『フゥーハハハ!貴様のその身体、この鳳凰院凶真に任せるがいい! 神の如き正確さと、修羅の如き大胆さ、そして女性を扱うかの如き繊細さを持って解放してやろう』χ世界線0.091015しゃー と、シャワーから流れる温かいお湯が己の頭から足、そして足下から排水溝へと流れる所を眺めながら美樹さやかは、ため息をついた。「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ」短髪の髪からは水滴が落ちていき、そこから先には発展途上の肢体、そこには未だに先ほどの余韻が残っていて、それを流し落とすように彼女は手で軽く体を擦る。ここはラボのシャワー室、親友の鹿目まどかの幼馴染、オカリンこと岡部倫太郎の自宅にして未来ガジェット研究所。通称『ラボ』。キュッ!お湯の蛇口を閉めて、先ほどの自分の醜態を恥じる。初めてだったとはいえ、友人たちの前であんな「まロい」姿を晒してしまった。恥ずかしくて消えてしまいたい。ガンガンと頭を壁に叩きつける。ガッテム!あれは無い!せめて、せめて声だけでも、いや、声が決定的だったような気がする。ならば何処を如何すればよかった?どうにかできたのか?「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」重いため息が零れる。こんなことが今は入院中の幼馴染の想い人に知られたら・・・・・・・「ぬわああああああああああああああ!」 がんがんがん!「さやかちゃん落ち着いて!あれはその・・・・あの、うん!あれだよ!」「どれさ!?うぅ、まどか~、あれは違うんだよっ、いきなりだったからびっくりしちゃって―――」シャワー室、実際は畳二枚分程度の浴室で現在さやかとまどかの二人で使用している。浴槽は無いため二人なら余裕を持って入れる。もっとも気分的には一人で入りたかったさやかだが、“確認”があるためまどかも一緒に入っている。「大丈夫だよさやかちゃん、私もほむらちゃん達も気にしてないから・・・・・・うん、大丈夫だよ?」「疑問形!?・・・・・ねえ、このこと絶対に恭介に言わないでよ!」「あはは、言えるわけないよ」まどかは苦笑いしながら、そして若干の同情の念を抱きながらさやかの“背中を確認”する。元々彼が彼女に“あんなこと”をする事になった原因は背中の痣にあった。あの時、魔女の爪で抉られた彼女の背中は傷一つ無い、染み一つ無い綺麗な、どちらかと言えば怪我する前の状態より(確認していないが)健康的な肌をしている。つい先ほどまで背中にあった痣。黒く暗い不吉な痣は無い。今は彼の腕に移った。あの痣は重症のさやかを癒してくれた証であり後遺症、彼が言うにはとても危険なモノらしい。まどかは痣のあったであろう場所に指で触れ、痣の跡、痕跡が無いかゆっくりと撫でていく。「う~ん」「ひゃう!?ちょっ、まどか!?」あの時、彼女の背中の傷をしっかりと見たわけでは無い、しかしあの出血量と魔女の爪に引っ掛かっていた背中の■。思い出すだけで鳥肌が立つ。もう死んでしまうと思ってしまった。でもその傷を完全に、それも短時間で完治させた黒い甲冑。でも彼が言うには“あれ”はしばらくの間は肉体的、精心的にプラスに働くと言っていが、すぐにマイナスになるらしい。“呪い”“魔女の口づけ”と呼ばれるらしく、肉体は衰え、精神は侵され人を狂気に、犯罪や自殺に追い込む危険を孕んでいると言った。今でこそ目の前で何故か悶えている彼女だが、右肩から背中まで一直線に走っていた痣。「う~ん」 むにむに ぐにぐに「まっ まど、ほんとにっ まって、やぁ―」背中の感触を念入りに確かめる。違和感は無い。普通の背中だ。彼は徹底的に、確実に取り除くと言っていた。大切な親友にそんな物騒なモノを背負っていてほしくない。彼もそうおもったんだろう、だから彼はそれを取り除くため“彼女の背中から自身の腕に、同じ呪いの罹った右腕に移した”。手っ取り早く取り除くにはこうするしかないらしい。でも―――元々彼女よりも痣が多かった、右腕全てに蛇のような痣があった彼はどうなるのだろうか?大丈夫だと、心配無いと、慣れていると言った、優しく微笑んだ彼はどうなってしまうのだろうか?「オカリン、大丈夫かな・・・・」 むにむに「~~~~~ッ!!!」狭い浴室で二人の少女はそれぞれの事情で顔を伏せていた。ぱら・・・・「・・・・・・・・・」ぱら・・・・『・・・・・・・・・』ぱら・・・・・「・・・・・・・ふむ」20畳ほどあるフロア。その大部分を使用しているテレビとパソコン、そして四角いカーペットの上にテーブル、ソファーと座布団があるリビング兼台所。二つの扉。一つはトイレ、もう一つは浴室。そしてカーテンで遮られている場所は寝室。大きめの折りたたみ式ベットと洋服タンスがある小さめの簡易的な部屋。未来ガジェット研究所、通称ラボ。ほむらは今、テーブルの前のソファーに腰掛け熱心に雑誌を読んでいる。ぱら・・・・・『ねぇ、暁美ほむら』ぱら・・・・・「・・・・・・ほう」ぱら・・・・・『暁美ほむら』ぱら・・・・・「なにかしらインキュベータ―、踏みつぶすわよ」パタン雑誌『今月の未来ガジェット特集』を座っているソファーの横に置いて目の前、足下で狐の様な白い尻尾をくるくる動かしていたキュウべえに視線を向ける。赤い瞳と視線が交差する。むぎゅ!『躊躇わずに踏んできたね?』「有言実行の言葉を知らないの?」黒いタイツに包まれた足で目の前の生物の頭を むぎゅ むぎゅ と感触を確かめるように踏む。『キョ―マからは後で説明するって言われたけど気になってね、彼の事を教えてほしいな。それに君自身の事も』「そのまま動かないで頂戴、今やっと的確に踏み砕くポイントを見つけたわ」『そのまま足を押し込まれると首が背中にくっ付いちゃうよ』「そういえば骨ってあるのかしら?」『それは―――』「しゃべらないで頂戴、イライラして踏みたくなるわ」『え?君は既に――』むぎゅう!キュウべえを踏みながら先ほどまでのやり取りを思い出す。彼のいきなりの発言によりキュウべえ、私、ユウリさん、美樹さやか・・・・美樹さんは未来ガジェット研究所のラボラトリーメンバー、通称ラボメンになった。彼は取りあえず時間が時間なので、親御さんに連絡するよう全員に声をかけた。そのさい気絶していた美樹さんを、まどかがわき腹への刺激により起こし、すぐさま連絡させた。まどかは何度もラボに泊りこんだことがあるらしくスグに許可が取れ、美樹さんは最初の方は手こずっていたがまどかも一緒とのことで許可が下りた。私は一人暮らしだしユウリさんも特に問題は無いらしい。「動かないでくれる?踏みづらいわ」『暁美ほむらは僕の事を知って――』むぎゅ! ぐりぐり『話を―』「口を塞いでも聞こえるとは困ったわね、仕方が無いから――――踏むわ」 むぎゅ口から放たれる声ではなく、頭の中に直接聞こえる声。キュウべえ、インキュベータ―がとるテレパシーのような(実際そうなのだろう)意思伝達方法、口をふさごうと関係無い。ほむらはキュウべえを踏む。『現状なにも変わら―――』「こんな事ならまどかと一緒にお風呂に入ればよかった・・・・どうしてくれるのよ?」 むぎゅ!『それは君が――』「そういえば雑誌にまどかが載ってたわね」 ぐりぐりぱら・・・・。見滝原中学校新聞部が作成している「今月の未来ガジェット特集」。毎月末に購買にて販売(150円)。現在最も売れている記事(まどさや談)らしい。見滝原中学校で創作されたFGシリーズを各ランキング方式で写真付きで乗せている。なお発売は学校からの認可は降りており、売上代はFGシリーズの発表等による被害の修復代にまわされている。「確か『破壊力ランキング』に3位で載ってたわね」『ねえ暁美ほむ――』「どこだったかしら」 むぎゅぱら・・・・。え~と確か “広域暴徒殲滅型の音爆弾”で名前が『これが私の全力全壊』。目覚まし時計を防犯ベルとして改造した物らしいが、その威力は防音性の高いまどか達の教室のガラスにひびを入れ、中にいた生徒達を全員無力化したことで有名。幸い鳳凰院先生の直属の生徒達のためいろいろと耐性があったので深刻な事態にはならなかったらしい。また製作者の まどかはコメントにて 「ただの防犯ベル予定でした」 との事だが来年には警察にて公式採用が検討されている。「・・・・・・テレビの上の☢マークの入った時計」 まさか?『ねぇ――』「・・・・・まあ、私手製の爆弾ほどではないわね」 むにむにふぁさっ、とストレートに伸びた髪を手で掻き上げる。勝った!余裕で私の勝ちだ。未来ガジェット?所詮は鄭和の国の学生。数多の魔女とインキュベーターを粉砕するため改良に改良を加えた私の爆弾制作技術。破壊力部門では私の爆弾が――――ん?ぱら・・・ぱら・・・ぱら・・・「まさか火薬は使用禁止?薬品も!?」『君はいったいなにを読んで―――』 むぎゅ!「そんな!?家庭の物であんな破壊力を・・・・・それも本来は人体に被害が出るはずもない製品のみを使用して!?確かにまどかは目覚まし時計と釣りのリール、それに家庭ゴミしか使ってない?このコストでこの効果・・・・・流石まどか、警察が採用を検討するのもわかるわ」『まどかがどうし――きゅっぷい』 むぎゅぎゅ!!「一位は『超電磁鈴蘭砲』。製作者三年巴マミ・・・・・・・・・貴女も作ってるの?しかも一位?・・・・・・ウチワと小型扇風機を合体させて超電磁砲【レールガン】?何処までぶっ放すのが好きなのかしら、・・・・・射線上にあったガラス壁及びコンクリートを・・・・・・・やるじゃない」『あれ?マミのことも知っているの?』製作者コメントに「こんなハズじゃ・・・・・いつの間にか名前まで決まってて」とあるが一位の余裕だろうか?雑誌を再び横に置く。むう、どうやってあんな威力を?まどかと美樹さんに相談してみよう。きっといいアイディアがもらえるはず。くやしいが彼女達の方がガジェット開発には経験があるのだし・・・・・・家庭で作れるパイプ爆弾も駄目か。「まったく、どうしてくれるのよインキュベーター?」 むぎゅう『いきなり矛先が?』「まあいいわ、後で先生にいろいろきけばいいしね」 ぐりぐり『取りあえず足を退かしてくれるかい?』「未来ガジェット研究所ね・・・・・」 げしっ『ねえ、会話してない?』「・・・・・・・・・」 ―――ここは“怖いよ”未来ガジェットの製作には心躍るが―――ひとたび意識すると―――怖い。この世界の全てが怖い。知らない場所だ。知らない空間だ。“怖い”。私はこれからどうすればいいんだろうか?知らない魔女。経験した事のない未知の展開。全てはあの時――――。その結果がこの世界、この状況、失われた魔法。私はどうすればいいのだろうか?視線を私の足で踏まれているキュウべえから横に移す。ああ、お願いします。どうか、どうか、せめて彼が味方でありますように。「・・・・・・・なにこれ?」「まどかが作った“何か”だ」「このフラクタル構造的な“何か”が?―――なんで冷蔵庫に?」「・・・・・・生ものらしい」「食材!?」「“おそらく”!!」台所、流し台と二つのコンロ、その横に大きいが年季がかかった冷蔵庫と電子レンジ、食器は申し訳ない程度に流しの上の棚にあるのみ。そこで俺とユウリ(?)は晩御飯をどうするか相談していた。「・・・・・・どうだろうか?」「食べたいの?」「・・・・・やめておこう」「懸命ね」いや本当に“コレ”は何だろうか?『電話レンジ』の無いこの世界でどうやって?魔法?それなら納得がいくが・・・・・・・むう。誰が食べるんだろうか・・・・・俺か?俺だ!エル・プサイ・コングルゥ!「・・・・・・・・」「・・・・なんだ?」「・・・別に」こちらの様子を窺っていたユウリ(?)が顔をフイッ、とそらす。さっきからこれを何度か繰り返している。最初は気にしないようにしたがそろそろ限界だ。「あのな―――」「わかってる」「いや、お前その割には―――」「ちゃんと我慢する」「しかし―――」「大丈夫!」「そ、そうか?」「うん」キュウべえ達をラボメンに任命し、親御さんに連絡を取らせ、英雄殿に・・・・・いや、あれは背中の痣を取り除くためにしたのであって決して女子中学生にセクハラをしたかった訳でなく、そもそも俺は背中の痣を自分の腕に移しただけであって、そう見えたのは間違いなく美樹さやかの声のせいでありつまり――――「俺は無実だ!」「っ!?」 ビクッ「あ、すまん。なんでもないから気にしないでくれ」「・・・・うん、あの・・・・ちゃんと我慢するから」「あ、ああ、ホントに気にしないでくれ」「うん」まどかとさやかが風呂に入っている間に夜食の準備をしようとしたが、冷蔵庫には大量のドクペ、調味料、そして“何か”しかなかった。「明日食材を買ってこなくていけないな」「そうしたほうがいい」「時にお前は料理できるのか?その――」「少しだけ、・・・・教えてもらった」「・・・・・そうか、今度作ってくれ」「・・・・うん」誰に教えてもらったか、予想はつく。彼女の腕前は大会で優勝を勝ち取れるほどだ。ユウリ、君はまだ世界にいるか?それとも、もう―――。「・・・・・・」 じー「・・・・・ああ、カップ麺は大量にあるから今日はそれで――」「うん」見上げるように此方を見ていたユウリ(?)が頷き、手際よくヤカンを棚から取り出し水を入れ火にかける。ラボの前で話してからずっとこの感じだ。最初にあった時の覇気が無く、ただ岡部の言葉を待つ。ユウリについて知っている事を話す。岡部はそう言ったがそれは皆に話す事を話した後で、と伝えた。ほむらやキュウべえに対してもそうした。用件が済めばそのままユウリは消えそうだし、ほむらは、今はキュウべえを苛めているが、あの時はいつ爆発するか解らなかった。こちらの情報を知るまでの間は焦った行動を自粛するような状況を一応作ったつもりだ。彼女は今情報を欲している。ならばその間は自重するだろう。キュウべえも、イレギュラーたるこちらを野放しにする訳にはいかないだろう。「・・・・・・・・」 じー「・・・・・・・・」「・・・・・・・・」 じー「・・・・・・・・」数分後、ほむらがキュウべえの耳と尻尾を結んでいると浴室への扉が開きまどかの声が響く。「はぁ、すっきりした。次は ほむらちゃんとユウリちゃんの番だよ」「まどか」 ぐりぐり「ほむらちゃん苛めちゃかわいそうだよ」「私はいい」「いいのか?」「後でいい」「まどか・・・・・このシャツちょっとキツイかも」「ごめんねさやかちゃん、ここに置いてあるのほとんどお古だから・・・・・・・・キツイ?」「うん」「私はまだ着れ―――」「お古ってもしかして小学生の時の?」「えっ?」 ―――今年買った物なんだけど「流石にもう中学生だし無理っぽい」「・・・・・・そういえば、さやかちゃんおっきくなったよね」 ――ある一部が「まどかは相変わらずちっさいけどね」 ―――身長が「むう、それは意地悪かも」「あははごめんってまどか」「もう」「でも正直胸元が苦しいかも」「・・・・・・そっか・・・・・ナンカゴメンネサヤカチャン?」まどかと美樹さんがお風呂から出てきたので私はキュウべえの耳をつかんで持ち上げそのまま電子レンジの中にブチ込む。私とユウリさんはお風呂を辞退する事を事前に彼に伝えているので、ユウリさんと一緒にカップラーメンをテーブルに運ぶ。自然、皆がテーブルの周りに集まる。「ほむらちゃん達はお風呂はいいの?」「食べてからでいいわ、・・・・・えっと、その、まどか、私にも―――」「うん、洋服はいっぱいあるから大丈夫だよ・・・・・・うん、ほむらちゃんは大丈夫だよ」「・・・・・大丈夫よまどか、私と貴女は一緒よ」「うん!」「なんであたしを見るの!?」「・・・・・・むう」 ぺた「気にするなユウリ(?)――」「うん」「あと英雄よ、シャツなら俺のが――」「断る!」「なに!人がせっかく気を使っていると言うのに―――キツイのだろう」「“あんなこと”があったのにさらに服まで―――――絶ッッッッ対に嫌だ!!」「あれは貴様の所為だろ、俺はやましいことはしていないぞ」「オカリンまでキツイって・・・・・あ、ほむらちゃん下着はどうしよっか?」「え?」「予備はさやかちゃんにあげちゃったんだ、ごめんね。一応私のがあるけど嫌だよね?近くのコンビニに―」「それには及ばないわ!」「即答!?ほむらアンタちょっとはためら――」「私のでもいいの?」「ええ、無い物は仕方が無いし外はもう暗いし外出は控えるべきであり岡部先生の話もあるしまどかのパンツだしご飯はラーメンなのでのびるといけないまた動くのはたいへんでしょう先生は男性で家主としてここにいるべきだしまどかは疲れているでしょうから無理をしてはいけないかといって私はここの地理に詳しくはないし美樹さんは一部が潰れればいいしユウリさんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないからであって以上の事からも私はそれでかまわないわ」「そう?よかったー、もう夜も遅いしどうしようかと―――」「何かあたしに対して潰れればって言った!?」「そういえばユウリ(?)、お前はちゃんと帰る家はあるのか?」「・・・・・・・」「・・・・まぁ、深くは検索しないが、お前はもうラボメンだ、好きな時にラボに訪れるがよい」「・・・・・・うん」「うわ、岡部さんがさっそく金髪少女を口説いてる!」「くっ口説かれてなんかない!」「オカリン!最近節操無さ過ぎと思うよ」「なにをいう!俺は純粋にラボメンを―――」「オカリンは言い訳ばっかだね!」「誤解だ、俺は常に世界の混沌を――」チンッ『やれやれ、訳が解らないよ』「「「なんで電子レンジに!!!?」」」閑話休題ほかほかのキュウべえが電子レンジから無事帰還した事によって一時会話を中断し、取りあえず全員がテーブルを囲む形で座る。ソファーの前に岡部、迎いにまどかとユウリ、両端にほむらとさやかがそれぞれ座り、ほっこりキュウべえはまどかの膝の上に座った。座ったキュウべえをほむらが耳をつかみカーペットの上に移動させ、テレビの上にあった目覚まし時計をキュウべえの頭に乗せる。「落としたら踏むわ」『またかい?』「ほむらちゃん苛めちゃ可哀そうだよ」「ほむら、そいつになんかされたのか?」「・・・・・・すこしね」「「・・・・・・・」」さやかの疑問にほむらは間をおいて答え、岡部とユウリはラーメンをすする。このほむらが“岡部の知っているほむら”なら、キュウべえを恨んでいるのを岡部は知っている。ほむらにとってキュウべえは『敵』だ。ユウリは我関せずとラーメンをすすり続ける。彼女はほむらが何なのか知らない、でも恨んでいても別におかしくないと思っている。『僕には何の事か解らないけどね』「そうなの?」『うん、彼女には今日初めて会ったはずなんだけど』「ほむら?」キュウべえは嘘をついていない。キュウべえにとって、暁美ほむらは今日間違いなく初対面。ほむらの恨みがあるキュウべえは“別の世界線”のキュウべえだ。かといって今それを話しても確実にこじれるので岡部は成り行きを傍観する。「・・・・・・ごめんなさい、空気を悪くしてしまったわ」「あっその違うぞほむら!別に私達責めてる訳じゃないから!」「ごめんねほむらちゃん、ただあの時から ほむらちゃん・・・・・その・・・・変わちゃった感じがして・・・・」夕方の事件、正確にはキュウべえと関わってからだろうか、まどかにはもちろん、気絶していたさやかにとっても急激な変化に感じた。今日一日の付き合いしかないが、暁美ほむらは、まどか達にとっては内気な女の子。という印象だった、でも現在の彼女は違う。三つ編みだった髪はストレートに伸ばされ、その長い黒髪はまどか達女性から見ても美しかった。また会話の流れからみても彼女は内面、精神的に成長しているように見える。見方によれば今の彼女は別人に見えるが、何故かそこに余り違和感なく感じる。彼女は元々こういう性格なのだと錯覚するほどに。「いいの、自分でも自覚してるわ」何よりも今の彼女には意思がある。その姿に、その声に、その在り方に。まどか達にはそう見えた。たとえそれが、最早上っ面の仮面でも。「・・・・・・ごめんなさい、私もキュウべえには今日初めて会ったわ。―――だから、私はただ純粋にキュウべえが嫌いなだけよ」その言葉に、岡部は顔を周りに気づかれない程度に歪め。まどかは言葉を失い。ユウリは関せず。さやかはうろたえる。キュウべえは首を傾げ――~~~~~~♪沈黙が続く空間に岡部の携帯から着信音。ある者は息を吐き、ある者は安堵した。着信ディスプレイには『鹿目洵子』。岡部は「少し席を外す」と立ち上がり、皆に背を向け玄関付近に移動する。岡部がテーブルの方に視線を向けるとキュウべえは特に気にしている様子もなく、まどかとさたかは気まずい雰囲気ながらも場を和ませようと必死に会話を投げかけていた。自分はあの場から着信を理由に逃げ出したみたいだなと思いながら電話に出る。「俺だ」≪ああ!?≫「スミマセン、岡部倫太郎です」≪おう、まどかは元気か?≫「はい、御友人共々今は夜食を食べておられます」最初はいつも道理に電話に出たがすぐに岡部は口調を正す。鹿目洵子。鹿目まどかの母親にして鹿目家の大黒柱。腹の黒さと目覚めが悪い事を抜かせば完璧なキャリアウーマンといえる美貌と才能、それを生かせる行動力を持ち合わせる女性。この世界で岡部が逆らえない数少ない人間であり、“元の世界”のブラウン管工房の店長を思い出させる肉体言語を岡部に対し行う。現在この建物の大家として“世界に設定されている”人物。≪まどかとさっき話した感じじゃなんかあったみたいだよな≫「・・・・・・」まどかは外泊の許しを得る為に家族、鹿目洵子、鹿目和久に連絡をいれた。その時のまどかとの会話で彼女は異変に気付いたのだろう。≪なにがあった≫何かあったことを断言する口調。岡部には電話をしているまどかの様子は特に変わりなかったと思ったが彼女には解るのだろう、何せ彼女は鹿目まどかの母親なのだから。それに忘れていた。岡部は“慣れてしまっていた”が、まどか達はあの地獄を見ている。失念だ、彼女達は中学生だ。平気でいる筈がない。きっとこれから先も今日のことを思い出し眠れない夜を過ごすかもしれない。≪話せないことか≫無論バカ正直に貴女の娘は魔女に襲われ危うく死にかけた、と話すわけにはいかない。かといってこの女性に半端な嘘は通じない。沈黙は肯定と言われるがきっと彼女は自分の娘になにかあったとわかっている。沈黙する岡部に洵子は返事を待つことなく会話を続ける。≪岡部≫「・・・・はい」≪まかせていいんだろうな?≫言葉自体はヤンキーだが彼女の優しさを岡部は知っている。岡部に対し彼女はこんな言葉使いだが普段は“かっこいいできる女”である。別段岡部のことが嫌いなわけでなく信頼からくるものだと思うようにしている。平時なら岡部に対しても気さくに話しかけてくるが、今は娘のことが気になってこんな言葉使いになっているのだろうと岡部は推測する。まどかに視線を向ける。「?」視線に気づき首を傾げるまどか。何でもないと手を振り再び電話の相手に戻る。≪お前の事は信頼している、和久もお前の事を気にいっている≫そんな中、彼女は娘を岡部に託す。岡部を信頼している。本当なら何かを抱えている娘の力になりたいだろう、話を聞いてあげたいし、せめて一緒にいてあげたいと思っているかもしれない。なのにまかせてもいいのかと言う、気づかれないように、心配かけないように悩みながらもラボに泊まると伝えた娘の願いを尊重する。それだけ彼女は岡部を信頼している。だからこそラボにまどかの外泊が許されているのだろう、まどかの私物がラボにあるのだろう。≪まどかが笑っていられるのは、引っ込み思案なあの子があんなに楽しそうなのはお前がいるからだ。あのまどかが――≫「違う」しかし岡部は洵子の台詞を遮る。洵子は岡部に感謝している。それを岡部は否定する。岡部の存在はまどかに影響を与えている。それもいい方向で、そういうニュアンスを伝えようとしたんだろう。でもそれは――――「それは違う。彼女のあの姿は、あの優しさは、俺とは関係ない」≪・・・・・・・岡部?≫そう関係無い。それは紛れもない事実。仮に岡部がいなくとも、まどかはあの性格のままで、鹿目洵子がそう思うのは世界がそう設定しているからだ。この世界の岡部は、まどかと知り合ってまだ二日しかたっていない。なら―――「彼女の笑顔も、優しさも、すべては貴女達の―――」おかげだ。そう言おうとした。――――言おうとして・・・・やめた。(そうじゃないだろう?岡部倫太郎よ)思い出せ これまでの世界線漂流を そこにいた俺は、俺達には意味があった例え世界戦の再構成により無かったことになったとしても、その思いと経験は無駄ではない世界の設定による関係でも、そこには確かに大切な思いがあった岡部が出会った鹿目まどかはいつも心優しい少女だった。彼女は弱い。それはどの世界線でもそうだ。特に取り柄もなく、自信なさげで、すぐ泣き、傷つき、暴力には無力だ。でも彼女の持つ世界は強かった。家族はもちろん、美樹さやか、志筑仁美、暁美ほむらといった友人、佐倉杏子といった関わりの薄かった人達も含め、彼女の認識する世界は強固だった。岡部が関わる前からそうだった。暁美ほむらの知る彼女の話から知った。家族や友人が危険に晒されれば、彼女は願う、祈る。その先に自身の破滅があっても。目の前で尊敬する先輩が死んでしまっても、目の前の脅威と戦う。願う事で自身に訪れる不幸を理解しながらも他者もために祈る。偽善とも、浅はかな、短絡的行動だという奴もいるかもしれない。それは間違いじゃない、たとえ善意でも、彼女のやろうとしていることが誰かを助ける行為だとしても、それは時に誰かを悲しませる。いや確実に悲しませてきた。何度忠告しても彼女はその身を戦いに駆り出す。犠牲にする。目の前の人たちが、彼女を知る人が皆泣いているのに。彼女はどの世界線でも誰かを悲しませる。でも だけど それは―――辛くても、悲しくても―――やっぱり優しさからくるものだったから。≪おい岡部――≫優しさだけで世界は回らない。優しさだけじゃ守れない。優しさは時に人を傷つける。優しさだけじゃ解決しない。優しさのみでは進展しない。それは嫌というほどに経験している。それを理解している。だけど、だからといってそれは過ちじゃない、見て見ぬ振りをすることができることに立ち向かうことが、助けたいと願うその優しさが間違っている筈がないから。何より岡部は、まどかの優しさで“再び生を取り戻した”。その優しさを否定しない。≪聞いてんのか!!≫電話から少なからず怒気の気配がある。きっと岡部の言葉が気に食わないのだろう、まるで自分はいなくても関係ないというような言葉、そう聞こえる言葉を、彼女が聞き流すわけがない。そんな洵子の言葉に岡部は答える。勘違いをしている彼女の声に被せるように。「まどかの優しさは、俺がいるいないは関係ない!」≪お前本気でそんなこと――≫「なぜなら俺にとって鹿目まどかとは、いついかなる時もこの鳳凰院凶真の隣に立つ者、そう、まどかがまどかである限りそんなこと関係ない!」≪は?≫「わからないのかミス・カナメ?」≪え・・・・はぁ?≫岡部の言葉に怒りの勢いを失い一瞬理解が追いつかない洵子。岡部は続ける。「この俺鳳凰院凶真にとって優しさや自愛の精神など不要!俺は世界に混沌を齎す者。世界の支配構造を書き換える者。俺はメァァドサイエンティストの―――」≪おーい≫「ようするに俺にとって彼女の性格なぞ二の次、彼女がどうあれ俺にとって大切なのは――」≪ほぉ、まどかがどうあれ関係ないと≫「そう、“まどか”が“まどか”であれば――――俺と共にいればそんなこと関係ない!」≪む?≫まどかの性格がどうでもいいという岡部の台詞に再び怒気を再発させかけたが、よく聞くとその言葉は――――?岡部が急に叫びだしたのでテーブルの前にいた全員が視線を岡部に向ける。「オカリン?」「まどか、お前はいつも俺の所にいるな!」「うん」「ならばそれで問題ない!お前はお前のままでいい、お前がどうあれ俺はお前の隣にいる」≪ん?≫「うん、わかったよオカリン。ありがとね」「礼など無用、お前が俺の所にいるのならば、俺の手の届く場所にいれば俺にとって何の問題もないのだからな!お前が危険な目に合えば助けよう、悩んでいるなら相談にのろう、間違ったことをすれば正そう」≪ほほう≫「俺がいる限りお前はお前のままだ」≪まどかと一緒にいると?≫「そのとおりだ、そして本題だが、まどかの性格は確かに一般的に言えば善だろう、だぁがしかし!この俺、狂気のマッドサイエンティストにして鳳凰院凶真の傍にいて博愛精神など生まれる物だろうか?否、否だよ諸君、常人が俺の狂気のオーラを受けて正気を保っていられるものか!にもかかわらずまどかは何時でも何処でもお花畑だ」「お花畑?」「あ~」「分かるのさやかちゃん?」「ノーコメント」≪つまり?≫「まどかはどこにいようと誰といようとその根本は変わらん!」変わらない。鹿目まどかは優しい。誰といようと、誰と過ごしても、どの世界線でも彼女は変わらない。岡部によって歪められた世界線でも、岡部がいない元の世界線でも変わらない。ゆえにまどかの性格のありかたに岡部の存在は関係ない。岡部がいようといなかろうと鹿目まどかの本質は変わらない。「まどかは何処にいても優しいってこと?」「そのとおりだ英雄よ」「えへへ、なんか照れるよオカリン」「私もそう思うわ、まどか」「ふん」ほむらが同意し、ユウリが興味なさげにため息をつく。「最も、その優しさは俺と共にいればいずれ混沌へと落ちるだろうがな!いや、落してみせる」「まどか、あの男にはもう近づかないで」「えっでも」「フゥーハハハハ!無駄だほむほむ、まどかは既にラボメンなのだ、もはや俺の元から逃れることは叶わんのだ!」「あれ、それじゃあたし達も?」「当然だ、ラボメンは全て俺の仲間だからな フゥーーハハハハハハ!!」『キョーマは元気だね』「他人事だなキュウべえよ」『?』「キュウべえもだよ」「あんたもラボメンになったんだから」まどかとさやかの言葉に白い尻尾をふりふり動かしていたキュウべえは、首を僅かに傾げた。≪まどかを泣かす事はするなよ。もし泣かしたら――≫「家賃でも上げますか?」ふっ、と岡部は余裕の態度を崩さない。仮に家賃が一万円上がったとしても今の岡部には痛くも痒くもない。いや実際に上がったら翌日には頭を抱えているだろうが今は違う。これまでの世界線では常にラボメン№05は揃うことはなかった。しかしこの世界線では僅か二日で五人ものラボメンが揃っている。問題は山積みだが今の岡部は絶好調だ。そもそも今は臨時とはいえ職持ちの身だ。確認したところ、この世界線の岡部は割とお金に余裕がある(あくまでいままでの世界線よりもだが)。≪家賃?何言ってんだ岡部。んなもんいらねえよ≫「は?ではいったい――」これまでの世界線では容赦なく家賃の引き上げに泣いた。鹿目洵子はできる女性だ。殺さず生かさずの精神で岡部から死なない程度に家賃をギリギリまで刈り取る。≪今までどうりまどかを泣かせるたびにお前の肋骨が一本ずつ折れていくんだよ≫「・・・・・・聞き間違いですか?」≪なにが?≫「・・・・・あまりにも暴力的ルールが聞こえたのですが」法治国家日本とは思えない発言があったような?≪いいか岡部≫「・・・・なんでしょうかミス・カナメ」≪肋骨には限りがあるんだから気をつけろよ?≫「心配してくれるところ恐縮なのですが・・・・・」≪なんだぁ?・・・・・ああ心配すんなよ岡部!≫「おお、やはり冗談ですか―――」≪また入院した時には金は出してやるから安心しろ≫「何に安心できるんですか!?俺が言っているのは――――――――――“また”?」え?また・・・・・・・だと?あれ?この世界線の俺は既に入院歴有り?≪そんじゃぁ、今日の所はまどかのこと頼んだぞ岡部。他の子もいるみたいだけどちゃんとまどかのこと責任とれよ≫「まったーーーーー!!先程の発言に対して確認したいことが―――――!」≪責任のことかい?お前毎度毎度違う女を引っかけてくるからなー≫「ちがーう!!そっちじゃなくて―――」≪(タツヤーお風呂入るよー・・・・・・・あ~い・・・・)≫「聞いてーーーーーーー!」ぶつっ!「切れた―!切りやがったあの女!」電話の向こう側で洵子とまどかの弟タツヤの舌足らずの声が聞こえ・・・・そのまま切れた。未知なる世界線での恐怖に岡部が震える中、まどかとさやかが岡部のことを驚愕の目で見ていた。岡部が二人の視線に気づき震える声で尋ねる。願わくば先ほどの狂言が否定されることを―――「オカリン・・・・・記憶が?」「一昨日退院したばかりだよ・・・・岡部さん・・・まさか・・・」一昨日。その言葉に岡部は思い当たる事がある。この世界戦にきた昨日の朝、まどかと朝食をとりながら、この世界線での己のことを聞いていたがその時まどかは「一週間ぶり」という言葉をつかっていたような、それに美樹さやかも「一週間休んでいた」という台詞を言っていたような気がする。〔2・4話参照〕「まっまどか?俺はこの―――」この世界線で入院していたのか?そう聞こうとして、それをまどかに止められる。さやかと共に。「大丈夫だよオカリン!大丈夫だからね!」「岡部さん、あたし達のこと仲間だって言ってくれたよね?」「あっああ」「ならあたし達も岡部さんのこと守るから、大丈夫だからね!」まどかとさやかに抱きしめられて岡部は理解する。この世界は危険だと まどかを泣かすことは己に直接被害が出ると岡部は未知なる世界線に対する心構えを新たに構築する。岡部を慰めるように抱きしめる二人の少女の暖かさを感じながら深紅の携帯を耳にあてる。「・・・・・・俺だ。ああ、確かに問題は山積みだが俺は諦めない。エル・プサイ・コングルゥ」「・・・・・・結局なんなの」「まどかを泣かせたら私が折るわ」『キョーマはいろんな業を背負い込んでいるね』