世界線x.091015『君の願いは叶えられない』Side 暁美ほむら『僕と契約して、魔法少女になってよ』「――ッ!」「なつ、なに?」「・・・・ぅっ」この声にわたしの頭が警告を発する戸惑いながらもまどかとわたしの体を美樹さんが強く抱きしめる。脅威が近づいてくるなか突然頭に直接響く声。気づけば猫顔の化け物、魔女とわたし達の間に白いヌイグルミのような可愛らしい生き物がいた。『僕はキュウべえ、鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむら。君達にお願いがあるんだ』「ひっ」「なっ・・・・なんなのあんた?・・・・また変なのが・・・・あいつの仲間?」「・・・ィ・・・・キュ・・・・ベー・・・」まどかと美樹さんが突然のことに体を固くする。この状況で頭の中に聴こえる声、彼女達の緊張は限界だろう。・・・・・・・でも・・・・わたしはした・・・・した・・・と、今なお近づいてくる足音、それは明確な死をイメージさせる。足音の主の魔女は目の前で人間を殺し続けた悪魔だ。捕まったら最後、確実に殺される。わたしも、彼女達も。ただ買い物をしていただけの自分達に突然襲ってきた。その理不尽に怒りを、その存在に恐怖を抱いた。なのになんで、なんでだろうなんでわたしは・・・・あの魔女よりも・・・・この可愛らしいヌイグルミの様な存在に・・・・初めて出会ったはずなのに・・・・せまる脅威よりも明確な怒りを・・・・・・憎悪を抱くんだろうか?『違うよ美樹さやか。むしろその逆さ、僕は君達にお願いがあってきたんだ』「・・・・・おねがい?」「こんっ・・・・こんなときに・・・・っ」『君達にはこの状況を覆すことができるんだよ』「――っ!?ほんとう!?」『もちろんさ。だから美樹さやか、僕と契約し「その必要はないわ」―――』「契約」 たしかにこの状況を打破できるなら人はなんでもするだろう。追い詰められているのだから。死はすぐそこまできているのだから。選択の余地は無いのだから。そしてそれで自分を、友人を助けることができるなら美樹さんはなんでもするだろう。それが得体の知れない存在からの言葉でも、それがどんなペナルティを背負うことになっても、それが考えも及ばない不幸を呼ぶことになっても、それが自身だけでなく周りも悲しめることになっても、それがよく考えず行った行動でも、いきあたりばったりでも、誰かに強要されなくても、魔法少女の真実を知っても、この状況なら、もしかしたら・・・・・・・・・彼女は・・・そしてまた・・・・絶望していく・・・・・・・・そして・・・・まどかも。二人は本当に優しいから・・・・だからわたしは美樹さんの腕を解いて立ち上がる。知らない知識が教えてくれる。「キュウべえ」と自己紹介した人語を語る生物はこの状況を打破することができる存在。少女に奇跡を与える魔法の使者。一つの奇跡の代償に魔女と戦う運命を少女に望む者。世界の、宇宙の崩壊を防ぐために活動する放浪者。そして、契約した少女達が絶望し果てることを目的にする「私」の敵。「わたしが契約する・・・・・・まどかと美樹さんを―――――」それでも「わたし」は構わない。頭をよぎった目の前の存在に対する覚えの無い憎しみを無視する。すぐそこまで死は迫っている。魔女はすぐ傍だ。急がないと。まどかと美樹さんを殺させない。もう一人は嫌だと、皆と一緒にいたいと願いながら。契約すれば一緒にいることはできなくなるかもしれないのに。その理由も解らないのに。「私」の知識がやめてと訴える。でも失うのはもっと嫌だ。そして、まどかと美樹さんをコイツの企みに利用させない。だから。「護る力がほしい―――」解らない。「わたし」の知らない「私」がコイツを信用するなと訴える。コイツは敵だと。契約すれば最後、この身は彼女達と日常は歩めない。いつか破滅がくる。私自身の手で。「わたし/私」は戦いたくない。魔法少女になんかなりたくない。それでも。「わたし(私)の願いを叶えて」胸に、いや、体のどこからか解らないただ熱く大切なものが出ていく感覚におそわれて 気を失いそうな瞬間『・・・・・・・・・君の願いは叶えられない』「――――――え?」一気に収まった何事もなかったようにその言葉の理解を拒む。その声に視界が歪む。なにをいっているの?わたしには素質があると言ったのに何故?魔女はすぐそこにいるんだよ?急がないとまどか達が・・・・・あれ?・・・わたしじゃ駄目?なら誰なら?まどか?美樹さん?駄目だよ・・・二人ともわたしの友達なんだよ?だから―――――『君の願いは既に叶えられている・・・・・・君は一体なんなんだい?訳が解らないよ』「ほむらちゃん!!」「ほむら!危ない!!」『暁美ほむら。君は「すでに」魔法少女にな―――――ぶちゅっ!!「あっ!?」キュウべえの白い体が押し潰された。まどかと美樹さんが大きな声を出した時にはすでに魔女はわたしの目の前にいた。そしてキュウべえを潰した。――――潰して殺した。死んだ。キュウべえが死んだ。死んだ?「・・え・・?・・あ・・・あ・・・・・ぁっ・・・・ああ」それはつまり、願いを叶えることができない。それはつまり、魔法少女は生まれない。それはつまり、だれも魔女を倒せない。それはつまり・・・・・・・・殺される「あ・・・・・あう・・・・・あ」魔女の視線はわたしを見ている。アニメ顔の猫の瞳がわたしを捕える。体がいうことをきかない。逃げたいけど動けない。震える体がわたしの意思を無視する。魔女の腕が持ち上がる。―――死ぬんだ自然とそう思った。これは死んだ。逃げられない。動けない。まともに声も出ない。これじゃまどか達に逃げてというのも無理だ。―――せっかく・・・・まどかと「また」友達になれたのに―――美樹さんがわたしのこと「ほむら」って呼んでくれたのに―――こんなのって・・・・・思考が白濁する。脳が考えてるのか、動いているのか解らない何を思えばいいのか、何を考えればいいのか魔女の腕が振り落とされる。魔女にとっては軽く・・・・ほむらを捕まえるつもりでの動作かもしれない、それでも ほむらにっとては・・・・・・・・・・・どのみち、捕まったらそのへんの人達のように叩きつけられて同じ肉片になるだろうが――――「~~~~~ッの馬鹿ほむら!」「――え」ブン!目の前を魔女の腕が掠める。魔女の指の様な腕がわたしに届く前に美樹さんがわたしを引っ張り庇う。勢いがつきすぎて二人揃って転んでしまう。魔女の目の前で。これじゃあ無防備だ。なんで逃げてないの?まどかは?ああもう、これだから美樹さやかは。構わず逃げなさい、貴女まで死んじゃうでしょう?わたしはもういいから―――「さやかちゃん!?」「~~~~~~~~っ」「美樹さん!?」まどかの絶叫。美樹さんの痛みに震える声。濁った意識が浮上。気づいた、自分のあんまりな無能さに。なんで?どうして?―――ああ、死んでしまいたいああ畜生。どうして、「私」は―――なんで私はこんなにも馬鹿なんだ。愚かなんだ。なにを偉そうに妄想にふけているんだ。どうしようどうしようどうしよう。全部わたしのせいだ。私がでしゃばったからだ。すべてわたしがまねいたことだ。キュウべえが死んだのは私のせいだ。そのせいで魔女を倒せなくなった。私が・・・・・私がいたから。唯一の希望だったのに。私のせいだ。美樹さんが、優しい彼女が友人を見捨てないと知っていたのに。私のせいだ。ああくそ、ちくしょう。美樹さんが、美樹さんが「美樹さん!!」「こわい・・・こわいよ・・・恭介ぇ」美樹さんに大声で呼びかける温かい「わたし」の声に反応しない柔らかい血が、美樹さんから血が出ている感じたことの無い感触 ―――えぐれてるこわいと、同じ言葉を繰りかす背中が抱きしめられた彼女の体は震えていて背中に回したわたしの手は温かい液体の感触がして涙を流しながらもわたしを庇う彼女は優しい女の子でそんな女の子を怪我したのはわたしのせいで―――やめて魔女がわたしに、美樹さんに手を伸ばす。―――もうやめてよゆっくりと、こんどこそ逃がさないように―――わたしが死ぬから異形の腕を伸ばす。―――こんな私が死ぬからわたし達を殺すために―――だから・・・・・もう許してよ・・・・誰か・・・・助けてよ温かい流れていく彼女の血の感触に感情が停止して思考が停止して世界が停止して涙が流れ続けたポコ聴こえた音は小さかった「こわく・・・・ない」『―』「なっ!?」それでもその声に、彼女の世界は動きだす停止することを許さない諦めることを認めないポコ ポコ魔女の顔に小さな小物があたる。シャーペン、消しゴム、ノート、変な人形、ストラップらしきもの、飴玉。誰かの鞄に入っていた物だろうか?鞄からバラ撒かれた物を魔女に向かって投げる。「おまえ・・・・なんか・・・・怖くない」「だめっ!だめだよ!」誰が?決まっている。今ここで動けるのは、魔女の視線を、意識をわたし達から自分に向けさせることのできるのは「さやかちゃんと・・・・ほむらちゃんに」『―』「私の友達に」「駄目、逃げて、まどかーーーーー!!」鹿目まどかしかいない。「さわるなーーーーーーーーー!!」8本ある魔女の腕が彼女を捕え、叩きつけるように大きく振りかぶる。そして「オカリーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」Side 鹿目まどか~~~~~~~~~♪さやかちゃんに抱きしめられながら震えていると握りしめた携帯から着信の音がして死んでしまうと思った。バクバクと心臓が破れるんじゃないかと思うほど動いてるのが解る。着信ディスプレイには『オカリン』の文字。涙に滲んで良く見えない。それでも『オカリン』の文字が見えた。震える指で手間取りながら携帯を開く。着信メールが1件さっきまで何処にも通じなかったのに。訳が解らない、でもそれ以上にこの状況の方が解らない。どうしてこうなったんだろう?私達はただ買い物をしていただけなのに、どうして?どうして皆殺されているの?私達が何をしたの?どうして?どうして?あのオバケはなに?『僕と契約して魔法少女になってよ』「・・・・ぅっ」この声もだ。頭に響く声。テレパシー?漫画やアニメにでてくる?そんな馬鹿な・・・・・でもこの状況ではありなのかな?パニックなっている頭は何も考えてくれない震える身体は動かない思考は異常に対し停止し体は意思に反し活動を拒否する魔法少女?魔法少女になれば助かるのかな?「さやかちゃん」と「ほむらちゃん」は助かるかな?なら私は―――――「その必要はないわ」―――?混乱する頭で、恐怖でパンクしそうな頭で、死んでしまいそうな頭で今私に出来ることがあるんだと思った。それが現実逃避のような行動でも。でも、ほむらちゃんがさやかちゃんと話していた宇宙人(?)っぽいキュウべえの台詞を遮る。どうして?キュウべえは私達を助けてくれるかもしれないんだよ?なんで?さやかちゃんの腕を優しく解き立ち上がる震えて呼吸することさえ困難な私とは大違いだでもなんで?なんで必要無いの?何故立ち上がれるの?怖くないの?それに―――「・・・・・・?」どうしてそんなに怖い顔でキュウべえを睨みつけるの?ほむらちゃんの表情は「わたしが契約する・・・・・・まどかと美樹さんを―――――」どうしてそんなに泣きそうなの?辛そうに、いやだ、いやだと訴えるような気持が伝わってくる―――どうして?顔を見て、目を見て、声を聞けばわかる。彼女は怖がっている。キュウべえに。この状況で何故?目の前のオバケのことじゃない、キュウべえに怖がっている?ほむらちゃんは「キュウべえ」から私とさやかちゃんを引き離すように、隠すように私達とキュウべえの間に立つ。「わたしの願いを叶えて」表情は見えない。でも、その声には意思があった。覚悟があった。勇気があった。でも、その声には諦めがあった。逃避があった。嘆きがあった。その声は諦めない覚悟と勇気があった。その声は意思なき逃避と嘆きがあった。その声はどこまでも矛盾していてそれでもその声はその声はどこまでも―――優しかったでも『・・・・・・・・・君の願いは叶えられない』「え?」『君の願いは既に叶えられている・・・・・・君は一体なんなんだい?訳が解らないよ』した・・・・・した・・・した・・した した。視界に影が差す血の気が引いた気づいた、呆けてる場合じゃない関係無い。そんなことより目の前に・・・・ほむらちゃんの前にきている。ほむらちゃんの前で大きな腕を振り上げている。だめだめだめだめだめ震えてた声が、出せないと思っていた声が自分でも驚くほど大きな声ででた。「ほむらちゃん!」「ほむら!危ない!!」『暁美ほむら。君は「すでに」魔法少女にな――――― ぶちゅっ!!「あっ!?」その音に体がまた硬直する。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いさやかちゃんの体にしがみ付く。やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだこの音はさっきまで散々聞いた肉の潰れる音。助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて今の音は?潰れた白色・・・・キュウべえ?死んじゃった?どうなるの?ほむらちゃんは?「・・え・・?・・あ・・・あ・・・・・ぁっ・・・・ああ」声が聞こえる、生きてる!よかった!助けなきゃ、ほむらちゃんを――――――顔を上げる。そしてまた固まる。―――ああ、「それ」じゃダメだよ「あ・・・・・あう・・・・・あ」ほむらちゃんの声が聴こえる。震えているんだろうな。怖いんだろうな。私と違って目の前に悪魔がいるんだ。私達のために立ち上がってくれたから。それにくらべて私は恐怖に顔をまた伏せてしまう。友達の危機に目を逸らす。―――私なんかに何ができるの?さやかちゃんは自分もとっても怖いはずなのに慰めてくれた。抱きしめてくれた。震える体で、涙を零し続けながら。それでも私達を護ろうとしてくれた。ほむらちゃんは今日初めて出会った私達のために契約というものから、恐らくなんらかの懸念があるんだ、ほむらちゃんの声からわかる。それを知っていながらその身を差し出した。私達のために。―――ねえ、私に何ができるの?二人ともホントに怖いはずなのに、逃げ出したいはずなのに二人ともホントに怖いはずなのに、逃げ出さない。正確には逃げられないだけど、仮に逃げれたとしたら二人はどうするかな?―――私は私に、何か出来ると思っているの?それでも誰かを、私を庇うのかな?二人は優しいから。共倒れになっても、巻き込まれても、人によっては愚かと評されてもそれはきっと、強さといってもいいはずの二人の優しさ。なのに私は守られているだけで何もできなくて、ただ震えていることしかでき―――「~~~~~ッの馬鹿ほむら!」「――え」ブン!さやかちゃんが私を振りほどき―――また誰かを護るその姿に憧れと恐怖を抱いた赤 あか 血 ち「さやかちゃん!?」「~~~~~~~~っ」「美樹さん!?」ああ、気づけばさやかちゃんがほむらちゃんを助けていた。私がしがみ付いていた震える体であの状況で動ける、誰かを助けきれる彼女が誰かのために行動できる彼女が私の大切な友達がさやかちゃんが血赤い血さやかちゃんの背中から血が出てる。見てしまった。オバケの腕に引っかかった制服と■。さやかちゃんの背中の■。―――なにか出来る?オバケの腕からほむらちゃんを庇って背中に鋭い爪があたった?血が出てる!「美樹さん!!」「こわい・・・こわいよ・・・恭介ぇ」―――なにか?二人の声を聞いて私は―――なにもしない―――なにもできない―――私は―――得意なことも 自慢できることも 才能も 何も無くて―――何ができるのか 何がしたいのか―――何をしたらいいのかも 解らないまま 毎日をすごして沈んだ視界に 『―――――』 めーる私は 気づけばポコ「こわく・・・・ない」お前なんか怖くない。『―』「なっ!?」ポコ ポコ魔女の顔に小さな小物をぶつける。シャーペン、消しゴム、ノート、変な人形、ストラップらしきもの、飴玉。鞄からバラ撒かれた物を魔女に向かって投げる。「おまえ・・・・なんか・・・・怖くない」許さない。もう許さない。「だめっ!だめだよ!」ほむらちゃんの声が聴こえる。「さやかちゃんと・・・・ほむらちゃんに」でも止まらない。止めるつもりはない。止めたくない。このオバケはさやかちゃんを傷つけた。ほむらちゃんを泣かした。優しい私の友達を殺そうとした。ようやく理解した。今までできなかった。理解しようとしなかった。コイツは殺そうとした。殺そうとしたんだ。絶対に許さない。『―』「私の友達に」体の向きを私に向けたオバケと視線があう。私に異形の腕を伸ばす。「駄目、逃げて、まどかーーーーー!!」携帯を握りしめるなんだその顔は、よく見ると愛嬌がある猫顔だそれならまだゲロカエルンの方が不気味だよそれなのに調子に乗って私の友達を傷つけたんだお前なんか怖くない、お前なんかに負けるもんかお前なんかに私の友達を殺させるもんか私の優しい友達 大切な友達 自慢の友達 私の― 私の最高の友達に「さわるなーーーーーーーーー!!」目の前のオバケに物を投げ続ける。こんなのにオバケは怯まない、怖がらない、恐れない。それでもいい。私はコイツが許せないんだから。私じゃ絶対にコイツには勝てないけど。『無理かもしれない』『何度も繰り返した』『無茶だったかもしれない』『何度も失敗した』『でも』『だけど』『『絶対に無駄なんかじゃなかった』』誰の言葉だっけ?友達を傷つけられた、泣かした。酷く傷つけられたんだ絶望?憎しみ?違う違う違う違う違う私は怒ってるんだ。力の差がなんだ彼の言葉?彼女の言葉?あらゆる方法を、あらゆる手段を、あらゆる可能性を考えろ私の行いは無理かもしれない。友人を助けることはできない私の行動は無茶なのかもしれない。人の身であのオバケは倒せないでも でも それでも一分でも一秒でも一瞬でもほむらちゃんとさやかちゃんをオバケの意識から逸らすならそれは絶対に無駄じゃない。彼のように 彼女のようにその時間で奇跡が起こるかもしれない。「二人は」助かるかもしれない滅茶苦茶?支離滅裂?荒唐無稽?知らない、それがどうした。関係あるもんか。継ぎはぎだらけのオバケの腕が私の体に絡みつく。予想していたよりもずっと温かく、いや、熱く、ドクドクと脈をうっていて気持ち悪い。そして私の体を高く振り上げる。―――あとは叩きつけるのみ。私は死んじゃう。(・・・・・・・・私がんばったよね?)一気に冷えた頭で思う怖い、恐ろしい、死にたくない。ママ、パパ、たっくん・・・・・・・・オカリン握りしめた携帯電話に視線を向ける。(・・・・・・・これ・・・投げなかったな)彼からのメール。さっき届いたよくわからないメール。何もできなかった 何もしなかった 何も解らなかった 何かしたかったたった五文字の文章。短い言葉。ちょっと寂しい。(最後のメールが・・・・・・・・・でもやったよオカリン。私がんばったよね?)メールの内容通りにした。 ―――何もできなかった私がいってやった。あのオバケに。私が。 ―――何もしなかった私が怖がりな私が大きな声で。 ―――何も解らなかった私がうん、私がんばった。えらい。 ―――できたからだから だから(・・・・・・きっと、褒めてくれるよね?)何かしたかった私は友達のために何かできた。もう怖くて泣きそう。いやもう泣いてるんだ、涙で前がみえないや。これで最後、ならもう一度だけ。メールの通りにしよう。うん、それがいい。最後までこんなオバケに付き合うこと無いよね?だからもう一度。オバケの腕が最高頂まで延ばされた。すぅー 息をおもいっきり吸う。あとは叩きつけられるだけあとはメールの通りにするだけ見えない空を見上げるただの五文字。短い文章。意図が解らない文。状況と関係ない。意味が解らない。主語が無いメール――――――――――でも、それでも 彼には届かないけど それでも 『大声で呼べ』「オカリーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」 「―――――――――――」声は ヒィン耳に届いたのは風を引き裂く小さな音目に映ったのは小さな影届いた言葉は彼の言葉「・・・・・・あ・・・・・オカリ・・・・ン?」オバケの動きが止まる。視線を抱え上げた私を越えてさらに上にィィイイイイイイイイイイイイ!!耳に聞こえる音はロケットのような音目に映ったのは壊れた大きなハサミを持った彼の姿そしてドゴッッッッッッガァアアアアアアアアア!!!衝撃。そして浮遊感。「きゃっ!?」「ん」 ポス一瞬の落下感を味わって抱きとめられる。視界の端にオバケの腕が落下していく。オバケは突然現れた彼から距離をとるため一気に跳躍し離れた。それと同時に私も地面に落ちる、というか落とされた。「え・・・・・ほえ?・・・・・・・私・・・・?わきゃ?」「・・・・・・・・ぎりぎりだな・・・・・・まったく今回の世界線は」彼の声。落ち着いた。けれど怒ってるような安堵してるような声落ちた際にお尻をぶつけて痛い。彼は私を無視してほむらちゃんとさやかちゃんに声をかける。身体を屈めてさやかちゃんの傷口を確認している。ほむらちゃんを庇うように倒れるさやかちゃんを「・・・・・・・・・ふぅ、相変わらず君は誰かのために傷つくんだな」バキィィン!彼の右手から右肩までを覆っていた黒い甲冑の一部、肩の部分が独りでに解け魔法のように空中に舞う。それはさやかちゃんの傷口に被さるように動き始めた。「・・・・・・・・恐怖に震える身体で誰かを守れる君は本物の英雄だ・・・・・・君と出会えて・・・・・本当によかった」彼は、オカリンはさやかちゃんの髪に優しく触れる。気を失っているのか返事が無いさやかちゃんに微笑む。慈しむように、大切な宝物に触れるように。「ほむほむ、二人を頼む。『あとのことはまかせろ』・・・・・・といっても出遅れた訳だが・・・・・まあ、お前も相変わらずだな、おおかた力が、記憶が無いのに魔女相手に挑もうとしたな?」「お・・・・岡部・・・さん?」「鳳凰院だ」ほむらちゃんの手をひき、体を起こしてあげた彼は安心させるように微笑む。状況がよく解っていないのか、ほむらちゃんは呆気にとられている。私もなんだけどポンポンッ!と、ほむらちゃんの頭をやさしく叩くオカリンを見るいつもの白衣姿。ぼさぼさの黒髪。右腕に黒い甲冑?そしてさっきの衝撃を生みだした物。壊れたハサミ、片刃の大きな刃、この空間のどこかにあった物を剣のように利用しているのだろう。いつもと同じ彼だけど、やっぱり違う彼。さっきのが現実ならオカリンはこの空間の最も高い所から落ちてきた。見上げる私の視界には学校よりも高く感じる天井。人があの高さから降りて無事でいられるの?オカリンはあのオバケ・・・・魔女?を知っているの?なんで?どうして?ねえオカリンどうしてオカリンからあの魔女と同じ気配がするの?オカリンは本当にオカリン?本物?オカリンは私の幼馴染――――ガチャッ思考がゴチャゴチャになりかけたとき、彼の右腕の甲冑がハサミを握る。それに今思った事を悟られたと思いビクッ!と震える。一閃「――――フッ!」オカリンが後ろを確認しないままハサミを放つゴッ!!と風を切る音あまりの速さに目で追えなかったバキン!「・・・・・チッ、さすがに不意打ちでは無理か。やれやれ、まどか」「はっ、はい!?」でも結果は解った。背中を見せていたオカリンに襲いかかろうとしていたオバケ、魔女に放ったハサミは、さっきのオカリンが私を助けてくれたときの傷をこの時間で再生、癒し、鞭のように撓らせた腕でハサミを迎撃された。「声・・・・・聴こえたぞ。がんばったな」「――――あ」その言葉に その声に その表情にバサァッと白衣を翻しながら立ち上がる彼を見上げる―――オカリンだ疑念は晴れた―――オカリンだ左手で髪をクシャッ と撫でられながら彼が横を通り過ぎる―――いつものオカリンだ魔女へと向かう彼は毎日見ている姿自信に溢れる頼もしい背中右腕の甲冑なんか関係ない彼は来てくれた叫びに答えてくれたそうだ私は知っていた彼は 岡部倫太郎は 鳳凰院凶真は オカリンは幼馴染で 狂気のマッドサイエンティストで 優しくて 元気をくれて「オカ・・・・・リン」「ん?」―――いつだって「オカリン」「おう」―――どんなときだって「オカリン」「ああ」―――私にとって「助けて・・・・・・・さやかちゃんを、ほむらちゃんを・・・・・・」―――彼は「助けて!!」「舐めるなよまどか」私の願いに対し叱責、そして訂正「え?」「俺を誰だと思っている!俺は『全員』助けるぞ」「・・・・・?」「『お前も』俺は助けるぞ、いいかげん助ける人間に『自分を』含めろ」「―――あ」―――オカリンは「遠慮するな、絶対助けてやるからな」―――『正義の味方』なんだから―――未来ガジェット0号『失われし過去の郷愁』【ノスタルジア・ドライブ】起動―――デヴァイサ―『バージニア』―――展開率34%「さあ――――戦いだ」―――【OPEN COMBAT】あとがきまどかの心理的描写を書きたかったんですが、書けば書くほどサイコな電波になって・・・・・大幅に削除うまく書けなくて申し訳ありません他の作品をみて勉強勉強です