)
[15] アルケミストちさめ 7《完》[弁蛇眠](2012/03/03 20:49)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[29380] アイアン・ステッチ (長谷川千雨魔改造)
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/24 20:24
アイアン・ステッチ(長谷川千雨魔改造)

「はぁぁぁ~」
 長谷川千雨は背中を書架に預けながら、深い溜息を吐いた。
 尻餅を突き、大股に開いた膝の間に顔を沈める。
 顔を上に向ければ、上空を飛びまくる光線の数々。それが薄暗いこの図書館島の奥底で、光を散乱させていた。
 耳朶を叩くのは衝撃音。
 光は物にぶつかると、激しい音と共に弾けるのだ。
「一体何なんだよ……」
 千雨は今、光線の嵐を、どうにか書架をバリケードにする事で防いでいた。幸い、図書館島のこのフロアには、本棚が溢れていた。
 天井を見上げれば、おそらく二十メートル以上、三・四階建ての建物ならすっぽり入ってしまいそうな広大な空間に、押し込む様に本棚が散乱している。
 千雨はその書架の森の中に、身を潜めていた。
 這いつくばりながら、本棚の端から光線の根源を見てみると――。
「ははははは、さぁどうです! 早く出てこないと、色々大変ですよ~」
 手から光線を放っている人影が、空中にプカプカと浮かんでいた。頭をすっぽり覆うフードに仮面、そして足元まで伸びるコート。奇妙な格好をした人間だった。
 自称「仮面の司書」らしい。景気良く手から光線を放っているが、どうにも当てる気があるのかすら分からない。むしろ台詞といい、どこかわざとらしかった。
「もう! 一体なんなのよ、あのカメンシショは!」
 千雨の隣で憤慨する声が上がった。
 背中まで伸びる赤い髪を、左右で束ねている。可愛らしい容姿の少女であり、十四歳である千雨よりも年下だ。
 だが恐ろしい事に、彼女こそが千雨のクラスの担任教師なのだ。
「なぁ、アーニャ先生。さっさと逃げない?」
「逃げる? 何言ってるのよチサメ! そんな事出来るわけないじゃない!」
 アーニャがガミガミとわめき出したので、千雨は耳を塞いだ。
 相変わらず頭上には光が飛び交っていた。
「本当に……どうしてこうなったんだか……」



     ◆



 思い出されるのは一ヶ月ほど前。二月の寒い時期
 新しい担任が来るとのお達しにより、クラスは賑わっていた。
 あれやこれやと様々な予想がされてたが、その多くが外れる形で新任教師はやって来た。
「アンナ・ユーリエウナ・ココロウァです。これから皆さんの担任をやらせて貰います。よろしくお願いします」
 練習したのだろう、ぎこちない挨拶ではあったが、イントネーションなどは流暢な日本語で挨拶をした。
 ペコリとお辞儀をすると、少女の長い髪が宙を舞った。
 アンナ――自称アーニャはなんと十一歳のイギリスから来た少女であり、なおかつ担任教師であるという。
 クラスは一気に騒がしなり、可愛らしい容姿のアーニャは揉みくちゃにされた。
 そんな中、長谷川千雨一人だけは、呆れた様に事態を見つめていた。
「いや、おかしいだろ」
 そんなツッコミも、誰に聞かれること無く虚空に消えた。
(まぁ今更か……)
 そう思いながら、千雨は視線を窓の外に向けた。彼女にとって理不尽などは慣れっこであり、自分に害さえ無ければいいのだ。
 話を聞けば、どうやら一ヶ月だけの研修という形らしい。それを聞けば少し納得する。このクラスは飛び級の天才児の実験台になっているのだろう、と邪推した。
 ともかく、千雨にすれば一ヶ月だけの我慢だった。幸い落第する程の成績では無い。副担任に源先生が入るらしいので、致命的な授業の遅延にはならないだろう。
 だが、千雨にとっての不幸はアーニャが単なる天才児では無く、彼女が魔法使いであったという点であった。
「え……」
「あ……」
 それは不幸な遭遇であった。
 人目を避けて校舎裏で本を読もうとしていた千雨と、人気の無いところで子猫の怪我を治そうと杖を振るったアーニャとかち合ったのだ。
 最初は何かごっこ遊びでもしてるのかと思ったが、アーニャの杖先から飛び出した光が、子猫の傷をみるみる治している光景に、千雨は目を見張った。
「……」
 一瞬の沈黙。
 アーニャが魔法を使っている所を見てしまった千雨は、見ないふりをして逃げ出した。逃げ出したといっても、結果的にはある理由で逃げられなかったのだが。
 自室に戻った千雨は、魔法の事を忘れるために、自らの趣味であるコスプレに精を出していた。
 寮の自室で、フラッシュをガンガンに効かせてアニメのコスプレ姿を撮影する。
「ちうだよ~!」
 甘ったるい声でポージングをする。ちなみに「ちう」とは、千雨ののネットアイドル時のハンドルネームだ。
 そんな至福の時、唐突なノックと共に自室のドアが開かれた。鍵が掛かってたはずなのだが、相手は合鍵を貰っていたのだ。
「え……」
「あ……」
 ドアから出てきたのはアーニャ。千雨とアーニャは再び硬直した。
 アーニャはどうやら職員寮で無く、女子寮に住むらしい。学園長曰く「同世代の者と一緒の方がいいじゃろう」と気を使ったらしい。確かに十一歳の少女が、一人異国の部屋に住むともなれば寂しかろう。
 だが女子寮には一人部屋が無く、必然アーニャは誰かと相部屋となる。そこで白羽の矢が立ったのは千雨だった。
 なにしろ千雨は二人部屋を一人部屋で使っていた。その理由も色々あるのだが、割愛する。
 何はともあれ、千雨とアーニャはルームメイトという関係になってしまった。
 着替えた千雨はアーニャと向かい合い、お互いの現状を一つ一つ話しあっていく。そこには件の魔法の事もあった。
 半信半疑な千雨だったが、アーニャが言うにはどうやら本物らしい。
 お互い落ち着いて話をすると、どうやら魔法は秘匿する必要があるとの事。一般人に魔法がバレると処罰があるらしいのだ。
「いや、じゃあ処罰されてこいよ」
 と千雨は言ったのだが。
「う、うるさいわね! いい、もし魔法の事バラしたら、この写真もバラ撒いてやるんだから!」
「あ、あーーーー! その写真は!」
 アーニャの手には千雨のコスプレ写真があった。先程の撮影時に、机の上に置いてあったプリントアウトした写真である。
 アーニャも千雨にとってコスプレが趣味であり、なおかつウィークポイントであるのを、早速察したらしい。
「わ、わかった! 魔法の事は忘れよう、うん」
「そ、そうよね。それが一番だわ。私もこの写真の事は忘れてあげる」
 そう言いながらも、ポケットに写真をしまうアーニャだった。
 こうして二人はお互いの秘密を握り合う、云わば共闘関係になったのである。



     ◆



 その後も千雨にとっては苦難続きであった。
 幾ら天才とはいえ、まだ子供。浅慮とも思える魔法の使い方をして、その度に千雨が尻拭いで奔走した。
 さらに悪い事に、尻拭いをする度に、千雨は魔法へと深入りしていってしまったのだ。
 千雨としては余計な事を聞きたくないのだが、同室であり魔法を知っているのもいい事に、アーニャはペラペラと余計な事を喋りまくったのだ。
「私ね、ここに魔法使いの修行として来たの」
「本当は大学出てないんだ。飛び級は本当よ、でも魔法学校の事ね」
「ここって認識阻害、って魔法がかかってるみたい。変なの」
「私の幼馴染のガキんちょがいるんだけどね、そいつも今修行中なのよ。しかも生意気に私より一歳年下なのに、二年も飛び級してるのよ、もう!」
「この麻帆良ってね、魔法協会の――」
「だぁぁぁぁあ、うるせぇぇぇぇ!!!」
 ってな感じで、千雨は一般人のラインの崖っぷちに立たされていたのだ。
 そしてアーニャの研修期間の終わりも近づき、残るイベントは期末テストという時期に事件が起きたのだ。
「クラスメイトが行方不明!?」
 何やらクラスでもバカで有名な一部の人間達が消えたらしい。千雨としては「どうせろくでも無い事企んでるんだろう」とか思ってた。何しろ消えた面子が面子だ、神楽坂やら長瀬など大人顔向けの身体能力であり、攫われるなどという事はありそうも無かった。
 それに色々話を聞いてると、図書館島の地下に向かったらしいタレコミが出てくる。
「生徒に何かあったのかも、行かなきゃ!」
 そう言いながら、アーニャは立ち上がって千雨の襟首を掴んだ。
「ちょ! おま! 何で私も連れていくんだよ!」
「何よ、チサメ! 私一人行かせる気!」
「当たり前だろ、私は一般人だぞ!」
 アーニャは話を聞かず、ズルズルと千雨を引っ張っていく。どうにか引き離そうとするものの、アーニャは体格の割りに力がすごいのだ。後で聞いた話によれば、どうやら肉体を魔力で強化してるとか何とか。
 とにかく色々あって、千雨は行方不明の生徒捜索のために、図書館島の地下まで連れて行かれたのだ。
 地下一階で見つけたのは、神楽坂の生徒手帳。それに益々確信を深めたアーニャは、千雨を抱えながら、本当の意味で脱兎の如く、図書館島を力の限り駆け抜けたのだ。
「ももももも、もっと、ゆゆゆゆゆゆっくりははは走れ!」
 肩に担がれた千雨は、ガクガクと絶え間ない震動に、喋る事すらままならない。
「え、何か言った?」
 対してアーニャは走る事に夢中で、千雨の事など気にしない。
 そんなこんなで、二人は巨大なアスレチックの様な図書館島を奥深くまでやって来たのだ。
 二人を出迎えたのは、空中に浮かぶ人影。自らを「仮面の司書」と呼ぶ、謎の人間だった。
「ふふふふふふふ、あなたの生徒は私が預かっています。返してほしければ、私を倒す事です」
 そんな事をのたまいつつ、仮面の司書は手から光線を放ったのだ。そして冒頭へと繋がる。


     ◆



 二人は相変わらず、書架を背に座り込んでいた。
「何なのよ、この魔法の矢の量は!」
 アーニャの言葉で、千雨はこの光線が魔法らしい事を知った。
「邪魔で近づけないじゃない!」
 アーニャは千雨の横でグチグチと文句を言い続けている。
 千雨はそんな中、どこか他人事といった感じで周囲を観察していた。
(あの魔法の矢だっけ、やっぱりなんかおかしいぞ)
 魔法の矢は壁や本棚にぶつかると、激しい音と光を放ったが、実際はそれだけだった。
 傷が無い――とまでは言わないが、せいぜい小さな傷がつくくらい。見た目よりもずっと威力が低そうだ。
(なんでこんな事してるんだ。あのわざとらしい台詞。確かアーニャ先生の目的って魔法使いの修行。もしかして――いや、考えるまい。これ以上首なんてつっこみたくないし)
 なんとなく仕掛けが分かった気がするが、千雨はそれを忘れようとする。
「こうなったらやるわよ千雨。私も嫌だけど、これしか無いわ」
「これって何だよ」
「仮契約(パクティオー)よ!」
「ぱ、ぱくてぃおー?」
 頭に疑問符を浮かべる千雨に対し、アーニャは簡単に説明する。
 要は魔法使いにとっての弱点となる詠唱をサポートするため、前衛となって守る人間と主従な契約をして、相互的に力を高めましょうよ、って事らしい。
 RPGゲームも嗜む千雨としては、おおよそ理解が出来た。
「つまりなんだ。私に戦士やらモンクやらみたいに戦えってーのか。無理! 絶対に無理!」
「それぐらい分かってるわよ。千雨の運動音痴っぷりは担任として知ってるわ。そうじゃなくて、ここで重要なのがあの魔法の矢なの」
 アーニャは頭上を指差す。未だに魔法の矢は途切れなく放たれ続けていた。
「私の得意技ってのはね、魔法を使った近接格闘なのよ。そうなると相手に近づかなきゃいけない。でもあれじゃ無理でしょ。だから――」
「だから?」
「チサメに囮になって貰おうかと」
 その瞬間、千雨はアーニャの頭を殴りつけた。
「ば、バカか! お前先生のくせに、何平気に生徒を囮にしようとしてるんだよ!」
「だってしょうがないでしょ! それに仮契約をするのはチサメを守るためなのよ!」
 話を聞くと、仮契約とやらをすれば魔力で体を守れるらしい。
「守るたって、それで私があの魔法の嵐の中を走れと。無理に決まってるだろう!」
「……でも、このままでどうすんのよ。これじゃあいつまで経っても終わらないじゃない。それにチサメ、今日見たい深夜あにめ、ってのがあるんでしょ」
「うっ……」
 千雨は言葉に詰まった。確かに今日、見たいアニメがあったのだ。ナイターの延長などで、放映時間が分からなかったため、予約録画もしていない。そう、早く帰って録画をせねば、今日のアニメを見損なう。
 千雨は意を決した。
「わ、わかったよ。その仮契約とやらする。『仮』って付いてるんだから、解除もできるんだろ」
「う、うん。そのはずよ、たぶん」
 アーニャはコクコクと頷きながら、ウェストポーチの中をガサガサと漁った。彼女のポーチの中には、魔法使いらしい気味の悪いものが沢山入っているのを、千雨は知っていた。
「あった!」
 アーニャが取り出したのは一本のチョークだった。
 チョークを持ったまま、魔法の矢に当たらないように背を低くしつつ立ち上がる。そして手に持ったチョークを地面に叩きつけた。
「おぉ!」
 千雨も思わず声を漏らした。
 アーニャの砕いたチョークは光を放ちながら、床に魔方陣を自動的に描いていく。円形の魔方陣はあっという間に書きあがり、淡い光が灯っていた。
「ほら、チサメ。入って」
「あぁ……」
 千雨は淡く光る魔方陣に、おそるおそるといった様に入った。
 そこで顔を赤らめたアーニャがコホンと一つ咳をする。
「えーと、じゃあ契約をするから。チサメ、目をつぶってて」
「ん? こうか?」
 アーニャの態度を訝しく思いつつ、千雨は目をつぶった。
「……」
 沈黙。アーニャからは魔法の詠唱も何も聞こえない。邪魔をするのも悪いと思い、千雨は目をつぶり続けてた。
 数秒ほど経った時、目の前の気配に動きがあり――。
「むぐっ!」
「~~~~~~~っ!」
 唇に感触。
 千雨は思わず目を開けば、アーニャの顔が目前にあった。
 千雨の唇と、アーニャの唇が重なっている。
 魔方陣の光がより強くなり、二人を包み込んだ。
「ぷ、ぷはぁ!」
 千雨はアーニャの体を跳ね除け、ぺっぺっと唾を吐いた。
「お、おいクソガキ! 何て事しやがるんだ!」
 さすがの千雨も顔を真っ赤にして起こっていた。
 対してアーニャも顔面を赤くして、涙目を浮かんでいた。
「な、何よ! 私だってファーストキスだったのよ! う、う~~~、幾ら自分で言ったからって、何で千雨にキスなんか……」
「それはこっちの台詞だ!」
 二人はおでこを突きつけあって唸りあってたが、やや冷静になれば馬鹿らしくなり、止めた。
「あぁ、もういいや。蚊に刺されたと思って忘れるよ」
「そうね、忘れましょ」
 そうして二人揃って溜息。
「ともかく、これでさっさと帰れるんだろ」
「うん、大丈夫。このアーニャに任せなさい!」
 アーニャはそう言いながら、手に何かカードを持っていた。
 カードの表面にはメガネをかけた千雨の姿が描かれている。それがどうやら仮契約の証の様だった。
「このカードを通して、チサメに魔力を送るわ。そうすればチサメも超人ばりの動きが出来るはずよ」
「へぇへぇ……」
 幾らおだてられても、千雨はこれから弾幕の嵐を走って、相手の攻撃を引き寄せねばならないのだ。気も重くなった。
 一応、魔法の矢がさほどの威力じゃない事も理解してたが、それでもあの中に入って行くのは気が引ける。
「いい、チサメ。あなたが飛び出した瞬間から魔力を送るから、そうしたら一心不乱に走ってね」
「あぁ、せいぜい頑張るさ」
 なにせアニメが掛かってるからな、とは言わない。
 アーニャと合図をし終わった後、千雨は書架の影から飛び出した。その姿が仮面の司書の射線上に入り、千雨に向けて魔法の矢が次々と放たれていく。
「契約執行15秒間! アーニャの従者『長谷川千雨』!」
 アーニャの詠唱と共に、千雨の体に熱いものが入ってきた。
 そして――。
「え? え? え? な、何だよこれぇぇぇぇ!」
 千雨が絶叫を上げて立ち止まってしまった。
 魔法の矢はすぐ近くまで迫っている。
「ちょ、何やってるのよ!」
 アーニャはそういうが、千雨は自らの左腕を、右手で押さえている。
「う、腕がぁぁぁ、腕が勝手に疼くんだぁぁぁぁぁ!」
「はぁ?」
 千雨がもじもじと体を捻りながら、必死に暴れる左腕を押さえようとしている。その姿は中学生特有の病気を発症した様な姿だった。
 そのまま左腕を押さえようと動いてたら、魔法の矢が千雨に直撃しそうになる。その時。
「うあぁぁぁぁぁぁぁl!」
 蠢いてた千雨の左腕、その手の平から細い光が飛び出した。魔力のレーザーともいえるそれは、直撃間近だった魔法の矢を破壊し、そのまま仮面の司書へと突き刺さる。
「へ?」
 手からレーザーが出たおかげで、どこかスッキリとした千雨は、もじもじと体を動かすのをやめていた。
 仮面の司書の顔面にレーザーがあたり、その仮面を破壊するのを、呆然と見ていた。
 仮面が割れた途端、仮面の使者は「あ~れ~」と言いながら落ちていく。負けっぷりまでわざとらしかったのだが――。
「や、やったぁ! チサメ、私達の勝利よ! さすが私達ね!」
「え、これって勝ったの?」
 アーニャには充分だったらしい。
 なんだか意味が分からなく、千雨はただただ呆然とするばかりだった。
 仮面の司書は「彼女らが監禁されているのは、そこの角を曲がった所にある階段の先です。ちなみに途中に鍵も置いてあります。ぐあ~」とか、説明台詞を吐きながら消えていった。
 その後、仮面の司書の通りの場所に向かうと、南国ビーチの様な場所に辿り着き、そこで勉強している行方不明者達を見つけ、一緒に地上へ出る事となった。



     ◆



「なるほどね」
 女子寮の部屋に戻った千雨は、即座にアニメの予約をして一息入れた。
 そこへ、学園長などに連絡し終わったアーニャが戻ってきて、なぜか千雨の身体検査をする事になったのだ。
「なにが「なるほど」なんだよ」
「決まってるでしょ。例のレーザーよ、レーザー」
 千雨ももちろん覚えている。数時間前に、自分の手の平から放たれた、不思議な光線。今は暫定的に『レーザー』と呼んでいた。
「でね、今千雨の体をザっと見て、その正体が分かったの」
「え、分かったのか」
「うん。なにせ私だからね~」
 フフン、と偉そうにアーニャは鼻息を荒くした。
「はいはい、天才乙。んで、どうしてなんだよ」
「ふふふ、教えてあげるわ。ずばりチサメ、あなたの体は――」
 千雨は多少緊張した。
「魔力経路が細いのよ! それも洒落にならないくらい!」
「ふーん……」
 良く分からなかったので、千雨のテンションは一気に落ちた。
「え、もっと驚きなさいよ!」
「いや、驚けつっても、意味分からないし……」
 そこでアーニャは図を書いたりしながら、色々と説明し出した。
 要点を言えば、魔力を体に通す経路、つまり魔力にとっての血管の様なものが、千雨は極端に細いのだという。
 そして、そんな中にアーニャの潤沢な魔力が注ぎ込まれてしまい、本来なら千雨の魔力経路はズタズタになるはずだったらしい。
「こ、恐いこというな!」
「いや、ほら。チサメ、あの時もじもじしてたでしょ。たぶんあれ、魔力が注ぎ込まれて、体中の経路に負担が掛かってたのよ」
 だが、なぜか持ちこたえてしまった千雨の魔力経路は、どうにかアーニャの魔力を押さえ込んだらしいが、おかげでとんでもない密度に魔力が圧縮されたという。
「そう、私不思議に思ったのよね。あれだけの威力がありながらも、魔法っぽく無いんだもん。あのレーザーって、恐らく密度の高い魔力を、そのまま放り投げただけよ」
 圧縮された魔力が、千雨の左腕に集まり、最終的には手の平から発射される。それが一連のプロセスの様だった。
「チサメ、確か左利きでしょ。だから左手から発射されたんだと思う。魔法って手の平から出すことが多いのは、普通に生活していく上で手を使う機会が多いからなの。そうすると自然に手の平、特に利き腕側に魔力経路の出口が出来上がっちゃうの」
 アーニャの長々とした解説を聞き、千雨は今日何度目になるか分からない溜息を吐く。
「リアル邪気眼かよ……」
「ジャキガン? 何それ」
 アーニャはさっぱり分からないという表情をしていた。
「でもチサメってレアね~。驚くべき魔力の少なさよ」
「私ってそんなに少ないのか?」
「うーん、正直あんまり気にしてなかったんだけど、改めて見るととんでもなく少ないわよ。一般人を10とすると、チサメは1くらい。私は大体200の前後って所かしら」
 余りの少なさに、千雨は唖然とする。
「普通はね、少ないっていっても5~6前後あるのは当たり前なの。なにせ生物には多かれ少なかれ魔力ってのが必要だから。でも1前後ってのは前代未聞かもね。ある意味すごい才能よ。絶対に魔法使いになれないわ」
「なりたかねーよ!」
 馬鹿にされている様で、千雨は悪態をついた。
「うーんでも、これで千雨が認識阻害にかかり難いのも分かったかも。体内にある魔力って、多かれ少なかれ魔法の行使に影響があるのよ。千雨が認識阻害にかかり難いのは、魔力が少なすぎるからね」
 そんな事をアーニャは得意気にいってたが、千雨は心底どうでも良かった。
 ただ、ほんの少し、ほんの少しだけ憧れていた『リアル魔法少女』の道が完全に閉ざされた事だけを知った。



     ◆



「あとこれ渡しておくわね」
「あ、これって例のカード」
 アーニャに渡されたのは一枚のカード。カードは二枚あり、マスター用と従者用らしい。
 そしてこのカードがあれば、お互い念話とやらが出来るとの事。
「電話代がかからない携帯電話か。ネットは出来ないのか?」
「出来るわけないでしょ!」
 更に、このカードを使って『アデアット』と言えば、なんと魔法の道具『アーティファクト』という物が出るとの事。
「おぉ! すげぇじゃん!」
 千雨もちょっとわくわくし出した。
「よし、『アデアット』!」
 ポワン、という音と共に、カードが姿を変えた。
 現れたのは、フチ無しのメガネだった。
「え……メガネ?」
 千雨はメガネといえど、なんかすごい能力があるのじゃないかと、色々見たが、やはりメガネにしか見えない。
 もう一枚のカードの表記を色々見ていたアーニャが突如噴出した。
「ぷっ! プハハハハハ! チサメ、さすがね」
 アーニャはベッドに倒れながら、お腹を抱えて笑っている。
「お、おい! 一体何がおかしいんだよ!」
「ぷふふふ、そのアーティファクトの名前はね『悠久で健やかなる眼鏡(がんきょう)』っていうの」
「おぉぉ、なんか凄そうな名前だな」
 アーニャは目尻に溜めた涙を指ですくいながら、説明を続ける。
「まず、そのメガネをかけた後、右耳の上辺りのフレームを擦ってみて」
 千雨はいそいそとメガネをかけて、アーニャの言うとおりにした。
「おぉぉぉ、すげーー! ズームになるぞ!」
「で、あと左耳の上を擦れば元に戻るわ」
「おぉぉぉ、本当だ! ……で?」
 千雨は先を促した。
「えーとね、確か、フレームから溢れる魔力で、首元の筋肉やら肩をほぐす効果があって、首コリ肩コリにならないらしいわ」
「おぉ、それもすごいな! ……で?」
「うん、それだけ」
 千雨はそのまま地面に突っ伏した。
「ちょ、ちょっと待てよ! アーティファクトとか言うからさ、なんかすげーの想像したら、単なる健康メガネじゃねーか!」
 千雨はアーニャににじり寄って文句を言う。
「だって仕方ないでしょ。仮契約なんてほとんどノーリスクなのよ。それなのにすごいアーティファクトなんて出るわけないじゃない」
「う……」
 千雨とてこのメガネをタダで貰ったのだ。確かに文句を言う筋合いは無いかもしれない。
 ちなみにメガネのズームの倍率は、三世代くらい前のデジカメレベルである。
「そのアーティファクトも、魔法の教科書に出てくる代表的なアーティファクトよ。大体仮契約って、ノーリスクな上に、制約もほとんど無いのよ。だから一人で十人と契約なんて事が簡単に出来ちゃうの。そんな中ですんごいアーティファクトが容易に出てきたら大変でしょ。悪いやつが使えば、インスタントで兵士が沢山作れちゃうじゃない」
 千雨としても、それには納得が出来た。
 アーニャが言うには、仮に十人のグループがあり、十人が片っ端から仮契約を結んでいけば、グループ内で各自九個ものアーティファクトが貰える計算になる。そして、その九個の中に一つでもすごいアーティファクトがあれば、様々な悪い事が出来るだろう、と。何より仮契約は「誰でも出来る」のだ。もちろん、魔法使いが一人でもいればの話だが。まさに無尽蔵に兵器を量産出来るといっても過言じゃない。
「わけわかんねぇな、ファンタジーは」
「まぁそんなわけで制限かけられてるのよ。ある程度の実力者がやらないと、ロクなの出てこないわよ。一応、主従の資質なんかも関係あるらしいけど、チサメじゃあねぇ~」
 ニヒヒ、と笑うアーニャ。
「いや、主従って言ったらお前も含まれてるだろう」
「う……」
 お互い固まる。
 そして――。
「ネットでもやるか……」
「私お風呂はーいろ」
 千雨はパソコンに向かい、起動ボタンを押す。対してアーニャはお風呂セットを持って部屋から出た。部屋にも備え付けのシャワーがあるが、アーニャは最近大浴場がお気に入りだった。
 二人ともアーティファクトは気にしない事にした様だ。
 しかし、千雨はふとアーティファクトのメガネを持ち上げると、手の平に置いてじっと見つめた。
「へへ、でも魔法の道具か~」
 ニヘラ、と笑う。どうやらなんだかんだ言いつつ、アーティファクトは嬉しかったようだ。
 だが、千雨は知らない。
 自分が一般人の崖っぷちから一歩を踏み出してしまった事を。
 新学年になってもアーニャが本当の担任になり、麻帆良にいる事を。
 春先に、吸血鬼エヴァンジェリンが自らの呪いからの開放を賭けて、麻帆良に存在する魔法使い全員に果たし状を送りつけた戦い『大停電バトルロワイヤル』に巻き込まれる事を。
 一学期の中盤に修学旅行で京都に行き、旅館の風呂でアーニャが間違って持ってきた惚れ薬をかぶり、クラス全員と仮契約するはめになる『長谷川ジゴロ事件』を巻き起こす事を。
 そして、京都で鬼神リョウメンスクナノカミが現れ、それに対抗するために奈良の大仏の封印を解き、京都全域を炎上させる『大仏VS鬼神、京都炎上事件』の中心にいる事を。
 一学期終盤の文化祭で、未来人超鈴音の計画に巻き込まれ、鬼神の呪いにより、アーニャと二人で幕末の京都にタイムスリップする事を。
 そこで明治維新の手伝いをしつつ、炎上する京都で再び鬼神と対峙する事を。
 長谷川千雨はこの時点でまったく知らなかったのだ。



 つづかない。





あとがき

 「千雨の世界」の合間に書いてみた、千雨魔改造です。
 邪気眼兼サイコガンで魔改造です。ヒュー。
 もちろん続きません。
 感想をひっそりと待ってます。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026468992233276