特に語るべきこともなく、年月は流れ僕らは聖祥に入学。
僕らは三つ子なので、別々のクラスに分かれることになる。
そして、意外なことにこの時点での転生者はゆきの以外は実にゼロ。
一人か二人は小学1年のころからなのはにこなをかけてくるかと思ったが。
さて、肝心のファースト転生者である高町ゆきのさんであるが、一応共闘関係にある。
転生者一覧の彼女のスキルを見ればわかる通り、ユーノ狙いである。
そして僕は男であり、そしてなのはとは兄妹である。
よほどおかしな頭をしていない限り、ユーノやなのはにちょっかいをかけようとはしないという判断であろう。
こちらとしても高町家に転生するのは完全に想定外だったので、同じ秘密を内包する相手がいるとやりやすい。
ただ、ゆきのさん、完全に恋愛脳のためか、
「あんた、誰狙い?」
覚醒後の第一声がこれである。
一応誤解のないよう恋愛が目的ではないと言ったのだが、残念ながら信じてもらえなかった。
「で、誰よ?」
仕方なく、僕はstsに出てきた寮母のアイナさんと答えておく。
登場は10年以上後だ。
そのうち忘れているだろう。
「……あー、あの人かー」
と、一旦うなずくが、
「ん? なんでこの時間帯に転生してんの? いや、なのはの知り合いのほうが会いやすいか?」
再び唸り始める。
とりあえず、高町家に転生したのは想定外だったと告げておく。
「あー、うん。わかるわかる。あたしもなのはの姉妹になるとは想像もしてなかったしねー」
そう言って、ゆきのさんは気さくに笑った。
当初、僕としてはゆきのさんの中身が気になったわけだが、よく考えてみたら僕自身、前世が何者であったか記憶に無いことに気づく。
どうもそういう仕様であるらしい。
所謂『リリカルなのは』シリーズの覚えている限りの記憶はある。
が、それ以外の、例えば『神』のいた場所でみたスキルの元ネタが相当怪しいことになっている。
そして、前世の自分の情報、簡単な性別ですら記憶にない。
これは、ゆきのさんも覚えてねーな。
まあ、確かに前世の記憶とか、トラウマとか思い返してもいいことないよなぁ。
そう思いながら、少しだけこの仕様に感謝した。
さて順調に学年は上がり、転生者も出現しないという奇妙な時間がしばらく続く。
《転生者一覧が更新されました》
まあ、そんなわけないわな。
早速、確認確認。
【天鏡将院 八雲】
年齢:死亡(/8歳)
・総合SSSSランク魔導師(600P)
・斬魄刀:天鎖残月(900P)
・洗脳:sekkyou(250P)
・幻想殺し(50000P)
・幽波紋:ザ・ワールド(25000P)
・デバイス:ストームブリンガー(500P)
・容姿:超絶美形(300P)
・名前:天鏡将院八雲(30P)
現在地:第97管理外世界
「……」
これはどう判断すべきか?
転生者同士の内ゲバか? それとも単純に寿命か?
というか、突っ込みどころが多すぎる。
幻想殺し燃費わりーとか、ザ・ワールドも重いとか、名前、P必要なんだとか、それよりなにより、
「寿命8歳って何だよ……」
死因がわからないのがここまで混乱するとは思わなかった。
しかも、超絶美形って強制魅了効果付だぞ、アレ。
sekkyouよりP必要なだけあって相当影響力あるからな。
顔さえあれば永久魅了だからな、ハーレム維持とかカリスマがないと首をもがれかねん。
仮に寿命だとすると、例の25万さんの約3倍だから6週間ちょいか?
いまが春の大型連休の前だから、3月頭ごろに活動開始?
それにしては音沙汰なかったしなー。
いや、これは考えるだけ無駄だ。
現在地がアバウトすぎて、最低でも日本国内に死体があることぐらいしかわからん。
謎の転生者、天鏡将院八雲のことを記憶の彼方に追いやり、僕は市立図書館へと向かう。
無論、八神はやての有無の確認である。
高町家への転生が予想外のことだったので、原作がどの程度再現されるかは地味に命に関わる。
とりあえず、我が妹ゆきのさんのおかげで無印は何とかなりそうな気はするのだが、その後の見通しが立っていない。
ゆきのさんは完全にユーノの嫁になるつもりなので、いずれ高町家を出るだろう。
対する僕は、『神』を見返してやると決めたものの、いまだ将来は未定である。
やはりこのシステムを知ったのが転生直前というのが痛い。
基本的に原作に関わらずに、天寿を全うしようとして組んだ後ろ向き仕様だからなぁ。
と、ため息混じりに館内を探索していると、
《転生者一覧が更新されました》
今日は豊作、てか?
さてさて。
【八神 迅雷】
年齢:28歳(/100歳)
・総合Aランク魔導師(5P)
・家族:八神はやての叔父(40P)
・魔力値:SSSSS(500P)
・単一魔法:→魔力値(-450P)
・使用可能魔法:フレイム・ショット
・身長:190cm(5P)
現在地:第97管理外世界
げ、『余のメラ』タイプじゃねーか!
バ火力がはやての叔父とかどーいう状況だよ。
まだ春だというのに、真夏のサーファー見たいにアロハシャツにグラサンとか、肌も真っ黒に焼けてるし。
本格的にこのオッサンが何者かわかんねー!
「おー、ジン叔父さん」
「まったく、久々の里帰りなのに姪の迎えに出されるとはね。兄貴も人使いが荒い」
しかも、はやて。聖祥の制服着てるじゃねーか!
車椅子のイメージ強すぎて、完全にチェックの範囲外だぞ。
「よろしいですか?」
「!?」
僕が本棚の隅から二人の様子を伺っていると、頭上から女性の声と共に肩に手を置かれた。
なんだ!?
転生者なら僕が気づかないわけないぞ!
ぎょっとした僕が振り向くと、すらっとしたスーツを身に着けた女性が僕の肩に手をまわしている。
「おーし、お手柄だ。エレノワール」
もう一度あわてて正面を向くと、グラサンが腕組みをしながらニヤニヤ笑っている。
その後ろでは、はやてが叔父さんどしたのーとオッサンの後ろから顔を出してくる。
挟まれた! つーか、痛ぇ! この女握力ぱねぇ!
こいつ、使い魔か!
さて、あの後ちょっと面かせやと、オッサンに図書館裏に連れ込まれた。
少しだけはやてに助けを期待したのだが、使い魔と思われる女性に促され先に帰宅したようだ。
その際、その子いじめたらあかんよ。と、言ってくれたはやてちゃんマジ天使!
ニヤニヤ笑いながらオッサンはタバコをすっている。
「おまえさんよぉ、転生者だろ? しかも、飛び切りレアな感知系の」
てっきり、煙を吹きかけてきたりポイ捨てしたりするのかと思いきや、そんなことはなくアロハシャツから取り出した携帯灰皿に吸殻をしまう。
と、意識そらしている場合じゃねぇ! バレバレじゃねぇか!
「ああ、とって食おうってわけじゃねぇ。お前さんの名前と、天鏡将院とか言うガキの行方を聞きたい」
そういって笑みを浮かべながら、オッサンはサングラスをずらす。
やべえ、目が笑ってねぇ!
このオッサンと僕とじゃ潜った戦場が違いすぎる。
つーか、ここでも天鏡将院かよ。
「っ、僕は、高町勇治。多分、あんたも知ってるだろうけど、高町なのはの三つ子の兄だ」
僕の返答に、おっさんは心底驚いたようで、
「高町なのはが三つ子かよ!」
そう言ってヒヒヒッと笑う。
「あと、天鏡将院八雲ってのとあんたの関係は知らないけど、そいつはもう死んでるよ」
続けた僕の言葉に、オッサンは笑うのを止めると。
「あー、死んだが、あのクソガキ。……あー、逃がしたと思ったが、ちゃんと死んでたか」
そう吐き捨てるように口にする。
「あんたがやったのか?」
スキルを見るからに、実にアレな人間だと思っていたが。
それでも、死んで清々したといわんばかりのこのオッサンの言葉に顔を顰める。
「だとしたら、なんだい?」
それとも、やはり僕が知らないだけで、例のアイツは何かやらかしていたのだろうか?
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「いけないなぁ。いけないなぁ。八神はやて、君の両親が健在だと原作が崩壊してしまうじゃないかぁ」
まるで絵画の中から出てきたかのごとき、絶世の美貌を持つ少年が長い髪を揺らしながら道を進む。
「いけない子だよ、八神はやて。君が健康な体じゃ、だめだろう?」
その美貌に貼り付けたるは、醜悪な笑み。
腐った溝沼のごとき瞳が虚空をさまよっている。
少年の名は天鏡将院八雲。
多くの転生者の中でもトップクラスのPを消費した、所謂ルールブック未読組の一人である。
転生者の中でも、最も原作であるところの「リリカルなのは」シリーズを愛していると思っている彼は、原作開始前であるにも拘らずズレが発生していることを誰よりも憤っていると思っていた。
このままでは自分の愛する「リリカルなのは」の物語が崩壊してしまう。
そう結論を出した彼は、原作開始まで残り1年という時点で崩壊を阻止すべく行動を開始した。
手始めに、八神はやての両親の抹殺。
そしてはやて本人を半身不随にする。
すでに、その行為自体が原作と外れていることに彼自身気づいていなかった。
スキル:sekkyouにより、覚醒してからの約3年、彼の周囲にはイエスマンしか存在しなかったが故の弊害、自身の判断が何よりも正しいという思い込みのためである。
「よぉ、ここから先は通行止めだぜ」
妖艶たる美貌の少年の視線に、大柄な男が横柄にも侵入してきた。
黒い男であった。
男は笑みを浮かべながらも、一部の隙もない。
歴戦の風格を漂わせる男である。
しかし、そのようなものなど、彼にとって何の意味も持たない。
「失せろ」
彼は静かに、だが言葉そのもに力を籠め命ずる。
いつものように、淡々と。
が、男は不敵な笑みを浮かべながら、
「てめぇが失せな」
そう返答した。
「ああ、貴様が転生者ということか。……死ね!」
その答えに彼は男が自身と同じく、そして己に刃向かう実に不遜な転生者であることを理解する。
そして、無詠唱でディバイン・バスター級の砲撃魔法を殺傷設定で放つ。
彼の圧倒的魔力を元に放たれた漆黒の光線は、しかし無詠唱・デバイスなしという構成の甘さにより、男の前に出現したプロテクション・フィールドに遮られ霧散する。
「マスター、遅くなりました」
真紅の魔力光を身に漂わせ、バリアジャケットを身にまとった女性が男に寄り添うように出現する。
そして頭一つ以上差のあるその女性に、男は良くやったとばかりにポンと後頭部をタッチする。
女性の頭の猫耳がどこかしらうれしそうにピコピコと揺れる。
「使い魔か、屑め」
彼は何の根拠もなくそう口にする。
そして、無言で彼のデバイス・ストームブリンガーを起動させたところで、初めて世界の位相がずれていることに気づく。
「結界か」
無駄なことを、と思う。
彼の右手は幻想殺しだ。
いかなる結界だろうが、無効化することは難しくない。
「お、次は俺の番だろう? それとも俺に攻撃させるのは怖いかい?」
黒い男が聞き捨てならない言葉を放つ。
実に無礼千万である。
彼はすぐさまこの男を殺したい衝動に襲われるが、それと同じぐらいこの男に絶望の表情を浮かべさせてやりたいという欲求が生まれる。
「貴様の手順を許す。このボクの前に絶望しろ!」
そうして、彼は後者の欲求を選択した。
黒い男、八神迅雷はこの転生者の言葉に内心安堵の息をつく。
この目の前の転生者は、彼がこれまでに出会ってきたどのタイプの転生者とも異なっていた。
彼が普段、次元世界の戦場で相対する『フリーダム』の連中や、同僚である友人や上司たちと異なり、おそらく覚醒してから数年であるにも拘らず圧倒的なプレッシャーを放っている。
(まともにやれば、相手にならんな……)
彼はそう判断する。
先に放たれた無詠唱魔法は、それだけで所謂高町なのはのディバイン・バスターを凌駕する威力である。
たった一つの魔法しか使えず、全てのサポートを使い魔であるエレノワールに任せきりである彼には、元々勝ち目など一つしかない。
(フランの姐さんに、兄貴たちを狙ってるバカがいると聞いたときはどんなバカかと呆れたが、超ド級のバカかよ)
そんなことを考えつつ、彼の使えるたった一つの魔法を起動。
この世界に覚醒してから何千・何万と繰り返したその工程を、いつものように、そして今回は非殺傷設定を起動させずに発動する。
「フレイム・ショット」
管理世界で基本となる魔力弾、それに彼の魔力性質である炎属性を乗せたそれが転生者の少年に射出される。
少年はそれを避けようともせず、タダ右手を掲げるのみ。
左手に持つ長剣タイプのデバイスを起動させる様子もない。
(? 何だ?)
彼は少年の行動が理解できず、そして着弾と同時に理解する。
(っ! アンチマギリングフィールドか? いや、何かこれを知っている気がするが……)
彼の魔法は少年の手のひらに遮られ、その場に食い止められているのだ。
が、如何せん彼はこの能力の原典を知らない。
スキル欄にあったのを確認しているが、それも彼にとって20年以上前の話。
すでに記憶の端にも残っていなかった。
少年は笑みを浮かべながら、左手のデバイスを起動させようとする。
が、いつまでたっても消滅しない、右手に遮られた魔力弾を怪訝に見る。
(まあ、なんだろうと)
「俺のそれは止まらんぞ?」
訝しげにしている少年に、彼は一言告げる。
『ブレイク!』
その言葉と共に、少年は半径2mはあろうかという天まで届かんとする火柱に包まれた。
「──! ──っ!」
八雲は声にならない声を上げながら、右手の幻想殺しを振り回す。
幻想殺しのお蔭で、魔力ダメージはない。
しかし、彼を包囲する火柱により酸欠状態に陥り、そして発生する熱により彼の体は焼き爛れていた。
(なんだ!? これは、なんだ!?)
彼は、ただ、ただ混乱していた。
仮に、純粋に能力だけ見た場合、八雲と迅雷が相対すれば100戦中100戦で八雲が勝利するだろう。
それほどまでに、転生者としての能力に格差はある。
それも、実戦経験が同じという条件での話。
既に自分より格上の転生者との戦闘を繰り返してきた迅雷と、この日が初陣となった八雲の経験の差がそのままこの結果に結びついた。
それだけの話である。
「──!」
(そうだ! ザ・ワールド!)
初めからそれを使っていれば、一方的に勝利できたそれを思い出す。
それを使って脱出しようとしたところで、体が動かなくなっていることに気づく。
(なんだ? どうして動かん! 動けっ!)
それどころか、既に目も見えていない。
いや、彼が自分のザ・ワールドというスキルに気づくまでの数秒で、彼の体は致命的なダメージを受けていた。
(動けっ! 熱いんだ! 動けよ! 痛いんだ! 動くんだよっ! 苦しいんだ!)
彼の魂は慟哭する。
熱いと。
痛いと。
苦しいと。
そう、天鏡将院八雲の肉体は、既に炭化しているのだ。
『本当に、君は道化にもなれなかったな』
慟哭をあげる魂を見やり、『神』はつまらなそうに言う。
(痛い──。熱い──。苦し──)
『これで、5人目。まぁ、天寿を全うできなかったのは君が初めてなのだがね』
(あ、ああ──)
『ああそうだ。君にはこの世界の行く末を見続けてもらおう。程よい絶望を生んでくれそうだ』
(っ! う、あ、あ────────────!)