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No.29132の一覧
[0] [習作]BALDR SKY -across the destiny-[ジエー](2014/05/06 21:13)
[1] 前章 始まり -prologue-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[2] 前章 喪失 -always loss-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[3] 前章 邂逅 -encounter-[ジエー](2012/03/17 11:51)
[4] 前章 決意 -decision-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[5] 後章 追逃劇 -passing each-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[6] 後章 研究所 -drexler-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[7] 後章 干渉 -re start-[ジエー](2011/08/25 01:49)
[8] 第一章 覚醒 -awake-[ジエー](2011/08/19 08:58)
[9] 第二章 背反 -contradiction-[ジエー](2011/08/25 02:20)
[10] 第三章 魔狼 -fennir-[ジエー](2011/09/01 02:24)
[11] 第四章 既知 -know-[ジエー](2011/09/23 20:10)
[12] 第五章 幼馴染 -childhood friend-[ジエー](2011/10/12 19:05)
[13] 第六章 不安 -uneasy-[ジエー](2011/10/26 15:22)
[14] 第七章 情報屋 -edy-[ジエー](2011/12/01 10:43)
[15] 第八章 悪夢 -nightmare-[ジエー](2011/12/16 17:35)
[16] 第九章 医者 -doctor-[ジエー](2012/01/20 21:55)
[17] 第一〇章 アーク -arc-[ジエー](2012/03/17 11:54)
[18] 第一一章 接触 -connect-[ジエー](2012/08/19 23:11)
[19] 第一二章 影 -shadow-[ジエー](2012/08/19 23:14)
[20] 第十三章 遭遇 -unexoected-[ジエー](2013/03/11 03:05)
[21] 第十四章 模倣体 -sard-[ジエー](2013/08/29 15:52)
[22] 第十五章 暗躍 -underground-[ジエー](2013/10/11 17:03)
[23] 第十六章 潜入-bootlegger-[ジエー](2014/05/06 21:19)
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[29132] 第十六章 潜入-bootlegger-
Name: ジエー◆7693fe4e ID:b4d897e7 前を表示する
Date: 2014/05/06 21:19



  ※あてんしょんぷりーず※
  今回のお話よりBALDR SKY ZEROおよびBALDR SKY ZERO2の多大なネタバレ要素が含まれます。
  そういうのが苦手な方は直ちにブラウザバックを推奨です。
  かまわねーよ! という剛毅な方はどうぞお楽しみください。

























 「さて、どうしようかしら」

 「どうするかなあ……」




  夜。

  コゥとクリスはスラムの人混みの中を歩いていた。

  軍服を纏った二人に好んで声を掛けようとする者など居るはずも無く、ただ黙々と二人は歩いている。

  が、その歩く先に当ては無い。

  というのもついさっきに宿がドミニオン信者の襲撃に遭ったためだ。

  予め経営者にそういう事があるかもしれないと多めに金を払っておいたのでその点は心配ないのだが……




 「……また、ノイの所に行くか?」

 「……出戻りっていうのも、なんだかねえ」




  こう、締まりがないというか決まりが悪いというか……

  そもそも、見つかってしまった以上は気楽に知人を訪ねるのも憚られる。

  危険に巻き込む可能性がある以上、出来るだけ自分達だけで行動すべきだ。

  が、実際行く当てが無いのも事実である。

  このままではスラムの片隅で野宿をする羽目になりかねない。

  別に珍しいことではないが物珍しさに周囲の人間が隙を狙って物色してくる危険がある以上、それは避けたい。




 「予備のセーフハウスでも用意できればよかったんだけど……」

 「めぼしい物件は粗方抑えられてたからなあ……」




  となると、その場凌ぎの宿でも使うしかないだろう。

  古今東西、こういう時に使われる場所は決まりきっている。




 「ネットカフェ、行くか」

 「そうしましょうか」
























  第十六章 潜入 -bootlegger-

























  米内議員殺害から二日が経った。

  彼を殺害した狙撃犯の行方は掴めず、今もCDFが捜索中ということになっている。

  が、おそらくそれは形だけなのだろうというのも空はなんとなく察していた。

  つまり世はなべて事も無し。

  都合の悪いものが一人間引かれた程度で世の中の動きは変わりはしない。

  日々の動きに変わりも無い。

  だから、それを動かすためにフェンリルの主要メンバーはフェンリルベースの指令室に集まっていた。

  一同が揃ったのを確認して、フェンリルの元締めである永二が口を開く。




 「さて、集まって貰ったのは他でもねえ。件のNPC密造業者へ潜入調査を仕掛けることになった」

 「そこは阿南が  にしている場所でもある。奴はドミニオンと繋がっている可能性が確実視されており、この場所は奴らの拠点と繋がっているとの情報もある。

  更にそこからドレクスラー機関にも繋がっている可能性は高い。

  よってここから何らかの情報を持ちかえる、あるいは証拠を押さえることが今回の目的だ」




  シゼルの言葉と共に各員の視覚野にいくつかの情報が表示される。

  今回の潜入場所は『愛と快楽のフォーマル』―――よく見受けられる娼婦館だ。

  裏でNPCの密造などやっている以上、まともであるはずなど無いのだが。

  とかく、ドレクスラー機関に繋がるのなら空にしても否は無い。

  しかしだ―――




 「こういう場所には正面から堂々と入った方が手っ取り早いんだろうけど……」




  そうするとカップルを装う必要が出てくる訳で。

  というかそもそもドミニオンに対しては碌な思い出が無い。

  あの異端の中の異端を突き詰めたようなヌーディスト集団のことなど思い出しただけで鳥肌が―――




 「うぅ……っ」

 「どうした中尉」

 「いえ、少し嫌なものを思い出しまして……」




  そうか、と短く返されてそれ以上追及されることはなかった。

  とにかく、NPC密造業者を探るにしても出来るだけ穏便に済ますに越したことはない。

  であるならば然るべき手順を踏むべきであり、ここで問題になってくるのはこの施設には一人で入ることは出来ないということだ。

  そして頃を見計らったかのように永二が潜入員についての話を始めた。




 「んで面子についてだが―――俺とシゼル、それと空嬢ちゃんだ。モホークとレイン嬢ちゃんは外部からのサポートに回ってくれ。

  真嬢ちゃんは遊撃として待機だ」

 『了解(ヤー)』

 「うし、だったら解散。各自任務に備えろ」




  締めの一言でそれぞれが自身の仕事のために散っていく。

  若干一名、隊長自ら動く姿勢に文句を言いたげにしていたがそれだけだった。

  空とレインも準備に入ろうとして―――その前に永二に呼び止められた。




 「空嬢ちゃん、ちょっといいか」

 「はい、何でしょうか大佐」

 「潜入についてだがな、嬢ちゃんは俺とシゼルと行動を一緒にするよりは個人で動けた方が良いだろ?」

 「それは……はい」




  空は空の思惑があり、フェンリルはフェンリルの思惑がある。

  それが似通った方向を向いているとはいえ、必ずしも合致しているとは限らないのだ。

  そこを明確にしないままに進んでいけば双方共に意図しないズレが生じてしまう。

  二つの水の流れがぶつかれば別の流れが生まれる―――それと同じだ。

  だから、行動については互いの規範を明確にしておく必要がある。




 「そもそもとして嬢ちゃん達は組織への入隊については見送り状態―――まあ、外部協力者って形だ。

  できるだけ行動に融通は利かせるつもりだが場所が場所でな……一人だけで行動させるのにはリスクが高い」

 「理解しています。だから今回、私はそちらの行動に合わせるつもりです」




  そちらの方がリスクが低いのも確かではあるし、下手に騒ぎを起こせばドレクスラー機関が尻尾を巻く可能性も十分にあるのだ。

  空としてもそれは望ましくない。

  それはフェンリルにとってもそうであり、依頼主であるアークについてもそうだろう。

  そう、そうなのだが―――




 「つーわけでだ。嬢ちゃんはノイの奴と一緒に入って貰おうと思う」

 「……………は?」




  一瞬、言われたことを上手く呑み込めなかった。

  ノイ―――ノイといえば、あのノイなのだろうか?

  わざわざ名指しする以上、間違いということはないだろうが―――あの、ノイと……?




 「大佐、私に喰われて来いと……?」

 「あー、違う違う。んなわきゃんあいからそう震えなくても良いって」




  そうは言われても本能的な危機感はどうしようもないのだ。

  あの性愛好者が自分と致せるかと問われれば確実に、実に御免被りたいことだがイエスだろう。

  端的に言って、貞操の危機だと断言せざるを得ない。

  そんな空の様子を見て、発言の意図については大体の察しがついていたのか永二は軽く溜息を吐く。




 「アイツはまたなーにやってんだか……心配しなくてもノイだってとって喰いやしないさ。

  既に話は通してある。潜入した後は俺らの組と嬢ちゃんの組は別行動―――それぞれ目的に向けて動くって形だ」

 「あ……」




  つまり、それが譲歩なのだ。

  任務に付き合って貰うという最低限の体裁は取りつつ、こちらに心を砕いてくれている。

  一部隊の隊長としてそれはどうかとおもうが―――考えてみれば分隊からしてそんな方針が多々見受けられたのだ。

  大本がこうであっても何らおかしくはないだろう。

  後ろでシゼルが深い溜息を吐いているのが見えたが、それはそれだ。




 「ありがとうございます、大佐」

 「良いってことよ。ま、俺個人の感傷みたいなもんだからな、気にしないでくれや」




  その発言の意図は、考えるまでも無く察することが出来た。

  死んでしまった―――少なくとも、公的には既に故人として扱われている永二の息子。

  彼の態度からして親子仲が上手くいっているとは言えなかったようだが……それでも、彼は確かに愛されていたのだろう。

  そうでなければただ彼の恋人だったからという理由だけでこうも自分に気をかけはしないはずだ。

  そしてそれを、空も迷惑だとは思わない。

  ありがたくもあるし感謝もある。少しばかり暖かい気持ちにもなれた。

  なら、それで十分だ。期待にはきっちり応えねばならない。




 「それでは行ってきます、大佐」

 「おう。気を付けて行って来い」




  踵を返す。

  懸念事項は多いものの、動かなければ何も始まりはしない。だから今は進もう。

  たとえ何も見えなくとも手探りで進んでいこうと決めたのだから。

























                    ◇ ◇ ◇

























  そこは陽の光の差さない場所だった。

  コンクリートの壁に囲まれ、地下に埋まったこの空間に陽の光は差し込まない。

  蛍光灯による光だけが光源となる薄暗いそこは、徹底して理路整然とした機能美を追及している。

  隙の見えない冷たい刃のような張りつめた空気がそこにはあった。

  その中で―――渚千夏は次なる任務へと備えていた。

  前回の任務では途中で下手を打ってしまったために余計な情報を漏らす羽目になった。

  それがどこの組織にも通じてそうにはない、個人による襲撃だったことは不幸中の幸いだろう。

  だが、その襲撃を行った人物―――正確には襲撃を行った二人のうち一人のことがずっと脳裏にこびりついて離れない。

  あの人物を見た衝撃は、自分でも思っていた以上に動揺を呼んでいるらしかった。




 「はあ……」




  気持ちを切り替えようと息を吐く。

  だがそれで鬱蒼とした気持ちは消えてはくれない。そもそもその程度で消えるようならとっくに切り替えられている。

  やはり、それだけ自分の中では根深い問題なのだろう。

  どうにも自分は、自分で思っている以上に未練がましい女であるらしい―――などと内心で自嘲して、




 「どうかしました中尉殿。そのように意気消沈されているとは珍しい」




  と、一人の男の声がその思考を遮った。

  ここ最近自分の下に配属されてきた男の顔に、うんざりとした気持ちを隠しもせずに千夏は言葉を返す。




 「別に、伍長に関係する事じゃない」

 「いいや、そうもいきません。何せ中尉殿は自分の上司ですから。

  貴女が何かの原因で調子を崩しその上何かのトラブルを被っては部下の自分は上司をサポート出来なかったという事になります。

  上司のストレスを緩和するのも部下の務めだと思うのですが、どうでしょう?」

 「あのな……」




  いけしゃあしゃあとどの口が、とはこれまで何度も言ってきたので今更言ったところで無駄だと分かりたくもないが分かってしまっている。

  というかむしろ、ここ最近のストレスの主な原因は目の前のこの男なのであるがその辺りの自覚は―――おそらくはあるのだろう。

  で、その上で止める気はまったくもって見えない。もし今すぐこの男の上司を止めたいと言っても誰も咎めはしないだろう。

  それくらいの問題児である訳だが―――だというのに結果は平均以上に叩きだすのが性質が悪い。

  というか、傍から見ていると部下であるこの男が自分以上に能力があるのは確実だろう。

  下士官から伍長まで登って来たというが、それ以前にどこかの部隊の高位置に属していた可能性が高い。

  自分の上司とも旧知の仲のようだし、この推測はおそらく当たっている。

  ストレスの原因はその辺りにもあるのだが量が多すぎて一々思い返すのも面倒だった。

  その厄介者である部下の丁寧だが内心こっちを試していることが丸分かりの態度にどれだけ手、というか脚を出したことだろうか。

  その事如くをまるで子供でも扱うかのようにあしらうのだから心労ほども結構なものである。





 「それで、どうします? 私としては軽い休息をお勧めしますが。

  根を詰め過ぎていると回る頭も回りませんからね」

 「……あまり上官に舐めた言い回しをするのは止めろよ、伍長」

 「すみません、以後気を付けます」




  などと言いながら慇懃無礼な伍長の笑みは消える気配を見せない。

  暖簾に腕押し、馬の耳に念仏とはこういう事だろうか―――などと旧日本から伝わる諺を思い返す。

  それから言われた言葉を自分の中で反復して―――忌々しいことに、伍長の言う疲労による作業効率の低下を自覚せざるを得なかった。

  不機嫌になる顔を隠そうともせず、ある程度纏めておいた資料を丸ごと伍長に送りつける。




 「それを纏めておくことくらい、伍長なら出来るだろう」

 「一伍長には少し多すぎる量だと思いますが」




  確かにその通りだろう。

  が、当の本人には余裕の笑みが張り付いて離れていない。

  要はそういうことだ。むしろ、この程度かなどと兆発めいた色が見え隠れするのはもはや伍長の性分なのだろう。

  だが一々それに付き合うつもりもない。だから端的に、用件だけで問い詰める。




 「出来るか、出来ないのか、どっちだ」

 「出来ます」




  ならば問題ないなとばかりに席を立つ。

  伍長の言うとおり、あの襲撃者の片割れ―――甲らしき人物の姿が頭から離れないせいでいまいち集中出来ていない。

  気持ちを切り替えるためにも少し休息を取る必要があるだろう。

  そのまま背を向けて部屋にある簡易ベッドに向かおうとして……ふと、一つだけ聞きたくなったことが出来て扉を開けたところで足を止める。




 「……おい伍長。これに関しては立場を考えずに答えろ」

 「は、何でしょうか」




  顔だけを伍長に向け、常々思っていたことを聞いてみる。




 「あんた、あたしのことをからかって楽しんでるだろ」




  あまりにぶしつけな質問。

  正直に答えれば自分の首がその瞬間に跳んでもおかしくないようなその質問に―――




 「そうだよ?」




  にやけ顔で帰ってきた返答に、千夏は全力で扉を叩きつけて閉めることで応えた。

























                    ◇ ◇ ◇

























  ―――ネットスラムである無名都市。

  その中で性的趣向の強い区画―――『愛と快楽のフォーマル』と呼ばれる所がある。

  そういった行為を目的としたペアのための施設でもあるが、裏には非合法NPCによる娼館の顔も持っている。

  ある種、NPC好きにはたまらない穴場として機能しており、それは政府の上部まで食い込んでいるという話だ。

  であるならば、必然的に上部と接触を図ろうとする組織がここを当てにしてくる。

  つまりここは清城市に蔓延る各種暗部との接続点とも言える場所だ。

  だから各種勢力は手掛かりを求めてここへと行き着く。




 「……ビンゴね。この辺りにそぐわない反応がいくつかこっちに向かってきているわ。

  時期的にそろそろじゃないかと思ったけれど大当たりね」




  コゥとクリスもそんな勢力の内の一つだ。

  ドミニオンがここと繋がっていることは既に分かっている。

  ならばあとは出来るだけ敵に気取られぬよう接近するだけだ。

  こちらが単独で行動を起こすと単純に処理されやすい。一手仕損じただけで尻尾を掴めずに終わってしまうだろう。

  その分、状況は混沌としている方がその裏側で動きやすい。

  ドミニオンへと通じる何かをその騒ぎで引っ張り出せれば儲けものだ。

  そのためにも他の勢力が動く機会を見計らっていたのだが―――どうやらその時が来たらしい。




 「さて、それじゃあ私達も入りましょうか。この手の施設に入る際、男女ペアなのは都合が良いわね」

 「そうだな。その男女ペアが本当にそっちを目的にしているんならな」

 「あら、私が相方じゃご不満かしら。望むのなら虐めてあげるし、虐められてあげるわよ」




  チロリ、と小さく舌を出して指を舐める仕草は嫌に様になっていて扇情的な雰囲気を醸し出している。

  とはいえ自分達はそちらが目的でやって来た訳ではないのだ。




 「言ってろ。とにかく適当な部屋に入って簡単なハックから始めるか」

 「つれないのね。いけず」

 「おまえのその笑い顔を見て乗らなくて良かったなと改めて思ったよ」

 「残念」




  そう言いつつクリスはコゥの腕を取り、二人で施設の中へと入っていく。

  ―――その暫く後に、空達もこの施設にやって来た。

  途中の裸体の絡みを見続けて来たからか、空の表情は何とも言えないものになっている。

  レインはネットカフェから没入(ダイブ)している実体(リアルボディ)を見て貰っているが、ある意味連れて来なくてよかったと思った。




 「右も左も、どこを向いても盛りに盛っている連中ばかり……どころか、こっちにまで亡者のように絡んでくるなんて……」

 「はっはっは。そんなことでヘタれてしまっていてはこの先が思いやられるぞ空君。

  何なら耐性が付くように私が手ずから手解きをしても構わんぞ……?」

 「結構です」




  きっぱりとした返答を喰らい、さもつまらなさ気にノイは引き下がった。

  それを眺めてシゼルと永二は呆れた溜息を吐いている。

  やはり、こういう人物なのだと理解されている程度には付き合いがあるらしい。




 「それじゃあ手順を確認するぞ。このまま何食わぬ顔で俺達はゲートをくぐり、内部に侵入する。

  俺らが目指すのは制御中枢(コア)の制圧。空嬢ちゃんはレイン嬢ちゃんのサポートを受けながら例の件を頼む」

 「了解(ヤー)」




  例の件、とはブリーフィングが終わった後に橘聖良社長直々に依頼された件のことだ。

  何でも盗み出されたシミュラクラのオリジナルデータがこの施設のどこかにある可能性が高いというのだ。

  そしてその技術には軍やアークの中でも機密事項として扱われている接続者(コネクター)システムに由来するものなのだとか。

  その内容は機密故に説明されることはなかったが、それでもそれが只事では済まされない代物だということは理解できた。

  大体、出所があの狂気を遥かに振り切ったノインツェーンの遺産なのだ。碌な物ではないことは確かだろう。

  私的な動機を混ぜるなら同一人物とは思えないクゥも気になる。

  空としても引き受けない理由は無かった。




 「しかし、ノイ先生を連れて行って本当に大丈夫なんですか?」

 「かと言って君一人で施設を歩かせるわけにもいくまい。ここは本来ペア御用達……一人でいるとかえって目立つからな。

  その点、ここの会員でもある私が一緒に居れば下手に怪しまれる心配も無いということだ」

 「会員って、先生……」




  まあ如何にも好きそうではあるが、と脳裏にけったいな情景が浮かんで消えた。

  ノリノリで好意に及ぶ彼女の姿がやけに鮮明に思い描けてげんなりした気分になる。




 「さて、ここで突っ立っていても何も始まらねえ。

  質問が無いなら状況を開始するぞ。準備はいいな、おまえら?」

 『了解(ヤー)』




  こうして空達も『愛と快楽のフォーマル』へと足を踏み入れる。

  その光景を……上方から、一つの影が眺めていた。




 「ふむ……ふむ、いろいろと興味深い状況になってきているようですね。

  懐かしい顔もいますし……そろそろ清城市の状況も動くのでしょうね」




  どこかの屋上に腰掛け足を揺らしながら、ついと視線を上空へと向ける。

  それは空を通り越し、ここではないどこかを見つめていて―――




 「―――始まりますよ、ノインツェーン。

  貴方にとっても他人事ではない、世界の行く末を占う戦いが」




  白い尻尾が、風にぴょこんと揺られていた。

























                    ◇ ◇ ◇

























 「さて、ここらで別れるか。

  予定通り俺とシゼルはコアの制圧に赴く。空嬢ちゃんは例の件、頼んだぞ」

 「しかし……状況によってはノイ先生にどういう任務かが漏れてしまう可能性もありますけど」

 「そこら辺は前払いして口止めしてあるから問題ない。ということで、健闘を祈る」

 「了解(ヤー)」




  それを合図に空達は別々の行動を取り始めた。

  空とノイは、周囲の状況を探るように散策を始める。

  周囲の客は誰も彼もが裸になってまぐわっていた。

  跨り、押し倒し、押し倒され、穴という穴に欲望の塊を突っ込んでいる。

  それに喘ぐ声、もっともっとと求める声、詰りを求めるものもあればそれに応える声もある。

  性による倒錯的な狂態がそこかしこに繰り広げられている。




 「まるでサバトね……」

 「ここはそういう場だからな。まあ見た限り、初心そうな空君には刺激が強すぎるかもしれんね?」

 「……まあ、そうかもしれませんけど」




  正直、気がいったかのような女性達の痴態は見ていて気分の良いものじゃない。

  そういう気が起こらない以上、あまり空気に中てられたくもなかった。

  怪しい個所が無いか二人で散策していき―――その最中、気になっていたことを聞いてみる。




 「ノイ先生は、どうしてこの件を引き受けたんですか」

 「単純に永二は金払いが良いからね。それと幾つか話しておきたい事も出来た。

  まあ、渡り船というやつだよ」




  言いながらいくつかの部屋を通り過ぎていく。

  どこもかしこも倒錯的な声ばかりが響いていて溜まったものではなかった。




 「話したい事、ですか」

 「ああ。永二絡みでとある事が判明したのでな、機会が来ないかと思っていたが中々コンタクトが取れなくてな。

  直接接触できる今回は良い機会だったよ。これが終わってからのあいつの反応が少し楽しみだ」




  意地の悪い笑みを浮かべてノイが勝手知ったる施設を進んでいく。

  あれは相当悪いことを考えている顔だ。人間誰しも、悪巧みをする時はあのような顔をするものである。

  そうして通路を進み続けるが、目当ての物がありそうな場所は一向に見えてこない。




 「結構なブロックを歩いて来たけど……めぼしい場所は見つからないわね」

 『この施設自体が相当大きな物です。徒歩で虱潰しに捜していくにはきついものがあるでしょう』




  直接通話(チャント)越しにレインの声が飛んでくる。

  レインは現在永二とシゼルの組にもサポートを行っている最中だ。

  それによると今のところ侵攻は順調。セキュリティを殺しつつ妨害してくるウイルスを排除して最短距離でコアへ向かっているらしい。




 「レイン、この施設の見取り図は?」

 『大佐達や中尉達が通った区画ならば。そこから全体像の割り出しと目ぼしい区画の洗い出しを行っています』

 「オーケー、こっちはそろそろ表通りは終わるから続けて作業の続行をお願い」

 『了解(ヤー)』




  ここからはレインに言ったとおり施設の裏側へと潜り込むことになる。

  見つかれば下手な言い訳は聞かないだろうし、別行動中の永二達にも危険が及ぶ可能性が高いだろう。

  慎重に進んでいく必要がある、が……




 「……ノイ先生、ここから先はたとえ会員でも言い訳が効かない領域になります。

  出来れば引き返して欲しいんですけど……」

 「戦争屋の君が言うことだ。ここは素直に従いたいところなのだが……生憎とまだ好奇心の方が勝っている。

  多少の危険は承知の上だよ。本気でヤバくなれば勝手に退避させてもらうから気にするな」

 「……分かりました。行きますよ」




  営業区域から管理区域へと踏み込んでいく。

  艶声の喧騒は遠のいていき、赤い装飾が施された通路からメタリックな壁が目立つ通路へと変わっていく。

  視界に入る人物も程なくしてゼロとなり、ここから先は見つかればいらぬ疑いを持たれてしまう区域だと感じさせた。




 「大佐達がコアを落としてくれれば施設全体の見取り図もすんなり手に入って楽なんだけどね……」

 「まあそう急くな。永二自ら出て来ている以上、事は程なくして終わるだろうさ。

  私達は奴の仕事の後で気楽に―――」




  と、その時だった。




 「早く見つけろっ! まだこの辺りに居るはずだ!!」




  遠くから男の怒声が響いて来た。

  同時に、複数の足音も忙しなくこちらに向かって来ているのが聞き取れる。




 (まずっ……先生、こっち!)

 (おおっ……!?)




  行動は早かった。

  広く見晴らしの良い通路をノイを連れて逃げていくのは不可能だと判断し、彼女の手を取って物陰へと飛び込む。

  小柄な自分よりも更に小さな身体を掻き抱くようにして物陰で身を潜めた。




 (おやおや……空君、まさかその気になってくれたのかな?

  よし、ならば私もその気持ちに応えてみせねばなあ)

 (そんなことを言ってる場合じゃないですよ)

 (分かっている、冗談だ。まあいざとなればそういう行為に及んでいれば言い訳が立つかも知れんがな?)




  にやり、と笑う顔が小悪魔そのもので冗談でも何でもないということを否応無しに理解させられた。

  おそらく本気で不味くなったらカモフラージュとして襲ってきかねない。

  本気で拒否すればその限りではないだろうが、危機管理として考えて拒否しきれるかと言われると微妙である。




 (……絶対に見つからないようにしよう)




  あるいは、見つかる前に相手を潰そう。

  貞操を守るために空は固く決意を固める。

  そしてそうこうしている内に足音はこちらへとどんどん近づいてきて―――赤いポニーテールが、視界を横切った。




 (なっ……)




  その姿を見て、一瞬言葉を失う。

  あの髪、あの顔、忘れるはずもない懐かしい女性。

  よく甲を誘惑しようとしていろいろと羽目を外していた彼女―――渚千夏が、点々と血の跡を作りながら走っている。




 (千夏!? 何で……!)

 (おや、君の知り合いかね? 拳が血で濡れているところを見ると真っ当な客ではなさそうだが……)




  そらくらい自分にも分かる。

  問題は何故彼女がここに居るかということで……

  いや、それも考えるまでも無い。

  ここはドミニオン―――ひいてはドレクスラー機関へと繋がる可能性の高い場所だ。

  どこかの組織に彼女が所属しているのならここへ何かを求めてやって来ていても不思議ではない。




 (行方が掴めないと思っていたら、何をやっているのよ……)

 (君も似たようなものだと思うがね)




  まさにその通りなのだが重要なのはそこではない。

  千夏の動きからして負傷したようには見えない……が、拳は血で濡れている。

  つまり相手を一方的に倒したということになる。

  見るからに堅気ではない千夏を追いかけている連中を見ると、彼女もまた真っ当な部類ではないのだろう。

  であるならば―――ここには自分達以外の第三者が存在するということだ。




 (不味い……!)




  そう思ったのも、遅かった。

  施設に警戒警報(ワーニング)がけたたましく鳴り響き、侵入者の到来を告げていた。




 「ちっ……!」




  千夏が舌を打ち、そのまま通路の奥へと消えていく。

  それを追いかけて男連中もまた通路の奥へと消えて行った。




 『何だこの警報は……!

  おい中尉、何かあったのか!?』

 『いいえ、私達以外の第三者がここに侵入しているようです。

  おそらく警報はそちらを感知して―――』




  言い終わらない内に遠方から爆音と銃撃音が響いてくる。

  どうやら例の侵入者との戦闘が始まったらしい。




 『何やら大事になって来たな?』

 『ちっ、警報のせいでこちらも気付かれたか……!

  中尉! こちらからの支援は期待するなよ!』

 『了解(ヤー)。こっちはこっちでやってみせます』




  ここからは戦場だ。

  まだ行っていない区画を虱潰しに回るのが早いか、レインによる特定が早いか……

  どちらにせよ、動いた方が良い事に変わりはない。




 『レイン、出来るだけ連中と接触しないようにナビゲートをお願い』

 『了解(ヤー)。ご武運を、中尉』




  そして、ノイへと向き直る。

  彼女は闇医者だが、それだけだ。戦う力を持ってはいない。




 「なあに、心配するな。いざという時の離脱手段は用意してある。

  だから君は気にせずに目的を果たしたまえ。私も、出来る限り付き合おう」

 「……分かりました。責任は取れませんからね?」

 「構わんとも。あまりのめり込み過ぎると取り返しがつかんからな?」




  それはどういう意味で言っているのか、聞いてみるのは怖かった。

  さて、と気持ちを切り替えて前を見る。

  千夏が何をしているのか気になるのは気になるが、それよりもシミュラクラのデータだ。




 「さあて、一度も連中と遭遇せずに切り抜けられればいいんだけどね……」

 「それなら、私が役に立てる」

 「そうですか? それっていったい……」




  と、そこまで言って気付く。

  今の声は、ノイのものではない。

  しかしゆったりとしてどこか気の抜けたその声は非常に聞き覚えがあって―――

  嫌な予感がして、勢いよく背後を向く。

  そこに、




 「……? 空、どうしたの?」




  西野亜季が、常と変らぬ気だるそうな顔で立っていた。


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