第七話
流星街に捨てられて(落とされて)、二日経った。
俺はいまだ布きれを纏った状態で一人で過ごしている……。
何でだ? 流星街は全てを受け入れるんじゃなかったのか!?
どうして誰も俺を拾ってくれないんだ? 誰も彼もが俺を見た瞬間に脱兎の如く逃げ出していく……。
いや分かってる。明らかに俺のオーラの所為だろう……いくらここの住人でもここまで不気味な赤ん坊は嫌か……。
中には俺に爆弾を投げてきた奴もいたくらいだ……オーラの放出で爆発する前に弾いたがな!
……そしたら誰もこの辺りに来なくなってしまった。
くそっ! 絶をしていれば良かったのか?! しかしそれだとこの明らかにやばめのガスが出ている極悪環境で生身で過ごすという事になる。生後数時間の赤子にそれは無茶というものだ……。
この極悪環境を生き延びたらそら強い念能力者も育ちそうだわ……何だっけか、あのなんたらの集団?
はぁ、暇だ。何もしないまま転がり続けるのは苦痛だな。念の修行はこんな状態で出来るわけがない。出来なくもないが、オーラの消耗=生命エネルギーの消耗だ。なにが悲しくて生後二日で自殺せにゃならんのだ。
……【原作知識/オリシュノトクテン】でも使って暇を潰そう。これぐらいの消費なら微々たるものだしな。
……あれ? 発動しない。何でだ? 【絶対遵守/ギアス】は解除されているはずだ!誰かの操作能力も受けていない! 使用に問題はないはずだ!
……もしかして転生したことで前世の発を使用できなくなった? いや、脳が違うから原記憶に原作知識がない状態だとか?
……有りうるな。
はあ、使えないのは痛いが仕方ない。それはともかくこのままじゃヤバイ。いくら念が使えるからとはいえ基本は身体だ。飯も水も無しで長く持つわけがない。いい加減意識が朦朧としている……。
誰か来てくれ……ん? 円に反応有り! 誰か来た! これが最後のチャンスだ。必死でオーラを抑える。
絶は嫌だが四の五の言ってはいられない。このままでは衰弱死してしまうんだ。何かに感染してでも生き延びる可能性が高い方を取るしかない!
お願いだ。ここに居るのは念が使えて前世の記憶を持っててちょっと禍々しくも膨大なオーラを持ってるだけの無害な可愛い赤ちゃんだよ!
誰でもいいから拾って下さいな。ご恩は必ず返しますぜ旦那ぁ!!
◆
最近ここ流星街で妙な噂を耳にする。
何でも空高くから降ってきたという赤子の噂だ。その赤子は空から落ちてきても無傷で地に降りたと言う。
赤子が空から降って無傷で着地などと何を馬鹿なことを、と初めは一笑にしていたが、どうも様子がおかしい。
ここは流星街。この世の何を捨ててもここの住人は受け入れる。
なのにその赤子はいまだに落下した場所に放置されてるらしい。
回収班が幾度かその赤子を回収しようとしたみたいだが、赤子が放つと言われている不気味な力に恐怖してその場から逃げ出しているそうだ。
中にはあまりの恐怖に錯乱して、その赤子に向かって爆弾を投げた奴もいたそうだが、爆弾は赤子に当たる数m前に明後日の方角へと弾かれてしまい、その赤子は無傷だったとか……。
有り得ん。その様な赤子がどこにいると言うんだ?
……もしや、何者かの念が生み出した念獣の類か?
面白そうだ。少し見てみるとしよう。
……何だこれは? 問題の赤子のいる地域に来たところ、信じられんものを見た。
円だ。それも果てしなく広い……。中心を考えると1㎞弱の範囲の円だ。
これを産まれたての赤子がしているだと? ますます有り得ん……。
どうする? この円に触れてみるか……?
……行ってみるか。これが本当に赤子なら拾って育てれば面白いことになりそうだ。欲しいと思ったものは手に入れる。それが俺たちだ。
噂が本当なら今までに回収班に被害が出たという話は聞いていないしな。存外無害な存在かもしれん。
一歩足を踏み出し、円に触れる……化け物か?
想像だにしたことのないほどのオーラが俺を襲う。こんな不気味な質のオーラは初めてだ。円だというのにウボォーさんの錬に匹敵するかの様な密度……!
身体が硬直し、わずか一歩で歩みが止まる……。
……?? 円が、解除された……?
何故? 俺が円の領域に足を踏み入れたからか?
何故? 俺を誘っているというのか?
どうする? 乗るか、反るか……。
このまま虚仮にされたまま引き下がることは出来ない、な。
挑発に乗り、足を前へと進める。
瓦礫の上に立ち、500mほど離れた場所から円の中心と思わしき場所を見つめる。
いた。本当に赤子だ。生後一週間も経ってないほどか?
もし産まれた時からあのようなオーラをはなっていたのなら、ここに捨てられるのも納得のいく話だ。
しかも、今のあいつは絶をしている。俺が円に触れた後に絶をする。……自我を持っている証拠に他ならない!
自我を持ち、念を操り、膨大で異質なオーラを持つ赤子?
化け物以外の何がある……!
……! 眼が合った!間違いなくこちらを見て、笑った!
あいつの笑みを見た瞬間。俺はホームへ向かって駆け出していた……。
仲間には言っておかなくてはならないな。ここには足を踏み入れるな、と。
◆
何か500mほど離れた場所から視線を感じる。
おお、先ほどの人が来てくれたか!
ほぅら、こんなに可愛い赤ちゃんだよ~。無害だよ~。怖くないよ~。
どんな人が来てるのかな? 眼も見えるようになったし、ちょいと確認してみよう。
さすがにまだ視力は低いから、凝で視力強化してっと。おっと、念のため隠も使ってオーラを見えにくくしておこう。
おお!? ……何というイケメン少年。歳は12,3くらいか? くそ! 腹ただしい程のイケメン度だ!!
いかんいかん。あのイケメン少年は俺の義父になる人だ。笑顔でアピールしなきゃな。
ちょっ!? 待てよ! 何だあのスピード! 凄まじい勢いで逃げ出したぞあのガキ!!
脱兎なんてもんじゃねぇ! もはやロケットの領域だったわ!
待って! 行かないで! 私の何がいけないと言うの!?
……駄目だ、円の範囲外に出られた。
さらに一日が経ったか……?
も、もう無理だ……。いい加減限界だ。体力が尽きる……。
赤ん坊でここまで持てばいいほうだろう……。
あれ以来誰もここを訪れない……何度か円をするがネズミ一匹いやしない。いや、最初はいたけど一度円をしたらこの付近から綺麗さっぱりいなくなった……。
このままここで朽ち果てるのか……?
嫌だ! せっかく生まれ変わったんだ! 第二の人生を謳歌しないまま死にたくない!!
こんなことならあのままリュウショウとして死んで消滅した方がよっぽどマシだった!!
これでは、ただミシャさんを、母さんを犠牲にしただけじゃないか……!!
誰か、誰か助けてくれぇぇぇぇ!!!!!!!
【偉大なる母の愛/グレイトフル・マザー】発動
「大丈夫よ、私の可愛い子。あなたはお母さんが守ってあげるからね」
………は? どゆこと? 何があったの??? 何で俺美人さんに優しく抱かれてるの?
あれ? なんか、すごい安心するんですけど……?
なんぞこれ???
念能力説明
【偉大なる母の愛/グレイトフル・マザー】
・具現化系能力
念に目覚めたがオーラを留める事が出来ずに死んだ母親の我が子を想う強い気持ちが作り出した自身を模した念獣。
その身からは禍々しい死者のオーラをはなっているが、我が子には安心感を与える。
子どもの成長・育成に役立つあらゆる能力を所持している。少々教育ママな所が玉に瑕。
保有しているオーラ量は≪生前のミシャのオーラ量+死者の念による増幅値≫となっている。
〈制約〉
・他の具現化された念獣のように自由に出たり消えたりとは出来ない。一度発動するとオーラがなくなるまで消えない。
・我が子と定めた子どもの半径10mから離れることが出来ない。
・絶・練・凝・隠・円・周・硬・流などの技術を使用することは出来ない。
・保有オーラがなくなり、消滅した場合二度と出現することは出来なくなる。
・保有オーラを回復することは出来ない。
〈誓約〉
・特になし
保有能力
①【愛の詰まった不思議な母乳/ラブ・ミルク】
・変化系能力と具現化系能力の複合能力
オーラを愛がたっぷりと込められた母乳へと変化し具現化する能力。愛の内容物は以下の通り。
栄養満点・滋養強壮・疲労回復・成長促進・感染予防・美容効果・オーラ回復etc……
なお、味も自由に変えられる。
〈制約〉
・母乳を生成する度に保有オーラ量が減少する。
〈誓約〉
・特になし
②【便利な赤ちゃん用具屋さん/コンビニエンスベビーグッズ】
・具現化系能力
子どもの為になる用具を具現化する能力。
紙オムツからベビーカーまで具現化出来るものは様々。
保有オーラがある限り何度でも具現化可能。
〈制約〉
・具現化出来るのは生前のミシャが知っていた物のみに限られる。
・子どもの育成に必要と思われないものは具現化出来ない。
・具現化する度に保有オーラ量が減少する。消費されるオーラ量は具現化する物の大きさに比例する。
〈誓約〉
・特になし。
③【愛の躾/キョウイクママ】
・操作系能力
子どものために心を鬼にして躾をする。
躾を受けた子どもは無意識を操作され、二度とその躾を受けた原因となった行動を起こさないように意識を誘導される。
この能力は死者の念に対しても有効である。
同じ対象に何度も使用すると返って反発してしまう。躾も程々が一番。
〈制約〉
・真に子どもを想って叱らないと発動しない。
・同じ対象に何度も使用すると返って反発してしまうことになる。許容回数は対象の精神によって変化するので、さじ加減が難しい。
・使用する度に保有オーラ量が減少する。
〈誓約〉
・特になし。
補足:この【偉大なる母の愛/グレイトフル・マザー】は、死したミシャの子を想う無念が死者の念となって発現した念能力であるため、主人公が使用しているわけではありません。
あとがき
幻影旅団ルートなんてなかった。
原作時のクロロの年齢は26歳。この時点では12,3歳くらいのはずです。またクロロたちは既に念に目覚めているという設定にしてあります。
原作ではいつ頃念を覚えたかまでは説明されていなかったので、このSSでの独自設定です。
あと、円でウボォーさんの錬に匹敵する~と書いてありますが、まだ蜘蛛の連中も未熟な頃ですので原作の強さは持っていない状態のウボォーさんの錬です。それでも凄いことですが。
また、蜘蛛自体はまだ結成していませんが、結成時にいたメンバーは既に集まっているものとしています。
ちなみに【原作知識/オリシュノトクテン】が発動しなかったのは、現在の肉体は主人公に操作(憑依)されているためです。
つくづく死にスキル。
あと死を恐れない流星街の住人が主人公のオーラに怯えるのか? と疑問に思う方もいると思いますが、あれは仲間のために死を恐れなかったのであって、恐怖がないわけでも無駄死にを恐れないわけでもないと判断させていただきました。
もし主人公が流星街の住人を殺していたら何が何でも報復に来ていたと思います。