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No.28471の一覧
[0] 【ネタ】名前のない怪物【人外オリジナルファンタジー】[Jabberwock](2011/07/17 09:51)
[1] 02[Jabberwock](2011/06/24 00:59)
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[7] 08[Jabberwock](2011/08/04 21:14)
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[28471] 08
Name: Jabberwock◆a1bef726 ID:10f94796 前を表示する
Date: 2011/08/04 21:14
「このへんでいいだろう、一旦小休止だ」

 そう言って、アブドゥルは大昔に築かれたと思わしき石舞台の上に腰をおろした。
 辺境樹海……リーベネタールの大森林は、かつて幾つもの国家が我が物にしようと足跡を残した。結果としてはそのどれもがこのように、消えかけた文明の残滓を細々と残すか、或いは辛うじて自給自足を続ける村落を幾つか残すのみ。
 いつしか、辺境にその身を横たえる長大な森林部とその向こうに広がる世界は、人の身の届かぬ魔境となったのだった。
 昼夜を問わぬ強行軍に、さしもの魔法使いと騎士も疲れた顔つきで同じように腰を落とした。
 動きやすい乗馬服に身を包んだシャリアンもそれは同じで、もしいつものような装飾過多な服装で森に入っていれば、その疲労は今の比ではなかっただろう。
 背嚢から取り出した水筒の中身を一口呷って、カラカラに乾いた喉を潤す。

「ふぅ……それにしても、足跡一つ残っていないっていうのに、よくもまあ全く同じ道が通れるわねぇ。ほんと、それ、誇るべきよ、リーンちゃん」

 額の汗を拭き取りながら、こちらも喉を鳴らしていたリーンが振り向く。

「俺の数少ない取り柄ですから。魔法も使えないし、この四人の中では一番足手まといだ」
「そ、そんな事無い! リーンは私なんかよりもっともっと凄いんだから!」
「ははは、有難う」

 仲睦まじく語らい会うリーンとイソラを見ながら、彼女は何やらもぞもぞと腰の座らぬ想いをしてそっと視線を外した。
 これは、溺愛する弟に彼女が出来た時の気持ちというのだろうか?
 小さく溜息を付いてごろりと横になると、その隣に長い付き合いになる老年の魔法使いが腰を下ろした。
 その口は黙して開かず、灰色をしたその両目だけが彼女に語りかけていた。
 その視線に、寝転びながら器用に肩を竦ませて、赤の信奉者はまたしても溜息を一つ。

「はいはい、そうね、頃合いね」

 そう言って上体を起こし、二人を呼び寄せた。
 しっかりとした作りの石舞台の上で四人は車座になって額を突き合わす。

「さぁて、それじゃあこれだけ離れれば余裕も出てきたし、そろそろこれからの話しをしましょうかぁ?」
「二人共、よく聞け。突然このような強行軍に連れ出され、訊きたいことも多々あったろうが、今から説明する。まず前提として、ティメイアス将軍の方針を説明する」

 そう言ってアブドゥルは地図を取り出した。
 それから彼はあの時に将軍から説明された概要を二人に説明する。

「つまり、我等四人は協力者の助けを得て、ハマールに向かう王女殿下の騎士隊を強襲。然る後に保管されているだろう契約書を焼却するという任務が下されている」
「で、その協力者っていうのが一体誰なのか、ティミーは教えてくれなかったのよねぇ……ただ行けば分かるって……ねぇ?」
「おぬしら二人が知っておるのだと、睨んでおるが?」

 そう言って、視線を向けられた魔女と騎士の二人は、困惑顔で顔を見合わせる。

「協力者……?」
「俺達がこの樹海に派遣されたのは、オーレイ帝国の遺跡を見つけるという任務でした。その過程で何度か見たことのない亜人の集団と交戦しましたが、アレが協力者になるとはとても……」
「ふぅん?」
「ふむ……」

 四人で首を傾げる。
 詳しくその話を聴きだしてみるも、最後には見上げるほどに大きく凶暴な亜人の戦士に叩きのめされてほうほうの体で逃げ出したということしか分からない。
 どうにも、その種属と人間の間には緊張関係はあれども協調関係など欠片もなさそうに思われた。

「可笑しいわねぇ……あの人がいい加減なことを言うわけもないし……。毎度のごとく、あたし等なんかには及びもつかない直感的思考ってやつかしらねぇ」
「ふん……あのティメイアスが「行けば分かる」と言ったのだ。行けばわかろうものよ」
「うーん……」

 とはいっても、さすがのシャリアンも釈然としない。
 別に疑ってかかっているわけではないが、いつになく唐突なやり方だと感じていた。いつもなら、ある程度のことはしっかりと説明するものだ。
 ちらりと横目で見ると、リーンの少年の面影を残した精悍な顔つきの中に、長年の付き合いでしか分からない微妙な引きつりを彼女は見て取った。
 ははぁ、これはなにか隠しているな。
 そう確信はしたものの、何やら根が深そうで、無理やり聞き出そうとしても面白く無い。
 なにより、無理やりというのは彼女の趣味ではなかった。

「そうねぇ……まあ、行けば、分かるのかしらねぇ」

 呟きながら、チラリとその視線をリーンの方に向ける。
 一瞬だけあった視線で、彼はどうやら彼女が疑っていることに気がついたようだが、その刹那に彼女がパチリとウインクをすると安堵の顔をした。
 一方、そうそうとは知らぬアブドゥルは忌々しげに眉根を寄せて腕を組んだ。

「はっ……それにしても、オーレイ帝国の遺跡だと? またぞろくだらん事に血道を上げよってからに、歴史と伝説の区別もつかぬか」
「あらぁ、オーレイがこの樹海を切り開こうとしたのは事実じゃなくって?」
「そう、そこまでは事実だ。だが、それを元に吟遊詩人共が創作したホラ話や、詐欺師や山師が資金集めの手口に使うような与太話まで信じるのは、およそいやしくも王家の生まれとして教育を受けた人間がやることではない。古代帝国の辺境都市? 失われた魔道帝国の隠し財宝? 辺境交易路で忽然と消えた一億デナリオン金貨? ハッ! 馬鹿馬鹿しい! そういう夢物語を信じていいのは物の分別もろくにつかん子供だけだ」
「あら、辛辣」
「少なくとも、地位も権力もある大人がしていい事ではない。やりたければ遺跡荒らしや冒険者にでもなって一人でやればよかろうが」

 そう言って一人気炎を吐くアブドゥルに、騎士と魔女は「また始まった」とばかりに顔を見合わす。その隣でシャリアンは「あらあら」と呆れの溜息を付いた。
 そんな様子に気がついたのか、アブドゥルは鉾をおさめて肩をすくめる。

「まあ、今はそんな事はどうでもよろしい。とにかく、此処から先は更に魑魅魍魎が跋扈する未開の地だ、簡単に方針を定めておく」
「今まで通り、あたしと貴方で前衛じゃあ駄目なのぉ?」
「いかん」

 即答である。
 思わず眉をひそめると、こちらは苦虫を噛み潰したような顔のアブドゥルが視線を向けた。

「……誠に情けないが、魔法使いがこれだけ集まって、高度な癒しを使える外法使いはお主しかおらぬ。イソラはまだまだ駆け出し、己に至っては手前の傷を治すのがようようやっとの白内法使い。ふんッ! 白二人、赤一人と揃って、癒しが使える外法使いがよりにもよって赤一人とはな! もしお前に何かあった時、この四人の継続戦闘力はガタガタだ。お前は後衛からの援護を行え」

 その言葉に一瞬呆けて、彼女は爆発した。

「ちょっと! 何なのそれ、もしかして、この私に後ろからチマチマ様子を伺っていろってわけ? 援護? 一体何の冗談かしら、この、赤の信奉者に、援護ですって?」
「そういきり立つな。少しは周りを見渡せ、馬鹿者が」
「周り? 周りを見たって糞ったれな緑しか見えやしないわ! 何処まで行っても緑、緑、緑、溢れかえるマナで息が詰まりそうよ!」
「そう、緑だ、そしてしかもこれから更にマナは濃くなるだろう。そんな所で、お前の全力を使わせるわけにはいかん」

 これはいけない、こんな言い争いをしている場合じゃない。
 そう必死に彼女の冷静な部分が警鐘を鳴らしている。だが、呼吸する大気にすら溢れかえる濃密なマナに、彼女の脳はじわじわと侵され始めていた。
 アブドゥルの眼光がぎらりと輝いて、こちらも彼女と同じく立ち上がった。

「何故分からん? お前は今、気化した油が充満する燃料庫の中で火遊びをしているに等しいのだぞ!」
「火遊び? 火遊びですって? この私の魔法が、火遊びですって?

 まずい、アブドゥルが己の失策を悟って臍を噛む。
 リーンはシャリアンの狂態というべき様子に完全に驚き固まり、イソラは怒れる赤の魔法使いから放たれる憤怒の波動に当てられ、よろよろと後じさった。
 今や、彼らの周囲にうずまくマナの大気は轟々と燃え上がる炉心にくべられる薪にすぎない。
 アブドゥルがマナ・プールを開いてその身に魔力を漲らせる。
 万が一に備えてのことであったが、それは完全に裏目に出た。
 憤怒に滾ったシャリアンの両目は、白の剣士を睨みつける。

「アァ、ア、アブドゥルッ……あ、あたしと、やるつもりッ! そうね!
「違う! 止めよ! お前はマナ酔いをしているのだ、プールを開け、マナを貯めるな!」
そ、そそ、そんな事を言って、ああ、あ、あたし、を騙す、つもり、でしょう、が! そのには乗らない……! ええ、ええ、乗るもんですかぁぁッ」
「シャリ――ヌゥっ 馬鹿が!」

 一瞬の攻防。
 抜き打ちで放たれた炎の閃光は、同じく抜き放たれた大刀に弾かれて石舞台に見難いギザギザの傷跡を残して飛び去った。
 石すら瞬時に焼ききる凄まじい温度の熱線である。
 人が受けては、生き残るすべはない。

「シャリアン!! 大馬鹿者が! こうも軽々しく正気を失い、それでヒューペルボレアの大導師に顔向け出来るか!」

 恐らく、この老練という字が生きているような大魔法使いにも、この濃密なマナの大気で気が緩んでいたのだろう。常ならば絶対にしないような、大失言であった。
 ヒューペルボレア。その名前を聞いた途端に、彼女の瞳に一欠片だけ残っていた正気の色が消えた。

「コッ、コ、コーモリオムの糞共が、な、なんですってぇぇ!!
「しまった!」

 すべての魔法の祖と呼ばれる大導師と、彼が創りだした魔法都市を、この赤の信奉者は心の底から毛嫌いしている。
 一瞬で憤怒以外のすべての感情が彼女の脳内から駆逐された。
 怒声と共に放たれた火球を、アブドゥルが剣の柄頭で素早く叩き壊すと、爆圧と爆風に乗って彼女は大きく間合いを外した。
 最早そこは、一足一刀の間合いを突き放した外法使い――マナを現象へと代えて世界に干渉する魔法使いの独壇場であった。
 このようなことをしている場合ではない、だがどうにもならぬ。
 アブドゥルは腹をくくって刀を構えた。
 一方、シャリアンは怒りに支配された思考のままにマナを練り上げる。
 一瞬で汲み上げられたマナは破壊的な赤の魔法に変換され、余人に曰く「世界を焼き滅ばせる」とまで言わしめた熱波の魔法が放たれる時を今か今かと待ち構える。
 
「ヒュ、ヒューペルボレア? あんな ふんぐるぅい 糞ったれの むぅぐるぅなふぅ 石頭の くっとぅぐぁ 権威主義で ふぉうまるはぅつ 人を見下し腐った ん・がぁ ぐぁあ 化石共がぁ!!」
「そ、その呪文はっ、いかん! ええいっ!」

 破滅の呪文を目の前に、白の魔剣士イブン=アブドゥル・アルティメールが跳ぶ。
 だが、刹那の一手でこちらが早い。
 狂笑を浮かべ、シャリアンは呪文の最後を口にした。

いあ! くっとぅへ?」

 思わず口を開いて、間抜け面を晒した。
 眼の前に現れた、これは何?
 思考は一瞬、その後に、信じられない激痛が腹部を走り抜けた。

「がっ! ぐぁっ!」

 内蔵が確実に幾つか逝かれた感触。胸骨が割れ、肋骨がへし折れる。
 樹齢数百年の大木に叩きつけられ、口から血反吐をぶちまけながら、何が起こったのか確認する間もなくその細首をがっちりと掴まれて釣り上げられた。

「双方動くなッ!!」

 凛と響く、銀鈴を打ち鳴らしたかのような声。
 力の入らぬ両手で、己の首を絞めるそれを外そうともがきながら目を開けると、目の前には己を叩き伏せて首を締める異形の巨人。
 蛇腹状の兜からは瞳孔が縦に裂けた金色の瞳と、勇ましい山岳ヤギの角が見えるばかり。
 なんだこれは、これは一体……!
 戦慄に打ち震える彼女の思考を、止めの一撃が見舞った。

「妙な真似はするなよ、魔法使い! 貴様らの仲間がバラバラに引き裂かれ、無様に死ぬさまを見たくなければな!」

 声の方に目をやって、そこに現れた小柄な人影にシャリアンは目を剥いた。
 ハークエニスコン属! しかも、首輪をしていない!
 彼女は全身から血の気が引いていく思いだった。
 中空にぶら下げられた状態で、その両目は油断なく大刀を構えるアブドゥルと、その後ろで瞬時に刃の呪文を唱えるイソラを捉えた。

「がっ……だ、……め……!」

 警告の言葉は、しかし潰れそうな喉からは到底響かず、瞬時に紡がれたイソラの魔法は放たれていた。
 迫り来る無色の刃を前に、小さなハークエニスコンは嘲笑を浮かべた。

「愚かな……」

 それはまるで、聖歌隊の詠歌のように。
 「ラ」と高く高く伸ばされたたった1音の歌声。
 その瞬間、今の今まで辺りに満ち満ちていたマナの流れは掻き乱され、寸断され、上空高く跳ね上がったかと思えば地の底に潜り込み、或いはまるで最初から存在しなかったように消失した。
 イソラの魔法はあっという間にかき消され、そよ風すらも到達しない。
 驚愕に目を見開くイソラと、侮蔑の視線を隠そうともしないハークエニスコンの少女。

「その程度の外法で、我々が永々と積み上げてきた唱歌を抜けると思うたか」

 最悪。
 それ以外の言葉が見つからなかった。
 ハークエニスコンは神話時代の終わりから、現代に到るまで延々魔法使いと戦争を続ける不倶戴天の敵である。
 外法使いは――イソラは完全に無効化されたも同じ。
 そして、唯一対抗の目があるアブドゥルは、己が無様にも吊り上げられたこの状況では無茶はできない。
 だが……だがしかし、たかが骨砕き臓腑を潰し、喉を締めたくらいでこの赤の信奉者は二の足を踏む魔法使いではない。
 シャリアンは己のマナ・プールに詰まったその残りを勢い良く炉心にくべようと集中した。
 それを敏感に感じ取ったのか、アブドゥルがその瞬間を見極めて踏み込む好機を伺う。
 次の瞬間、シャリアンは愕然と固まった。
 己の身中にあるはずの膨大なマナ。
 それがほとんど焚き火すら起こせぬほどに枯渇しかけている。
 いつの間にか、マナ・プールにポッカリと大穴が開き、そこの抜けた樽のようにザバザバと全てが外に抜け出ていた。
 巨人。黒檀の手足。捻くれた角。恐ろしい膂力。金色に光る瞳。マナの……枯渇……ッ!?。
 呪い砕き(カースブレーカー)!!
 極限まで加速した思考はたった一つの恐ろしい推測を組み立て、反抗が最早不可能になったことと、せめて仲間だけは助けようと決心する。
 死力を振り絞り、己の首を締める恐ろしい爪を少しだけこじ開け、彼女は声を張り上げた。

「ダメ! アブドゥル! こいつ、カースブレーカーよ! 貴方じゃ勝てないッ!」
「な、んだと……」

 踏み込む寸前で、アブドゥルが驚愕を顔面に貼りつけて踏み留まる。
 一瞬で、その顔色が変わった。
 百戦錬磨の魔法使いが周章狼狽する。
 それほどにも、その名前は魔法使いにとってタブーと言ってよかった。

「馬鹿な! 奴らは絶滅したはず!」
「ぐぅ……こいつ、この化物……こいつがそうなのよ! 逃げて! 早く!」
「ありえん! 二千年も前の話だ! シーカーが見つけぬ筈がない!」
「そ、んなこと、言ってる場合、じゃ……う、ぐ」
「シャリアン! おのれぇ!」

 馬鹿、どうして向かって来るよの!
 泣きそうになりながら、彼女は必死にその両足で目の前の悪魔じみた巨躯の鎧を蹴った。
 それを完全に無視して、巨人は彼女を振り回してアブドゥルの方にぶらりと向ける。
 たったそれだけで、老練の剣士が蹈鞴を踏んだ。
 耳を擽る、聞き覚えのない言葉。
 その直ぐ後に、不満たらたらといった顔でハークエニスコンの少女が言葉を紡ぐ。

「白の剣士よ、コイツの命が惜しければ、後ろの魔女の助けを借りずに私と切り合え。私に勝てば、こいつを放す。お前が負ければ、次は後ろの黒い剣士だ。どうだ、白い剣士」
「…………是非もなし」

 是非はある。早く逃げろ。
 その言葉を口にする間もなく、乱暴に投げ捨てられた彼女はどさりと下生えの茂った地面に倒れ込んだ。
 血泡混じりの咳を吐き出して、震える両腕で身体を支えながら面を上げると、そこには恐ろしく巨大な斧槍を構えたカースブレーカーと、隕鉄で鍛え上げた大刀を構えるアブドゥルの姿があった。
 思わず息を飲むほどの緊迫感。
 なんとか逃げろと叫ぼうとして、それも叶わず彼女は血塊をごぼりと吐き捨てた。
 そして、それが決闘の合図と化した。



「おおっ!」
「がぁっ!」



 薙ぎ払われた斧の一戟を、何の痛痒もない様子でアブドゥルが受け止める。
 鋼が噛み付き合う甲高い音を立てながら、斧槍を跳ね上げた大刀が瞬時に翻って斜めから振り下ろされ、跳ね上がった斧槍の頭の代わりにくるりと回った長柄がそれを受け止め、弾く。
 

「きえぇっ」
「むぅっ!」

 大刀が翻って薙ぎ払いから平突きに、瞬く暇もなく早変わりすれば、それに合わせるように突き出された斧槍の切っ先が絡みあう。
 右かと思えば左、そうかと思えば地を這うような下段から。
 達人級の凄まじい攻防が、そこにはあった。

「ちくしょう……ダメよ……アブドゥル……そいつは、カースブレーカーなのよ……」

 空っぽになったマナ・プールに、必死に樹海に満ちた魔力を注ぎ込もうと足掻く。
 が、ダメ。
 いくら水を注ぎ込んだ所で、そこの抜けた樽にそれが溜まる道理もなし。
 悔しさと絶望に歯軋りをしながら、シャリアンはただただ、その死闘を見守るしかなかった……。


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