凄まじい鈍痛と共に目が覚めた。
「ぁ、づ……」
ゆっくりと意識が浮上していくのを感じていた。
ただ鈍い痛みのせいで意識の覚醒が酷く緩慢に感じる。
口から漏れ出た声も自分の声とは思えないほどに掠れていた。
瞼を開く事すら気だるい。
普段なら軽い身体がまるで鉄の塊になったように重い。
「な、に……?」
状況が全く呑み込めない。
とにかく自分の身体に何が起こっているのかを確認しようと重い瞼をゆっくりと開いていく。
それだけでかなりの体力を消耗したように思えた。
時々閉じそうになる瞼を気力で必死に抑えて自身の視界を取り戻す。
そうして、周囲の状況を否応無く理解させられた。
「……ぇ」
漏れたのは、そんな小さな声ともつかぬ空気の波だけ。
もしかしたのは漏れ出たのは声ではなくただの呼吸かもしれないが、それでもそれは驚愕の一色に染まっていた。
「何、なの……これ」
今度こそ声が出た。
重かった瞼は視界へと飛び込んできた光景の異様さによって驚愕に見開かれる。
目の前の光景を理解する事が出来ず―――否、理解する事を拒むように、弱々しく頭を振った。
見渡す限りの瓦礫の荒野―――
文明の名残が残っているだけの文字通りの廃墟。
自身が今まで住んでいた筈の街は瓦礫の山と化していた。
街の残骸が視界一杯に広がっているだけで、見慣れた町の光景などそこには一切存在していない。
今、自身がもたれ掛かっている場所も―――やはり瓦礫だった。
「まさ、か……これ、が?」
予言の到来なのか、と。そう思った。
そう呟くと言いようの無い恐怖が腹の底から競り上がってくる。
同時に、取り返しのつかない事態へと陥ってしまった事を理解した。
暫くの間、まるで糸の切れた人形のように灰色に染まった空を眺める。
「あ、はは……」
やがて、乾いた笑いが漏れた。
力無く瓦礫にもたれかかったまま、無気力に灰色の空を眺めたまま。
「あははは、あっはははははははははははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!」
狂おしい程の絶叫が、六条クリスから迸った。
BALDR SKY -across the destiny-
傷ついた体を引きずり、クリスは瓦礫の街を歩いていた。
身体に力は無く足取りもふらふらとしていておぼつかない。
押せばすぐにでも倒れてしまいそうなほどにクリスは弱っていた。
歩いていると言っても、別に目的地がある訳でも何かの当てがある訳でもない。
―――六条の家は、跡形も無く吹き飛んでいた。
あの惨状では家に居た者は誰一人として生きてはいまい。
だからただ歩きたかった。そして生きている人間を見つけたかった。
(……そういえば、あの夢の風景もこんな感じだったかしら)
あの時、ドミニオンの構造体の中にあったノインツェーンの玩具に接続してから見るようになった夢。
自分と同年代ほどの男性が生きながらに溶解され死んでしまう。
その後に街は焦土と化し、だがその焦土と化した街の中を死んだはずの男性がこれもまた同年代程の女性を背負って歩いていた。
焦土と化した街の名は星洲。
今クリス自身が歩いている街もそのはずだ。
はずだ、と言うのはただ単に確証がないからだ。
街並みで判断するには建造物が破壊され過ぎている。
ネットで現在位置を確認しようにも回線は全てエラーの信号を返すばかりで調べようがない。
だがそんな中でも分かった事は幾つかある。
気を失う前に見た最後の光景―――空から降り注ぐ光条から考えるに、この惨状は宇宙に浮かぶ衛星兵器『グングニール』によって引き起こされた事。
自分の住んでいた街や星州は跡形もなく破壊され、生存者はおそらくごく少数だという事。
「クリスマスの預言の日―――ドミニオンの預言もあながち間違っていなかったのかしら」
自嘲気味に嗤って言葉の意味を反復する。
ドミニオンの預言―――
今年のクリスマスに『最初の滅び』が訪れ、それに伴い教祖であるグレゴリー神父が復活する。
そしてその『最初の滅び』で死んだセカンドの少年のNPCを『女神の御使い』として降臨させ、人類を更なる進化へと導く。
カルトにはありがちな世界の終わりを示すかのような予言だ。
予言の日が近づいてくるとクリスは次第に先程の夢をよりはっきりと見るようになっていた。
視点で言うならば、おそらくは予言の少年の視点で。
そして、夢の内容と今の現実の光景は―――あまりにも酷似していた。
ここまで来ると予言だの妄想だの切って捨てる事は出来ない。
この事態は確実に―――何者かの手によって引き起こされた惨状だ。
ギリ、と奥歯が軋む。
(カルト染みた妄想だと切って捨てるんじゃなかった……こんな事になる前に、何故陰謀だと気付けなかったのかしら)
後悔先に立たず。
今更事を嘆いても、もはや後の祭りだった。
夢を見た時は被害妄想が生んだ幻想だと切って捨てていたが―――それを現実にされると堪えるものがあった。
「……こうして歩いていれば、そのうち、夢の少年少女に会えたりするのかしらね」
もしかすると半分はそれを期待しているのかもしれなかった。
とにかく、誰でも良いから人と会いたい。
そうでなければ自責の念で潰れてしまいそうだった。
自分は夢という形で何度もこの光景を見ていたのに―――知っていながら、何も動かなかった。
誰かがこの事を知ればそんな訳無いと笑って捨てただろうか。それとも何故何もしなかったと呪詛の言葉を吐くだろうか。
この惨状を引き起こしたのは自分の責任だと、後悔の念に潰されてしまいそうだった。
「誰、か……っ、」
おぼつかなかった足が無造作に転がっている瓦礫に躓いて、そのまま真正面から地面に倒れた。
元々力が入らなかった身体が倒れてしまい、もう言う事を聞いてくれそうにもない。
身体全体がもう動きたくないと悲鳴を上げている。
意識の方も疲れ切ったと言って、すぐにでも意識は暗闇に沈みそうだった。
重い絶望の感情がクリスの意識を押し潰してくる。
(……ここで、終わるのかしら)
いくら脳から電気信号を飛ばしても身体の方はそれに全く反応しない。
無骨な瓦礫の冷ややかな感触が残っていた体温すら奪っていく。
まるでゆっくりと重量を増やされていくような怠惰感。
ただでさえ重かった瞼がここに来てさらに重さを増してくる。
このまま目を閉じてしまうと、もう二度と開けないような予感が彼女にはあった。
(だ、め……)
生存本能から意識を繋ぎ止めようとするものの瞼はゆっくりと落ちてくる。
手近な何かを握ろうとしても身体は全く動いてくれない。
死神は確実に鎌を首に添えていた。
ふと、自身が今まで歩んできた人生が思い浮かんだ。
幼い頃にドミニオンの後継者として洗脳に近い教育を受けた事。
教団の壊滅後は施設に入り親戚の中をたらい回し。
六条家に養子として引き取られてようやく得た安息の日常も粉々に打ち砕かれた。
結局、最終的に自分が得た物など、何も残ってはいない。
(これが、噂に聞く走馬灯かしら……)
今までを思い返しながらいよいよお迎えが来たのかもしれないと半ば諦めが頭を過る。
このまま目を閉じれば六条家のみんなに会えるのだろうか……
確証のない気休めを胸にクリスはいい加減に重くてしょうがない目を閉じようとして―――
「君……大丈夫―――生きて、いるか?」
意識の外から、そんな声が降って来た。
(だ、れ……)
確認しようとしても一度閉じ出した瞼は止まらない。
その声を最後に、クリスの意識は暗闇へと沈んだ。
◇ ◇ ◇
瓦礫の街を、少女はただただ歩いていた。
辺り全てが大なり小なり傷を負っているその中で、少女だけは目立った傷が見受けられない。
外見的には九歳ほどの身体に似合わない大人用のダボダボした白衣を羽織っており、栗色のウェーブのかかった髪は腰まで伸びている。
その体格からほぼ間違いなく間違われるが、彼女は間違いなく医師である。
傷が少ない理由は簡単だ。この街を破壊が襲った時、少女はこの場に居なかったのである。
宇宙から全てを焼きつくす光条が幾度も降り注ぐ直前、彼女は統合軍と思われる者達に患者ごと拉致された。
隙を突いて患者の電子体だけは仮想空間へと逃がし、自身も脱出してきたのだが……
「まったく、酷い有様だな……」
戻って来てみれば街は廃墟。自身の診療所も形を残していたとしても向こう側が差し押さえている可能性が高い。
自慢ではないが彼女自身も昔から様々な事情がある。
こんな事もあろうかと密かに用意しておいた隠れ家があるにはあるのだが、そこまで被害が及んでいないのを祈るばかりだ。
そして彼女は仮想空間に逃がした患者の電子体を一刻も早く保護する必要がある。
あの患者は事情が特殊すぎる故にちょっとした事で何らかのトラブルに巻き込まれる可能性が高い。
そうでなくとも、彼女とその患者は統合と思われる者達に拉致された。
逃げたと知っている相手側としては是が非でも確保しておきたい筈なのだ。
自身と患者、両方の安全を早急に確保しなければならない。
だから、偶然だったのだ。
「……ん?」
本当に急いでいた彼女が、その二人を見つけたのは。
黒を基調とした学生服に身を包む長い銀髪の少女と、血や砂ぼこりで汚れたシーツに身を包んだ茶髪の少年を見つけたのは。
◇ ◇ ◇
最初に飛び込んできたのは無機質な天井だった。
「ぅ、ん……?」
六条クリスは半分寝ぼけて身を起こした。
確か、自分は瓦礫と化した街の中にいたはずなのだが……どう見ても自分が今いるのはベッドの上だ。
身体に目を向ければ所々に包帯が巻いてある。どうやら誰かが手当てをしてくれたらしい。
だが今の彼女にはそんなところにまで考えが及ばなかった。
状況が正常に判断できない。まるで、脳が考えるという機能を放棄したように。
未だにはっきりとしない頭のままで緩慢に辺りを見渡す。
隣りには誰かが寝ているらしいベッドがあり、よく分からない本が詰め込まれた本棚がその奥に見える。
違う方向に目をやれば窓も見えた。
ベッドの周囲を見ると医療機器らしき物も見て取れる。
清潔感漂う、とはとても言い辛いが……どうにもここは医療施設らしい。
「……誰が、私をここまで運んできたのかしら」
自然と自分を助けてくれた人物の事を考えていた。
とはいえ、自分が気を失い最後の瞬間に男性らしき声を聞いた程度……手掛かりらしい手掛かりなど無いに等しい。
できれば探してみたいところなのだが、未だに体は鈍痛を訴えており満足に動かせそうにはなかった。
今すぐにでも身体をベッドに放り出したい気分なのだが―――
(ここは病院らしき場所であって、真っ当な病院だという確証がないのよね……)
そもそも、あそこまで崩壊した街の中に未だこうして無事な建物があるというのも考え辛い。
自分は眠っている間にどれだけ移動したのか。どれだけの間眠っていたのか。ここはどこなのか。
考えれば考えるほど疑問は湧いてくる。
拘束の類がなく治療されている事を考えればそう悪い状況ではないと思うのだが―――
と、その時だ。
「おや、目が覚めたのかね」
ガチャリ、と手動式のドアを開けて小さな少女が部屋に入ってきて、そんな事を言った。
九歳程度に見える外見には不釣合いな白衣を羽織り、その下にはゴスロリちっくな服が見て取れる。はっきり言ってみょうちくりんな格好だった。
クリスを見た少女はそのままツカツカとベッドの傍まで歩み寄ると、腕を取ったり額に手を当ててきたりして何かを確かめている。
……もしかして、この少女は脈を取ったり熱を計っていたりするのだろうか。
しばらくされるがままになっていると、作業を一通り終えたらしい少女が『こんなところか』と言ってクリスに触れてくるのを止めた。
どうやら診察もどきは終わりらしい。
だったら―――
「一つ、聞いて良いかしら」
「何だね? 私に答えられることならば答えよう」
外見にそぐわぬ受け答えに違和感を覚えるものの、どうやらまともな受け答えが期待できそうだ。
とにかく情報を集めることが先決だと目の前の少女に一つ一つ質問を投げかけていく。
「ここはどこかしら」
「清城市にある私の店だな。簡易ながら医療機器もここにはあり、それを使って君たちの治療をしたわけだ」
「……君、たち? 私以外にも誰かがここにいるのかしら」
「ああ、丁度君の隣のベッドで寝ている彼だよ」
言われて、クリスは隣のベッドへと目を向ける。
確かに布団が人一人分だけ盛り上がっている。顔は別方向を向いていてこちらから見えないが……あれが、彼女の言う『彼』らしい。
そういえば、確か自分が最後に聞いた声も男性のものだったはず。
「あの、彼と私は一緒に……?」
「そうだが? 気を失っていた君を彼が背負っていたのだよ。まあ私が見つけたときには二人して瓦礫の上で倒れていたが。
というか知り合いではないのかね」
「いや……気を失う前に男性らしき声を聞いた気はするのだけど……」
となると、やはり彼が気を失う前に聞いた声の主であり、気絶した私を背負って瓦礫の街を彷徨っていたのだろうか。
気になってその辺りの事を少女に詳しく尋ねてみるが、はっきりとした答えは得られなかった。
ただ彼女が見つけた時はボロボロの布切れを一枚纏っていただけで、クリスを背負っていた以外は何も持っていなかったらしい。
状況としてはあまりに訳が分からない。助けられた感謝よりも不自然な疑問の方が先立ってしまう。
が、
(……今更、何を考えているのかしら)
話を聞いているうちにクリスは状況を再度確認した。
瓦礫と化した街、グングニールと思わしき衛星砲の掃射―――ドミニオンの予言した、最初の滅び。
夢という不確かな形とはいえ、それを知っていながら何も行動しなかった自分。
忘れていた後悔の念が胸を押し潰そうとする。
ただ何もせず、この事態を見過ごした自分が何故のうのうと生きているのだろうか?
そう考えると途端に全てに関心を持てなくなった。
絶望感に全てを放り出したくなり、起こしていた身体をベッドに放り出す。
ギシッ、とスプリングが鈍い音を上げてクリスの体重を受け止めた。
「……まあ、絶望するのは勝手だがね。くれぐれも自殺など考えないでくれたまえよ。そうでなければ君を助けた彼に申し訳が立たない」
少女が何かを言っていたが、今のクリスにはどうでもよかった。
ただ今は、何も考えずにいたい。
再びドアが開けられる音が響く。
その音を最後に、彼女の意識は鈍痛に引きずられるように再び眠りの底へと堕ちていった。
◇ ◇ ◇
「……何だ、これは?」
彼は、手元に現れたプログラムを凝視する。
紅いグリッドの空の下、無限に広がる海岸の岸辺で、彼は巨大な残骸と共に佇んでいた。
彼の呟きに返答する者はいない。周囲に―――いや、この世界に個体としての形を保っているのは彼唯一人なのだから当然だ。
この世界の管理者に答えを求めようにも、半ば抑圧されているこの状態では満足な答えも返ってこないだろう。
唯一、言葉を向けられる相手も……
「―――ああ、そろそろ時間か」
おもむろに、彼はその視線を巨大な残骸へと向ける。
大きな装甲板や重火器が辺り構わず錯乱し、電子配線のコードが無作為に散らばっている。
それが、振動を始めていた。
確実に意思を持って行動を開始しようとしている。
「聞いても無駄だと思うが聞いておくか……お前、これは何だと思う?」
手に持ったプログラムを掲げて見せる。
その瞬間、世界を揺るがす不協和音が盛大に空へと咆哮した。
残骸が一気に空中へと舞い上がり、断線されていたコードや破壊された装甲板が癒着され、再生していく。
その光景を見上げながら、彼は深く溜息を吐いた。
「分かっちゃいたが、歩み寄りってもんを覚える気はないんだなコイツ」
無駄だと分かっていても億劫な気分になってくる。
流石にこうも長い時間を過ごしているともう少し変化があっても良いんじゃないだろうかと愚痴を洩らすが、何も変わらない。
いつものように、全てを破壊する重戦車が目の前に君臨していた。
「まあ、良い。やり合う以上は覚悟しろよ、テメエ」
そして、彼も目の前の破壊の化身に対抗する力を使った。
瞬時にその身体が鋼鉄の機械へと変換される。
人の数倍はある巨体を持つこの鋼の身体だが、目の前の重戦車はその身体を持ってなお見上げるほどに巨大だ。
あんな巨体で突進でもされたならこの身体もカエルのようにぺしゃんこになるだろう。
そんな誰もが恐怖と畏怖を抱く姿を前にして、彼は一歩も退くことはない。
臆する事も、気負う物もなかった。
「さあ―――戦闘開始(オープン・コンバット)だッ!!」
そして、駆け出した。
結果など、数万数億と繰り返したものにまた一つ加算される、それだけの事だった。
◇ ◇ ◇
「ああああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁあああぁぁあああああああああああああああああっっっっ!!!???」
目覚めは、叫びだった。
真夜中にも拘らず部屋の外にまで響くような絶叫が迸る。
瞳孔は目一杯に広がり、呼吸も犬のように浅いものが繰り返される。
体中から汗が噴き出て衣服はベッタリと肌に吸い付いて気持ち悪かった。
そうしているうちにも目覚める前の悪夢の光景が脳内にフラッシュバックする。
「うっ……ぉ、ご……ぁ……っ」
何も入っていない腹の中身をひっくり返しそうになり、立て付けの机に置いてあるペットボトルを引っ手繰るように手に取る。
そのままキャップを開けて中身が零れるのも構わずに強引に喉の奥へと流し込んだ。
胃の中に液体が強引に流し込まれる感覚に顔をしかめる。そして、強引に流し込んでいたせいで咽る羽目になった。
「がっは、ごほ……けほ……」
―――暫くして。
ようやく落ち着き、ペットボトルを元にあった位置へと戻す。
だがその顔は憔悴しきっていた。
眠りに就く度に同じ悪夢に苛まれ、目が覚めれば吐き気を催し、睡眠不足から体力は消耗するばかり。
生きている心地がまるでなかった。
自分はゆるやかに死に向かっている……そんな錯覚さえしてしまう。
だが、それでも構わない、と思う。
いっその事、自ら命を絶つのも良いかもしれないと思ってもいた。
しかしそれは許されない。
それをすれば悲しむ者がいる。自分を騙してまで、命を救ってくれた友人が後を追ってきてしまう可能性もある。
それほどに一途で、純粋な者を残して逝くのは―――もはや自分がその友人を殺しているのと変わりがない。
だから自分は生きていくしかない。大切な物が抜け落ちたこの世界で。
空を見上げる。
窓の外には、あの悲劇を連想させるような光景は何一つ見当たらない。
ただ満天の星空が広がっていた。
「……私、何で生きてるんだろう」
深い絶望の淵から発せられた少女の言葉は、夜の闇に溶けて消えた。