第六話
どうしてこうなった?
俺の周りには果てしなく拡がるゴミの山、遠くを見渡すことは出来ないけどやっぱりゴミの山が拡がっていることは明白だ。
お、落ち着け。まずは素数を数えるんだ。2・3・5・7・11……なんかデジャブを感じるが……ま、まぁそんなことはどうでもいい。まずは落ち着くんだ。目を閉じて大きく深呼吸。
……落ち着けるか!
……どうしてこうなった?
あの時、北島 晶としての一生を終える瞬間、無念の想いを残したまま第三の能力【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】の発動を願った。
そしたら気付けば眼を開けることは出来なかったが意識は目覚めた。そう、目覚めたのだ。
俺は確かに死んだはず。ならば意識がある今の状態は……成功したのだ。【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】が上手く発動したのだ!!
やった、これでかつる! 俺は人生最大の賭けに勝ったのだ!!!
と、喜んでいたのも束の間だった……。
【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】の発動に成功したのはいい。実に喜ばしいことだ。
しかし、誤算があった……。
母が、この新たな体を授けてくれた母が死んだ。それも俺を産む前に、だ。
俺の意識が目覚めた瞬間に放出された膨大なオーラにより母の全身の精孔が開いてしまったのだ。
全身から流れ出るオーラを留めなければやがてオーラが枯渇してしまう。オーラとは生命エネルギーそのもの。枯渇すれば全身疲労で気絶、下手すれば衰弱死する可能性もある。
臨月を向かえた女性、しかも恐らくは武術など欠片も習っていない母に纏を会得することは難しく、母は衰弱死してしまった……。
不幸中の幸いと言っていいのか、既に産み月に入っていたため、俺自身は死した母の身体から生きて摘出された。
俺が原因で一人の女性を死なせてしまった……前世において人を殺めたことはなかった。それなのにこんな無抵抗の女性を殺めてしまう原因になるなんて……。
転生してすぐに後悔の念が押し寄せる……。
だが誤算はこれだけではなかった。
第二の誤算は、自身を覆うオーラが明らかに増大しているのだ。明らかに生前の最盛期よりも多い……なんぞこれ?
死ぬ前のオーラは精々が全盛期の三分の二が限界だったのに、その倍近くはあるぞおい……?
まあそれはいい。嬉しい誤算って奴だな。
問題なのはそのオーラの質だ。
なんて禍々しいオーラ……まるでこの世のあらゆる不吉を孕んでいる様……!!
……いやそれは言いすぎか。少なくとも俺自身の意思が乗ってないのでそこまで邪悪じゃない。
逆に言えば敵意や殺意を込めてないオーラでこの禍々しさ……!!
何でだ!? もしかして一度死んだことが関係しているのか!?
あまりの禍々しさに医者も看護士も父親と思わしき男さえもが俺に近寄ろうとしません……。
絶をすればいいのか、と思い絶をしようにもなかなか上手くいかない……。
くそっ! いきなりオーラの質が変わってしまったせいか!?
とりあえずオーラが弱まったおかげか父親? が近寄ってくる。ちなみにまだ眼が開かないので全てオーラで察知しています。念の汎用性は異常です。どこぞのチャクラには劣るがな。
「何という禍々しい赤子だ! こいつが、こいつがミシャを殺したに違いない!!」
……ミシャ、今の俺の母の名前か? ……否定出来ないのが辛い。
「こんなやつ!」
そう言いながら銃と思わしき物を取り出して俺を撃とうとしている父親……銃? ちょっと待て!!
全力で堅!!
直後に銃声が聞こえる。が、俺に被害はない。どうやら当っていないようだ。
恐らくこのオーラに竦んで手元が狂ったんだろう。
なんかガタガタ震えてるし。
このままでは埒が明かないのでまたもオーラを沈める。……だんだん慣れてきたな。
「こ、こんな場所でなんてことをするんですか!?」
いいぞ、もっと言ってやれ医者。
「だ、黙れ! こいつがミシャを殺したに決まっているんだ! 貴様らも感じただろう!? あの不気味なオーラを!!」
ミシャさんか、俺を産んでくれた人の名前だろう。この人の気持ちも当たり前か……誰だって自分の最愛の人を殺されたら怒りに身を任せてしまうものだ……。
「そ、それは解りますが、だからといってここは病院です! 人を救うべき場所で人を
傷付ける行為を容認することは、医師たる私には出来ません!」
すごく良いこと言う医者だな。まさに医者の鑑だ……病院以外なら別に殺っちゃってもいいですよ、て意味じゃないよね?
「人? この悪魔が人なわけがないだろうが!!」
さ、さすがにそれはないんじゃなかろうか……確かにやばいオーラしてるが。
まあ、俺がこんなオーラを持ってる奴に出会ったら絶対に逃げてる自信があるね。
「分かった。もういい。殺さなければいいのだろう……おい、私だ。至急メンフィル総合病院に奴らを寄越せ。……そうだ奴らだ! いいか、全員だぞ!! それと飛行船を動かせるようにしておけ。分かったな!」
あ、ここメンフィル総合病院だったんだ。道場から500mくらいの場所にある病院で、よく門下生たちも利用していたな。
それより親父の奴、一体何呼んだんだよ? ……まさか?
10分ほどして、黒服の男たちが親父と共にぞろぞろと部屋に入ってきた。ちなみに医者と看護士はこの時無理矢理下がらされた。
……やっぱり念能力者だこいつら……親父の野郎、念能力者を呼びやがった!!
念能力者を従えられる程の地位にいるのか……銃も持ってたし、もしかしてマフィアか何かですか?
そんなことはどうでもいい。いやどうでも良くないかもしれないが、今は横に置いておく。
念能力者は不味い!!
如何に膨大なオーラを有していようが、身体は赤子。勝てるわけがない!
殺られてたまるか! と、とりあえず全力で堅!!
……あれ? 何かメッチャ怯えてるんですが?
ああそうか。オーラを感じることの出来る念能力者の方が俺のオーラに反応しやすいのね。しかも今は敵意も混ざってるし。
こうかは ばつぐんだ!
「ひ、ボ、ボス。な、何なんですかありゃ……!?」
「本当に赤ん坊なのかよ……!」
「こ、殺されるかと思ったぜ……」
「……………………(失神してる)」
……こうかは ばつぐんすぐる!
「情けない! それでも俺の護衛か貴様らっ!」
「そ、そう言われましても……私たちが呼ばれた理由は、この赤子ですよね? 一体どうすれば……まさかこれを殺すなどと言うのでは……?」
「ふん! 忌々しいがこいつは殺さない。ここで殺しても国際人民データ機構にデータが残ってしまう。俺の子どもだというデータがな!」
認知してくれないのね親父……まぁ嫌だよな。こんな禍々しいオーラを持って、しかも自分の妻を殺しているんだ。許容出来る人間の方が稀だ……。
「お前らを呼んだのは俺の護衛だ。こいつがいつ俺を害するか分からんからな……。おい、こいつを車に乗せろ。左右をダールとザザで固めておけ。ないと思うが、絶対に逃がすなよ。」
「お、俺らがですか!?」
「り、了解しました……」
すいません貧乏くじを引かせたみたいで…
「それと、そこの失神したベロムは降格だ。下っ端から出直させろ!」
ベロムェ……。
さて、車に乗せられた俺。どこへ連れて行かれるんだ? どうやら殺されるわけではなさそうだけど……。
することもないので念の確認作業でもしよう。
うん。一通り問題ないな。オーラ量の増大と質の変化には戸惑ったけど、慣れれば生前の感覚でオーラを操ることが出来た。
ダールさんとザザさんは在り得ない物を見たかの様に驚愕し怯えていたけどな。
そりゃそうだ。生まれたての赤ん坊が目の前で纏・練・絶・凝・円・硬と行なっているのだ。それも高速で。悪夢と言わずに何と言う。
より警戒されるとも思ったが、今更だろう。
車から降ろされた俺。なんかニトログリセリンでも運んでるかの如く丁寧かつ迅速に運ばれていく。
今度は飛行船に乗せられた。本当にどこに連れて行くんだ?
飛行船に乗せられてどれだけ経ったか。多分一時間くらい?
いいかげんどこに行くのか教えてほしいものだが、周りには誰もいないし……床にポツンと赤ん坊を一人放っておくとは……人間性がどうかしてるねあいつらは。
マフィア(仮定)だし仕方ないか……。
今思いついたんだけど、念能力者がいたならオーラで文字を書けばよかった。そうすれば意思疎通出来たのに……。
……なんか意思疎通出来たら出来たでより化け物扱いされそうだけど。
しかし、お袋には本当に悪いことをした……。
謝ってすむ問題ではないが、一言だけでも謝りたかった……。
俺があんな念能力を作ったばかりに、こんな事になってしまった……。
今更生きるのを諦めたわけではないが、それと後悔とはまた別だ。
そんな事を考えていると、ウィィィィィン、という機械音とともに床が開いた
全身を浮遊感が覆う。
はぁ?
俺は地面に向かって逆さまに墜落していった!
ちょっ! 飛行船から落としやがったあの親父!! 何が殺さないだ! こんな高さから地面に叩きつけられたら普通死ぬわ!!?
ひぃぃぃぃぃぃっ!! 落ちてる堕ちてるおちてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
くそっ! 死んでたまるか! まずは円! 自身の位置を確認し地面に激突する瞬間を捉える。そして地面が近づいて来たところで、オーラを地面に向かって放出し落下の勢いを弱める。その後全力で堅をする事で落下のダメージを防ぐ!
……ふぅ、何とかなったか。マジ焦った。こんなに焦ったのは長い人生で初めてではなかろうか?
つうかここはどこだ。円で確認したところ、どうも周りにあるのは大量のゴミの山のようだが……。
……ゴミの山?
全力で円をする! うおっすげえ、1㎞近く伸びたよ! ってやっぱりか!
周囲全てがゴミ、ゴミ、ゴミとゴミの山だ!
どう考えても流星街ですねありがとうございました。
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念能力説明
【輪廻転生(笑)/テンセイ? イイエヒョウイデス】
・操作系能力
無念の内に死んだショウの無念の思いが作り出した無意識の念能力。
発動した瞬間の術者を中心とした半径600m以内にいる人間に死者の念と化した術者自身が憑依する。この範囲は生前の術者の円の最大範囲と同じである。
範囲内に誰もいなければ発動しても効果は現れず、この能力は消滅する。この術を受けた対象が憑依されて一分以上自我を保った場合もこの能力は消滅し、死者の念となった術者も消滅する。、
また、範囲内に複数の対象がいた場合、憑依しやすいものを選ぶ。術者の意思で対象を選ぶことは出来ない(無意識ゆえに)
<制約>
・死ななければ発動しない。
・死因は何でもいいが、自殺では発動しない。また他者にわざと害されて死ぬことも自殺と捉える。
・長く生きれば生きるほど憑依率は高くなる。この世界では長生きするのが難しいからだ。
・憑依した対象が受けた怪我や苦痛は全て術者も受ける。また憑依対象が肉体的に死んだ場合、死者の念も消滅する(この誓約により、対象の身体を術者の感覚で自在に動かすことが出来る)
・憑依した人物を操作する能力なので、除念を受けると術は消滅し、もちろんこの念の術者も死ぬ。
<誓約>
・生きている時に女性と性交したらこの能力は消滅する。
補足:この念能力は無意識のため、主人公も上記の内容を一切把握していません。
主人公はミシャさんだけでなく、生まれてくる予定の子の命も奪ったに等しいです。無自覚にかなり極悪です。
もし憑依された存在が元々意識を持っていたら除念を受けることでその意識は元に戻りますが、今回の場合は憑依対象が赤子のため、成長した後に除念を受けても自我の育っていない生きた肉の塊が出来上がります。
ちなみに憑依対象の肉体を別の操作能力で操ることは出来ません。すでにこの念能力により操作されているからです。もっとも、死者の念を操る念能力があったとして、それを受けたなら話は別ですが。
あとがき
死者の念だからってそこまで禍々しいかと言われたら、納得のいく説明が出来ない作者ですが、まあそこはこの作品ではそうだということでお願いします。