「ところで、ニコポ持ちの転生者を生かさず殺さず拘束なんてできるんですか?」
『問題ない。結局、あれは持ち主が微笑まないと発動せん。ウチの暗部はそういったことの専門でな、全身の筋肉だけを破壊するなんてことも簡単にできる』
それはまた、エグい。
『と、こちらの都合ばかりだな。もし、生き残りが君の家族に洗脳を施していたら、即座に殺そう』
そういえば、桃子母さんはこいつにやられてたはずだな。
それにしても、
「……ほんと、容赦ないっすね」
『当たり前だ。転生者であるというだけで価値がないというのに、世界を悪しき方向に変えようなど存在するに値せん』
この人は淡々と語る。
わりに、何かを堪えているようにも見える。
「誰か、嫌な奴とでも会ったんですか?」
そうでもないと、これだけ見知らぬ他人を憎めるものか。
『……意外と、鋭いな』
物凄く驚いた、といった顔で見られた。
この顔が無茶苦茶レアなことを知るのは、僕が全平和会に入局した後のことだ。
僕は黙って続きを待つ。
『まあ、ね。20年前に一度きり会っただけだが、本当に嫌な奴だった。パープル……パープル・エイトクラウド。君も会うかもしれんな、取り込まれないよう気をつけなさい』
秘密結社『フェアリー・ガーデン』主宰、パープル・エイトクラウド。
リーゼフランさん曰く、確実に10万Pは超えているはずだ、とのこと。
後に知ることになるが、僕は世界のシステムを知る一人目とここで出会い、二人目の名前をここで聞いていたのだ。
さて、転校生ズのケリはついた。
しかし、まだ一つ大問題が残っている。
すっかり忘れていたが、ジュエルシードである。
一応、家族のことも気になるが、治療系魔法は基礎しか習っていないので僕が行っても邪魔になるだけだろう。
それよりも自分にできることからやっていこう。
さて、消息不明のフリードリッヒさんが所有する8個のジュエルシードに、僕が持つストレージ・デバイスのR2-D2に収納してある6個のジュエルシード。
これに原作通り海中に沈んでいるらしい6個を除くと、海鳴のどこかにもう1個あるはずなのだが。
取り敢えず、邪魔モノも居なくなり、サポートも万全となったので先に海中の方を済ますこととなった。
──なのだが。
「いやいやいや」
封時結界内に降り立った僕は思わず目の前の光景に唖然とする。
闇の書の防衛プログラムみたいなバカでかい化け物がそこに居た。
6個のジュエルシードが死んだ転生者7人の怨念を取り込み、具現化したのだ。
そして、それよりも信じられないのが迅雷のオッサンたちである。
「なんで、戦わないの?」
現在、ハイパー・ジュエルシードモンスターと戦っているのは、我が妹ゆきのさんと、ルミカ・シェベルさんのみ。
どういうことなの?
「飛べんしのう」
「同じく」
「ルミカに手を出すなと言われたので」
と、爺さん、オッサン、黄金聖闘士の順である。
それぞれの使い魔さんもどこか呆れたような表情を浮かべている。
まあ、ルミカさんがそう言うのは、この人らがバトルジャンキー的な人物だと考えればわからんでもない。
彼女視点では、今回何もしてないに等しいだろうからだ。
やったことは美由希姉さんの一撃を止めて、士郎父さんと恭也兄さん3人まとめてショック・バインドで気絶させたぐらいだ。
僕的には、かなりとんでもない気がするのだが。
しかし、飛べないって……オッサンって実は相当な役たたずではなかろうか?
いままで気にしなかったが、どうやって一佐まで出世したんだろう。
「……まあ、僕がどうこういえる立場じゃないのはわかってますけどね」
呟いて、戦場を見る。
ゆきのさんが、本当楽しそうに戦っている。
吹っ切れてんなぁ。
「すみません、今のゆきの。魔力どんくらいあります?」
緑色の魔力光を吹き出しながら空を駆ける妹の姿に、つい尋ねる。
『現在、およそ8000万。最大値は2億を超えるでしょう』
と、アースラからペーネロペーさんが律儀に教えてくれる。
単純にSSSランクで、最大ともなればSSSSランクの魔力値だが、一覧の情報ではSランクのままだ。
ということは、あのスキルの効果ということか。ぱねぇ。
しかし、それでもSSランクのルミカさんのほうが強く見えるな。
うまい感じに各種バインドを設置しながら、ザックザック斬りまくっている。
やはり戦闘経験の差であろうか?
まあ、単純にヘッドライナーが速くて強いってのもあるだろうが。
と、感心しているうちに、僕の方へジュエルシードが一つ飛んでくる。
「と、おおっ! ジュエルシード・シリアル6──封印!」
慌ててR2-D2を取り出し封印する。
同時に、ルミカさんのぶった斬ったごん太の触手が消滅する。
どうやらあれにこのジュエルシードがあったらしい。
そんな感じで終始2人は戦闘を優位に進め、僕は数分に一回飛んでくるジュエルシードの封印に勤しむ。
僕がこの場に到着してから15分ほどで、ハイパー・ジュエルシードモンスターは駆逐された。
「あっ、勇治、いたんだ」
ええ、だいぶ前からいましたよゆきのさん。
相変わらず注意力散漫なやつだな、ほんと。
緑色の魔力光を吹き出しながら、金色の趣味の悪いバリアジャケットに身を包んだ彼女がトンッと地面に降りる。
その金色のバリアジャケットに目をやれば、胸元が螺旋力ゲージになっていた。
「フフフ、たくさん斬れました……ウフフフ」
と、こちらはルミカさん。
実は変な人かもしれない。
そういや、ちょくちょく天瞳流うんたらかんたらと言ってたけど、どっかで聞いたことあんだよなぁ。なんだっけ?
『高町ゆきの、すまぬが、一旦デバイスを地面に置いてはくれぬか?』
と、ゆきののドリルから、いや、根元の宝石から声がする。
「うん。はい、置いたよおうさま」
と、ゆきのさんは素直に変身を解除、言われる通りデバイスを地面に置く。
『うむ』
おうさま? と、僕が疑問符を浮かべていると、デバイスから螺旋状に緑の光が立ちのぼり、一人の男が出現する。
「んお! フリードリッヒじゃねーか!」
オッサンが驚いて声を上げた。
ああ、このギル様そっくりな人が25万さんに匹敵するとかいう……なんか変だぞ?
ひょっとして、
「……山田さん?」
『違う! 我(オレ)の名はって……いや違わぬな。八神迅雷、改めて名乗ろう。山田三郎だ』
僕の言葉に、即座に反論しかけ、肯定したフリードリッヒさん改め、山田さんがそう名乗った。
あれ? これひょっとしてこの行き違いが、かなりあれじゃないか?
「やっぱり、お前さんが25万の男だよなぁ。うんうん、俺の勘もまだまだ捨てたもんじゃないな」
……オッサンが特にないなら僕も言わんとこう。
『すまんな。その25万が何のことかは分からぬが、奴等相手に不覚を取ったのだ。弄ばねばこんな事態も防げたであろうに……迷惑をかけた』
どうも転校生ズとやりあってる最中に寿命で死んだっぽいな。
あのスキル構成で、転校生ズに負ける訳がない。
『という訳でジュエルシードは高町ゆきのに預けたのだ。その後あの転生の間で意識を取り戻したのだが、ユージンめが来るまでは本当に見ているだけしか出来なくてな、歯痒いものであった』
どうも、ユージンさんが復活したのはこの人が何かやらかした結果らしい。
いや、それよりもP超過のペナルティとかどうなったの?
と、8個のジュエルシードはゆきのさんが持ってるのか。
『あやつがやった方法を試みたところ、上手くこやつのデバイスに意識を移すことに成功してな。大分コツを掴んだ故、このように魂の実体化に成功できたわ』
何やらおかしなことをツラツラと喋る山田さん。
魂の実体化とか、マジ意味不明すぎる。
「そうやって、出たきたところを察すると、儂らに協力してくれるのかのう?」
ゆきのとオッサンを除いて、自失状態の僕らであったが、一番に立ち直ったのは最年長のペンドラドン爺さんだった。
『うむ! と、言いたいところではあるが、今の我(オレ)はただの人に過ぎぬ。其方たちの役には立てん』
とのお答え。
ただの人は、魂から復活したりはしないと思うのですが……まあ、スキルとか無いなら仕方ないのか。
『それに、恐らく我(オレ)はまだこの国から出ることは適わんだろう。こ度は我(オレ)と高町ゆきのとの絆が生み出した一度きりの奇跡よ』
いずれ声に従い、何処だろうとゆくことになるだろうがな、とか言ってるけどどういうことだ?
スキルの【英雄(日本限定):黄金ヒーロー】がなにか関係しているのだろうか。
『さて……』
山田さんが空を見上げた。
僕も釣られて見上げるが、特に何かは見当たらない。
結界に区切られた普通の空が広がるのみだ。
「おうさま?」
何やら察したのかゆきのさんが山田さんの袖を掴む。
『そうだ。ここでお別れだ、高町ゆきの』
正直、初めの状況からしてわからないから、今何が起こっているのかもわからない。
2人のみに分かる、というやつであろうか。
「……」
『元々、原作に介入する気はなかったのだ。今まで通り、我(オレ)の進む道に戻るだけ。なに、永久の別れというわけでもない、道が交わればいつか会うこともあろう』
「おうさま! わたし、ユーノ君に会わない!」
ゆきのさんまで、なんか変なこと言い出したし。
『どうした?』
「ユーノ君に相応しい私になるまで……おうさまが信じてくれた『わたし』に、相応しくなったとわたしが思うまで、ユーノ君には会わない!」
うわ、これゆきのさんユーノに会いに行く気ないぞ。
ガチで恋愛スキル捨てる気か?
『そうか……その想い、貫くがいい』
この人も止めないしさー。
「うん!」
そう、ゆきのさんはニシシと笑い、拳を山田さんにむける。
山田さんもまたいい笑顔で、コツンと拳を合わせ、緑色の粒子となって天へと昇っていく。
「さよなら、おうさま。また会う日まで……」
ゆきのさんは消えた山田さんの姿を追うように空を見上げる。
ペンドラゴン爺さんとオッサンは、カッコつけやがってみたいにホッホとかヘヘッとかニヒルな笑みを浮かべる。
カウりさんもフッとか笑ってるし、ルミカさんに至ってはなんかグスグス泣いてるし。
しかし、ここでクッセーと感じた僕は空気読めてない?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ここに『聖闘士』の項目はないが、『聖闘士』……例えば『黄金聖闘士』を選ぶことは出来るのか?」
『……可能だね』
「では、『山羊座』の必要Pは?」
『ふむ、12000といったところかな』
「い、一万超……」
山羊座の転生者は必死にルールブックを捲る。
「こ、この魔法使用不可と組み合わせた場合、どうなる?」
『魔法っぽいことは一切出来ないかな』
「ぐっ!」
それだと意味がない。
あくまでも自分は『聖闘士』の如き存在になりたいのだ。
「はっ! 魔法っぽいこと、だな? よく切れる手刀は魔法じゃないよな!」
『……まあ、いいだろう。では、『聖闘士』の小宇宙を魔力で再現する形にしよう』
ただし、魔法使用不可と合わせた場合、超常現象や放出系の技は使えないものとする。
そう決まった。
山羊座の転生者はガッツポーズを取る。
他の星座? 知ったことか。
10000Pオーバーだから必要な魔力値はSSS。
誂えたように100Pピッタリだ。
これで俺はあの憧れの『聖闘士』になれる。
山羊座の転生者は歓喜と共に転生する。
こうして、『山羊座』カウリは誕生した。
カウリは覚醒後、歓喜の声を上げ、すぐに落胆した。
聖衣は纏える。
5歳児の体に丁度フィットするよう変化してくれる。
技も恐らく扱える。
聖衣から、技の情報が頭に流れ込んでくる。
が、動きの再現は全くと言っていいほどダメだった。
間違いなく現在のカウリは、5歳児として破格の身体能力を持っているだろう。
しかし、それは原典の『聖闘士』に及ぶべくもない。
小宇宙が低いのだ。
多分、今の実力では邪武にも勝てない。
そんな時であった。
『カウリよ、小宇宙を高めよ』
そんな声が脳内に響いたのは。
その声は、カウリが前世で憧れた『山羊座の黄金聖闘士』の声であった。
「はぁああああ! 我が師よ! わかりました、この聖衣に相応しくなるよう小宇宙を高めます!」
カウリはその声に滂沱し、歓喜の表情で誓いを立てる。
修行の日々の始まりだった。
この脳内師匠との出会いを経て、カウリは着々と『聖闘士』に相応しい実力をつけていく。
10歳の時にディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション開催の「インターミドル・チャンピオンシップ」に参加、そして初出場初優勝を掻っ攫うまでの実力は身に付けていた。
以後、「I・C」で連覇を続けていくうちに、管理局からの勧誘もあったのだが断っていた。
キラ・ヤマトを知ったのは、「I・C」最後の参加で9連覇を達成した翌日、ニュースで彼の活動が大々的に取り上げられたのを見た時だ。
『カウリよ、大義を貫け』
その二つしか言わない脳内師匠ではあるが、丁度DSAAの「I・C」は年齢規定に達しており、プロになる気もなかったカウリは新たな目標を見つけた。
嘱託として、いつの間にか改名していた全時空平和委員会に所属、すぐに対『フリーダム』部隊に回され、キラ・ヤマトと対峙するに至る。
そこでカウリは初めて壁にぶつかる。
それほどまでにキラ・ヤマトは強かった。
聖衣のおかげで、受けた傷は浅い。
しかし、有効な一撃は一つたりとて与えられなかった。
井の中の蛙を思い知らされ、改めて記憶に残る『聖闘士』の実力と、今の己の力を比べてみる。
残念ながら、いいとこ白銀レベル。
本来の『黄金聖闘士』には到底足りていなかった。
『カウリよ、小宇宙を高めよ』
折れそうな心を脳内師匠が叱咤する。
それから再び鍛錬の日々に『フリーダム』の連中との戦い。
リュウには7戦全敗、悟欽は勝手に戦うとプリンスが怒るので放置。
エミヤズとは互角、というか『ザ・ワン』以外のエミヤは逃げられなければ倒せる。
他の3人とは今だ面識はない。
それでも光速拳は未だ遠い。
『聖剣』もよく切れるだけの手刀だ。
そんな時に発生した「フリーダム・ゾート事件」。
複数の転生者が原作の海鳴に大量発生したこの事件に、カウリは勇んで参加する。
『無限の剣製』持ちも多いという。
が、これがとんだ期待はずれ。
エミヤズであれば、余裕(あちらからすれば結構必死)でよけて反撃してくるというのに、一撃。
まだ、高町家の面々のほうが遣り甲斐があったであろうに。
そう失望を覚えるカウリに、
『カウリよ、大義を貫け』
「はい、師匠!」
今日も脳内師匠は語りかけるのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アースラに戻った僕らを待ち構えていたのは、肩を怒らしたアリサ・バニングスその人。
どうも僕らの素性を聞き、ご立腹らしい。
「違うわよ!」
『黙っていたことに、仲間はずれにされたみたいで寂しいのさ』
兄さん! とアリサが胸元のなにやらジュエルシードに似た緋色の宝石に怒鳴る。
気のせいでなければ、ユージンさんの声が聞こえたのだが?
儂らは関係ないのう、とペンドラゴン爺さんら3名とその使い魔たちはそそくさと去る。
という訳で、僕とゆきの、迅雷のオッサンと使い魔のウィルさんが、バニングス兄妹に起こった事態の説明をリーゼフランさんから受ける。
「なるほど、それはジュエルシードが変化したもので、ユージンさんはマジ死んじゃったと」
『いやぁ、彼らがあんなに話を聞かないとはね』
アハハと笑うが、笑い事ではないと思う。
と、これでジュエルシードは全部揃っているわけか。
あの後すぐ戻ってくるよう言ってきた理由がようやく理解できた。
「しかし、いいのか? 本当に見守って、話しかけるだけしかできんようだが……」
『だけ、って、それだけ出来れば十分でしょうに。一度死んだ身で、高望みはしませんよ』
オッサンが複雑そうな顔で唸っている。
やはり、なんとかできなかったかと、今も思っているようだ。
「あんたが、どこか浮き世離れしてたのはそのせいだったのか……」
「アハハ、今までは浮かれすぎてたんだよ」
僕らがユージンさんと話している間、少し離れた場所でアリサとゆきのさんは話している。
「そういえば、こいつらの家族はどうですかい?」
と、迅雷のオッサンがリーゼフランさんに尋ねる。
それは僕も気になるところだ。
『都合良くというか、運良くというか、な』
どうやら桃子母さんも無事洗脳は解けたようだ。
どうも鳳凰院が記憶の齟齬をなくすために、まとめてニコポしなおして調整していたようだ。
『その鳳凰院だが、高町家の方々の記憶から消えていてな』
コレは仮説だが、とリーゼフランさん。
どうも100P超過組が死ぬと世界から居なかったこととして扱われるらしい。
現状、転校生ズはまだ詳しいことは不明だが、少なくとも天鏡将院はその家族(といっても孤児院出身らしいが)の記憶からも消えているようだ。
逆にユージンさんは高町家の皆も月村家の人たちも覚えているようなので、超過組のみの特殊事例らしい。
まだまだ例が少ないから、詳しく判明するのは今回の転生者連中の調査が終わってからのことになるだろう、と締めた。
「不幸中の幸いってことか。よかったな、勇治」
と、自分の事のように嬉しそうに僕の頭をペシペシ叩くオッサン。
「ちょっと、ゆきの? あんた、どうしたの?」
アリサの声に、そちらを見ると、ゆきのさんがプルプル震えている。
「ダイジョウブ、ダイジョウブダヨ……」
「顔真っ青じゃない! どう見ても大丈夫じゃないわよ!」
流石に昨日の今日ではあれまでは吹っ切れなかったみたいだ。
どうもトラウマになってるっぽい。
さて、どうしたものか。
その後、一旦ゆきのさんを外して高町家家族会議を行う。
カイが生きているため、月村家と異なり完全に記憶が飛んでいないので、はじめはかなりギクシャクしたが、そのへんは僕があまり気にしない質だったので表面上はいつも通りとなった。
取り敢えず、第一に僕らの素性のネタばらしからはじめる。
これはリーゼフランさんの入れ知恵で、コレを受け入れられないようならこの先は諦めたほうがいいとのコト。
まあ、高町家の皆は前世の事など気にしないと言ってくれたが。
実際僕としても前世知識など、この世界の未来知識と覚えている限りの戦闘スキルの元ネタぐらいだ。
しかも、既に未来知識乙状態である。
原作のゲの字もありゃしない。
続いて、カイの処遇である。
ここで殺すとスッキリ終わる。
関連情報が無かったことにされるため、今回の一連の事件で高町家の皆がとった行動も無かったこととなり、ゆきのさんがトラウマを克服すれば、めでたしめでたしである。
リーゼフランさんも、実にもったいないのだがそれが一番いいだろうと言っていた。
のだが、これには高町家の皆が難色を示した。
どうも僕らに──というか主にゆきのさんだが──トラウマを植え付けといて、それを忘れて今まで通りという訳にはいかないらしい。
色々思いつめられると、僕的には逆に辛い……桃子母さんとかマジ落ち込んでるし、さっぱり忘れて欲しいところなのだが。
話し合いは平行線、というかうまい着地点が見いだせなかった。
僕としてはすっぱり忘れて、最悪僕らを忘れてしまったしとても、高町家の皆には笑顔でいて欲しいのだが。士郎父さんたちは僕らがいなければ、家族が揃わなければそれは心からの笑顔じゃないと言って譲らない。
このへんの機微が今一わからない僕は、やはり外側にいるんだろう。
『では、こうしたら如何か?』
僕以上に外側で、やはりそのへんの機微を理解していないであろうリーゼフランさんを見てそう思った。
煮詰まっていた僕らに彼女が提案したのは、なんというか碁盤をひっくり返したような案であった。
先ずは高町ゆきのがトラウマを克服することが第一、これの克服に一週間を空ける。
次に、家族の絆というやつの確認と称して、高町家の皆から僕ら2人の記憶を消去。
最終的に、皆が僕らの事を思い出せば絆の力でなんでも克服できる。
要約すればこんな感じである。
僕的には意味不明なのだが、リーゼフランさんは高町家の皆が、ちょっとそれは、とか、いやここはおかしい、とかの反論を一つ一つ煙に巻くように論破していき、この案を通すことに成功した。
皆も、何となく賛成してしまったが、本当にこれで良かったのか? と、そんな顔をしている。
「これ、皆が思い出せなければそのままってことですよね?」
『おや? 高町勇治、君は家族が君たちの事を思い出せないとでも思っているのか?』
僕の呟きに、リーゼフランさんは逆に質問を返す。
ああ、この人はもう答えが分かっているのか。
改めて『軍師孔明』スキルの恐ろしさを理解する。
直接事象が操作できるのであれば、正解がわかるこのスキルはほぼ予知のようなものだ。
本当に恐ろしいのはそれを使いこなすこの人だが。
結局、リーゼフランさんの提案通り、一週間後僕らが海鳴に赴き、高町家の皆が記憶を取り戻せば、今まで通りということに決定した。
さて、僕らとは逆にあっさり今後を決めたのが迅雷のオッサン。
はやての周囲の危険は今回でほぼ消えたと言って、記憶喪失の今、完全に縁を切ることに決めたのだ。
前から薄々感じていたが、闇の書事件は既に解決済みのようだ。
まあ、当然といえば当然なのかもしれない。
ギル・グレアムと八神はやての周囲に、原作『キャラ』至上主義の人間がいるのであれば、あの事件は11年前に解決済でなんの不思議もない。
そうなると、フェイト・テスタロッサが姿を現さなかったことも。大元が改変されているからだろう。
例えば、アリシア・テスタロッサが死ななかった、とか。
閑話休題。
どうも今回はやてと何かあったらしく、今後同じこともしくはそれ以上のことをされたら耐える自信はないから、この機にさっぱり縁を切ると言っていた。
何をされたのだろうか?
と、これに怒髪天をついたのがアリサ。
アンタなんかに、はやては任せられない! と言って怒鳴り込んだところ。
「ああ、頼む」
逆にお願いされ、更に激怒。
はやてを連れてさっさと海鳴に帰ってしまった。
現在、高町家の皆も月村家の人たちも海鳴に戻っているので、ゆきのさんのトラウマ克服に付き合うのは僕と使い魔のみなさんである。
正直アリサには残っていて欲しかった。
ここの所、オッサンは飲んだくれているので、酒臭いのが嫌いな僕はこの状態でユージンさんがいなくなると、リーゼフランさん以外に会話相手がいないのである。
ペンドラゴンの爺さんとルミカさんは暇さえあれば拳と刀を合わせている。
カウリさんはほぼ無言で、浮き世離れした雰囲気を漂わせており、実に話しかけづらかった。
艦長のロベルトさんは、本局に戻るまで部屋から出ねぇ! とぷちストライキを敢行しており、話せるような状況でもない。
専属の使い魔さんたちは基本、主人に付きっきりだし、アースラクルーの使い魔は性格付けが殆どされていないので機械に話しかけるようなものだ。
というわけで、ゆきのさんの世話を終えた僕は、気づくと彼女と話しているのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こんなの茶番よ」
アリサがいつものようにはやてを連れ回しながら呟く。
『そうかな? 転校生たちのアレはとても強力だったよ?』
「アレは『神様』ってのの力でしょ? 今回のはただの魔法、そんなもので今までの家族の絆が切れるわけなんてないわ!」
どちらかというと、絶賛記憶喪失中のはやての方が問題だとアリサは兄の言葉を否定する。
こちらは紛れも無く『神様』パワーによる戦闘スキルによる記憶喪失だ。
アリサがつきっきりで、数日かけてなんとかまともな学校生活がおくれるくらいには回復したが。
『そうなると、後三日でゆきのちゃんがトラウマを克服できるかが問題になりそうだ』
「そうね。それはともかく! ほんと、あの黒いのはヘタレなんだから!」
わざわざ週末を利用してはやてを温泉に連れてきたアリサは、迅雷のヘタレっぷりに文句を言う。
『そうは言うがね、アリサ。叔父と姪では、やはりイロイロまずいって』
なんだかんだで、考えた末の結論なのだ。
ユージンとしては迅雷の意思を尊重したいので、アリサに苦言を呈する。
しかし、大好きな兄が一生自分の傍にいてくれるというある意味末期状態のアリサは聞く耳など持たず、はやてがなんだかんだで好意を寄せている迅雷とくっつけようと、余計なお世話を発揮している最中であった。
見ているだけは、やはり辛いかもしれないねぇとユージンは内心ため息をついた。
あっという間に1週間が経った。
なんとかゆきのさんはトラウマを克服し、といってもそれ以前にもまして挙動不審であるが、少なくとも動きが止まることはなくなった。
さて、そんなゆきのさんを連れ海鳴へと転移する。
人払いの結界を展開したゲートに転移した僕らは急ぐこともなく高町家へと向かった。
たどり着いた高町家。
ゆきのさんはまだちょっと躊躇いがあるようにも見える。
ちなみに僕もそのへん全く感じなほど木石ではない。
そっと、2人して垣根から玄関を覗いたところで、箒をはいている美由希姉さんと目があった。
「……」
「……っ、父さん、母さん! 恭ちゃん、なのはも! 勇治が、ゆきのが帰ってきたよ!」
あれ?
僕的には顔をあわせて初めて記憶が蘇る、みたいな感じを想像していたのだけど?
美由希姉さんの声とともに家の中が騒がしくなる。
意を決したのか、ゆきのさんがおずおずと中へと入ってゆく。
「……え、と。ただい……ま、お姉ちゃあああああん、うわああああああん」
「うん。おかえり、ゆきの。勇治もおかえり」
「えーと……ただいま、美由希姉さん」
ゆきのさんは途中で泣き出してしまった。
まあ、多分嬉し涙だと思うんだけど。
美由希姉さんはそんなゆきのさんを優しく抱きしめる。
「勇治! ゆきの!」
と、玄関が開き士郎父さんを先頭に、高町家の皆が押取り刀で駆けつける。
僕の予想と全然違ったが、まあ得てしてこんなものかもしれない。
「高町勇治、ただいま戻りました!」
僕は笑顔で、僕の家族にただいまの挨拶をした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だーれだ?」
「……ハァ、八神はやて」
「あれぇ? かなり声色とかも変えたつもりやのに」
「俺が、お前さんの声を聴き間違えるわけないだろうが」
「むぅ、ジンさん。私の記憶が戻ったのに全然驚いてへん」
「俺が海鳴に向かわされるのに、お前さん絡み以外の理由があるか」
「……なんで、死んだなんて嘘ついたん?」
「何だかんだで、俺はお前さんが大好きだからな。これから成長して同じように好意を向けられたら自重できんかもしれん」
「……」
「んで、お前さんが俺以外の誰かに好意を向けるようになったら、それはそれで辛い」
「……」
「ん、でも、死んだ事にしたのは謝る。ごめんな」
「……うん、はやてちゃんは寛容やからな、ゆるしたげるで」
「……何笑ってんだ?」
「内緒や!」