「……と、とりあえず話を聞いてもらいたいんだが」
『よかろう』
かくかくしかじか。
「……という訳でね。母が何故自殺したのか、聖地に何があるのか、と思ってね……」
『ふむ……陰謀絡みなんぞは分からんからな……。
うーむ、水の精霊の世界を水に沈めるというのはアンドバリの指輪を返却したからなくなっただろうし、聖地とかにある異世界への穴はあのままだと歪みを生じてただろうが、もう閉じてきたから大丈夫だろう。風の精霊力の暴走によるハルケギニアの国がアルビオンとやらと同様空に浮かぶとかその辺かなあ?』
「ふむふむ……ってちょっと待ったあ!?」
何の気なしに聞いていたが、とんでもない台詞がポンポン飛び出してくる。
「何なんだ、それは!?大事ばかりじゃないか!!」
『そうか?簡単に片付く事ばかりじゃないか』
その瞬間、ワルドは咄嗟に悟った。
最も、【竜王】に悪意も隔意も何もない。
ここら辺は感覚の違いだ。
例えば今回の事にしてもそうだ。【竜王】にしてみれば、そのすべては「ちょっと手を出せば、すぐ解決する」物事に過ぎないが、人からすれば「国を挙げて対処する必要がある」とか「国が総力を挙げても何とか出来るか分からない」といった事態になる。
つまり……。
(……こいつにとっては大した事じゃなくても、我々にとってはえらい事になるって可能性は多々ある。こいつはきちんと話を聞かないと……)
その後、「これが一番手っ取り早いな」と感覚だけ時間を遡って飛ばされ、母の死の真相を知る事の出来たワルドは……分かりはしたが、酷く疲れを感じており、【竜王】の所へとやって来たルイズに心配される事になる。
【その頃ロマリア】
「教皇様……」
「何かありましたか?」
聖エイジス十三世はその内に野望を秘めている。
と言っても彼の野望は人を苦しめる為のものではない。一人よがりな部分は間違いなくあるし、その為の混乱や犠牲も決して笑っていられるようなものではない。
だが、それでも成し遂げねばならない事がある。
そう思うからこそ、彼は策を巡らし、自らの願いを叶えるべく蠢動しているのだ。
「はい、聖地を探っていた者からの緊急の連絡です」
「……聞きましょう」
真剣な表情になってヴィットーリオは自らの使い魔でもあるヴィンダールブことジュリオに向き直った。
ヴィットーリオは若くして教皇の座に就き、改革を推し進めたが故に対立する派閥も多い。そうした中で、使い魔でもあるジュリオは数少ない心から信用出来る者の一人だ。
ロマリオは既に腐り、神の国など名ばかりのものとなっている。
それでも始祖の名の下に為すべき事を為さねばならない、その為には例えエルフと戦ってでも……。
「聖地からエルフ共の姿がなくなった、との連絡です。どうやら全員引っ越したそうで……」
「はい?」
予想外の内容に思わず硬直したヴィットーリオだった。
【その頃ガリア】
「ああ、我々は今度引っ越す事にした」
「いきなり何だ、ビダーシャル」
ガリア王ジョゼフ。
その彼の前に突然現れたエルフのビダーシャルの発言に、ジョゼフはさすがに「訳が分からんぞ」という顔で問い返した。
確かに、いきなりやって来てそれでは何がどうなっているのかさっぱり分からない。
「そうだな、そこ等辺は説明しておこう。……そもそも我々は好き好んで砂漠で暮らしていた訳ではない」
「だろうな」
昼はクソ暑く、夜は凍るように寒い。おまけに水も不便。
彼らエルフは精霊魔法で何とかしていると言っても、逆に言えば精霊魔法がなければまともに暮らす事も困難な場所に、聖地奪還を上げるハルケギニアの軍勢と戦ってでも陣取っている。
そこには当然訳があった。
「これまで我々が砂漠にいたのは、お前達が聖地と呼ぶ場所にあった門、シャイターンの門を封じる為だったが、それを完全に閉じてくれた方がいてな」
「ほう?」
興味を持ったジョゼフはその門がどのような門かを聞いてみたが、「どちらでもいいだろう、どのみちもうない」との言葉に、彼が話すつもりもない、という事を悟り、話の続きを促した。
「砂漠なんぞ、仕事でなければ暮らしたいもんじゃない。それでやっと解放されたんで若い者を中心にもっと暮らしやすい所に引っ越そうという意見が出てな」
老人連中は今更引っ越しなど……という愛着もあったようだが、若い者にしてみれば「何でお役目も終わったのにこんな所で」と思うのは当然だろう。
それに、老人達も全員が全員そんな意見な訳ではない。
年を食ったし、もっと楽な所でゆっくり生活したい、と願う老人もいる。
かくして、エルフ達は引っ越す事にしたのだという。
「という訳だ。後の聖地とやらは好きにしてくれ。何もないがな」
宗教上の聖地というものはそんなものでも構わない。祈る対象なのだから、問題はないだろう。
そう思いつつ、一つ予定が狂ったな、と計画の修正をあれこれ練りながら、ジョゼフは問いかけた。
「その閉じてくれた相手とやらが何者なのか聞いても良いかな?」
「構わんさ。相手からも聞かれたら答えてくれて構わんと言われている。この間、アルビオンとやらに出現した【竜王】だ」