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No.28471の一覧
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[28471] 05
Name: Jabberwock◆a1bef726 ID:86aa7b37 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/11 00:30
 リーンは体中を包帯まみれにしながら、居心地の悪そうな表情を何とか押し殺して耐え忍んでいた。
 彼をそれほどまでにも困惑させる存在は、ベッドの横にある椅子に腰掛けた一人の人物である。
 仮にも戦場だと言うのに、真っ赤なロングフレアスカートにごてごてとフリルが大量に付いた喇叭袖の上着を身につけている美女だ。紅い色の長髪は緩くウェーブを描きながら腰のあたりまで伸びている。
 大胆に脚を組んで椅子の背もたれにもたれかかったまま、白皙の美貌を絵本に出てくる意地悪猫のようにニヤニヤ笑いで歪ませながら、その豊かな胸を強調するように腕を組む。

「手酷くやられちゃったわねぇ、リーンちゃぁん。だから言ったじゃない、困った時にはあたしに言いなさいって。すぐに飛んでいってあげたのに」
「……手紙は全て騎士たちに検閲されていました。申し訳ありません」
「あらぁ? そんな事言って、おねぇさんに借りを作りたくなかったってだけじゃなぁい? それに、敬語なんか使っちゃって可愛い。そんなに他人行儀にしなくてもいいのよ」
「いえ、今は立場上、軍団付き直護衛魔法使いであるシャリアン様のほうが階級は上です……騎士たちが勝手に付けた自分の階級がどれだけ有効か疑問なのですが、ね」
「もう、シャリアン様はヤメなさい! 昔みたいにシャイアおねぇちゃんでいいのよ」

 その言葉に、リーンは頬を軽く紅色に染めた。

「十年も昔の話です」
「魔法使いにとっては昨日の話よ。せめて、様付けはやめて頂戴。ね?」
「…………分かりました、シャイア…………さん」
「うーん……まあ、よしとしましょうか」

 そう言って、紅玉色の瞳を細く細く笑みの形に歪ませて、紅髪の美女はその指先でそっと青年の頬を撫ぜた。
 撫でられたところから痛みと熱が引いていく感覚に軽く驚きの表情をするリーンに、美女は軽く苦笑を漏らす。

「ふふ……これくらいの癒しの魔法はどんな魔法使いだって使えるわ。そんなにこの《赤の信奉者》が癒しの手を使うのが意外?」
「はい、意外です」

 バッサリとそう一言で言い切ったリーンに、美女――《赤の信奉者》ことシャリアンはその細めをギョッと見開いてから、如何にも可笑しいというふうに爆笑した。
 その笑いはそれまでの如何にも作り物じみた物ではなく、心底から湧き出る笑いであることは一目瞭然である。

「うふふ、ふふふふ、リーンちゃん、正直は美徳とは言うけど、魔法使い相手に馬鹿正直は悪手よ。覚えておきなさぁい、いいわね?」
「でも、シャイアさんが相手ですから」
「――――」

 シャリアンは言葉につまり、一瞬だけ呆然とした。

「分かって言ってる――わけないか。はぁ、まあ、そこがいいのだけれどもねぇ」

 呆れたような視線をベッド上の彼に向けながら、シャリアンは両手の指を相手に絡ませながら溜息をつく。
 一方、溜息をつかれた方は呆れの視線と自分の指に絡まる相手の其れに、またしても顔に血が上る。

「な、なんですか」
「いいえ、何でもないのよ。ただ、リーンちゃんは其れでこそ……という話よ。怪我、だいぶ治ったんじゃなくて?」
「はい? 肩骨を砕かれたんですよ、そんなに簡単に……」

 そこまで言って、リーンは違和感に顔をしかめた。
 ふと砕かれた方の肩を上げてみて、その顔は驚愕に彩られる。
 いつの間にか、怪我をする前の状態にすっかり治っている。

「え、こ、これは」
「言ったでしょ、魔法使いならこれくらいの癒しの魔法はだれでも使えるって」

 今度はリーンが言葉に詰まる番であった。
 誰にでも使えるとは言うが、彼の親友であり恋人でもあるイソラはこんなに高度な癒しの魔法は使えない。しかも目の前にいる魔法使いは《赤の信奉者》、今世紀最高峰の打撃力と才能を持った赤属性の魔法使い。
 つまり、たった一人で旅団規模の殲滅力を持った規格外の軍属攻勢魔法使いなのだ。
 彼自身も何度か彼女が魔法を使うところを見たことがあったが、神話級とも伝説級とも言われるその強力な魔法に度肝を抜かした。
 当然ながら、彼女が癒しの魔法を使うところなど見たことがなかった。

「うふふ……ダメよ、使った所を見たことがないからって、そのまま使えないと判断しちゃ。過大評価と過小評価は戦場では命取りよ、覚えておきなさぁい」
「はい、肝に銘じます」
「あら、またそんな堅苦しい……ま、いいわ。今日はこれくらいにしとかないと、あなたのお姫様が膨れちゃう」

 そう言って彼女はリーンの唇に軽くキスをすると「養生しなさぁい」とウィンクをしてから天幕の入り口に垂れ下がった布を払って外へ出て行った。するとそれと入れ違いに入ってきたのは、黒のローブを身に纏って箒を持った少女、イソラ・グラインワッドである。

「イソラ!」
「リーン!」

 呼びかけられたイソラはその顔をパッと歓喜に染めて走り寄るが、リーンが横たわる寝台の手前で何かを堪えるようにして「むっ」と難しい顔をして急停止した。
 訝しげに首を傾げる彼の前で、イソラはじっとりと湿った目付きで彼を睨みつける。

「…………シャイアさんと随分仲がよろしいんですね」
「あ、ああ、まあ、物心着いた頃からの知り合いだから。親兄弟もいなかったし、姉替わりかな……って、こんなこと知ってるだろ? どうしたんだいきなり?」
「……前から思ってたのよ。姉と弟の関係にしては距離が近すぎるんじゃないかって」
「何だって? 何を言ってるんだよ、家族だったら距離が近いのは当たり前じゃないか?」
「それにしちゃあ随分意識してるって言ってるの! 何よ、さっきだって顔赤くしちゃって、普通お姉さんにあんな顔する!?」
「な、の、覗いてたのかよっ」
「の、覗いてなんかいないわよ、人聞きの悪い! ただ、テントの中からシャイアさんの声がするから、ちょっと隙間から確かめただけよ!」
「それが覗いたって言うんだよっ」
「う、うるさい! な、なによ……人が心配して、伯父様の目を盗んでわざわざやって来てあげたのに……」

 そこまで言って、イソラは先程までシャイアが腰を下ろしていた椅子に崩れ落ちるように座ると、強ばった顔つきで自分の親指を曲げて第二関節を噛み始めた。それは、彼女が苛立ったときにする癖だ。

「違う……違うの、こんな憎まれ口を叩きに、やって来たんじゃない。ただ、私、その、リーンの怪我が、し、心配で、それで、あ、あの時、私、全然なにも、出来なくて、な、情けなくて……ッ」

 とうとう俯いて、言葉に詰まるイソラ。
 そんな彼女をそっと抱きしめて、リーンは泣き崩れる少女を落ち着かせるようにその背を撫でた。

「そんなの、こっちの台詞だよ。あの時、君に飛びかかっていったあの怪物。君が魔法で足止めしなかったらとてもじゃないけど間に合わなかった」

 その言葉に、イソラの体が強ばる。そして、抱きしめるリーンの身体も同じように強ばっていた。
 暫く、妙な緊張感を伴う沈黙が二人の間に漂う。
 やがて口火を切ったのは、リーンだった。

「あの怪物……あの、あの顔はまさか」
「違うっ」
「でも、イソラ。君も確り見ただろ? あの顔は、どう見ても――」
「違う違う違う! あ、あんな化け物が、お母様のはずがない!」

 しん……と、まるで空気が凍ったように静寂が周囲を包んだ。
 その特徴的な感覚に、リーンは彼女が魔法を使って「空気を固めた」と気がつく。たしかに、これからする話は聞かれてはまずい内容である。

「イソラ……でも、あの顔はアリステア様の顔だったよ」
「あ、アレは悪魔よ、お母様の顔をして動揺を誘いたかったんだわ。私たちの心を読んで、刃を向けられない相手を選んだのよ」
「じゃあ、どうして最初から顔を見せないんだ、あんな土壇場になってから見せるなんて意味が無いだろう。それに、変えるなら全身を変えないと、顔だけ変えたって……」
「い、命乞いをしてたんじゃないの? 死にそうになって、咄嗟に顔しか変えられなかったとか」
「いや、それは違う」

 不思議と、確信に彩られた返答である。
 イソラは恨めし気に彼の顔を見上げた。

「どうしてそんな事が分かるのよ。あんな言語、聞いたこともないのに」
「たしかに、意味なんて分からなかったよ。だけど、アレは命乞いなんてしていなかった。ただ、俺に向かって「闘え」と言い放っていたようにしか思えなかったんだ」

 またしても、妙に確信めいたその言葉に、イソラは困惑顔で唇を噛んだ。

「どうして……そんな事がわかるって言うの」
「勘だ、戦士としての」
「何よそれ……意味分かんない」

 消沈した様子で項垂れるイソラを抱きしめながら、リーンは未だかつて無いほど真剣な顔で何かを思い悩んでいる様子だった。

「ああ、全く……意味が分からないよな……」

 リーンは無意識のうちに、あの激戦で何処かに落としてしまった金時計を探していた。
 イソラの母から譲り受けた、形見の金時計を……。






――――――――――――――――――――――――――――――――






「あらら、聞こえなくなっちゃった。イソラちゃんもやるわねぇ、うふふ、声が聞こえちゃまずい事でもしてるのかしら……」
「何をしておるか、馬鹿者が」
「あら?」

 入り口から反対側の天幕の壁に耳を貼り付けて盗み聞きをしていたシャイアは、背後からの声に立ち上がる。
 そこにいたのは、背丈は彼女とそう変わらないものの、その全身には限界まで引き締まった筋肉がみっしりと張り付いて、灰色の髪は短く刈り込み、その顔面には歳経た者しか持ち得ぬ年輪の如きしわと威厳が張り付いている老年の男である。
 その身を包むのは肘と膝まである鎖帷子の上に革製の胴鎧とズボン、そしてその上からタバードと薄手のマントにターバンを纏い、その背中には己の身長ほどもある大サーベルを背負っている。
 如何にも威厳を漂わせるそれは、彼女の同僚であるイブン=アブドゥル・アルティメールであった。
 シャイアは立ち上がると、その見事な波打つ長髪を掻き上げながら「盗み聞き」と悪びれない様子で言い放つ。

「喝ッ、何を誇らしげに言うかっ! 馬鹿者め、他にすることがあろうが」
「ええー? だって今回は私たち魔法使いは出番全然なかったじゃなぁい。特にあたしなんて火力魔法の使い時がぜぇんぜんなくって暇で暇で……」
「ほう、ならばちょうどいい、仕事ができたぞ」
「えっ」
「ティメイアス将軍がお呼びだ、行くぞ」
「え、え、え、ちょっと! あたしをよんでるのぉ? 何かの間違いじゃなくて?」
「そうだ、呼ばれる覚えがあるか?」

 先に立って歩き始めるアブドゥルの後ろについて歩きながら、彼女は首を傾げる。

「うぅん……グリューネワルダーで谷底の砦ごと敵軍を溶岩に沈めちゃったことかしら? あの城って確か要所だから、残しとけって言ってたのよねぇ」
「アレは不可抗力だったと聞いている。まさか共和国の援軍がやって来ぬとは将軍も思わなんだのだろう」
「レゲーナ平原で麦畑を焼いちゃったこと? 農夫には悪いことしたわぁ……」
「あそこは王家直轄領で、アスピナ殿下の畑だった。将軍は大喜びであったな」
「ええーと……ヴェルカの攻城戦で地下水脈を爆発させちゃった件? だって、しょうがないじゃない、青属性の魔法使いじゃないんだから、そこまで分からないわよ」
「あれ以来、ヴェルカ近郊は温泉街として栄えているそうだ。将軍に礼状が届いている」
「え、そうなのぉ? なんで誰も教えてくれないのよぉ! あたしが作ったんだったら一番に入る権利があるでしょ!」
「教えたら仕事を放り出していってしまうであろうが。で、他には」
「もう……ルーノを攻めた時に、コルド共和国のゲオルギウス公の戦陣に間違って溶岩弾を打ち込んだことかしら」
「奇跡的に死者は出なかったが、あの後ゲオルギウス公から「殺す気か!!」と親書を頂いたな。お前も個人的に詫び状を送っておくが良かろう。だが、今の時点でわざわざ呼び出すものでもないな」
「うーん……なら、レイヴァンディを攻めた時に地下のガス溜りに火を付けちゃって、城ごと消滅しちゃった件かしらねぇ?」
「…………アレは、耳が馬鹿になるかと思った。二度とやるでないぞ。まあ、どうせあの城は打ち壊す予定だった、問題なかろう」
「そうねぇ……じゃあ、アレかしら、ウクスカルの外で待ちぼうけを食らわされて、いけ好かない貴族のお尻に火をつけてやったやつ」
「アレはお前か!」
「うん、そう」
「わははは、まあ、将軍も笑っておられたから、それではないだろうな」
「ええ? じゃあ一体なんなのよぉ」
「ふむ……まあ、直接聞いてみれば早かろう」
「ま、それもそうね」

 いつの間にか、二人はティメイアスのテントの前までやって来ていた。
 入口の両側に控えていた護衛兵は二人が近寄るや「きをぉーつけっ」の掛け声と共にハルバードを両手で抱いて捧げ持つ。
 それに対して片方は厳めしい顔つきで頷き、片方は笑顔で手を振るという対照的な反応を返しながら、直護衛魔法使い二人はテントの中へ入った。
 果たしてテントの中では、厳しい顔つきの隻腕将軍が急拵えの会議テーブルの上に大判の地図を乗せ、じっと睨みつけている姿があった。

「イブン=アブドゥル・アルティメール、参上致し申した!」
「シャリアンよ、お呼びに従い参上いたしましたわ」

 入室した二人をジロリと一瞥して、将軍は「かけろ」と一言。
 それに従って二人が腰掛けると、暫しじっと地図を睨みつけていたティメイアスは不意にその鋭い眼光を二人に向けた。

「シャリアン、アブドゥル、お前ら二人は別行動をとってもらう。リーンの怪我が治り次第、イソラとリーンを連れて辺境域に潜れ。行き先はあの二人が知っているはずだ。「辿り着いた」あとは俺も明確な指示を出せん。アブドゥル、お前を暫定的な指揮官に任命する」
「はっ! 如何なる任務でござりますか?」
「シャリアン」
「はいはい」

 赤の信奉者が人差し指をスイっと動かすと、三人の周囲に温度の違う空気の層が集まって伝わる音を変質させる。

「よし。今から言うことは極秘だ。絶対に外に漏らすな。これを知っていいのは、俺と、お前ら二人と、連れて行く二人と、「辿り着いた」先で出会った協力者だけだ。いいな」
「委細承知」
「あら、いつになく本気ね、ええ、分かっているわ」
「…………今から二週間後に、ハマール城の騎士隊駐屯地に現地視察と戦意高揚を目的としてアスピナ殿下を乗せた馬車が到着する。麾下の兵団は槍騎士隊300、弓騎士隊300、装甲騎士隊600の大所帯だ。どうやら辺境戦線で俺がちんたらやってるのを見て、自慢の騎士隊を使えば俺の鼻をあかせるとでも思っていやがるらしい。これがいつもなら、勝手にやってろと放置するが、今度ばかりはそうも行かねぇ。あのアバズレは「全騎士隊の戦力投入」を指示しやがった。分かるか? つまり、アスピナ麾下の兵団がハマールの駐屯地に着いたとき、俺のところにも騎士隊の派遣命令がやってくる。イソラと、リーンが、このままだとあのクソッタレの手駒として使われちまう。分かるか、ええ!」
「はっ、将軍閣下!」
「…………やっぱりさぁ、あん時焼いとけば良かったのよぉ。ティミーったら変なところで硬いんだから」
「うるせェ黙れ! 最高にクソッタレで腹立たしい事に、王族の発行した誓約書は絶対だ。それがあのアバズレの手にある限り、リーンとイソラは何処をどう捻っても騎士隊所属の騎士と魔女だ。俺は王国の将軍だ、これに逆らえば、軍法の秩序はないも同然だ。理解したか? 畜生めッ! クソがっ! つまり、俺のいいたいことが、分かるな、ええ? 魔法使い共、俺の言いたいことが、分かっているだろうなッ! どうだ!」

 目を血走らせ、まさに鬼気迫る勢いでそう怒鳴る隻腕の大将軍に、二人の魔法使いは不敵に笑いかけた。
 大刀を背負う異国の魔法使いは右手を心臓に当てて「御意のままに」と深く頭をたれ、紅髪の魔法使いは「あら、怖い怖い」と笑って獰猛に笑った。

「アブドゥル、シャリアン、両名をたった今から軍務から解放する。お前が治める領土は己の身体、守るべき法は魂の中、果たすべき誓いは心臓にある。領土を安堵し、法を遵守し、誓いを果たせ。タイムリミットは2週間。兵団が入城する前にかたをつけろ。手段は問わず、誓約書を見付け出して焼却しろ。殿下は殺すなよ、面倒になる」

 仮にも王族の生死を「面倒になる」の一言で切り捨てる将軍に、二人の魔法使いはただ笑う、哂う。
 この二人、ティメイアスという男がまだまだ地方貴族の三男坊として悪童の名をほしいままにしていた頃からの付き合いである。いまさら、この程度の無礼な口ぶりは何を言うまでもなかった。
 魔法使いが国に仕えることなど、あまりに少ない。
 それらが何人もいるなど、もっと少ないだろう。
 しかも、それらが軍属になると、まずありえないと異国の人々は声を合わせる。
 そして、その奇跡に奇跡を積み重ねたような幸運を、こうまであっさりと手放す男がいるなんて、何かの冗談だろうと人は言うだろう。

「あら、首になっちゃった。再就職先を見つけないといけないわぁ」
「フン、ようも今まで馘首されずにおられたものよ」
「ひどい言い草ね……。あ、そうだ、リーンちゃんに貰ってもらおうっと。永久就職出来ちゃうわねぇ」

 そう言ってクスクス笑う魔法使いに、ティメイアスはじろりと一瞥をやる。

「やめんか、あれはイソラを好いている。俺の後継だぞ。ちょっかいを出すな」
「あら、一番はイソラちゃんよ、当然じゃなぁい? あたしは二番目でいいの」

 悪びれないその言動に、流石の将軍も呆れの溜息を禁じ得ない様子で、溜まった気炎を吐き出すように溜息を付いて椅子に腰掛けた。

「よし……分かったのならすぐに行け。お前と話していると疲れてかなわん」
「御意……しかし、その前に一つお聞きしても」
「何だ?」
「例の「辿り着いた先」にいる協力者とは一体……?」

 首を傾げるアブドゥルに、将軍は鼻先にシワを寄せて如何にも「不機嫌です」と言わんばかりの顔つきのまま「行けば分かる」と言って貝のように口を閉ざした。
 シャイアは不満げな顔つきだったが、アブドゥルは信頼を下地にした物分りの良さを発揮して「承知致した」と返して席を立つと、まだなにか言いたげな彼女を引っ張ってテントを出て行った。
 一人残されたティメイアスは、地図上で空白のまま残されている「未開地帯」を眺めながら、ポツリと言葉を漏らしていた。

「これでいいんだな……アリステア」






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誤字修正と少し加筆


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