世界線x.091015頬っぺたをムギュ~ッと伸ばす。「いッ・・・いひゃいっ!・・・・・・いひゃいよ!」むぅ、よく伸びる。パッと手を離し彼女の柔らかい頬っぺたを開放する。「う~、ひどいじゃないか織莉子。せっかく学校を抜けてきてまで会いに来たのに」「あなたホントに進学できないわよ?・・・・・・・・・・もう、しょうがないわね」頬をさするキリカにため息を零しながら微笑む。「それで?倫太郎さんの事、教えてくれるんでしょう?」「・・・・う~あ~あ~、織莉子が昨日の夜からオカリン先生のことばっかり・・・・・・ハッ?まさか・・・・・・まさかそんな・・・・・・・やだーーーーーー織莉子に捨てられたら私は腐って果ててやるー!!」ガバッ!「きゃッ!・・・・・もう危ないでしょっ・・・・・・・まったく、私が貴女から離れるわけないでしょ?」キリカが織莉子の胸に、なかなかにしたたかな双丘に飛び込む。織莉子。美国織莉子。見滝原中学校とは別の制服に身を包む少女。キリカと同じ年頃の、腰まで届く長い亜麻色の髪をサイドテールにまとめた美しい女性といえる少女。巴マミに負けず劣らぬ美貌の持ち主。岡部倫太郎曰く白巫女のオリコ。未来視の魔眼を持つ魔法少女。彼女は自分の胸の中で悶えるキリカを抱きしめ優しく微笑む。「昨日も言ったでしょ?」「う~、オカリン先生が未来を変えてくれる・・・だっけ?・・・・あれ・・・・・・?」なんか違う気がしてキリカは昨日のことを織莉子の胸の感触を味わいながら思い出す。織莉子もキリカをあやしながら昨日の出来事を思い出す。未来の光景が不安定になった出来事を。前日 夕日が沈み始めた公園付近にて――――「~~~~♪」「ふふ、なんだか楽しそうねキリカ?」「君と一緒に夜の散歩だよ?楽しいにきまってる。うん、お昼から学校をサボって君を待っていたかいがあった」「・・・・・・・・・夕方まで遊んでただけでしょ?あんまり学業を疎かにするとダメよ、一緒に高校に行くんでしょ?なら―――」「ちがうよ?」「え?」「大学もその先もずっとだよ?」親友の、キリカの言葉に思考が一時停止する織莉子。「・・・・・・も・・・・・もうキリカったら!ならもっと真面目に学校にいかなきゃダメでしょ!」「むう、織莉子もオカリン先生みたいなこと言う・・・・・・・・なるべく努力するよ」嬉しくて、嬉しくてつい照れ隠しに注意する。呉キリカ。私の親友。私と同じ魔法少女。大切な人。私を救ってくれた友人。私は裏切られた お父様に すべての 信頼していた人達に 『美国さんはなんでも良くお出来になるわね』『良家の方ですものあれくらい普通なんでしょう』『すごいわ美国先輩』『さすが美国先生の娘さんですな品のある美しい子だ』『美国さん』『美国議員の娘』『何不自由のないお嬢様』『なんでもこなす完璧人間』『優秀なのは当然』『美国だもの』『美国』『美国議員が自宅で首を吊っているのが発見されました』『我が校の恥』 『もう来ないで下さい 迷惑です』 『美国?ああ あの汚職議員の娘だろ?』『美国』 『美国』 『美国』皆が私を美国の、お父様を通してしか見てくれない―――でも『織莉子!』―――キリカ『一緒にいこう!』―――あなたがいてくれた見滝原市にやってくる伝説的魔女の到来を伝えた。魔法少女の残酷な真実を教えた。インキュウベーターの目的を話した。このままじゃ未来に希望が無いことを―――『私は織莉子と一緒にいる!』―――全てを知ったうえで『織莉子!』―――名前を呼んでくれる 一緒にいてくれる「ねぇキリカ」「ん・・なに、織莉子?」他愛もない会話。貴女は私の名前を呼んでくれる。知ってる?私はそれがとても嬉しいんだよ?「私は貴女が大好きよ」「知ってる。私もだよ、織莉子」・・・・・・まさか即答するとは思わなかった。予想外。でも・・・・・・温かい気持ちになった。―――キリカ。私にとって貴女は最高の―――「あっ!オカリン先生だ!!」ビキッ「・・・・・・・本当に・・・・本当に貴女って人は」ムギュギュッ~~~~~~~~~~~~~!!人がシリアスというかなんというか、ともかく二人だけの感動に浸ってもいい場面でいつもいつもいつも。「いっ?・・・・いひゃい!?いひゃいよ!おひゅこ~~??」人の気も知らないで。最近はいつもいつもオカリン先生オカリン先生って「いいわ、そこまでいうなら貴女のお気に入りの先生とやらを私がしっかりと品定めしてあげるわ!」「おひゅほ!?」「なによ、確かに私は貴女のおかげでまた学校にもいけるようになったけど、だけど・・・・・・だけどもっと私にかまってくれてもいいじゃない・・・・・・・・キリカのバカーーーーーーーーーーー!!」「にょ~~~~~~~!?も・・・もげ?も・・・・げるもげりゅ~~~~!?」いきなり精神年齢が低下した織莉子にもげるんじゃ?と思われるほど頬っぺたを力一杯伸ばされる。「噂のオカリン先生がどれほどのものか見せてもら・・・・う・・わ・・・」「う~~あ~~~ひどいよ織莉子いきなりどうしたんだい?・・・・・・・・・・・・・・織莉子?」解放された頬っぺたをさすりながら急に静かになった織莉子に視線をむける。織莉子は公園からヨロヨロと、疲れているのかおぼつかない足取りで出てきた岡部を見て固まっていた。いや、正確には岡部を見ていない。どこか遠く、遠いどこか。――――未来。「織莉子!」「あ、あぁ!!・・・・・・、ぅあ・・・・あ、ああ・・・・・・・・っ!!」「織莉子!?どうしたのっ・・・・・ねぇ織莉子!?」キリカは青ざめ、震える織莉子の体を支える。そして織莉子がこの状態になった原因に目をむける。それは直感。だが確実。この瞬間このタイミング。原因は彼しかいない。きっと織莉子は観た。未来を。望まない未来を。あの織莉子が。魔法少女の真実を知っても揺るがない彼女が。青ざめ、恐怖するほどの未来を。オカリン先生が。彼が観せた。あいつが原因だ。なら私は。織莉子のために。そうだ。織莉子のため。私の恩人。親友。大切な人のために。最近親しくなった臨時講師。学校に行くのも悪くないと考えさせた人物。見滝原中学校で一番の・・・・いや織莉子の次にお気に入りの存在。―――――だが関係無い。織莉子を揺るがす存在ならば私は――――――――岡部倫太郎を排除するだが「・・・・・・・・邪魔をするな」岡部倫太郎を殺す。それを実行しようとした瞬間、岡部が視界から消えた。「・・・・織莉子・・・・・少しまってて。君の障害になるものは全て私が消す」だが、周りから見れば消えたのはキリカ達の方だろう。「・・・・・ああ、織莉子の家にあるといいなって思っていたんだ」結界に捕まった。『結界』 世界から隔絶された世界。普通の人には見ることができない空間。魔女と使い魔が支配する独自の世界。脱出の方法は大雑把にわけて三つ、結界の主たる魔女の撃破。魔女の逃走。結界の出口まで逃げる。が、その三つともただの人間ではほぼ不可能だろう。超常の理の存在たる魔女に十全の装備がない人間では相手にもならない。故に魔女自身から逃走することは無い。そんな非力な人間が出口を見つけ、かつ逃げ切れるだろうか?ここで死んだ者は遺体すら元の世界に戻ることはなく朽ち果て、その存在は魔女と共に世界には伝わらない。「ブルジョアは鎧を置くのがしきたりだもんね・・・・・・・・・でも」ガシャン!キリカと織莉子は魔女の結界に捕えられた。岡部の姿が見えないということは彼はギリギリ結界の範囲外にいたんだろう。「今は・・・・・・いや、有限の私は常に織莉子のためにある。だからさ」キリカ達はいつの間にかギリシャ神殿の聖地であり廃墟。神聖のようで邪悪。現実のようであり幻。明るいようで暗く。キリカ達の周りには様々な彫刻が飾られた石柱が存在し、それはすべて空中で静止している世界。そんな結界に捕えられた。「さっさと終わらせよう」キリカが視線をこの空間の中心に向ける。感情の・・・・・先ほどまで織莉子と話していた温かさも、織莉子が青ざめていた時の慌てていた混乱もすべて消えた、ただただ目の前の障害に対し、冷たい、冷酷な、存在を、ただこちらの都合で一方的に否定する残酷ともいえる態度で語りかける。――――――――目の前の『鎧を纏った魔女』に『魔女』 人としての形状を保っておらず、その姿は異端にして異形、ものによっては家庭用品や絵画、ヌイグルミ等の玩具の様な存在もいれば、人間の内臓やゾンビ、見ただけで吐き気を堪えなければならないようなグロテスクな形状をしているものもいる。魔女は絶望と呪いから生まれ、絶望と呪いを世界にばら撒く。絶望と呪い。魔女の「それ」を受けたもの、「魔女の口づけ」という印が現れ、印を受けたものは原因不明の殺人や自殺を引きおこす。また魔女は独自の部下、「使い魔」を生みだす。使い魔は生まれた当初は主たる魔女に使えるが、成長するにつれ独自に活動し、いつしか主に酷似した魔女へと成長、進化する。そして魔女は人を襲い殺す。結界に閉じ込め人を殺す。それは魔女自身の意思であるのか、そうでないのか、それに意味があるかもしれないし意味が無いかもしれない。そこに理由があるかもしれないし理由が無いかもしれない。とにかく魔女は人を殺す。絶望と呪いをばら撒き殺人と自殺を引き起こし、人を襲い殺し、使い魔を生みだし魔女をさらに創造する。そんな人間の理から外れた怪物。化け物。■■■■のなれの果て。ガシャン!!『鎧を纏った魔女』 全長は距離があるにもかかわらずキリカが仰ぎみなければならないほどの巨体。黒をベースに銀のラインをひいたデザインの西洋甲冑の上から赤茶色のローブを纏い、肩から甲冑は消え鉄骨を無理やり螺旋状に伸ばした腕(?)、 鎧の隙間から緑色の人間の肌が見え隠れしている。その姿は異形でありながらも神聖な存在感を醸し出している。「私はオカリン先生を・・・・・岡部倫太郎を排除しないといけない」その魔女に、――――近づいてくる超常の存在に、人の身では抗うことができない存在に、中学生の女の子であるキリカは臆することも無く、臆する理由が無いとでも言うように軽い足どりで近づく。ガシャンッ!!『この程度』は織莉子の障害にならない。だが障害たる岡部の排除の邪魔だから「ついで」程度の気持ちで・・・・・・・・・・しかし速やかに岡部の排除のためにはやはり邪魔だ。ギギギギギッ!距離にして5m。キリカにとってはまだ距離があり、魔女にとっては近すぎる距離で互いに止まる。魔女の――――異形の、人間を一瞬でミンチにできる――――腕が、錆びついた自転車のチェーンのような異音を発しながら高く揚げられ、自身を見上げるキリカに『―――――――――』ゴッ!!叩きつけられる。―――――――――――――――――――ことは無かった。「ん」ヒパッ!『!?』ズンッ!無造作に振るわれた、なんの技術も、特別力を込めていない腕で振るわれたキリカの動きに、振り下ろされた魔女の腕が―――――体の半身ごと――――――地面に落ちる。『?』あっさりと『―――??』ガシャンッ!!半身を失った事によりバランスを崩したのか、見上げていた巨体がキリカの前に膝をつく。いつの間にか身にまとう衣装が変わったキリカの前に。キリカに許しを請うように。キリカに首を差し出すように。キリカは――――。『――――――!――――!』結界が解けた。『変身』を解いたキリカは織莉子のいる方へ振り返える。―――その背にはバラバラにされた、先ほどまでこの世に確かに存在していた鎧は―――――もういない。キリカは落ちている黒い宝玉に、グリーフシードに関心をむけることなく織莉子に声をかける。「織莉子、すぐに―――――」「キリカッ!」「え?はっ、はい!?」岡部倫太郎を排除しに行こう。そう伝えようとした矢先に織莉子がキリカに詰め寄ってきた。先ほどまであった一方的なジェノサイドなど眼中になく、そんな出来事があったことも知らなかったように、いや実際彼女は知らないのだろう。そんな些細なことよりも今後の自分達に重大で重要な――――「彼のことッ!『倫太朗さん』のこと教えてッ!!」「・・・・へ?りっ・・りんたろうさん?」「そうよ!彼は・・・・・倫太郎さんがいれば未来が変わるわ!今までどんなに頑張っても私達の未来には光が無かった!でも・・・・でもねキリカ!あの人なら・・・・・あの人ならもしかしたらっ!!」「お・・・・・おち・・・・・・落ち付いて織莉子!くる・・・・・くるしい・・・うぷっ」先ほどまで顔を青ざめていた人物とはおもえぬほどのハイテンションでキリカの肩を掴み激しく揺らす。「これが落ち付いていられますかッ!?よく聞いてキリカ!」「うぇ・・・っぷ・・・・な・・・なに?」ガックンガックン体を揺らされながらキリカは気づく。織莉子の目がグルグル回っている。恐らく混乱しているのだろう。彼女は一体何を観たんだろうか?「倫太郎さんはどういう訳か未来が不安定なの!ううん、決して近いうちに亡くなってしまうわけじゃなくてね彼は不安定なの!『世界から切り離されそう』というか『この世に完全に定着していない』というか!そのせいで未来が観えづらいんだけ・・・・ど・・・・・・・・あれ?・・・・私は・・・?・・・・?」どんな未来が彼女に観えたのか?少なくとも最初は望まない未来だろう。彼女は怯えていたのだから。それはキリカには解る。では今は?先ほどとは違い頬を染めながら岡部のことを聞く。未来が不安定。彼女が観た未来は一つではない?――――――だが違和感。矛盾。ハイテンションから一転。織莉子は冷静になる。「・・・・?・・・・・キリ・・・カ?」「・・・織莉子?」また様子がおかしくなった織莉子に心配そうに声をかける。「・・・・・私は今まで貴女から倫太郎さんのことを聞いてきたけど・・・・・その記憶は確かにある・・・・けどね、キリカ?私はさっき倫太郎さんを見るまで彼のことを・・・彼を・・此処にいると・・・・存在していると理解していなかった・・・の?いえ・・・・今日になって?・・・・初めて世界にいると・・・・認識できた?」冷静になった織莉子はキリカに感じた違和感を説明しようとした。しかしまだ混乱しているにか、それは己に言い聞かせるように、納得できるように、理解できるように。確認するように。自分で感じたことがうまく説明できないようだった。「織莉子、私の容量の無い頭じゃ何を言っているか解らないよ?」「えっと・・・・そうね。ねぇキリカ、貴女はこれまで彼のことをたくさん話してくれたわよね?」「?うん、オカリン先生は面白いからね。君にもたくさん彼の武勇伝を語ったさ、オカリン先生との出来事もね。それがどうしたんだい?」「その記憶に違和感は無い?・・・・・私は何故かあると思うの、彼と会ったこともない私が・・・・何故か・・・感じるの・・・・・ねぇキリカ、・・・・・貴女の記憶のオカリン先生は本当に今まで・・・・」キリカは首を傾げる。織莉子の言っている意味が理解できない。いるけどいない?今まであったことが無いならそう感じても?ダメだ、やっぱり意味が解らない。織莉子は頭が良いから。―――――だが「本当にこの世界にいたの?」当たり前のように簡単な日本語が。その言葉が。発せられた理解できる言葉が。質問の意味が理解しづらい言葉が。頭に―――瞬間キリカは―――キリカの頭は 岡部倫太郎という人間は本当に 自分の隣りに ―――――――――――――――――――――――――――――――存在して いた か?「――――――ッ!?」ゾッとした!全身から鳥肌がたつ。「・・・・・え?・・・え?」なんだそれは?震えが止まらない。嘘だ。おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。彼はいた。自分の隣りに。彼はいた。初対面は教室だった。彼はいた。初めて会話した時は嫌いだった。彼はいた。偶然愛について討論して互いの価値基準を語りあった。彼はいた。それ以降チョクチョク絡んだ。彼はいた。親友のことを話した。彼はいた。自分に何度も笑みを浮かべて話しに付き合ってくれた。彼はいた。いたはずだ。いたんだ。「いたよ・・・・・?オカリン先生はいたんだよ?」織莉子に・・・・自分に言い聞かせるように。「そうだよ!いたんだ!今日だってオカリン先生と『いつもみたいに』―――――――?」「今日以外は?昨日は?その前は?」いつもみたいに―――――自分の発した言葉がゆれる。そこに織莉子の質問が重なり―――「・・・・・・あ?・・・・・う・・あ?」解らなくなってくる。彼は本当にいたか?自分のこれまでの人生に岡部倫太郎という人間はいたか?―――存在していたか?―――消える昨日までの彼の姿が記憶から消えていく。「私は話だけは聞いてきたつもりだけど・・・・・今まで貴女から聞いていた彼と今見た倫太郎さんが重ならないの。なんというか・・・・・今日初めて存在を認識できた。『今日になって』、昨日まで聞いていた人の存在が定着したというか・・・」「・・・・・いや・・・・・なんとなく解るよ・・・・織莉子・・・・」薄れていく。自覚すればするほど彼が、岡部倫太郎という人間が、『昨日までの彼が』、自分の記憶から、世界から薄れる。「彼が・・・・・初対面の人に感じるんだ・・・感じてしまうんだ・・・まるで・・・・・」キリカはスカートを握りしめる。瞳に涙を浮かべながら。自分の気に入った人が。大切な思い出が。嘘のような。騙されていたような感覚におちいる。「今日初めてこの世に・・・・・世界に現れて・・・・・・・それを無理やり調節したみたいに・・・・」世界が。今までの『岡部倫太郎という人間がいなかった世界』に、私達の世界に、『岡部倫太郎が存在していた場合の世界』に無理やり書きかえられた。「・・・・・・・そう感じるんだ。・・・・・うまく・・・・言えないけどね」「・・・・いいえ、それでなんとなくだけど解るわ」自分と違い接触の機会が多かった彼女がそういうんだ。それがもっとも近い表現だろう。滅茶苦茶な話だ。出鱈目な話だ。支離滅裂な話だ。荒唐無稽な話だ。憶測にもほどがある。でも「・・・・・・魔女かな?」キリカは内から沸いてくるドス黒い感情に瞳が暗くなる。「今まで見たことの無いタイプでさ・・・・・絶望や呪いをばら撒くみたいに・・・さ。」なんらかの能力で人間を世界から消す。存在を忘れさせる。または岡部自身が魔女が創りだした存在だとしたら?「もしそうなら・・・・・・どうしてくれようか?」キリカにとって世界は織莉子で十分だ。岡部が織莉子の敵なら排除する。それはいい。それはいいんだ。「でも・・・・・・それとこれとはべつだな・・・・・」キリカは岡部を殺せる。きっと躊躇いなく。しかし「彼との思い出を否定されるのは・・・・・否定できてしまうのは・・・・・ゆるせないな」たとえ今日抱きついた彼が魔女でも、たとえ昨日までの彼が偽物でも「なんか・・・・・ゆるせないんだ・・・ 自分が・・・織莉子・・・・くやしいだ」自分と一緒にいてくれた。織莉子のように。自分と。私と。一緒にたくさん話した。私を『知っていてくれた』。仮に最初から岡部が魔女が創った存在ならまだ悩まない。でも―――もし魔女が岡部を殺したのなら。もし魔女が岡部になり変っていたのなら。「殺そう」キリカは先ほどの魔女――鎧の魔女――のときよりも明確な殺意を持って岡部がいるであろう道筋に視線を向け駆け出す。変身して――――キリカの姿が変わる。右目に眼帯。服装は見滝原中学の制服から黒の姿。黒い襟のたかいロングコート。裾からは白く広がるレース。黒のミニスカートに。太股に白いソックス。黒い靴。コートの腰には黒い菱形のソウルジェム。キリカの魔法少女としての姿。魔法少女 「どんな願いでも一つ叶える」ことと引き換えにインキュベーターと契約し、魔女と戦う運命を背負う存在。魔女の存在を感知し、単独での戦闘で魔女を滅ぼすことができる稀有な存在。故にそのポテンシャルは常人を遥かに凌駕し、さらに各人オリジナルの魔法をしようする。剣 槍 弓 盾 銃等の武器や、炎や電気、時間等を操る力などを持つ超人。当然、その力を人間に振るえば結果は先ほどの鎧の魔女よりもはやく肉塊が出来るだろう。「落ち着きなさい」「―――え?わぎゅっ!?」ぼかんっ!!駆け出すキリカの眼前に金色の刺繍がされた黒い球体が現れて――爆発した。「もうダメでしょ?落ち付きなさいキリカ、倫太郎さんは確かに謎が多すぎるけど大丈夫よ」キリカに静止を呼び掛ける織莉子。その姿もまたキリカと同じように変わっていた。キリカの黒に対する白い魔法少女。亜麻色の髪はサイドテールからかるくウェーブのかかったストレートに変わり、腰まで届く白いヴェールをつけた白い帽子。童話に出てくるお姫様のような真白のドレス。胸元に輝く白のソウルジェム。白の魔法少女。「さっきはあんなふうに言ったけど彼は人間よ、魔女じゃない。昨日までの存在があやふやなのは確かだけど、今日の彼はちゃんと存在を感じたんでしょ?倫太郎さんとの思い出は確かにあるんでしょ?」「・・・・・・・静止のツッコミが痛すぎるよ織莉子」先ほどの爆発は織莉子の魔法だ。魔法少女に変身してなかったら死んでたと思われる。もちろん痛い。「たしかにある。オカリン先生が人間なら・・・・・・・それは喜ばしいことだ。だけどいいの?彼はそれでも危険じゃないの?君のさっきの取り乱し方は異常だ、彼が原因なら――――」「確かに私が観た未来は最悪のものもあった・・・・・・でもねキリカ、私が観た未来には光もあったのよ」親友の彼女が死んでしまう。そんな未来。今まで観てきた未来と変わらない・・・・・いや、それを超える耐えがたい未来もあった。でも「彼は、倫太郎さんは私達と戦ってくれてた。傷ついた体で、折れかけた『私達』を何度も助けてくれて、一緒に未来を掴むために戦ってくれる未来が観えたの」「え?オカリン先生が?男だよ?」魔女に対抗できるのは魔法少女のみ。たしかに結界に入りさえすれば現代兵器も魔女には有効だ。しかしそれにはかなりの装備と弾薬を携帯しないといけない。男とはいえオカリン先生が魔女に対して十分な装備を携帯できるだろうか?そして、それでも常人の人間に織莉子が期待するだけの戦果をあげきれるのか?半端な戦力ならいっそ最悪の未来の回避のために不安の種を今のうちに排除した方がいいのでは?「男よ、魔法も使えない人。でもね、私が観た未来の彼は―――――」織莉子は嬉しそうに己が観た未来を語る。自分の探し求めていた未来を見つけたと、暗闇しかなかった世界に光が見えたと、嬉しそうに『頬を染めながら』。「でもそうね、キリカ、明日倫太郎さんのこと軽く確かめてきて、私はあなたの判断に任せるわ」「私の独断でいいの?」「ええ、最悪の未来も確かにあるのだしここは貴女の判断に賭けるわ。・・・・・もっとも大丈夫だと思うけどね」「すごい自信だね、さっきまであんなに混乱していたのに?」岡部倫太郎にはまだ不明な点が多い。あの織莉子があまりにも簡単に信用している。彼女が言う最悪の未来を観たにもかかわらずだ。「まあね、ふふ・・・・・・ねぇキリカ」「なんだい織莉子、改まって?」「私達の未来の旦那様によろしくね♪」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」―――旦那様?「―――――っていう内容だっけ?」「だいたいあってるわね、・・・・・それで、倫太郎さんは貴女から見てどんな感じだった?」昨日の回想から復帰したキリカは今日軽く岡部に脅しを込めた対話をした。その時の岡部の印象を織莉子に伝える。昨日ゲットしたグリーフシードを彼に譲ったことも。「オカリン先生はやっぱりオカリン先生だったよ!昨日までのオカリン先生になにあったかは解らないけどそんなのは関係ない!私はオカリン先生が気にいっている。重要なのはそれだけさ!」「そのとおりよキリカ!貴女は立派なレディーになれるわね!」織莉子の胸の中でテンション高く己の意思を織莉子に伝える。鼓舞する。確かめたいことがあるから、親友が岡部倫太郎の『いつもの』に勘違いしている可能性がある。彼女は直接の被害にあったことは無いし、現場を目撃したことも無い。自分との会話でしか彼の破壊力を知らない。故に織莉子には耐性が無い。「・・・・・・それで織莉子、聞きたいことがあるんだ」「?なにかしらキリカ?」キリカは慎重になる、真剣に問う。昨日は聞けなかった。あまりにも突然で聞けなかったし、今まで暗い未来しか観てない織莉子が初めて明るい未来が観えたと喜んでいたのだ、あんなに嬉しそうな織莉子は久しぶりに見た。言えるわけがなかった。「え~と、昨日のオカリン先生が私達の旦那様とかプロポーズされたとか・・・・・・」「ま、また?私も恥ずかしいのよ・・・・・でも・・・・もうしょうがないわね貴女の頼みならしょうがないわ聞かせてあげるわ倫太郎さんがあの時私にしてくれたプロポーズを真剣な顔で顔を伏せる私に倫太郎さんは―――――」頬を赤く染める織莉子の話を聞きながらキリカは思う。(・・・・・・・・・まずい、確実だ)未来で岡部倫太郎は『いつもの』ように女性を勘違いさせている。確信がある。とくに「倫太郎さんが」の部分。あの岡部倫太郎が自ら女性を口説くだろうか?・・・・・・・・ありえない、あるわけがない。岡部倫太郎自らプロポーズ?。なんぞそれ?それはもはや神々の領域仏の御業。魚は宇宙へ進出し鳥は大地を開拓、人はきっとティッシュで魔女を駆逐しゲロカエルンは世界を救うだろう。(・・・・・・どうしてこうなった?オカリン先生・・・・今日見逃した責任はしっかり取ってもらうよ)未来のこととはいえ・・・・・・思春期の女の子に・・・・・・それも自分の大切な親友にまで・・・・・・「生まれて初めてのプロポーズがあんな場所だもの吊り橋効果って解ってはいるんだけど本当に嬉しくてねそれでね貴女とも一緒にいたいからキリカもって考えてみたら失礼なトンデモ発言も倫太郎さんったら笑顔で了承してくれてもう私なにがなんやら解らな―――――」さっきから息づきなしで喋る織莉子に、頭を抱えるキリカという珍しい光景が生まれていた。?????????顔を伏せる白の少女に、黒の男女が語りかける。―――もう無理だよ「織莉子?」―――未来がみえないの「力を消耗しすぎただけだよ」―――ちがうの 暗い未来しか観えないの「・・・・・・織莉子」白の少女は身体を丸め震える。瞳には無数の未来が観える。どれもが先の無い未来。―――怖いよ「織莉子」―――ごめんなさい「・・・・いいんだよ」―――ゆるして「君の力は時に君を苦しめる みんなしってるから」今なお白の少女の瞳は明るい未来を探し迷走する。無い。無い無い無い。見つからない。―――震えが止まらないの「・・・・織莉子大丈夫。大丈夫だよ」―――みんが戦っているのに「今は目を瞑ってて」―――もう何も観たくない「うん・・・いいよ」親友の言葉に、無駄だと悟りながら目を閉じる。怖いことから逃げるように・・・・・実際逃げているんだろうと知りながら。「馬鹿かお前ら?目を閉じて何になる」そこに黒の少女と似た服装の青年が口をはさむ。沈む白の少女に遠慮なく容赦ない言葉がささる。―――ごめんなさい「オカリン先生!」「逆だ、目を開けろ白巫女。閉じてても不安なだけだろうが」―――?「・・・え」「ここにはお前が望む未来があるぞ」―――嘘だ「嘘なものか、いいか“オリコ”良く聞け、ここには――」『おにーさーーーーーん!プレイアデス聖団全員配置についたよ~!』『オカリ~ンはやくはやくー!』『ぎゃ~~~こっちきたー!さっさとしろよ岡部倫太郎!』『キョ―マ。未来ガジェット“業火封殺の箱”【レーギャルンの箱】いつでもいけるよ』青年の声を遮り次々と音無き声が聴こえる。念話。たくさんの、たくさんの諦めず戦い続ける声。「よろしい、ならば戦争だ」『ふっっっっっっっっざけんなーーーーーーーーーーー!!』『やぁ~いっぱいきた~!』『オリコおねいちゃーん、次はどうするのー!!』―――これは?「寝ぼけたか?俺達がたてた作戦だろう、まだみんな諦めていないぞ。なのにお前が、ここで諦めるのか?」―――私は『またきたー!』『まあ中心部だしね』『ティロ・フィナーレ!!』『お~やったれやったれ!!』『わー!?あの影絵の連中ついに巴さんまで真似てきたぞ!?』『なんかスッゴイ攻撃きたよ!』『・・・・・・・・』『・・・・・ごめんなさい』『『『『本人のかよ!?』』』』「・・・皆元気そうだな。結構、大いに結構だ」『『『『『『『『『キリカさんそいつ殴っといて!!』』』』』』』黒い青年は白の少女、織莉子に手を差し出す。―――私は「約束しよう、賭けてもいい」―――でも未来は「俺が一緒だ。君と共にいる」黒い青年の姿は一瞬光を発するといつもの白衣姿に変わる。―――一緒に?「ああ、俺を誰だと思っている。・・・・・見たくない未来ならみなくていい」―――でも「簡単だ。俺だけを見ろ」顔をあげ、おずおずと青年に手を伸ばす。「俺がお前の見たい未来をつくってやる!」『キョ―マ。いまの発言に対し抗議の念話が殺到しているよ?』「・・・・・・・なぜだ?」織莉子の手に触れた青年の姿がまた変わる。―――未来ガジェット0号『失われた過去の郷愁【ノスタルジア・ドライブ】』起動―――デヴァイサ―『美国織莉子』「まあいいか・・・・・・・“オリコ”いくぞ」―――?「君だって未来をつくりたいだろう?自分自身の力で」青年が織莉子の手をギュッと握り、伏せていた体を起こす。「どんなに絶望的でも自分の意思と覚悟で望みに向かうならきっと・・・・・・そう教えてくれたのは君だ。“オリコ”」―――私が?「そうだ・・・・・そうやって君は俺を導いてきた、これからもそうしてくれると心強い」―――それって『・・・・・念話がそろそろ100件超えそうだよ』「そろそろみな限界か」「違うと思うよオカリン先生」「?」織莉子が白いお姫様なら、青年はそんな姫を護る白い騎士のような姿―――ソウルジェム『光と門番を司るもの【ヘイムダル】』発動青年はいつものポーズをとる。右手にもった剣を前方に伸ばし、左手の人差し指を額につける。「いくぞ。これより『作戦未来を司る女神【オペレーション・スクルド】』第二段階に入る」宣言。「これより、世界から未来を取りもどす!・・・・・さあ、返事はどうした!!」『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』世界線x.091015まどか達の買い物に付き合っていた岡部の視界に金髪がよぎる。「まさか?」走る。見違いかもしれない。今時金髪などこにでもいる。でももしかしたら彼女かもしれない。走る。追いつく。深めにかぶった帽子から零れる、綺麗な絹の様な金髪をツインテールにし、薄手のパーカーにジーパン。見知った姿とは違う。しかし似ている。傷ついた自分を助けてくれた彼女に。「ユウリ!」先行く少女の手を掴む。そこに――――「―――ッ!?だっ・・・・だれっ?」「え?・・・・・・あ・・・・ユウリ・・・か?」「・・・あ・・・・・・ユウリ・・・・・・ユウリの・・・・知り合い・・・・・?」岡部の目の前にそこには閃光の指圧師【シャイニング・フィンガー】こと飛鳥ユウリと瓜二つの―――いや、飛鳥ユウリそのものに生まれ変わることを願った少女がいた。