枕元には、馬鹿たちがたくさんいた。
暖かな布団に包まれた彼は、自分を取り囲むように顔を突き合わせている連中を見て小さく苦笑する。どいつもこいつも、辛気臭い表情ばかりだ。せっかくの旅立ちなのだから、一人くらい笑って見送ってくれてもいいだろうに。
そう思っていたら全員笑いだした。きっとこちらの考えていることなど筒抜けだったのだろうが、いざ笑われると何故か非常に腹立たしい。いやいや、仮にも死出の道を歩もうとしている友人の前で笑うなよ、常識的に考えて。
「でも、そっちの方がお前はいいんだろう?」
まあ、そうなのだが。そいつらは苦笑してこちらを見ている。彼は腕を伸ばした。長い年月を経たとは思えぬほど瑞々しく張りのある肌だ。きっとその気になればもう数百年くらいはこの色合いを失わずに済んだろう。もっとも、そんな気持ちはもはやない。
「じゃあ、また」
また。今更そんな言葉をかけてくる友人共に彼はつられるように苦笑した。そんなことはもうないと言うのに。
でも。もしも。もしまた出会えるとするならば。その機会を得られるというのならば。
もう一度まみえるのも、悪くはない。
「いつかまた、どこかで」
かすれた声でそれを呟き。彼は静かにまぶたを閉じた。