第六十一話
アイシャと王が対峙する中、ゴン達も護衛軍の2匹と対峙していた。
数の上ではゴン達が有利だ。その差は7、つまり9対2という大差である。
だが、それで実際の戦闘でも有利かと言われればそうだと頷ける者はゴン達の中にはいないだろう。
護衛軍の2匹。シャウアプフとモントゥトゥユピーから発せられるオーラは王には劣るものの、アイシャと然程変わらない程のオーラ量だ。
そしてそのアイシャを相手にこのメンバーは全員で纏めてかかって敗北している。しかもその時は今よりも3人の念能力者がいたにも関わらず、だ。
オーラでアイシャに匹敵する敵が2体。そんな敵を相手に数で有利だからと油断するわけがなかった。
「さて、王より貴方達の相手を仰せつかりましたが、ここでは王の邪魔になるでしょう。
ここから離れた場所で戦おうと思っているのですが、いかかですか?」
そう提案してきたのはシャウアプフだ。見た目は優男と言ってもいい風貌で、外見に合った柔和な言葉遣いで語りかけてくる。
キメラアントからの提案だが、それ自体はゴン達も願ってもない提案だ。こんなにも近くで戦っていてはアイシャも王に集中することが出来ないかもしれない。
それに如何に王が護衛軍に手を出すなと言っても、その命令を破ってでも護衛軍が王の手助けをするやもしれないのだ。場所を移すことに異議はなかった。
シャウアプフの提案にゴンが全員の代弁として首肯する。
「それは良かった。では、あちらへ移りましょう。少し離れた場所に丁度よく開けた土地があります」
「良かったな。お前らの寿命が延びたぞ。そこに行くまでは死なないからな」
モントゥトゥユピーの嘲りには誰も何も返さなかった。
明らかに人間を見下しているその台詞だが、そう思ってくれているならそれはそれで好都合だ。
こちらの力を過小評価しているならそれに越したことはない。敵が油断しているならそれを突くだけだ。
アイシャ達から十分に離れた場所にて再び対峙するゴン達と護衛軍。
既にアイシャ達は戦い始めていた。離れた場所でもアイシャと王の戦闘の余波が響いてくる。
それを耳にして、シャウアプフは「ほう」と感心したように息を吐く。
「まさかここまで王と戦えるとは……」
「王が遊んでおられるだけだろ? 人間にしてはやるようだが、王に勝てるわけねーよ」
「まあその通りではありますが、それでも流石はネフェルピトーを屠った者、と言ったところでしょうか」
「あ? アイツがピトーを殺した人間か?」
「そう考えるのが妥当でしょう。それほどの人間ならば王とも多少は渡り合えるのも納得ですから」
ゴン達と対峙しつつもそう話している2匹に緊張や王を心配する気持ちはなかった。
何故なら2匹は王に絶対の信頼を抱いているからだ。もちろん王を護る護衛軍として、王と戦える人間がいるというのは驚異となる話だ。
だが、2匹は確信している。王が全ての生物とは次元を隔てた存在に至っているということを。
女王とネフェルピトーの死者の念を引き継いだ王のオーラに間近で触れた2匹は、王に勝つことの出来る存在がこの世にいるとは到底思えなかった。
オーラの多寡だけが勝敗を分ける重要な要素ではない。そんな念能力者の常識を覆す圧倒的オーラを持って産まれた王。まさにこの世を統べる絶対者。
今は少し強い人間を相手に戯れているだけ。その気になれば最初の襲撃でも容易く方が着いたはず。2匹はそう信じて疑ってはいなかった。
「アイシャを舐めんなよ。王と離れたことを後悔することになるぜ?」
「それはそれは。ですが、本当は彼女の元に駆け寄りたいのでしょうに、虚勢はみっともないですよ?」
「!?」
まるで心を見透かしたかのような言葉にキルアは絶句する。
まさにシャウアプフの言った通りの心境だ。出来るなら今すぐにでもアイシャに加勢したい。
だがそれが無意味であると理解しているからここにいるのだ。行っても邪魔にしかならない、ならば敵を分断して抑えておくのが最高の援護だと分かっていた。
分かってはいるが、感情と理性は必ずしも一致しない。それをもどかしく思うが、それよりも重要なことをキルアは考えていた。
――コイツ……オレの心を正確に把握している?――
果たしてそれは洞察力に優れているだけが。それとも何らかの能力によるものか……。
能力ならばまだいい。能力による読心ならば防ぎ方もあるだろう。
能力の発動条件を満たさせなければ能力は発動しない。発動条件が緩ければ、それだけ能力も然程効果は高くないということだ。それならそこまで問題視する必要はない。
だがこれが洞察力によるものなら厄介だ。洞察力故に発動条件などない。心を読まれないようにするには、相手に判断材料を与えないようにしなければならない。
表情を隠す、精神を平常に保つ、オーラの変化を隠す。いずれも戦闘中に注意していれば戦闘そのものが僅かでも疎かになりかねないだろう。
そしてキルアはシャウアプフの読心が何らかの能力によるものだと当たりを付けた。
「お気になさらず……何となくそう感じる、それだけのこと……」
そう言い放つシャウアプフの言葉を鵜呑みにするキルアではない。
そしてキルアの想像通り、シャウアプフの読心は洞察力によるものではなく能力によるものだった。
【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】。それがシャウアプフの能力の1つだ。
自身の鱗粉を相手の周囲に散布してオーラの流れを鮮明に把握し、そこから相手の感情やその時の思考を読み取る能力。
正確には感情や思考を読み取る、推測するのは能力に関係なくシャウアプフ自身の頭脳によるものだが。
とにかく、この能力によりシャウアプフは対象の思考を読み取っているのだ。
そしてシャウアプフが能力により導き出した答え。それは目の前の敵――ゴン達――の戦力を侮ってはならないというものだった。
どの敵も予想を遥かに越えた戦士たちだ。この状況にあっても絶望しておらず、警戒をしてかつ警戒し過ぎて臆病にはなっていない。
全員が緊張感と覚悟、そして自信を有している。オーラの大小の差はあれど、誰もが警戒に値するオーラを纏っていた。
自分達程ではないが、彼らは強い。人間でも精鋭の兵士だろう。ゴン達のオーラを読み、シャウアプフはそう思い至った。
ゴン達も護衛軍の強大さを理解している。確実に個としてのスペックは相手が上だ。
能力を数値化すると、ほぼ全ての能力が護衛軍に劣っているだろう。優っているのは数と経験、そして技術といったところか。
他の数値は絶望的な差がある。だが、有利な点があるならば勝てない道理はない。後は如何に戦闘を運ぶかだ。
そうやってゴン達とシャウアプフが互いの戦力を計って思考を巡らせている中、1匹のキメラアントが痺れを切らした。
「おい、何で攻撃しないんだよ? コイツ等殺せばいいんだろ?」
モントゥトゥユピーは物事を深く考えるのが得意ではない。故に現状を短絡的に、そしてある意味では誰よりも正しく認識していた。
王の敵を殺す! そこに戦略も戦術も戦法もない。目の前の敵を叩き潰す、ただそれだけだ。それが王の為になるならばそれだけで十分なのだ。
モントゥトゥユピーは肉体を音を立てながら変形させる。
見た目は人間に近かったその肉体は、上半身に幾つもの眼を作り、複数の腕を生み出したことによって異形の化け物へと変化していった。
そして複数の腕を1つにまとめ、巨大な一腕としてハンマーを振り下ろすように、ゴン達に向けて叩き付けた。
これが戦闘の合図となった。
◆
ゴン達と護衛軍が離れていく。
そしてこの場に2人だけとなったアイシャと王。
アイシャは変わらず最早慣れきった構えを取り、王は不敵に笑いながらアイシャを見る。
王から見てアイシャは脆弱な餌に過ぎない。
それは先の一撃をいなされ、自身に返された今も変わらない考えだ。
今見てもアイシャから感じる力は己よりも圧倒的に下だ。生命エネルギーは隠しているのか殆ど見えない。
それなのに、全力ではないといえ、人間に反応出来るとは思えない一撃に反応し、それを返した。
如何なる業を用いたのか。人間という下等生物がここまで至るに掛かった努力は如何程なのか。
そしてその全てを喰らえるとなると、どれほどの至福を味わえるのか。
そう思うだけで王は声を漏らして嗤ってしまった。
「くっく――」
王の視界が反転した。否、視界が暗闇に閉ざされていた。
気付けば王は大地に頭から叩きつけられ、大地を突き破って地中に突き刺さっていた。
自分を餌と見て嘲り嗤う王は、アイシャにとって隙だらけだった。
完全にアイシャから意識が逸れた瞬間に、虚を突き柔にて天地を逆さまにする。
そして顎へと硬による一撃を叩き込み、更に王が大地に叩き付けられる前に大地の一点、王を叩き付ける一点のみを周にて強化し、そこ目掛けて全力で叩き付ける。
オーラで強化された大地に頭から叩きつけられても、王の頭部は損傷することなく地を砕き沈んでいった。
それくらいはアイシャも予想通りだ。王のオーラならばこの程度は耐えることも造作もないだろう。
そこからアイシャは更に追撃を加えようとするが、アイシャの頭部があった位置を王の尾が通り過ぎていった。
瞬時に頭を下げることでそれを躱すも、続けてアイシャの体を狙うようにまたも尾が振るわれる。
アイシャはそれを更に体を沈ませることで躱し、通り過ぎゆく尾を掴んでその勢いを利用する。
王の力に自身の力を加え、王を大地から引き抜きまたも大地に叩き付ける。
王の力も加わった為か、先の一撃とは比べ物にならない爆音を上げ、大地に大きなクレーターが出来上がる。
アイシャは攻撃を途切れささないよう更なる追撃を加えようとする。クレーターの中心にいる王へ向かって駆けようとし……次の瞬間にアイシャはその場から、王から離れた。
攻撃を受けたわけではない。攻撃を避けたわけでもない。ならば何故、何故あの状況からあの場を離れたのか。
「……貴様」
それは怒気だ。王から発せられる尋常ならざる怒気。その怒気だけでアイシャは退いた。退いてしまった。
土煙が晴れ、クレーターの中心にいる王が鮮明に映る。
その顔はオーラを読むまでもなく怒りに染まっていると誰もが理解するだろう。
いや、並の能力者ならば理解する前に意識を手放している。そうしなければ精神が崩壊しかねないからだ。
それほどの怒りをオーラに乗せて王は発していた。
「人間風情が、余に……王たる余に大地を舐めさせたな! 一度ならず、二度までも!!」
――まるで堪えていないか――
王の暴威に触れ、思わず飛び下がってしまったアイシャ。
だが冷静さは失っていない。それどころかますます研ぎ澄まされていくようだ。
そうしなければ勝ちの目が消え去ると本能で理解しているのだ。
アイシャは冷静に王の戦力を分析する。
開幕の攻撃も、王自身の力を加えた二撃目も見た目にはダメージらしきものはない。
開戦前に王が飛び掛って来た一撃を返した時とは違い、今度は大地にオーラを籠めて威力を上げていた。
王に放った先の一撃をまともに受ければネテロでさえ即死するだろう。なのに無傷、まさに桁が違うと言ったところか。
――攻撃力、速力、耐久力、全てが人間の限界を軽く凌駕しているな――
耐久力だけでなく、その肉体のスペックもある程度は理解出来た。
正直理解したくなかったというのがアイシャの本音である。アイシャは長年数え切れぬ程の、それこそ星の数程も敵の攻撃を合気で返している。
それ故か、アイシャは相手に触れるだけで相手の肉体のスペックをある程度把握出来るようになった。
そして、王のスペックは計り知れないということを理解出来た。ネテロですら、そしてネフェルピトーですら把握しきったというのに、だ。
最早人外という言葉すら生易しい存在。それが王だ。
そんな王がアイシャへとその怒りをぶつけていた。
「その罪! 万死に値する!」
アイシャがソレに反応出来たのはネテロのおかげと言っても過言ではないだろう。
ネテロと幾百も戦い、幾千もの【百式観音】を味わい、それに対抗すべく業を練り上げてきた。
最速の念能力に対抗してきたからこそ、王のその攻撃に反応出来た。
王の攻撃は別段特異なものではない。
走って近付き敵を殴る。ただそれだけである。そこには技術の欠片もなかった。
だが……怒りに任せて放たれる王のそれは、それだけで必殺の攻撃となる。
今まではまだ遊んでいたのだろうと理解出来る。アイシャでも反応するのがやっとの速度で近付き、アイシャでも受け流すのが精一杯で攻撃を返すことが出来ない程の威力で殴る。
攻撃を王に返すなど烏滸がましい。そう言わんばかりの一撃をどうにか受け流したアイシャはその余波で吹き飛んでいった。
正確には追撃されないよう力を抜いて自ら吹き飛ばされたのだが、それでも予想を遥かに上回る距離を吹き飛んでいくアイシャ。
「ぐぅっ!」
コロの原理や脱力や流やオーラの回転による受け流しなど、様々な技法を混じえて威力を逸らして、なおこのダメージ!
まともにガードしたわけでもないというのに、受け流す為に使用した腕が痺れている。少しでもタイミングを間違えていれば……。
骨が折れるならばまだ良いだろう。下手すれば腕がもがれていただろう。
――まともに受ければそれで終わりだな――
こちらの攻撃は殆ど通じず、相手の攻撃は即死級。なんて理不尽。
だが、この化け物に勝てなければそこで終わりだ。自分が死ぬだけなら良し。だが確実にゴン達も殺されるだろう。
そして世界がキメラアントによって侵食されていく。その過程でアイシャの多くの知り合いも犠牲になるだろう。
それを許すわけにはいかない。勝ち目のない戦いなどとは思わない。どんなに勝率が低かろうとも勝たなければならないのだ。
アイシャがまだ生きていることに更なる怒気を孕みつつ、王はアイシャへ向かって駆ける。
そして先程と同じように攻撃を繰り出す。見ることすらままならぬその攻撃に、アイシャはまたもかろうじて反応して受け流すことに成功する。
またも吹き飛ばされるアイシャ。それを追って王は追撃を加える。それすらもどうにか受け流し、また吹き飛ばされる。
――人間風情が!――
自らよりも劣る人間を仕留めきれない現状に苛立つ王。
そうして何撃目かの打撃を繰り出す。次こそは殺すと力を込め、振り抜いた拳はまたもアイシャを捉えることなく受け流された。
いや、受け流されただけではない、先程までとは逆に王が吹き飛ばされることとなった。
「ぬう!?」
先程までとは違った結果に少々の戸惑いを禁じえない王。
だがこの程度で戸惑いはすれど今さら驚きはしない。敵が人間にしてはヤルということは理解している。
どうせこの程度では然程のダメージはない。この程度の抵抗、死期が僅かに延びただけのこと。次の一撃にて仕留めてみせる!
そう思い、吹き飛ばされてすぐに周囲の岩を足場にし、アイシャへと駆け寄り間を詰める。そして死を纏う一撃を振るい――
「ぐっ!」
またもアイシャによって自身の力を利用されて吹き飛ばされることとなった。
――馬鹿な! あやつ何故!――
吹き飛ばされた王はそれ自体を驚いてはいなかった。前述したとおり、アイシャが自身に僅かながらも抗いうる力を持っていることは理解している。
王が驚愕したのは全力の攻撃を返されたからではない。王が驚愕したのは――
「何故眼を瞑っておる!?」
アイシャが瞳を閉じたまま、王の攻撃を返したからであった。
何故超速で繰り出される王の攻撃を前に、視覚という生物で最も外部情報を得ることの出来る感覚を閉ざしたのか。
それは王の攻撃があまりにも速すぎる為、視覚から得られる情報が少なすぎることが要因であった。
視てから反応していては遅すぎるのだ。それでは攻撃を受け流すのが精一杯なのだ。
視て遅いのならば、視る必要はない。それがアイシャの結論だ。
視覚を閉ざし、残りの感覚を最大限に発揮する。オーラすら閉ざし、完全な絶となって更に感覚を研ぎ澄ます。
そこまでしてようやく王の攻撃に反応が追いついた。そこからは体が覚えている通りに動かす。触れられる瞬間のみにオーラを用い、完全なる合気にて力を返す。
何万、何十万、何百万、いやそれ以上か。どれだけの組手をこなしたかは分からない。どれだけの攻撃を受けたかは分からない。どれだけの攻撃を返したかは分からない。
北島晶の数十年が、リュウショウの数十年が、アイシャの十余年が。今のアイシャを構成する全てが、王の攻撃を視ずとも反応することを可能とした。
王の攻撃を察知。触れる前に触れる箇所のみにオーラを纏う。全身を使って攻撃を逸らし、触れたオーラを回転させてさらに受け流す。
そして王の攻撃を流しつつ、自身の力を加え、あらぬ方向へと吹き飛ばす。
この繰り返しだ。吹き飛ばされた王に殆どダメージはないが、全くないわけではない。
自身の力が返ってくるのだ。頑丈な王と言えど多少はダメージを受ける。見た目には分からないが、痛みがないわけではなかった。
それでもこの方法では百や2百の攻撃を返しても王を倒すことは出来ないだろう。
だがアイシャはそれを理解しつつも揺るぎない精神で技を振るう。百で駄目ならば千。千で駄目ならば万の合気を叩き込むのみ。
――私を舐めるのは良い。だが、風間流を舐めるなよ――
アイシャの意地が、積み重ねた研鑽が、王に確かな痛みを刻んだ。
◆
モントゥトゥユピーの放った一撃は大地を大きく抉った。
あまりの威力にクレーターのような大穴が出来上がり、粉塵は飛び交い、衝撃だけで木々が悲鳴を上げる。
破壊力という一点に置いてはネフェルピトーを遥かに上回るだろう。
だが、その一撃にモントゥトゥユピーは何の手応えも感じていなかった。
開幕の一撃に圧倒的な破壊力を見せつけられたゴン達は、何とかあの一撃を無傷で切り抜けることが出来ていた。。
大振りの、しかし素早い一撃を咄嗟に避けられたのは日頃の訓練の賜物と、そしてモントゥトゥユピーの一撃から発せられた圧倒的な迫力からだった。
そう、天を覆うような巨大な槌を振り下ろされたかのような錯覚。その錯覚がゴン達を緊急回避へと導き、命を救ったのだ。
「なんって、破壊力だよ!」
「臆するなレオリオ! 奴らが出鱈目なのは承知の上だ!」
「おりゃあお前と違って初見なんだよ!!」
曲がりなりにもモントゥトゥユピーと同格の護衛軍であるネフェルピトーの力を間近で見た経験のあるゴン達だが、NGLに途中参加したレオリオ達はそうではない。
人間とは比べようもない圧倒的な存在にレオリオはおろかリィーナやビスケですら面食らっていた。
「こりゃ無茶苦茶ね……」
「気は進みませんが1対1の正面からは避けますよ。数の利を活かします!」
リィーナもこの状況では武人としての拘りではなく戦闘に勝つ為に利を選んだ。
そういう拘りを持ち出す状況ではないのだ。仲間の誰が死ぬかも分からない、そればかりか敬愛する師すら命の保証がない。
ここは勝つ為に拘りを捨てる場面なのだ。
幾多の訓練や試合、実戦を通してゴン達は各々の戦力をほぼ把握している。
それ故にこの状況で最も効率の良い戦い方も理解していた。
「喰らえ!」
カストロが粉塵を突き抜けその先にいるシャウアプフへと攻撃を仕掛ける。
それに続きリィーナとビスケもシャウアプフへ向かって攻撃態勢を取った。
「ふむ。これは中々」
カストロの猛攻をシャウアプフは涼しい顔で捌く。
だがそれとは別に内心ではカストロの戦闘力に賞賛の意を持っていた。
人間風情にしてはやる。賞賛と言ってもそれくらいのものだが。
それくらいカストロとシャウアプフには戦闘力に大きな差があったのだ。
「はあっ!」
虎咬拳の連撃にてシャウアプフへ猛攻を加えるが、そのどれもが完全に見切られていた。
それは戦闘技術の差、ではない。そも技術に置いてはカストロに軍杯が上がるのだ。それでもなお覆せない身体能力の差が今のカストロとシャウアプフの戦闘を物語っていた。
だが、そこにリィーナとビスケが加わると話は変わる。
「おや?」
カストロを仕留めようと猛攻を避け切った後に反撃をしようとしたシャウアプフ。
だがそれを許すリィーナではない。シャウアプフの鋭い一撃を柔にて捌き、そのまま体を崩してシャウアプフを投げ飛ばす。
そして投げ飛ばした方向にはビスケが待ち構えていた。元の姿に戻り、完全な戦闘力を取り戻したビスケの全力の一撃が、シャウアプフの顔面を捉えた。
吹き飛び、大地に倒れ伏すシャウアプフ。その一撃はゴンの全力の一撃に匹敵、いや、凌駕していたかもしれない程だ。
「こっちはあっちほど出鱈目じゃなさそうね」
「油断は禁物ですよ。どのような能力を有しているのか判明していないのですから」
「分かっているわよ。さあ、コイツを倒してゴン達に加勢するわよ!」
「おう!」
本来ならこれで決着だろうが、相手は護衛軍だ。先のモントゥトゥユピー程強力ではなさそうだが、それでも油断出来る相手ではない。
そう思っていたリィーナ達だが、それでもまだシャウアプフを侮っていたと後に理解することになる。
リィーナ達がシャウアプフと戦っている一方で、ゴン達はモントゥトゥユピーと対峙していた。
数の上では6対1。圧倒的な差だ。だが、それを有利だと思わせない程の力をモントゥトゥユピーは全身から発していた。
「雑魚が。群れても意味がないことを教えてやる!」
複数の触腕を無造作に振り回す。周囲を囲む蚊とんぼを払うかのように、無造作に、高速で、ただ振るい続ける。
それだけでモントゥトゥユピーの周囲は死を撒き散らす暴風域と化した。
開幕の一撃に比べたら触腕1つ1つの威力は低いのだろうが、それはモントゥトゥユピーからすればの話だ。
ゴン達がまともに喰らえばそれだけで致命傷に至るかもしれない。そんな攻撃が無数の腕から繰り出されるのだ。驚異以外の何物でもない。
だが、どんな攻撃も当たらなければ意味はない。
「ちぃ! とっとと当たれよ!」
モントゥトゥユピーの苛立ちが示すのは、ゴン達が無事だという事実だ。
鞭のようにしなる触腕の攻撃は、一撃たりともゴン達にヒットしていなかった。
流石のモントゥトゥユピーも、複数に分かれて自身を囲むゴン達を細かく狙って攻撃することは出来ない。
1人に集中すればその1人は既に倒せているだろうが、そんな戦法を取るほどモントゥトゥユピーも愚かではない。
1人の敵に集中して他の敵を疎かにすればどのような目に遭うかも分からないのだ。同胞のネフェルピトーが殺られたという事実が、モントゥトゥユピーを慎重にしていた。
そして周囲を大まかに攻撃するような雑な攻撃ではゴン達でも避けることは可能だった。
触腕の攻撃範囲を見切り、その全てをどうにかして切り抜けていた。
しかしゴン達が攻勢に出ることはなかった。こうしてモントゥトゥユピーの攻撃を凌いでいるだけだ。
だがそれで良かった。ゴン達は決定的な瞬間を、勝機を待っていたのだ。
死を撒き散らす暴風の傍で耐え凌ぎ、その瞬間が訪れるのをただ待っていた。
そして、思ったよりも早くにその瞬間は到来した。
「このっ! ちょこまかと! ウザったい蠅どもがぁ!!」
元々気が短いモントゥトゥユピーだ。その苛立ちが増してくると、攻撃も大雑把になる。
そう、開幕の一撃と同じ、全てを巻き込むような大打撃を放って来たのだ。
そしてゴン達はそれを待っていた。
――潰れ死ね!――
右の触腕を全て束ね、巨大な鉄槌に変えてゴン達に向けて叩き下ろす。
外れても良し。外れたら当たるまで叩き付けてやる。弾け飛ぶ岩石まで全てを避け切れる訳が無い。そして脆弱な人間ならばその内力尽きるだろう。
それがモントゥトゥユピーの見解だ。それはあながち間違いではない。直撃を避けても、間近にいる故に衝撃や飛び交う岩石までは避けきれない。
このままモントゥトゥユピーが攻撃し続ければ、戦闘の結果はモントゥトゥユピーの思った通りになるだろう。
攻撃し続けられれば、だが。
「最初はグー!!」
「!?」
モントゥトゥユピーは背後から聞こえたその声に反応する。
あの攻撃を避け、岩石や衝撃を物ともせずにモントゥトゥユピーの背後に回り込む。強化系を極めんとするゴンだからこその芸当だ。
その体には幾つかの傷が出来ていたが、この程度ではゴンの動きが鈍ることはない。仲間内で最も頑丈なのがゴンなのだ。
全力の一撃を放った後という最大の隙を狙って攻撃を叩き込もうとするゴン。
だが、モントゥトゥユピーは不意を突いた攻撃にも反応した。
ゴンの声に反応して即座に反撃を、いや、迎撃を選択。背中を変化させ、鋭い刺を大量に生やしてゴンを突き刺そうとする。
――【落雷/ナルカミ】!――
「ギッ!?」
ゴンを殺さんとするその一撃は、キルアの電撃によって防がれた。
強靭な肉体を持つとはいえモントゥトゥユピーも生物だ。生物であるならば電撃による一時的な神経の麻痺は防ぎきれない。
それを防ぐことが出来るのは特殊な訓練を積んだ者くらいだ。
モントゥトゥユピーが肉体を硬直させたところにゴンが全力の【ジャンケン】を叩き込む。
仲間を、友を、キルアを信じていたゴンは、モントゥトゥユピーから反撃を喰らうという不安を欠片も抱かずに、全力で攻撃に意識を割いていたのだ。
「ジャンケン、グー!!」
「がぁっ!?」
【ジャンケン】に置いて最大の破壊力を持つグーを放ち、モントゥトゥユピーの巨体を吹き飛ばす。
流石のモントゥトゥユピーもこの攻撃にはダメージを受けた。そしてダメージ以上に怒りを覚えた。
――雑魚が!――
餌風情が己に痛みを与える。そんなモントゥトゥユピーからすれば許し難い行為は、モントゥトゥユピーから冷静さを更に奪い取った。
感情の赴くままに己に痛みを与えたゴンへと怒りをぶつけようとする。だが、吹き飛ばされて着地した場所は、モントゥトゥユピーに取って死地だった。
「糞餓鬼がぁっ!」
ゴンへと向き直り、先程よりも怒りと殺意を籠めてその力を増していく。力とともにその巨体も更に大きさを増していた。
だが、そこまでだった。そこから先は、その力は振るわれることがなかった。
「な、何だこれはぁぁっ!!?」
「捕縛完了。こうなったら最早逃れる術はない」
何時の間にか、モントゥトゥユピーの全身に2種類の鎖が巻きついていた。
鎖の出処はもちろんクラピカだ。右手の人差し指から放たれた【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】がモントゥトゥユピーの肉体を縛り、左手から放たれた【封じる左手の鎖/シールチェーン】が念能力を縛る。
全ては計算通りだった。開幕の一撃からモントゥトゥユピーの性格が攻撃的で短気なものだと推測していた。
そしてモントゥトゥユピーの攻撃を全て躱している内に、いずれは我慢出来なくなり開幕の一撃のような荒く隙の大きい攻撃をしてくると踏んでいたのだ。
その隙を突き、粉塵に紛れて砕けた地面に仕込んでおいた2つの鎖までモントゥトゥユピーを押し込む。ゴンの攻撃力ならそれが可能であり、隙を突けなかった場合のフォローもキルアがするようにしていた。
その2人で無理なら他の仲間が更にフォローに回る予定だったが、どうやらゴンとキルアのみで十分だったようだ。
そしてモントゥトゥユピーを助けることの出来るシャウアプフはリィーナ達と激戦を繰り広げている。あれではモントゥトゥユピーの元へと辿り着くことは出来ないだろう。
そう、最初から全ては計算通りだったのだ。ここまでの濃厚な修行の日々が、ゴン達に相談なくとも阿吽の呼吸で作戦を成功させる要因となったのだ。
「舐めるなよ! こんな鎖如き! がぁぁぁぁぁ!!」
肉体と念。その2つを完全に縛られたモントゥトゥユピーにこの状況から抜け出す方法はない。
どれほど力を籠めようとも、オーラを放とうとしても、そのどちらもモントゥトゥユピーの意思通りには動かなかった。
「ば、馬鹿な!? このオレが、こんな虫けら風情に!!」
「人間を侮り過ぎたなキメラアント」
念能力者の戦いに絶対はない。それを証明するかのような戦闘だった。
戦闘力ではゴン達全員の数値を足してもモントゥトゥユピーの方が上だ。だが結果は数値通りには進まなかった。
――これが念! これが人間!!――
圧倒的に劣るはずの人間にこうしてあしらわれたモントゥトゥユピーは、怒りとともに人間に対する賞賛の意を抱いた。
ちっぽけな存在が、知恵と戦略によって戦力差を覆す。強大な存在として産まれたモントゥトゥユピーには思いもつかなかった戦いだ。
「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!!」
だがちっぽけな存在の驚くべき力を賞賛している場合ではない。
ここで己が死ねば残ったシャウアプフは1人窮地に立たされる。そうなれば数の利でそのまま押し込まれるかもしれない。
こうして自身が敗北しそうなのだ。有り得ない未来ではない。
そしてその次は王だ。王を護るべき護衛軍が全滅する。それは王を危険に晒す可能性が遥かに増すということだ。
それを許すわけにはいかない。人間への賞賛など頭から追い出し、全力を籠めて鎖から抜け出そうとする。
だが――
「無駄だ。どれほど力を籠めようともこの鎖は砕けんよ」
「クソがぁぁぁぁっ!!」
鎖の能力で完全に動きを封じられたモントゥトゥユピーではどう足掻こうとも鎖から抜け出す方法はない。
身動き1つ出来ずに足掻き続けるモントゥトゥユピーに、無慈悲にも止めを刺すために全員が躊躇ない一撃を繰り出そうとする。
いや、何人かは動けない敵に止めの一撃を振るうことに多少の躊躇いはあったが、その躊躇いで仲間が死ぬかもしれないのだ。
後悔は終わった後にする。そう割り切り、念を使うことも出来ずに動けないモントゥトゥユピーへと全員が飛びかかった。
――瞬間。モントゥトゥユピーを縛る鎖が砕け散った。
『なっ!?』
「おおおおおお!」
突如として開放されたモントゥトゥユピーは、足掻いていたままに肉体を暴れさせた。
まさかクラピカの鎖から抜け出せるとは思ってもいなかったゴン達はその攻撃とも言えない暴力に晒されてしまう。
咄嗟に全身を全力の堅でガードするが、思いもよらぬ攻撃に誰もが痛手を負ってしまった。不幸中の幸いか死者は出ていないが、それでも無視できない程のダメージを受けてしまった。
束縛からの開放はモントゥトゥユピー自身も思いもよらぬことだった。そうでなければあのタイミングで確実に幾人かは屠れるように攻撃していただろう。
無造作に暴れたからこそ的確な攻撃ではなく、ゴン達も大きなダメージにはならなかったのだ。
――何故だ!?――
それはこの場の全ての存在が同時に思ったことだ。
何故モントゥトゥユピーは鎖から開放された? それはモントゥトゥユピー自身も疑問に思っていた。
そしてその答えが姿を現した。
「おやおや。危なかったですねユピー?」
「プフか!? お前、どうしてここに!?」
空中から現れたのはリィーナ達と戦っているはずのシャウアプフだった。
何もない空間から突如として現れたシャウアプフに動揺を隠せないゴン達。
だが、シャウアプフは突如として現れたわけではない。元々ここに居たのだ。
これにはシャウアプフの念能力【蠅の王/ベルゼブブ】が関係している。
【蠅の王/ベルゼブブ】はシャウアプフの肉体を最小でナノサイズまで分解することの出来る能力である。
自身を様々な大きさ・数に分裂させることが可能で、サイズが小さければ小さい程その数は増える。
ナノサイズまで分裂したシャウアプフを肉眼で捉えることはまず不可能だ。つまりシャウアプフは急にこの場に現れたのではなく、あらかじめナノサイズまで分裂していた分身を等身大まで集合させただけなのだ。
シャウアプフはここまでの戦闘を分身によって全て見ていたのだ。敵をたかが人間と侮っているのはシャウアプフも他のキメラアントと変わりない。
だが、その上でなおシャウアプフは敵の戦力を把握する為にナノサイズの分身を空中で待機させていたのだ。
そして流石に同胞の危機を見過ごすことはなく、鎖を砕ける大きさまで戻って鎖を断ち切った。これがモントゥトゥユピーが鎖から解放された経緯だ。
「あっちにもお前がいる……お前って増えることが出来るんだな」
「……あまり敵の前で味方の能力を教えないでもらえますか?」
その言葉にゴン達もシャウアプフが2人いることに気付く。
思いつくのは具現化系の能力だ。それによって自身を具現化した。それが最も行き着きやすい答えだろう。
実際に細かな分体を見ない限り、肉体をナノサイズまで分裂可能な能力だと思いつくことはまずないだろう。
「さて、私はそろそろ戻りますよ。あちらの私も苦戦しているようですから」
力を分散していたシャウアプフではリィーナ達とやり合って少々押されているようだ。分身は増やせば増やすほどその力も分散するのだ。
今リィーナ達と戦っているのは全体の半分と言ったところだった。そしてここにいるのが残りの半分だ。流石にリィーナ達ほどの実力者を半分の力で倒しきるのはシャウアプフにも無理なようだ。
「……わりぃな」
「お気になさらず。ああそれと、先程の鎖はもう使えないようですよ」
「へぇ、そうなのか? そりゃあいいな」
シャウアプフの言葉に不気味な笑みを浮かべるモントゥトゥユピー。
何故それがバレた!? そう驚愕するクラピカだが、そのクラピカに向かって微笑みながら分身のシャウアプフは本体へと戻っていった。
――ふふ、貴方のオーラがそれを教えてくれた。それだけのこと――
【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】。一度見破られるともう一度使用するのに時間という制限がある切り札を破られ、焦りを抱いたクラピカの心象を正確に読み取っていたのだ。
正確には使用出来なくなったのは【封じる左手の鎖/シールチェーン】のみであり、対象を無効化するもう1つの能力【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】は見破られても使用可能だ。
だが、肉体を麻痺させることは出来てもこの鎖は非常に脆い。モントゥトゥユピーのオーラならば堅をするだけでも砕けるやもしれない。念そのものを封じない限りモントゥトゥユピーを拘束することは不可能だろう。
「くそっ!」
「まさかあれで仕留めきれないとはな……」
左手を負傷したカイトが悔しげに呟く。先のモントゥトゥユピーの攻撃を防ぎきれずに負傷したのだ。骨が変形しているのが傍から見ても理解出来る。どうやら完全に骨折しているようだ。
右手に【気狂いピエロ/クレイジースロット】が変化した刀を持ち眼前のモントゥトゥユピーに構えているが、この刀がこれほど頼りないと思ったのはカイトも初めてだった。
カイト以外も大小それぞれダメージを負っている。ゴンは両腕の骨に罅が入っていた。両腕を交差して攻撃を受けた為だ。むしろこの程度で済んだのは僥倖だろう。
ミルキはスピードを上げる為に自身の重量を軽減させていたのが功を奏したのか然程のダメージは受けていない。体重が軽すぎたことと、攻撃の威力が高かった為に直接攻撃が当たる前に風圧で吹き飛んだのだ。
キルアも念には念を入れて【神速/カンムル】を発動していたので際どいところで攻撃を躱している。攻撃を仕掛けた中で完全に無傷なのはキルアくらいだ。
レオリオは誰よりもダメージを負っていた。肋骨が幾本も折れ、その内の1本は内臓を傷つけてすらいた。だが、シャウアプフとモントゥトゥユピーが話している内に【仙人掌/ホイミ】を使用して殆どのダメージを癒していた。
無傷なのはキルアとクラピカのみ。だがキルアは充電していた電気を少しずつだが消費している。オーラと違って休めば回復するものではないのだ。ここで使い切ったら充電は不可能だろう。
クラピカは確かに無傷だが、切り札を使用出来なくなったのは大きな損失だろう。ミルキは軽傷であり戦闘に支障はないだろうが、レオリオは傷を癒す為に相応のオーラを消費してしまった。
ゴンは動きが鈍ることはないだろうが攻撃には確実に支障が出るだろう。両腕が使えないとゴンの攻撃力は相当下がってしまう。
カイトはゴン程ではないが、片腕が使用出来ないのは十分な痛手だ。利き腕は無事だが、利き腕のみで振るう攻撃が通用するとは思えない敵なのだから。
対して相手は殆ど無傷だ。攻撃などキルアの電撃とゴンの【ジャンケン】を食らったのみ。それも致命傷には程遠いだろう。
片や負傷し、片やほぼ健在。数の利で押して、切り札を切った上での結果がこれでは勝率は大きく下がったと言ってもいいだろう。
誰もが焦燥するが、それで止まってくれる敵ではない。敗北を味わいそうになった屈辱を怒りに変えて、モントゥトゥユピーはゴン達へと暴威を振るい始めた。