「さて、集まってもらってさっそくだが、僕は皆に共同戦線を申し入れる」
屋上に集まった転生者たちに、黒い長髪が目印の東樹(あずまいつき)が皆に提案する。
「なんだ? 教室での惨状の話かと思ったぞ」
11人のなかでは年齢にあわぬ長身のアレクサンドロ・セラフィスがフンッと鼻をならす。
その言葉に、カイ・スターゲイザーにレイ・ドラグーン、刹那・S・ナイブズが頷く。
「それはもうわかりきったことだろう? 僕らのコレは上書き式だ。それも含めてた上での共同戦線の提案だ」
僅かに見下すような視線でアレクサンドロを見る樹。
アレクサンドロは不快そうに眉をひそめるが、無言で続きを促す。
「君たち4人は知らぬことと思うが、近日中に僕らと敵対するであろう強力な転生者がこの街を訪れる。少なくとも一対一で勝てる相手ではない」
「それは貴様が弱いだけ……4人?」
アレクサンドロら4人は訝しげに樹を見やる。
と、彼ら4人をのぞく、樹以外の6人が苦々しそうに舌打ちする。
「そうだ、僕ら7人は一度その転生者とやり合い、敗北している。奴の外見はそのままほぼ英雄王そのもので、能力もおそらくそうだろう」
唯一、樹のみが淡々と話を続ける。
「なんだ? そのおそらくというのは」
「奴が『王の財宝』、『乖離剣・エア』を使用するのは確認済みだ。が、黄金の鎧ではなく何らかの障壁を展開している」
その言葉に、何人かがその時のことを思い出したのか眉を顰める。
「ふうん、なかなか考えているじゃないか」
アレクサンドロは素直に感心した。
自身もであるが、この場にいる10人もおそらく『そういった』特殊能力は一つしか持っていない。
あの場で『神』は確かに与える能力は一つに限るとは言っていない。
こちらがそう早合点しただけだ。
「感心している場合ではないぞ? 奴は行動の秘匿に全く気を払わない人間だ。下手に管理局に気づかれてみろ、面倒なことになる」
最悪、クロノによる介入も武力制圧すればいいだけだが、なるべく原作から筋を外したくないというのが樹を含めた7人に共通した考えだ。
「それに何の問題があるというのだ? 全て制圧前進すればよかろう」
そんな樹たちの考えを鼻で笑うアレクサンドロ。
ここに至り、アレクサンドロが原作破壊を厭わない人間ということを、この場のすべての転生者が理解する。
流石にアレクサンドロを除く3人も白けた表情を浮かべる。
「では、君は僕らの共同戦線に参加する気はないと?」
樹が確認を含めて、もう一度尋ねる。
「ああ、俺は不参加だ。貴様らのように群れて行動するのは美学に反する」
「……そうか、残念だ」
アレクアンドロと樹の会談はなんの実りもなさず、アレクサンドロは屋上を去っていく。
が、彼を除く3人はこの場にとどまる。
「君たちは協力してくれるということか?」
樹の問いに3人が頷く。
カイは所謂リリカルなのは世界の魔導師に特化しすぎた故に、不安から。
レイは自身が持つ『王の財宝』に加え他の能力を有していることから、単独で挑むことを無謀と判断し。
刹那は自分のシルバー・チャリオッツでは近づかない限り勝機が見いだせないため、盾を必要としたことから。
それぞれ、樹たちに協力することを約束した。
当然ではあるが、既に手を結んでいる7人も自分以外は最悪捨て駒にすることを考えている。
よく似た者同士の、その場限りの同盟であった。
「じゃあ、教室での件はどうする?」
皇劉騎(すめらぎりゅうき)が思い出したように、皆に声をかける。
「あっ」
樹は忘れていたと、考え込み。
「あれは取り敢えず、範囲・効果を確かめながら日替わりにでもするしかないのでは?」
一応、7人のサブ・リーダー的な立場にいる鳳凰院朱雀(ほうおういんすざく)が妥協といえる提案をし、皆それに従うこととなった。
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待機中の次元航行艦アースラに、突如として警報が鳴り響いた。
「何事か!」
艦長のロベルト・ナカジマが居眠りしていた艦長席から飛び起きる。
「中規模の次元震反応です! 発振元は、座標・115・64・887、出現します!」
彼の使い魔のペーネロペーが返答と共に、その原因をモニターに映す。
その宙域が映し出されと共に、その場所に小型の次元輸送艦が出現する。
「識別完了、先日『切り裂き』ゾートに乗っ取られた輸送艦です、マスター」
「あん? ってことは、あの中にジュエルシードがありやがんのか!」
そして、その艦がロベルトの任務に関わる犯罪者が関連していることを知る。
「ちっ、動きがあるまで待機。サーヴァント部隊は全起動、いつでも動けるようにしておけ」
「イエス、マスター」
そう、ロベルトは顰めっ面で指示をだした。
昨年、新たに『フリーダム』に括られたゾートは、その歳にふさわしく『フリーダム』の中で最弱とされ、対『フリーダム』部隊の人間でなくとも、経験豊富なオーバーSランクの魔導師であれば対処可能とされている。
そんなゾートが全次元世界で指名手配されているにも関わらず、比較的自由に動き回れるのは理由がある。
ロベルトや体制派側転生者のトップであるリーゼフラン・グレアム以下の転生者たちにとって、所謂原作開始と共に海鳴に大量の転生者が出現することは想定のうちであった。
が、既に体制に所属し、皆それなりの地位についているため、海鳴に現れる転生者に比べ行動の自由度が圧倒的に劣っている。
更に、原作があるから派生するという事態なので、公に対策が取りづらいという問題点も抱えていた。
対『フリーダム』部隊所属の八神迅雷の長期休暇による里帰りや、アースラの哨戒任務という名の地球の衛星軌道上での待機行動は、彼らなりの苦肉の策といえる。
「と、迅雷にジュエルシード到着と、転生者の動きに気を配るよう通達」
「イエス、マスター」
所謂PT事件と呼ばれるものは、原因の9割が解決済みでもはや事件自体がおこりようのないものとなっている。
しかし、八神迅雷が遭遇した天鏡将院八雲を筆頭に、アースラから地球、主に日本でSSSランク以上の魔力値は10近いものが観測されており、これらの転生者が原作が開始しない事を知った場合に何をするか分かったものではない。
故に、ジュエルシードを発掘し地球へと向かう次元犯罪者のゾートは非常に都合の良い存在であった。
すなわち、地球への本格的な介入を行うための原因として、都合の良い存在である。
「糞ガキ、そのままおとなしくジュエルシードを海鳴に撒くだけにしとけよ?」
ロベルトとて組織人、リーゼフランたちの考えは理解できる。
が、納得はしたくはなかった。
『切り裂き』ゾートは現在までほぼ全ての行動を見逃されてきた形に近い。
ここまで彼が出した死者は4桁に迫る。
無論、その全てを防げたとはロベルトも思っていはいない。
それでも半分は防げた可能性があった。
そう思うと歯噛みするしかない。
これ以上、自分たち転生者がらみによる死者が出て欲しくないロベルトには祈るしかなかった。
「っ! 次元震反応拡大! ジュエルシードが地球に向け落下……これは! マスター、ジュエルシードの全てが励起しかかっています! このままでは落着と共に第97管理外世界を中心とした大規模次元震が発生します!」
「はぁ?」
一瞬、ロベルトは何を言われたのか理解するのを脳が拒否した。
が、すぐに状況を理解する。
「封印してないのか? ゾートってのはバカか?」
「大バカのようです、マスター! 機関部から爆発! ダメコンが行われていません、このままでは沈みます!」
更に行きがけの駄賃とばかりに彼は輸送艦の機関部を破壊し、地球へと転移している。
ロベルトの祈りも虚しく、状況は最悪へと着々と進行していた。
「こんの! ペーネロペー、俺はジュエルシードに簡易シーリングを行いつつ、海鳴に励起を抑える結界を張る! お前たちは救助に専念しろ!」
ロベルトは艦長席にて複合型積層魔方陣を即座に展開、21個の目標に対する超長距離シーリングと海鳴への結界を同時に発動させる。
SSSSランク結界魔導師の面目躍如といった大魔法は、流石に単独でこの任務に割り振られるだけの実力者である。
「イエス、マスター! サーヴァント全起動、輸送艦乗員の救助を開始!」
ペーネロペーも宇宙空間用の特殊バリアジャケットを展開し、同じく使い魔であるサーヴァント部隊と共に輸送艦乗員の救助をするために転移ゲートへと向かう。
「あんのガキィ! 次に会ったら、絶対許さんぞぉ!」
管制担当の使い魔が本局との通信を行う中、ロベルトの怒声が艦橋にむなしく響いた。
この日、21個のジュエルシードが第97管理外世界に落着。
幸いにして、この周辺宙域で哨戒任務中であった次元航行艦アースラ艦長、ロベルト・ナカジマの迅速な対応により次元震の発生は阻止することができた。
また、輸送艦乗っ取りにあったクルーたちも、見せしめに殺された艦長以外は無事救出されている。
さらに、このジュエルシードを持っていたのが『フリーダム』の『切り裂き』ゾートであったため、対『フリーダム』対策本部長を兼ねるリーゼフラン・グレアム査監部長はこの件を重視し、即座に対『フリーダム』部隊の派遣を決断する。
都合良く現地に休暇中であった『火葬』八神迅雷の特殊任務復帰に加え、『山羊座』カウリ、『小天位』ルミカ・シェベル、『剛拳』ペンドラゴンら3名が第97管理外世界へと赴くこととなる。
一昨年、結果として失敗に終わった『キラ・ヤマト』討伐作戦に次ぐ規模の戦力投入であった。
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「さて、先ずは一つ」
海鳴の高台の公園で一つ目のジュエルシードを確保したゾートは独り呟く。
未封印状態であったジュエルシードが、簡易とはいえ封印されている事にまるで気づいていなかった。
これはゾートが元々、そちら方面の魔法を見下していたためスクライアにいたときも、補助系の魔法は一切習おうとしなかったためである。
幸い、彼が優先した飛行魔法や転移魔法はスクライア独自の魔法体系ではなかったため、記憶を消された後も失うことはなかった。
「次は、なのはを呼ばないとな」
そう言って、懐から見る人が見ればレイジングハートを想像するであろうデバイスを取り出す。
ジュエルシードの情報を探す最中、なのはに渡すべきデバイスがないのに気がついたゾートは、デバイス取り扱い店を襲撃しこれを調達したのだ。
レイジングハートと同じインテリジェンス型で、名前は不明だがゾートはレイジングハートでいいと思っている。
実際は、正規登録がされていないので起動状態にすらならないだけなのだが、ゾートはこのあたりの常識が記憶剥奪と共に失われている。
仮に原作と同じ状況でなのはがこのデバイスを手にしても何も起こらないであろう。
もっとも、ジュエルシードモンスターはゾートが本気を出せば瞬殺が可能なので、問題ないと言えば問題ないのであろうが。
「さて、この俺となのはの出会いの場所は、と」
呟きながら、ふわりと浮かび上がりゾートは深夜の空中から海鳴を見回す。
高町なのはとの出会いを想像し、ゾートは笑みを浮かべた。
同時刻──。
海鳴に到着と同時に、悪感に襲われた金髪の青年は心の向くままその場所に急ぐ。
「いかんな……」
そこには落着の衝撃により、封印がとけかけているジュエルシードが煌々と青白い光を放っていた。
結界の効果により、励起反応こそ起きていないものの危険なことには変わりない。
青年は迷うことなく封印のためにジュエルシードに手を伸ばした。
「むっ」
と、同時に背後より魔力弾の攻撃を受ける。
当然、不可視の障壁により霧散するが、厄介事が起きたことには変わりなかった。
「ほう、それが何らかのシールドか?」
そう言って近づいてきたのは、過去7度ほど青年に襲撃をかけてきた転生者と同じくらいの年頃の子供である。
とはいっても纏う空気は常人のそれではない。
燃えるような赤髪を逆立て、壮絶な笑みを浮かべる少年、アレクサンドロ・セラフィスはまさに魔人であった。
とはいえ、アレクサンドロもこの目の前の男の外見が、まんまかの英雄王であることに失笑するところではあったが。
無論、自身の超美形のスキルは棚に上げている。
「見てわからんか? 我(オレ)は今立て込んでいる、後にしろ」
が、青年はアレクサンドロを一瞥だけすると、すぐに背を向けジュエルシードの封印に取り掛かろうとする。
アレクサンドロは青年の、まるで英雄王とは真逆の行動に驚くも、
「ククッ、俺には貴様を殺す絶好の機会に見えるがな!」
そう、宣言し、『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』を起動させようと一歩を踏み出し、
「えっ?」
次の瞬間、腹部に大穴を開けた状態で仰向けに倒れていた。
(な、何がおきた!?)
何が起きたのかも分からず、アレクサンドロはパクパクと口を開閉させる。
「貴様は……見逃すに値せんクズだな。ここで死んでおけ」
と、いつの間にかジュエルシードの封印を済ませ、傍に立つ青年がアレクサンドロを見下ろしながら無慈悲に告げる。
(えっ? ひゃ、し、死にたくな────)
アレクサンドロが命乞いをしようと腕を上げようとしたところで、グシャリと彼は原型をとどめぬほどに潰れる。
「む?」
青年は地面の赤いシミになった転生者が、次の瞬間跡形もなく消えた事に眉を顰める。
「……転生者自体が世界の不条理、考えるだけ無駄か」
が、自分たち転生者が『神』の力でこの世界に存在することを思い出し、思考を切り捨てる。
「これがあるということは、ユーノ・スクライアがいる可能性が高い。かような輩が多いのであれば難儀するか……」
青年は封印状態のジュエルシードを見ながら、周囲を見渡す。
幸いにして助けを呼ぶ声は聞こえなかった。
が、邪悪の笑いが耳をうつ。
「……これも転生者か? 何故、この力を悪しきに使うのか、かつてどれだけ望んでも得ることが無かった力だというのに」
先程の少年や、過去の襲撃者を思い出し青年は呟く。
そう言いながらも青年は、悪を感じた場所へと急ぐのであった。
「勇治、何やらなのはの様子がおかしいようだが?」
11人の転校生が訪れ、なのはがニコポにやられ、帰宅後もポッ、光峨くん……とかやっているので心配した士郎さんが僕に尋ねる。
ちなみにゆきのさんは、原作開始間近のため、なのは以上におかしいのだが、元々そんな感じなのでスルーされていたりする。
「今日転校生が来んだけど、そいつに一目惚れしたみたい」
まあ、誤魔化しようもないので正直に話す。
「あのなのはが一目惚れか、明日は雪か……」
恭也さんが意外だ、となのはを見る。
「で、あのなのはがぞっこんだなんて、どんな子?」
「私もちょっときになるわね」
そう美由希さんと桃子さんが僕に聞いてくる。
「すげー、かっこいい奴です」
僕は投げやりに答える。
とはいえ、そうとしか言いようがない。
容姿:超美形は人間の美的感覚に直撃するスキルなので、誰が見てもカッコよく見える。
ので造形を詳しく設定しても、転生者以外には凄いカッコイイとしか感じない、個人的には微妙と思うスキルだ。
僕の答えに士郎さんたちが会ってみたいもんだとか言うが、下手したら明日には別の奴にポッとかしている可能性もあるのだ。
最悪である。
あの時、はやてとアリサがニコポの効果にかかっていなかったのは、他の転生者の家族スキルのおかげである。
洗脳タイプのスキル防御は、恋愛スキル持ちと恋人関係になるか、家族スキル持ちに名前が表記されているなどが条件だ。
例えば、アリサの場合、アリサ兄が仮にアリサ父の息子と設定していた場合、防御から外されることになる。
なので、なのはの兄姉でありながら高町家に転生するつもりでは無かった僕とゆきのさんのせいでなのははニコポの餌食となってしまった。
ちなみに迅雷のオッサンは11人の転校生のことを聞くと、黒い顔を真っ青にしてすっ飛んで帰ってしまった。
アリサ兄は全然我関せずであったし、微妙に頼りにならない。
ゆきのさんもアレだし、士郎さんたちがなのはのことで盛り上がる中、僕は地味に途方に暮れていた。
まあ、翌日からそれどころではなくなるのではあるが。
《転生者一覧が更新されました》
【アレクサンドロ・セラフィス】
年齢:死亡(/9歳)
・転校生:9歳のなのはと同じクラス(30P)
・総合SSSランク魔導師(300P)
・王の軍勢(20000P)
・ニコポ(100P)
・ナデポ(80P)
・容姿:超美形(100P)
・名前:アレクサンドロセラフィス(36P)
現在地:第97管理外世界
力を得たからそう生きたのか、そう生きるために力を得たのか。
ヒーローは舞台を降りる。
第二幕が始まるのだ。
次回、海鳴地獄篇。
はたして、高町勇治は生き残ることができるか?