その後、滞在中ずっと全平和会のある意味中枢とも言える2人から次元世界の歴史のあらましと共に歴史的人物を四桁近く聞かされたのだが、僕の転生者一覧に新たな名がヒットすることはなかった。
何人か妖しい人物がいたのだが、如何せんそれらの人は皆生存中だったので生映像でないと一覧には乗らない。
リーゼフランさんは幾分残念そうであったが、現時点でリーン、オーリシュデ、ローランド、エメラルダ、ついでに森元以外の過去に転生して死亡した者がおそらく判明したであろうことには満足したようだった。
生憎、僕の本局訪問はこの歴史の授業だけで終わり、ゆきのさん一行のようにギル・グレアムさんに会ったり、レティ・ロウラン提督とお話したりするなどのイベントには参加できなかった。
まあ、初日いきなり別行動となった僕を心配してか、まず美由希姉さんが付き添っていたのだが淡々と歴史に歴史上人物を聞き続けるだけの苦行に、恭也兄さん、士郎父さん、桃子母さん、なのはとバトンタッチし最終的に僕に付き添っていたのは、何故かすずか嬢であった。
と、僕の事は他所に、ゆきのさんとアリサ嬢は完全に進路をここ全時空平和委員会に決めたようで、父親たちは娘が外国どころか次元の外に就職するというので、今から実家通いを押したり、それがダメならと最低でも週一で戻ってくるようと話し合っている。
はやては迅雷のおっさんに会えなかったので終始不機嫌だったが、意外にも両親が迅雷を追いかけることに反対、いやむしろ風来坊気質(当時の管理局に入ってから、はやてが生まれるまでの5年間完全に行方不明で、その後も年の半分以上地球にいない)の弟に重しとしてけしかける気満々のようだ……ありえん。
そんな感じで本局見学を終えた僕らであったが、帰るときにお土産をもらうことになる。
僕に、ゆきのさん、なのは、はやて、アリサ、すずかは使い魔を持たされることになった。
これは先の転校生ズの再来を懸念してのことで、所謂洗脳スキル対策としての使い魔所有である。
本来、局員でもない管理外世界の住人に使い魔を持たせるのは違法であるが、囲い込みの形で保護を念頭とした使い魔による護衛はギリギリ法の抜け道(しかも、わざと整備していない)らしく、僕らは所謂テンプレ転生者対策として使い魔を持つことになる。
ゆきのさんは予想通りフェレットで、意外にも女性タイプ(設定年齢18歳)。名前はヨーコ。
なのはもフェレットを選択した。これが世界の意思だろうか? こちらは逆に男性タイプ(設定年齢8歳)を選び、レックスと名付けた。
はやては黒猫で女性タイプ(設定年齢20歳)で勿論巨乳、名前はカトライア。
アリサは大型のハスキー犬で女性タイプ(設定年齢17歳)を選び、マリアと名付ける。
すずかはモコモコした毛並みの猫(品種はよくわからない)で、これまた女性タイプ(設定年齢9歳)。名前はミコト。
さて僕はというと、ハムスターを選択、当然男性タイプ(設定年齢30歳)で名前はウリクセス。英雄オデュッセウスのラテン語読みだ。はじめは英語読みのユリシーズにしようと思ったが、百合とかゆりしーとかの変なイメージが浮かんだのでこちらにする。
これに僕は特別に、本局に置いていく特製の使い魔を持つことになる。同じくハムスターの男性タイプ(設定年齢30歳)で名をクレアボヤンス、どういう状況下でも緊急的に僕と視界を共有できる転生者発見用の使い魔である。
帰りは行きと同じくクラウディアで、艦長はリンディさん。
行きと異なり、艦内にはかなりの局員が乗り込んでいる。
どうも海鳴に拠点を置くらしい。
そのための交渉役と、転送ポート設置のための技官、拠点改装に携わる整備員など十数名が各々使い魔を連れているのだから、行きは通路を歩いても海鳴組以外に遭遇する事は殆どなかったが、帰りは局員をよく見かけた。
幸いにも、何事も無く海鳴に到着。
こうして、僕のやたら密度の濃い本局初訪問は終了した。
その一ヶ月後──。
転生者一覧が更新されました。
【キラ・ヤマト】
【恐怖公:他人の恐怖を魔力に変換】[限界突破]New!
……ヤマトさんがまたパワーアップしとる。
そして、その翌月。
転生者一覧が更新されました。
【山田 三郎】
【種族:英霊】[限界突破]New!
【英霊降臨】[限界突破]New!
【英雄(地球限定):黄金のヒーロー】[限界突破]New!
山田さんはいつの間にか世界進出を果たしていたようだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
孫悟欽は転生者である。
しかも、かなり強力なタイプの転生者である。
『推定魔力500万、純粋な魔導師ランクはAAA-と低め。これは高位魔法を使用しないためで、単純な戦闘力としてはキラに次ぐレベル。格闘家としては全次元でも最強クラス、恐らくリュウ・サカザキ以外の敗戦はない。主な使用魔法はバリアブレイク、魔法障壁・結界をレベルを問わず破壊可能でロベルト・ナカジマでも対応できるか怪しいレベル。金銭感覚がないのか、基本的にトラブルは金銭絡みで発生、現在は本局が料金を立て替えることで対応している』
これが全平和会からの評価である。
1対1で彼に勝ちうる全平和会側の転生者はエーリヒとカーミィナルの二枚看板のみだ。
一応、プリンスがライバルを名乗っているが、目下全敗中である。
さて、『フリーダム』純戦闘力2位の彼であるが、犯罪履歴は無許可の転移・飛行魔法使用に小国の国家予算レベルに達した食い逃げの3点である。
貧乏スキルのおかげで金に縁のない生活を送っており、基本は辺境の野生動物で腹を満たしているが、たまに旨いモノ食いたさに街に出向きついつい無銭飲食してしまうのである。
現在では彼の食費は全平和会が立て替えており、彼の背中の孫に〇マークは天下御免の飲食無料証である。
因みに店側は彼が飲食中に全平和会に連絡し、局員が彼を本人と確認しない限り立て替えてはくれない。
立て替え開始初期に「オレ、孫」詐欺が結構出たための処置であった。
それまで気ままに過ごしていた孫悟欽であるが、最近周囲が慌ただしい。
ペンドラゴン、カウリ、ルミカら所謂脳筋組が日替わりで手合わせに現れるのである。
彼としては強力な戦闘屋と戦えるのは望むところなので気にしていないが、自称ライバルのプリンスは仕事の関係上自由に行動できないのでイライラを募らせていた。
「やあ、悟欽くん。この後いいかい?」
ペンドラゴンをいつも通りフルボッコした翌日のことである。
前に一度会ったことのある同郷、転生者マイヤー・ディアーチェがヴォルケン・リッターを引き連れ食事中の彼に声をかけてきた。
食べるのに忙しいので、適当に頷く。
「ちぇ、これでギガつえーんだからやってらんないよな」
「言うな、ヴィータ。これでも存在そのものが反則みたいな上2人に比べればマシな方だ」
自分たちを前にして警戒すらしない事に口を尖らせるヴィータに、それを嗜めるシグナム。
この状態で不意打ちをかけても無駄なのは、ペンドラゴンが何度も返り討ちにあっているので周知の事実だ。
ヴィータとシグナムがそんな話をする横でアインスとザフィーラが対戦時の陣形を話し合っている。
シャマルは局員証を店員に提示し、その店員は疲労をにじませながらも笑顔を浮かべた。
さて、主であるマイヤーであるが、テンションは非常に低い。
嫁や子供たちの為なら無双モードに入る彼であるが、基本的に出世に興味がなく労働意欲も低いため対『フリーダム』戦は大嫌いであった。
が、「闇の書事件」の後始末にリーゼフランに借りを作ってしまったのが運の尽き。
更に、闇の書の闇(ユーリさん絡みはその内どっかでこじつける予定)から開放され、悪夢じみた戦闘力を持つ転生者にあてられたヴォルケン脳筋組は当然、世界の平和、ひいては主の平穏のためと残る面子も『フリーダム』との戦いを望む傾向にある。
先日決定された「フリーダム壊滅作戦」に向け、対『フリーダム』部隊の戦力向上が命じられた。
修行対象は当然この孫悟欽。
殺しをせず、相手の実力以上を発揮させてボコる事に定評のある彼は、ある意味最良の経験値稼ぎ用敵ユニットと言えるかもしれない。
ヴォルケンリッターの面々の衣装は原作と大体同じである。
相違点はシグナムがタイツで生足じゃないのと、ヴィータのウサギの造形が違うことぐらいだ。
シグナムはマイヤーがパンチラはいかんよなぁとタイツでデザインしたのと、ヴィータは例のウサギがミッドチルダで売っていなかったので、こちらで売っていたメソウサみたいなデザインになっている。
「あー! 食った食ったぁー!」
最後の丼を口の中に書き込んだ悟欽が感嘆の声を上げる。
店員がグッタリしながらシャマルと立て替えの手続きをする。
今日用意できるものを全部と注文を受け、本日はこれで閉店だ。
だいたい2時間で一日分の料理を作った料理人はご苦労様である。
「で、やるかい?」
「乗り気はしないがね……」
そう呟き、マイヤーは封時結界を展開する。
「アイゼン!」
「レヴァンティン!」
前衛二人が開戦早々カートリッジを使用、グラーフアイゼンがラケーテンフォルムとなりレヴァンティンが炎を纏う。
「よおっし、ワクワクしてきたぞ! 今日も楽しませてくれよ!」
破顔一笑。
孫悟欽の周囲に不可視のオーラが舞い上がり、地面にヒビが入る。
「ぶっ飛べ!」
「参る!」
魔力を推進剤に加速して目標に迫るヴィータに、シグナムが時間差で追撃するためにそれを追う。
突撃した二人を援護するために其々散開し、アインスとマイヤーは術式を展開する。
ザフィーラは前衛二人の連携の補助、シャマルは後衛の補助だ。
タイプ的には後衛のマイヤーは、本来の主のはやてと比べれば動ける分原作のなのはに近い砲戦魔導師だ。
マイヤー自身は知らないが【天眼】スキルの恩恵で、集団での乱戦にも強い。
戦場において、絶対的に有利な位置取りをできるのは非常に強力だ。
最も、そんな戦術的優位を単騎でひっくり返す『フリーダム』を相手にしなければいけないのだから彼も不幸なものである。
まあそれでもリア充なのできっと爆発すべきなのだろう。
──2時間後。
「界王拳、10倍!!」
「やっぱ、ダメかー!」
当然勝てるわけもなく、負けた。
転生者一覧が更新されました。
【孫 悟欽】New!
年齢:38歳(/100歳)New!
・魔力値:SS[限界突破]New!
・魔力値:SSS[限界突破]New!
・総合Sランク魔導師(50P)New!
・サイヤ人:戦闘力50→5000(50P)[限界突破]New!
・界王拳Lv1→10[限界突破]New!
・念能力:具現化系・覚醒初期(200P)New!
・念能力:具現化系・試験官級[限界突破]New!
・念能力:具現化系・旅団戦闘員級[限界突破]New!
【発・仙豆】[限界突破]New!
・胃袋:ナゾノ・ヒデヨシ級(40P)New!
・体型:標準+10(10P)New!
・貧乏Lv5(-250P)New!
【貫通:素手による攻撃が障壁・結界破壊効果を持つ】[限界突破]New!
現在地:第57管理世界ポートコラNew!
【カウリ】
・魔力値:SSSSS[限界突破]New!
【マイヤー・ディアーチェ】
・部隊指揮Lv1[限界突破]New!
ロードリッヒ・セルバイアンは転生者である。
2mを超える巨体に、赤系統の衣装を纏ったこの男は他の転生者が見れば、おおかたマッチョになったかの英霊を思い浮かべるだろう。
『無限剣』の異名により余計そういうタイプの転生者という印象を与える。
が、それはこの男のフェイクである。
彼の戦闘スキルはアーティファクト「千の顔を持つ英雄」だ。
あえて「無限の剣製」と思わせた上でわからん殺しを狙ったものだが、エミヤズと異なり積極的に全平和会に喧嘩を売るわけではないので他の転生者との交戦は殆ど無い。
因みに数少ない相対した転生者は『金色の』ギル・ディラン。
軽く様子見した段階で妙に気があったため、そのまま近くに展開していた紛争中の両軍を技の披露に殺戮したのが世に名を知らしめる出来事となった。
元々、強さを確認するために他者を殺害するのに躊躇ないタイプの転生者のため、この2人は気があったのだろう。
全時空平和委員会からの評価は、『推定魔力18億、魔導師としても非常にレベルが高くランクはSSS。エミヤズと似た技を使うが、武器の多彩さ対応能力ははるかに上。主に管理外世界で活動しており非常に対応しにくいタイプの犯罪者』とギル・ディラン以上に補足が難しく、放置状態に等しかった。
しかし半年前に「フリーダム壊滅作戦」がスタートし、ゼロ対策として貼り付けてあったウィンドを高町勇治と合わせたステータス照合のために『フリーダム』探索に起用、遂にこの男を補足することに成功する。
「フラン、どうする? 仕留めるか?」
およそ1kmほど離れた地点で、エンマ→リーゼフラン→クレアボヤンス→勇治→リーゼフランのラインでロードリッヒのステータスを確認した彼女にウィンドが確認を取る。
『……いや、いい。奴は予想通り超過組だ。残り寿命も少ない、無理して戦う必要もないからな』
勇治からの情報でロードリッヒの寿命が少ないことを確認し、リーゼフランはウィンドに引き上げを指示する。
「了解。さて、次はエミヤズの面々か──」
半年前に行われた『二番目』エミヤ・シロウ補足のためのガサ入れは、多数の局員を動員したにもかかわらず成果を上げられなかった。
これには「フェアリー・ガーデン」の支援もあったと思われるので一概には言えないが、やはり転生者を相手取るには転生者が有効なのだろう。
再びの失敗は被害の拡大を招く、迅速にエミヤズの補足が求められていた。
ロードリッヒはその間放置となるが、いかんせん手が足りない。
とはいえ、対『フリーダム』部隊の面子でもこれに完勝できるレベルとなると、やはりエーリヒ、カーミィナルの二枚看板になるし、勝ちが見込めるのはウィンドにカウリ程度の強さは求められる。
そして、ウィンド以外では逃げに入られるとどうしようもないという問題点もあった。
であれば、自然死してもらうのが丁度いい。
時期になったら追跡部隊を派遣するだけで済む。
一覧の現在地はどの次元世界にいるかしかわからないが、それでも有ると無いとでは大違い。
ウィンドをしても、全く情報なしの状態から探すのでは時間がかかる。
今回もここ第62管理外世界セッツァールに滞在していると判明するまで、4ヶ月以上かかっている。
『見逃しはするが、死ぬ直前か、最悪死んだ直後でも局員を居合わせんとな。散々好き勝手にやってきたのだ、次元世界の住人の不安を紛らわすために少しでも役立ってもらわんと……』
(そういうことは通信切ってから言え、そんなんだから他の連中に嫌われるんだ)
口にしないと決意が鈍るからとはいえ、聞かされる方もたまったものではないとウィンドは内心で独りごちた。
転生者一覧が更新されました。
【ロードリッヒ・セルバイアン】New!
年齢:26歳(/28歳)New!
・総合SSSランク魔導師(300P)New!
・総合SSSSランク魔導師[限界突破]New!
・総合SSSSSランク魔導師[限界突破]New!
・アーティファクト:千の顔を持つ英雄(1000P)New!
現在地:第62管理外世界セッツァールNew!
ロードリッヒとウィンドを比べれば能力的には勝ちうるが、リーゼフランは負ける可能性をいくつか(一応10回やれば9回は勝つレベルだが)見つけたので確実に始末するため今回は見逃す。
強いうえに、索敵能力も一流のウィンドは全平和会では替えのきかない人材の一人だ、石橋を叩いて渡らないぐらいの使い方がちょうどいいと彼女は判断している。
なお、ウィンドの代わりのゼロ対策はリーゼフラン直属の使い魔師団(女王艦隊所属。全員SSSランクで総数20000)を投入し、人海戦術で対応している。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「よろしいでしょうか、Dr.マキシマ?」
マキシマがラボで調整槽の整備をしていると、スカリエッティの戦闘機人ウーノがノックと共に声を上げる。
特に差し迫った案件はないので部屋に入るように促す。
「いえ、よろしければドクターの下までおいでいただきたいのですが」
扉を開けた彼女はそのまま要件を告げる。
さて、何用か? 余裕はあるとはいえ、どうでもいい事に時間を取られたくないマキシマはウーノに詳細を求める。
「……新たな『転生者(オーバーテイカー)』が出現しました」
「ほう!」
中々面白い展開だ。
ウーノの言葉にマキシマはニンマリと笑みを浮かべる。
「さて、ただの馬鹿か、それとも突き抜けた馬鹿か?」
自分の様な中途半端な馬鹿が一番つまらんがな。
そう自嘲し、ウーノについてスカリエッティのラボへと向かう。
マキシマがスカリエッティのラボに着くと、綺麗な笑顔のスカリエッティが近づいてきた。
「状況は?」
「中々楽しい状況ですよ、マキシマ翁。まずはあちらの培養槽をご覧あれ」
言われるままにそちらを見ると、見慣れぬ培養槽に漬かる見慣れぬ戦闘機人を見つける。
「む? あの位置にあったか?」
「いえいえ、昨日生えてきました」
マキシマの疑問にスカリエッティがアハハと笑いながら答える。
「生えた?」
「ええ。こうニョキニョキと、でゴボゴボ~っと謎の液体で一杯になってですな」
ココからは記録映像をご覧になったほうが面白いですよ? と、端末をいじり大画面のモニターに映像を出す。
薄い緑色の液体で一杯になった培養槽の中心がポゥっと光った次の瞬間、光の消えた場所に握り拳小の人型と思われる何かが出現する。
続いて、その人型が液体を吸ったのかみるみるうちに膨張していく。
「昔屋台で見たおもちゃかよ……」
その様子に呆れてつぶやくマキシマ。
この物体が見慣れぬ戦闘機人になったというのか? まあ、なんでもいいのだが。
そんなマキシマを尻目に、映像の膨張する人型はまるで力士の様な体型でぶよぶよした質感にも見える。
緑の液体に漬かっているから青く見えるのか、それとも元から青いおもちゃのようなものなのか。
「ん? もう標準以上にデカくないか……」
いつまでたっても膨張を止めない人型に眉を顰めるマキシマ。
そんな彼を置いて置きぼりに、人型の膨張は止まらず遂に培養層一杯になってしまう。
ピシッ!
「あ……」
マキシマが培養槽にヒビが入るのを見るのとほぼ同時に破滅的な音が聞こえ、ガシャーンと人型の膨張に耐え切れず培養槽が破裂した。
外に放り出され、ビシャビシャと周囲を転げまわる青いぶよぶよした物体。
漸く騒ぎが外に伝わったのか、ナンバーズが何人か部屋に入ってきた。
ウーノにトーレにクアットロだ。
『何がって、何コレッ!!』
『うげ……』
『うわ、きもっ!』
映像の三人は室内の惨状に其々の感想を漏らす。
確かに気持ち悪い。
マキシマも映像のそれを目の前にしたら同じように反応するだろう。
しかし、その彼女らの声に反応したのか、唐突に青い物体が停止する。
その様子に彼女たちがお互いの顔を見合わせた次の瞬間、ブシューと臀部と思わしき場所から蒸気が吹き出す。
『クアットロ! すぐに換気を上げて! トーレ!』
謎の蒸気が室内を満たす前に、ウーノが妹二人に指示を出す。
成分に毒性がないことを確認したクアットロが手でサインを出し、トーレが二人を守るような位置取りをする。
ほんの数秒で室内は白から元通りとなるが、数秒は確実に映像からも彼女たちからも物体の姿は隠されていた。
だから、蒸気が晴れ物体が再び目視できるようになると、映像の彼女たちもそれを見ているマキシマも驚愕する。
──美形だった。
美形がそこにカッコをつけて立っていた。
クセのない長い金髪をサラリと靡かせ、淡麗に整った顔に笑みを浮かべる。
身長は恐らく数m先で対峙するトーレより頭一つ分以上高い。
体格はごつくはないが、ナンバーズが着用する少しエロい衣装に浮かぶ筋肉からほどよく引き締まった体をしている。
ちなみに男だ。
股間が実に見苦しい。
『何者です!』
ウーノの詰問に、おや? っと眉を顰める金髪。
その様子にマキシマは、コヤツ「ニコぽ」持ちか、と内心呆れる。
洗脳タイプのスキルは転生者に無効なのはル-ルブック読破組は周知だが、パープルからの情報で知り得たモノのひとつに転生者の子孫(遺伝子情報があればいいらしいのでクローンでも可)は同じように無効化できるというものがある。
何が言いたいかと言えば、ここのスカリエッティは自分の大元であるオーリシュデが転生者なのを今は知っている。
故に、ナンバーズに自分の遺伝子情報を使うことで、転生者が習得可能な激レアを越える異世界スキルを習得させようと企んだのだ。
残念ながら、現在までに稼働している7体のナンバーズはパープルから教わったとおりの原作通りのスキルしか保有しなかったが、前述の洗脳無効化と原作以上の身体能力を身につけることに成功していた。
つまり、この転生者はナンバーズでハーレムをやりたかったのだろうが、そう都合よくはいかないというわけだ。
『フッ、聞いていないのか。仕方がないな妹達よ……。私は──』
そんなことは露知らず、やれやれと肩をすくめ金髪がそこで言葉をため、
『私は、スカリエッティ・ナンバーズ・タイプゼロオリジナル! ラストナンバー、オメガ!!』
「止めろ」
映像の金髪が叫んだところでマキシマは映像を止めるよう言う。
ウーノがそれに従い、狙ったのか丁度金髪、オメガがアップななったところで止まった。
「で、何だ? コレは」
と、しゃがみこんで呼吸困難になっているスカリエッティに尋ねる。
「ヒヒ、いや、プク……なんでしょ? ブフッ」
余程ツボにはまったのか、スカリエッティはヒーヒー言いながらもなんとか答える。
取り敢えず彼自身は何も知らないらしい。
少なくとも、自分だったら『ゼーロ』か『ウルティモ』と名付けると、『オメガ』は絶対ないと断言した。
「で、続きは見たほうがいいか?」
マキシマの問いに、未だ腹筋がヤバイことになっているスカリエッティは手を振ることで見る必要のないことを告げる。
どうやらこれ以降は彼にとってそこまで面白い場面はないようだ。
正直、むず痒くなってきたところだったのでこれ以上見なくていいのは有難い。
と、ウーノにこのあとどうなったのかを聞く。
「はい、このオメガさんは先程の台詞を言った直後に、口から緑の液体をもどしひっくり返りました」
無様に痙攣していたところを、いつの間にか復活していた培養槽が中に入れろとばかりに開閉を繰り返すので、考えるのが面倒臭くなったのでトーレが放り込んで今に至るという。
他人のゲロなんぞ見る趣味のないマキシマは見なくてよかったと胸をなでおろす。
コレが転生者絡みでなければもう少し楽しめたのだろうが、はっきり言って痛々しさしか感じられなかった。
「ああ、そういえばコレはこれで突き抜けた馬鹿か……」
因みに、この映像を見たパープルは大爆笑、ゲルカは無言で立ち去った。