熹平元年 二月 中旬(晴れ)
鮮卑の基本戦術は弓騎兵が退却&騎射を繰り返して歩兵を混乱させて突っ込む。
ようするに相手の射程外からフルぼっこにして出てきたら逃げる。退いたらまた射程外からフルぼっこして…なんて感じで相手の射程外から攻撃し続ける。
弓がマスケット銃に変わったりしたがぶっちゃけこの戦術は近代兵器が出来るまで無敵。
それに馬の性能が違うから漢産の馬では基本的に追い付けない。
もし、相手が準備を整えたら違う所を攻める。金がかかるし、訓練時間も馬鹿みたいにかかる騎兵の長所は戦場の選択権、相手に合わせる必要がない。
相手に優秀な将軍が居ると陽動に伏兵等を使うので対応が非常に難しい。
救いはチンギスハーンのような攻城兵器無双がない事。
チンギスハーンは漢の攻城兵器を学び、それに騎射戦術を組み込んで城を攻略して行ったが今の鮮卑は統率のとれた騎馬部隊というだけで、防城戦でならなんとか戦える。
いい材料がこれしかない。
そんな鮮卑に対策する為の西園軍の軍師殿の策は……
「西園の兵をすべて騎兵にします。」
とか言うものだった。
「分かっているだろうが一万の軍馬を用意することは不可能だ。」
とりあえず、金がないから無理。
「はい、存じております。軍馬用で無くても、一般の馬でもよいのです。軍馬用に鍛えられた馬は1頭辺り約10000銭程掛かりますが一般の馬なら3000銭で済みます。」
当初の予定では軍馬は千用意して一千万銭位かかる。
軍馬用の質の高い馬ではなく、安い普通の馬なら三百万で済む。
しかし、
「んっ?それでは、練度に問題があるのではないか?それに今から騎馬兵にする為には訓練時間がかかりすぎる。」
「陛下の考えた鐙があります。あれで短期間の訓練で、戦う事は出来なくても馬に乗る事が出来るようになりました。目的は部隊の移動速度を上げる事で…」
竜騎士隊か~。構想がそのまんま…
馬で戦うわけじゃなくてただ運ぶだけが目的。
戦うときは降りる。
皇甫規さんにでも聞いておこう。
漢三将とか呼ばれているがどちらかと言えば軍師タイプなのでこういうときは本当に頼りになる。
「皇甫規、どう思う?専門家の意見を聞きたい。」
「主要都市に集中して兵を配置。他の地域は馬防柵を作らせ、部隊が到着するまで持ちこたえる事で対応する。そうして時間を稼いでいき、水利灌漑を進めて川を挟む事で騎馬の性能を生かせないようにする。これが主な戦略です。部隊到着時間が早くなるという面では優れていますが…」
しかし、と続ける。
「馬の管理等、運用が非常に難しくなりますし、国庫の負担を考えても…」
遠征の際に軍の三分の二を現地に連れていければ優将。
兵糧の管理等をおこないつつ敵襲に備え、大人数を移動させると言うのは非常に難しい。
それだけの人材を鮮卑対策に多く使ってしまうと、地方を統治する優秀な役人が少なくなってしまう。
さらに馬の飼料は一万で人間の兵の十万に匹敵するだけの穀物が必要。
屯田しているとはいえ、慢性的な食料不足に悩む漢としてはかなり勇気のいる決断になる。
まとめるとこんな感じか?
とりあえず、試験的にやらせてみる事にするかな?
「鮮卑に手こずってる所を狙ったのか黒山賊の動きが活発となっているらしい。馬1000頭を用意させる。これで一定の結果を出してみろ。黒山に通用しなければ練度の勝る鮮卑にも通じない。」
「ありがとうございます。」
と言って頭を下げてくるんだけど、顔を見るとなんか怒ってるっぽいんだが…
もとからか?もとからなのか?
熹平元年 二月 下旬(曇り)
金、金、金、本当に役人とかリストラしてえ…
人件費が多すぎるんだよ。
こんなにいらねえだろ。
二千石級の地位を増やす為に~国属国とか作ったりしてるし、もはや県単位の人口しか居ない郡もある。
それをくっつけてどうにもならないものか?
なんで人口が3倍になったって事で役人を6倍に増やすんだ?
しかも人口減っても役人を減らさない。管理職は増やす。
人件費が痛い。
豪族も領地を奪うんじゃなくて開拓してくれよ。
あとちゃんと管理してくれ。
お前らが管理サボると下流の人たちまで影響が出てくる事を分かってくれ。
上流で荒れ地になるとなんかよくわからないが塩が流れてくるようになって下流の食物にまで影響するらしい。
なんて邪魔なんだ。
これ以上足を引っ張らないでくれ。300円あげるから
【ある宦官の孫の話】
「主人は留守です。」
とある私塾を訪ねる少女が居た。
その少女は官僚となる為の勉強をする為に、そして才能を認めてもらい官僚へ推挙して貰う為に。
「なっ!さっき入っていくのを見たわよ!」
「留守です。」
そう言い残すと同時に門を閉められた。
これで十を超える私塾から話すら聞いてもらえず、締め出されていた。
彼女の祖父は宦官であり、彼女は贅閹の遺醜と呼ばれた。
血縁関係を重視する儒教社会でタブーな存在。
宦官勢力が朝廷から一掃された時、官僚育成機関の太学に入門する事さえ拒否されるようになった。
太学の入門条件は
18才以上で、太常から選ばれたもの。
郡大守・国相が可としたもの。
六百石以上の官吏の子弟。
の三つだが、意外にゆるく、お金さえあれば誰でも入れる。
しかし、宦官の孫を推薦すると言うのは宦官を嫌う者を敵に回すと言う事で、そんな事をしてくれる者は居なかった。
私塾という手もあるが党固の禁を喰らって野に散らばっていた優秀な士大夫を李膺が集めていた為に高名な者で残っている者はほとんど居ない。
官僚になれないどころか、勉強すらできないのが彼女の現状であった。
「春蘭、秋蘭。あなた達まで私に付き合わなくてもいいのよ?あなた達ならもっと将来性のある者に仕える事も出来るわ。」
少女は従者の二人に言う。
自分はそこら辺の子供よりも出世する可能性がない。
与えられるもののない主人を見限る事は当たり前な事だと心に言い聞かせた。
「この五体と魂、全て華琳様の物です!他の者に仕えることなどありえません!!」
黒髪の少女が声を張り上げて宣言し…
「私も姉者と同じく華琳様以外に仕える気などありません。」
青髪の少女もそれに続いた。
「……私がどうかしていたみたいね。例え一兵卒から成り上がってでも私をコケにしてくれた者を見返すくらい上の地位に立ってみせる。そしてあなた達が誇れる主になる事をここに誓うわ。付いて来てくれるかしら?」
「「はい!!」」
その夜…
「そう言えば、皇帝が身分に関係なく入る事が出来る学問所を作ったそうですが…」
青髪の女性が噂話を口にした。
どうせ形式上のものになるだろうとは思っていたが一応話しておこうと…
「ふん、もし華琳様が入れないようなら教師全員皆殺しだ!あ、あ~ん、かりんさまぁ~」
劉宏にとって一番使いにくく、影響をもたらす事になる臣下が生まれることになるが、この時は誰も知らなかった。
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*百合……血縁関係を重視する儒教社会において禁じられた関係の一つ。
子供を産めない宦官は化物扱いされる…
*贅閹の遺醜…正史曹操のニックネーム。
*劉宏…霊帝の名前だよ。
ここで性格改変して気弱っ子華琳ちゃんにしようか非常に迷いましたが(本当に)、やはりドSのイメージが強かったので、撲殺酷吏・華琳ちゃん√に…
そういえば主人公の名前を出した事なかった。
9話まで名前がない主人公って……
そういえば真名も書いてなかった。
題名詐欺と言われてもしょうがないかもしれないw
今回は曹操を書きたかっただけでした!
*デフレが起きてるという設定にしたので馬の価格の桁を一つ減らしました。