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No.29132の一覧
[0] [習作]BALDR SKY -across the destiny-[ジエー](2014/05/06 21:13)
[1] 前章 始まり -prologue-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[2] 前章 喪失 -always loss-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[3] 前章 邂逅 -encounter-[ジエー](2012/03/17 11:51)
[4] 前章 決意 -decision-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[5] 後章 追逃劇 -passing each-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[6] 後章 研究所 -drexler-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[7] 後章 干渉 -re start-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[8] 第一章 覚醒 -awake-[ジエー](2011/08/19 08:58)
[9] 第二章 背反 -contradiction-[ジエー](2011/08/25 02:20)
[10] 第三章 魔狼 -fennir-[ジエー](2011/09/01 02:24)
[11] 第四章 既知 -know-[ジエー](2011/09/23 20:10)
[12] 第五章 幼馴染 -childhood friend-[ジエー](2011/10/12 19:05)
[13] 第六章 不安 -uneasy-[ジエー](2011/10/26 15:22)
[14] 第七章 情報屋 -edy-[ジエー](2011/12/01 10:43)
[15] 第八章 悪夢 -nightmare-[ジエー](2011/12/16 17:35)
[16] 第九章 医者 -doctor-[ジエー](2012/01/20 21:55)
[17] 第一〇章 アーク -arc-[ジエー](2012/03/17 11:54)
[18] 第一一章 接触 -connect-[ジエー](2012/08/19 23:11)
[19] 第一二章 影 -shadow-[ジエー](2012/08/19 23:14)
[20] 第十三章 遭遇 -unexoected-[ジエー](2013/03/11 03:05)
[21] 第十四章 模倣体 -sard-[ジエー](2013/08/29 15:52)
[22] 第十五章 暗躍 -underground-[ジエー](2013/10/11 17:03)
[23] 第十六章 潜入-bootlegger-[ジエー](2014/05/06 21:19)
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[29132] 後章 干渉 -re start-
Name: ジエー◆7693fe4e ID:81c4baf6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/25 01:49


 「何、なのよ……」




  ポツリ、と。

  空の口から、とても細い声が漏れた。

  感情が、最初は水道から滴る雫のように……やがて、栓が緩められていくように激しさを増していく。

  困惑。そして、怒り。

  彼女にとって、目の前の光景はまさしく訳の分からない現象だった。




 「何、よ。何なのよ……こんな、今更……」




  何が言いたいのか、空自身にも分からない。

  ぐちゃぐちゃになった胸の内が思考を掻き乱して判断力を奪っている。

  ただ、分かる事は一つだけ。




  銃口を向ける。

  恋人が持っていた物と瓜二つのシュミクラムへと。




 「……ドミニオンか、私を直接狙った誰かか……何をどうやってそれを見せているかは、知らないけどね」




  縋ってしまいそうになる気持ちを捩じ伏せる。

  彼はもういない。

  あの日、目の前で、融けて消えていった。

  彼は、もう、いないのだ。

  それを……




  それを―――!




 「あいつを、私の大切な人をっ! 勝手に弄んでくれるんじゃないわよッ!!!」




  純粋な怒りが爆発する。

  カゲロウ・冴が、目の前のカゲロウへと突撃した。

























  後章<03> 干渉 -re start-

























 「はぁぁあああああッ!!」

 「ちぃっ!」




  白を基調としながら赤と青、正反対の色合いをした機体同士が刃を交えていた。

  繰り出されるスラッシュエッジにビームサーベルを振るう。

  互いに弾かれる刃―――だが、空は更に速度を上げて再度刃を振るった。

  その速さに甲は攻撃を避け切る事ができず、装甲が削られる。

  だが返す手で素早く懐に潜り込み、アームショットと呼ばれる武装を頭の下から打ち出した。

  大きく飛ばされるカゲロウ・冴―――しかし、その程度で沈む彼女ではない。




 「痺れなさい……!」




  カゲロウが動くよりも早く体勢を立て直したカゲロウ・冴からメテオアローが放たれる。

  高速で撃ち出されるそれに反応してみせたカゲロウは攻撃を避けるが、空の狙いは直撃ではない。

  余波が当たれば、それで十分だった。




 「なっ、機体がスタンした……!?」

 「終わりよッ!」




  装甲を大きく抉ろうとテリブルスクリューが繰り出される。

  手にした刃がドリルのように高速で回転し、カゲロウへと迫る。

  あんな物をまともに受ければ大した装甲を持たないカゲロウでは一溜まりもないだろう。

  無残に機体を抉り抜かれて、終わりだ。

  後には爆発によって散らばった残骸だけが残るだろう。

  そんな光景を、甲は幻視した。




 「冗談っ―――!!」




  瞬間、視界がスパークした。

  スタンではなくカゲロウが自ら電撃を纏い、周囲へと放出する。

  近付く者全てを弾き飛ばす武装、コレダー。それは攻撃を仕掛けようとしていたカゲロウ・冴とて例外ではない。

  放たれた電撃が物理的な衝撃として空に襲い掛かる。

  攻撃の最中に不意打ちで放たれたそれに、彼女は反応しきれない。

  結果、まともに電撃を受ける事になる。




 「あぐっ!?」

 「まだだ……!」




  勢いを付けてカゲロウが肩からタックルを仕掛ける。

  一瞬の予備動作の後に繰り出される高速の突撃が、弾き飛ばされたカゲロウ・冴へと容赦なく突き刺さった。




 「がっ……こ、のぉ……!!」




  その衝撃で吹き飛ばされる直前。

  空は手に持つ刃をハサミのように変化させ、カゲロウの胴体を掴む。

  そしてそのまま―――




 「これでも喰らいなさいッ……!!」




  自分が吹っ飛ばされる勢いのまま、ダウンスマッシュでカゲロウを振り回して叩き付けた。

  慣性を利用して自分自身は空中へと逃れ、カゲロウは叩き付けられて地面を跳ね回る。

  だが立て直しは早い。

  即座にブースターを吹かせて起き上がるとその視線を空中へと跳んだカゲロウ・冴へと向ける。

  そして、動いた。

  レイディングホーネットによる急降下攻撃とカイザーキックによる急上昇攻撃が真正面からぶつかり合う。

  衝撃がマシンの身体を震わせ、甲高い音がフロアに響く。

  両者共に新たなダメージはない。完全な相殺だった。




  そのまま二人は地面へと降り立ち、距離を保ったまま相手を睥睨する。




 (……認めたくないけど、似ている)




  水無月空は思う。

  目の前のカゲロウの戦い方、武装の自由度は間違いなく本物のそれと違いがなかった。

  学園生時代……まだ平和だったあの頃、空は真の付き添いで何度かアリーナへと行った事がある。

  その時に大会に出場していた甲達を影ながら応援したりしていたのだから、良く分かる。

  見覚えのある動き、統一性のない様々な武装。

  だからこそ空の思考を占めるものは一つ。




 (……この機体)




  六条コゥ―――門倉甲は思う。

  目の前の襲撃者は彼の持つ機体と似通っている部分が非常に多かった。

  甲は自分が同じ系列の機体とチームを組んでアリーナで戦っていた事は思い出している。

  だからこその疑問。その場面にいないこの機体は、はたして何なのか。

  記憶にある機体が自己進化ロジックで変化した物なのか、それとも全くの別人が纏っている物なのか。

  いくら考えても答えが出ない故に、甲は思う。




  二人は同時に、お互いの機体を睨みながら思う。




 (こいつは……誰だ)




  互いに銃口を向け合う。

  戦いは、まだ終わりを見せない。


























                    ◇ ◇ ◇

























  混戦が繰り広げられていた。

  至る所から銃弾が放たれ、飛び交い、装甲を貫く鈍い音が響く。

  その中を、クリスは圧倒的な速度で敵を切り刻んでいた。




 「纏めて刻んであげる!」




  波乱のカドリーユ―――両手に装備されたチェーンソーを丸ノコに変化させての回転突撃が繰り出される。

  進路上に存在したシャドーランを二機ほど巻き込み、本命の一機ごと驚異的な回転速度で切り刻んでいく。

  そのまま更に縦へと回転して胴体部分の刃で相手を切り上げる。

  ガリガリガリ!! と装甲を削る耳障りな音が響く。

  魔刃のスジェ。回転による切り上げから打ち落としの追い討ちが繰り出された。

  地面に叩き付けられた三機のシャドーランは耐久値が限界を超えて爆発四散する。

  そこから、クリスは更なる攻撃を繰り出す。




 「シフトッ!」




  シフト&リフト。

  グリムバフォメットの格闘形態と射撃形態を切り替えるための武装であり、蓄積した熱量を僅かであるが排熱できる機構を持っている。

  そして、眼下に残る敵全てにロックを仕掛けた。

  それら全てに対して、攻撃が敢行される。




 「さあ、受けなさい!」




  エレクトロミサイルが放たれる。

  放たれた弾頭を避けた者も直撃した者も、例外なく爆発と共に発生した超電磁フィールドに大きく弾かれた。

  そこへ、別方向からの攻撃が襲い掛かる。




 「今です、一斉射撃!!」




  レイン率いる部隊が弾かれて体勢を崩したシャドーランを纏めて撃ち尽くす。

  動けなかろうが、砲台として機能するならば攻撃に問題はない。

  ある程度の方向修正はこちらで手伝えばできるのだから、攻撃時の戦力は損傷前と大して変わってはいない。

  彼女が連れていた部下の数は六。彼女自身を含めれば戦力数は七となる。

  残っていた敵はシャドーランが三機。そしてジルベルトのノーブルヴァーチェを含めて四機だ。

  そんな戦力比で射撃をまともに受ければ、どうなるか。




 「くぁぁああああああああああっ!?」




  次々と爆散していくシャドーランがその答えだった。

  瞬く間にジルベルトの取り巻きが壊滅し、損傷機を含めた七機とクリスのグリムバフォメットが立ちはだかる。

  一気に増援の望めない四面楚歌へと陥っていた。

  クリスが嘲るように言う。




 「それで? 確か私に『勉学が優秀なだけでは生き残る事のできない世界』とやらをご教授してくださるのではなかったのかしら」

 「ぐ、くぅ……!」




  一歩、クリスが歩を前に進める。

  一歩、ジルベルトが後ずさった。

  それを自覚して、ジルベルトが更に悔しげに呻き声を上げる。




 「どうするのかしら? 現在の戦力比はざっと八対一……まだ続けるというのなら喜んでお相手を務めさせてもらうけど」

 「こ、の……! 好き勝手にやらせてやれば調子に乗って……!!」




  もはや怨念すら感じるほど忌々しげにクリスを睨むジルベルト。

  先程までの態度とは全く真逆のそれに、よくもまあここまで綺麗に手の平を返せるものだとクリスは呆れかえる。




 「じゃあこのまま戦いを続けるのね。意外と男らしい所があるじゃない、ジルベルト君」

 「フン、俺自ら手を下してやりたいところだが……残念ながら時間切れだ。今日のところは見逃してやる……」




  低く、そう言ってジルベルトの姿が掻き消えた。どうにも離脱したらしい。

  ヘタレめ、とクリスが短く吐き捨てて―――レインへと向き直った。

  一時的に利害の一致から共闘したものの、お互いの目的は不明。つまりは敵か味方すら判断が付けられない。

  警戒して当然の関係ではあるのだが……




 「桐島さん、あのヘタレの言葉から察するにこの施設には何か物騒な物があると思うんだけど……心当たりはないかしら」

 「おそらく自爆装置でも仕掛けているのでしょう。放っておけばあと数分もしないうちに論理爆弾が起爆すると踏んでいます」

 「あと数分、ね……それまでに誰かさんは戻ってこれるかしら」




  今はそんな事を言っている場合ではない。

  ここでもたもたしていれば纏めて全滅、なんていう事も十分にあり得るのだ。

  だからここで下手に敵対行動をとるような真似はしない。

  レインとクリスは妨害装置による通信へのジャミング効果が消えている事を確かめると、それぞれの相方へと連絡を取った。

























                    ◇ ◇ ◇

























  そうして睨み合っている最中、突如として互いに通信が入った。




 『聞こえるかしら。手短に説明するとここはもうすぐ自爆するからとっとと逃げてきなさい』

 『中尉、この施設の自爆装置が作動しようとしています! 今すぐ退避を!!』




  その内容にすぐさまここに留まるべきではないと判断を下す甲と空。

  直後、けたたましい警報が施設全体に響き渡った。

  自爆装置の作動が近い。

  それを察知した二人は即座に駆け出そうとして、




 「―――」

 「―――」




  一瞬だけ、互いの視線が交錯する。

  それを最後に、甲と空は全く別の方向へと駆け出した。

























 「それで、お前の方はもう脱出してるのかよ」

 『私も退避を始めているところよ。まあ施設の自爆までに範囲外には逃げ出せるでしょうし、貴方もさっさと戻ってきなさいよ』

 「言われなくても……!」




  クリスに発破を掛けられて甲は更にブーストを吹かせる。

  こんなところで論理爆弾にやられて脳死など、冗談ではない。

  限界近くまでブーストを吹かせ続けるが一向に出口は見えず、通過してきた道が実際の距離以上に長く感じられる。

  その上、施設の警報もそのけたたましさを増していた。




 『このっ、急ぎなさい! 既に最終秒読みが開始しわ! 早くそこを離れなければ脳を焼かれて終わりよ!!』

 「んな事を言っても、こっちだって急いでるんだよ……!!」




  ひたすらに走る。

  途中で出くわしたウイルスなどは全て無視して突っ切り、ただひたすらに走り続ける。

  そうして走っている最中に、










 「甲……」










  自分を呼ぶ声が、聞こえた。




 「え……」




  思わず、足を止めて辺りを見渡す。

  声の主は―――彼のすぐ足元に、佇んでいた。




 「君、は……?」




  突然の出来事に思考が停まる。

  この場に似つかわしくないどこかの学園の制服を身に纏った少女が、そこにいた。

  かなり薄い茶色―――どちらかといえば肌色に近い―――の長髪をツーサイドトップに纏めている。

  目の色は紅く、甲を見上げながら彼女は微笑んでいた。

  その笑顔に、頭が揺さぶられる。




 「ぐっ……」




  ……何だ? 俺は、この娘を、知っているのか?

  名前だけは覚えている知人達。この少女は、そのうちの一人なのだろうか?

  疑問が甲の思考を停止させる。

  少女は微笑みながら、口を開いた。




 「ごめんなさい。貴方の脳チップは、あの日に受け取った情報量に耐え切れずに深く傷ついてしまった。

  私達としてもそれは想定外で、ずっと貴方に謝りたかった。

  ごめんなさい……」

 「いや、待て。待ってくれ。情報量に耐え切れずに脳チップが損傷?

  そんな馬鹿な。一体どれだけのデータを受け取ればそんな馬鹿げた事態に―――」




  そこまで言って、甲はふと思い至った。

  つどつど思い返す戦闘の情景。あれは確かに、未知の情報という枠に入りはしないか?

  いつも後になって気付くのだが、思い返す光景は一度、始めて神父と戦った際に全て見ているのだ。

  ただ、それがまた思い返せなくなり……後になって、似たような状況になって初めて再び思い返す。

  まるで一度、その戦闘を経験していたかのように、だ。

  あれがもし彼女の言う通り自分が受信した情報なのだとすれば……?




 「いや、だとしてもありえない。あの程度の情報を送りつけられただけで……」

 「貴方が受け取ったデータはそれだけじゃない。むしろ、そっちはおまけというか、予想しなかった弊害みたいなものかな。

  ある程度の知識は順序立てて説明していくつもりだったけど、戦闘経験までまとめて流入したのは予想外」

 「は……な……」




  何を言っているのかがさっぱり分からない。

  既知の情報食い違いがあるのか、それとも単に知っている事実量の差から来るものかは分からないが、とにかく分からない。

  すると、甲のそんな困惑を見抜いたように少女は笑う。




 「確かに今は分からないと思う。突拍子もない話だし、信じられないと思う。

  だけど、これだけは覚えておいて。そして信じて欲しい。貴方は―――」










  ―――貴方は、全てを思い出せる。

























  時を同じくして、空も施設を脱出するために全力で走っていた。

  数あるシュミクラムの中でも群を抜く速さを誇るカゲロウ・冴は、あと少しで施設を抜け出すところまで到達している。

  それでもまだ足りない。

  しかけられた論理爆弾の範囲はおそらく施設外にまで及ぶだろう。

  だから、完全に逃げるつもりなら施設の外に脱出してもまだ走る必要がある。

  そう考えて、流れる景色を高感度カメラ越しに見つめながら―――空はさっきの戦闘について思い返していた。




 (……あの機体は、カゲロウ。たぶん、それに間違いはない)




  今まで戦場を駆け巡ってきた空だからこそ断言できる。

  あそこまで多彩な武装を積んでいるシュミクラムなど、門倉甲の駆るカゲロウ以外に存在しなかった。

  当時も彼は多彩な武装を武器として多くの対戦相手に勝利を収めてきたのだが、他の機体にあそこまで豊富な武装が装備されているのは見た事がない。

  更には統一性まで皆無ときた。

  電撃を放ちもすれば単純な打撃技もあり、ビームサーベルやフィールド兵装、実弾から光学まで実に節操無しと言う他ない。

  だからこその疑問。

  操縦者のパーソナルデータに合わせ機体を生成し、自己進化ロジックを積んでいるカゲロウがこの世に二つとして存在するはずがない。

  同一性が皆無の唯一性。

  ウィザード、西野亜季の手によって開発されたワンオフモデル。

  同一人物でもなければ、同じカゲロウが生成されるはずがないのだ。

  それが、余計に空の思考を混乱させる。




 「ああもうっ、何だってのよ一体……!」




  答えが出ない思考に苛立ち交じりの声を上げる。

  その時、










 「空……」










  自分を呼ぶ声が、聞こえた。




 「え……?」




  有り得ない、懐かしい声に、全ての挙動が停止する。

  立ち止まり、周囲を見渡してしまう。

  と、そのすぐ足元に―――彼はいた。

  その姿を見て、空は目を見開く。

  見覚えのある学園の制服。少しはねている茶色の短髪と、水色の瞳を持った少年。

  カゲロウを前にした以上の驚愕で―――小さく、呟いた。




 「こ、う……?」




  すると、彼は小さく首を横に振った。

  え? と空の口から更に疑問の声が上がる。




 「俺は甲じゃない。甲と同じ姿をしているだけの、全く別の存在だ」

 「っ、ならNPCか何かかしら。ドミニオンのような宗教勧誘はお断りなんだけど」

 「惜しい、と言っておく。何にしろ、お前は俺が何かは知っているはずだけどな」




  何を、と口にしようとして……空はふと思い至った。

  全く同じ姿をした電子体。そうでありながら、別の存在である。

  NPCという存在の定義に惜しいと返した彼の言葉。

  未だに目の前の光景は信じられないが、それを肯定して答えを導くのなら……




 「まさ、か……シミュラクラ、なの……?」

 「正解、ビンゴだ」




  ニヤリ、と少年は口を歪めて笑った。

  それこそ、空が良く知る彼とよく似た不敵な笑みで。

  だが空はその事実を即座に否定する。




 「ありえないわよ! 模倣体はモデルとのリンクがなければ存在する事はできない!

  あいつは、甲はっ、あのクリスマスの日に死んでいるのよ!!」

 「……あの日には、色々な事が一度に起こった。そして今も、あの日は最も大きな分岐点の一つだ。

  今まで観測されていた可能性は三つ。そして……四つ目を紡ぐために、今こうして俺達はここにいる」




  空の疑問にあえて答える事はせず、彼は言葉を続ける。




 「空は、AIとの親和性が高かったために予想外の弊害は最小限で済んだ。

  逆にあいつは結構な被害を被ったけど……それでも、道筋は繋がっている。

  きっと上手くいく。だから、空もあいつを信じてやってほしい」

 「待ちなさいってば! 黙って聞いていればさっきから一方的に訳の分からない事ばかり!

  あいつって誰よ! 起動しないはずの模倣体がいるのは何故! そもそも、あいつに貴方がいた事をあいつは知っていたの!?」

 「……その答えは、俺がお前にやれるものじゃない。お前が自分で見つけ出さないと、意味がない」




  言って、彼は空を見上げる。

  真っ直ぐに、空を見つめて、笑った。










  ―――きっと、近いうちにあいつと……門倉甲と、会えるはずだ。

























 『中尉! もう時間がありません、早くっ!!』

 『甲! 早くそこを脱出しなさい! 死にたいの!!』

 「「っ!?」」




  そこで、唐突に降ってきた声に二人は我に返る。

  慌てて周囲を探るが、先程の人物はどこにも見当たらない。

  訳の分からないまま走りだし、施設を抜け、更に爆発の範囲から抜け出すために走り続ける。

  瞬間、




 『警告、警告。

  後方で大規模なエネルギー反応。

  衝撃波の到達まで、あと10……9……』




  機械音声の警告と共に、背後で青白い閃光が瞬いた。

  それは見る見るうちに大きさを増していき、二人を呑み込まんと迫ってくる。

  しかし、その衝撃波はお飾りに過ぎない。

  灼熱や突風はサブであり、メインは接続者を皆殺しにする神経パルスだ。




 「くそっ、逃げ切れないか……!」

 「ちぃっ、逃げ切れない……!」




  別々の場所で、二人は同時に舌を打つ。

  せめて最後まで逃げ続けてやろうと更にブースターを吹かし―――










  瞬間、全ての視界が白に染まった。

  脳を揺るがす衝撃が響き、視界がぶれ……次の瞬間、二人は驚きに目を見開いた。










 「何だ……これ」

 「動きが……停止、しているの?」




  目に見える全てが凍結していた。

  灼熱も、突風も、閃光も、それによって破壊されて崩壊を始めていた構造体も……その全てが停止していた。

  幻覚でも見ているのかと混乱するが、すぐにそれどころではない事を思い返す。

  この現象が幻覚であれ何であれ、チャンスであることに変わりはない。

  二人はここぞとばかりにブーストを吹かせ、爆発の範囲外へ脱出すべく走り続ける。

  そして、あとすこしで逃れられる。

  そう安堵感を感じた瞬間、









  ―――世界が解凍した。










 「くそっ……!」

 「こんなところでっ……!」




  背に衝撃波と閃光が叩き付けられる。

  激しい振動と衝撃。

  今度こそ視界が全て白に染まり―――次の瞬間、まるでブレーカーが落ちるように精神の活動が停止した。


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