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No.28390の一覧
[0] [習作]Steins;Madoka (Steins;Gate × まどか☆マギカ)[かっこう](2012/11/14 00:27)
[1] 世界線x.xxxxxx[かっこう](2011/06/17 21:12)
[2] 世界線0.091015→x.091015 ①[かっこう](2011/06/18 01:20)
[3] 世界線0.091015→x.091015 ②[かっこう](2011/06/28 21:37)
[4] 世界線0.091015→x.091015 ③[かっこう](2011/06/22 03:15)
[5] 世界線x.091015 「巴マミ」①[かっこう](2011/07/01 13:56)
[6] 世界線x.091015 「巴マミ」②[かっこう](2011/07/02 00:00)
[7] 世界線x.091015 「暁美ほむら」[かっこう](2011/08/12 02:35)
[8] 世界線x.091015 「休み時間」[かっこう](2011/07/10 22:08)
[9] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女①[かっこう](2011/07/19 07:43)
[10] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女②[かっこう](2011/07/26 14:17)
[11] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女③[かっこう](2011/08/12 02:04)
[12] 世界線x.091015 魔女と正義の味方と魔法少女④[かっこう](2011/09/08 01:26)
[13] 世界線x.091015→χ世界線0.091015 「ユウリ」[かっこう](2011/09/08 01:29)
[14] 世界線x.091015→χ世界線0.091015 「休憩」[かっこう](2011/09/22 23:53)
[15] χ世界線0.091015「魔法少女」[かっこう](2011/10/29 00:06)
[16] χ世界線0.091015 「キュウべえ」 注;読み飛ばし推奨 独自考察有り[かっこう](2011/10/15 13:51)
[17] χ世界線0.091015 「アトラクタフィールド」[かっこう](2011/11/18 00:25)
[18] χ世界線0.091015 「最初の分岐点」[かっこう](2011/12/09 22:13)
[19] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」①[かっこう](2012/01/10 13:57)
[20] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」②[かっこう](2011/12/18 22:44)
[21] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」③[かっこう](2012/01/14 00:58)
[22] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」④[かっこう](2012/03/02 18:32)
[23] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑤[かっこう](2012/03/02 19:08)
[24] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑥[かっこう](2012/05/08 15:21)
[25] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」⑦[かっこう](2012/05/10 23:33)
[26] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 前半」[かっこう](2012/06/07 20:57)
[27] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 後半1」[かっこう](2012/08/28 00:00)
[28] χ世界線0.091015 「どうしてこうなった 後編2」[かっこう](2012/11/14 00:47)
[29] χ世界線0.091015 「分岐点2」[かっこう](2013/01/26 00:36)
[30] χ世界線0.091015「■■■■■」[かっこう](2013/05/31 23:47)
[31] χ世界戦0.091015 「オペレーション・フミトビョルグ」[かっこう](2013/12/06 00:16)
[32] χ世界戦0.091015 「会合 加速」[かっこう](2014/05/05 11:10)
[33] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;佐倉杏子編』[かっこう](2012/08/06 22:26)
[34] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;暴走小町編』[かっこう](2013/04/19 01:12)
[35] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;暴走小町編』2[かっこう](2013/07/30 00:00)
[36] χ世界線3.406288 『妄想トリガー;巴マミ編』[かっこう](2014/05/05 11:11)
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[28390] episodeⅠ χ世界線0.409431「通り過ぎた世界線」④
Name: かっこう◆7172c748 ID:3f6e4993 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/02 18:32

一人じゃ、まゆりを助けられない
一人じゃ、限界があった
そう悟った
その事に気付けただけでも、同じ時間を何度も何度も繰り返してきた事には意味があった
何度も同じ痛みを味わい、何度も同じ場所の傷を抉られたことで
俺は、一人で足掻く事を諦めた

―――無茶しやがって、バカ・・・・
―――あんた、壊れててもおかしくなかったんだからね・・・

紅莉栖が手を差し出してくる 俺はそれを支えに立ち上がった 再び 立ち上がれた 諦めて それでもまた

―――行こう

―――忘れないで、あなたがどの世界線にいても、一人じゃない
―――私がいる

―――諦めない限り 未来の可能性は無限よ

俺は諦めない 絶対に


俺は―――――




世界線0.409431



キリカと岡部の最後の勝負はあっさりと幕を閉じた。
キリカは右手の鍵爪、三本のうち一本は根元から砕かれ、残りの二本には罅がはいった己の武装を見詰める。

「・・・・・・・・・」

一撃、最後の彼との衝突は、ただの一撃で終わった。

「う・・・・ゔ・・・・・・あっ、ああ・・・・・ああああああああああああああああああああああ!!!」

ずん と、ゆまは空気が沈むような、どう表現すればいいのか、落ちてくるような、確かな重圧を感じさせるほどの魔力を解放する。幼い体から溢れだす魔力は紫電し、限界以上の身体強化を、ハンマーに凶悪的な威力を上乗せする。

「あああああああ!!!!」

ゆまは一歩でキリカのもとまで跳躍する。踏み込んだ足下は爆散、砕け散ったディソードの欠片、現実から消失するディソード・リンドウの破片を吹き飛ばしながら突撃していく。

「ゆまッ、まてっ・・・!?・・・・つあ?」

ゆまを制止しようとする杏子、しかし彼女はその場に胸を押さえ蹲ってしまう。それに呼応するように後ろに控えていたミドガズルオルムも。
ヨドガズルオルムは岡部がキリカに吹き飛ばされると同時に、ディソードが砕かれたと同時にその存在を維持することが難しくなっていた。
連携魔法。文字通り複数の人間が連携して行う合体魔法。連携が崩れれば崩壊する。どちらか片方の感情が弱かったり、逆に強すぎてもダメだ。
そして、それは『失われし過去の郷愁【ノスタルジア・ドライブ】』にも似た事が言えた。
もとより分かり合うための道具。繋がる為の、連携するためのガジェット。
片方の急激な感情の揺れは連携のブレを、歪みを生む。その歪みが大きければ大きいほど相手に負担が掛かることも―――必然的にある。繋がっているのだから。

「ぐっ・・・つ・・・くぅ、・・・・くそ・・・・いっ、いけぇ!」

それでも杏子は槍を振るいヨドガズルオルムをキリカに向け突進させる。ゆまを援護するように、半壊はしても、先程までの威力はなくても、現状維持がやっとの状態でも構わずに。

「 イ ン パ ク ト ォ !!! 」

ゆまはメギィ!と、異音を放つほどの魔力を乗せたハンマーを大振りで、相手からのカウンターなどを一切考慮しない激昂に任せた力任せの攻撃を、しかし、それ故に感情は魔力を引き出して魔法となり、確かな威力を持ってキリカの頭上に振り落とされる。

「――――――ん?」

ここにきて、ようやくキリカはゆまが攻撃に出ている事に気がついた。
罅の入った鍵爪に一瞬視線を向けて、“確かめるように”ゆまのハンマーに合わせた。
今までのように、迎撃するために攻撃して相殺する訳でなく、純粋に防御のために、直撃は死を招くハンマーに、当てるのではなく、受けるように防御する。

ドッッ――――ギィイイイイイイイイイン!!!

結果、ゆまとキリカの二度目の武器の鍔迫り合いは偶然にも最初と同じように攻撃する者、防ぐ者の構図になった。
ただ最初と違い周りに破壊の衝撃が伝わる。
互いの武器の接触面から円状に衝撃が走る。マミの結界の中にいたまどか達にもソレが観えた。
まどか達から見て、小さな女の子が振り下ろしたハンマーを右手の鍵爪だけで受け止めた黒い女の人、二人の間から見えない、しかし知覚できるエネルギーのような、衝撃が互いを弾きあうようにバチバチと火花を散らしながら――――それは拮抗していた。

「うっ・・・・ぐッ」
「・・・・・・」

しかし、そんなまどか達の感想とは違いゆまは信じられなかった。自分は今最大の攻撃を放ったと、相手が誰であれ叩きつぶすことが出来るほどの攻撃をした。と、そのはずなのに相手は、呉キリカは片手で此方と拮抗している・・・・・いや、徐々に、罅の入った鍵爪の状態を確認しながら、確認する余裕を持ちながら、“押し返されつつある”。

「う・・・・ううううっ、ああああああああ!!」
「――――うん、そうか・・・・やっぱりこれは」

二人の中心、地面に立ち片手一本で防御するキリカ、空中で握るハンマーに更なる魔力を込めるゆま、二人の間で起こる衝撃が透明なカーテンのように広がるなか、ここにきて片方の武装に亀裂が入った。

ぱき

ゆまは目を見開く、最初は小さな亀裂だったが徐々に広がっていく。
一本が欠け、残りは罅の入っていたキリカの鍵爪ではなく、ゆまのハンマーが、その亀裂は止まることなく広がり限界に近づいて――――

「―――アアアッ!」
「あっ うわぁ!!!?」

キリカの気合いの入った声、ついに拮抗は崩壊し、ゆまは自身の力に吹っ飛ばされるように弾き返された。

「ゆま!?」
「ははっ、次は君かい佐倉杏子!!」

ゆまを追撃することなくキリカは背後からくる、巨大な質量を誇るヨドガズルオルムに向き直る。その態度には一切の不安はなく、だからこそソウルジェムからの魔力提供を妨げられることなく全力で力を発揮できる。今の杏子と違って。
巨大なヨドガズルオルムと小柄なキリカの影が交差する。

ズギャァアアア!!!

キリカと交差したヨドガズルオルムは今度こそ――――――完全に崩壊した。

「っ!?」
「ははっ!すっごいなぁ岡部倫太郎は!」

右腕を体の前にかざしたキリカは機嫌が好さそうに、実際ハイテンションに叫びながら突然の銃撃を苦も無く防御する。

「っ!?」
「ダメだよそんなんじゃ、今の私には届かないよ。全然ダメダメだね!少しは彼を見習いなよっ」
「なら――――これならどう!!」

ほむらの的確なタイミングで急所を狙った射撃をものともしないキリカの頭上から声。見上げるキリカの視界には

「おおうっ!?」

白銀のマスケット銃を空中に無数に召還した巴マミの姿。
このマスケット銃は単発式、魔法の弾丸とはいえ曲がったりしない普通の射撃武装だとキリカは知っている。
しかし、この銃。『鎧の魔女』を難なく、それも一撃で刻むキリカの鍵爪を防ぎ、かつ高威力の弾丸を、トリガーを引くことなくマミの意思で発射できる。
無論、キリカは負ける気はしない。が、さすがにこれには躊躇した。

「受けなさい!」

数十丁のマスケット銃、マミの号令一つでキリカへと黄金の弾丸は放たれた。
今のキリカにとって威力はともかく、その量が脅威だった。

「―――キリカ。その位置から動かないで」

しかし、親友の声が聴こえた時にはすでにキリカはなんら不安も、躊躇いも無く、右腕の構えを解き、そのまま身を任せた。

ドドドドドドドドドドドドドド!!!

マミが地面へと着地し視線をキリカのいた場所に向ける。弾丸の雨によって粉塵が舞い、足場が無いほど崩壊したその場所で、呉キリカと、美国織莉子は無傷で立っていた。

「全てを防いだというの!?」
「いいえ、さすがにあの威力を全て防ぐことは出来ないわ。私の魔法は予知。当たる弾丸だけを弾いただけよ」
「ははは、助かったよ織莉子。片手であの量は不味かったからドキドキしちゃった」
「―――ッ」
「まぁまぁ、まちなよ恩人」

再びマスケット銃を召還しようとするマミに静止の声をかけるキリカ。キリカは笑っていた。笑顔だった。当然かもしれない、彼女は岡部と戦い、相対者たる彼を吹き飛ばした。それも彼女の望んだ形で、全力で戦い、彼女はこうして立ち、彼は倒れ半身は瓦礫の下。




『さあ―――――勝負だ!』

あの時、そう言った岡部に対しキリカは笑った。

『――――――・・・・・ははっ、あははははははははははははは!!』

そこには歪んだ、狂った感情は無く、ただただ求めていたモノが目の前に、もう決して手に入らない存在が、手を伸ばせば届くと、そんな、喜びに満ちた、歓喜の、純粋な笑顔だった。

『―――そうだ!戦おう岡部倫太郎!全部をかけて、私達の全てをかけて戦おう!戦って戦って戦ってっ、そして私は―――!
『んん?何を言っているんだい君達は?岡部倫太郎は生きているじゃないか?
『そんなことないよ岡部倫太郎、だってこんなに元気じゃないか!もうワクワクしていてたまらないんだろ?やっぱり私達は同士だね!
『・・・・・・・むう、千歳ゆまも佐倉杏子もうるさいなぁ、君達は岡部倫太郎と一緒にいたんだろ?なのにホントに気づかなかったのかい?
『織莉子もかい?まったく・・・・・・って、一番の原因は岡部倫太郎だよ!君も君で何でそんなに卑屈なのさ?
『死んでる?当たり前だろ、蝉の抜け殻が生きてたら怖いよ!新生物だよ!宇宙人もビックリの新事実だよもうっ・・・・・君は人間なんだからソレは当然でしょ
『そうだよ、死んでるなら泣かないよ、痛がらないし叫びもしない
『ん?いやいやお礼なんていらないよ、同士じゃないか。それにお礼はこちらの台詞だよ。私のために君はまた戦ってくれるんだから、こんなに嬉しい事はない
『・・・・・・そうかな?そうかもね、でも私はね、岡部倫太郎
『君の方が凄いと思うけどなぁ、確かに私達は一度絶望すればそれまでだ、やり直しなんかできない
『・・・・・・うん。でもね、だからこそ私は知っているんだ
『そこからまた立ちあがることのできる奇跡を
『だから・・・・・だからさ、また立ちあがってくれて、私と戦ってくれて・・・・・・本当にありがとう
『誰にも邪魔はさせない、加減なく容赦なく遠慮なく全力で全開で――――

『―――――さあ、戦いだぁ!!!』

そう言って、互いはぶつかり合った。
岡部はキリカに向かって走りだし、キリカは、その身の大半を覆っていた黒い渦を、魔法少女の逃れることができない因果を叫びと共に吹き飛ばし、そのソウルジェムはこの場にいる誰よりも、岡部と繋がった杏子よりも、巴マミよりも、未来を知りながら絶望しない織莉子にも負けないほどの輝きを放ちながら、互いの全部で、全てをかけて相対した。
衝突したさいに目を開けられないほどの閃光が辺りを包みこんだ瞬間、ディソードの破片を撒き散らしながら―――――岡部は吹き飛ばされた。
結果はこの通り、キリカは立ち、岡部は地に倒れた。

「巴マミ、すぐに終わるからさ」
「・・・・・・何のことかしら」
「私の事さ」
「・・・・・・・・?」

マミが疑問に思っていると、怒声がした。

「ふざけないでっ・・・・・お前はっ、よくも――――お兄ちゃんをっ!!!」
「ん?なんだい千歳ゆま?」
「こっ―――の、絶対に許さない!!」

自壊も厭わずに、魔力を再びハンマーに収束させる。ゆまは怒りに震えていた。
約束を破った岡部にも、ディソードを使えば死んでしまうかもと、それなのに止める事が出来なかった自分にも。怒りが。
吹き飛ばされた岡部には回復魔法をかけた、でもいまだに彼は起き上がってこない。傷は完全に塞いだはずなのに。
そして何よりも許せなくて、怒りが湧くのが

「落ち着きなって・・・・そうだ千歳ゆま!岡部倫太郎に伝えてほしいんだ!まぁ伝える機会があればだけど―――」

この呉キリカだ。笑顔のままで話しかけてくる、それも、自分たちよりも岡部の事に関して詳しそうに振る舞い、自分たちよりも親しいように、こんな事をしておいて、ずうずうしく話しかけてくる。
それが、我慢できない。

「お前は―――ッッ!!」


「私の負けだって――――伝えてほしいだ」


呉キリカは、やはり笑顔のままで、満足そうに、己の敗北を認めた。






衝突したさいの傷はゆまに治してもらったので今は壁に激突した傷、N・Dが起動しているのでたいした負傷は無いが、岡部は立ちあがれなかった。身体に問題はない。問題は中身、内臓ではなく・・・・・精神に異常を感じていた。
そう、異常だ。ディソードが砕かれた瞬間に精神に異常を感じて、岡部は上手く思考することができない。
砕け散ったディソードの破片は一つ残らず消失し、妄想の海へと戻った。
それでも岡部の右腕にはしっかりとディソードが握られていた。
ディソードは■■していた。
ぼんやりと、それを見詰めながら、外から聞こえてくる声に耳を傾けることしか、今の岡部には出来なかった。
ディソード・リンドウから伝わる振動が、徐々に強くなっていく事を感じながら。



「キリカ?」
「いや~参ったね岡部倫太郎には、ホントは刻んで撃ち砕いてやろうとしたんだけどさ、予想外、予想以上に硬かったよ」
「なにを言って・・・・・貴女は、岡部倫太郎に勝ったのでしょう?」

飄々と語るキリカに対して織莉子の言葉は、この場にいる全員の代弁だった。

「いや?私の負けだよ――――ほら」

笑顔のまま、キリカは織莉子に鍵爪を掲げてみせる。ゆまの最大威力の一撃を受け止め、杏子のヨドガズルオルムを撃ち砕いた鍵爪。
一本が欠け、残りは罅が入ったままの、“岡部と衝突してから一度も欠けていない武装”を。

「貴女は――――彼の武器を砕いたわ、きっとあれは彼そのもの・・・・・・そういっても過言じゃないわ。貴女は彼に打ち勝ったんじゃないの?」

織莉子も、見ただけだがディソードの特性というか、それがどういったものなのか漠然とだが解っていた。どうしようもなく終わっていたアレは、死んでいたアレは岡部倫太郎そのものだと。そう思わせる何かが、あの剣にはあったのだ。
直接ぶつかりあったキリカが一番分かっているはずなのに。

「抜け殻の事?あんなの唯の飾りじゃないか、誰でも壊せるよっ、私は今の岡部倫太郎を砕く事は出来なかったよ」
「え?」
「んん?・・・・・・あれ?もしかして・・・・・みんな勘違いしてる?」

キリカはそれを是としない。ゆまですら、岡部は負けて、キリカが勝利したと思っているのに。逆にキリカが皆、状況を理解できていない事に不思議がっている。

「ん~。まぁ・・・・・いっか。とりあえず伝言は任せたよ千歳ゆま。さっきも言ったけど出来たらでいいからね」
「え・・・・・え?なに・・・・なんなの、お前何言ってるか分かんない!」
「ふふん、君よりも私の方が岡部倫太郎の事を理解しているという事さ!」
「ッ、お前なんかにお兄ちゃんの何が解るっていうの!お前なんかよりゆまとキョーコの方がもっと知ってるもん!!」
「いやいや、私の方が」
「ゆま達だもん!」

ゴッ と、再度の魔力を込めたハンマーを構える。瞳には怒りを灯し突撃の姿勢にはいる。
そうだ、惑わされたはいけない。自分達はずっと(二週間)一緒にいたし何度も(N・Dで)繋がっていた。全てとは言わない、でも誰よりも彼の事を知っていると、何か抱え込んでいる事は知っていた。それはN・Dがなくてもきっと気づいてあげられたと胸をはって言える。そうだ、目の前の女よりも自分達の方が彼の事を知って―――

「岡部倫太郎が浮気していた事に気づいてなかったろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しないもん」
「ん?」
「お兄ちゃんは浮気なんかしないもん!」
「それはどうかな~、君は知らないだけだもんね、私は知ってるけど」
「キョーコ!」
「え?あ、ああうんそうだな、岡部倫太郎はそうだ・・・・・・・・よな?」
「ほら!キョーコもこう言ってるもん!お前の嘘なんかに騙されるもんか!!」
「でも佐倉杏子は完全には否定してないよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・杏子?」
「まあまあいいじゃないか千歳ゆま、男の子はある程度発散させないとね。あんまり束縛すると嫌われちゃうぞ」
「お兄ちゃんはゆまの事嫌いにならないもん!!!」

叫び、また一歩の跳躍でキリカまでの距離を詰めハンマーを振るう。
キリカはソレを「ん」と、軽い動作で、罅だらけの鍵爪で迎撃する。

ズパンッッ
「!?」
「そんな壊れた武器で戦っちゃダメだよ」

元より壊れかけ、ゆまのハンマーはそれだけで砕け散った。両手で握っていた柄の部分も、連鎖するように罅割れて粉々になった。。

「その点、私と織莉子なら―――」
「キリカ」
「ぐぇっ――」

自慢気にその続きをしようとしたキリカの襟を引っ張りながら織莉子は後ろに跳躍する。直後、キリカのいた場所に杏子の槍が突き刺さる。
杏子は立ちあがっていた。未だに不調があるのか胸をおさえたままだが、落ち着いてきたのか、キッ とキリカ達に視線を向ける。

「ゆまっ、近すぎる、離れろ」
「でもキョーコ―――」
「武器も無しにどうするつもりだ!!さっさとさがれ!」
「うっ・・・・うう」

ゆまがさがるのを、マミに引っ張られるのを確認してから杏子はキリカに尋ねる。

「で、どう言うことだよ?」
「げほげほっ・・・・・ふぅ、びっくりした。・・・・・・ん?ああ岡部倫太郎の事かな?」
「ああ」
「うん、私と織莉子ならある程度の浮気には寛大な心で許すから君たちよりも―――」
「・・・・・・・・・そっちじゃねえよ」
「・・・・・私もなの?」
「ああ、こっちじゃなくてそっちのこと?・・・・・・・あれ?というか佐倉杏子は岡部倫太郎と今も繋がっているんでしょ?なら解るんじゃないかな、彼・・・・・今はどんな感じ?」
「お前がっ、お前がお兄ちゃんのこと言うな!!!」
「・・・・・・・・わからない」
「キョーコ!?」
「んん?わからない?」
「・・・・・・・ああ、わからない」

ゆまの叫びを、非難ともとれる叫びを聞きながら、杏子は岡部を、視線を倒れている岡部にチラッとむける。仰向けに倒れ、半身を、壁との衝突の際に崩れた瓦礫に右腕を潰されるようにして動かない岡部に。
ゆまが回復魔法をかけた。なら少なくとも肉体的には問題はないはずだが起き上がらない。気絶しているわけではない、繋がっている杏子には分かる。なら、何故立たないのか。分からない。岡部の感情が、漠然とだが、どう表現すれば解らないが、近い、一番分かりやすく表現するなら今の岡部の精神は

暴走していた。





「・・・・・・・・・・・ふ~ん、まぁいいかな?織莉子」

キリカは杏子の返事に納得がいかなかったような表情だが、さして気にすることなく織莉子に向き直る。さっきから話がポンポン変わるキリカ、それは彼女が急いでいるからだと織莉子には感じた。

「なに―――キリカ?」
「うん、君にも伝えておきたくてね!」

もう、彼女は―――――。だから、親友の言葉を聞き逃さないように、織莉子は真っ直ぐにキリカを見詰めながら言葉をまった。どんな言葉でも受け止めてみせると。


「私はね織莉子、君が別の道を選んでも怒らないよ?」


だけど、驚いた。

「キリ・・・・カ?」
「あっ、言っておくけどこれまでを否定する訳じゃないよ?これは絶対だから信じてよね」
「う、うん それはもちろんよキリカ、でも・・・・それは?」
「うん、この道が間違っているなんて私は思わない。織莉子じゃないと防げないって私は思っているしね・・・・・・・でも、君がこの選択を選んだ事を悔やんでいる事も解っているんだ・・・・時間は限られているからね」

岡部倫太郎を観測した事で可能性は増えた。しかし時間は有限で、そのことに織莉子が悩んでいるのをキリカは知っている。

「でもね、だからこそ――――」

チラッ と、キリカは岡部に視線を一瞬向けて、織莉子の瞳を真っ直ぐに見詰めながら伝える。

「今よりも君の望む未来があって、それを求めるなら、その可能性を信じたいと願うならさ、ソレを目指すなら――――私の事は気にせずそうしてほしい」
「キリカ!」
「大丈夫だよ。私は怒らないし応援する。だって私はキリカと一緒にいたいから、キリカと共に歩んでいくから。例え今とは別の道を選んでも私は織莉子と共にいる。」

キリカの想いを織莉子は聞いて―――――。
ただ、ソレを聞いていて、周りは黙っていなかった。

「・・・・・・貴女達はこの学校の生徒に何をしたか忘れた訳ではないでしょうね」

巴マミ。彼女は織莉子とキリカの事情を知らない。だが、彼女達が魔女を使って結界を張り、それが原因で被害が出ている事に変わりはない。見過ごすわけにはいかない。彼女達は『魔法少女狩り』の犯人でもあるのだから。

「・・・・・都合良く、このままゴメンナサイで済むと思ってるのか」

佐倉杏子。ゆまと岡部、自分の家族を傷つけた人物を彼女は許さない。マミ同様、彼女もキリカ達の事情は知らない。しかし、ゆまを魔法少女に誘導し、一度は岡部を殺しかけた連中だ。危険な存在であることは間違いなく、このままでは気が済まない。

「・・・・・・・・」

暁美ほむら。彼女は・・・・・どうなのか、正確には本人も解らない。まどかの排除。それが、それに類似するものなら絶対に受け入れられない。しかし戦って勝てるとは思えない、なら、このまま手を引くというのならこの場は見逃し一旦体制を整えるべきか、しかし今は味方、杏子もマミもいる。この機会を逃せば勝機は無いかもしれない。

それぞれが、それぞれの想いで武器を構える。

「・・・・・う~ん、岡部倫太郎がいれば話が出来たと思うんだけどなぁ」
「テメエのせいだろうが・・・・・」
「違いない。それじゃ交渉は決裂で話し合う間もなく、後は互いの望んだ未来のために・・・・・・じゃあ、最後の戦いを始めようかな」

ガシャン と、それぞれが武器を構え再度戦闘が始まろうとした――――その時、キリカは膝から崩れた。

「あっ・・・・・あれ?」
「キリカ!」

かくん と、倒れそうになるキリカを織莉子は後ろから支える。
ガシャンッ、と、キリカの右腕から鍵爪が消滅する。
マミ、杏子、ゆまは困惑した。今の今まで無敵の戦闘力を発揮していたキリカの突然の不調に、織莉子とほむらだけが、その意味を正しく感じ取っていた。

「・・・・・・あちゃー、もうホントに限界みたいだ」
「――――ッ」

ソウルジェムから、魔力で強化されていた体から一気に力が抜けたのか、キリカは急速にその表情から生気を失いつつあった。
しかし、それでもその顔には笑みがある。満足しているのだろう、後悔が無いとは言わない、可能な事ならもっとこのまま織莉子と過ごしたかった。
でも、それでも彼女は、呉キリカはこの状態を受け入れていた。今ならまだ“自殺が出来る”にも拘らず――――死ぬことの恐怖を、変わる恐怖を理解しながら。

「キュウべえ、君が真実を話さないのは・・・・・・さ、こういうことがあるからなのかな?」
『どう言うことだい?』

キリカの胸に後頭部を埋めながら、キリカは傍観を続けていたキュウべえに語りかける。

「だからさ・・・・・真実を知った魔法少女は、いや、契約する前の少女達に真実を話したらどうなるのかなって」
『契約を渋ると思うよ 経験上 ソレを知って契約してくれる子は少ないね』
「そう、少ない。でもいるんだね?それでも契約するんだよね・・・・・・その子たちはどうなったの?」
「キュウべえ・・・・・何の話?」
「おい・・・・お前アタシ達に何か隠してんのか?」

マミと杏子が会話に疑問を問いかけるがキュウべえは答えない。キリカとの会話に集中する。

『それは―――』
「自殺する人もいたかもね・・・・・・・でも、そうじゃない人もいたんじゃなの?最後まで戦って、でも絶望することなく『反転』した人もいたんじゃないかな?そしてその人達に限って、もしかしたら理解者・・・・・“君たちに賛同する人達に限って得られるエネルギーは少なかったんじゃないかな”」
『・・・・・・・・・・・その思考にいたった訳はなんだい?』
「・・・・・ふふ、続きは岡部倫太郎にでも聞いてみてよ」
『岡部倫太郎?』
「きっとさ、岡部倫太郎は・・・・・・・・・まあ、これも岡部倫太郎から聞きなよ」
『?』
「うん、じゃあねキュウべえ。私は君にも感謝しているよ。“ありがとう”」
『真実を知ってお礼を言われたのは――――』
「初めて?それとも“憶えていない”?」
『・・・・・・・』
「それも含めて聞いてみると良いよ、私はいろいろ“観ちゃった”から」
「――――ッ、お兄ちゃんの!?」
「うん、そうだよ千歳ゆま」

ゆまはキリカの台詞に憶えがあるのか叫ぶ。そんなゆまの言葉をキリカは肯定する。
彼女は岡部倫太郎を観た。砕かれたディソードの破片を至近距離か浴びて、ゆまが教会で砕けた破片から岡部の感情を感じたように、ソレを超える量を、濃度を至近距離から浴びることで呉キリカは岡部倫太郎を“観た”。

「最後にもう一度言うよ、『今回は私の負けだよ。諦めたうえで立ち上がった君は、ある意味では諦めずに立ち続けることよりも凄い事だと』・・・・・・私はそう思うんだ。諦めるという事、それがどういうことか知っているから尚更ねぇ」
「う・・・・あ?」
「じゃあ、確かに頼んだからね?」

そう言ってキリカは自分を抱きしめる織莉子の腕に触れ、そしてそのまま後ろ向きのまま頬に、優しく触れていく。

「ほらほら泣かないでよ織莉子」
「キリカ・・・・・私ね」
「うんうん」
「頑張るから、貴女の分も、もっともっと頑張るからっ!」
「頑張りすぎて倒れちゃダメだよ?」
「それでもっ・・・・・」
「ダメだよ、君はいつもそうやって無理をする。心配じゃないか。だからさ―――」
「え」
「私が半分持ってあげる。一緒にいるんだからね」
「キリ―――カッ」

濡れている頬を優しく撫でながら、キリカは視線を上に、涙を流しながら此方を抱きしめる織莉子と視線を合わせる。

「約束したでしょ 私は例えどんな姿になってもキリカを支える――――だから、一緒にいこう」

そう言って、にっこりと微笑んだキリカは、そっと瞳を閉じた。
キリカの体から完全に力が抜けていく、それを感じ取り織莉子はいっそう強く彼女を抱きしめた。



「忘れないでね織莉子、例えどんな道を選んでも私がいる。絶対に一人なんかにはさせないから――――――」



直後、キリカのソウルジェムが織莉子とキリカの間から飛び出し二人の頭上でソレは成る。
魔法少女の杏子、マミ、ゆま、そしてまどか達の間の前でソウルジェムは反転した。
宙に浮いた黒い菱形のソウルジェム。それを中心に狂った風が舞う。

「なに?」
「うわっ!」

希望は絶望に、祈りは呪いに、願いは妬みに。魔法少女の全てはこのために。
希望から絶望への相転移、そこから生まれるエネルギーで世界の消失を防ぐ。

「この結界を作っていたのは―――」

ほむらは理解する。理解した。キリカ達の会話からある程度の予測はしていたがそれはとても馬鹿げた、しかしソレは今、目の前で事実となり形となる。
ソウルジェムの許容量を超えた呪いと穢れはソウルジェムを破壊し世界へと溢れだす。
新たな形、存在へと再構築される。
皆が見詰めるなかキリカのソウルジェムはグリーフシードへと、魔法少女の魂は魔女の卵へと反転した。

そしてこの瞬間、世界に新たな魔女が誕生した。







・・・・・・・・ィィィィィィィィン


キリカの最後の言葉を聞いて岡部の体はピクッ、と動きだす。それに呼応するように瓦礫の中で、岡部のディソード・リンドウが僅かな、しかし確かに世界に対し反応を見せ始めた。
キリカの言葉に、何時か聞いた誰かの言葉を――――思い出しながら。




「なに・・・・・・これ?何が起こったの?」

マミが呆然となって呟くなか、ソレは形を成した。
それは全体的に黒く、細長い魔女だった。
女性の胴体を三人分くっ付けたような体から刃を伸ばし、自身の身長並みに長く細い腕の先端は禍々しい鎌。顔のパーツな無く、のっぺら坊のようで頭にはシルクハット。シルクハットには咲いた華、華のように見える。リボンを花弁のように見立てながら中心からは大きな目玉が此方の様子を観察するようにギョロギョロと動く。それがなければシルクハットを飾る華に見えたかもしれない。

「キリカ・・・・・・」

織莉子は親友の変わり果てた姿を見ながら思う。ここは私の観た未来とは違うと。自身の持つ固有の魔法、予知には既に意味が、信頼性が失いかけている。
しかしそれでも構わないと織莉子は思っている。


『大丈夫、私は何があっても決して織莉子を傷つけたりなんかしない。いや、むしろこうなることでキミを護ることができるならば』
『やすらかに絶望できる!』


枝分かれした未来。そのほとんどので―――――そう言って魔女になったキリカと共に戦う未来。
それは結果だけ見ればそれは今と変わりはしない。

「でも――――貴女は最後まで絶望なんてしていなかった!最後まで笑って、そして私と―――――またっ、また約束してくれた!!」

ヴヴヴッ、と、織莉子の周りに光か次々と収束し、それは黒と白の合わさった宝玉となる。その数は7・・・・・13・・・・25と増えていく。
そして、ある程度の数を生成し終えたとき、なにも知らない彼女達が立ち直る間もなく、戦闘は再び開始された。


『・・・・・・・・・・・』

キュウべえは無表情のまま戦闘を観測していた。疑問がある。最初からおかしかった。美国織莉子の魔法は予知。呉キリカの魔法は速度低下。魔女を、使い魔を操る魔法を持っていないにも関わらず使い魔を使役していた。今なら理解できるか?否、さらに出来なくなった。キリカのソウルジェムは半壊していて魔法少女と魔女の中間のような機能をしていた。“それなら解る”。いかに引っ張られようと魔法少女、そんな奇跡を起こすかもしれない、それだけ彼女達の感情の生み出すエネルギーは・・・・・・・奇跡?では今も奇跡なのか?既に彼女は魔女となった。先程までの中途半端な存在ではなく完全なる魔女に。何故戦える?呉キリカという少女の魂は反転した。既にアレは呉キリカとは別の存在。何故未だに“織莉子と協力して戦っている”?。アレはもうキリカではないのに。『魔女は敵』。火は燃えて水は流れる。投げたモノは地面に落ちる。熱い紅茶は時間と共に冷える。それと同じだ、そういう概念レベルで魔女とは、『そういう存在』のはずなのに・・・・・・どうして。かつて前例のない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・前例の・・・・・・無い

『・・・・・・・・・・・・』

本当に?本当にそうか?過去、有史以来から続く関係の中で本当に無かったのか?キリカ以上の素質をもった魔法少女も沢山いた。その彼女達も魔女になって・・・・・・・・・キリカのような、いや、あの魔女のような存在は皆無だったか?自分は全てのインキュベーターと記憶と経験を共有している。ならあるかもしれない。それだけ自分達は長い時間を人類と共有して―――――――なぜ、すぐに思い出せない。呉キリカは言っていた。理解者がどうのこうのと、いない、そんな人類は―――――“思考する”。

――――――初めて?それとも“憶えていない”?

呉キリカはそう言った。

プツンッ



『・・・・・・・・』

キュウべえは感情の読めない無表情のまま戦闘を観測していた。
しかしそこには何の疑問も無く、ただこのままではマミ達が負ける。と、やはり感情の感じられないまま――――――キリカが魔女へと反転してずっとこのまま、思考することなく目の前の戦いを観測していた。
何も疑問に思うこと無く。キリカが自分に何を言ったかも――――既に憶えていなかった。





「マミさん!ほむらちゃん!」

結界内のまどかが叫ぶ目の前で、一方的な戦闘は続いていた。

「貴女達は絶望を知って戦えるの?戦うことができるの?」

魔法の宝玉が光の軌跡を描きながら迫る。10や20どころではない、さっきから30,40と数を増やし四人の魔法少女に襲いかかる。

「たあっ!」

ずん と、ようやく新たなハンマーを生成したゆまがハンマーを地面に打ちつけ、その衝撃が扇状に広がり眼前に広がる宝玉と衝突していく。ほむらの弾丸を弾いたほどの魔力が込められていないのか、質より量を優先したのか、ほとんどの宝玉は衝撃波のカーテンを突破できず爆散する。

「おおっ!!」

それでも宝玉の勢いは止まらず、しかしその間を縫って杏子は魔女へと接敵する。
魔女が体から伸びる刃を発射し牽制するも杏子は槍を回転、弾きそのまま勢いをつけて魔女の胴体目掛けて槍を振るう。
ガキンッ と、金属同士が当たる音、寸前で鎌のような腕に受け止められるも杏子の動きは止まらない。
ぱきん と、キリカ相手にも使ったように槍を多節根へと変えて鎖を伸ばし魔女の体を拘束、伸びた多節根の一部を槍へと再接続し連撃する。

(いける!)

岡部の状態は解らないが徐々に落ち着いてきた。そう思い、そう思おうとして、―――――やはり杏子の感情は揺れていた。彼女は気づいていない。叩きこんだ攻撃には魔力がこもっていなく、ダメージとは程遠い打撃にしかなっていないことに。
さらに―――

ドン!
「うわッ!?」

マミの放った弾丸が杏子の傍を通過、危うく同士討ちになるところだった。

「マミ!何すんだよ邪魔すんな!」
「あなたこそむやみに突っ込んで射線に入らないで!」

普段なら起こらない連携のミスが目立つ。
魔女がそれを見逃す訳も無く大振りで空中のいる杏子に攻撃する。巻きつかれた鎖にさほど邪魔されることなく、今や大鎌となった腕を叩きつける。

「っ!」

防御には成功するが後方にいたマミを巻き込みながらそのまま吹きとばされる。
そこにカウンターとしてほむらが前にでるが――――魔女の攻撃が加速した。

「ッ!?」
カチッ 

時間停止、目前に迫った大鎌の軌道から身を逸らす。

(速い・・・・長期戦は不利)

恐らく速度低下、この魔女は呉キリカの魔法をそのまま継承していると判断する。

(!)

大鎌の先、ほむらの後方に少女、千歳ゆまがいた。おそらくほむら同様カウンターを決めようと自ら前に出てきたのだろう。ただ、止まった時間の中で彼女は魔女の攻撃にまるで反応できていないようだ、攻撃が加速している事に気づいていない。このままでは直撃だ。

カチッ
ズガン!

世界が動きだしたとき、魔女の大鎌はなにも無い地面を撃ち砕いた。
ほむらは首根っこを掴んだ少女をポイッ と投げ捨てる。

「あいたっ・・・・・・・・って、あれ?」
「あいつ等は私が倒す」

何が起きたのか解らないゆまを無視し、ほむらは三人に言葉をなげる。

「あなた達は足手まとい。引っ込んでいて」
「なっ、ふざけんなよ!」

杏子が吼える。ほむらとて解っている。しかしダメだ。今の彼女達には迷いがある。さっきから同士討ちを繰り返し・・・・・これではいない方がまし、といった状況だ。
ほむらは解っている。このままでは勝てない。彼女達の協力が必要で、でもこのままでは――――。
誰もが不安を抱えたまま戦闘は続いていく。
不安を、負を、ソウルジェムはソレに反応し、魔法の効率を下げますます悪循環で脆くなる連携、織莉子はその様子を冷静に、落ち着いて、けれど油断なく観察する。

「・・・・・・・・貴女達は、真実を受け止められないのね」

彼女達は何が起こったのか理解している。しかし受け入れられない。異物のように毒のように、えづき侵され壊れていく、だから心乱れて戦えない。
今まで敵対してきた魔法少女のように。

「私は、キリカは真の恐怖を識っている。こんな真実恐れることなどないわ」

パリッ と織莉子の周りで紫電が舞う。

「自らの運命すら受け入れられずただ立ち竦む哀れな魔法少女達」

それらは光を収束し宝玉へと、魔力を込められて杏子達へと殺到する。

「立ち上がることが、乗り越えることができないならここで―――――せめて安らかに眠りなさい!」

魔女を相手に苦戦する四人は宝玉による攻撃を回避することができず爆発に巻き込まれる。
否、一人を覗いて。

カチッ
「そうね、貴女は識っていたわね・・・・・・・それで?」

時間停止で回避したほむらは織莉子に向け攻撃、銃弾を叩きこむがやはりかわされる。

「貴女は諦めずに戦い続けるの?」
「っ!?」
「私は・・・・・・私は諦めない!」
「なにを―――私だってまどかを必ずっ、必ず助けてみせる!」

光の軌跡を描く宝玉と、火花を散らす銃弾が幾度も交差して、そして――――

「あぐっ、つぅ・・・!」

ほむらは叩きつけられた。せき込み、血を吐き出す。一体何度目になるのか。勝てない。暁美ほむらは美国織莉子にどうしても勝てない。
ほむらは知らない、既に未来は、織莉子の未来視は意味を成さないモノになっていることを。それでも、彼女は勝てない。
織莉子はそんなほむらの、後ろにいる杏子達全員に、それこそ結界内のまどか達、そして未だに倒れている岡部にも向かって宣言する。

「私は絶対に諦めない!」

白のドレスは魔力を大量に内包し、その可憐で豪華な衣装からは想像できないほどの魔力を解放、周りには圧縮されたエネルギーを限界まで溜めこんだ宝玉。
そしてそれらの魔力を全開で操りながらも胸元のソウルジェムは一滴たりとも濁ることなく輝きを魅せつける。

「例えどんなに暗い未来が訪れようと抗う」

その姿は、敵対しながらも杏子達には、まどか達には

「キリカが教えてくれた!」

魔法の担い手に恥じる事のない

「どんなに絶望的でもっ、意思と覚悟をもって―――――私は望みを叶える!」

奇跡を叶える者。

「私は・・・・諦めない。絶対に・・・!」

魔法少女。

「私は未来を紡いでみせる!!」

美国織莉子は間違いなく今、誰よりもその名が相応しい存在だった。

そして戦闘は激化していく。
一方的に、キュウべえはそれを安全な位置で傍観していた。逃げるわけでもなく、マミ達に助言をすること無く、ただ観測するだけ。
だから気づいた。戦闘とは別の音が。闘争の音に負けない力強い音が。
不協和音が―――――キュウべえの視界、瓦礫に埋もれる岡部の右腕から響いている事に。







戦闘は続いていく、杏子は槍を振るい、マミは射撃を繰り返し、ほむらは織莉子、魔女に直接攻撃を、ゆまは回復と衝撃波による牽制を、誰もが戦っていた。
少なくとも表面上は、目の前の真実に抗っていた。

(魔法少女が魔女に・・・・・?私も・・・・私もああなるって言うの?)
「マミ!」
「―――え?きゃあ!?」
ズガンッ!

キリカの、魔女の大鎌が地面に打ち込まれる。寸前で回避した杏子は着地と同時に前に出る。

「戦えないなら下がれ!」
「私はまだっ――――――あぁっ!?」

杏子の言葉を否定しようとマミは新たなマスケット銃を召還するが魔女の刃が彼女を襲う。魔女の加速した、正確には此方が減速された状態だが、普段のマミならその攻撃をかわして反撃もできた。しかし出来ない、揺れている、戸惑っている、恐怖している。
巴マミは魔法少女として高い能力を有し使い魔を、自身に実りが無くとも他人のために魔法を使う稀有な存在だ。魔法少女である事、魔女を倒す事、人を助ける事に誇りを持っている。
それは少なからず寂しさや、孤独といった感情からきている。彼女は知っている。それでもその誇りを支えにして生きている。ソレを理解しながらも彼女は戦ってきた。
そして今、その誇りを、支えを失ったと理解した。誰かを助けるために戦っていたはずなのに、孤独に耐えながら戦ってきたというのに、いつしかその身は呪いを振りまく存在、魔女になる。そのことが、どうしても彼女から力を奪う、生きるという絶対の意思すらも。

「マミ!――――ちっ、調子に乗るなよッ!」

叫び、己を鼓舞する杏子。

「オォッ!」
ヒュパッ

槍に魔力を乗せ――――しかし、あっさりとその槍は魔女の大鎌に弾かれる。
普段の彼女なら有り得ない事態。揺れている、戸惑っている。

「しまっ――――!」
ブンッ―――ゴッ!
「うわぁっ」

とっさに鎖による結界、盾を生成し防ぐが、ゴキャッ と、鈍い音と共に叩きつけられる。

「かッ・・・・はぁっ・・・・はぁ・・・」

即座に置きあがり追撃の攻撃をかわす杏子、しかしそこにはいつものキレはなかった。
佐倉杏子の精神は岡部倫太郎が知る限り誰よりも強い。もしかしたら岡部よりも、ほむらよりも、岡部は本気でそう思っている。時間をおけば杏子はこの真実とも向き合えたかもしれなかった。
しかし今は、どうしようもなくタイミングが悪い。
今の彼女の頭の中は複数の思考がめちゃくちゃになっていて冷静ではいられない。
魔女や織莉子との戦闘、攻撃か回避か、続行か撤退か、起き上がらない岡部、戸惑うマミ、織莉子と魔女の連携を崩そうと動く知らない魔法少女、そして―――ゆま。出会って二週間、自分と関わることで契約してしまった、知らされた真実。フォローは。新たな家族。もう後戻りはできない。優しい未来。内緒に計画している旅行――――――。
杏子は歴戦の魔法少女、戦士だ。今は戦闘中、あとで考えればいい。分かっている。彼女一人ならそうした、そうすることができた。
でも今の彼女は一人じゃない、どうしても気になってしまう。自分といてくれる二人の事を、ゆまを、岡部の事を考えてしまう。
一人になってから自分のためだけに魔法を使うと決めて、だけど忘れていた想いを思い出させてくれた二人が、家族が。皮肉にも、そんな大切な二人の存在が杏子を、その精神を弱くしてしまった。

ズドンッ!

「あぐっ・・・・・ぁ――――」

そしてまた彼女も倒れた。

「キョーコ!マミお姉ちゃん!」

ゆまは倒れた二人に駆け寄り回復を行おうとして―――――――宝玉と魔女からの攻撃を受けた。

「きゃあっ」

直撃は避けたもののゴロゴロと数mも地面を転がる。痛みに震え、それでも顔を上げた彼女の視界に新たな宝玉が襲いかかる。ゆまはつい反射で、両手で頭を庇う、その程度では防げないと解っていても恐怖でそうしてしまう。

「止まらないで!」
ドンドンドン!

銃声。ゆまに迫っていた宝玉を撃ち抜き叱責するほむら、幸い今の宝玉には銃弾で対処できた。でも次は解らない。だからほむらは前に出る。ゆまに二人の回復させる時間を与えるために。単身織莉子と魔女の相手をする。
ほむらの意図を正確に感じ取ったゆまは杏子とマミに駆け寄る。

ドゴンッッ!!!

しかしその直後に爆音が辺りに響く。ゆまは爆風によろめき、次いで背中に衝撃を受けた。

「うわぁっ?うく・・・・・うぅッ?―――おねえちゃん!!?」
「う・・・・・・あっ!」

背中の衝撃は吹き飛ばされたほむらがゆまの背中に激突したモノだった。
ほむらは前に出た瞬間魔女の速度低下と大鎌、織莉子の宝玉の爆風全てに対処しなければならない波状攻撃を受けた。
彼女は常に観測されていた。織莉子の予知に。いや、もう予知じゃない、予測・・・・枝分かれしすぎた未来視の中で高確率の可能性を織莉子が予想、勘で。対応される。
ゆまが視線を向ける先には織莉子と魔女が追撃せずに立っていた。距離は10m前後、いつでも攻撃できる距離、しかし攻撃することなく倒れている此方を見降ろしている。その視線に油断はなく、侮蔑も無い、そして絶対の意思を宿しながら、挑むというなら容赦はしないと、理解させられる。いかなる障害、絶望からも逃げず、立ち向かう確固たる意思を感じさせた。

――――勝てない。

「あ・・・・、ああ・・・」

幼いながらも、ゆまは思った。ダメだ、勝てない。だから急いで皆を治さないと。

「まっ、まっててすぐ治しから!」

諦めない。ゆまはまだ諦めていない。でも―――

「いい・・・・!ゆま、お前は逃げろ!」
「――――え?」

杏子から、想定外の言葉を聞いた。マミからも―――

「そうね・・・傷を治してどうするっていうの?見たでしょう?・・・・・・ソウルジェムは魔女を産むのよ」

杏子と岡部がとても強いと教えてくれた彼女からも弱音を・・・・・・・諦めている言葉を。絶望している言葉を聞いた。

「魔女になるくらいなら・・・・ここで死んじゃった方が良いじゃない・・・・」
「マミおねえちゃん・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・キョーコ」

マミの涙を流しながらの・・・・・疲れ切った顔と声に杏子は何も反論せずに口を塞いだまま沈黙する。ゆまはそんな二人に何を言ったらいいか解らず、どうしたらいいか混乱する。信じられなかった。マミの事は話でしか知らない、でも杏子とは一緒に過ごしてきた、そのなかで杏子の強さと在り方を知ったゆまは今の杏子の弱々しさに衝撃を受けていた。





「・・・・・・・・」

織莉子はその様子を眺めていた。全員が満身創痍。おまけに戦う事を放棄している。回復魔法の使い手に逃げろと、それは諦めている事にほかならない。
巴マミは完全に。佐倉杏子は中途半端に、しかし起き上がろうとしない。暁美ほむらは体の痛みに震えている。戦おうとしているのか、その割にゆまに回復を望む声をかけない。

「・・・・・貴女達は」

ポツリと、呟く。キリカが反転した・・・・親友だった魔女が彼女達に近づき腕を振り上げる。四人に止めを刺すために、無抵抗な彼女達に。このまま大鎌の直撃を食らえば死んでしまうだろう。織莉子は冷静にそう思う。
その方が彼女達にとって幸いなのかもと、真実に耐えきれないなら、このまま生き残っても、見逃しても後に魔女化することは目に見えている。なら、そうなる前に人として終わらせることは、終わる事は彼女達にとって救いかもしれない。絶望に呑まれ、後悔して死んでしまうよりも、完全に絶望する前に・・・・・これまで殺してきた魔法少女達のように。
そう思う。

「ここで・・・・・・・・・・・諦めるの?」
「え?」

なのに、織莉子は自然に声を出していた。独り言のように、語りかけるように。

「貴女達はまだ・・・・・・・・」

ゆまがその言葉に振り返る。織莉子と視線が合う。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

織莉子の瞳に吸い込まれるように、ゆまは視線を外せない。織莉子の視線は何かを訴えているようだった。不思議と、何かを求めているようだった。
ゆまはその瞳を知っているような気がする。つい最近見たことがある――――と。
織莉子が何故このタイミングで言葉を投げかけたかは解らない、何を望んでいるのか、何を求めているのか解らない。
何かに気づきかけ織莉子から視線を、外せなかった視線をチラッ、と、視線を動かし大きな存在、近づいてくる魔女を見る。

(・・・・同じだ)

そして気づいた。思い出した。そう、今の織莉子から感じる視線、瞳は魔女の・・・・・呉キリカと同じ―――――。

ズン!

目の前、魔女はゆま達のもとに辿りつき、そしてゆまの頭上、魔女の大鎌は―――――振り抜かれた。
ゆま以外は立ち上がらず、傷ついたまま、諦めて。

「マミさん!ほむらちゃん!逃げ―――」

まどかが叫ぶなか、絶望する少女達をこれ以上苦しませないために―――――その大鎌は振り落とされた。













「―――――――諦めないよ」

直撃する。誰もが、“織莉子以外”がそう思ったその時、ゆまのハンマーに魔力が走る。

ドバンッ!!!

魔女の大鎌を弾き返したゆまのハンマーには力強い威力が宿っている。
それは、未だ諦めていない証拠、ソレを見て、敵である織莉子は無意識に微笑んでいた。

「・・・・・・・そうね、諦めてはダメ。だってあなた達はまだ生きているもの」

その言葉は小さくて聴こえなかった。
ゆまがこうする事を織莉子は知らなかった。識らなかった。見えなかった。でも、そうすると思っていた。そうしてほしかった。
ギュッと、両手で武器を握りしめる小さな少女に織莉子は視線を向ける。今度は聞こえるように問いかける。

「あなたは諦めないの?」
「諦めないよ」
「他の・・・佐倉杏子も諦めてるのに?あなた以外が諦めているこの状況で?」
「うん、ゆまは諦めないよ!」

ゴッ、再びハンマーに魔力が走る。うなじにあるソウルジェムから輝きが見てとれる。そして視線は真っ直ぐと織莉子と魔女に。怖くない訳じゃない、その体は震えている。やけになっているわけじゃない、確固たる意志を感じる。

「どう・・・・して?」
「――――マミおねえちゃん?」
「どうして・・・・・まだ生きようと思うの?」

マミが泣きながら、懇願するようにゆまに尋ねる。どうして真実を知って生きようと思えるのか。
問う。“どうしたら生きていてもいいのか”。

「ゆまはね、ママにいじめられた時いつも考えてたよ。死んじゃった方がいいって」

母親からの虐待。幼い少女の体に傷跡が残るほどの、愛情を欲する時期に与えられたのは理不尽で暗い絶望。

「でも魔女に襲われて死んじゃうってとき・・・・ゆまは必死に生きようとしたんだ」
「いつか!・・・・私達はその魔女になるのよっ、呪いをばら撒いて・・・・人を殺す化け物に!」

それが真実、それが魔法少女。絶望しソウルジェムが濁りきった時、それは決して覆らない。
でも、だけど―――



「“いつか”は“いま”じゃないよ」



ゆまは視線を織莉子と合わせる。彼女は此方をじっと、まるでゆまが生きる事を諦めない事を信じていたように、呉キリカが岡部倫太郎に向けていた視線をゆまに向けていた。

「人はいつか、みんな死ぬよ」

次に魔女となった呉キリカにも視線を合わせる。魔女は此方をじっと、まるでゆまが戦う事を放棄しない事を迎えるように、その身を構える。相対するに相応しいと、身構える。

「キョーコとマミおねえちゃんは―――――ほんとうに“いま”死ぬの?」

そう言って、唯一立ち上がろうとしているほむらに回復魔法をかけて、千歳ゆまは跳び出した。

「ゆまはそんなの認めない!諦めない!」

目の前の敵に向かって。経験、実力、能力、覚悟、全てにおいて上回る相手に単身で。
恐怖は当然ある。勝てない、でも戦う。退路は無く、戦わないと負ける。
彼女は、諦めない。
呉キリカのように。
美国織莉子のように。
かつての彼のように、魔法を、奇跡を宿す彼女は諦めない。



ガキュン と、ゆまの攻撃は魔女の鎌に弾かれる。
ギュン と、お返しとばかりに魔女は反撃する。
キュン と、その鎌に合わせるように武器を乗せ、杏子のように攻撃を受け流し、勢いを殺さぬままハンマーを振るう。
ゴガキッ と、魔力の込められた宝玉が三つ、ハンマーの軌道上に入り振り抜く動作を妨害。
ズガンッ と、宝玉は爆発しゆまを弾き飛ばす。追撃で魔女は攻撃、鋭い大鎌は少女を狙う。

「ッ!」

ゆまはそれをギリギリで防ぎ着地。すぐに攻撃がきてまた防ぐ、また飛ばされる。

「ゆま!」
「あ」

杏子が叫びマミが唖然と声を出す。ゆまは戦う。例え一人でも。

「まっ、負けない!」
「―――――そう、諦めないのね」
「だって―――!」

織莉子は、魔女は容赦しない。ゆまを全力で叩きのめす。油断しない。加減しない。彼女を認めたから、全力で戦うべき相手だと。たとえ幼くても、自分たちよりも弱くても、彼女は相対者。全部を賭けて、全てを賭けて、全力で戦うに相応しい相手なのだから。
千歳ゆまは希望を、決して楽観的なご都合主義ではなく、自分の力で未来を掴もうとする強い敵。だからこそ織莉子もキリカも、今や魔女になった彼女も全力全開で戦う。今より先へ、望んだ、求めた未来を繋いでいくために。

「ゆまはっ!知ったんだ―――」

対し、ゆまは叫ぶ。そう、ゆまは知っている。教えてくれた。彼が、彼女達が。


「絶望に負けない強さを持った人達を――――」


佐倉杏子が、岡部倫太郎が、そして、目の前の相対者。美国織莉子が、呉キリカが教えてくれた。

「絶望なんかに!絶望ごときに負けない!」

終わってしまうのは、その足を止めてしまう原因は絶望だけじゃない、諦めだ。
逆に、始める、続けていく、走り続けるのに必要なのは希望だけじゃない、意思だ。
“ならば”

「ゆまは絶対に諦めない!! ――――― イ ン パ ク ト ォ !!!」

諦めない限り――――“可能性は無限だ”。既にそれは証明されている。
世界は、アトラクタフィールドは――――






ヴヴヴヴヴヴヴヴッッッ!!!

数秒間の攻防で既にゆまはボロボロだった。
回復に意識をまわす暇も無く連続で攻撃がくる。
そして今、50・・・・60・・・・・・・・80と数を増やしていく宝玉にゆまは顔を顰める。
もう魔力も、体力も少ない。あの数を防ぐ事は出来ないと理解した。

「あなたは強いわ、本当に」
「当然ッ・・・・だよ!はぁっ・・・・はぁ・・・・・ゆまはっ・・・・戦士なんだから!」

それでも、怖くても、震えても、諦めない。絶対に。目の前の人達の前で諦める事なんかできやしない。そんな事は絶対に嫌だと、そんな恥ずかしい・・・・・もったいない事は出来ないと、ゆまは震える両手でハンマーを構える。
応えるように、織莉子は片手を上に、ぶわっ、と、十数の宝玉が舞いあがる。

「だからこそ――――千歳ゆま、私達はあなたを超えてみせる」
「のぞ―――むっ、はぁ・・・・・ところだー!!!」

彼女達に認められた事に・・・・・・どうしてか喜びの、嬉しいという感情があることに、それが可笑しくて、不思議で、でもその感情は悪いものでは無くて。ゆまが叫び、洪水のように軌跡を描きながら宝玉がゆまに殺到してきた。
汗ばんだ手で、目尻に涙を浮かべながらも――――ゆまは踏み出した。一歩、確かに前へ。

「あうっ!」

だがペタンと、足を崩して倒れる。限界だった。未だに諦めないゆまだが・・・・・それでも彼女は契約したばかりの小学生。連続の戦闘、露わになる真実。精神に、意識に体が付いていかなくなっていた。
魔法は元より魔法は感情で動く、肉体が限界でも感情で動かすことができる。ならゆまはまだ戦えるはずだった。
ただ、ゆまのソウルジェムがたび重なる戦闘で黒く濁っていなければ、浄化されていればソウルジェムは主の想いに応えきれていたのかもしれない。
それに痛みの、息切れなどの疲労を完全にシャットアウトする術を熟知していない。
もっとも、この状況下では結果に違いはないかもしれないが。
誰かが助けに入らない限り。

「いけなっ――――」

ほむらがゆまを助けようとするよりも先に、彼女を追い越した影があった。

「ゆま!!!」
「ッ?キョーコ!?」

倒れているゆまの上に杏子が身を重ねる。洪水のように押し寄せる宝玉からゆまを護る様に。
もう諦めて、どこか達観していたはずなのに。

「ばかッ!」

ほむらはとっさに杏子の行動に悪態をついてしまう。本気で罵倒した訳ではない。たぶん、だが考えも無しに跳び出した事に対する軽率な行動は―――――思い返せば、実に彼女らしい。

カチッ
「あら、もう大丈夫なの」

織莉子の意外そうな声。尋ねるような問いかけ。しかしその表情には微笑み。

ざぁっ!

時間停止で距離をとり体制を整える三人。そこに新たな宝玉が迫る。かわされた宝玉と織莉子達の周りを衛星のように廻るうちの幾つかを含めた30にもなる数の宝玉が。迫る。

「おいなんだ今の!?」
「あとで話すわ、今は―――」
「キョーコ!キョーコもう大丈夫!?ねぇ大丈夫!?」
「ああ、心配かけたな―――――って、うわっ泣くな!」
「だってっ、だってぇっ」
「あなた達今は―――!!」

しかし三人は、ほむらを除く二人は抱きつき抱きつかれ縺れて――――こけた。

「――――え?こっこのバカッ!?」
「えっ?」
「ふえ?」

宝玉が。

「「あ」」

視界一杯に広がり。

「ティロ・フィナーレ!」

黄金の光が、視界に映った宝玉全てを薙ぎ払う。振り返って視線の先には巴マミが右腕に大砲を抱え立っていた。
目はまだ赤く、鼻をすすっているが・・・・・しっかり立って目線は真っ直ぐに前を向いて。
ほむらが知っている頼りになる先輩で、杏子が知っている数少ない認めた人物。いつもの巴マミのように、立ち上がっていた。

「マミ!」
「マミおねえちゃん!」
「・・・・・ごめんなさい、出遅れたわ」
「ふう・・・・・さっさと立ちなさい」
「「・・・・・・はい」」

そう言って二人は立ち上がる。
四人は全員ボロボロだけど、先程までの悲観的な表情は無く、各人想うことは多々あるが、少なくとも絶対に絶望はしていなかった。


「・・・・・・・・・」

織莉子はその様子を眺める。
真実を、未来を受け入れられず絶望してきた彼女達が団結している。
本来ならそれは織莉子にとって障害にしかならない。織莉子の目的は鹿目まどかの排除。暁美ほむらはそれを阻止しようとするし、巴マミはそんな事は元より許すはずも無く、彼女達と共闘関係になった杏子達も同様だろう。
しかし織莉子はこれを“良し”としている。
傍に控える魔女、キリカに視線を向けると“彼女は”織莉子に視線なき視線を返す。伝わる。この身は自分と共に在ると。
魔女でありながら魔法少女と共に戦う彼女は態度で―――その存在そのものでそれを証明していた。
織莉子は四対二、いや・・・・・“五対二”の不利な状況にもかかわらず微笑んだ。

「あなた達は絶望しないの?」

織莉子は解りきった質問をする。

「しない!」
「だな・・・・・ったく!ガキに説教されるなんてアタシもヤキが回ったかな、らしくないね」

ゆまの返事に杏子は頭を掻きながら同意、そして真紅の槍を生成し構える。

「巴マミ、貴方は?」
「この結界を解かないと皆がどんどん犠牲になっていく、考えごとは後にしておくわ」
「そう」
「美国織莉子」
「なにかしら暁美ほむら」
「私は・・・・・私達は諦めないわ」
「ええ、そうであるべきね」

なぜなら彼女達は最強の相対者。絶望、いや真実を知りながらも諦めず抗う本物の魔法少女達。
打ち勝つ。それができれば自分達を止められる者はこの世界にはいない。
そう思う。そうとしか思えない。
彼女達に勝てるなら他の誰にも負けるはずが無い。
だからこそ相対を望む。

「貴女もそう思うでしょう?」

ズンッ!と、応じるように両手の大鎌を地面に叩きつけ威嚇するように構える魔女。
旋回する宝玉に速度を与えながら織莉子は目の前の相対者たちに声をかける。


「さあ、加減なく容赦なく遠慮なく全力で全開で――――戦いましょう!!!」


それぞれがグリーフシードでソウルジェムの穢れを浄化し武器を構える。
佐倉杏子の槍は紫電を纏いながら伸長し、時に多節根に成りフィールドを鋭く疾走する。
美国織莉子は光の洪水のように膨大な数の宝玉をフィールド全体にばら撒き牽制を、しかし確かな威力が込めたソレを隙あらば確実にぶつけてくる。
巴マミのマスケット銃は随時召還され続けその高威力の弾丸を精確無比の命中率で魔力の込められた宝玉を、時に大砲へと姿をかえて薙ぎ払う。
魔女、キリカは光の洪水の中を突っ切って接敵する。杏子の武器を弾きマミの砲撃をかわし、時に直撃しても大鎌を振るい攻撃する。
暁美ほむらは時間停止と現代兵器を使い彼女達の回避と攻撃に最大限のフォローをする。
千歳ゆまは衝撃波による牽制と、大部分を回復の役割にまわりほむら同様サポートに徹する。
共にグリーフシードのストックは残りわずか、これで最後、ここで魔力が尽きれば終わり。
穢れが許容量を超えれば魔女になる。
ソレを知った上で皆が全力で戦う。
怖くない訳じゃない。でも戦う。
諦めたくないから。

ソウルジェムは輝く。主の想いに応えるように。五色の輝きは勢いを弱めることなく戦場を照らす。






「なんで・・・・・戦ってるのかな・・・・」
「まどか?」

まどかの言葉にさやかと仁美は目の前の戦闘から視線をまどかに向ける。
戦っている理由。白い人が悪い奴だから。お化けを、使い魔を学校に連れてきたのはあの人達。マミさん達はだから戦う。これ以上人が死なないように。
解っている。でも、どうしても違和感がある。ソレが何なのか分からない。
さやか達もなんとなく、まどかの言っている事が解る。
今戦っている彼女達は戦う必要があるのだろうか?――――当然ある。共に譲れないモノがある。
でも、“いまの”彼女達なら手を取り合い助けあうことができるんじゃないか。
そう思ってしまう。白い人の事は分からない。でも今ならそれが出来るはずだと・・・・・人の死んでしまっている現状で、そんな考えがよぎった。
もしかしたら、自分の知り合いも死んで、殺されたかもしれないのに。
なにも知らない彼女は織莉子の目的を知らない。
それでも、まどかはこのままではダメだと、いやだと思った。

「どうして・・・・・」
『“どうして”――――なぜここで君がその発想に思いついたかが僕には分りかねるよ』
「え?」
「「ひゃっ?」
『はじめまして、鹿目まどか』

キュウべえが、インキュベーターがまどか達のすぐそばまできていた。

「えっ、えっと?あなたは――――」
『僕はキュウべえ マミの知り合いだよ』
「マミさんの?あ・・・・・来るときマミさんがキュウべえって言ってたかも・・・・・」
『マミから聞いたのかな? なら話が早いね ねぇまどか この状況をどうにかしたいかい』
「う・・・うん。こんなの間違ってるよ!皆で力を合わせればきっと何でもできるのにっどうして戦うの?」

あの希望に満ちた彼女達が。力強く生きている彼女達が。きっと――――同じものを目指しているはずなのに。そう感じるのに。
なにも知らない彼女はそう思う。

『それぞれが別個の自我を持つ以上 そこには摩擦や歪みが生じるのは避けられないよ ましてや彼女達は魔法少女 願いの強さ その我欲からくる感情は他人と衝突すれば確実に争いは起こるよ―――――ほら』

キュウべえに促されるように視線を向けた先。戦闘の勢いは片方に傾き始めた。織莉子達に。




ドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!

どれほど破壊しても、かわしてもまるで無尽蔵に途切れることなく襲いかかってくる宝玉に、光のカーテンを引き裂いて突撃してくる魔女に四人は押され始める。
速度低下もあるが宝玉の数と特性が四人を苦しめていた。
光の尾をひいて高速で動く宝玉はその数を生かして敵対者には津波のように光で視界を塞ぎ、数が膨大ゆえに回避も難しく、時折爆発、さらに光を目くらましに利用し魔女の接近をギリギリまで隠す。魔女を先に仕留めようとも盾になり剣になるこの宝玉は四人を苦しめる一番の原因だった。

「くそっ!このままじゃ―――」
「ならっ!」
「マミおねえちゃんダメ!」

カチッ

「止まらないで!」
「ッ!」

四人の中でこの津波のカーテンを突破できる防御力を持った魔法少女はいない。マミの砲撃なら貫く事は出来るかもしれない。だが、それが解っているのか宝玉は止まることなく旋回し続け、動きを止める者がいれば即座に攻撃に出る。
強力な攻撃の溜めの時間を与えないように。

「織莉子の魔力も無尽蔵じゃない!今は耐えて!」

ほむらの言葉は正しい。織莉子の魔力も決して無限ではない。極光とも言える輝きを放つソウルジェムも今は穢れを映し出していた。そしてこの量の宝玉の存在、維持にもかなりの集中力を要している。一つ一つを操る余裕はない。今はほとんどを自分とキリカを中心に高速で旋回させているだけ、だが、それだけでも牽制には十分だった。たまに一つ二つを攻撃に使ったり爆発させることで、あとはキリカがやってくれる。魔女になろうともこちらの思う通りの働きを、息の合った連携をしてくれる。それが織莉子達を有利に運んでいる。
速度低下によって回避と攻撃を困難にし、情報を与えてくれる予知がキリカの被弾を最小限にする、互いを支え合うような固有魔法。
織莉子とキリカだからこそできる連携。この二人だからこそここまで来れた。辿りつけた成果。

ズガンッ!

「うっ・・・あ!」
「暁美さん!」
「マミ!」

時間停止の魔法が間に合わず魔女の一撃をバックラーで防ぐも弾き飛ばされるほむら、そのフォローにマミが動くが宝玉に後ろから攻撃される。

「野郎ッ!」

マミが、マミもほむら同様弾き飛ばされるのを見て杏子は前にでる。宝玉の嵐は収まりつつある。いまなら突破し反撃できる。消耗はどちらが激しいか解らない。四対一とはいえ押されているのは此方、起死回生の一撃を、その為に前に出る。しかし

ボバッ!

正面、光のカーテンから魔女が大鎌を振りきって―――――

「うっ!?」
ガキュンッ!!

寸前で防御、ザザザッ、と、吹き飛ばされそうになる体を足で踏ん張り耐える。数m地面を削りながらも衝撃耐え、両手の大鎌を振り上げる魔女の攻撃を回避しようとして――――杏子は気づく。

「キョーコ!?」
「ッ!」

杏子の後ろに倒れたほむらとマミ、二人を治そうとしているゆまがいた。

「おお!」

振り落とされる大鎌を、咄嗟に槍を水平に構えて防ぐ。

ゴキィイィイイン!!
「つぅ!」
「キョーコ!」

激痛が杏子を襲う。受け止めた、しかしその衝撃は杏子を襲う。どれだけの力を込めたのか、杏子の足下の床は衝撃に砕かれ沈んでいた。
ギギギッ、と、そのまま抑え込まれた杏子はゾッ、と、寒気を感じた。
視線を魔女の背後・・・・・・宝玉が複数、いやそんなものじゃない。ほとんど全部の宝玉が殺到してくる。
動けない四人を襲う。

「うっ、うわあああああああ!!!」

叫び、大鎌を弾き返そうとするが力は拮抗していた。動けない。この魔女は直撃こそはないとはいえ、それなりのダメージを受ける事も理解しながらこの場を離れない。杏子の動きを封じる事に徹する。
そして、直撃する。

「「ああああ!!」」

一瞬、黄色のリボンと、赤の鎖が四人を護る様に展開するが


ドドッ ドドドドドドドドドドッ ドッ ドドドドドドドドドッッッ!!!!

と、流星のように、雨のように降り注いだ宝玉が全てを包み隠し、飲み込んだ。





「ほむらちゃんっ!!!マミさんっ!!いやっ・・・・・いやー!!」

まどかの叫びが響き渡る。戦闘の音は止まっていた。視界は粉塵で良く見えない。

「あ・・・・ああ・・・・」

結界の中でがくがくと震える三人、まさか死んでしまったのではないかと不吉な想像をしてしまう。
視界がひらけてきた。その先に倒れているのは四人の少女。
怖い、視界に映った彼女達は血だらけで倒れている。

「あ・・・・う・・・・」

ぴくっ、と動いた。全員。しかしそのダメージは甚大、すぐには誰も立ち上がれない。

「うう・・・・・」

でも一人、一番小さな少女。千歳ゆまがよろよろと立ち上がる。
ぽぅ、と、小さな光が一瞬灯り、僅かばかりの回復を全員に行う。

「ま・・・だ・・・!」

それは本当に僅かな回復で、ソウルジェムにはまだ光が、しかし急速な回復を行う魔力行使は誰にもできなかった。今の状態、集中力を欠いたままやれば即座に限界が来る、余裕が無い状態だった。

「まだ・・・・ゆまはっ、諦めない・・・よ」

そう言って前に出る。その手に武器は無く・・・・・前に、息を切らす織莉子とダメージを負った魔女に向かって進む。

「ゆまっ・・・・・」
「つ・・このっ!」
「・・・・・・・ふう・・・ふぅ」

他の三人も、傷ついた体で立ち上がる。
徐々に、ゆっくりと魔力を体に流し込んで傷口を塞ぐ。
まだ、誰も諦めてはいない。
しかし、勝敗はすでに決まっていた。
誰が見ても解る様に。







『まどか』
「あ・・・・ああ・・・・・こんなのってないよ・・・・どうしてっ・・・・」

キュウべえの言葉もまともに耳に入らないまどか、しかしキュウべえの一言が彼女の視線を、意識を全て――――

『君になら この状況を覆す事が出来るよ』

魅了する。

「・・・・・・え、ほんと・・・に?こんなっ・・・・・みんながっ、けがしないで・・・・それで」
『造作も無いよ 君になら何だってできるよ 争いを止める事も さっき言っていた協力させる事も 全部ね』

目の前の現実に揺れるまどかに、キュウべえは嘘のない真実を伝える。

『君が望めば僕が叶えてあげる』
「ほんと・・・・に、みんなが・・・・・もう・・・・?」

まどか達を護っていた結界が消える。結界の維持に魔力を割けないほどマミは消耗していた。
そして結界が消えたことで膝をついたまどかとキュウべえの間には、何も阻むモノはなかった。

『出来るよ 君の望みをなんでも一つ叶えてあげる』
「なら・・・・ならっ、おねがい!キュウべえっ・・・・私・・・・」
『だから まどか』

泣きながら伸ばされた、縋る様に伸ばされたまどかの手を、キュウべえは避けずに受け止める。
奇跡を叶える魔法の使者として。




『僕と契約して 魔法少女になってよ』




奇跡を叶えるための対価を要求した。








キィイン




同時に、誰にも気づかれることなく世界に小さな音が鳴った。
















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