僕が非常に恥ずかしい自己紹介をしてから2時間後。
図らずとも笑いが取れたこともあって、あっという間に打ち解けたユーノと転生者4人組から雑談混じりに無限書庫の案内を受けて
いると、ちっちゃいリーゼフランさんがお供を連れてやってきた。
途端に表情がこわばる4人。
しかし、改めて背が低いなリーゼフランさん。
僕はなんだかんだでスキルの御陰か、この年齢では背が高い方(140近い)だ。
ユーノを含めたこの面子で一番背が高い。
そしてリーゼフランさんであるが、この中で一番背の低いラーナ嬢とトントン……。
35歳とは一体、ウゴゴ……。
「ユーノ・スクライア、とそのシモベたち。手間をかけさせたようだな、礼を言う」
と、彼女に伴ってやってきたリーゼエルザさんの魔方陣に乗ってこちらに近づくと、開口一番ぺこりと頭を下げる。
ユーノは4人を見下した物言いに少し眉をひそめるが、大したことは、と言葉少なく返事をする。
シノベ扱いされた4人はというと、何やら様子がおかしい。
皆が皆、信じられないものを見たといった表情を浮かべている。
後に聞くのだが、彼ら4人がリーゼフランさんが頭を下げる瞬間を見た最初で最後の場面だったようだ。
「高町勇治、ここが貴様の初めの仕事場になる。まあ、言うまでもないが励むといい」
続く言葉にポカンと口をあける4人。
どうも転生者に激励の言葉をかけるのは滅多にないという。
当たり前だが、この時の僕はそんなことは知らない。
その上、海鳴組の転生者以外とはほとんど顔を合わせないから僕にとって数少ない本音トークができる相手である。
さらに、通信とはいえ結構気安く話したりしていたので全平和会入した後、この人の裏と表の結構なギャップに驚くことになる。
この後も、30分ほどユーノたちに案内を続けてもらったが、ここの書庫長であるリーゼエルザさんから閉館時間(一般開放時間の終了)が迫っていると告げられたので、名残惜しいながらも彼らに別れを告げる。
ここが地球なら携帯番号にメアドを交換して後で連絡を~となるが、ここは生憎管理世界。
管理外世界との通話は基本的に許可がなければ不可能だ。
まあ、運が良ければ明日も会えるかもしれないし、僕がここに入ったら会うのは難しい話ではない。
僕も聞きたいことがあったし、彼らも聞きたいことがあっただろうがまたの機会を楽しみにしよう。
再開の約束をし、僕は無限書庫を後にした。
引き続きの本局案内役はリーゼフランさんである。
しかし、情報部長に引き続き査監部長直々の案内とは……プ、プレシャーが……。
それでもここに就職したらこれが当たり前の日常になるかもしれないのだ、今のうちから慣れておかないと……。
当然、高町勇治の心境など気にするはずもなく、リーゼフラン・グレアムはスタスタと先を進む。
そんな彼女を彼が慌てて追いかけるのが数年後の本局の日常となるのだが、まだ誰も知る芳もなかった。
リーゼフランさんに連れられ、本局の廊下を歩く。
一般向けの本局案内のデータを貰ったので、覚えている限りの原作での本局と照らし合わせてみたりもしたが、残念ながらそれっぽいところは通らなかったのでいまいちよくわからなかった。
そんなことをしているうちに前を歩く彼女の足が止まる。
同じように足を止め、彼女が向きを変えた方を向く。
ミッドチルダ語で『未来秘密工房』とある。
なんぞ?
「ここの主がいつぞや話した私の恩人だ」
と、苦笑を浮かべ扉の端末を操作するリーゼフランさん。
僕が部屋の名前について質問しようか迷っている間に彼女は扉を開け中に入ってしまった。
「日昇、入るぞ」
手招きされ、僕もそれに続く。
部屋の中は一見、原作のA's編でレイジングハートとバルディッシュの修復・改造時の部屋に似ている。
勿論広さはその比ではなく、巨大な機材が所狭しと並んでいる。
かなり奥行はありそうだが機材に邪魔され奥まではどれも見えない。
床にはところどころ何かの部品が散乱したりしていて、なんともゴチャっとした印象を受ける。
「日昇、いないのか?」
部屋の中からは返事がないが、彼女は構わず奥へと進む。
僕はどうしたものかと入口付近で佇んでいたが、不意に右肩を掴まれる。
「うわっ!」
慌てて振り向くと、まず白衣が目に入った。
視界を上に向けると、
「……ロー〇ン?」
穴のあいたビニール袋を頭にかぶった不審人物がそこに居た。
「どうした? と、日昇か」
どうやらこの不審人物が件の極東日昇氏らしい。
僕は驚きのあまり唖然としたままこの不審者を見上げる。
不審者は僕とリーゼフランさんを穴から覗く目で交互に見たあと、器用にもビニール袋が吸いつかないように大きく息を吸い込み、
「ドォ~クタ~! ファー!! イィ~ストゥッ!!!」
叫んだ。
とんでもない大声で。
「日昇、うるさい」
いつものことだというのか、呆れたような声が背中から聞こえた。
《転生者一覧が更新されました》
【極東日昇】New!
年齢:45歳(/100歳)New!
・覚醒:+5歳(-50P)New!
・出身:何らかの研究施設(-200P)New!
・魔力値:AAA(10P)New!
・総合Aランク魔導師(5P)New!
・マルチタスクLv5(15P)New!
・超天才(250P)New!
・魔法技能開発Lv1→10(50P)[限界突破]New!
【未来秘密工房】[限界突破]New!
・名前:極東日昇(20P)New!
現在地:次元空間・全時空平和委員会本局New!
なお、日昇さんがビニール袋をかぶっている理由は何もなかった。
スキルにそのへんのマイナススキルはなかったので、研究所での実験で何かの傷跡がとかあるのかと思ったが、あっさり袋をとって
見せてくれた上普通にモブっぽい中年のおっさんの顔である。
僕に顔を見せたらまたかぶる。
彼が言うには「カッコイイだろう!!!(ギャキイ!!)」と言うことだが、確実にセンスがおかしい。
リーゼフランさんは気にならないのかどうでもいいのか、何も言わない。
なんだこれは? 僕がおかしいのか?
「ほうほう、コレが吾輩のステータスかね」
リーゼフランさん経由で自身のステータスを確認した日昇さんがふんふむと頷いている。
因みに、当たり前のことだが転生者は自分のステータスを確認することはできない。
あの『神』なら『君は前世において自身のステータスを確認することなどできたのかね』とか平然と言ってくるだろう。
もちろん一覧を所有している僕自身、自分のステータスは確認できない。
「しかし、【未来秘密工房】が[限界突破]とはな……いつも通りのイカレたセンスと思って見逃していたか」
「まあ、言われてみれば納得のコトだがね。ここでの実験が今まで一度も失敗したことがないと考えれば、何らかの補正が無い方がおかしいわけだね」
2人はそんな会話をしていたのだが、僕はそんなことなどそっちのけで部屋の奥に鎮座している巨大な冷蔵庫に目を取られていた。
何しろ、デカイ。
業務用の冷蔵庫を倍ぐらいにした大きさだ。
そして……羽が生えている。
神々しさすら感じる6枚の漆黒の翼が微動だにせず、どこかしら本体(?)の冷蔵庫を守護しているかのようにも見える。
訳が分からない。
ナンダコレ……。
「おや? それに目をつけるとは中々わかっているねぇ」
唖然としていた僕に気づいたらしい日昇さんがクククと笑いながら冷蔵庫に近づく。
「これぞ、吾輩が誇る世紀の大発明! ハイパー・ファーイースト究極メカ38號ッッ!! その名も、『カイ蔵庫』!!!」
そして叫ぶ。
その長身を左右に振り回しながら、叫ぶ。
「オ~~~~プンッ、ゲェーット!!」
『yes,2nd owner』
デバイス特有の人口音声と共に、冷蔵庫の、いや『カイ蔵庫』の扉がプシューと音を立てて開く。
演出か、純粋に温度差の為か吹き出た白煙が晴れると中には、どこかで見たことのある卵型の宝石のようなものが安置されていた。
「勇治は久しぶりだろう。それがカイ・スターゲイザーだ」
リーゼフランさんが何の感慨もないように言った。
……なんと哀れにも、転生者カイ・スターゲイザーはソウル・ジェムと化していた。
しかも、ゾンビ化した肉体は魂だけで現界できるかどうかの実験のため問答無用で焼却処理されているという。
実験は成功し、カイ・スターゲイザーは魂だけの存在となりここで眠りについている。
そう、寿命を迎えるそのときまで、この狂気のマッドサイエンティストの実験台となり続けるのだろう。
因みに、所持デバイスの「スターゲイト」さんは消滅に備えて機能の分析と、記録データを保存を行っており、主人に付き合う気は更々ないようであった。
カイ・スターゲイザーの末路に1秒ほど涙した僕であったが、程なくリーゼフランさんから本題を切り出される。
すなわち、残る全平和会の転生者11名のステータス確認のお仕事である。
「……リンク開始。ミサ、アドルフ、ローラシア、ミケ、ミカヅキ、トロンベ、マーナ、サキガケ、ポポ、アストラ、ディグラの視界をモニターに、どうだ? 勇治」
リーゼフランさんがそう言うと、展開された十一のモニターに11人の男性が映る。
一見するとスーツ姿のサラリーマンにも見える男が使い魔の視線に気づいたのであろうかこちらを見る。
武装隊の紺のバリアジャケットを身にまとった実直そうな若者がどこかの通路を歩いている。
口元が隠れるくらいの髭でツンツン頭の厳つい壮年男性がスーツ姿でデスクワークをしている。
ForceのAEC武装よりゴテゴテした赤い甲冑のようなバリアジャケットで編隊航空中の若々しい男性。
雷刃の襲撃者さんそっくりの女の子を肩車しているどことなく哀愁を漂わせている男性。
陸の制服を着た怪しげなグラサン金髪ロン毛がゼスト・グライガンツと思わしき人物と会話中だ。
眼鏡をかけたポニーテールの長身が端末を操作しながら黒い甲冑を修理しているようだ。
どうやらそれと同じ部屋で金髪の男性は沈んだ雰囲気も相まってかなり背が低く見える。
僕らより年下と思う女の子とその兄らしき人物と食事をしているニコニコ笑う人参頭の若者。
おそらくシャマルさんと一緒に買い物をしている彼女より背の低い少年。
どうやらシグナムさんにしごかれているらしき少年は必死に木刀を振るっている。
《転生者一覧が更新されました》
【ウィンド】New!
年齢:30歳(/100歳)New!
・修行を積むことでNINJAになれる(100P)New!
・NINJA:木の葉下忍級[限界突破]New!
・NINJA:木の葉中忍級[限界突破]New!
・NINJA:木の葉上忍級[限界突破]New!
・NINJA:木の葉火影級[限界突破]New!
・NINPOU:三代目火影・猿飛ヒルゼン [限界突破]New!
・NINPOU:単身赴任のサラリーマン[限界突破]New!
・NINPOU:ニンジャマスター・ガラ[限界突破]New!
現在地:第99管理外世界クォンタムNew!
【エーリヒ・ヨアヒム・ルーデル】New!
年齢:19歳(/100歳)New!
・空戦SSランク魔導師(100P)New!
・空戦SSSランク魔導師[限界突破]New!
・空戦SSSSランク魔導師[限界突破]New!
【幻想無効】[限界突破]New!
現在地:次元空間・全時空平和委員会本局New!
【バラン・テスタロッサ】New!
年齢:51歳(/100歳)New!
・出身:クラナガン(10P)New!
・総合Sランク魔導師(50P)New!
・マルチタスクLv10(30P)New!
・恋愛:プレシア・テスタロッサ(10P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【カールライト・テスタロッサ】New!
年齢:37歳(/100歳)New!
・出身:ベルカ自治区(5P)New!
・総合Sランク魔導師(50P)New!
・マルチタスクLv5(15P)New!
・デバイス:アームド・デバイス(30P)New!
・恋愛:アリシア・テスタロッサ(10P)New!
・体型:痩せ型Lv1(-10P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【レオン・テスタロッサ・スラッシャー】New!
年齢:31歳(/100歳)New!
・出身:何らかの研究施設(-200P)New!
・空戦SSランク魔導師(100P)New!
・幽波紋:エンペラー(200P)New!
・恋愛:フェイト・テスタロッサ(50P)New!
・貧乏Lv1(-50P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【謎野食通】New!
年齢:35歳(/100歳)New!
・出身:管理世界(1P)New!
・覚醒:+5歳(-50P)New!
・陸戦SSランク魔導師(50P)New!
・マルチタスクLv6→150(18P)[限界突破]New!
・魔法少女:巴マミ(40P)New!
・盟友:ゼスト・グランガイツ(1P)New!
・容姿:レーツェル・ファインシュメッカー(20P)New!
・名前:謎野食通(20P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【グラハム・イェーガー】New!
年齢:27歳(/100歳)New!
・出身:第1管理世界(3P)New!
・覚醒:+4歳(-40P)New!
・空戦SSランク魔導師(100P)New!
・空戦SSSランク魔導師[限界突破]New!
・容姿:グラハム・エーカー(25P)New!
・名前:グラハム(12P)New!
現在地:次元空間・全時空平和委員会本局New!
【ウィリー・カタギリ】New!
年齢:27歳(/100歳)New!
・出身:クラナガン(10P)New!
・天才:特定・篠之乃束(50P)New!
・人物登録(3/5):→グラハム・イェーガーNew!
→リーゼフラン・グレアムNew!
→マーナNew!
・製造:デバイスLv1→10(10P)[限界突破]New!
・製造:インフィニット・ストラトス型デバイス[限界突破]New!
・女運:良い(30P)New!
現在地:次元空間・全時空平和委員会本局New!
【ヘンリー・コールドウェル】New!
年齢:17歳(/100歳)New!
・出身:第1管理世界(3P)New!
・覚醒:+5歳(-50P)New!
・空戦AAAランク魔導師(25P)New!
・マルチタスクLv7(21P)New!
・運勢:豪運(100P)New!
・親友:ティーダ・ランスター(1P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【ミストナム・フライム】New!
年齢:15歳(/100歳)New!
・出身:ベルカ自治区(5P)New!
・総合Sランク魔導師(50P)New!
・恋愛:特定(5P)New!
・恋愛:一目惚れ(15P)New!
・恋愛:シャマル(25P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
【カイト・ゴーダ】New!
年齢:15歳(/100歳)New!
・出身:没落した名家(-50P)New!
・空戦Sランク魔導師(50P)New!
・デバイス:アームド/ケーニヒスヘルト(100P)New!
・容姿:美形(20P)New!
・恋愛:シグナム(30P)New!
・運勢:悪い(-50P)New!
現在地:第1管理世界ミッドチルダNew!
意外、いやそうでもないのか?
対『フリーダム』部隊以外で[限界突破]しているのは半分もいないな。
「おや、バラン殿は素であれか。純粋な才覚のみであの地位まで上り詰めたわけだね」
其々のステータスを一見し、日昇さんがそう言う。
因みにバラン氏は現在、ミッドチルダ地上本部のナンバー2の立場にあるという。
「チッ、予想通り使えんか……」
リーゼフランさんが舌打ちする。
間違いなく部隊の面子以外が対『フリーダム』戦に使えないという事なんだろうけど、それでも全員少なくとも初期のなのは以上に強いのは間違いないのが『フリーダム』の面々のぶっ飛び具合を示しているよなぁ。
しかし、NINJAぱねえな。
どうやればこんな意味不明の成長をできるのだろう?
それに、エーリヒ氏。
かの空飛ぶ魔王の名を持つだけあって色々とおかしいね。
【幻想無効】とか、なんぞって感じだ。
まあ、リーゼフランさんがキラへの切り札って言っている以上、きっと転生者に対して凄い効果が有るんだろうけど。
さて、こちらの転生者の皆さんの現状はこうなる。
ウィンド……本局特別捜査官
魔導師ランク:陸戦S(の試験を受かったと言うこと)
魔力値:だいたい50億
使い魔:ミサ(♀/豹)、エンマ(♂/猿)
デバイス:ストレージ「ニョイキンコボウ」
エーリヒ・ヨアヒム・ルーデル……本局武装隊「アインツ」所属(隊員1人)
魔導師ランク:空戦SSS(公式にはこれ以上のランクはない)
魔力値:およそ4億
使い魔:アドルフ(♀/狼)
デバイス:I・S型ストレージ「ルフトヴァッフェ」
バラン・テスタロッサ……ミッドチルダ治安維持局局長
魔導師ランク:総合S+
魔力値:930万
使い魔:ローラシア(♀/猫)
デバイス:I・S型ストレージ「ベミドバン」
カールライト・テスタロッサ……クラナガン機動魔導師団団長
魔導師ランク:総合S+
魔力値:880万
使い魔:ミケ(♂/犬)
デバイス:I・S型アームド「フェラーリ」
レオン・テスタロッサ・スラッシャー……クラナガン第一航空隊隊長
魔導師ランク:空戦SS
魔力値:3010万
使い魔:ミカヅキ(♂/ハムスター)
デバイス:I・S型ストレージ「セイメンコンゴウ」
謎野食通……ミッドチルダ地上本部クラナガン防衛隊所属
魔導師ランク:陸戦SS+
魔力値:4830万
使い魔:トロンベ(♂/馬)
デバイス:ストレージ「トロンベ」
グラハム・イェーガー……本局特殊戦技教導隊隊長
魔導師ランク:空戦SSS
魔力値:6240万
使い魔:サキガケ(♂/熊)
デバイス:I・S型「フラッグ・カスタム」
ウィリー・カタギリ……本局技術部総監
使い魔:マーナ(♀/兎)
ヘンリー・コールドウェル……クラナガン航空隊所属
魔導師ランク:空戦AAA-
魔力値:162万
使い魔:ポポ(♂/海豹)
デバイス:ストレージ「スパルタニアン」
ミストナム・フライム……嘱託魔導師
魔導師ランク:総合S-
魔力値:525万
使い魔:アストラ(♂/狼)
デバイス:アームド「ネーベルヴィント」
カイト・ゴーダ……嘱託魔導師
魔導師ランク:空戦S-
魔力値:510万
使い魔:ディクラ(♂/狼)
デバイス:アームド「ケーニヒスヘルト」
わかりやすく例を挙げると、現状ではやての魔力値は1100万(これは最大値。通常では4分の1程である。また、基本転生者に魔力値の変動は無い)、魔導師ランクは最低でもSS-になる。
因みにキラ・ヤマトさんの魔力値は驚きの50垓!
迅雷のオッサンの250億が屁のツッパリにもなんねぇ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──その生き様が憧れだった。
カッコイイから、憧れた。
こんな生き方が出来たら、と思いながら生きていた。
──勿論、思うだけだ。
何もない、普通な、ただの凡人に出来るわけないと、何もすることなく諦めているだけだった。
だから──。
『神』に力が貰えるとわかった時、「彼」のように生きてみたいと思ったのだ。
多分、初めの間違いは一つだけ。
どんなに努力しようとも、どれだけ高尚な理想を唱えようとも──。
そもそもが異なるこの世界で、かの英霊の生き様を真似ようとしても、それが憧れに重なることは無いということに──そして、そのことに最後まで──気づかなかった。
男は一人戦場を歩く。
第88管理外世界パスティアータ。
全時空平和委員会加入を目指す連合と、孤立主義を唱える同盟が主義の対立から相争うようになってから5年が経過し、今もなお戦争継続という泥沼でのたうち回っている。
男に政治に対する興味は全くと言っていいほどない。
ただ、自身が正しいと思ったことを実行することに躊躇いはなかった。
故に、男はこの地で同盟側に与して戦っている。
男の名は、エミヤ。
全時空平和委員会から『ザ・ワン』の二つ名で呼ばれるS級次元犯罪者である。
「……」
この地に降りてから3ヶ月、既に10を越える拠点を落とし、千を超える敵を倒している。
勿論、倒した敵の数がそのまま殺した数だ。
エミヤは救えるモノを確実に救うため、排除すべきと判断したものにかける慈悲を持ち合わせていない。
エミヤの憧れである赤い英霊が9を救うため1を切り捨てたように──。
だが、同じように見えてエミヤの行為は彼の理想とは全く異なる。
かの赤い英霊は正義の味方を目指し、磨耗し、それでもなお理想を目指していた。
対するエミヤは彼の行為を正義と見なし、妥協し、何時しか切り捨てるべき1が2となり3となり、今では百人を救うために平気で九十九人を切り捨てる、外見以外は似ても似つかぬ存在となっていた。
エミヤとて始めからシリアルキラーの如き存在というわけではない。
赤い英霊を憧れたように、エミヤ自身の正義を実行しようとしていただけだった。
ただその根底に、『英霊エミヤ』、『アーチャー』、『衛宮士郎』は管理局に否定的、もしくは敵対するもの、という思考があったのだ。
だから、当然のごとくエミヤは管理局の魔導師に対して容赦しない。
それでもエミヤから仕掛ける様な事は無かった。
当たり前の話であるが、時空管理局(当時)はエミヤの思うような強盗組織ではないからだ。
別に管理外世界に侵略したりしないし、ロスト・ロギアの強奪もしないから、エミヤが覚醒してから40年の修行を終え、憧れの赤い英霊の真似事を始めたところでそうそう出くわすものではない。
何でも屋のような事をしていたが、基本的に管理外世界で活動し、積極的に管理世界に出向くこともなかった。
──1人の転生者と出会うまでは。
紫色の全体的に胡散臭い女ではあったが、言ってきたことはエミヤには見過ごせないことだった。
「私の知り合いの転生者が管理局に追われています! 是非貴方のご助力を!」
断る理由はなかった。
即刻、紫の女に同行し、執務官に追われる殆ど写し身とも言えるかの英霊の姿をした転生者を助ける。
この時倒した執務官がエミヤにとって前世から含めて初めての殺人となったが、何の感慨も起きなかった。
当たり前のように殺そうとして、当たり前のように殺した。
周囲を飛び交う羽虫を払うのと同じ感覚で──殺した。
紫の女は当然のようにいつの間にか消えていたが、そんな些細な事など目の前の転生者に比べればどうでもよかった。
助けた転生者の名はエミヤ・シロウ。
彼にとって悪の秘密結社である時空管理局に先制攻撃をかけたはいいが、リーゼフランの改革によって遥かに改善した各管理世界の地上部隊の戦力は彼の想像を超えており、返り討ちとなった上凄腕の執務官(エミヤ・シロウから見ての感想。原作無印時点でのクロノクラスの執務官だが、この世界では下から数えたほうが早い)に追跡され、危うく捕縛されるところであった。
救われたこともあって、エミヤ・シロウから見れば、エミヤはまるで本物の『アーチャー』の様に見えた。
だから、恥を忍んで弟子入りを嘆願する。
「無限の剣製」さえ使えれば管理局の魔導師など遅るるに足らず!
そんな思い上がりは、雑魚と思い込んだ地上部隊に一蹴され、執務官にあと一歩のところまで追い込まれたことで崩れさった。
だが、自分を翻弄した執務官を瞬殺したこの男に師事すれば、自分もきっと『アーチャー』のように強くなれると確信する。
エミヤも同好の転生者の尊敬の眼差しに優越感がわかない訳がない。
そして自身が修行に費やした時間は、間違いなく目の前の転生者を導くためだったと確信する。
「いいだろう。今日から、俺とお前で──ダブル・エミヤだ」
「っ! ああっ!」
エミヤの言葉に、エミヤ・シロウは目を輝かせながらガシッと腕を交わす。
どことなく年季を経たエミヤに笑みが浮かび、若々しいエミヤ・シロウが『例の』笑顔を浮かべる。
この後、運命の糸に導かれるかのごとく転生者・衛宮士郎が二人と出会う。
そして新暦60年、彼ら「トリプル・エミヤ」が時空管理局本局を襲撃する。
残念ながら、3人が3人とも『英霊エミヤ』、『アーチャー』、『衛宮士郎』は管理局に否定的、もしくは敵対するものと信じていた。
その信念にブレはなく、3人とも最後までそれを貫いた。
かの英霊の言葉にある通り、
ただの一度も本当の意味で理解されず、
その生涯にも意味はなかったが、
それでも、彼らはその信念を貫き通したのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゲルカは長い通路を1人歩く。
ここは妖精郷。
転生者であるパープル・エイトクラウドを名乗る人物がその力を使って無から創り出した人工世界である。
彼女の力の顕れであり、根源でもあった。
しばし歩を進めたゲルカは突き当たりの扉を無造作に開く。
中にはひとりの老人が椅子に座っている。
秘密結社「フェアリー・ガーデン」の科学参謀を務めるDr.マキシマだ。
「早いな、と言ってもヴァイゼンからここに直帰だったか」
扉の開く音に振り向いたマキシマが彼と認識し、話しかけながら隣の椅子をさしだす。
「……」
無言で彼はその席に着く。
そもそも彼はしゃべれないのだ(念話は可能だが、面倒なのでやらない)。
「相変わらずの無口よな。まあ、それはともかく右手の怪我は……治療済みか」
つまらん、と口を尖らせるマキシマ。
その様子に、冗談ではないと内心で横のマッド・サイエンティストを罵る。
同時にさっさと治療しておいてよかったとホッとするゲルカであった。
せっかく人が好意で色々と改造、いや治療してやろうと……と不穏なつぶやきをマキシマがもらしていると、再び部屋の扉が開く。
「おやー、お2人さん。お早いお付きだねぇ」
と、低い声色なのにいやに軽薄そうな声が二人の耳を打つ。
部屋に入ってきたのは背の高い壮年の男性である。
ビアン・イーグレット。
勿論この男も転生者である。
ミッドチルダのイーグレット・セキュリティ・サービス代表取締役の弟で、子会社のイーグレット・コーポレーションの社長兼開発主任である。
彼の開発した魔導兵装『アーマード・モジュール』は全平和会の『インフィニット・ストラトス』には及ばないものの、簡単に魔導師ランクを一つ上げられる特殊デバイス(僅かながら現存していたベルカの融合騎の止めを指した)として、開発・発表された新暦5
0年から今日まで改良され続け各管理世界有数のロングセラーである。
(管理世界において通常デバイスは量販店で普通に取り扱っているが、『I・S』や『A・M』のような特殊デバイスは専門店のみの取り扱いで購入に免許が必要である)
同時に、管理世界では質量兵器として禁制の非魔導兵装(要するにリンカーコアが無くても扱える)『パーソナル・トルーパー』を管理外世界で売りさばく死の商人としての顔も持つ。
『質量兵器が人を殺すのんじゃぁない。人が人を殺すのさ』
この言葉は彼が好きな名言をこの世界にあわせてアレンジしたものだ。
当然ではあるが、全平和会は『P・T』の販売、開発を認めていない。
しかし、全平和会の介入を認めていない複数の管理外世界(このうちいくつかの世界の有力者は既にゾアノイド化していたりする)に工廠を構えており、彼自身も尻尾を出すようなミスを今のところしていないため「安い・簡単・高性能」の三拍子揃った『P・T』
の拡散は広がるばかりである。
「スミス氏は今回も欠席。白紙委任状を預かってきたよ」
そう言ってビアンは空いている席に座ると、その隣の空席に懐から取り出した封筒を置く。
運営部長を務める転生者ジョン・スミスは今年50歳になる。
彼の作り上げた会社は順調、無理やり参加させられた秘密結社もマキシマの協力で資金協力のため自身がいちいち動く必要もなくなっている。
そろそろ我武者羅に生きてきた第二の人生を振り返っての隠居生活を考えているほどだ。
そんな彼が積極的にこの集まりに参加する訳もない。
「またか。とは言え、いまさらあやつの協力が必要なことなど殆どないしな」
通常であれば口封じだが、彼らの盟主であるパープルは基本的に転生者を殺さない。
おそらく黙認という形になるだろう。
まあ、ジョンとて全平和会の実質的支配者たるリーゼフランの苛烈さは周知のはずだ。
こちらの情報を漏らすことはあるまいとマキシマは彼のことを思考から外す。
「!」
唐突に、椅子に座りながらも周囲を警戒するゲルカ。
それにつられて周囲を伺うマキシマとビアン。
「インディゴちゃん、周囲の確認は完璧かしらぁ?」
3人にはご存知の、実に胡散臭い声と共にいつの間にか部屋に現れた彼女の使い魔、インディゴ・エイトクラウドが申し訳なさそうに周囲の様子を伺っていた。
「状況、問題ありません。パープル様、どうぞ」
その言葉と共に、3人の前の空間が裂け、その両端がリボンに結ばれた隙間から這い出した妖艶な金髪の女性がするりとその隙間に腰掛ける。
秘密結社「フェアリー・ガーデン」主宰、パープル・エイトクラウドその人である。
「うふふ、来度もお集まりいただき感謝にたえませんわ」
齢150を超えるマキシマよりも確実に年経た怪物であるこの女性を前に、特に何するでもなく話を聞く3人。
「スミス氏からこれを預かっているよ」
そう言ってビアンは隣の椅子においた封筒を近づいてきた彼女の使い魔に渡す。
それを見ても特に発言はない。
実際、この組織的に転生者ジョン・スミスの役割は殆ど無くなっている。
会社の大きさから比較的フットワークの軽いビアンはともかく、彼ほどの有名人となると全平和会の監視だけでなく一般マスコミ等の目も多い。
その上マキシマの調整体がUSCの各所に入り込み、次元世界各地を独自のネットワークで結んでいる。
転生者に甘いパープルはジョンが自分たちを裏切らない限り自由にさせる所存である。
勿論、監視のためにジョンの下にはオレンジという使い魔を送り込んでいるが。
「全員に招集をかけたということは、大きく動くのか?」
基本的に事後通達しかしない彼女が自分たち全員を呼び出すのは実に異例、マキシマはどうせろくでもないことだろうと思いつつも尋ねる。
「ええ、第3フェイズに移行しますわ」
実に楽しそうに彼女は言う。
因みに、各フェイズの内容がどんなものかは彼女以外誰も知らない。
なので今この場にいる彼女以外の誰もが、ほぅっと頷きつつも内心何言ってんのコイツ状態である。
「僕らの仕事は?」
取り敢えず割り振られた仕事があるならスケジュールを調整しなければならないビアンが尋ねる。
「ゲルたん以外は通常進行で問題ありません。ジーぽんの都合が整い次第、ゲルたんはドゥーエちゃんの教会本部での護衛をお願い。ギーズくん以外の転生者が潜んでいた場合の足止めが今回のお仕事よ」
彼女の言葉に頷くゲルカ。
容姿系マイナススキル・異形はこの世界の変身魔法やESPのマトリクス取得による変身を弾く。
よって姿を消しての護衛となる。
「ああ、忘れていたわ。マッキーは双騎士クローンへの調整とその子達の指揮官タイプの使い魔の製造をお願い」
ジーぽんに渡すモノだから適当に調整しておいてね、そう言っていつもの胡散臭い笑みを浮かべるパープル。
(ジーニッファの私兵用か。自分の下位に置くのは当然として、支配下に置くのはどうするか? 奴とてこの化け物には逆らうまいし、安定を欠くモノをあえて造るのもし癪だな……)
ジーニッファ・ヴォラギノルが転生者以外に対し、圧倒的な力を持っているのはこの組織では周知の事実。
であるならば、埋伏の毒を仕込んだところで殆ど意味があるまい。
折角だし、スカリエッティの鼻を明かすついでにゾアノードクラスの調整体を造るかと、今後の算段をするマキシマ。
「では、僕も御暇するよ」
これでも忙しい身なのでね、とビアンは早々に席を立つ。
「ああ、ビアちん」
「何かな?」
パープルの呼びかけに足を止め振り向く。
「来週、クォンタムにフランちゃんの手下が入るわよ。エミやん2号の拠点だし、気を付けなさい」
第99管理外世界クォンタムにはビアンの『P・T』工廠がある。
隠すか移すかしろとの忠告であった。
「そう言えば、2号くんのアジトはあそこだったか。情報助かったよ、早速手を打つか……」
やれやれ、とため息混じりに今度こそビアンは部屋を後にする。
「さあ、次元安定プログラム第3フェイズの始まりですわ!」
とてもいい笑顔で、胡散臭さを振りまきながら声高らかに宣言するパープル・エイトクラウド。
それを横目にマキシマはビアンに続いてラボに戻るために退室、ゲルカも仕事まではすることもないので訓練室に向かうため彼に続いた。
使い魔のインディゴは高笑いを続ける主人を困った目で見つめながら、彼女が自分の世界から帰ってくるのを待つのであった。