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No.29223の一覧
[0] 【習作15禁】ダブルアーツ二次[真田蟲](2011/08/14 22:21)
[1] 第2話 ここから始まる物語 (修正済)[真田蟲](2011/08/11 23:29)
[2] 第3話 ルチル家の人々[真田蟲](2011/08/16 19:32)
[3] 第4話 初めての朝[真田蟲](2011/08/20 14:16)
[4] 第5話 スイ[真田蟲](2011/09/02 01:32)
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[29223] 【習作15禁】ダブルアーツ二次
Name: 真田蟲◆b1f32675 ID:fc160ac0 次を表示する
Date: 2011/08/14 22:21
部屋の模様替えをしていたら懐かしい漫画が出てきました。
懐かしいといっても数年前のものなんですが・・・ジャンプで打ち切りになった漫画です。
個人的には連載中はジャンプの中で一番好きなマンガだったんですけど。
なんとなく思いついて描いてみました。
元々が打ち切り漫画なので、原作が終わるまでは基本原作沿いですね。
キリがちょっと性格変更してます。あと暗殺者も全員もれなく変質者にします。
作者の趣味で。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この日は二人の運命をことごとく変えた。
街の役場にある電話に向かって話す二人の男女。
彼等は仲がいいかのように手を繋いでいるが、別に恋仲というわけではない。

「は?」

「えっ……今なんて言いました!?」

彼等は電話の受話器越しに聞こえてくる言葉に、聞き間違いかと問い返す。

「う……嘘ですよね!?」

『……ですから仕方ないでしょう? そうでもしないと死んじゃうんですから。
 いいですか? シスターエルレイン。
 今この瞬間からトイレの時もお風呂の時も“1秒”たりとも繋いだその手を離すことを禁じます!
 頑張ってね!』

しかし帰ってきた言葉は、二人にこれからのことをはっきりと宣告する言葉だった。

「……えええええええええええええええええええええええええええ!?」

「……ぃよっしゃああああああああああああああああああああああ!!」

「ちょっ!? 喜ばないでください!!」






第一話 運命の人










SIDE エルー



ここは帝国南西部にある小さな街、ターム。
私たちが初めて出会った街、始まりの街。
巡回僧<シスター>である私は依頼された仕事を行うためにこの街にやってきていました。
タームにある小さな一軒家。そこが今回の現場。
窓の外には心配半分、興味半分といった街の人々がこちらを覗いています。

「あの……ではお願いします」

「はい、では治療を始めます」

不安げにこちらを見る女性が、子供が邪魔しないように気を使いながら声をかけてきました。
今回の依頼主と患者の子供と思われる女の子も心配そうに母親の腕の中でこちらを見ています。
私は二人を安心させるようにできる限りの笑顔でほほ笑むと、患者の寝る寝台の横に腰かけます。
苦しそうに汗を掻きながら眉をよせてうなされる患者の手を、手袋を外して優しく両手で包む。
シスターというのは、今世界中で猛威をふるっている死の病【トロイ】と呼ばれる病気を治療するために結成された特殊な職業のこと。
この病気を完治させる方法は未だ解明されておらず、有効な治療ができるのは私たちシスターだけでした。
私が手に触れていると、患者の男性の顔色が正常になり苦しそうだった表情も幾分楽そうになりました。
後ろを振り返ると、祈るように女性が目をつむって両手で拝んでいます。

「はい、もう終わりましたよ」

「え!?」

私が声をかけると、女性はかなり驚いたような顔になりました。
そうですよね、致死の病の治療がこんな一瞬で終わるなんて思いませんよね。
これまでもそういった反応をする患者さんたちも多かったので、こういう反応も私は慣れたものでした。

「あ……え? 終わりですか?」

「はい」

「こんなに早く?」

「はい、こんなもんです」

私が再び微笑むと、一安心したかのように女性は肩の力を抜いた様子。
彼女に抱かれていた女の子が私のそばまで来て聞いてきます。

「お父さんもうよくなったの?」

「うん、ひとまずは大丈夫」

その子の視線に合わせるために身をかがめました。
私の大丈夫という言葉に、女の子の表情が花が咲いたように明るくなります。

「でも驚きました。
 シスターの治療なんて初めてですからもっと大仰なものを想像してましたけど……」

女性の言葉にハハ、と思わず小さく苦笑しました。
そうなのです。治療というからには何か手術のようなものを想像している人も結構な人がいます。
この人もそこまではいかなくとも、もっと時間がかかると思っていたのでしょう。

「お父さん!」

私が女性と話しているちょっとした時間、つい気を緩めてしまいました。
背後の女の子の声に慌てて振り返ると女の子は患者の体に触れようとしています。

「触っちゃ駄目!!」

咄嗟のことで大声を出してしまいましたが、それが良かったようです。
私の声にびっくりした女の子は立ち止まって患者から離れました。
何か悪いことをしたのかと、怒られるのかと不安そうな眼でこちらを見ます。
その様子に私も、女性も大きく安堵の息を吐きました。

「……お父さんの病気、治ったんじゃないの?」

お父さんに触れてはいけないときつく言われていたのでしょう。
怒られると思って涙目で聞いてきます。
この子はまだ幼く、トロイというものがどういった病気か上手く理解できていないのでしょう。
治療が終わったということで完治したと思い、もうお父さんに触れてもいいと考えたのだろうと推測しました。

「……うん、ごめんね?」

しゃがんで女の子よりも視線を低くして話します。
目線が下がったことで怒られるわけではないと感じたのか、女の子の表情が幾分和らぐ。
でも私はこれからこの子に残酷なことを言い聞かせなければなりません。
そのことを思うと、いつも胸のあたりがきゅっと締め付けられます。

「私たちはね……お父さんを少しの間元気にすることはできるけど、
 この病気は完全には治せないの」

あなたは、この病気がどうやって移るか知ってる? と尋ねると、
女の子は頷きはしましたがあまり自信はなさそうでした。

「トロイは触ったら感染する。服の上から触っても何も問題はないんだけど……
 直接肌と肌で触れ合ったら感染しちゃうから十分に気をつけてね」

「あれ? でもさっきお姉ちゃんお父さんに手袋外して触ってたよね?
 大丈夫なの?」

「……それがシスターの治療法だから」

健気に心配してくれる女の子に、いい子だなぁと思いました。
でも私はその質問にちゃんと笑顔で返せたかわかりません。
いつも通りに笑顔であろうとは思ってましたし、顔の筋肉は上手く表情を作ることができていたと思います。
でも、いくら表情で取り繕っても心は笑うことができませんでした。
もうとっくに諦めているはずなのに……
トロイに感染すると、病気が体中に広がって毒を吐き始める。
毒はどんどん増えていっていっぱいになるとその人は“発作”を起こして死んでしまう。
一度発作を起こせば助ける手立てはありません。
そしてこの病気は空気感染はしないものの、肌接触で感染する。
患者の髪の毛に触れただけでも感染してしまいます。
その感染確率は100%。致死率も100%。
それがトロイという病気の恐ろしいところです。
ですがごく稀に女性の中にトロイへの耐性が極端に高い人がいる。
そういうわずかな人間が私たちシスターです。
シスターの治療法は患者の体に直接触れること。
そうすることで、その人が今まで溜めたトロイの毒を自分に移し替えることができるのです。

「…………」

「そうすることで私たちは患者さんの命を繋ぎ止めるんです」

私の説明になんとも言い難い表情でこちらを見る親子。
心配や不安、恐怖、その他形容しがたい色々な感情が混ざり合った表情。
このような表情にももう慣れました。

「つまりシスターはもれなく全員トロイに感染してるんですよ。
 病気を治せるなどと豪語してますが……」

たはは……と乾いた笑いをあげながら、頭を掻く。
本当、いつまでたってもこういう時の場を和ませる笑いが出せないなぁ、私は。
でも私には笑うしかない。そう、それしかありません。

「……ですから普段は極力近寄らない方がいいですよ」

「そんな、大丈夫なんですか?」

「はい?」

「他人の毒を引き受けてしまって……」

こちらを心配してくれている女性にかけられた言葉に笑う。笑顔を作る。
ただその笑みが、心配してくれることに嬉しく思っての笑みだったのか。
それとも自分の体のことを考えての自嘲からくる笑みだったのか。
今の私には自信がなかった。

「……正確なところはわからないんですが、きっと私は20歳までは生きられないと思います。」

「……」

私の言葉に、返す言葉がないのか絶句している女性。
これが私の器の小ささ。
無責任でも、何の根拠もなくてもいいから相手に安心させるために「大丈夫」と言うことができない。
大丈夫と言っておいて次に会えるとは限らないから。
そのことを考えてしまうと、どうしても「大丈夫」が言えない。
だから私はただ笑顔を見せることしかできないのです。

「それでは」

頭を下げて玄関の戸をあける。
扉の向こうには、窓からこちらを窺っていた人たちが集まっていました。
先ほどまでの私たちの会話を聞いていたのでしょう。
それとも最初からシスターの身体には触れてはいけないと知っていたのでしょうか。
彼等は私の顔を見るとさぁっ、と道をあけて距離をとりました。
こちらを見る人々の目は警戒心、恐怖心、猜疑心といったものにあふれていました。
この視線で針のむしろにされるのは何回味わっても嫌なものです。
私の体に触れてしまえば、その人はトロイに感染してしまう。
だからこちらを警戒して距離をとってもらえるのはありがたいことなんです。
私自身が感染源となって患者を増やしてしまうという危険性が減るわけですから。
ですが頭ではそう理解しているのに心のどこかで納得できない自分がいます。
私はみんなを助けてあげているのに、そう考えてしまう傲慢な自分が確かに存在するのです。
トロイで苦しい思いをする人を一人でも減らしたい。
そう思ってシスターになって、その想いは今でも変わりはありません。
何か見返りを求めたわけでもない、感謝されたかったわけでもない。
でも、やっぱりこの視線を受けると嫌な考えを浮かべる自分がいる、そのことがたまらなく嫌でした。
ああ、難しく考えるのは止めよう。今日も一人の患者さんを助けることができた、そう割り切ろう。
そう考えて私は上を向きました。

「わぁ、大きな絵……」

私はいつのまにか広場のような場所に来ていたらしく、視界に入ってきた大きな絵に目を奪われました。
先ほどまで考え事をしながら歩いていた私は今までそれに気づきませんでした。
横幅が50メートルはあろうかという巨大な絵。
そこに描かれていたのは、太陽の光が暗い霧を貫いて希望を見出すかのような感情を呼び起こす抽象画。
それを描いているのは一人の少年でした。

「すごい、この大きな絵をあの人が一人で描いてるんだ」

まだ描きかけのようでしたが、その絵は私を圧倒しました。
先ほどまでの暗い感情を吹き飛ばしてくれたかのように感じます。

「よし! 頑張ろう!」

絵に元気をもらったのか、私もまだ夢に向かって頑張れると思いました。
私の夢、それはこの世界からトロイを無くすこと。
この病気はシスターの私たちにも完治させることはできません。
ですがそれでも希望はありました。
それは私たちシスターが探し続けている【この病気にかからない人】。
シスターのように耐性が強いというだけじゃなく、この病気に感染自体しない人。
もし、もしそんな人が見つかったらこの病気は克服できるかもしれません。
なぜならその人の体を調べることができれば、きっとこの病気を克服する鍵がみつけられるかもしれないから。
まるでおとぎ話のような話かもしれませんが私はずっと信じていました。




リーン……ゴーン……



耳に鐘の音が聞こえてきた瞬間、私の心臓が大きく跳ねるのを感じました。

「ぐぶ!? ごほっげほっ!」

これは、トロイの発作!?
嘘……こんなに早く来るなんて。
気道が圧迫され、上手く息ができません。
心臓の鼓動が早鐘を打ち、全身の耐熱が上昇し嫌な汗が流れます。
立っていることができずにその場にしゃがみこんでしまいました。
誰か・・・と助けを呼びたくてもその言葉は声になりません。
いや、声になったとしても12時を告げる鐘の音でかき消されて誰にも聞こえないでしょう。
例え聞こえたとして、トロイの発作を止める手立ては誰にもない。
発作を起こした時点でその人間の死は確定なのだから。

「あっ……かはっ!?……ぁ……」

無駄とわかっていながら、助けを求めるかのように宙に手を伸ばします。
でも誰もその手を取る人なんているはずがありません。
周囲にはそもそも人が見当たらないのですから。
この時ばかりは自分の運命を呪いました。
やりたい事も、やらなければならない事もたくさんあった。
それなのに、こんな場所で一人、誰にも看取られずに死んでいくのでしょうか?
せっかくこれからに希望を持つことができたと思ったのに・・・
神様というものがいるのだとしたら、それは何て残酷なのだろう。
正直そう思いました。
薄れる意識の中、命が消え行く運命。

「……い、おい! 大丈夫か!?」

しかしこの神に見捨てられた私を、彼は見捨てはしませんでした。
それとも神は本当はいたからこそこの出会いがあったのでしょうか?
とにかくこの時、私の運命は変わったのでした。









SIDE キリ



その子を見かけたのは、広場で今度の感謝祭に使う絵を描いている時だった。
絵の具を入れたバケツに筆を浸そうとふと下を向いた。

「ん?」

なんとなく高台の足場から見降ろした広場を歩く女の子が視界に入った。
蒼い髪に白いローブの自分と同じくらいの年の女の子。
希望に溢れたような、まっすぐと前を向いて歩くその姿に一瞬見惚れた。
どこの子だろう?見かけない顔だし、別の街の人間だとは思う。
自慢じゃないが、この街の女の子はみんな顔も名前も覚えている。
この街に住んでいて、こんなに遠目からでもわかるほど可愛い子を俺が知らないわけがない。
きっと今度行われる感謝祭のリハーサルを見に来たのだろう。
半年ほど先に行われるこの街の感謝祭は結構有名で、近隣の街や村から数万人規模で人がやってくる。
芸術の街と呼ばれるタームならではの祭りだ。
もう少ししたら行われるリハーサルも、なかなかに大掛かりで見物人は毎年多い。
おそらくあの子もそれ目当てできたのだろう。
気がつけば太陽がだいぶ傾いてきている。そろそろ17時になるはずだ。

「じきに鐘が鳴るな、切り上げっか?」

「オー!」

俺が問いかけると、下で作業していた奴が賛成の声を上げる。
筆を置いてふぅっと息をはくと、背筋をそらせて伸びをした。
ずっと根詰めて作業していたからか、背骨がぺきぺきと鳴るのが心地いい。

「キリー! それじゃあ俺たちも今日はこの辺で帰るぞー?」

「わかったー!」

他の奴も帰り支度を始めた。俺も帰ろうかな。
そうだ、さっきの子はこの後予定とかあるのかな?
なんだったら夕食の時間まで散歩にでも誘ってみようか。


リーン……ゴーン……


そんなちょっと邪まなことを考えていたら、17時を告げる鐘が鳴りだした。
この音はいつ聞いても腹に響くなぁ。
タームでは9時、12時、17時の一日に三回鐘が鳴る。
大きな音が街中に響き渡るのだ。
声を掛けようと思い、さっきの女の子を見つけようと目線を下に向けた。

「……ん? っ、おいおいおいおい!?」

俺の目がとらえた物は、先ほどの蒼い髪の女の子が地面にうずくまっているところだった。
急いで高台から飛び下りるかのような速さで降りる。
あの距離からでもわかるほどに苦しそうだ。
胸を支え、呼吸が上手く出来ないかのようにパクパクと口を動かしている。
一目でやばい状態だとわかった。
助けるために全速力で駆ける。
ぐらり、と力が抜けて傾く身体を、なんとか地面に倒れる寸前で支えることができた。

「うわっ!?……おい、大丈夫か!?」

話しかけるも反応はない。女の子は俺の腕の中でぐったりとしていた。
その顔は血の気が引いて真っ青である。

「……おいおいおい、人死になんてカンベンだぜ~? しっかりしてくれよ」

これから祭にむかって皆が明るく頑張ろうって時に人が死ぬのはいただけない。
何より、女の子が目の前で死んで喜ぶような悪い趣味はあいにくと持ち合わせちゃいない。

「なぁ、あんたちょっと! 起きてくれよ!」

もう一度声をかけるも反応はない。
だがまだ息はあるし、顔色もしだいに良くはなってきている。
何の病気が知らないが俺の力が効いたのかな?

「お~~~い、大丈夫? ねぇ?」

彼女の顔色が良くなってきたのに安堵して俺は少し気が楽になった。
たぶんもう大丈夫だとは思うんだけど、でもまだ彼女は目を覚ましていない。
声をかけつつ、痛くない程度に頬をぺちぺちと叩く。

「う、うぅ……」

その刺激に呻きながらうっすらと、彼女は目を開いた。
正面に俺の顔があるせいで二人ともの目が合う。
彼女の眼は綺麗な翡翠のような色をしていて宝石のようだった。

「……」

「良かった。気がついたな」

まだ意識が虚ろなのか、彼女はぼーっと口を半開きにして俺の顔を眺めていた。

「……?」

「大丈夫か? まだ意識がはっきりしないか?」

語りかける俺の言葉が聞こえているのかどうなのか、彼女は返事をしない。
碧の瞳がゆっくりと右に流れ、頬に触れる俺の手に視線を移す。

「……ほ……」

「ほ?」

「ほぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」











SIDE エル―

私が目を覚ますと、赤い瞳がこちらを覗きこんでいました。
まるで純度の高いルビーのように綺麗な眼に、一瞬見惚れてしまいました。

「良かった。気が付いたな」

私に顔を近づけて覗きこんでいるのは金髪に見事な赤眼の少年。
こんなに間近で男の子の顔を見たのは初めてで、ちょっと戸惑ってしまいます。

「……?」

そこでふと、慣れない感触に気づきます。
違和感に目をやれば、それは私の頬に直接触れている人肌の温もり。少年の右手。
私は彼に抱きかかえられるようにした状態だったのです。

「……ほ……」

「ほ?」

「ほぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「わあ!?」

あまりのことに絶叫してしまいました。
だって、彼が私に触れているんです。
シスターである、トロイの感染者である私の体に。

「あ、わ、私の体に触ったら……!!
 感染して! あの……だ、駄目だから!!」

急いで飛び起きて彼から離れます。
これまで私のせいで感染する人がいないように注意を払ってきたのに!!
こんな、私が気を失ったりしたせいで!

「あぁあ、あの! あの! 大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」

「いや、あの……こっちが聞きたいんだけど?」

本当に大丈夫か? と心配そうにこちらを見やる少年に少し冷静になる。
そこで気付きました。
なんで私は平気なんだろう? 発作は?
彼が心配しているのは私が発作を起こして倒れたからに他なりません。
今は嘘のように先ほどの胸の痛みも圧迫感もありませんでした。

……ドックン……

しかし、そのことを意識した瞬間。
私の心臓が再び跳ねあがるようにして大きな鼓動をうつ。
そして同時に再び襲いかかる激痛と圧迫感。
先ほどのように息が上手くできずに、苦しみが込み上げてきます。

「おいっ!!」

そんな、今は大丈夫だったのになんで? そう思いました。
通常、トロイの発作は一度起こると死は免れません。
にも関わらず二度も発作を起こすなんて、これは一体……
一度目の発作で死ななかったのが奇跡です。
でももうその奇跡も終わり。
やっぱり私は……ここで、死ぬのでしょうか。

「おいってば!!」

ぐらつく私の体を心配してか、目の前の少年が私の手をとりました。
……あれ?
少年が私の手を掴んだ途端、発作が止みました。
先ほどまでの苦しみが嘘のようにもうすっかり落ち着いています。
思わず私は自分の体をまじまじと見つめました。
どこも体に異常があるようには見えません。
こんなことがあるのでしょうか?発作が途中で止まるなど聞いたことありません。
しかも二度も発作が起き、二度とも途中で止まっています。
いえ、そんなことはこの際どうでもよくて、いや、いいわけじゃないんですけど。
それよりも私にはまず、もっと驚くべきことがあってですね。

「この人……」

「あ?」

私の手に素手で触れている目の前の少年はトロイに感染していません。
シスターの私が見間違うはずありません。
この人は直接触れているのにトロイに感染していない。
今も平然としながらこちらをいぶかしげに見ています。
まさか、この人は――――!?

「あ、あの!! すいません!!」

「あっ? あい!?」

いきなり豹変した私に驚いている彼でしたが、私はそんなことに構わずにまくしたてました。

「もしよろしければ、私と一緒に来てくださいませんか!?」

「おおぅ、まさかの逆ナンパか」

「なっ、違います!」

「あれ? 違うの? 残念。」

な!? 残念って……じゃなくて! 今はそれどころじゃなくて!

「ナンパじゃないんですけど!!
 あなたはもしかしたら私たちが何百年も待ち望んでいた人かもしれない!!」

「…………あっ、そっち(宗教)系?」

? そっち系ってなんのことでしょうか?












SIDE ???

二人のやりとりを、そばのアパートメントの屋根の上から見下ろす人物がいた。
しかしこの時、二人はまだ自分たちがその人物に見つめられていることなど知る由もなかった。

「……ほぉう、まさかこんな所にシスターがいるなんてなぁ。
 ククク……俺はツイてる。今月でもう三人か。」

その不審な人物は、眼下にとらえた獲物を見つめて舌舐めずりをする。

「さて、あのシスターの手は一体どんな手なんだろうなぁ?」







SIDE キリ

俺が助けた? 女の子は宗教関係者だと思った。
だけど微妙に違ったらしく……いや、巡回僧【シスター】って言うくらいだからやっぱ宗教?
まぁ、どっちでもいいんだけど。
シスターってぇとあれだ。トロイを治せる人だ。
この人が話すには俺はシスターに触れてもトロイに感染しないらしい。
それどころかなぜか俺に触れていると彼女の発作が起きないそうだ。
なんでも、さっき苦しそうにしていたのはトロイの毒の許容量を超えてしまい発作をおこしていたとのこと。
そこを俺が見つけ彼女の体に触れたら発作が止んだ。
でも俺の手が離れるとまた始まるらしく、今も俺の左手は彼女の右手と繋いだままだ。

「コード4033、シスター・エルレインです。協会本部、マーサ・ラグナに繋いでください」

俺たちが今いるのはこの街の役所。
この街唯一の電話が置いてあり、それを使って彼女が協会本部に連絡するために来た。
俺も今日の仕事は終わったしどうせ晩飯までは暇だから、彼女に付き合うのはやぶさかではない。
それにこんだけ可愛い女の子と手を繋いでいられるんだから役得だろう。

『コード承認しました。しばらくお待ちください』

電話の向こうで人が動く気配がした。
どうやら彼女が指名したマーサとかいう人を呼びにいってるんだろう。

「ありがとうございますキリさん。急な申し出なのについてきてくれて」

「別にいいって、事情は聞いたし納得もしたから」

「そうですか」

俺の返答に彼女は笑う。
でも高台の上から見た時のあの明るい笑顔じゃない。
なんていうか、そう、ちょっと硬いんだ。
あれかな? 俺が男だから意識して緊張してんのか?

「あ、そうだ。そういや俺ってまだあんたの名前聞いてなかったな。なんてーの?」

「えっ、ああ、そうですね。」

俺の問いかけになんだか面喰らったような顔をする少女。
? なんだよ? 名前聞くのがそんなに以外か?

「……あーっと……」

一瞬、逡巡した様子を見せる。
その後にまた笑顔を浮かべて自己紹介した。

「エルレインといいます。よかったら覚えておいてください」

「は?」

でもその内容は少しおかしなものだった。よかったらってなんだよ。
しかも表情は笑顔だが目はなんだか笑っていない。彼女の綺麗な碧の瞳は、少しくすんで見えた。
何だろうか、この違和感は。
少なくとも高台の上から見惚れた彼女は、こんなんじゃなかった。

『―――ガガッ――――シスター・エルレイン、こちらマーサです』

「あ、シスター・マーサ。エルレインです」

俺が彼女の表情に違和感を感じている間に、電話の相手が来たようだ。

『報告は聞きました……で? 間違いはないんですか?』

「はい! 間違いありません! 彼はトロイに感染しない身体を持っています。
 これで……」

『ええ、もしかすれば……世界中の人を救うことになるかもしれないわね』

なんだか俺を見つけたことを嬉しそうに話す彼女たち。
世界ねぇ・・・最初に説明は受けてたけど、俺が世界を救うタマには思えないんだけど。
まぁ、人と比べて特殊な力があるのは認めるけど。
それでも世界は言いすぎじゃないかな。

『……それでエルレイン、あなたが発作を起こしたのも事実?』

「……はい。私はもう……そう長くないと思います……」

「!?」

今なんて、なんて言った? そう長くない?
こんなに元気そうなのにか?

「なぁ、それってどういうこと?」

それまで黙っていたけど、電話に向かって問いかける。

『!……あなたがキリ君ね?』

「お、おう」

電話の向こうの相手が話すその内容は、俺が想像していた以上に重いものだった。

『シスターにとってトロイの発作を起こすのは“寿命”と同じなの。
 トロイの毒の許容量が臨界に達することで発作は起きる。
 あなたがその子の発作を止めたのには驚いたけど……そうでなければ彼女は今頃死んでいるわ』

「……」

『放っておけばきっとそのうちまた発作が彼女を襲うでしょう』

「どうにも……なんないのか?」

俺は隣の彼女に問いかける。
すると彼女は慌てたように開いてる左手を振って何でもないかのようなそぶりをした。

「あっ、あんまり気にしないでくださいね?
 元々覚悟してやってきたことですから……いずれはこうなると……」

たぶん俺を気遣っての言葉だろう。
その証拠に、俺は彼女の指がきゅっと受話器を握りしめるのを見たからだ。
覚悟なんてできてねぇじゃねぇか。

「それに……私が発作をおこしたから。
 そのおかげであなたを見つける事ができた。
 シスターとしてこんなに嬉しいことはありません。ですから……」

まただ。彼女は俺に向かって笑顔で語る。
でも目は笑えていない。無理して言ってんのがばればれなんだよ。
なんかいらいらする。

『それで思っちゃったんだけどさ~』

「「……」」

俺が彼女に何か言おうとした時、そのタイミングを電話の向こうの相手が遮った。
ていうか何か口調がえらく軽くなったような。
でもなんだろう、この嫌な雰囲気を壊してくれたことにはちょっと感謝。

『あんたら今も手を繋いでんのよね~?
 キリ君の体に触れている間は病気の進行も止まる……そうだったわねエルレイン?』

「ふぇ? あっ、はい」

『じゃああんたらさ~~、ずっとそうしてればいいじゃん』

! ああ、そうか。その発想はなかった。

「なるほど、そうだよな」

「えっ? 何? 何です?」

俺は相手が言わんとしていることはわかったけど、どうやら彼女は理解していないようだ。
てか君の生死に関わることなんだから君が一番理解できなきゃいけないだろうに。

『どういう原理か解らないにしろキリ君はあなたの発作を止めた。なら……』

「手をつないでいれば発作は起きないかもしれない」

発作が起きなければ死ぬことはないんだから、今の状態なら問題ない。
あんた死なずにすむかもしれないよ。
俺がそういうと彼女はさっきまでの態度が嘘のように明るく声をあげた。

「ほ、本当ですか!?」

「可能性は高いんじゃねえか? やったじゃんあんた」

「はい!」

……なんだよ、そんな顔でもちゃんと笑えるんじゃないか。
今の彼女の顔は希望にあふれ、花が咲いたように明るく笑っていた。
そう、この顔だよ。俺があの時見惚れた顔は。
しかし笑い合う俺たち二人に、電話の向こうから厳しい現実を宣告される。
厳しいっていっても、俺よりも彼女にとってって感じが強いけど。

『簡単なことじゃないのよー?
 これからは寝る時もトイレの時もお風呂の時もずっと手をつないでなきゃなんだから~』

……俺女の子が、鳩が豆鉄砲くらったような顔するの初めて見た。

『いいわね、これで行きましょう!
 良かったわね~エルレイン、あなた死なずに済むじゃない?』

……ん? 待てよ? 寝る時もトイレも風呂も一緒?

「は?」

「えっ……今なんて言いました?
 う……嘘ですよね?」

嘘であって欲しいという願望の彼女の言葉は、しかし次に聞こえてきた内容でつぶされる。

『しょうがないでしょう? そうでもしないと死んじゃうんですから。
 いいですかシスター・エルレイン……今この瞬間から。
 トイレの時もお風呂の時も寝る時も一秒たりとも繋いだその手を離すことを禁じます』

こんな可愛い女の子と風呂もトイレも寝る時も一緒。
なんてドキドキする響きだろう。

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

「……ぃよっしゃああああああああああああああああああああああ!!」

「ちょっ!? 喜ばないでください!!
 マーサ、ちょっと待ってください!! そんなの困ります!」

俺と違ってこの子は不満たらたらなようだ。まぁ、男と女じゃ大変さも段違いだろうしなぁ。
それとも俺が呑気なだけなのだろうか。

「トイレもお風呂もって!……私たち男と女なんですよ!?
 今日出会ったばかりなんですよ!?」

「寝るのはいいのか?」

「良くないです!!」

『……アッハッハッハッハッハ……』

「笑うなぁ!!」

元気だなぁ。さっきまでの通夜のような雰囲気が嘘のようだ。

『そんなに怒鳴ることでもないでしょう?生きるか死ぬかの問題でもなし』

「“死ぬ”か“死ぬ”かの問題ですよ!!」

『まぁそんなガミガミしないで……エルレイン? 今から大事な指令を出します。よく聞いて』

「えっ?」

電話の向こうの空気が変わった。
さっきまでのおちゃらけた口調が、また基の真面目そうな口調に戻る。

『これからのあなたの……あなた達の任務。
 それは全てのことに優先して私のいるシスター協会本部まで迅速にキリ君を連れてくること』

そして俺も注意された。
まず俺にはこの任務に関して拒否権はないということ。
世界中の人間がトロイの治療法を、俺の体に宿る可能性を必要としていること。
俺の体を調べるには設備から言っても協会本部しかありえない。
つまり最低でも本部に着くまでは彼女の手を握ったままになること。

『こちらも君たちが早くたどり着けるようできうる限り最大のバックアップはするわ』

これが、俺たちの旅の始まりを決定づけた出来事だった。

『一緒に世界を救いましょう。それじゃ頑張ってね』




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