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No.28390の一覧
[0] [習作]Steins;Madoka (Steins;Gate × まどか☆マギカ)[かっこう](2012/11/14 00:27)
[1] 世界線x.xxxxxx[かっこう](2011/06/17 21:12)
[2] 世界線0.091015→x.091015 ①[かっこう](2011/06/18 01:20)
[3] 世界線0.091015→x.091015 ②[かっこう](2011/06/28 21:37)
[4] 世界線0.091015→x.091015 ③[かっこう](2011/06/22 03:15)
[5] 世界線x.091015 「巴マミ」①[かっこう](2011/07/01 13:56)
[6] 世界線x.091015 「巴マミ」②[かっこう](2011/07/02 00:00)
[7] 世界線x.091015 「暁美ほむら」[かっこう](2011/08/12 02:35)
[8] 世界線x.091015 「休み時間」[かっこう](2011/07/10 22:08)
[9] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女①[かっこう](2011/07/19 07:43)
[10] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女②[かっこう](2011/07/26 14:17)
[11] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女③[かっこう](2011/08/12 02:04)
[12] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女④[かっこう](2011/09/08 01:26)
[13] 世界線x.091015→χ世界線0.091015 「ユウリ」[かっこう](2011/09/08 01:29)
[14] 世界線x.091015→χ世界線0.091015 「休憩」[かっこう](2011/09/22 23:53)
[15] χ世界線0.091015「魔法少女」[かっこう](2011/10/29 00:06)
[16] χ世界線0.091015 「キュウべえ」 注;読み飛ばし推奨 独自考察有り[かっこう](2011/10/15 13:51)
[17] χ世界線0.091015 「アトラクタフィールド」[かっこう](2011/11/18 00:25)
[18] χ世界線0.091015 「最初の分岐点」[かっこう](2011/12/09 22:13)
[19] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」①[かっこう](2012/01/10 13:57)
[20] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」②[かっこう](2011/12/18 22:44)
[21] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」③[かっこう](2012/01/14 00:58)
[22] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」④[かっこう](2012/03/02 18:32)
[23] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑤[かっこう](2012/03/02 19:08)
[24] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑥[かっこう](2012/05/08 15:21)
[25] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑦[かっこう](2012/05/10 23:33)
[26] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 前半」[かっこう](2012/06/07 20:57)
[27] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 後半1」[かっこう](2012/08/28 00:00)
[28] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 後編2」[かっこう](2012/11/14 00:47)
[29] χ世界線0.091015 「分岐点2」[かっこう](2013/01/26 00:36)
[30] χ世界線0.091015「■■■■■」[かっこう](2013/05/31 23:47)
[31] χ世界戦0.091015 「オペレーション・フミトビョルグ」[かっこう](2013/12/06 00:16)
[32] χ世界戦0.091015 「会合 加速」[かっこう](2014/05/05 11:10)
[33] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;佐倉杏子編』[かっこう](2012/08/06 22:26)
[34] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;暴走小町編』[かっこう](2013/04/19 01:12)
[35] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;暴走小町編』2[かっこう](2013/07/30 00:00)
[36] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;巴マミ編』[かっこう](2014/05/05 11:11)
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[28390] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 前半」
Name: かっこう◆7172c748 ID:3f6e4993 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/07 20:57




すべては偶然だ
だがその偶然は、あらかじめ決められていた世界の意思でもあった
俺はイカれてなどいない。いたって正常だ
ここでは真実を語っているんであって、断じて厨二病の妄想なんかじゃない
・・・・・・きっかけはほんの些細なことだとしても
それが、未来の大きな流れを決定付けてしまうことがある
バタフライ効果という言葉を知っているか?
知らないなら調べるのだ
それぐらいの慎重さが求められているのだということを理解しろ
残念ながら俺は慎重じゃなかった
自分の愚かさを知っていたらこんな事にはならなかった
現在を、こんな形にしてしまうこともなかった
だが、分かるはずがないだろう?
何気ない自分の選択に、すべての運命を決定付けるような、重大な分岐点のスイッチが握られているなんていうことは、分かるはずがないんだ
考えてもみるがいい
普段の人間の知覚は99%が遮断されている
人は自分が思っている以上に愚鈍な生き物なんだよ
普段の生活の中に埋もれている何気ないことなど気にも留めないし、知覚してもすぐに忘れるか、脳が処理をしないかのどちらかなんだ
あのときの俺に言ってやりたい
迂闊なことをするなと
軽率なことをするなと
見て見ぬフリをするなと
もっと注意を払えと
陰謀の魔の手は、思った以上にずっと身近にあって、いつでもお前を陥れようと手ぐすね引いているのだと・・・・・!









「絶対に~離さない繋いだ手は~~♪」

俺はそれを知っていたはずなのに・・・・、どうしてこうなった・・・・

「こんなにほらっ 暖かいんだっヒトの作る温もりは~♪」

俺はガンバム・・・・・・いや、ガンダムにはなれないのか・・・
どこで間違えたんだろう、どこで間違えてしまったんだろう
気づいていたはずなのに、気づかない振りをしていたからか

「いっぱい食べてね、た~くさんあるからね!」
「あ、ああ・・・・その、まどか」
「ん~なに~?」

上機嫌にまどかが鼻歌を歌いながら料理(?)をしている・・・・・。
ごりごりと、残り物をすべて一つの鍋に集め、そこにフラクタル構造的な“何か”を投入し混ぜる。
ごりごりと、残った材料の寄せ集め、野菜の切れ端や残ったご飯、お菓子の食い残し・・・・しかし次第に聞こえてくる音は何故か――――ちゃぷちゃぷ、と。

「いや・・・・なんでもない」
「そう?よ~しっ、だいぶ液体になってきたよ」

昨日はあんなに恐ろしい体験をした彼女があんなにも・・・・・だから嬉しそうなまどかに「いらない」の一言がどうしても言えない。
タプンタプン、と粘り気のある音が聞こえてくる・・・・・・・・・・・・・え?液体?
ごりごりと胡麻をするように動かしていたまどかの腕は気づけばオールでカヌーを漕ぐような動きにシフトしていた。

「~~~♪」

一つ・・・・言っておきたい。俺はまどかから視線を逸らしていない。つまり一瞬で鍋の中身は液体へと・・・・・・・わぁ・・・・・・・わあっ!!?
ビーフシチューを作ってくれたユウリは調理の手際が良く材料の無駄を極端に減らし本当に僅かばかりの野菜の切れ端しか残っていなかったのだ。それだって明日のご飯に・・・・・・・

(なのになぜ・・・・あの鍋からは“琥珀色”の粘液が今にも零れそうになるほど溢れているのだ?)

「よ~しっ『芋サイダー』完成!」
「\(゜ロ\)(/ロ゜)/!!?」

いつの間にか世界線が変わった!?どうして琥珀色のそれが完成するのだ!?・・・・・いやまて諦めるな、俺は狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真!そう、たかが少女の手料理一つ・・・・・・いやいやまてこれ料理じゃないよ錬金術や超融合っぽい何かだよ・・・・・助けてシュタインズ・ゲート・・・・

「・・・・・」

周りに視線を向ければ全員から視線を逸らされた。ラボの長である人間に全てを押し付け・・・・委ねているようだ。
しかしユウリやマミはともかく、さやかやほむらは率先して召し上がるべきではないのだろうか?お前達の大好きなまどかの手料理だぞ・・・・・・負担を減らすべきだろう。それにほら、芋サイダーは最初こそ万年補欠の野球部員みたいな心境になるけど数時間後はホームラン王(ただしバッティングセンターで)のように体調がよくなる不思議ドリンクであって初撃を防ぎ切れればあとは割と飲み込めるのであの鍋なら一人当たり一リットルをめどに呑めば世界は新たな変革へと導かれて――――

「あとは芋サイダーをフルーツと合わせれば完璧だね」
「「「お待ちを!!?」」」
『まどか・・・・君は神になるつもりかい?』

ガタガタッ、と皆が座布団に下ろしていた腰を上げて静止の声をかける。

「ふふ、芋サイダーの材料が何か知っているかなオカリン?」

まどかが自慢するように問うが正直聞きたくないし知りたくない・・・・・・・あれって自宅で作っているらしいが主成分はなんだろうか?
ミスター・カナメは家庭菜園でいろんな・・・・・いやいやまさか?

「鹿目夫妻に電話しないとな・・・・」

構成素材を全て処分してもらおう・・・・・もちろん今夜生き残れたらだが、さやかとほむらも同じ考えなのか力強く頷いている。
ムッ、としたまどかが何故か豆腐のようにプルプルしている何か(きっと芋サイダーの進化した姿)をお皿に乗せたまま電子レンジでチンする。乗せただけだ、ラップといった蓋も何もない・・・・・・・・・・・・・時間は三分。

「お礼はパパじゃなくて私にしてよねオカリンっ、料理を教えてくれたのはパパだけど作ったのは私なんだからね?」

・・・・願わくば、あの電子レンジはそのまま電話レンジへと変わり“何か”を原材料まで戻してくれないだろうかと心から祈る。いっそゲル化してほしい。それならば味を無視して流し込めばいいのだから。
あとな、まどか・・・・・・お礼はないよ。謝罪を求め・・・・・いや分かっている、きっとミスター・カナメも尽力したのだろう、だけど・・・・・ちくしょう!


「ティヒヒッ、今のオカリンっていつもより近くにいる感じがしていいよね、ずっとこのままならいいのに」


まどかは嬉しそうに岡部の横に座り“少年の腕”を取る。
それが無意識なのかは分からない。ただ彼女が上機嫌なのは誰が見ても分かる。
ニコニコと、笑顔を向けるまどかに岡部倫太郎は苦笑いするしかなかった。

チン

「あ、できた!ガングニール」
「「「「それ料理名!?」」」」

叫ぶが・・・・できあがってしまった物体を目前に岡部は逃走抵抗といった選択肢はない。食べるという選択以外に存在しない。
それはつまり選択ではなく運命、定められた決定、選べない、自由ではないということだ。

自由とは英語でフリーダム・・・・・そう、皆の知っての通りガンダムだ。

そして選択という自由を持たない俺はガンダムではない。だが、それでも――――

(俺は・・・・ガンダムだ!)

震える手にまどかからスプーンを持たされて目の前の四角い黒い(白さはどこかにいった)物体に挑む。
今の俺はガンダムだと、未来を切り開くのだと鼓舞する。
これは俺が選んだんだ。笑顔のまどかを裏切らないために俺が選んだ選択。決してコレしか道が無かったわけじゃない。
そう思う、そう心を強くもとうとするんだ。
逃げることも抗うこともできるにもかかわらず挑み・・・戦うことを選んだ。つまり自由意志からこの選択を・・・・・・自分で選んだんだ。

と、岡部は己を鼓舞する。そうすることで死亡フラグという運命を覆せるように。
そして“何か”を舌に極力触れないように食していく。

「ッ!?」

冷汗は止まらず目は真っ直ぐに前をむき続ける。“何か”を直視しないようにただただスプーンを動かす。
岡部は気づいていない。“何か”を一口飲みこんで以降「俺がガンダムだ・・・・俺はガンダムだ・・・・・」と呟きながら皆が見守るなかスプーンを“何か”に突き刺し口に運ぶ姿は既に重度の疾患を抱え込んだそれで、その瞳は光を失い完全に死んでいた。
どうしてこうなったか・・・・もう誰にも分からない。
ユウリやほむら、マミは想像もしなかった。
さやかは――――岡部がまどかに責められてまどママに肋骨を砕かれ悶えると予想していた。そう思っていた。だけど違った。何故かこうなった。
岡部の横で微笑むまどか、ひたすら“何か”を口に運び「ガンダム・・・ガンダム・・・」と呟く岡部。
皿の中身が残りわずかになれば追加の“何か”を乗せるまどかにキュウべえは顔を背ける。

「いっぱい食べてくれて嬉しいよオカリン!」
「ガンダムだ・・・・俺がガンダムだ・・」
「まだいっぱいあるよ。どうする?」
「俺は・・・・ガンダムだ!」
「そっかー、喜んでもらって嬉しいかも」
『おや・・・・・会話が成り立っていると言うのかい?』

感情を持たない宇宙生物が不思議そうに首を傾げるが違う。
人は極度の幸福や恐怖に陥ったときに自己に都合のいい解釈をする。良くも悪くも。

「あ、このままじゃみんなの分が無くなっちゃう・・・」
「「「「え!?ううん気にしないで沢山食べてもらうといいよ!!」」」」

まどかの言葉に背筋が凍る感覚がした一同は世界の歪みを岡部に託した。

「そう?じゃあオカリン沢山食べてね?」
「俺が・・・、俺達が・・・・ガンダムだ!」
「うんうん!あ、お水飲む?」

かいがいしく世話を焼くまどかのなすがままにダークマターを口に運ぶ岡部。岡部の言葉に何故か責められた感じがして顔を背ける一同。
本当にどうしてこうなったのか、どこで選択を間違えたのか。今日の岡部の行動結果は本来なら今に結びつかない。さやかと岡部の経験上絶対にだ。一体何が原因だったのか・・・・・・


これがシュタインズ・ゲートの選択なのか


今はただ、岡部の“何か”を食べる音だけがラボに響いていた。








χ世界線0.091015



数時間前 見滝原中学一階廊下


『つまりM07号『確率事象干渉方陣【コンティニュアムシフト】』は製作自体は可能ということかな?』
「知識と経験はあるから製作は出来る・・・・・問題は資金と場所と時間だな」
『お金が足りなくてラボじゃ狭くて君一人じゃ時間が掛かる?』
「ああ、あれは座標固定が難しいというわけではない。同じ時間帯への跳躍だから地球の自転等の細かいズレはほぼ気にしないでいい・・・そこはかなり高度な演算システムが必要だったタイムマシンとは違う・・・お前達インキュベーターの共通認識を利用すれば全て事足りる。問題は可能性世界線を強制的に・・・・場合によっては世界線の移動という危険もあったがこの世界特有のイレギュラーを利用することで問題無く運用できる」
『この世界のイレギュラー・・・君は本当に他の世界を知っているのかい?』
「昨日も言ったが俺は別の世界線・・・・アトラクタフィールドから来た」
『アトラクタフィールド理論。確かに面白い解釈なんだけど矛盾があるよね』
「ふむ、聞かせてもらおうか・・・・いつそれに気づいた?」
『ほんとは昨日の時点で問うべきだったんだけどね、君の話は興味深くてつい聞きそびれちゃったよ』
「ほう、その態度はこの俺の話が間違っていると言いたいらしいな」
『そう気を悪くしないでくれよ鳳凰院凶真』
「まあ、お前なら当然気づくとは思っていたが・・・・」
『つまり君は自身の解釈に矛盾があると理解しているわけだ』
「ああ、アトラクタフィールド理論をそのまま定義した場合、お前達インキュベーターが魔法少女の祈り願いを叶えた瞬間世界線が移動するはずだ」
『全部とは言わないけどその可能性はあるよね。彼女達の願いは世界の常識を覆す。君の言葉で言うなら世界の定めた運命を否定する』
「ああ、例えば『失った体の一部を完全修復』と言った願いを叶えた場合『失った人生』の世界線から『失わなかった人生』の世界線に移動すると思ったんだがな・・・・厳密に過去を改変したわけではないが世界の常識、現在を変えたんだ。失ったモノ、無いものをギガロマニアックスの様な一時的な妄想ではなく確かな現実として再構築している。“失ったはずなのに失っていない”。その矛盾を世界が許容している・・・・世界線を移動することなくだ。これは魔法が存在するが故の世界の処置なのか・・・・あるいは『魔法のある世界』にとってその願いは世界で許容できる範囲・・・・?それとも願いそのものが世界の決定事項なのか?しかしそれではエントロピーを・・・・・・いや、そうでなければ俺は世界を騙すことで紅莉栖を・・・・・・・・・そういえば空間移動の使える魔法少女も四号機で世界を欺くのも同様に・・・・・・」

魔法少女の契約の祈りはエントロピーを超える。常識を覆す。不可能を可能にする。世界の決定を覆す。
世界がそれを許容するなら、それはその時点で世界は変わるはず・・・可能な限りの矛盾を修正して結果、それ(願いの内容)が当然の世界へと再構築するのではないのか?
牧瀬紅栗栖がラジ館で死んでいない世界のように
桐生萌花がIBN5100の所在を知っている世界のように
漆原るかが女の子の世界のように
秋葉留美穂の父親が生きている世界のように
阿万音鈴羽を呼び止めた世界のように
もっとも、アトラクタフィールド理論が全て事象に対応できるわけではない事は実際に岡部自身が証明しているので―――――

『でも世界線の移動を知覚できなかったんだよね、リーディング・シュタイナーという君の特殊能力は、もっともそれがホントにあったらだけどね?』
「キュウべぇ・・・・・・なにがいいたい」
『君が昨日教えてくれた暁美ほむらへの対応の中にあった台詞、たしか・・・・・・厨二病乙っ』
「いい度胸だ不思議生命体・・・・!カイトウシテカイバニデンキョクヲブッサシテヤロウ―――」

最初の授業が終わりかけてきた見滝原中学校の廊下を歩きながら岡部とキュウべぇはFGMについて語り合っていた。が、次第に岡部の語るアトラクタフィールド理論の矛盾についての論議に移り『実際に経験してきた科学者』と『最古から最新の情報を持っている探究者』、そこに『常識を覆す奇跡』の存在が間に入り納得も興味も大いに引くがいかんせん、互いの認識が亀裂を生む。
しかし岡部はこの時間を楽しんでいた。未だにこの世界には謎が多く残っている。感情を取り戻した岡部にとって新たな謎による知的好奇心は精神高揚に繋がり、それが結果的にまどか達ラボメンを救う新たな発見にも繋がる。
何より純粋に思考実験を誰かと繰り広げることに、切羽詰まった環境でないまま行えるのは実に楽しく嬉しいと感じていた。
いつかの、あの頃のように純粋な興味をもって取り組めることは幸いだ。誰だって興味のある事や好きなことをするのは楽しいだろう。岡部はこの世界での趣味(未来ガジェットの開発研究など)を結果的に見れば皆の役に立つものとして得たのかもしれない。


「ふむ・・・、お前には脳と言う器官がはたしてあるのだろうか?」
『知りたいからって解体や解剖はしないでほしいな』
「しないさ、お前はすでにラボメンだ。俺はもう仲間を失いたくない」
『おや、君は僕が――――』
「目の前にいるお前が・・・・・俺の仲間で、そしてラボメン№03だ。憶えておけキュウべぇ、ラボメン№03はお前だけだ」
『うーん、それは非効率的な考えじゃないかな?コンティニュアムシフトの座標固定には僕達の共通意識を利用するんだろ?ここにいる僕がラボメンなら他の僕もラボメンじゃないかな』



―――これが、感情というものなら・・・・・・・っ、僕はいらない、こんなものはいらない!



「・・・・・・」

キュウべぇの言葉に、こことは別の世界線で共にいたキュウべぇとの記憶が脳裏をかすめる。
それは岡部の――――――――・・・・・。

「それでも俺はお前と・・・・・・もう一度、何度だって仲間になりたいよ」

体の真ん中を、心を砕くような痛みに顔を歪めながら、岡部は自身の頭の上で寝そべっている白い魔法の使者の事を思う。
誰にも理解されず、ただひたすら関わった者の絶望を観測し続けることでいつか世界を救おうと・・・・・きっと永遠にそれを繰り返す仲間が、それを悲しいとも思えない友の事を――――――――

『どうかしたのかい?』
「いや・・・、今はまだ大丈夫だ」
『?』
「なに、全てに片を付けて――――それからさ」
『訳が分からないよ』





岡部は思考を切り替え確認する。
過去を改変すれば現在が変わる。それは確かだ。それは観測済みだ。
そして定められた運命を覆しても世界は変わる。たとえ世界が騙され、勘違いでも世界は修正するはずだ。

美国織莉子と呉キリカと始めて戦った世界線で一瞬だが岡部は確かに『殺せない筈の■■ ■■■の死』を観測していた。その世界線は移動したように思える。観たんじゃない、感じた・・・・だから確証はない。
しかし織莉子に聞いた話ではその可能性はあったらしい、実現できれば世界線を移動した可能性があると。だから彼女は・・・・・。
だが、それならやはりおかしい。似たような事は多々あった・・・・・なぜ移動しない?美樹さやかや千歳ゆまの契約時リーディング・シュタイナーは発動しなかった。治せない筈の上条の腕は治った。絶命寸前の杏子は全快した。普通は不可能なことを・・・奇跡を起こした。本来の世界ではありえないはずのそれ、世界は矛盾を許さない、それを許容するには過去から現在までを再構築するのではないのか?それともリーディング・シュタイナーが発動しない、知覚できない程度の変化だったのか?世界にとって彼女達の願いの原因は“どちらでもよかった”ものだったのか?
それとも魔法少女は・・・・魔法少女だから世界は干渉できないのか?そもそも世界の理に抗う存在だ、否定は出来ない。契約した時点で魔法少女、しかし因果の量で干渉できる範囲は決まるなら逆に―――――魔女の結界は世界から切り離されている。それはつまり一時的とはいえ世界から消えている・・・・世界の定めた運命からその時は逃れているのか?現に殺せない筈の■■■は結界内で・・・・・一般人も含まれているぞ?魔法少女じゃないものが世界の決定から・・・・・・・・やはりズレがある。そもそも過去改変は確実におこっているのだから――――


『さっきのは君が教えてくれた対応だよ?しっかりと実践しているというのに酷いじゃないか』
「それは対ほむほむ用であって俺には関係ない、そもそも俺は厨二病ではない。なぜなら俺は正真正銘のマッドサイエンティストだからな」
『イタイ人、邪気眼と呼ばれる人を厨二病と呼ぶんじゃないのかい?』
「純粋に言われると割とくるものがあるなぁ・・・・・・・・」

頭の上にいたキュウべぇにアイアンクローをかけながらループし始めた思考を一時遮断し頭をクリアに持っていく。この議論はこれまでの世界線漂流で何度もやってきていて答えが出てこない。『メタルうーぱ』がまだない以上キュウべぇの答えに変化はない・・・・・はず。それでも嬉々として話してしまうのは何かを期待しているのか、それとも暇つぶしか、楽しんでいる以上それはないのかもしれないが――――

「オーカリンセンッセ!」
「ん・・・・・哀戦士?」
「とうっ」
「ぬお!?」

声に振り向けば正面からキリカが抱きついてきた。貧弱ゆえに倒れそうになるがそこは男の意地、ふらつきながらもキリカを抱きとめる岡部、頭の上にいたキュウべぇは前足をばたつかせ、崩れたバランスを取り戻そうと必死に悶えている。

「おはようオカリン先生!貴方の一番の生徒愛戦士呉キリカだ!今日も最初に出会えて嬉しいよ、どうやら今日の私は幸先が良いらしい!」
「ええいっ、人前で抱きついてくるな!ん・・・おい授業はどうした!?」

あと、ここはガラス張りの校舎だ。周りを見渡せば生徒や教師が幾人視線を向けている・・・・いまのやりとりはもちろん、つまりさっきまでのやり取りを見られていた可能性もある。周りから見れば岡部はただの独り言をベラベラと喋っているイタイ人そのもので若干・・・否、かなりへこむ。
そして昨日のように正面から首に腕を回し抱きついてくるキリカの女性特有の柔らかい感触と甘い菓子のような香りに―――――

――――――■■■

また、右腕の呪いが僅かに反応したのを感じた。それは一瞬で収まり何事もなかったかのように沈黙する。

「」

油断した。この世界線に辿りついて三日目の朝、その時点ですでにラボメンが№06まで揃っていてマミを迎えれば07の席も・・・・・キリカ、織莉子ともこのままいけば片翼も得られる。気を抜きすぎていたのかもしれない。緩んでいたのかもしれない。だからまた・・・・いつものように時間を奪われた。
今のところ呪いを解く方法がない。なら岡部はいつか飲み込まれる。あの『通り過ぎた世界線』のように確実に別れが来る。引き返せない、それを知っていてグリーフシードでNDを起動した。
呪いは岡部の感情に反応し、それを糧として成長する。だから今後使用を控えても必ず別れは来る。事故でも事件でもなく、使用した時点で岡部の人生は決して長くはない。
そして呪いを背負う身では―――――

「ねぇオカリン先生」
「なんだ・・・・哀戦士よ、言っておくが遅刻やサボりの弁護はできんぞ。あと離れろ」
「い・や・だ!そうじゃなくてさー」

抱きついたまま、岡部の首にぶら下がったまま、キリカの左手が岡部の右腕に手を伸ばす。呪われたその腕を、自身の手を皿にして岡部の手を上に乗せるように優しく、すくい上げるように、貴重品を壊さないように丁寧に。

「哀戦士・・・・?」
「“これ”、切り落としてあげようか?」


―――――――ゾッ


「な・・・・に?」
「なーんか嫌な感じがするんだよね~。私はもうオカリン先生がなんであれ気にしない事にしたけど・・・・・これってやっぱマズイものなの?ならさ・・・ぶった切った方がいいと思ってさ」

冷や汗が背中を流れる。彼女は本気で言っている。“これ”とは明らかに呪いの事だろう。なぜ知っているのか、織莉子からの情報提供か、勘や気配か、どちらにしても岡部の返答次第で躊躇わず“これ”を切り落とすつもりだ。
白衣の袖口からスルスルと左手を差しこむキリカ、岡部は優しく肌を撫でる感触に別の意味で背筋が震える。
殺気は感じない、殺意はない、それでも震えてしまう。恐怖と快感、どちらも表に出してはいけない感情、呪いが反応してしまう。

「くふっ、ビクッて震えたよオカリン先生・・・・・興奮しちゃった?」

岡部と視線を合わせてキリカは微笑む、キリカの左手はそのまま岡部の右腕をなぞるように体の中心を目指し這い上がっていく。
吐息が伝わる距離で此方を見上げるキリカに、岡部は右腕の呪いが知られた事、意識してしまった・・・・キリカに対し一つ感情を抱いた。

「調子に乗るな哀戦士」

ぶすっ☆

「ふぎゃあああああああ!!?」

どうしてこの娘はいちいちエロいんだろうか?という呆れと、年下の娘にからかわれてからの怒りが・・・・・この場合二つの感情か。“そう思うことにした”。そうしなければならない、そうするしかないと知っていて呪いを背負ったのだから。
割と深めの目潰しにさすがのキリカも廊下で目を押さえながら悶えている。基本的に服装は左右非対称な出で立ちのキリカだが下着は普通なんだと岡部は感情を極力抑えながら思考した。
ついでにガラスの向こう側で此方を見守っていた生徒と教師に片手を振って何でもないとジェスチャーで伝えると彼等は納得したのか授業に戻る。納得したのか、それともこれがいつもの日常なのか、興味がないのか、この世界線でのやりとりは完全に把握できていない。しかし苦笑するように笑みを見せる彼等はやはりいつもの彼らなのだろう。


岡部倫太郎では助けきれない『彼女』を助けきれる彼らなのだろう。


「何をするんだオカリン先生!せっかく現役女子中学生がセクハラしてあげたのに!」
「自覚ありかこのHENTAI少女!悪いことは言わんから少しは改善しろっ」
「なんでさっ、オカリン先生が喜ぶと思ってサービスしたのに・・・・・嬉しくなかった?感触を楽しんでもらえるように一応ノーブ―――――」
「黙れ」

ぶすっ☆

「のぎゃああああああ!!?」

キリカの不適切な発言に、防音に関してはかなりの性能を持つ見滝原中学校の壁にもかかわらず多くの生徒と教師が再び岡部達に注目する。

「風紀の乱れが多いと聞くが・・・・・原因は未来ガジェットではなくお前か」
「うう・・・でもねオカリン先生、他の子は喜んでくれてるよ?だからこれもまた―――」
「ちょっと待て、いやまさかお前はノー・・・・・・その状態で他の奴にも抱きついているのか!?」
「安心してくれオカリン先生、今のところは織莉子とオカリン先生だけだ。他の子には話だけで意識だけしてもらっている・・・・ちなみにそんな私をちらちらと見詰める思春期の少年少女の視線を感じてゾクゾクするのが最近の私の日課だ」
「見つけたぞ風紀の乱れ――――貴様がその元凶かぁ!」
「やだなぁもう冗談だよオカリン先生、そんな不快な視線を向けてきた奴には相応の罰を与えるよ」
「お前は・・・・そんな意味もなく下ネタにはしる奴だったか?」
「何を言うんだオカリン先生っ、世界の半分はエロでできているとバファリンも日本中に宣伝していたではないか。私の場合は不特定多数の人間にも青春を送ってもらいたいと思う博愛精神、そうこれはアガペーだよ!風紀という言葉に行動を起こせない者達のために私は戦う、そしてそこから得るエロい精神・・・!中学生男子なら誰だって気になるし女子だって少なからず意識し先生達だって幼い私達の肢体に欲情する人はいる・・・・・皆に青春特有の精神性を謳歌してもらうために私は体を張ったプレイに興じているのだ!それを間違っているのだと非難するならば、間違っているのは私じゃない・・・・・世界の方だ!」
「バファリンはそんな卑猥な事を宣伝していないしここの教師に対する誤解は解け、あとそれはお前のエゴであって世界は関係ない」
「オカリン先生、世界とは・・・・・・・・一体何だろうか」
「む?」

急にキリカが哲学的な事を語りだす。

「この世界は人によって見え方が違う。人それぞれの主観によって幸福に包まれている世界にも絶望に満たされている世界にも見える、または楽しい世界つまらない世界と・・・世界の数はまさに選別差別!」
「千差万別」
「千差万別!つまりその人にとっての世界はその人が観測した世界が世界であってその世界こそが本当の意味で世界なのだっ」
「うん・・・・?言ってることは何となく分かるような・・・まあ観測者しだいで世界の見え方は変わるな・・・」
「その人がいなくなれば観測者を失った世界は消える。その世界はその人のモノだから、その人しか観測していないのだから・・・・その人が死んじゃったら世界は死ぬ、世界が死んじゃったら当然その人も死んじゃう・・・・・生きるには世界が必要だから、つまり世界と観測者は一心同体!」
「つまりお前は――――」
「私=世界!つまり私の意思は世界の意思!私の想いは世界の想い!私の意思、私の想い、私の考えは――――世界の声だ!そう世界はエロで満たされているんだよオカリン先生!」
「ああ・・・・こんだけ引っ張ってそこに着陸するのか・・・」

見直そうとしてガッカリした・・・・・

「ちなみにノーブラはフェイクだよ!以前織莉子に思いっっっっっきり怒られたからね!」
「ああ・・・そうか・・」
「はははっ、あからさまにガッカリしないでくれオカリン先生!なにオカリン先生のためなら、そして織莉子との三人の未来のためならば私は一肌脱ごうじゃないか!そうっ、文字通りに今ここで―――!!」

ぶすっ☆

「めぎゃあああああああああああ!!?」

それとは別に安心していた。此処までやられて反撃にでない。ならこの世界線では織莉子は“アレ”を観測していないのだろう。
“あの世界線”以降も岡部は織莉子達と出会った世界線はある。ほとんどが魔法とは関係のない一般人だったが既に魔法少女だった世界線もあった。その全てで戦った。戦い失い、ときに手を組み支えあった。

「うう、酷いじゃないかオカリン先生ぇ・・・・っ、幼い女子中学生の私に何度も突っ込むなんて・・・・・初めてだったのに!」
「卑猥な言い方をするな!」
「織莉子に言いつけてやる!オカリン先生にニ穴同時に――――」

ぶすっ☆

「にゃぎゃああああああああ!!?」

出会った全ての世界線で戦った。あの通り過ぎた世界線のように殺し合い、意見のすれ違いや誤解から始まった戦闘、最初から手を取り合うことのできる世界線はなかった。だからもしかしたらこの世界線でもいつか戦うのかもしれない。

~~~~~~~~♪

「ん?」
「おおおおぉおおう・・・・・っ」

だけど、ここはそうじゃないかもしれない。そう思っていると携帯の着信音。キリカが地面で悶えながらスカートから携帯を取り出す。

「いじわるっ、オカリン先生はいじわるだ~っ」
「いつまでも這いつくばっていないでさっさと立て」
「誰のせいで足腰が立たないと持っているの?」
「自業自得だ」
「男はいつもそう言う・・・・男女平等なんて嘘だっ」

廊下に横になったまま不貞腐れるように電話に出る女子中学生がいた。そしてそれを上から見下ろす講師・・・・・なぜだろう酷く犯罪染みている。しかも訴えられるのは、非難されるのは間違いなく自分だ、逆の立場でもそれはきっと変わらない、変態として扱われるような気がする。確かに男女平等なんて嘘だ。

「あ、織莉子?うう・・・・聞いてよオカリン先生が酷いんだよぉ」
「む、織莉子か?丁度いい哀戦士よ電話を―――」
「なにが酷いって親切で接してきた私に無理矢理・・・・!それも何度も何度もだよ?こんなことされたのは・・・うう、初めてだったのに・・・うん?どういうことかって?文字通りだよ織莉子、私はオカリン先生に二つの穴を同時に突かれてっ・・・それも四回もだよ!?どんなに叫んでもオカリン先生は私に―――――・・・・・おやおや織莉子何を勘違いしているのかなぁ?え、私はそんなこと一言も言っていないよ?織莉子はエッチだったんだね・・・・・いやいやまさかそんなふふふふふふふふふ―――――」
「いじめるな」

ぶすっ☆

「ほぎゃあああああああ!!?」

五回目の目潰しにキリカは再び絶叫。岡部は携帯を強奪し電話の向こうで泣きべそをかいている織莉子にこの世界線で初めての言葉を贈る。約束したあの世界線の織莉子とは違うけど大切な少女、未来視の魔眼を持つ魔法少女、岡部倫太郎が鳳凰院凶真を取り戻すきっかけとなった少女、美国織莉子。

「織莉子、変態にはとりあえず罰を与えたから・・・・その、泣きやんでくれ」
≪うう・・・・・っ、最初の会話がこんなになっちゃうなんて酷い・・・ってもしかして倫太郎さん!?そ・・・そんな、まさかファーストコンタクトが・・・こんなことだなんて・・・・っ≫
「ああ・・・・俺もそう思うよ」

まどか達同様に幸せになってほしい少女との最初の会話がまさかこんな変態に関することになるとは夢にも思わなかった。






まどか達の教室



「ふぅ、幸せ」
「いや・・・・ほむら、そろそろ勘弁して――――」
「ううん、大丈夫だよ美樹さん。私はまだまだ大丈夫だよ」
「あんたはね!いやでもずっと腕組んでると――――」
「いや・・・・なの?」
「むぐ!?」

ほむらの潤んだ瞳に言葉を紡ぐことができないさやかはまどかに視線を送るが――――「ん?」と、別段気にしていないようだ。
一時限目の授業は自習だった。担当の教師がなんでも廊下でトラップ型の未来ガジェットを起動させてしまい現在保健室にて療養中。中沢君は保健室で土下座していることだろう。

「しっかし・・・・・相変わらずだよねこのクラス」
「うん・・・・こんなの初めて」
「転校二日目にしてこれじゃあビックリするよね」
「ううん、まどか・・・そうじゃなくてクラスのみんなが――――私・・・・今まで何を見てきたのかなって、みんなのこと全然知らなかったんだなって」
「今まで入院してたんだから当たり前じゃん、それに昨日転校してきたばっかりなんだからさ」
「うん・・・・・そうだね・・・・・そうだよね」
「ほむらちゃん?」

さやかとまどかと腕を組んで幸せを噛みしめていたほむらは目の前の光景に目を奪われていた。今までの繰り返しのループのなかでこれほどクラスの人間に意識を向けた事はなかった。だからか、今まで知らなかった彼等の一面を見てほむらは―――――――呆れた。

「つまるところ『ショタリン』と『ヒキリン』の違いはまどか嬢にとっては関係ない!何故なら――――」
「異議あり!私はそうは思わない、だってそうでしょう?『ショタリン』なら一緒に学校にもいける。一緒によ!?それは人生で一度しかない中学生活の―――」
「まてよそれなら『ヒキリン』のほうがずっと一緒にいられるんじゃないか?だって実質監禁・・・・じゃなくて現在位置は常に変わることがないうえに外に出歩かないのだからイベントも起きない、つまり鹿目はずっと独占して―――」
「どうかな、あの人の性格もだけどまどかも外でやりたいことは沢山あるだろうから家の中だけってのは現実的じゃないと思う」
「でも『ショタリン』じゃ今以上にエンカウント率があがるんじゃないか?」
「それはほら・・・鹿目が傍にいれば―――」
「傍に・・・いれば・・・・?」
「あれ・・・・先生が死んじゃったぞ?」
「う~ん、有罪無罪に関係なくやられている『ショタリン』を簡単に思い浮かべることができるな・・・・」


「「「「「不思議だなー」」」」」


不思議なのはこっちだ。と、ほむらは思った。貴方達はそんな生徒だったか?そんなにはっちゃけていたか?ホワイトボードの前でそれぞれの熱い意見を繰り出し『ショタリン』『ヒキリン』という謎ワードに積極的に取り組む様なチームワークを持っていたのか?
ホワイトボートには謎の数式や暗号に英単語、各シチュエーションでの過程と結果の予想などがフローチャート形式にビッシリと書き込まれている。

「―――でだ・・・・・結局『ショタリン』『ヒキリン』ってのはなんなんだ?」
「知らんけど?」
「誰か知ってる?」

知らないで熱弁してたんだ・・・・・と、ほむらは思った。

「・・・・・・・さあ?」
「何だろうね?」
「勢いでここまできたけど数式とか図形はどういった話し合いで出てきたんだ?」
「憶えてないよ~」
「わたし・・・も・・・」
「俺もだ」
「実にchaosな時間だったなぁ」
「私達の三十分にもわたる熱弁は何だったのかしらね・・・・・・」
「きっと逆転裁判をみんなでプレイしたせいだな」
「もう・・・・ちょっとした単語で盛り上がれるようになっちゃったね」
「そうだな・・・・ペペロンチーノを■■い何かだと無理矢理思いこんでディベートを行えるようになったからなぁ俺達」
「しかもペペロンチーノは“モロ”か“きわどい”かという訳の分かんない内容だったよね」
「まさか三時間ぶっ続けで語り合うとは思わなかったよ・・・」
「しかも最後は『ハンバーガーの厚さって昔と比べて薄くなったよね?』って話題に変わっていたし・・・」
「放課後・・・・夜遅くまで何を語っていたんだろうな」
「全然気づかなかったしね・・・・・」
「で?今は何の話だっけ」
「鳳凰院先生への処遇を決めるんじゃなかったか?」
「ああ、それで『ショタリン』『ヒキリン』の単語をまどかさんが出したんだっけ・・・・・」

「「「「「「で、どっちがいい?」」」」」」

「う~ん、私は『ショタリン』押しかな」

まどかの言葉に全員が岡部の冥福を・・・・・・・彼等は一応『ショタリン』なるものがなんなのか分かっていない。正確には理解していないが命名からなんとなく察しはしているので大まかであやふやな想像で脳内保管しまどかの要望を受け止める。
もっとも奇跡や魔法でもなければそれは実現不可能なので気持だけ受け止めておく事にした。というか飽きてきていた。また、これ以上踏み込んだら何かよからぬことが起きそうなのでやめた。

「じゃあ先生は『ショタリン』の刑で決まりってことで」
「おつかれ~」
「「「乙!」」」

ホワイトボードに書かれていた記号や数式を消し彼等はまばらに散っていく。そして何事もなかったかのように別の話題へと移っていった。
ほむらは思う。彼らのやり取りはこうだっただろうか?・・・・・憶えていない。記憶を失ったわけじゃない、まったく憶えていないわけじゃない。ただ、彼らとのやり取りを、思い出を記憶する必要がないと、彼らとの付き合いは余計な寄り道だと・・・・・少なからずそう思って過ごしてきた。

「だから・・・かな」

こうやって意味もなく騒いでいる彼等が初めて出会う人達に見える。バカみたいに大声で喋る彼等に・・・・呆れるような意見しか出せない彼等が眩しく見える。

「いいなぁ・・・」

魔法を失って、戦うことができなくなって、強い自分を失って、弱い自分を取り戻して・・・・・・初めて彼等が見えた。
楽しそうだ。馬鹿みたいに騒いで、何でもない話で盛り上がって、誰もが笑っていて、失わないまま過ごしている。

「私も・・・」

あのなかに入ることができるだろうか?いまさら・・・・・今まで彼等がどうなろうと構わなかった。隣にいるさやかのことも、仁美の事も、まどかを助けるためならどうでもいいとずっと思っていた自分があの輪にはいってもいいのだろうか。

「そういえばどっちが本命なんだほむほむ?」
「誰がほむほむか!」

と、一人で内心落ちこんだりへこんだりしていたら一人の生徒がほむらに声をかけた。
しかし『ほむほむ』である。昨日はうっかり受け入れそうになったがこれはない。戦う力を失い、ひ弱な存在になったがそれでもこれまでの経験は確かに残っている。その自尊心からつい反射的に声を荒げてしまった。
それに声をかけたクラスメイトはもちろん、周りにいる生徒もまどかやさやかも驚いてほむらに視線を向ける。

「あっ」

しまった。と、ほむらは後悔した、同時に恐怖も。もしかしたら嫌われるかもしれないと、過剰に反応した自分はみんなから無視されるようになるのではないかと。

「え・・・・・だって“ほむほむ”だよな?」
「・・・・・・・・違うのか?」
「あれ・・・?暁美“ほむ”だよね?だからあだ名がほむほむなんだよね?」

なんか杞憂だった。

「違います・・・暁美ほむらです」
「「「え、嘘・・・・“ほむ”じゃないの!?」」」

たぶんだが、昨日の岡部倫太郎とのやり取りのインパクトが大きすぎて彼等の記憶に齟齬が起きたんだと思う。
そうでなければこのクラスの全員が本物の馬鹿か、若年性健忘症か、または無意識レベルでいい人達になる。

「私の名前は暁美ほむら・・・・です」
「ほむの方が可愛くない?」
「こっちの方が燃え上がれぇー・・・・みたいで恰好良いじゃない・・・ですか?」
「おいおい放火は感心できないぞ?」
「しませんよまだ!」
「まだってなに!?目的があれば放火するのか“ほむ”は!」
「ほむじゃない!!」
「ほむほむ・・・・?」
「だから違う!」
「@ちゃん?」
「・・・・・ちがう」
「ちょっと詰まったな。じゃあ・・・・ねらーは?」
「同じだ!そもそも私はねらーじゃない!」
「状況の分かっていないハムスター?」
「それはあだ名なの!?」
「ブートキャンプをやり始めた皇帝ペンギン?」
「そんなの想像も―――・・・・・・・あれ、不思議と思い浮かぶような?」

「「「「「「「ようこそ此方側へ!歓迎するよほむほむ!!」」」」」」」

「だから違うっていって―――――!!」

なんか受け入れられた。踏み込んではいけない境界に足を突っ込んだ気分だ・・・・・彼等の同類として。
でも悪くない。もしかしたらクラスメイトと、いや、今までの人生で一番大勢の人達に向かって叫んでいるのかもしれない。
これを彼等が狙ってやった事なら驚きだ。偶然だとしても・・・・それでもきっと私は嬉しいと思うのだろう。
気づけば私は感情を表に、躊躇いなく出していた。昔の私なら臆病で何も言えず、最近までの私なら上手くかわして会話を切っていたはずなのに。

「それよりまどかとさやか・・・・・どっちが本命なのよ?」
「どっちもよ!」
「言い切った!?少なからず言い淀むと思っていたのにっ」
「あぅ・・・・ちょっと照れるかも」
「あたしは最初から恥ずかしかったけどね」
「大丈夫だよまどか、私が幸せにしてみせるからね!」
「ほむら、アンタほんとに変わったね・・・・」
「美樹さんも!」
「え、あたしも?」
「うん、上条君よりも私の方が美樹さんを――!」
「ちょっとまったー!!?なん、なんでそこで恭介が!?あ、あたし恭介の事ちょっとだけしか話してないよね!?」

さやかは焦ったように、誤魔化すように声を荒げる―――が

「さやかちゃんって分かりやすいからね」
「まどか!?」
「上条君をお慕いしているのは皆が知っていますわよ?」
「仁美!?」
「お前が気づいていないのは自分以外にも上条を好いている奴の存在だな」
「中沢!?アンタ生きてたの・・・・?」
「ナチュラルに死んでいる事になっていただと!?」
「って言うか他にもってなにそれ!?恭介を・・・・・いやあたしはべ、べべべ別に?気にしないけど幼馴染だし付き合い長いし聞いてみたいなって思いはするけどそんな話一度も聞いたことないしだからちょこっとだけならまあいいかなってそれで誰が恭介の事が好きなの?あたしの知っている人?この学校の人なの?恭介いろんなとこに顔きくからもしかして知らない人なのかなぁ最近よく知らない子と歩いてるの見たし・・・・でも年上だし大丈夫だよね?それとも・・・やっぱり年上がいいのかな?あたしと一緒にいてもそうゆうそぶりはないしなんかもしかしたらだけど異性として見られていないような気がするんだよねいや別に気にしてないけど男と女じゃ精神年齢に差があるってのは知ってるしけどクラスのみんな見てたら恭介も同じ中二だし少しは思うことはあるんじゃないかなって考えてるけどねそれにヴァイオリンの発表会のときは年下の子にかまってたからそうでもないのかな―――――――まあ、あたしは気にしてないけどね?それにほらあたしって恭介の幼馴染だし付き合い長いし聞いてみたいって思っても不思議じゃないでしょそれにまあ誰に好かれてるか知らないけど恭介はどこか抜けてるとこがいっぱいあるから幻滅とかしないといいけどね?まあ抜けてるとことか含めて恭介らしいと思うんだけどそれで嫌いになるならまあその程度のことであってあたしはな~んも関係ないけど一応幼馴染として知っておく権利はあると思うんだよねソレで誰なの恭介の事を好きっていうもの好きの子は年上?年下?あたしが知っている人なの?――――いや、もちろんあたしは気にしないけど!ほらあたしって恭介の幼馴染だしそれに――――」

「「「いや分かりやすいよお前」」」

あと微妙に言い訳がループしている。

「で・・・・・誰よそれ」
「あ、怯まない、さては“ほむ”同様にあまりの羞恥に現状を正しく理解してないな・・・!?」
「で?誰よ、いっておくけど変な奴なら許さないから」
「え・・・俺が?いやその変な奴と言うかなんというかっ」

中沢がさやかの問いかけに助けを求めるように周囲に視線を配るとクラスメイト達はバツが悪そうに表情を変える。
さやかはそんな彼らの表情から自分の身近にいる人なのか?と、今まで考えもしなかった事態に焦りに・・・・・恐怖した。

上条恭介。幼馴染の想い人、現在は入院していて過酷なリハビリ生活を送っている優しく温和な線の細い少年。

どこか頼りなく感じることもままあるが美樹さやかは彼の事が好きだった。
親友である鹿目まどかとも仲がいいがそれでも一番近くにいるのは自分だと思っていた。
事故で入院した時もよくお見舞いに行くが彼の周りに別の少女の影はみえず聞かずで大丈夫だと思って・・・・

「その・・な?変な奴と言うかさ・・・」

中沢がさやかに躊躇いがちに言葉を投げる。周りのみんなも何か言おうと口を開きかけたり・・・かと思えば閉じて何も言わない。
それが一層さやかの不安に拍車をかけ耳を塞ごうとした両手をさやかは――――必死に留めた。片腕はほむらが腕を組んでいるのでそれのおかげで・・・・・大袈裟な動揺をクラスのみんなに、もしかしたら彼を想う少女がここにいるとしたら、その子にも取り乱した姿を見せずにすんだ。
だけど、そのせいで中沢から発せられた言葉が真っ直ぐにさやかの耳に入った。その言葉を聞いて、さやかは呆然とした言葉を返した。

「え―――――?」

何故ならその言葉は予想も予測もしていない言葉だったのだから。






その頃、廊下で岡部は織莉子と会話を終えていた。

≪それでは・・・その、またお話ができるまでその―――!≫
「キリカからアドレスを教えてもらうさ、今晩あたり連絡をとっても構わないか?」
≪は、はい!かまいません!えっとそのっ、連絡・・・・まってます≫
「ああ、それじゃあまたな織莉子。エル・プサイ・コングルゥ」
≪え?えるぷさい――?≫
「もう我慢できるかー!!」
「うお!?」

―――ピッ

「ああっ!?何をする哀戦士―――!」
「オカリン先生ばっかりずるいぞ!!」
「電話が切れて――――――・・・って何がだ?」
「なんだよさっきの早口言葉はっ!?くそくそくそくっそー!!織莉子を辱めていいのは私だけだー!!!」

織莉子と電話で話し、最後の別れの言葉を告げたとこでキリカが岡部の背後から飛びかかり背中に、腰のあたりに手を回して縋りつく。その勢いは貧弱な岡部には割と強めの衝撃で携帯のボタンを押してしまったのか織莉子との通話が切れた。
一応簡潔ながら話したいことと確認したいことは終えていたので大事にはいたらないがそれでもマナーというか常識というか、電話中の相手にとっていい行動ではない。

「人が電話中に―――ええい纏わりつくな哀戦士!ほらっ、携帯は返すぞ」
「うう、二人とも私を無視して楽しくお喋りっ・・・・酷い仕打ちだ恨んでやる!織莉子は可愛いしオカリン先生は私の時とは違って優しいし・・・・セクハラするし!」
「しとらんわそんなこと!」
「さっきの織莉子めちゃくちゃ可愛かったじゃないか!」
「問題でもあるのか・・・・?」
「ない!ありがとうオカリン先生、私は織莉子の新たな一面を知ることができた・・・・今日はホントに素晴らしい一日になりそうだよ!」
「ならいいではないか・・・」
「うん、まったくだ!」

うっとりとした顔のままキリカは岡部の背中に顔を沈める。その表情は愛おしい恋人を思う乙女の様だった。

「あれだな・・・・・・、お前の得た愛は本物で―――――幸せなんだな」
「純愛一直線さ!ありがとうオカリン先生、私は幸せだ!」
「それはなによりだ、ところで“キリカ”」
「ん?」

岡部に名前を呼ばれてキリカは背中から顔を離す。
キリカの腕を解いて、そのまま岡部は振り返ることなくキリカから離れるように階段を上る。

「お前は本当に俺と戦わないつもりか」
「んん?」

コッ、コッ、と靴音を立てながら岡部は階段を上る。もう少し上に登ればガラス張りの校舎の見滝原中学校でも覗き防止のための―――――数好かない死角になる。
キリカは見上げる視線の先にいる岡部の事を真っ直ぐに見詰めて薄く笑った。その場の空気が変わる。日常のなかにあった温かな空間は消え失せ、非日常に存在する冷えた異常な雰囲気に支配される。

「ああ・・・・・・な~んだ、オカリン先生ってやっぱり面白いね。それとも冷たいのかなぁ、あれだけ仲良く接したのに疑うんだ?酷いな~もうっ、私はオカリン先生の事を好いてるんだよ?織莉子の次くらいに」
「織莉子の次か、この世界線の俺はえらく気にいられたようだな。しかし冷たいと言われても・・・・・それもお前の強さを考えれば不思議じゃないだろう」
「オカリン先生は私の強さを知っているの?第一それは女の子の好意を疑うに足りる確信になるのかな、期待を裏切ったら酷いよ?」
「期待は裏切らないさ」

一階と二階の中間に位置する階段の折り返し地点で岡部は振り返る。その表情は先程まで浮かべていた普通の青年の顔ではなく――――幾千幾万の戦いを経験してきた戦士の顔。
今まで見たことのない、昨日の時点で岡部が普通ではない事を知った。それでも二日間で岡部の笑った顔も怒った顔も呆れた顔も焦った顔も見たがこれは初めてだった。
“そういった顔ができる者が”――――今、キリカを見降ろしている。

「――――」

小さく、しかし確かにキリカは体の震えを自覚した。
ああ、やっぱり岡部倫太郎はおもしろい。キリカは純粋にそう思った。どんな経験を積めば“壊れていないまま”そんな表情を浮かべきれるのだろうか。
心から笑えるのにそんな顔ができる。純粋に怒ることができるのにそんな顔ができる。ちょっとした冗談に呆れることができ人並みに焦ることができるのに・・・・壊れることなく失うことなくその雰囲気を纏うことができる。

「オカリン先生は強いのかな?」
「弱いよ」

岡部の即答にキリカは頬笑みを崩すことなく階段を上がる。
岡部の言葉が真実だとしても、実際に岡部は壊れて失ってきたとしてもキリカは岡部が強いと思っている。
岡部の纏う表情と雰囲気は異常だ。魔法や魔女といった異形と何度も関わってきたキリカですら感じたこともないモノを岡部倫太郎という人間は背負っている。
なのに、それを背負いながらも普通に生活している。人並みに過ごしている。そこに辿りつくまでに多くのモノを犠牲にし・・・失ったにもかかわらずだ。
ただ戦ってきただけではない、ただ傷ついただけではない、ただ失っただけではない。それだけならできる奴は出来る。ただ、その過程で必ず何らかの犠牲で壊れる。
知っている。そのもっともたる例が自分自身だ。心を壊さぬままそこまで強くなれるはずがない。失わないまま辿りつけるはずがない。
岡部倫太郎が背負っている雰囲気はそういうものだ。壊れていないわけじゃない、でも壊れないのだ。壊れたのに、壊れていない。

「そうなのかい?でも今のオカリン先生はゾクゾクするくらい怖いよ」
「・・・・・・・・」
「それで、オカリン先生は私の何を知っているの?」

岡部のいる階段の踊り場まで辿りつきキリカは岡部に笑顔向ける。
岡部の言う「本当に戦わないつもりか」という質問に対しキリカの確かな返答は存在しない。キリカは岡部と戦うかもしれない可能性がある。同時に戦わない可能性もある。それはキリカの気分一つで変わる。

「お前が本当に俺を好いていても、織莉子が俺を認めても、俺が織莉子の害になるとお前が判断すれば“お前は俺を殺せる”。その強さをお前は持っている」
「くふっ」

キリカは―――嬉しそうに笑った。

ヴン!

パソコンの起動するような音が岡部の耳に届くと同時に岡部の両肩に魔法の鍵爪が振り落とされ―――――乗せられた状態で停止した。
岡部に向けて伸ばされたキリカの右手の甲から三本の魔法の鍵爪、刃渡りが太いそれは岡部の頭を挟むように肩に乗せられ鍵爪の返しの刃はキリカが手を引けば岡部の背中を引き裂くだろう。
口元をニヤニヤと歪ませながらキリカは此方を真っ直ぐに見詰める岡部に質問する。

「嬉しいよオカリン先生。まだ出会って二日だと言うのにそこまで私の事を理解してくれるなんて光栄だね、私ってそんなに分かりやすいかな?それともずっと私の事が気になって観察してた?」
「当たらずも遠からず・・・・だな」
「くふふ」

岡部に返答に笑みをさらに深めるキリカ。
だって嬉しいではないか、気にしている者から気にかけてもらっていたのだから。

「しかし“出会って二日”か・・・、いつ気がついた?」
「初日の夜かな、織莉子がオカリン先生に違和感を感じてね」
「そうか、やはり彼女か・・・・・一昨日の夜、先に接触を持つのはやはり彼女にするべきだったかな。それで右腕の事も織莉子から聞いたのか?」
「右腕っていうとめくった時に見えた痣のこと?それは今日だよオカリン先生。正確にはオカリン先生を見かけたとき昨日と比べて存在感とか魔女の気配とか違和感を感じてね」
「不安要素の多い奴に無防備に抱きつくな・・・・」
「そこはほら、オカリン先生と私の仲じゃないか」
「どんな仲だ。“思い出したんだろう”?」

岡部倫太郎がいない世界を。

「出会ってまだ二日しかたっていないぞ」
「それでもオカリン先生は私の初めての男だよ」
「人聞きが悪いな!?」
「でも事実だよ、目潰しなんて初めてされたよ」
「はぁ・・・」

呆れたようにため息を吐く岡部にキリカは変わらずニマニマした表情のまま尋ねる。

「それでどうしたの右腕?たぶん昨日までは普通だったよね?・・・・・ん、昨日も変だったのかな?それにオカリン先生って“いつから此処にいるの”?その前のオカリン先生との記憶はなに?それもオカリン先生の仕業?あんまりオカリン先生との違いがないから無視してもいいんだけどでもでもやっぱり記憶をいじられるのは気分が悪いかなぁ」
「質問の多い奴だな」
「答えてほしいな、でなきゃそのまま――――刻んじゃうぞ?」
「可愛く言ってもやろうとしている事はえぐいぞ哀戦士、一つ一つ説明してもいいが時間はいいのか?」
「時間?」
「織莉子と用事があるのだろう?」
「ぁっ・・・・・忘れてたよオカリン先生」

その瞬間、キリカから発されていた殺気が霧散する。岡部の肩に乗せられていた鍵爪も消失しキリカは岡部から一歩だけはなれる。
岡部もそれと共に表情から力を抜き姿勢を多少崩す、緊張していたのが誰の目から見ても明らかだが気にしていない。
キリカは今すぐに岡部をどうこうするつもりはなく、岡部はそんなキリカのことを理解しているのかもしれない。

「う~ん・・・だけどオカリン先生は不思議だね」
「こっちの台詞だ。呪いに犯されている時点でお前には殺されるのではと思っていたからな」
「あ、酷いな~オカリン先生。私はオカリン先生の事が好きなんだから見た・キレた・殺したっ、なんてしないよ?」
「・・・・・・出会いがしらに殺されそうになったことばかりだからな」
「うん?」
「こっちの話だ・・・・ああ、疲れた」

壁に背中を預けてげっそりとした表情を晒す。そこには既に先程までの戦士の顔はない、本当にあのときの人物と同じ人間なのかと疑いたくなるほどの豹変だった。そんな二つの顔を惜しげもなく晒してくれるのはキリカを信頼してか、それとも余裕がないのか、ただの馬鹿か、真実は分からない。
だけど「どっちでもいいか」。と、キリカは思っている。気にいっているのは本当だし邪魔になれば殺せばいい。
自分がおかしいのは分かっている。壊れているのも知っている。壊れているのを理解している。好きなのも大切なモノも尊いものも織莉子のためなら躊躇いなく破壊できる。
それを悲しいとも思えない彼女を可哀想だと言う人もいるかもしれない。だがキリカはそうは思わない。本当に大切なモノには番号なんていらない、そして本当に大切なモノを彼女はしっている。

「まだ朝なのに疲れたの?運動不足だよオカリン先生」
「誰のせいだと・・・まあいい、キリカ、一つだけ俺の意思を伝えよう」
「なにかな、私をワクワクさせてくれるなら嬉しいけど?」
「喜ばせることができるかわからんが・・・・織莉子にも伝えてくれ」

自分よりも、世界よりも大切な人がいる。その人と共に生きていける喜びをキリカは得ている。自覚し彼女と共にいる自分は幸せだと微塵にも疑わない。
例え誰に否定されてもキリカは自分が幸せだと思うし、そんな自分を強いと思っている。

(そういえばオカリン先生も私を強いって言ってくれたなぁ)

思えば、織莉子にすらそのことを褒められたことは無いような気がする。自分の為に自身を犠牲にするキリカに織莉子が心を痛めている事を知っている。
だから「ありがとう」と言われたことはあっても、その戦闘能力が凄いと褒められることはあっても、その自傷行為にも似た在り方を褒められたことは無かったと思う。
岡部もそんなキリカをハッキリと褒めた訳ではないが、それでもキリカは岡部が認めてくれていると思った。
誰かを想えるキリカを、世界を敵に回してでも守りたい人がいるキリカを・・・目の前の青年は理解してくれているような気がした。

「俺は―――――お前達と戦うことになっても構わない。お前達が俺の敵でもいい、俺がお前達の敵でもいい」
「ふっ、ははっ!」

そんな男からの告白に、キリカは笑みと殺意と凶器で応えた。

ヒュィ――――
         ギンッ!!

「ッ」
「まったくオカリン先生ったらさぁ!女子中学生を惑わすんだから罪な男だよね」
「・・・・・・・・」
「わっからないなぁ、どうしてこの状況でそんな台詞が吐けるの?知っているんだよね?理解してくれているんだよね?オカリン先生は私達の同士じゃないの?」

一瞬だった。キリカは再び鍵爪を装備し岡部に向けて突き出し、合わせるように黒い光沢を放つ何かが岡部を守るように展開するが―――一瞬で破壊された。
魔女の鎧。現在岡部が使用できる奇跡の力はあっさりと破壊された。その身を、時間を、未来を捧げて得た魔法は一瞬で粉砕された。変身する事もなく、ただ速度重視で生みだした鍵爪にあっさりと。

「よくわかんないけどさ・・・・そんなものじゃ止められないよ」

気を許そうとすれば、それは誤解だと否定するように言葉を紡ぐ岡部にキリカは苛立ちを覚える。
岡部の両頬に鍵爪を装備した両手で触れる。後は交差させようが振り下ろそうがなんでもいい、ただその手を動かせば殺せる。織莉子に敵対する意思があり、戦うことになってもいいと断言する愚か者をすぐに殺せる。
織莉子に希望を与えて、しかしそれを裏切るというなら殺そう。
理解者と思わせといて、その期待を裏切ると言うなら殺そう。
その発想を勝手と思いたくばそう思え、それを否定しない。でもそれは全て岡部倫太郎が悪い。電話で織莉子と仲良くしておいて自分を挑発してきた。
呉キリカを知っていながらの狼藉、それなりの覚悟は持つべきだ。織莉子の障害になる者を呉キリカは決して許さない。例え織莉子が―――――

「関係ない」
「へぇ・・・・オカリン先生はよほど死にたいらしいね」

殺意を隠さずにキリカは岡部の双眸を見上げる。キリカは岡部が震えているのを両手の感触から知っている。それでもその瞳には揺るぎない意思が宿っているのを感じた。
単純な実力差に本当の意味で、目の前の男は怯まない。危険だ。この男は危険だ。だからその手を動かそうとして―――その直前に、その手に岡部の手が重ねられた。

「お前達は間違っていないからだ」
「はあ?」
「俺は織莉子と敵対する気はない。むしろ仲間になって支えたい・・・・そして支えてほしいくらいだ」
「それなのに戦ってもいいと言うのかい、それは間違っているんじゃないかな」
「いや、俺はそうは思わない。織莉子が俺と敵対するのは必ず訳がある。そしてその理由は決して間違っていないと断言できる・・・・・彼女もまた優しい子だから」
「わからないなぁ・・・織莉子が間違っていないって思うんならさ、どうしてオカリン先生は敵対しようとするの?仲間になればいいじゃん、織莉子は優しいから障害にならない以上は私と違って見逃すと思うよ?あと私見だけど織莉子はオカリン先生にことを気にいっているみたいだしさ」
「そうしたいのは俺とて同じだ。だが織莉子の目的に俺の大切な人が犠牲になる可能性があるなら俺はそれを全力で阻止する」
「・・・・・織莉子が誰かを犠牲にすることを前提で話されるのは気にくわないね」
「すまない、例え話とでも思ってくれ。とにかく俺が言いたいのは例え間違っていなくても納得できないなら――――俺はお前達と敵対してでも止める」

怯えながらもキリカに自分の意思を伝えるのは自殺行為と呼べばいいのか、はたまた蛮勇と呼べばいいのか。
敵対してでも、と岡部は言った。だからキリカは岡部を殺すことにした。危険だから、それを直感したから、目の前のこの男は魔法少女でもないのに敵対した時は脅威になると判断した。

「もう一度言うよ・・・・・・よくこの状況でその台詞が吐けるね」
「言えるさ、その強さを教えてくれたのはお前達だ。それに――――」

それを最後の言葉として、その凶器で岡部を殺そうとして―――




「俺とお前達の物語は、そこからまた始まるんだ」




そう言って、岡部はキリカの手に少しだけ力を込めて微笑んだ。

―――さあ――――勝負だ!

聞いたことのない岡部の声と、真っ直ぐに此方を見詰める岡部の瞳が脳裏に浮かんだ。

―――さあ、戦いだぁ!!!

「私・・・・?」

知らない自身の声に、キリカの脳裏に、記憶に、憶えていない筈の何かが引っかかった。

―――君はそれを知っていたんだ!!なら弱いはずがない!!

リーディング・シュタイナーは誰もが持っている。

―――呉キリカの意思は絶望に負けたりなんかしない!

それは遠いどこかでの出来事で、それは近くて隣り合わせの事実で、それは確かに在った真実。
憶えていない。そんな記憶は保持していない。知らないし分からない。だけど、それには熱があり、そこには確かな力が宿っている。
体が憶えていなくても心が憶えている。記憶に宿らなくても魂に刻まれている。
憶えてなくても憶えている。知らなくても知っている。分からなくても分かっている。

「だからお前達と戦うことになっても俺は構わない、いつか必ず理解り合えるから」

いつだって、自分達から手を伸ばせば届く距離に岡部倫太郎という人はいた。
その手は、想いは、自分達が手を伸ばせばいつだって届く距離にあった。

「俺はお前達と理解り合うためなら何度でも戦う、例え最初の出会いが殺し合いでも・・・俺達の想いはそこからまた始めることができるから」

その言葉と想いに偽りがないのはなんとなく分かった。

「・・・・・・・」

一度、ぐ、と両手に力を込めて・・・・・・・・そのまま岡部を刻むことなく離した。
いつもの、本来のキリカなら岡部を殺していたところだが――――
今は、まだその時ではないと思った。まだ、選択するのは早すぎる。即決即断のキリカは・・・・・岡部を殺さない事にした。

「なんとなくだけど・・・・・今回は見逃してあげるよオカリン先生」

そう言って、キリカは岡部に背を向けて階段を下りていく。

「キリカ」
「ん~?」
「昨日・・・・お前から譲ってもらったグリーフシードのおかげで大切な人達を守ることができた・・・・・、ありがとう」

階段を降り切ったところでキリカは岡部の方に振り返り―――

「くふ、気にしないでよオカリン先生、私達の仲じゃないかっ」

笑顔で、歪みも狂気も含まない普通の少女の笑顔で応えた。






「キュウべぇ」
『ん?』
「ちゃっかり逃げていたな」
『危ないからね』
「まったくお前は・・・・・」
『僕は基本的に――――おや?』

キリカと別れた岡部がマミのクラスに向かおうとしていた足を止める。
原因はまどか達のクラスが視界に入ったからだ。ガラス壁越しの向こうで彼等は他のクラスの生徒と教師からも注目されるほどの行動をとっている。
防音性のため声、音は聞こえないがどうやら美樹さやかが周りの生徒に突っかかっているように見えた。
教師の姿が見えない、自習だろうかと思い岡部は教室の扉を開けた。

「どういうこと!?そんなの・・・・っ、あたし知らなかったっ」
「さやかちゃん・・・」
「まどかは・・・・知ってたの?」
「私は、その・・・・」
「知って・・・たんだ」
「全部じゃ・・・っ!でも、うん・・・ごめんねさやかちゃん、私――っ」
「ううん・・・・いいの、いいんだよ、まどか。中沢もごめん」
「あ、いや・・・」

そう言って、さやかは中沢の肩から手を離し詰め寄っていた体を引いた。

「仁美は――――」
「はい、さやかさん」
「そっか・・・知らなかったのは本当に、あたしだけだったんだ」

確かめるように・・・・最後に仁美からの言葉を受けてさやかはクラスのみんなが言っていることが真実だと知った。
知らなかった。誰よりも近い存在と自負してきたのに、知らないのは自分だけ、一体どうして気づかなかったのか、彼にのみ意識を向けていて周りに気を配っていなかったのか?

「そっか・・・・・・・」

そんなはずはない、さやかも年頃の女の子、好きな異性のことを気にはなるし、その周りにだってそれなりに気を配りもする。しかし入院中だからと・・・油断していたのかもしれない。

「でも・・・・おかしいよ」

呆然と、そんな台詞が自分の口から零れた。まるで他人のようなその声が気にならないほどに今のさやかは衝撃を受けていた。
恋愛は自由だ。後も先もない、上条恭介は一人しかいないのだから。
彼の良さを自分は知っている。そして他の誰かもそれに気づいただけのこと。

「だって―――!」

それでも納得できない。理解できない。だってこれはあまりにも――――


「多すぎるよね!?」

たぶん上条のことが好きな女の子―――――総勢18名(増加中)

「うんまあ・・・・有り得ないほど多いよね」
「実はアイツ日々戦ってんじゃないか?魔術師とかと」
「かつ、さやかに気づかれることなくフラグを立ててバレテいない状況・・・・」
「つまり、立てたまま放置か」
「そんなわけあるかー!」


さやかは叫ぶ、だっておかしいのだ。その量が、一人二人ならさやかは幸薄い悲劇なヒロインっぽく落ち込んだが・・・・・そんな場合ではない。
さやかの視線の先にはまどかや仁美、中沢といったクラスメイト達が、想い人たる上条恭介がさやか以外の女の子と遭遇していた場所と状況が書かれているホワイトボードがあった。
びっしりと書かれている。いろんな女の子の容姿が、知らない女の子の情報がそれはもうたくさん、どうしてこれだけいるのに今まで鉢合わせしなかったのか不思議なほどだ。

「って言っても一応入院中だけじゃなくて外・・・・入院前の休日とか放課後とかで見かけた場合も含まれるから―――」
「それでも一クラス分は多いよっ、どうやったら他校の子とこんなに知り合いになれるの!?」

しかも上条恭介はヴァイオリンの練習等であまり寄り道などはせずに真っ直ぐに家に帰ることが多いのにもかかわらずだ。

「ちなみに俺は上条の病室にエロ本持っていったときに白いシスターの子にあったなぁ」
「シスターなのに白いの・・・・・・って、あのときの本はお前のかぁ!」
「私は上条君のお見舞いのメロン食べに行ったとき茶髪の子と会ったよ・・・お見舞いのクッキー美味でした」
「食べに行ったの!?持っていったじゃなくて!?」
「俺ん時はポニーのお姉さんだったな・・・・ちなみにゲームやりにいきました」
「そういえば見知らぬゲームがあったような・・・・」
「僕は・・・・病院じゃないけど駅前のマックで巫女さんと大量のハンバーガーを食べてるのを見たよ」
「み、巫女さん?」
「駅前と言えばさ・・・・・本屋で高校生の委員長っぽい人と会話してるの見たな」
「それは・・・・普通だよね?そうだよね?なんかもう何にも安心できない・・・」
「わたし・・・レストランで垂れ目の巨乳の人からおしぼりで顔を拭かれてるとこ目撃した事ある」
「どんな状況なの!?中二にもなってそんな―――」
「なぜか弁当売ってるメイドと親しげに話してたな」
「今度はメイド!?」

想い人の知らぬ一面を知った美樹さやかは混乱した。

「っていうか恭介からあたし何も聞いてないけど!?」
「は、話すまでもなかったとか―――?」
「幼馴染のあたしに話すことが無いっての!?」
「いやそうじゃなくて、ほらただのとるに足らない知り合いにしかすぎず話題にあげるまでもない出来事だったんじゃ―――」
「シスターとかメイドとか明らかに話題に上がるでしょ!それとも恭介はその属性はありきたりな日常として受け入れている奴なの!?」

それはなんか嫌だ。知り合いがハーレムを築きそうな意味で。ちなみにその場合幼馴染という属性はもはや道端の草と同じだ。中二の時点でその高みにいるなんて・・・・。
みんなの証言が嘘とは思えない、まどかや仁美がこんな嘘をつくはずがない。ならそれは真実で・・・・・やっぱりおかしい。

「う~・・・・あたし今日―――恭介のお見舞いにいく!」
「あ、じゃあ俺も―――――――ゲームしに」
「アタシもー」
「メロン食べに・・・・」
「だべりに!」
「暇つぶしに」
「ついでに!」
「同じく」
「遊びに」
「ナースさんを見に」
「私もー」
「「「誰だ!?」」」

さやかは思うことがあるのか力強く断言する。それにつられてか・・・・わらわらとクラスメイトが挙手していく。
内容は後半につれて正規のお見舞いからかけ離れて行くが気にしてはいけない。
そしてこのクラスには確実に“その気”の女子がいる。

「・・・・・・・にぎやか」
「たいていこんなクラスだよ?」
「それはなによりだな」
「あれ、オカリン?」

まどかの言葉にほむらは首を傾げる。それと同時に声がして振り向けばいつのまにか岡部が立っていた。頭にはキュウべぇもいる。
なによりだ――――と岡部は言った。その言葉は何故かほむらには尊いモノのように聞こえた。何故そう思ったのかは分からない。ただ岡部の言葉はどこか彼等を羨むような、感謝しているような――――

「あれ・・・・?オカリンちょっとまって」
「うん?」

そう思っていると突然、ほんとうに突然にまどかがほむらの腕を解いて岡部に近づいていき―――――いきなり飛び付いた。
まるで逃がさないように。

「むぅ!?」
「まどか!?」

その声にさやかを含むクラスメイト達もほむらの視線の先にいる岡部とまどかに注目する。
そして―――――いつでも退避できるように身構えた。
ほむらがオロオロと空になった両腕を伸ばしたりひっこめたりするなか、岡部は冷や汗を流しキュウべぇは再び岡部の頭から離脱した。

「ねぇオカリン?」
「な、なにかな・・・・まどか、俺はまだ何もばれていないぞっ?」
「「「「「いきなり自白しやがった!!?」」」」」
「『ショタリン』と『ヒキリン』・・・・・どっちがいい?みんなと相談したら『ショタリン』がいいかもって思ったけど・・・・・オカリンはどっちがいいのかな?」
「え・・・・選択肢はその二つだけですか?あの、自分としては『ヒキリン』は無理で・・・」
「そうだね・・・私も嫌かも、『ヒキリン』じゃ外で遊べないしね。じゃあ『ショタリン』?」
「えっとだな・・・・」

岡部はそれがどういったものなのか知っているらしい。そして岡部は今のまどかに下手に逆らうのは得策ではないと判断したのか正直に答える。
ならばと皆は思う。決して間違った選択はするなと、慎重になれと、迂闊なことをするなと、軽率なことをするなと、見て見ぬフリをするなと、もっと注意を払えと念じる。
そんな皆の想いが通じてか、岡部は真剣な口調でまどかに告げる。

「その場合、マミが俺に甘えてくれないのでいつも通り『オカリン』で頼む!」

真剣な表情と声だった。ただ、ここで岡部は他の女の名前を出してまどかに訴えた。
しかも内容が何やらおかしい。あきらかに選択を誤った。案の定―――

「ねえオカリン、マミさんって・・・誰の事かな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ」

「あ」じゃねえよ!と、それぞれが心の中でツッコミを入れつつ教室の出口に向かう。全力で。

「今日もオカリンから何やら他の人の香りがするけど・・・・・・お菓子かな?甘い匂いだね?昨日と同じかも?今朝は無かったよね?でもまだ一時間目の授業中だよね?つまりオカリンは授業をサボっていた人とさっきまで一緒にいたのかな?」
「まままままつんだまどかっ、いいかお前は今誤解しようとしている!俺はただキリカと―――」
「マミさんって人じゃないんだね?キリカ・・・さん?初めて聞くけど誰かな?マミさんって人の事も含めて洗いざらい吐いてもらおうかな?」

まどかは岡部から離れて真っ直ぐに岡部の顔を見上げる。キリカの時とは別の意味で震える岡部は誤魔化すように言葉を紡ぐ。
ちなみに、まどかの両手はしっかりと白衣を握っている。

「なんか言葉に刺が多くない・・・か?」
「うん?そんなことないよ、ただ上条君が余りにもだらしないから同じ幼馴染としてさやかちゃんのことが少しだけ理解できてもしかしたらオカリンにもそんなことがあるのかな?なーんて思っちゃたりしただけだよ?」
「この世界線でもアイツが原因か!」

岡部が言い訳のように叫ぶが今回は間違いなく岡部が悪い。

「それで?みーんな話してもらうよオカリン」
「まってくれまどか!今の俺には急いでやるべきことが!」
「なに?」
「これからマミに大切な話があってだなっ―――」
「「「「「何であんたって人は自ら地雷を踏みしめていくんだ!!!」」」」」

出口まで辿りついた皆が退避することをいったん中断して、まどかを除く全員で岡部に叫ぶ。
その言葉に自分の言動の愚かさを悟った岡部は顔を青くし、まどかは笑顔のまま岡部の白衣を握りしめる。

「オカリンは上条君みたいに幼馴染に隠し事なんかしないよね?」
「あの・・・・まどか?あんたさっき恭介を弁護してたよね?」
「さやかちゃん何か言った?」
「なんでもありません!」
「「美樹さん・・・」」

ほむらと仁美がさやかの肩に手を置いて慰める。今日のお見舞いでさやかは結果次第で恭介に優しくしようと思った。結果次第で責めるつもりだが。

「それでどういうことなのオカリン」
「いやっ・・・その・・・なんというか俺は無実で悪いのは世界であってだな?」
「言い訳なんか聞きたくないよ?私はただ幼馴染として何をしていたのか聞いているだけだよ?言えないの?そんなことないよね?肋骨には限りがあるよ?」
「脅しを挟んだ会話に持ちこまないでくれ!怖くて何も言えないではないか!」
「心当たりがある証拠だよね?はい、じゃあ・・・・・後五秒待ってあげるね?」
「ひい!?おおおおおお俺だっ、まどかが機関からの偽情報に誑かされ俺を疑っている!俺一人では無理だ増援を――――!」
「逃げるの禁止!」
「ノスタルジアドラ━━━━━━Σヾ(゚Д゚)ノ━━━━━━ィブ !!!!?」

携帯に向かって現実逃避し始めた岡部からまどかは携帯を奪い・・・・そのままゴミ箱に向かって全力で投げた。
綺麗に華麗に岡部のいろんな意味での希望はゴミ箱へと入りガコーンッと良い音を響かせながら・・・岡部の絶叫と一緒に一時間目終了の合図を見滝原中学校に伝えた。

「何をするんだまどかぁ!?アレが無いと俺はこの世界でどうやって戦えというんだ!」
「オカリンが戦うのは妄想じゃなくて目の前の現実でしょ!」
「その現実と戦うためのデバイスが今ゴミ箱にシューティングされたんだが!?」
「もうっ、ちゃんと話してくれないと私絶対に許してあげないんだから!」
「そんなことより早く回収を――!」
「そんなこと!?オカリン今そんなことって言った!?」

わーわーぎゃーぎゃー喚きながら岡部とまどかは言葉を交わす。
ほむらはそれを遠く(さやかに手を引かれ退避して)から眺めていた。
クラスメイトにも驚いて、さやかの想い人の女性関係に疑問を抱いて、ここにきてあまり(性格というか態度が)変わることのなかったまどかにも驚かされた。
自分の知っている世界と違いすぎる。確かに自分はまどかとさやか以外のクラスメイトについてはあまり関わらなかった。せいぜいが・・・志筑仁美がさやか同様に上条恭介に想いを寄せていることぐらいだ。

『驚いたか?』
「!?」
『俺だ、キュウべぇに頼んで俺とお前にしか聞こえていない』

ゴミ箱に両手を突っ込みながらまどかに背中から白衣を引っ張られている男にほむらは視線を送る。
岡部とまどかは口論しながら騒いでいて、ほむらは頭に聞こえてくる念話に疑問を覚える。あんな状況で落ち着いた会話が(念話)ができるのかと。

『慣れだな』
『慣れ・・・・・ですか、魔法使いでもないのに』
『これでも相当の魔法経験者だからな』
『まどかとの口論も演技ですか?』

そうだとしたら、なんだろうか・・・・悲しいと思う。内容はどうあれまどかは本気なのに、相手はそうでもないとしたら、とても辛い。喧嘩しながらも本当に仲良く見えるから余計に。

『そんなわけないだろ!見ろっ、今にも噛みつきそうなまどかを!これが他の世界線の事なら確実に家賃は上がり・・・・・・まて、確かこの世界線では砕かれるのか?骨が?え・・・・まじで?』

そんな心配は必要ない。と、岡部は態度で伝えた。昨日の電話で知った情報に不安を抱きながら震える岡部、でもそれのおかげでほむらは少しだけ肩の力を抜くことができた。
だから、それが本当のことかはまだ分からないけれど安心して・・・・何故安心したのか、深く考えることは置いといて未だにまどかと騒いでいる岡部に問う。

『それで・・・・驚いたかというのは?』
『この連中のことだ。お前の知っているのとかなり違うのではないか?』
『どうしてそれを・・・』
『他の世界線のお前から聞いた』
『他の・・・・・私から・・・・・』

それが不快なのか戸惑いなのか分からない。自分じゃない自分。自分の知らない自分と同じ時を過ごした相手がいる。複雑だ、だってそうだろう?なにせ自分が知らない間に知り合ったようで、こっちは何も知らないのに気づけば知られていたなんて・・・・・。

(でも・・・・まどか達も、もしかしたらそんな気分だったのかな?)

時間を逆行した自分はまどか達から見れば・・・・どう見えていたのだろうか。初めて会ったにもかかわらず多くの事を知っている自分の存在を・・・・。
立場が逆になると不思議だ。自分の行動の迂闊さが良く分かる。理解できず・・・・怪しさが悪い意味でよく分かるものだ。
突然現れ何やら知ったかぶりで話されても信用できない、実際に証明することは難しいのだから、ほむらだって昨日岡部が戦うところを見なければ何も信用しなかった。
魔法の存在を知っていても、それでも怪しい事には変わりはなく、自身の力を失っていなければ共にいなかったかもしれない。
一人でいることを選択した自分は誰も信じずに――――

『良いものだろう?』
『ぇ?』

思考が、気分が落ち込んできたほむらに岡部は念話をおくる。

『この連中だ』
『馬鹿みたいに・・・・騒いでいますよね』
『ああ、そのおかげでまどかもさやかも昨日の一幕を・・・・この瞬間だけは完全に忘れていられる』
『ぁ・・・・・・・・』
『あんな異常、ただの女子中学生が耐えられるわけがない。それでも今笑って過ごしているのは彼等のおかげだ』

きっと、朝が来ても起きることはできなくて引きこもってしまってもおかしくない精神状態、それでも学校にきたのは、来ることができたのは・・・・・少なからず彼等のおかげだろう。
あの地獄を経験しながらも、それでも彼女達は壊れずにいる。でもきっと怯えている。いつまたアレに巻き込まれるかもしれないという恐怖に。
でも、どんなに落ち込んでいてもどんなに怖がっていても・・・普通は閉ざす口を開き叫ぶ、震える身体を無理矢理動かし暴れる。彼等といれば騒がずにはいられないのだから。

『確かに馬鹿で無作法で無遠慮な連中かもしれないが―――』
『はい・・・・とても良い人達・・・ですね』

岡部の言葉を引き継いで、ほむらは正直な感想を告げる。
嘘をつく必要などない、虚勢なんか意味はない。

『ふむ・・・・素直だな』
『意外ですか?』
『いや、ただこれまでのお前は・・・・・“俺が出会ってきた暁美ほむら”はなんだかんだと悪態をついていたからな』

それはきっと照れ隠しや・・・・・ああ、やっぱり変な感じだ。と、ほむらは思った。
本当に複雑な心境だ、きっとまどか達もそうだったに違いない。
だってさ、岡部の話が本当だとしたら、彼は目の前にいる私ではなく別の私、私を通して共にいた『暁美ほむら』を見ているのだから。

『・・・・・・・・・』
『どうした?』
『いえ・・・』

そう思ってしまうことは仕方がないだろう。だってこっちは知らないのに命がけで助けてくれるなんて普通じゃない。つまりそれは、それだけ『前の暁美ほむら』が大切な人だったんだろう。
同じ暁美ほむら、でもそれは私じゃない私。
まどか達も自分のことをそう思っていたのかもしれない、助けてくれるほむらは、「前の私達のことが大切だったから―――今回も助けている」・・・・・と。
そんなつもりはない。そんなことは関係なしでただ助けたかった。大切な友達だから・・・・きっと岡部もそうかもしれない、でも――――だけど・・・・・


―――私は・・・・どうすればよかったのかな


ここにきて、通り過ぎた時間軸での思い出が脳裏をかすめた。
そして、同じように世界を繰り返している男がそれについてどう思っているのか、それが気になったほむらだった。




授業終了の合図が鳴れば当然のことながら廊下には生徒が溢れて人口が増す。そして何やら騒いでる場所があれば人だかりも増えて視線は集まる。
教室の外に退避した生徒が教室の扉をあけっぱなしにしていたので岡部とまどかの口論は人を集め注目をどんどん集中させる。
そして――――事件は起こった。

「もうっ!ちゃんと聞いてよオカリン!」
「聞いているっ、だからまずは回収を―――!」
「それは聞いているとは言わな――――」


「オカリン先生ー!!!」


いつまでも続きそうな言葉の応酬に突如第三者が介入し岡部とまどかの間に割って入った。物理的に。躊躇いもなく。ある種の固有結界に恐れることなく真っ直ぐに。
その人物はゴミ箱からようやく携帯を見つけた岡部のお腹にタックルをかまし岡部をそのまま押し倒した。

「え――――――――あ、オカリン!?」
「も――――ごは!?」

口から空気を吐きだしながらゴン、と、床に思いのほか強く頭をぶつけた岡部はあまりの衝撃に言葉を発することは出来ず押し倒されたまま悶える。
「ふぬ!?ふぉおおおおおうっ」と、謎の言葉を零しながら、目元に涙を浮かべながらも岡部は突然の襲撃者へと視線を向ける。
涙で滲んだ視界の先、そこにいるのは―――――

「オカリン先生大変だ!」
「いった・・・くそっ、ん?キリ・・・カ・・・?」
「そうだよオカリン先生!聞いてくれ私は大切なことを思い出した!」

先程別れたばかりの少女、呉キリカ。彼女は岡部を押し倒したまま、岡部の腹に馬乗りの姿勢のまま顔を近づけて叫ぶ。

「ちょっ、汚いっ・・・・唾を飛ばすな!・・・・・・・・まて何を思い出した!?」

至近距離から飛んでくる唾に抗議した岡部はキリカの言葉に―――――体を勢いよく起こした。

ゴンッ

「あうっ」
「おうッ」

当然、近すぎた互いの額がぶつかって双方が額を押さえた。しばらく、数秒を痛みがひくまでの耐える時間に使い再び問う。
キリカは思いだした事柄を伝えるために。岡部はキリカの思い出したという記憶の内容を問うために。必死の形相で岡部に縋りつくキリカ、上半身を起こしてそんなキリカの両腕を掴んで支える岡部。
そんな二人の様子に周りにいたギャラリーに緊張が走る。キリカには焦りがあり、岡部からは真剣な態度が伝わる、普段そんな姿を見せない二人だから一層不安にもなる。

「オカリン・・?」

二人の傍にいたまどかですら戸惑いを感じているほどに。

「携帯のアドレス教えるの忘れてたよ!」
「そう言えば!」

だけど、その内容はどうでもよかった。

ピロ~ン

と、間抜けな音と共に互いのアドレスを赤外線送信で行っている二人に呆れギャラリーは散っていく。
何やらシリアスな展開に行くのかと思えば・・・・・・・このリア充が!と憎しみを吐き捨てながら去っていく。
まどかとさやか、それにほむらは昨日のことがあるので少なからず緊張していたので安心し、クラスの皆は口論も終わったので別の意味で安心した。

「ふう、危うくすれ違うところだったな」
「まったくだよ、危うく織莉子から怒られるところだった」

岡部の苦笑にキリカが大真面目に答える。実際にキリカが戻ってこなければ連絡手段を失っていたので・・・・キリカは織莉子からの折檻があったかもしれない。
本当ならすぐにでも織莉子が岡部に会いに生きたいが今は他にやるべきことがあった。

「気をつけて行って来い」
「うん、行ってくるよオカリン先生!」

岡部の言葉にキリカは笑顔で応える。
『魔法少女狩り』。いま織莉子がおっている案件だ。最初に聞いたとき岡部は「犯人お前達じゃないの?」と危うく聞いてしまうところだった。
どうも今回の“それ”は違うらしい。岡部はこれまでの世界線漂流で経験した事のない事柄にまた出会ったなと・・・・きっと、他にも何かあるのではと思った。
キリカ達と始めから交流があり、ほむらは魔法を失っている、遭遇した事のない魔女、そして新たな魔法少女狩り、すべて・・・・この世界線が初めてだ。

(それに、あすなろ市への話も・・・・・この世界線は一体何だ?)

朝の校長から岡部のあすなろ市への転勤(?)に関する話などいろんな未経験の事態が立て続けで起きている。
もしかしたらそれは、岡部がこの世界に適合し始めた結果かもしれない。岡部倫太郎がいた場合の世界。そのあるべき流れかもしれない。
何度も繰り返すうちに岡部には因果が与えられた。親はいないが戸籍がある、帰るべきラボがあり、過去が無いのにまどかの幼なじみ、いつしか岡部の年齢は本来の時代に適合してきている。
かつての世界線で30代や20代・・・・・ある時はまどか達と同じ年だった世界線漂流もここ最近では安定してきた。本来の2010年の――――

「じゃあオカリン先生―――」
「なんだ哀せ―――」
「chu♡」

向かい合ったまま考え事をしていた岡部はキリカのいきなりの行動に反応できなかった。
それは周りも同じで・・・・・・・・世界が凍った。

はあ!!?

それでも、キリカ以外の心の叫びはシンクロしていた。









その頃の織莉子。


「・・・・・・・・・遅いわね、キリカったら何をしているのかしら?」

まさか自分の言伝を曲解して何やらやらかしてないか不安になるが・・・・・さすがに彼女も子供ではないはず、いかに普段はぶっとんだ行動に出る彼女でもさすがに・・・・・
呉キリカは常に予想を超える親友だ。いつも織莉子を驚かしている数少ない人間だ。良い意味でも、悪い意味でも。

「いや・・・・まさか・・・・ね?」

織莉子が親友のキリカのことを・・・・信じているよ?それでも心配はしてもいいはずだと悩んでいると織莉子の眼前、駅前から一人の少女が出てきた。
サイドポニーの黒髪を揺らしながら歩く彼女は織莉子の視線に気づくことなく織莉子の傍を通り抜けていった。

「・・・・・・・・」

織莉子は携帯を取り出しキリカに電話する。敵かどうか分からない・・・・・じゃない。今通り過ぎた彼女は敵だ。“三人いる内の一人”。
岡部と違い確実に此方と敵対している未来を観測した・・・・・はずの少女。

「まさか・・・倫太郎さん以外にもいるなんてね」

未来視が、観測した未来にブレを生む存在がいるとは思わなかった。
それも明確な敵として。確かな敵対の意思を持って。自分達の未来に大きく関わる者として。

≪もしもし織莉子?ごめんねすぐに行くから待っててよ!≫
「遅刻よキリカ、いったい何をやっていたの?」
≪やぁ~、それがオカリン先生に連絡先を教えるの忘れててさ。慌てて引き返して今伝えたとこ≫
「それは・・・まあいいわ。忘れてたら大変だったわね」
≪うん、いや~我ながら機転が利いていたと思うよ!ついでにもう一つも済ませといたし≫
「もう一つ?」

はて?と、織莉子は首を傾げる。キリカにお願いした事は岡部倫太郎と接触し美国織莉子との架け橋・・・・今は直接会えない織莉子に代わっての連絡役をしてもらい、あわよくば携帯とか住んでいる場所とか今度のお休みの日に暇してないとかの情報をできたら絶対可能なら確実に少なくても全部GETしてほしいなぁとそれとなく伝えただけだが・・・・どれか手に入れることができたのだろうか?

≪うん、オカリン先生にちゅーしてきた!≫
「はあ!!?」

親友はやはり織莉子の伝言を曲解し何かぶっとんだ行動に出てしまったようだった。
もしかしたら織莉子の伝え方が悪かったかもしれない、しかし予想を遥かに超えた報告に織莉子は持っていた携帯を危うく握りつぶすはめになった。
織莉子の叫びに周りにいた一般客と――――件の少女が織莉子に視線を向けるが頭の中が真っ白になった織莉子は気づかずそのまま立ちつくしていた。

≪もしも~し、あれ、織莉子や~い・・・・・おや?≫

キリカからの呼び掛けに反応できない織莉子、幸いだったのが目的の少女は織莉子に関心がなく、そのまま雑踏の中に姿を消したことだった。
もし、織莉子が魔法少女だと気づかれていたら・・・・殺されていたかもしれない。





見滝原中学校



「それじゃあオカリン先生!私は織莉子のもとにいかなくちゃいけないからこれでアデュー!」
「ちょっ!?まて哀戦士貴様これは―――!」
「ん?いきなり口を許すほど私は安くないよオカリン先生?」
「違う!口とか頬とか関係あるか!なぜいきなりこんなことをしでかした!?最悪俺はクビになるぞ!」
「正規の教師じゃないからいいんじゃない?年も三つ四つしか変わんないし問題無いよ」
「ああそうかい!だがあいにく俺が心配しているのは周りの状況だ!この空気を如何してくれる!」

馬乗りの体勢から立ち上がるとキリカは立ち去ろうとする。余程急いでいることは岡部も理解しているがそれを呼び止める。
周りには固まった生徒が多数いる。休み時間という事もありかなりの注目を集めていた。事前に散っていった生徒もいたがそれでも多くの生徒が岡部達に注目していてなにより岡部の隣には――――鹿目まどかがいた。

「あわ・・あわわわわわわわ?はわわわわわわ?」

いきなりのことに混乱しているのかフラフラと伸ばした両手をあっちにこっちにどっちにへと何かを探すようにふらつかせている。
今は混乱しているからいいが、もし正気に戻られたらどうなるか分からない。
それは周りにいる皆も同じなのか誰もが動けずに岡部とキリカを・・・・あと、まどかを見守っている。下手な動きはまどかを覚醒させる恐れがあるから。

「やだなぁオカリン先生、だからこそだよ?」
「なんだと!お、俺を懲戒免職のロリコンに陥れてどうするつもりだ!」
「違うよ、私は織莉子の言う通りにしただけで―――私も織莉子もそんなつもりはないよ」
「織莉子?彼女がお前にこんなことをさせたのか?」

なら、これにはなにか意味があるのか?と、岡部は真剣に悩む。敵対しているなら分かるがそうでもないなら・・・彼女がそんなことを親友のキリカに頼むはずがない。
なら絶対にこれには意味があり、そうすることで築ける未来の布石があるはずいだと岡部は考え――――。

「だぶんきっともしかしたらそんなお願をされたと思う」
「たぶんだと!?」
「うん!」
「うんじゃねえよ!お前はそんなあやふやな感覚で俺に―――」
「ちゅー・・・しちゃった」

照れながら頬を(面白そうに口を歪めながら)赤く染めるキリカ。

―――ちゅ?ちゅちゅちゅー?・・・・・あわわわわわわわわわわ!!?
―――落ち着いてまどか!
―――まどか気を確かに!
―――まどかさんしっかり!
――――ここは逃げるべきか見守るべきか・・・
――――結果はかわらないんじゃ
――――まあ、アレ使われたらなぁ
――――私も・・・ちゅーしてほしいなぁ・・・口に!
――――だから誰だー!?×全員

ちなみに織莉子はキリカにそんなことは一言いっていない。
まどかを落ち着かせようとさやかとほむら、仁美は動きだし、クラスメイトは誰かにツッコミを入れた。

「う~ん、きっとね・・・・・・・そこの愛らしいオカリン先生の生徒!」
「はわわ・・・・っ、ほ、ほぇ?」

ビシ!とキリカに指を突きつけられ、まどかは一瞬正気に戻りキリカを見詰める。

「オカリン先生には私と織莉子がツバをつけた!」
「え?へ・・・・?」
「その他多数もそういうことだから・・・・・以上!」
「お前まさか織莉子の伝言を・・・・・・・・・曲解したな」
「・・・・・・・・・・・・・・・てヘ☆」

そんな、ふざけた笑顔を残しキリカは逃げ出すように教室を後にした。
それで台風の後の静けさ――――まさにその状態のように教室内は静寂だった。
どうしよう?だれもがそう思った。あの・・・・動いてもいいですか?と誰もが隣の人に確認をとっていいのか・・・・そこから悩んだ。

「はわ・・・あわわわわわ?」
「ま、まどか?」

そこで唯一動ける。混乱していることから動くことができるまどかがふらふらと自分の机に向かう。
そんなまどかを皆は、岡部もさやか達も他の生徒も見守ることしかできない。
ごそごそと、机の横に置いてあった自分の鞄をあさるまどかを皆が息を唾を飲み込んで――――

「あわわわわ・・・・?はわわわわ?」

まどかが四角い何かを取り出した。

―――the wheel of fate is turning rebel 1

何故か聞こえた電子音。

「ちょっと待ったー!」
「駄目ですまどかさんそれは――!」
「落ち着け鹿目それはダメだー!」
「え・・・・?ちょっ、それはいかんでしょ!?」
「くっそ、やっぱりまだ持ってやがったか!」
「矛先が全方位に向かって――――!?」
「いけない――――もう?」
「もしもしお母さん?ううん、急に声が聞きたくなっただけ・・・・晩御飯、楽しみにしてるから」
「「「「死亡フラグやめー!」」」」

まどかが鞄から取り出した目覚まし時計、未来ガジェット破壊力ランキング3位、『これが私の全力全開』。
防音性の高いまどか達のクラスのガラス壁に亀裂を入れる『広域暴徒殲滅型の音爆弾』である。

―――open combat!

YA・BA・I!?経験者である皆は即座にまどかを説得、拘束しようとするが――――

「はわわわわわわー!!?」

カチッ♪

振り下ろされたまどかの手の平は―――断罪のボタンを叩いた。


―――distortion finish!






見滝原中学校の校庭の隅

「うう・・・・・、なんなのよこの学校!なんでこんなにトラップがあるの!?変質者対策・・・・?」

金髪ツインテールのユウリだ。岡部の素行調査へと約束の昼前に・・・・・変身魔法の応用でまどか達と同じ制服を着込んだまではいいが・・・・校門には見張りの警備員がいたので人気のないところから壁を超えて潜入した。
が、どういう訳か・・・それを見越してか、着地地点に非殺傷地雷、衝撃でこけた所に落とし穴、底にはゴッキーほいほい(使用済み)、悲鳴を上げて穴から這い出ればペットボトルロケット(ミサイル)が飛んできて大変な目にあった。
息も絶え絶えに周りに気を配れば・・・・・他にもトラップが見え隠れしている。しかも一つのトラップが発動すれば他のトラップも連鎖するような絶妙な配置だ。きっと確認できないところにも・・・・
それゆえにユウリはこの場所からなかなか抜け出せなかった。さっきからどうやってもトラップに引っかかる。木の上も駄目だった。

「しかも何よこの看板!」

【この場所は電波が届かないようになっています。お帰りのさいには元の道にBACKしてください(笑)】

なかなか挑発してくれる看板だ。しかしそれゆえに背筋が震える。ようするにこれは忠告だ。
何かあっても誰も助けに呼べないぞ?と言う意味だった。
現に結構騒いだにも関わらず誰もユウリの元にこない。校庭で体育の授業をしている生徒も見周りの教師も警備員も来ない。

「ばかにして!」

勢いよくユウリは立ち上がる。その顔面にカラーボール(強盗対策用)が直撃した。

「・・・・・・」

きっと今の動作でなんらかのトラップが発動したんだ、と、ユウリは理解した。
そして顔面を紫色(カラーボールの塗料)にしたユウリは地面に体育座りをして・・・・・・・・いじけた。

「うっ・・・・うっく、なんで?なんで私こんな目にあってんの?うう・・・私何も悪くないのにぃ」

朝からずっと精神的に追い詰められていたユウリは地面に「の」の字を書きながら幼児化していた。
もう、いろんな意味で彼女は疲れ切っていた。精神的に。
魔法関係者に出会いそれがユウリの知り合いで住処に案内され仲間に勧誘された、そんでお風呂を借りてソイツの臭いに包まれたシャツと布団で爆睡、気づけば寝顔と下着を見られ交際を申し込まれてお昼はデートで夜は本番(?)とまあ・・・・まだ幼い少女にはなかなかの展開にユウリは精神的余裕がなかった。
さらにそこで―――


キュドッ!!!


「ビクゥッ∑(OωO )!?」


見滝原中学校、ユウリの位置から見えなかったが・・・・ガラス張りの壁が震えた爆音に彼女は心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
そしてついに感情が決壊したのか、涙を滲ませた顔のまま恐怖に怯えるお子供のように走りだす。

「もうっ・・・・・やだーッ、帰る!!ユウリッ、ユウリー!」

カチッ☆

トラップが起動した。






数時間後

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

見滝原中学校の校門でユウリと岡部は顔を合わせていた。互いにボロボロだ。主に精神面が。

「・・・・・・・きた」
「ああ・・・・・・・」

ユウリの言葉に岡部は頷く。何故だろうか、何があったのだろうか、なぜ自分だけじゃなく相手もボロボロなのか気になる。
しかしあまりにも憔悴していて、待ち人に声をかける気力がない。本来ならそれは待ち合わせする仲の間柄では声をかけないのは冷たいやり取りかもしれない。

「お互い・・・」
「うん・・・・」

だけど、今の二人には不要だった。そんな配慮は要らなかった。

「・・・がんばったな」
「うん・・・・がんばった」

それだけで通じたのだから、NDを使用せずに、出会って二十四時間にも満たない二人だけど、それでも通じるものが二人にはあった。
岡部は結局マミに会えぬまま、幸いなのはキュウべぇが連絡してくれて放課後引き合せてくれる手はずになった。
ユウリは一度ラボにまで帰った。お風呂に入りに、幸いだったのは可愛らしい(まどかの)私服をGETできた。

「・・・・・」
「・・・・・」

いや・・・・幸いだったのだろうか?結局マミとの会合は後回しになり、ユウリはいらない精神へのダメージを負った。
プラスマイナスで言えば確実にマイナスだ・・・・・・。

「いくか・・・・」
「うん・・・・・」

でも、しつこいようだが・・・それでも二人には確かな絆ができた瞬間だった。
誰かに分かってもらえるのは、誰にも理解されない孤独を知っているだけに、二人は相手は自分のことを理解してくれていると顔を合わせただけで理解できたことに幸福を憶えた。


―――ユウリの岡部倫太郎への好感度が上がった
―――岡部の飛鳥ユウリ(仮)への好感度が上がった


意外な場面で二人の親密度が上がった。









あとがき


感想ありがとうございます。感想を何度も読み返してやる気を充電しています。本当にありがとうございます!
・・・・・執筆遅くてゴメンナサイ
言い訳として・・・・・実は【妄想トリガー;佐倉杏子編】ほかマミ編やさやか編、上条編も並行して書いていて・・・・まとめて乗せようとしたら―――


公式(漫画)とかぶった!


ほぼ全部を消去して・・・・その後『Steins;Gate比翼恋理のだ~りん』に現実逃避していました。
ああ・・・・やはりオカリンは最高でラボメンは癒しですね

こんな自分が書く作品ですが・・・どうかもうしばらくお付き合いして下さることを願っています。







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