「貴様らか、せっかくのいい気分が台無しだな。が、我(オレ)は寛大である。2度目の者もいるようだが、失せるがいい。見逃してやる」
ジュエルシードの気配を感じたので、封印に赴いたら無粋な転生者に出会った。
青年の心境はそういったところであろうか。
「相変わらずの高慢さ、反吐が出るな……」
リーダーである東樹(あずまいつき)が手を上げると、残る9人が一斉に散り青年を包囲する。
「死ぬ覚悟はしてきたか。よかろう、尽く冥土に送ってやろう。死ぬがよい!」
包囲されてなお、余裕の笑みを浮かべ青年は命じた。
勿論、結界を展開することも忘れない。
同時に無動作で『王の財宝』を全方位に展開・射出する。
その数、実に1024。
「なっ! 馬鹿なっ!」
レイ・ドラグーンが驚愕の表情で同じく『王の財宝』を展開。
しかし、こちらは指を鳴らす動作を必要とし、数もわずかに48。
「ええい、出鱈目な!」
『王の財宝』持ちである樹もこれを展開するが、やはり腕を上げる動作を必要とし数はレイに勝るが144と青年には圧倒的に劣る。
ここに『無限の剣製』持ちが4人もいなければ、いきなり終了モードであった。
内心の驚愕を押し殺しつつ、天宮聖(あまみやひじり)、虎桜院闇守(こおういんやみもり)、鳳凰院朱雀(ほうおういんすざく)、竜閃光峨(りゅうせんこうが)は襲い来る宝具の矢を必死に迎撃する。
そして、残る4人も必死に逃げ回りながら、宝具のぶつかり合いによって生じる僅かな隙を虎視眈々と狙っていた。
「ふむ、凌ぐか?」
僅かに感心し、青年が第二波を展開しようと周囲を見やるその瞬間、
「ハァアアアアアアッ!」
「シッ!」
近接型である神薙北斗(かんなぎほくと)と皇劉騎(すめらぎりゅうき)の二人が動く。
純粋な身体能力では青年を上回るこの2人が瞬く間に間合いを詰める。
が、青年の周囲に展開されているのは絶対防御、『反射』の膜。
「キィイイイック、あれ? グァッ!」
劉騎が放った全力のキックは、その威力をそのまま反射され、錐揉みしながら吹き飛んでいく。
「やはり、な!」
実質、劉騎を捨て駒にした北斗は、樹から告げられていた青年の障壁についての推測がおそらくあたっていること悟る。
ならば、することは一つ。
北斗神拳の業と、魔導師のマルチタスクを持って、この場で木原神拳を完成させるのみ!
「……まあいい」
自身に張り付いて『反射』の膜を精密な動作で突付く北斗の様子に、何をしたいか理解した青年はそのまま放置する。
実際、あれは種がわかれば手品の類だ。脅威足りえない。
それよりも──。
「「「「───Mywholelifewas(この体は、)“unlimited blade works”(無限の剣で出来ていた)」」」」
接近してきた2人に気を取られていた間に、攻守が逆転していた。
「「「「いくぞ贋英雄王(モドキ)。武器の貯蔵は十分か」」」」
赤い剣の丘が結界内を侵食し、その丘を共有する4人の偽者の贋作者(フェイカー)が勝ち誇る。
リーダーの樹はこの状況に持っていくまでに必死に援護を続けていたが、青年の障壁がやはり自身の最悪の予想通りであったのに調子付いている4人に頭を痛める。
「貴様ら、本当にそれが好きだな……」
心底げんなりした様子で、青年が第二波を展開。
無論、相手側の攻撃は既に始まっている。
一度に来ているわけではないが、その総数は青年の第一波攻撃をも超える数だ。
なので、倍の2048を展開する。
「なんだ、そりゃあ!」
青年の初弾に、自分のミッドチルダ式の魔法では攻撃の役に立たないと判断し、自身の役を補助に割り切ったカイ・スターゲイザーが怒鳴る。
この場の(吹っ飛んだ劉騎を除く)全ての人間の正直な意見である。
何ゆえ、無動作、ノーリスクでこれほどの数を展開できるのか。
答えは、純粋な魔力量とマルチタスクである。
青年の魔導師ランクはSSSSS、数値にすればおよそ100億(初期値の5億から地味に成長している)。
また、マルチタスクも初期のLv100から500までレベルアップしている。
この場の10人のSSSランク魔導師の魔力量を全て足しても届かない高みにいるのだ。
「殺ったぁ!」
と、数の暴力が転校生ズに放たれんとしたその時、
「むっ!?」
いままで何の役にも立っていなかった刹那・S・ナイブズが青年の後背から跳躍、『シルバー・チャリオッツ』による不可視の剣を青年の額につきたてる。
青年の障壁の正体に気づいていた樹と北斗はこれに驚愕、残る6人は喜色の笑みを浮かべた。
「このまま、死──」
刹那の叫びはそこで停止する。
『over clocking──start』
無論、青年の主観時間のうちであるが。
「反射の膜を抜けるとは……何だ?」
停止した時の中で、自身の脳を貫通した不可視の何かに青年は疑問の声を上げる。
『──』
即座にデバイスが返答する。
基本的に青年はベクトル操作と時間操作はこのデバイス『クロック・タイム』で制御している。
特にベクトル操作は防御用に選択したため、攻撃に使うとどうしても加減が効かなかった。
最も、アレクサンドロ戦では怒りのままに手加減なしで重力を操作し、彼をペチャンコに潰したのだが。
「ほう、なるほど幽波紋か。反射の膜に引っかからんとは意外であるな」
そう呟きながら、スススッと切っ先から頭を抜く。
そうして傷口を指で拭うと、跡形もなくそれは消える。
『──』
スキル:幽波紋のメリットの一つである、スキル持ち以外には見えないという効果であるが、触れることもできないという本来の性能も備えている。
が、それでも幽波紋はこの世界の魔力で構成されている。
一度味わった以上、二度とベクトル操作の『反射』の膜は突破できない。
「む、もう覚えたか。二度目はないが、貴様の健闘を讃えよう。褒美に我(オレ)の最大の秘技で葬ろう」
青年は自身に一太刀を浴びせたこの少年に、最大の敬意で答えることに決めた。
その技は生み出したものの、ある意味で強力すぎたため使うこともあるまいと封印したものである。
また、停止空間でしか使用できないという欠点もある。
「──『時間暴走(タイム・クラッシュ)』起動」
『Yes mastar.《time crash》start!』
効果そのものは単純明快。
結界内に包んだ対象の時間を無理やり加速させるだけである。
が、停止した時間の中で、意思も何もかもが停止したまま、物体の時間だけが加速していく。
老化し、劣化し、風化していく。
そして、人間であれば起動して1秒ほどで塵となる程度に問答無用の技であった。
青年が時間停止をといた時、その場の8人はすべからく同じ想いを抱いたという。
すなわち、
(あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! 『刹那・S・ナイヴズが奴の脳天を貫いた、そう思ったらいつのまにか消えていた』な……何を言ってるのか、わからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……)
である。
とはいえ、8人共に転生者。
メタ視点とはいえ、青年の能力が何か当たりはつく。
「時間停止能力……」
樹が呟く。
「まあ、分かるか。安心しろ、我(オレ)は基本的にこの力は攻撃には使わん」
実質、ほぼ全ての手札を晒してしまった青年が苦笑する。
「それだけではないな。頭を貫かれて死なんとは、不死者か何かか?」
一瞬でテンションを下げられ、冷静さを取り戻した朱雀が尋ねる。
「どうでもよかろう。ついでに自身の死刑宣告を読み上げる気分はどうだ?」
それを知ったところでどうしようもないだろうと、青年は質問に質問で返す。
こういった能力は分かれば対処可能となるもの、分かったところでどうにもならないものの2つに分かれる。
『ベクトル操作の反射の障壁を備えた、不死であろう時間操作能力者』
青年は完全に後者である。
対応する能力を持たねば、対処の手段がない。
「ひ、ひぃああああああ~!」
恐慌状態に陥ったレイが一目散にこの場から逃走を試みる。
「無様な」
が、青年の放つ即死の槍に貫かれ、ギャッと悲鳴をあげそのまま動かなくなった。
「貴様らは無様な真似を見せるなよ?」
そう、壮絶な笑みを7人に向ける。
一方的な掃討の開始であった。
掃討開始から3分。
7人全員が守勢に転じたため、一応まだ誰も死んでいない。
青年も攻撃に使うのは『王の財宝』のみ。
が、すでに攻撃に用いる数は5120。
一度ごとに1024づつ増えていき、現在第5破目である。
「これも凌ぐか!」
弑虐的な笑みを浮かべ、青年が続く宝具を展開しようと蔵を開ける。
そんな時であった。
ガサリ──。
青年の背後で草木が物音を立てる。
「む?」
目を向けると、澱んだ魔力が蠢いていた。
ジュエルシードモンスターである。
本来、ロベルト・ナカジマの張った強力な結界により、この地で原作のごときジュエルシードモンスターは姿を形成できない。
が、青年の張った封時結界は、SSSSランク結界魔導師であるロベルトの結界効果を無力化してしまったのだ。
とはいえ、結界内に溜まった高レベル魔導師の負の感情に反応し、澱んだ魔力で形成される原作1話のアレより少し強い程度のジュエルシードモンスターである。
青年に負ける道理はなかった。
通常であれば──。
「ちっ、時間をかけすぎたか」
青年はこの転生者たちを弄っていることを自覚していた。
それほどまでに、在り方に苛立ちが募っていた。
とはいえ、青年とて自身の在り方を彼らに押し付けるのは間違いだということも理解している。
が、はじめから吹っかけた来たのは彼らのほう。
すぐさま殲滅できたのに、こうも弄るのは青年に積もり積もった悪意のせいであった。
気を取り直し、蔵から魔力を奪う剣を取り出す。
こういったときあらゆる宝具の原典が収められた『王の財宝』は便利だ。
破損すれば次元震を起こしかねない危険なジュエルシードを安全に無力化できる。
そんなことを頭の隅に、青年は切っ先をジュエルシードモンスターに向けた。
その瞬間であった。
『時間だ』
「っ!?」
始まりの地で聞いたその声が、青年の脳裏に響く。
と、同時に全身が弛緩した。
青年は悟る。
自分は今ここで死んだのだと。
理由など分からない。
あらゆる能力が使えない。
だから、もう死んでいる。
だが、
(これを、ジュエルシードを、奴らに渡すわけには、いかん!)
『ほう』
限界など凌駕しろ!
『神』よ、この我(オレ)を誰だと思っている!
(受け取れ、高町ゆきの! これを奴らに渡すな!)
もう何処にもないはずの力を、それでもなお、魂をも燃焼させんばかりの勢いで力を捻り出す。
そうして、青年は覚醒を果たしてから19年間を共にしたデバイスを、自身に希望を与えてくれた少女の元へと転移させた。
死してなお、意志を貫く青年を、『神』は驚きながら見ていた。
そうして、立ったままの青年の形をした死体に迫るジュエルシードモンスター。
その不定形な口を大きく開き、
ゴリッ!
その頭部を通過した。
《転生者一覧が更新されました》
【レイ・ドラグーン】
年齢:死亡(/10歳)
・転校生:9歳のなのはと同じクラス(30P)
・総合SSSランク魔導師(300P)
・王の財宝(10000P)
・ニコポ(100P)
・ナデポ(80P)
・容姿:超美形(100P)
・名前:レイドラグーン(21P)
現在地:第97管理外世界
【刹那・S・ナイブズ】
年齢:死亡(/19歳)
・転校生:9歳のなのはと同じクラス(30P)
・空戦SSSランク魔導師(300P)
・幽波紋:シルバー・チャリオッツ(500P)
・ニコポ(100P)
・ナデポ(80P)
・容姿:超美形(100P)
・名前:刹那スカーレットナイブス(40P)
現在地:第97管理外世界
【山田 三郎】
年齢:死亡(/24歳)
・総合SSSSSランク魔導師(900P)
・マルチタスクLv100→500(300P)[限界突破]
・デバイス:クロック・タイム(200P)
・王の財宝(10000P)
・乖離剣・エア(5000P)
・天の鎖(250P)
・カリスマLv10(1000P)
・黄金律(700P)
・ベクトル操作(80000P)
・不老(7500P)
・不死(100000P)
・時間を操る程度の能力(45000P)
・容姿:英霊・ギルガメッシュ(100P)
・誰かが助けを呼ぶ声が聞こえる[限界突破]
・誰かのピンチに偶然居合わせる[限界突破]
・悪の企みを察知する[限界突破]
・悪事の現場を偶然通りかかる[限界突破]
【英雄(日本限定):黄金のヒーロー】[限界突破]
現在地:第97管理外世界
高町ゆきのは自室のベッドに横たわっていた。
本日もユーノ捜索が空振りに終わり、最近では魔法訓練にも身が入らなくなっている。
そんな時であった。
「っ!」
彼女の部屋に、何かが転移してきた。
「……懐中時計?」
見た通り、金色の懐中時計ではあるが、実際には懐中時計型デバイス『クロック・タイム』である。
『──!』
「え? おうさまが!」
ゆきのは青年の死と、敵対する転生者のことを知る。
実は、このゆきの、今の今まで転校生ズの正体に、というか存在に気づいていなかった。
『──』
と、8個のジュエルシードを出現させると同時に、『クロック・タイム』は跡形も残さず砕け散る。
「あ……あれ? ……おうさま、死んじゃったの?」
何が何だかわからぬうちに、ジュエルシードを託され、消えてしまったデバイスに、一度出会っただけの金色の青年を思い出す。
散らばったジュエルシードを拾いながら、ゆきのは訳もわからず悲しくなり涙をこぼす。
「何が何だか、訳がわからないよ。ユーノくん……」
7人の転生者は、唐突に起きた目の前の出来事を無言で見つめる。
頭部を失い、力なく倒れ付す最強の敵。
呆気に取られる間に、ジュエルシードモンスターはガサリガサリと蠢きながらこの場から離れていった。
「はっ!」
リーダーの樹が死体のほうにすっ飛んで行き、蔵から取り出した槍で死体を貫く。
「おい、何を!」
いきなりのリーダーの凶状に朱雀が制止の声をかける。
「バカ野郎! コイツは不死身とかだろっ! 死ぬまで殺しつくさなきゃヤバイだろうが!」
目を滾らせながら、凶相を浮かべ樹が叫ぶ。
その声に、全員がハッとする。
「そうだった」
「そういや、そうだ」
そう口々に、それぞれ獲物を手に、死体に群れる。
ゴシャ! グシャ! グチッ!
各々の武器が死体に叩きつけられるたびに、赤いものが飛び跳ねる。
ピクリとも動かないそれは、何時しか地面を染める赤黒い絨毯となっていた。
「やったのか?」
「……ああ、やった」
誰かが呟き、誰かが答える。
誰もが笑顔を浮かべる。
「クヒ、ウヒャ、ヒャハハハハハ!」
誰もが血まみれで、狂気に歪んだ顔で笑っていた。
「……」
それを漸く復帰し、途中、ジュエルシードモンスターを倒し、確保した皇劉騎が気味の悪いモノを見たといった顔を浮かべる。
彼ら10人は、2人の尊い犠牲を出しつつも、巨大な敵を倒すことに成功する。
「さて、次は小煩いハエの始末だ」
凶相を浮かべるリーダーの樹は、虚ろな瞳でそう呟く。
縛めを釈かれた悪鬼たちが、海鳴に解き放たれた瞬間であった。
『君には最後まで驚かされたよ』
(……)
『が、これも決まりだ。頑張ってくれたまえ、山田くん……っと』
(っ! 我(オレ)は、フリードリッヒ・ジークフリード……ん? ここは?)
『……いや、本当に驚かされるな。この場で覚醒、しかも力を倍返しでか』
(……そうか、我(オレ)は死んだのか)
『そうだ。君は死んだ。色々言いたいこともないでもないが、まあ、ゆっくり休みたまえ』
(……断る)
『……別に、それならそれで構わないが、ここに君がすることは何もないよ』
(声が、誰かが我(オレ)を呼ぶ声が聞こえる)
『……本当に規格外だなぁ、君は。まあ、自由にしたまえ。力は既に返してもらった。君が、なんの力ももたない今の君が、それでも何かできるというのなら、見せてもらうよ』
(無論、もう答えは得た。誰かに与えられる力はもう必要ない。我(オレ)に限界など無いのだからな!)
『まあ、頑張ってくれたまえ』
(うむ、見ているがいい)
『しかし、力の超過をこういった形で返すとは……イレギュラーにも程がある……』
この日、遂に件の25万さんが死亡した。
スキルから見て寿命以外の死因が浮かばん以上、きっとそうなんだろう。
ついでにレイ・ドラグーンに刹那・S・ナイブズも死亡。
アレクサンドロに続き、2人目3人目の転校生ズからの死者である。
ジュエルシードの捜索中だったので、迅雷のオッサンにそのことを言ったら、25万さんの名前を聞いてきた。
山田三郎さんですと答えると、はぁ? といった顔で「フリードリッヒとかじゃなくてか?」と聞いてくる。
違いますよー、と答えると、オッサンは、「んー? かっしいなー? あれが最高Pかと思ったが……」とか呟いていた。
どうやら、25万さんと勘違いするほど強力な転生者がこの街にいるらしい。
しかし、何故転校生ズはこうもポロポロ欠けるのか、内ゲバでもやっているのだろうか?
だが、僕がそういうことを考えていられたのはこの日までの話。
翌日、珍しく転校生ズが一斉に休み、レイと刹那がいなかったことにされていることに、やはりはやてとアリサが疑問の声を上げるも、これに答えることができるのは僕も含め誰もいない。
なのはたちは昨日のニコポ担当が刹那だったためか、珍しく正気にかえっている。
ゆきのさんは相変わらず挙動不審であるが、なにやら迅雷のオッサンと話がしたいと言ってきたので、放課後翠屋に集合する旨を伝えておく。
そんな風に、珍しく高町三兄妹で揃って帰宅したのであるが、まあ僕の考えの甘さを思い知らされることになる。
ジュエルシード捜索絡みで、最近は家に待機している事が多い士郎さんが丁度玄関から出てきたので、
「「「ただいまー」」」
と、ただいまの挨拶。
「ああ、おかえりなさい、なのは。ところで、そちらの子達は誰だい?」
そう、士郎さんは本当に誰だかわからないといった顔で聞いてきた。
ナニソレ?