軍隊のど真ん中を切り裂いた高熱ビームによって部隊は瓦解した。
直撃を喰らった者は一瞬で炭化どころか焼滅し。
むしろその通過コースの周囲で炎に包まれ転げまわる者が続出した。
中には弓を構えて上空のリオレウスに向けて撃つ強者もいたが、元より下から上へ向けて撃つというのは重力の影響もあり、難しい。
全てが届く事さえなく、力なく途中で勢いを失って地面に落ちてきた。
いや、彼らもまたパニックに陥っていたのだろう。ただ、ひたすら届きもしない矢を放つ事で恐怖を誤魔化しているのだった。
だが、それも繰り返される攻撃に次第に散発的、どころか次々と死体となり、逃げ出す者が増えた。
リオレウスが逃げ出す者ではなく、抵抗する者を執拗に攻撃している事に誰かが気付くと、それはますます加速し、何時しか全員が逃げ出した。
【SIDE:転生者】
そうだ、逃げるがいい。
悠然と高空を舞いながら、彼は必死に逃げる者達を見下ろしていた。
前回は見逃した。
だが、今回は違う。
徒歩で逃げる彼らの方向を確認してゆく内に、街道を発見した。
ただ、それと同時に前回のハンター達とは依頼は異なるのでは?という疑念も持っていた。前回逃げた連中の逃走方向も一応確認は行っていた。その先に岩山を利用した大きめの都市があったので、あそこから来たのかと納得した訳だが、今回はそれとはまるで逆だ。
それでも彼の支配領域の手前まで伸びる街道を発見した彼は悠然と帰還した。
焦る事はない。
どのみち徒歩で逃げる者達が動ける距離など自分には僅かな時間でいいのだから。
【SIDE:人間ズ】
兵士達は懸命に逃げていたが、やがて肉体の限界に達し、その場にへたりこむ者が続出した。
しばらくは恐怖に満ちた顔を周囲に向けていたが、どうやら飛竜が縄張りから逃げ出す者を追ってこないと判断すると、不安を抱えつつも次第にまとまって国へと向いだした。
のろのろと足を引きずる敗軍は、何しろ食事も何もかも放り捨てて逃げ出した集団だ。
一部の参謀らが何とかまとめてはいるものの、脱走者が相次いだ。
早々に食料を確保せねばならない。
場合によっては村からの食料を強奪という事件まで起こしながら、必死に彼らは歩を進めた。
先発で送られた兵士、その大部分は逃げてしまったが、中には生真面目な者もおり、彼らが伝えた情勢により何とかギリギリで食料が届きだした。
「やれやれ、あと少しだな」
兵士の一人がそう呟いた。
草原に既に都市が見えていた。
まだ距離はあるから、行軍の速度を考えると明日辺りに街に入れるだろうと安堵の声を上げる兵士らとは別に上の立場の者達は悲壮な覚悟を決めていた。
敗れたのに加え、如何に忠告を聞かなかったとしても、将軍は将軍。
王の弟は王の弟。
将軍が死んだ以上、彼らが責任を追及されるのは必至だった。
とはいえ、逃げた所でどうしようもない。既にいい年をした彼らが今更護衛なんぞで一からやっていける程甘い世界ではなかったからだ。
だが。
暗い未来に溜息をつく彼らの、その上空を。
竜が飛来した。
それが全てを変える事になった。
誰かが恐怖の叫び声を上げた。
その眼前で、王宮に高熱のブレス、ビームが叩き付けられた。
【SIDE:王宮】
街には全く被害はなかった。
だが、叩きつけられるブレスは王宮に次々とダメージを与えていた。
泡を食って王宮から飛び出す者もいた。
だが、立派な服を着た老人が飛び出そうものなら、即座に連射して叩き込まれた炎で黒焦げになってしまう光景を見てからは誰も飛び出せずにいた。
「だ、誰か何とかせい!!」
王が怒鳴っていた。
だが、どうしろというのか。
「軍はどうした!将軍は!?ハンター達は何故奴を攻撃せん!!」
軍は既に敗れた。
将軍は死んだ。
ハンターとはいえ、空を悠々と舞う相手に対しては手の出しようがない。
G級ハンターが動員された事を知る者もいたが、現状の王に告げても、何故隣国に、と喚くだけと見て、誰も口にしようとしない。
もっとも、この王も普段はここまで取り乱す人物ではない。
この人物も通常は威厳を見せる人物だったのだが……窮地こそ人の本性が現れる、というべきか……飛竜の襲撃があってから、狼狽する事甚だしかった。そんな彼がこうしてまだ生きているのは、ほんの僅かな幸運。同じく飛び出そうとして転倒、その脇を同じく恐怖で錯乱した大臣の一人が駆け抜けていって怒鳴りつけようとしたその眼前で黒焦げになるという……ある種の幸運ゆえだった。
もし、あのまま走り出していたら、今頃黒焦げになっていたのは王だっただろう。
結局、王は生き永らえた。
……悪運だけはあったらしく、実際、彼は建物内部ではなく、門の陰にいて出るに出れなかったが故に王宮が崩壊するのと引き換えに助かった。ただし、息子の王子らは全員死亡したが……。
……ただし、彼はその後、小鳥の羽ばたきの音にも怯えるようになり、まともな生活が送れなくなってしまった。
そのような精神を病んだ状態で国政が取れる訳もなく、結局この後間もなく王は病気として強制的に退位という名の幽閉を受け、この先王との王位争いで失脚して街に住んでいた先王の従弟が継ぐ事になる。
全てを奪われ、それ故に王宮に誰一人身内がいなかった、彼は即位する時。
「人生何が幸いするか分かったものじゃない」
と呟いたが……失脚したからこそ家族全員無事だった当人としてはきっと嘘偽りのない気持ちだったのだろう。
ただ、この後、王はリオレウスに対して不干渉を決定する。
さすがに、大被害を出して、国の建て直しが精一杯という状況下で彼の地に手を出す余裕がなくなった、とも言うのだが……。
【あとがき】
次回より、G級ハンターとの戦いが始まる、予定