序
混沌
そう表現する他術の無い世界。
忘れ去られた記憶が、静かに積もっていく澱のようでもあり。
様々な思考が、海流のように激しくうねるようでもあり。
数多の感情が、あるものは沸騰し、あるものは拡散し、あるものは沈殿していく。
そんな世界。
その片隅で、幾万、幾億の思考、記憶、感情が、寄り集まっていく。
それら遍く平行世界において同一の存在だった魂たち。
中でも一際大きな輝きを放つ魂が明滅する。
弱弱しい明滅に過ぎなかった。
だが、賛同するように、一つ、また一つと魂たちが明滅を始める。
非業の死をとげたの怨念なのか、あるいは残してきた者を思う悲嘆なのか、ありとあらゆる「負」の感情に彩られていた魂達の間に。
一つの共通した思考・感情が生まれていく。
最初に明滅を発した魂に、それが流れ込んでいく。
『タスケタイ』
最初に明滅した魂が垣間見た、奇跡のような光景。
幾億の悲劇の末に生まれた、ちっぽけな希望の灯火
それを守らんと、魂達が祈り・願う。
小さな小さな力が、積み重なり、願望を現実へと転化させていく。
最初に明滅した魂が苦しげにのたうつ。
強い輝きを放っているとしても、所詮はヒトの魂。
幾億の願いの流入は、魂が消滅しそうな負荷だ。
最初に明滅した魂同様、強い輝きを持つ魂達が、寄り添うように、最初の明滅した魂へと解けていく。
輪廻すら捨て、ただ一つの願いを、奇跡を現実にするために。
時間という概念の無い世界、永遠の刹那、はじける様に魂が消えた。
それが消滅なのか、あるいは違うのか。
のこされた魂達は、ただ明滅を続ける。
怨念も憤怒も悲嘆も嫉妬も超越し、ただ一度の奇跡を祈り続けていた……
排気ガスの混じった大気の臭い。
刺す様な冬の冷気。
見渡せば地上に蔓延る極彩色のネオン
見上げれば夜天を彩る淡い光の星々。
「……」
両の脚で大地を踏みしめ、喪って久しい“身体”の感触を味わう。
「ありがとう…」
虚空に向かって、血を吐くような感謝を捧げる。
「来い、我が甲冑と杖よ」
呼び声に応えるように甲冑が虚空から現れ身を包む。
兜
胸鎧
手甲
脚甲
全てが光を吸い込むような黒い鎧。縁取りに僅かな白。
装甲されぬ部分を覆う黒衣もあいまって、僅かに白い縁取りを差し引いても、その姿は“黒”い印象を見るものに植えつけるだろう。
左右の手に現れた杖を手に取る。
御伽噺の魔法使いが持つようなねじくれた木製の杖。
中世の騎士のような鎧姿にはおおよそそぐわない獲物。
だが
なぜかその姿は調和が取れており、ひどく“しっくり”とした印象を与える。
「いこう幾万のボクが委ねてくれた力で、幾億のワタシの願いを叶えに」
杖に話しかけるように、呟く。
それは決意の言葉だった。
例え如何なる犠牲を払ってでも、この世界に芽生えた、糸のように細い希望への道筋を絶やさぬために。
そのためならば、自分は鬼になろう。
その為に、助けたい彼女も含め、全て人に鬼畜と罵られ様とも。
修羅にならなくてはならないのだ。
後書き。
この作品はリリカルなのはの二次作品です。(次の話を読めば時期は判明します)
オリキャラの最強物です。多分。
この時点と序章の文章で地雷臭を感じた方はブラウザバックを。
作者はシリアスな話が書けません。
コメディは割りとスラスラかけるのですが・・・
この作品はシリアスな作品を書く「習作」ですので、至らぬ点が多いと思います。
びしばしご指摘下さい。