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No.28471の一覧
[0] 【ネタ】名前のない怪物【人外オリジナルファンタジー】[Jabberwock](2011/07/17 09:51)
[1] 02[Jabberwock](2011/06/24 00:59)
[2] 03[Jabberwock](2011/06/24 00:58)
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[6] 07[Jabberwock](2011/07/18 01:48)
[7] 08[Jabberwock](2011/08/04 21:14)
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[28471] 03
Name: Jabberwock◆a1bef726 ID:883a854c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/24 00:58
 隻腕の大将軍ティメイアス・グラインワッドは戦場を眺めていた。
 遠眼鏡の中の限られた視界の中、敵右翼がクロスボウ中隊の一斉射によって壊乱する様が写り、隻腕の将軍は忌々しげに舌打ちをした。

「ええい、進歩のない奴らめ、歩兵に置き盾くらい持たせたらどうだ、歯応えのない。騎兵隊を突撃、踏みつぶして左翼に抜けろ」

 隣に控えていた伝令兵がすぐさま鏑矢を撃ち上げる。
 「びょう」という特徴的な飛翔音に応えて、戦場を迂回して森の中に潜んでいた第一騎兵中隊が突撃を敢行。
 突撃ラッパと共にランス騎兵が後退中の敵右翼を粉砕、そのまま中央の背後を走りぬけて敵左翼の背後に喰らいつく。
 その際ランス騎兵の後ろをついて行った弓騎兵隊が、行きがけの駄賃だと言わんばかりに敵中央に矢の雨を浴びせながらそれに続いた。
 無論、そんな指示は出していないし、事前の打ち合わせにもなかった。
 その様子に、ティメイアスの口に思わず苦笑が漏れる。

「ふん、ボルチャめ、俺への当て付けのつもりか。だから今回は貴様の出番は殆ど無いと言い含めたというのに」

 髪も髭も積み重ねた年月を用意に想像できる程の白髪で、短く刈り込んだそれを片腕で撫でさすりながら、リンディアール王国の宿将は戦場を見渡して「勝ったな」と呟いた。
 
「歩兵大隊突撃。追い散らせ」

 またしても、鏑矢が撃ち上げられる。
 鷺が泣くような甲高い「ピュー」という音が戦場に響き、出番を今か今かと待っていた歩兵大隊が雄叫びを上げながら敵陣中央に突撃する。
 既に士気崩壊を起こし始めていた敵軍は、ぎらりと光る凶器を掲げて迫り来る戦鬼の群に、明らかに尻込みした様子で、第一陣が敵にぶつかるや否や最後尾から我先に逃走を始めた。
 最前列のハルバード兵が振り下ろす一撃で、敵陣がまるでパイをカットするかのように切り裂かれていく。
 更に再装填を終えた重クロスボウ中隊のさらなる斉射を三時方向からまともに食らい、士気を完全に挫かれたのか、まさに算を乱すように逃げ始めた。
 
「なんと、あっけない。もう少し踏ん張るかと思ったが、所詮蛮族か」

 ごおごおと戦場の雑音が渾然一体となって、小高い丘から戦場を俯瞰するティメイアスの耳に入る。
 騎兵隊に再度指示を出そうとして、すでに弓騎兵隊が中心になって敵を追撃している様子が目に入った。

「ハハハ、ボルチャめ、ランス騎兵まで勝手に率いて……デグランが顔を真赤にしている姿が眼に浮かぶわ」

 ゲラゲラと面白そうに笑う将軍のそばに、緊張の面持ちで伝令がやってくる。
 その報告に耳を傾けた途端、将軍の顔に訝しげな表情と不愉快気なものが同時に浮かぶ。

「分かった、すぐに行く。デスピン!」
「ははっ」
「あとを任す。無用な損害を出すなよ」
「了解しました!」

 副官に指揮を引き継ぐと、ティメイアスは馬首を返した。
 果たして、戦場から離れた後方にあるテント群の中、野戦病院のテントの近くに彼らはいた。
 一目見て上等なものと分かる鋼鉄の鎧に身を包んだ騎士たち、そして彼らに肩を貸して治療所に運ぶ衛生兵たち。
 その場に集っていた兵士たちがティメイアスに気がついて敬礼をするが、煩そうに手を振ってそれをやめさせると彼は如何にも敗残の兵といった風情を醸し出す騎士たちの方へと馬を進めた。
 
「ははぁ、これはこれは、誉れ高きアルピナ王女殿下の騎士閣下ではないかね。このような所へ何用かな? 生憎と俺達は泥臭い戦争の真っ最中でね、諸君らの求めるような綺羅びやかな栄光とは無縁の場所であるが? ここには悪漢に拐われた美女も、古代王国の遺跡も、暴虐に浸る悪代官もおらん。どこかで道をお間違えか?」

 そう言って皮肉たっぷりに馬上から言葉を投げかけると、傷ついた騎士たちはこの侮辱に顔を青ざめながらも食ってかかるようなことはなかった。
 背後に王族が控えているとは言っても……いや、だからこそ、王国の軍部から圧倒的な支持をうけるティメイアスに迂闊なことは言えない。
 彼は面白くなさそうに鼻で笑うと、さすがにこれ以上は不味いと思い馬から降りた。
 まことに不愉快なことではあるが、兵卒達の前で堂々と将軍が騎士を軽んじるわけにも行かぬゆえ。
 役職の位階は彼の方が圧倒的に上だが、家の格やその他諸々の形にならない「貴族のあれこれ」が絡み付いている。
 面倒なことだと、ティメイアスは内心大きく溜息を付いた。
 彼の半生は目の前にいるような「騎士」などと名乗って無意味な戦争を繰り返す、「馬鹿」と同意語の無知蒙昧の輩を王国から駆逐するために費やして来たと言っても過言ではなかった。
 当然、貴族たちからは蛇蠍のごとく嫌われ、何度も暗殺されかかった。だが、ティメイアスは生き残り、騎士たちは今や叙事詩やお伽話で語られる過去の遺物へと変わろうとしている。
 だというのに、世間知らずの姫君のせいでまたしてもこういった輩が現れ始めたことを、ティメイアスは苦々しげに見ながらも積極的に排除しようとはしてこなかった。
 既に時流は平民出身の職業軍人で構成される軍部が圧倒的に主流だ。
 今さら彼らのようなカビの生えた時代の遺物を持ち出したところで、良くて妃殿下の手慰み程度の価値しか無い。
 ティメイアスは無駄を嫌う男だった。
 故に、騎士達の徹底した対抗心を完全に黙殺してきた。
 時代遅れも甚だしい中世時代の勇者めが、相手にするのも馬鹿馬鹿しい、とばかりに。
 皮肉にも、そうすることで余計に相手の敵愾心を煽ってしまったが……。
 そして、歳若い騎士に両脇を支えられながらこちらへ歩み寄る指揮官らしき騎士の前へと進む。
 一体何処で何と戦ってきたものか、騎士の鎧はまるで破城槌を正面から叩き込まれたようにへしゃげて使い物にならなくなっている。
 ティメイアスの前までやってきた騎士は蒼褪め、屈辱に歪んだ顔で敬礼をした。

「話を聞こうか」
「どうか、傷ついた部下たちを治療してやって欲しい。代価は、払う」

 まさに、血を吐くような口ぶり。
 背後に控えた二人の騎士も、屈辱に唇を噛んで震えている。
 冷徹な眼差しでそれを見ながらティメイアスは「これだよまた始まった」と呆れ返っていた。
 どうしてこいつらは、百年前から脳味噌の中身が変わらんのだ。
 どうせ今こいつの頭の中には名誉だの誇りだのといった、糞の役にも立たない言葉が踊り狂っているに違いない。そう考えて、中世からよくもまあこうも変わらずいられると、ティメイアスは重い溜息をついた。

「お前は馬鹿か」
「何……」

 ティメイアスは侮蔑の視線を相手に浴びせながら、口の中に湧いた苦いものを唾と一緒に地面に吐き捨てた。

「俺は王国の将軍だ、お前たちは王国の戦士だ、それらを助けるために何故代価など貰う必要がある? 俺達は王族のためではなく国家のために戦っているのだ。貴様ら貴族のおままごとと一緒にするな、馬鹿馬鹿しい。職業軍人は出自など気にせん。ブリストル! 来い!」

 衛生兵に混じってテキパキと治療の指示をしていた軍医を呼ぶ。
 呼ばれたブリストルは飛び上がって駆け寄った。

「は、はは、はい!」
「全員に滞り無く治療を行え。俺かそいつらがいらんというまで治療を続けろ。分かったな」
「は、はい、りょ、了解しました!」

 僧侶上がりの軍医ブリストルは吃音癖があるが、優秀だ。
 最高の頭脳と天才的な外科内科の心得があると言うのに、この吃音癖とチビでハゲでデブという見た目、更には孤児出身の僧侶という出自のせいで30になるまで僧院の図書館で冷や飯を食っていたのをティメイアスが引っ張ってきたのだ。
 
「俺はテントに戻る。後は任せたぞ」

 そう言って、それきりティメイアスは騎士達に興味を失った。
 現在のところ王国で最も忙しい将軍である彼にとって、傷つき現れた騎士達が一体何と戦っていたのかなどという事は、今日の晩飯を何にしようかということよりも重要度の低い些事であった。
 その認識を180度変えることなる契機は、騎士達の一行に彼が目に入れても痛くないと思っていた可愛い可愛い姪っ子が加わっていたと知った時である。
 隻腕の大将軍は怒髪天を衝く勢いで怒り狂い、アスピナ姫に対する不敬罪半歩手前……いや、すでに不敬罪に足を踏み入れた罵倒をがなり散らして、姪子とその幼なじみを自分のテントに引きずり込んだ。
 騎士たちが何人か阻止しようとやって来たが、ティメイアスに忠実な兵士たちに抑えつけられて救護テントに放り込まれた。
 ティメイアスは姪子をソファに座らせ、黒髪の青年を地面に放り捨ててから爆発する。

「このクソったれの大馬鹿者がっ! 俺はいつか言ったはずだ、イソラに傷一つでも付けてみろ、テメェの粗末な一物をちょんぎって口に捩じ込んでから叩き斬って、フェデネールの沼に捨ててやるとなッ! お前はあの時なんて答えた? ええ? 俺はお前を信じて任せたんだ! それなのに! この体たらくは何だぁええぇ!? ドアホの尻軽バカ姫の言葉にまんまと乗せられやがって、その首に乗っている御大層な物は西瓜か! そこに直れ、約束どおりにしてやる! そんなに英雄になりたきゃ今ここで英雄たちの碑文に加えてやらぁ!」

 そう言って長剣を引きぬいた彼の腰に、可愛い姪っ子がしがみつく。

「や、やめて伯父様! 私が悪いんですっ」
「イソラや、どきなさい、いま俺は男同士の約束も守れない卑劣な嘘つきを殺さないといけないんだ」
「違う、違うんです、私が悪いんです。お父さまが……あ……」

 しまった、というような顔でイソラが口を噤む。
 だがその一言でティメイアスの顔色は更に憤怒でどす黒くなった。

「ミュラーの阿呆が何だと? イソラ、言いなさい」
「…………」
「そうか、言いたくないなら仕方ない。おい、そこの詐欺師野郎、説明しやがれ」
「あ、ダメ! リーン!」

 必死の形相で止めるイソラと、今にも首を跳ねたくてうずうずしているティメイアスを見比べたあと、傷が熱を持ち始めたのかぼたぼたと汗をかきながらリーンは口を開いた。

「ミュラー様はアスピナ様に今度新しく始める事業に融資をして頂き、その見返りにイソラを騎士小隊付き魔女として派遣することを了承されました。俺はイソラの従士として既に組み込まれていて、四六時中監視がついてご報告できませんでした。お怒りご最も。如何様にも処罰は受けます。このリーンはティメイアス様との約束を破り、イソラを危険な目にあわせました」

 そう言い切って、左肩の骨が粉砕骨折を起こしているにも関わらず、リーンは片膝をついてティメイアスに臣従の礼をとった。
 見様によってはそれは、首を跳ねられる前の罪人のようにも見える。
 その執行者たるティメイアスは、先程の怒りが何処かにいったように凪の表情であった。
 が、リーンとイソラはその顔が恐ろしい。
 二人は知っていたからだ、ティメイアスが本当に激怒した時、その顔から表情というものが抜け落ちるということを。
 彼はゆっくりと剣を地面に突き刺して、石像が喋ったかのように無感情な声で話した。

「リーン」
「はい」

 ティメイアスは地面につばを吐いた。

「あのクソ馬鹿共に様付けなど勿体ねぇ。あいつらの呼び方なんざ「ビッチ」と「ヌケサク」で充分だ」
「……はい」
「イソラ」
「は……は、はい」

 ティメイアスは優しい手つきで腰元に抱きつく少女の柔らかい髪を櫛った。

「無事でよかった。俺はとうとうこの歳まで子供が出来なかった。お前のことを娘のように思っている。だから、どうか危ない真似はしないでおくれ。いいかい?」
「は……い……伯父様……わたし…ど、どうしたらいいか……わ、分からなくて……お手紙も、なんども送ったのです……で、でも……」

 泣き出したイソラを片腕で抱きしめながら、鷹のように鋭い目付きで跪く青年を彼は睨んだ。

「リーン」
「はっ」
「イソラをこうして無事に連れ帰ってくれた功を鑑みて、その首を落とすのは止めておく。俺も今回は考えが甘かった。まさかあの恥知らず共がここまでするとはな……。治療を受けろ。あの騎士たちとは別のテントで受けられるように手配してある。傷が癒えたら、話を聞きたい」
「仰せのままに」
「行け」
「はっ」

 気絶をするほどの激痛だろうに、黒髪の青年騎士は泣き言一つ漏らさずに身を翻してテントを去った。
 あんな気のいい青年が、大人同士のどろどろした争いに巻き込まれている。
 それを考えただけで、ティメイアスの胸を刺すような痛みが襲った。
 いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった姪子を抱き上げてソファに寝かせ、その頬にキスをする。
 その場に跪き、ティメイアス・グラインワッドは握り拳を眉間に当てて、今はもうこの世にいない彼の妹……イソラの母に祈った。
 「取り替え子」と蔑まれ、魔女と恐れられ、それでも彼のことを「兄さん」と呼んで慕ってくれた妹を……。

「畜生め……政治なんてクソッタレだ。好き合った子供たちが利用される国を、俺は作りたかったんじゃない……こんな国…あんな指導者…畜生……畜生……アリステア、それでも俺は、この国を救う英雄だって云うのか……? 畜生……教えてくれよ……アリステア」

 不死身の隻腕将軍と巷で恐れられる男の、誰にも聞かれぬ泣き言は、ただ虚しくテントの中でかき消えて、あとには少女の安らかな寝息だけが残った。







――――――――――――――――――――――――――――――――






「と、そういう経緯で此れを手に入れた」

 そう言って締めくくりに怪物が例の金時計をさし出してみると、既に充分以上に顔色が悪くなっていたレギオーは「見せてもらっても?」と断ってから金時計を精査した。
 そして、酸欠の魚のように「あわあわ」と口をパクパクさせる。

「どうした」
「ぐ……ぐらいんわっどけのもんしょう」
「何だそれは」
「あ、はは、はははは、おわった、じゆうになって、もうおわった、あは、あははは、あはは。くる、ぜったいくる、せきわんのてぃめいあすが、ふくしゅうしにくる、かたうでのおにが、あははは、もりをやきはらいにくる」

 壊れたように笑い声を上げるレギオーを前に、怪物は首を傾げながら金時計をその手にとった。

「持ち主と決着が付かなかったのが心残りだ」
「殺してないんですか!!」
「うおっ、あ、ああ、あの程度で死にそうになかった」

 そう答えると、掴みかかったままレギオーはぐったりと脱力して怪物の胸の間に顔を埋めた。

「よ……かったぁ……」

 その言葉に、怪物はむっとする。

「良くない。あんなにドキドキする殺し合いは初めてだったのに」
「良かったんです! もし殺してたら、隻腕のティメイアスに森ごと焦土にされるところでしたよ!」
「何だって!?」
「ようやく理解して頂けましたか」
「なおさら惜しい! そんな奴が来なくなるなんて!」

 レギオーはこんどこそ完全に脱力し、怪物の胸の中でしくしくと泣きはじめた。
 自分が一体どんなまずい事を言ってしまったのかと、怪物はやはり首をかしげた。

「おい、角が当たって痛い」
「当ててんです」








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人間パートがくどい。
怪物のほうが頭からっぽで気楽だ。


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