「ふぁーあ、おはようアリシア」
「おはよう、お父さん」
バラン・テスタロッサの朝は早い。
が、それにまして早いのが義娘のアリシア・テスタロッサである。
テスタロッサ家唯一の専業主婦にして、最高権力者である彼女は本日も楽しそうに8人分の朝食を慣れた手つきで用意している。
『昨夜未明、第37管理世界ファーンにて超S級次元犯罪者キラ・ヤマトが中央空港を襲撃、いつものように「僕に撃たせないで!」「守りたい世界があるんだ!」など、意味不明の発言を繰り返しており──』
バランはアリシアが用意してくれたコーヒーを飲みながら、朝のニュースを見ると『フリーダム』の二強の一人、キラ・ヤマトがまたしても無死者を貫きつつも破壊行為に精を出していた。
同じ転生者のバランであるが、如何せん恋愛型の転生者であり『フリーダム』の連中の思考は理解の範疇になかった。
「おはよう、アリシア。おはようございます、義父さん」
「おはよう、アナタ」
「ああ、おはよう」
そんなことを考えていると、同じく転生者であるカールライト・テスタロッサが特徴的な赤毛をかきながら、途中ですれ違ったアリシアと軽く朝のキスを交わすと、居間まで歩いてきた。
「また、アイツですか。ほんと、どんなスキル編成にすれば本局の化け物連中相手に圧倒できるんだか……」
カールライトとて転生者である。
恋愛型とはいえ、歴とした空戦Sランクの資格を持つ魔導師だ。
しかし、『フリーダム』の連中は最低がSSSランク、今話題に上がっているキラ・ヤマトは総合SSSSSランクに位置する最強クラスの化け物である。
かつて、恋もバトルもと意気込んでいた自分の浅はかさを、カールライトは笑うしかない。
「はよっす、義父さん、義兄さん」
「ああ、おはよう」
「おはようさん」
二人がそれぞれ考え事をしながらニュ-スを見ていると、テスタロッサ家最後の転生者である青髪のレオン・T・スラッシャーが居間へとやってくる。
二人と同じようにレオンもニュースをみてため息をつく。
彼もまた恋愛型の転生者であるが、義父義兄とは異なりバトル面にも重きを置いていた。
今思うと失笑モノであるが、戦闘スキルで幽波紋:エンペラーを習得し、不可視の弾丸をもって戦場に君臨しようなどと考えていたのだ。
そして魔導師ランクもSS、原作では八神はやてのみであった最高ランクといっていいものであったのだが、残念ながらSSランクよりSSSランク以上のほうが多いというこの世界ではレオンのスキル編成は中途半端なものというほかない。
それでも首都航空隊最強の魔導師として知られているが、対『フリーダム』部隊にお呼びがかからない辺り、転生者の中では中の下の強さだったりする。
「おはようございます、皆さん!」
転生者三人がニュースを見ながらそれぞれの思考に耽っていると、早朝ランニングから帰ってきたアリシアとカールライトの長男、エリオ・テスタロッサが元気よく挨拶する。
「ああ、おはよう」
「おはよう、エリオ」
「おはよ、今日も元気だな」
と、三者三様の挨拶を返した。
その後エリオはテーブルに並べられた朝食に目を取られるが、母アリシアにシャワーを浴びてくるよう言われ、大急ぎで浴室へと駆け込んでいく。
「おはよう、皆」
入れ替わりにプレシア・テスタロッサが気怠げに、アルフを除く皆の使い魔を伴って居間へとやってきた。
プレシアの使い魔、ネズミのシャイターン。
バロンの使い魔、白猫のローラシア。
アリシアの使い魔、山猫のリニス。
カールライトの使い魔、柴犬のミケ。
レオンの使い魔、ハムスターのミカヅキ。
それぞれ動物形態でプレシアの後にチョコチョコトテトテと続く。
「リニスたちはこっち、先に食べちゃいなさい」
母親と共に使い魔たちが起きてきたのを見たアリシアは、使い魔用のペットフードを台所に用意する。
使い魔たちはそれを聞き一斉に駆け出した。
「さて、フェイト達を起こしてきます」
相変わらず寝起きの悪い妻子を起こすため、レオンが席を立つ。
「なんだかあの子、年々おバカになっていくきがするわ……」
孫と使い魔一緒になって幸せそうに眠りこける次女の寝姿を思い浮かべ、プレシアははぁっとため息をつく。
「幸せな証拠だよ」
バランはそう言って笑う。
夫の言葉にそうかもね、とプレシアも笑みを浮かべた。
「ほら、フェイト起きろ。レヴィもアルフも起きなさい」
そう言いながらレオンは3人の眠る寝室のカーテンをバッと開く。
「っ!」
「ほえ?」
「んあー?」
朝日が部屋を照らし、光から避けるように布団に潜り込んだフェイト・T・スラッシャーに対し、娘のレヴィ・T・スラッシャーとフェイトの使い魔であるアルフはもそもそと布団からはい出てくる。
「……はぁ」
妻のダメさにため息が出るレオン。
「パーパ、おはよー!」
娘がまともなのが救いだが、この子もそのうちアホの子へとなっていくのだろうか?
所謂『雷刃の襲撃者』をそのまま幼児にした姿の娘に、ついレオンは暗雲とした将来を思い浮かべてしまう。
「うーん、おはよ、だんな」
と、アルフの声に正気にかえる。
「もうミカヅキたちの食事ははじまってるぞ、アルフも急ぎなさい」
「えっ、もうそんな時間? アリシア、まっとくれー」
「パーパ、だっこ」
アルフにそう告げ、抱っこを要求する娘を抱き上げる。
同時にアルフは大急ぎで台所へと駆けていった。
「フェイト、いい加減起きないか。レヴィもアルフももう起きたぞ」
「……あと1時間」
5分でなく、1時間とな? 駄目だ、コイツ、とレオンは布団を無理やり剥ぎ取る。
「うにゃあーーーーー!」
朝日を浴び、ゴロゴロのたうちまわる妻の惨状にため息をついた。
あの後、数分のゴタゴタがあったもののレオンは寝ぼけ眼のフェイトを連れ居間へと戻る。
「もう、しゃんとなさい! フェイト」
「うん、アリシア」
姉の叱咤に蕩けた笑みで答える妹に、母はため息をつく。
男衆3人は苦笑するほかない。
それから更に5分、ようやく全員が食卓に着く。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
8人の声が食卓にいっせいに響く。
中央技術開発局総長:プレシア・テスタロッサ58歳
ミッドチルダ治安維持局局長:バラン・テスタロッサ50歳
元開発局第7室室長、現専業主婦:アリシア・テスタロッサ30歳
クラナガン機動魔導師団団長:カールライト・テスタロッサ36歳
テスタロッサ家長男:エリオ・テスタロッサ8歳
開発局第7室室長:フェイト・T・スラッシャー23歳
クラナガン第一航空隊隊長:レオン・T・スラッシャー26歳
スラッシャー家長女:レヴィ・T・スラッシャー4歳
クラナガン郊外に豪邸を構えるテスタロッサ家の、毎朝の一コマである。
「母さん、いってきます」
そう言って、クロノ・ハラオウンは表で待っている幼馴染2人の元へと急ぐ。
「いってらっしゃい」
リンディ・ハラオウンはエプロンを片付けながら息子を見送る。
この後、彼女も本局へと出勤する。
夫のクライド・ハラオウンは長期航行訓練中のため、ここ一月は息子と二人暮らしである。
一人息子のクロノはリミエッタ家の双子の姉妹と共に、ミッドチルダ中央学院大学に在学中で、2年後の卒業と共に入局予定だ。
彼女自身としては、息子が夫や自分と同じ道を選んでくれるのは嬉しく思いつつも、まだまだゆっくりしてもいいのにと複雑な心境である。
彼女自身も参加した、グレアム一派による15年前の大改革は次元世界を一変させた。
『サーヴァント・システム』による強力な使い魔の量産。
無限書庫の開放による対ロスト・ロギア専門部隊の創設。
これら局員の努力により、人材不足は解消され、次元世界崩壊につながるような大事件も減少傾向となった。
それに伴い、入局規定も改変され、現在は15歳未満の就業は禁じられている。
それでも新たな問題は起こるし、世界はいまだ平和とは言いがたい。
『スーパー・フリーダム』キラ・ヤマト
『求道者』リュウ・サカザキ
『歩く大迷惑』孫 悟欽
『金色の』ギル・ディラン
『無限剣』ロードリッヒ・セルバイアン
『ザ・ワン』エミヤ
『二番目』エミヤ・シロウ
『三人目』衛宮 士郎
『百計の』ゼロ
そして先日これに加えられた『切り裂き』ゾート
これらSSSランクオーバーの怪物たち。
まとめて『フリーダム』と呼称される次元世界に住む人間全ての敵。
できればクロノが入局するまでに、一人でも『フリーダム』の人間を減らしたいものだ。
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「この、洗脳タイプの魔法は誰にでも効くの?」
転生の間に質問の声が上がる。
『君らには効かないがね』
「そう、なら今までどれだけの人を転生させてきたの?」
『それを君に教える必要を感じないな』
幾度かの問答がなされ、ルールブックに記入されていない事柄が返答の度にルールブックに追加されていく。
(この『神』は、やはり転生者の人数を教える気はない)
「……では、特定の人物をこの洗脳タイプの効果から除外させることは可能?」
『可能だよ』
(やった、これならユーノが白痴化せずに……いや、スクライア一族にわざわざ転生してユーノを排除しようとする人がいないとも限らない)
「スクライア一族に対する洗脳タイプの魔法無効化は可能?」
『そうだな、200Pといったところか』
(やはり、それなりにPは必要……)
「例えば、特定の人物が不幸にならない、といった抽象的なものもいいの?」
『構わない。そうだな、転生者を含めたすべての存在がその特定の人物に害をなそうとするのを不可能とする、という形にしよう』
「それはいいわね、ユーノ・スクライアが不幸にならないを追加して」
『いいだろう、250Pだ』
(……これで、他の転生者もユーノを傷つけることはできない。Pはオーバーしちゃったけど、問題ないか)
「じゃあ、その二つでいいわ。さっさと転生させて頂戴」
『ところで、君がこの人物に其処までするのは何故かね』
「愛よ!」
『……そうか。では、その愛、どの程度のものか見せてもらおうか』
ステータス追加→出身:原作開始前に死亡(-500P)
ステータス追加→SSSランク結界魔導師(150P)
「あら、これで100P? 気前がいいのね?」
『いいのかね。この条件だと件の彼に会えなくなるが』
「何の問題が? 私の愛は無限だよ!」
『……では、頑張ってくれたまえ』
そうして私が生まれたのは、古代ベルカもアルハザードの萌芽すらない遥かな過去。
とある辺境の村のリーンとして生を受けた。
このまま特に何かをなすこともなく生を終えると思っていた私であったが、こんな時代でも、いやこんな時代だからこそ私たちのような異能者は目立ってしまうものらしい。
私の生まれたこの地方では、理論だった魔法式が生まれる前の原始的な儀式魔法が主流であったのだが、所謂スキルとしての結界魔導師がこれに相性抜群であったためか、生き神様のような立場に崇められてしまった。
この星ではそういった生き神様を奉り、その力で生産力を増したり戦争を有利に運んだりと、今一現代人だった私にはピンと来ないシステムであったのだが、面倒臭がりでもあった私はその力を主に専守防衛に使っていた。
そんなことをしているうちに、戦乱を避けて各地の知識人たちが私の地方に集結してしまい、いつの間にかこの星で最強の力を持つようになっていた私に、戦乱を終結に導くよう願うようになっていた。
それでも、争うのが面倒臭かった私は、「私は基本的に見てるだけ、それが嫌なら他のところに行こうよ」と言ったら、なんか皆が感動して他の星へ行くことになってしまった。
そうして私たちはこの星を離れることとなった。
残念ながら私の生まれたその星は、私という重石がいなくなった事に加え、社会基盤を構築しつつあった知識人が根こそぎ私に着いて来てしまったため、幾度かの暗黒時代を経て滅亡してしまった。
なにやら、私と共に星を離れた連中は何時しか自分たちのことを、文明の興亡を見守り、後世へと紡ぐ一族と名乗るようになった。
なんだか私の知っているスクライア一族みたいだったので、私は彼らにスクライアを名乗るように命じた。
久々に私からの指示だった為か、なんだか予想以上に彼らは喜んでいた。
いつの間にか私の力は全次元世界に及ぶまでになっていた。
スクライアを名乗る連中も、かつて私が生まれた星の血を引くものは一人もいない。
丁度いいか、と私は思う。
単純に生き飽きた。
例の生き神を奉るシステムは星が滅んだときに消失している。
それを維持する祭司の一族も絶えて久しい。
スクライアの連中とて私が守護神的な存在と思っている。
まあ、所謂天使のような姿で出現するから仕方がないとも言えるけど。
本当の私など、数千年前、とある星でその力から生贄にされただけの人間だというのに。
私の本体は神殿の聖櫃に安置されたミイラだ。
既に神殿は樹海に覆われ、神殿のある星はスクライアからも忘れられた星だ。
というか、祭司が絶えた時点で私がそうなるように仕向けた。
これから私がすることを邪魔されたくないからだ。
私は今、お呪いをかけようとしている。
私が大好きな人のためのお呪いだ。
私の全ての魔力を祈りに変えて、全次元にかけるお呪いだ。
大好きなユーノ・スクライアにかけるお呪いだ。
私の存在を、そのまま世界の法則に書き換えるお呪いだ。
『ユーノ・スクライアが幸せでありますように!』
『君の愛、しかと見せてもらったよ』
(……)
『この【世界結界・リーンの翼】は間違いなくユーノ・スクライアの元へと届くだろう』
(……)
『では、ゆっくりと休みたまえ』
(……ユーノくん、大好き──)
『しかし、最初の一人がこれほどとは、後は期待できそうにないか……』