新暦50年の管理局における大改革は、局の資金面を大幅に改善させた。
具体的には聖王教会からの供出金が1位から30位以下に転げ落ちたぐらいである。
理由もいたって簡単であった。
そもそもかつて聖王教会が供出金1位であった理由は、
『言っちゃ悪いけど、おたくに金出すメリットがうちらの管理世界には少ないんだよね』
これに尽きる。
とはいえ管理局としてもそれまでの現状でいっぱいいっぱいであり、全管理世界の現状維持が限界である。
そもそも人手が足りないのだ。
故に各管理世界への対応が遅れるのは致し方なく、その結果各管理世界もお金を出すのを渋るという負のスパイラルであった。
これを改善したのが「サーヴァント・システム」であり、次元航行艦隊の各管理世界駐留である。
それまで艦隊派遣には、本局への連絡がなされてから派遣について検討されるというスパンがあったため、なんだかんだと手遅れな事態が数多く現出していた。
さらに、現地警察より多少ましと揶揄されていた各地上本部が劇的な戦力向上が為されたために、目に見えて犯罪検挙率が上がり、それに伴い犯罪発生率も激減したのだ。
『これが維持できるんなら、こっちとしても金を出すのは吝かではないよ』
各管理世界も頭痛の種である次元犯罪者やロスト・ロギア関連の事件が速やかに解決されるのであれば、その分管理局に金を落とすのは当然の帰結である。
元々管理世界と括られている各世界は、古代ベルカ崩壊後の混乱を収束させた時空管理局の統治下に入ることで安寧を得たのだ。
その後、マシにはなったがそれでも平和とは言い難い次元世界に備えはやはり必要だった。
それが最低限で済むようになるというのだ、余剰金は各所に分配され、その行き先の一つが管理局へと流れてきたわけである。
この予算の充実が海の艦隊新造をメインに各種設備や装備の改装を可能とし、反改革派の息の根を止めたのである。
この時点で、史実と異なったことで損をした人間は時代の変遷についていけなかった海の元重鎮と、影響力が大きく低下した聖王教会の上層部ぐらいであった。
最も、キラをはじめとした『フリーダム』の面々によりほぼ全ての管理世界の住民が不幸になってしまうのだが。
さて、紆余曲折はあったものの現在管理世界は『フリーダム』、特にキラが動かなければ安定していると言えるだろう。
が、その安定をもたらしたのはたった一人の転生者によるものといっても過言ではない。
そう、全時空平和委員会の生ける魔力炉こと、リーゼフラン・グレアムその人である。
ぶっちゃけ、彼女が死んだ時点で『女王艦隊』と「サーヴァント・システム」は瓦解する。
体制の脆さは本来の管理局最高評議会の体制の比ではない。
勿論、リーゼフラン本人もそんなことは承知である。
「そもそも私が死んだらというが基本的に本局にこもっている以上、それが起きるのは本局が崩壊するか、私が暗殺された時ぐらいだろう。その上、私が体制の要と知っているものは二桁も居ないというのに。それに、だ。『フリーダム』さえ処理できれば、私の寿命に従い半世紀以上はこの体制が維持できるのだぞ? 一体何が不満だ。……ああ、勿論私の死後のことは既に対処済みではあるがね」
彼女は既に体制維持のため、自身の延命、というか己の無限の魔力をいかにして後世に残すか、恩人であり共犯者たる盟友の極東日昇と共に対策を立てていた。
対処済みと、ドヤ顔で語ったものの、この案件が完全に解決したのは「フリーダム=ゾート事件」の8年後であるから何だかんだと手こずったことには違いない。
方法としては単純であるが、先例があるインキュベーターによる魔法少女方式が選ばれた。
乱暴にいえば、魂を頑丈な別の入れ物にぶち込んでおこうというものである。
寿命の方も原典でソウルジェムが持つ限りなんとかなりそうな描写があったので、形式を似せればなんとかなるだろうという皮算用である。
こんな方法、ギル・グレアムの為に命すら投げ捨てるリーゼフランでもなければ取れないだろう。
(因みに、この魔法少女システムはかなりのインチキ仕様だ。魔女・魔獣が存在しないためソウルジェムを浄化する必要がないシステムで、濁らないため魔女になったり円環の理に導かれたりはしない。その代わり、覚醒して魔法少女となったとき願いが叶ったりはしない。そのため比較的Pは少ないが、リリカル方式の魔法よりも効率が悪いなどのデメリットもある)
問題点として、果たして魂の状態で現在のように魔力炉の代わりができるのか? という技術以上に根本的な問題があり、流石に全平和会に所属している転生者を実験台に使うわけにもいかず、この方式は最近まで優先上位に上がっていなかった。
それでは何故この方式が選ばれたかというと、転生者カイ・スターゲイザーが生きたまま捕獲されたからである。
拘束された後、麻酔で眠ったまま本局に移送された彼は、そのまま極東日昇のラボに運ばれ生きたまま彼の実験体となる。
そして各種実験の結果、リンカーコアはどうやら魂に付属する器官であるということが判明した。
最も、転生者のみに適応しているだけかもしれないのだが。
この後、カイ・スターゲイザーは魂状態のまま17歳で寿命を迎えるまで、自称・狂気のマッドサイエンティスト、Dr.ファーイーストこと極東日昇による死なない程度の実験が繰り返されることとなる。
他にも、ポイントオーバー型のデバイスは殆どロスト・ロギア級の代物ということなども判明した。
カイの所有していたデバイス『スターゲイト』は現存するあらゆるデバイスを凌駕する性能で、その処理能力だけを見ても無限書庫──整理されている現状とはいえ──を運営可能だというのだからとんでもない。
しかも本来の性質が『星間物質を取り込んで魔力に変換する』というものである。
カイ本人のイメージ的にはSF的な宇宙船のようなものをデバイス化したためである。これが『神』の解釈によりわけのわからん性能となってしまった。
その全性能を発揮すれば、カイの基本スペックだけでキラ・ヤマトにすら肉薄することも可能かもしれなかった。
結局、持ち主が普通の高性能デバイスとしか認識しておらず、しかも優秀な人口知能を口うるさい教師のように感じた持ち主により最低限の受け答え以外の会話を禁じたため、持ち主はすべての可能性を失い、今では自ら何もできない哀れな実験体となってしまった。
対照的に『スターゲイト』は持ち主が本人認識プロテクトすら施していなかったため、技研主任のウィリー・カタギリのもとへと送られ、新型デバイスのための各種実験を手伝うという充実した日々を送っていた。
閑話休題──。
カイの尊い犠牲(まだ生きて? はいるが)により、魂状態でも転生者としての存在が消えないことが判明した。
続く、どの程度で寿命を超えることが可能なのはか今後の経過待ちであるが。
現在、死亡した転生者を調査したところ、二種類の死に方が判明している。
一つは遺体が残る場合であり、もう一つが光の粒子となって消える場合である。
前者で判明しているのは過去組4人と山田三郎と森元与平だけであるが、間違いなく寿命で死んだからであろうと推測されている。
なぜかと言えば、4人は既に歴史上の人物で確認のしようもないが、山田はスキルの関係上寿命以外で死に様がない。
森元は日本人で新聞に100歳で死亡と明記されている以上、遺体が消えたらそれこそ大騒ぎだ。
後者もふた通りの世界への影響があり、一つは文字通り初めから居なかったものとして扱われるもの、天鏡将院や転校生ズがそれにあたる。
もう一つは遺体はないが、間違いなく周囲から死んだと認識されるものである。
こちらはゾートとユージン・バニングスである。
天鏡将院たちのほうは恐らくPオーバーが原因と思われるが、問題はゾートだ。
Pオーバーしているのに『フリーダム』の『切り裂き』ゾートの死亡は、管理世界への数少ない朗報として伝わっている。
この報告に、リーゼフランのみゾートが歴史改変を達成したからであろう事に気がついたが、この件に言及することはなく、原因不明で以後の例を待つということとなった。
基本的にこの転生システムを知る3人はこの件を誰にも話していない。
高町勇治は本能的に、リーゼフラン・グレアムとパープル・エイトクラウドは計算ずくで秘匿している。
彼ら3人は何だかんだと情報を秘匿する。
最も高町勇治は秘匿すべき情報とそうでない情報を区別する判断が甘く、そのせいで危機に陥ったりもしているが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『しかし、ゲルカが転生者か。まあ、なんともなあ』
「ご存知で?」
『いや、全くご存知ない。が、情報を漁ったらすぐに出てきた。時空傭兵ゲルカ、時空管理局の設立前から次元世界各地で名を上げた猛者だな。誰もその素顔を知らず戦場の噂ともされた伝説の傭兵で、30年前にプッツリと姿を消したため死んだと思われていたらしい』
リーゼフランさんの言葉を聞き、なるほどと頷く。
30年前に名を聞かなくなればこの人が知る由もない。
「ところでこの人の居場所が未登録無人世界ってなってますが」
『これで居場所が分かればとも思ったが、そうそう上手くいくはずもないか。しかし秘境に『妖精郷』とは、まあ名付けたのはアイツだろうな』
リーゼフランさんが苦笑する。
今回のオッサンの戦いの時に出てきたスキマを見れば、知っている人はパープル・エイトクラウドがかのスキマ妖怪と分かるだろう。
山田さんの時間を操る程度の能力が45000Pだった。
はたして境界を操る程度の能力は如何程のものとなるだろう。
『しかし、問題は「フェアリー・ガーデン」がどの程度の組織という点だな。少なくとも未登録の無人世界を自由にできる程度には色々と余裕があるわけだが……場所はともかく、キラへの融通などどういった人脈と資金源を持っているのかが問題だな』
僕はパープルさん個人が気になったが、この人にしてみれば組織の方が大問題だろう。
と、資金源で思い出した。
「そういえば、ゆきののデバイスってどういう経緯で山田さんの手に渡ったか知ってます? 消えてないってことは少なくとも死んだ転生者関連のデバイスではないんでしょう?」
一覧にも乗ってないし。
ふと気になった僕がリーゼフランさんに尋ねる。
『ああ、あれは本来盗品なのだがね』
予想外の言葉が返ってきた。
なんと、盗品とは。
リーゼフランさんによると、例のゾートが地球に来るまでの間に管理世界のデバイス取扱店から強奪したものらしい。
そうなると、返品せねばならないのだろうか? そんな僕の疑問は続く言葉で解消される。
『基本的に『フリーダム』の連中がしでかした事件の被害は全平和会が保証する形になっている。だから高町ゆきののデバイス・Excavateに関しては心配する必要はない』
とはいえ、キラのバカのおかげで保証云々も馬鹿にならないのだがね。
リーゼフランさんはそう苦笑する。
何だかんだで世話になっているし、ゆきのが宝物のように大事に扱っているのでExcavateを所有することに問題ないのであれば一安心である。
それとは別に、何というかまた一つ全平和会に借りができてしまったなぁ、と感じてしまう僕であった。
さて、リーゼフランさんとの通信を終え、食堂に戻ると既に皆も食事を終えていた模様。
大体、保護者組、年長組、年少組に別れて雑談中だ。
と、なのはとすずか嬢が何となく所在無さげに、ゆきのさんにアリサとはやてが何か話しているのを見ている。
感覚としては、全く興味のないのに工場見学に付いてきてしまった夏休み中の小学生といったところか。
大半の責任は僕にあるだろう。
フォローできるかはわからんが、何もしないのも目覚めが悪い。
「なのは、月村。なんというか、ゴメン」
取り敢えず、謝る。
「え?」
「いいよ、勇治君。もう関係ないとは言えないし」
きょとんとするなのはに、こちらの意図を察したであろうすずか嬢。
「正直こんな大げさな事になるとは思わなかったんだ。二人が暇なら是非暇つぶしに利用して。役に立つかはわからないけど」
現状で僕ができることなどこの程度だろう。
なのはがうーんと首を傾げ、すずか嬢の目が妖しく瞬く。
早まったか?
「じゃあさ、勇治君はなんでこの世界に来たのか教えてくれない?」
いきなり核心を付いてくるすずか嬢。
が、実は大した理由はないのだ。
「正直来るしかなかったと言える。断ったらその場で消滅しかねなかった」
「それは神様? 本当にそんなのがいるの?」
普通に考えれば、敬遠な信徒でもなければこの現代で信じる人は少ないだろう。
「魔法があってさ、わけのわからない強さをもった人間がいて、幽霊みたいな存在がいるんだ。神様がいてもおかしくはないだろう?」
その辺、月村なら信じられるだろう?
そんな風なニュアンスを含めすずか嬢を見る。
「……そういうのも知ってるんだね。それなのに何の目的もなかったの?」
またも僕の意図を察してくれたすずか嬢、話が早くて助かる。
「はっきり言うと、前世が本当にあったのか疑わしいぐらいに記憶がないんだ。気がついたら神様がいて、この世界に転生することになったんだ。ぶっちゃけると、高町の家に生まれたのも想定外でさ、だからゆきのとかと違ってまだ何をするか決まってないんだ。正直、未だに何をしたいかは決まってない」
ここで嘘をつく意味はない。
だから正直に答える。
その答えにすずか嬢は呆れた顔で僕を見た。
「でも、ゆうくんはゆきちゃんと一緒で全平和会ってとこに行くんでしょう?」
あれ? っとなのはが不思議そうに聞いてくる。
「うん。でも将来の就職先がほぼ決まっただけだろ? そこで何をするかとかを決めてないんだ」
正直どこに配属されるかは薄々感づいてはいるが。
その答えに、ふーんと納得したらしいなのはが何か思いついたのか、しばし沈黙する。
「……ねえ、ゆうくん。例えばだけど私もゆきちゃんみたいに魔法を使えたりはする?」
少し口篭りながら、なのはも結構踏み込んだところを聞いてくる。
「……使える、と思う。まあ、正直オススメはしないよ。こっちの世界はこの前の連中が木っ端扱いの人外魔境だし、なのはじゃ多分中の下ってとこだと思う」
あまり期待させるようなことは言うべきではないだろう。
原作から比べると戦闘レベルのインフレが尋常ではない。
ヴォルケンリッターを雑魚扱いできる化け物がウヨウヨしているのだ。
「ゆきちゃん、アリサちゃん、はやてちゃんは?」
僕の評価に流石にムッときたのか、なのはがあちらの三人について聞いてくる。
「ゆきのは成長次第で最強クラスに成り得る。アリサは僕らみたいなのに対して絶対殺害権をもってるし、はやての素質はなのはより上だよ」
僕から見た三人の評価を少しぼかして話す。
それでもはやては中の中だろう、ヴォルケン抜きだと。
むむむ、となのはが唸る。
とはいえ、それほど興味をもったわけでもなかったのだろう、才能がないんじゃ仕方ないよね、とあっさり引き下がった。
すまない、なのは。
本来ならその才能は次元世界でも有数のものだが、この転生者があふれる世界では十把一絡げなんだ。
「それで肝心の勇治君は?」
と、やはり僕自身の能力に聞かれるか。
「下の中が精々。但しこれは純粋に戦闘力としてはってコトだけど」
第一、僕は文官志望だ。
なのはが疑問符を浮かべながら僕を見る。
「さっき何をするか決まっていないとか行ったけど、何のために行くかは決まってるんだ」
そう、未だ道は定まらず。されどすべきことは決まっている。
なのはもすずか嬢が黙って続きを待つ。
「一つは保身。今言ったけど僕は相当弱い。けど何だかんだと命を狙われたりする立場だったりする」
例の転校生ズのような連中が再び現れないとも限らない。
「だから全平和会に入るのは身の安全を考えてっていう一面もある。父さんたちが頼りにならないってわけじゃない、そもそも規格外の化け物が相手だ。だから、父さんやなのは、月村たちの安全を保証してもらうっていう理由も大きい」
二度とアレはゴメンだ。
ああ、リーゼフランさんや迅雷のオッサンの気持ちがよくわかる。
大好きな人たちが不幸になるなんて、理不尽な目に合うなんて耐えられるものではない。
「私たちの為?」
すずか嬢がムッとした顔で僕を見る。
「いや、だから一番は保身だよ」
僕は臆病だからね。
これも紛れもない本音だ。
だから、そっちはついでということにしてくれないかな?
その理由を第一にするのは恥ずかしいんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっほー、マッキー! 調子はどう?」
薄暗い研究室に底抜けに明るい声が響く。
「何か用かね? 同志パープル」
それとは正反対の低く嗄れた声が面倒そうな口調を隠そうともせず疑問を投げかける。
部屋の主はDr.マキシマ。
秘密結社「フェアリー・ガーデン」の科学参謀を務める頭脳労働系転生者である。
その容貌は年経た老科学者そのものだ。
唯一常人から異なるとすれば、その皺だらけの額に埋め込まれた真紅の宝石のようなものが異彩を放っていることだろう。
相対するのはその秘密結社の主宰、パープル・エイトクラウドその人だ。
対照的に若々しく豊満な肉体に、妖しい色気を充満させてニコニコと胡散臭い笑みを浮かべている。
「スカちゃんの方はどうなってるかしら? どういうわけかキラくんの居場所が掴まれちゃったのよ。根本的な解決にはならないでしょうけど、四六時中追いかけられたら流石のキラくんも酷しいでしょうから、ちょっと援護とかしたいわけ」
「私の調整体は出さんのかね?」
「貴方の玩具はハイパーゾアノイド級じゃないと、スカちゃんのお人形さんにも勝てないじゃない」
はっきりとモノを言う目の前の魔人にマキシマも苦笑する。
確かに強さで言えば、原作以上の戦闘力をもつに至った戦闘機人たちにははるかに及ばない。だが彼の調整体の真価は普通の人間を改造できる点にあるのだ。
そして、マキシマに対する絶対的忠誠心により反逆の可能性が限りなくゼロに近いのが最大の強みである。
また、自身と同じゾアロードの調整も可能だがまったくもってする気はなかった。
何せ反逆率が4割近い同格など信用できたものではない。
その上、原型たるハルミカル・バルカスと異なり主たるアルカンフェルは存在しないのだ。
己以外は全て下僕。全くもって問題ない。
すでに各管理世界で少なくない数の住民が調整体へと改造されている。
これが秘密裏に「フェアリー・ガーデン」が各管理世界に介入できる所以である。
一応、念の為に全時空平和委員会関係者周辺には調整を施さないよう注意している。
普通なら気づかれる恐れはほぼないが、普通じゃないのが転生者である。
パープルは基本的にマキシマの調整体を管理世界のコントロールに当てているため、対全平和会への戦いに投入する気はなかった。
基本的に荒事は時空傭兵のゲルカに任せきりであったが、今回のゲルカ・迅雷戦で薄々予想していたが全平和会側戦闘用員の転生者の戦闘力はやはり尋常ではない。
あちらの転生者を殺さずに、手加減して事を済ますには彼らは強すぎる。
斯様に暗躍しつつもパープルという転生者は、転生者同士の潰し合いを嫌う傾向にある。
とはいっても、海鳴の転校生ズのような転生者をあえて助けるほどに徹底しているわけでもなかったが。
「過去に完全体が存在するためか原作よりは制作は早まっているようだな。既に6番目までロールアウトしている」
研究室に上がってきた書類を彼女に渡しつつ、簡単な状況説明を行う。
「あら、もうセインちゃんが使えるんだ? 運用を考えるとドゥーエちゃんの次に使えるわよねー」
とはいえ荒事ならばトーレが最も適しているであろう。
スカリエッティ渾身の技術を込めた彼女は魔導師ランクで言えばSSSに肉薄するまでに至っている。
限りなくオーリシュデ謹製のパーフェクト・ソルジャーに近いであろう。
転生者オーリシュデの嫌がらせは、ジェイル・スカリエッティという人物を別人と見まごうまでに変質させた。
どこか享楽的な一面は消え、あらゆる物事へ真摯な態度で挑むようになっている。
かつては管理局改め全平和会、主に最高評議会とリーゼフランへの復讐で動いていたのだが、「フェアリー・ガーデン」に拾われ『怪物頭脳』や『浪漫天才』との邂逅を経て、濁った感情の大半は昇華するに至る。
今ではオリジナルである万能の超天才オーリシュデ・チューニーノ・ジャッキーガーンをたとえ一点だろうと超える! との信念を胸に戦闘機人計画に没頭している。
「オリっちには感謝しないとねー。おかげでいいコマが手に入ったもの」
次なる一手は、とパープルはニッコリ微笑んだ。
次元世界をまたにかける秘密結社「フェアリー・ガーデン」を構成する転生者は3人しかいない。
主宰:パープル・エイトクラウド、科学参謀:Dr.マキシマ、運営部長:ジョン・スミスとこれだけだ。
傭兵のゲルカに外注のビアン・イーグレットを含めても5人だ。
が、ジェイル・スカリエッティなどの原作キャラなども多数支援を受けており、その影響力は特定の管理外世界では全時空平和委員会を凌ぐ場合もある。
その上でほぼすべての世界にひっそりと調整体が紛れ込んでいる。
「うふふ、もう直ぐ二大組織による冷戦構造が完成するわね。私の計算だとそれだけで100年は安定した状態が続くから、フランちゃんもきっと喜んでくれるわね、ウフフ」
ニコニコとパープルが一人ごちる。
何度目かのそれを聞くマキシマだが、あのリーゼフランが絶対喜ぶわけないと毎回思う。
ゲルカの意思は不明だが、少なくともマキシマとスミスはパープルのこの思想に賛同してこの場にいるわけではない。
それなのに同志呼ばわりするのは、口を開けば大事な仲間などと嘯くくせに一切真意を見せず自分勝手に行動するパープルへの嫌味を込めているからだ。
マキシマは元々大日本帝国改変を狙って、密かに幕末・明治から歴史介入をしようとした時間犯罪型の転生者だ。
上手く名を上げる直前にパープルにとっ捕まったのがケチの付け始めである。
今だにそのことを根に持っているが、寝首を掻こうと機会を窺ったことなど過去の話。今では復讐する気力など既にない。
そんな意志も萎えるほどにこの目の前の魔人は凶悪であった。
そしてもう一人。
この組織の表側、『ゆりかごから墓場まで、貴方の一生を見守る』が標榜の超巨大企業ウルトラ・スミス・カンパニー、その代表取締役を務める転生者ジョン・スミスは完全に金と己の企業のためだけに動いている。
この男が無理やり加入させられた20年前から「フェアリー・ガーデン」は格段に活発化している。
金の力は偉大であった。
無理やり加入させられたジョンであるが、彼の会社がここ10年で急成長したのはマキシマの調整体を利用したことが非常に大きい。
それまでも第3管理世界の超優良企業だったとはいえ、現在では全管理世界でその名を知らぬものは居ないとまで言われるまでに成長したのだ。
WIN-WINの関係である。
はっきり言ってジョン本人はパープルの思惑などどうでも良く、最近では『妖精郷』に立ち入ることすら稀である。
「結局、管理局が原作で実は黒幕的な描かれ方をしたのは、対等の、もしくはそう思われるだけの対抗組織の不在が原因なのよ。敵がいないから世界最大の巨大組織に対抗出来るのは、実は根っこは同じってどうしてもマッチポンプことになるわ。ここだとキラくんが対等の敵にあたるかもしれないけど、やっぱり個人の力ではあれだし彼自身がそんな気じゃないしね。光だけでも闇だけでもダメなのよ。フランちゃんの全平和会が光となるなら、私たちが闇となればいいのだわ」
ニコニコと笑顔の裏で策謀を張り巡らしながらパープルが呟く。
しかしそれを耳にしたマキシマには、そもそもこの魔人がそんなことするだけに転生したとは到底思えないのだ。
絶対に何か裏がある。
何せこの組織をつくったのは全平和会になる前の管理局が設立される10年以上も前のことだ。
されどその裏が何なのか……100年以上の付き合いになるマキシマにもまったく想像がつかなかった。